なのはから直々の依頼を受けて紅蓮の塔にやって来たダンテは、その屋上で巨大な蜘蛛の姿をした大悪魔『ファントム』と対峙する事になった――ファントムの存在感は圧倒的で、並の人間ならばその覇気に押されて委縮してしまうだろうが、魔帝をも退け、今や殆ど趣味で悪魔を狩っているダンテにとっては脅しにもならず、テンションをブチ上げる要素でしかない。
振り下ろされたファントムのサソリの様な尾の攻撃に、ダンテはリベリオンで応戦し、それを合図に紅蓮の塔の屋上で激しい戦いが幕を上げる――とは言っても、ダンテにとっては趣味を楽しむ事に他ならないのだが。


「岩の身体とは随分と頑丈なモンだが、その超高熱は逆に弱点になるぜ?」

『むおわぁぁ!……貴様、ケルベロスを従えているのか!』


灼熱の溶岩の身体を岩で覆っているファントムは鉄壁の防御力がある悪魔なのだが、物理攻撃には強くとも、同クラスの悪魔の、特に相性的に不利な属性にはマッタクもって無力であり、絶対零度の冷気を宿したケルベロスの連撃を喰らったファントムは目に見えて動きが悪くなる。


「Are You Ready!?」


その隙をダンテは見逃さずに、一気に間合いを詰めると、真正面からファントムをリベリオンで斬りまくり、連続突きのミリオンスタブを喰らわせ、更に追撃としてケルベロスを展開してダイヤモンドエッジ→ミリオンカラットのコンボを叩き込んでファントムを屋上から叩き落す。
普通の人間ならば紅蓮の塔の屋上から落下したら絶体絶命なのだが、悪魔ならば大丈夫だろう――だが、此処でファントムにとっては不運とした言いようがない事態が待っていた……ファントムが落ちた先には、身体を槍状にして獲物が降って来るのを待っている魔獣の姿があり、ファントムはその上に落下して槍状の身体に其の身を貫かれる事になったのである。


『ぐわぁぁ……我が負けるなど……貴様、一体何者だ…………まさか、伝説の魔剣士スパーダ?』

「鋭いな?その息子のダンテだ……大人しく眠ってな。」


致命傷を受けたファントムは、ダンテの背後に『伝説の魔剣士』であるスパーダの姿を幻視し、そして絶命し朽ちて行った……悪魔界ではトップクラスの力を持つ大悪魔であっても、既にスパーダをも超えた実力を持つダンテの前では大した敵ではなかったようである。


「まさかの大物が居たが、これでもう紅蓮の塔は大丈夫だろ……姫さんの精霊召喚の影響もあったが、デュナンが地獄門を使って悪魔を呼び出した事で、リベールは悪魔界と繋がり易くなっちまってるのかもな?
 とは言え、人間界で依り代なしで活動出来る悪魔が出て来られるほどの綻びってのはそう簡単に出来るもんじゃねぇから他の三つの塔は多分居たとしても仮面を依り代にする奴が一番強いって感じだろうな……其れなら、俺が出向くまでもないだろう。なたね嬢ちゃんとネロは勿論、ロレントの戦力もぶっ飛んでるからな。」


一仕事終えたダンテは紅蓮の塔の屋上から飛び降りると、事実上ファントムにトドメを刺した獲物待ちしていた魔獣に『ご苦労さん』と労いの言葉をかけ……


「御丁寧にお土産を置いて行ってくれたったのか?流石は大悪魔、気前が良いモンだ!……烈火の剣か、中々に使えそうだな。」


ファントムが朽ちた場所に一本の巨大な剣が刺さっているのを見付け、迷わず其れを引き抜いて新たな武器をゲットした――紅蓮の炎を思わせる真っ赤な両刃の刀身はリベリオンよりも長く、刀身の幅はネロのレッドクィーンよりも更に広い、正に『大剣』と呼ぶべきモノだが、ダンテならば軽々と使いこなしてしまうだろう。

こうしてダンテは紅蓮の塔における行方不明者続出の元凶をアッサリと倒してのけたのだった。











黒き星と白き翼 Chapter65
『四輪の塔でのギリギリ限界全力バトル!』










ダンテが紅蓮の塔で無双していた頃、残る三つの塔でも夫々事に当たった者達が塔内に現れた下級の悪魔を相手に見事な蹂躙劇を繰り広げていた。


「所詮は雑魚の集まりの烏合の衆、その程度では私の首を取る事など出来ません。」


先ずは琥珀の塔。
此処に出向いたのはなたねで、塔の内部には魔獣の他に最下級の悪魔であるマリオネットが多数存在していたが、マリオネットは依り代である等身大の人形が壊れれば其の時点で人間界には存在出来なくなるので、一般人が襲われた場合でも何とか人形を壊す事が出来れば倒す事が出来るレベルであり、その程度ならばなたねの敵ではなく、現れたら速攻で直射砲で粉砕されていた。
加えてなたねもなのは同様に、生前の士郎から武術の手解きを受けていたので近接戦闘能力もソコソコ高く、無手の格闘に限ればなのはよりも上であり、直射砲を搔い潜って来たマリオネットには炎を纏った掌底をブチかまして消し炭に換えていた。


「復讐の為に高めた力を人々の平和を守るために使うと言うのも悪くありませんね……なのはに会いに行ったのは正解でした。
 もしもなのはに会わずに復讐に走っていたら、私はネロ共々何処かで命を落としていたでしょうからね……復讐の刃を振り下ろすべきは復讐すべき相手にのみだと言う事を気付かせてくれたなのはには感謝です……だからこそ、私は此の力を人々の平和の為に揮いましょう。」


最上階に現れたシン・シザースとシン・サイズの群れも誘導弾の『パイロシューター』で依り代の仮面を燃やし尽くして一掃すると、ダンテから渡された『ホーリーウォーター』を屋上に撒いてターンエンド。
ホーリーウォーターは下級悪魔を即死させ、上級悪魔にも大ダメージを与えるモノだが、同時に撒いた場所を清める効果もあり、ホーリーウォーターで清めてしまえば下級の悪魔が琥珀の塔内に現れる事は無くなるだろう。



続いて翡翠の塔だが、此処はA級遊撃士のエステルとヨシュア、ロレントの自警団であるBLAZE、エステルが『一緒に来てくれる?』と頼んだアインスとレンと京、呼ばれてもいないのに、京が居ると言う事でやって来た庵が来た事でマッタク問題なかった。
琥珀の塔同様に塔内部には魔獣だけではなくマリオネットが群れを成していたのだが、如何に数が多かろうと過剰戦力とも言えるロレントの精鋭の前では塵芥に等しく……


「イグニス……ブレイク!!」

「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

「朽ち果てるが良い!!」


志緒、京、庵の炎属性トリオがマリオネットを派手に燃やし、洸がチェーンエッジでマリオネットを切り裂き、明日香と祐騎は得意の遠距離攻撃でマリオネットを牽制し、空が必殺の拳でマリオネットを粉砕!
レンは手にした大鎌でマリオネットを切り裂き、璃音は己の歌を超音波化させてマリオネットを粉々に砕き、エステルとヨシュアはA級遊撃士としての実力を此れでもかと言う位に発揮して、エステルのパワーとヨシュアのスピードを最大限に活かした見事な連携でマリオネットの上位種であるブラッディマリーとフェティッシュも鎧袖一触!

そうして屋上まで辿り着くと結界が展開され、牛の頭蓋骨を依り代にした『デス・シザース』が現れた。
対象を結界に閉じ込めて動きを制限した上で、巨大なハサミで襲って来る難敵だが、今回は相手が悪過ぎた。


「結界か……だが、此の程度で私達を如何にか出来ると思っているのならば些か舐め過ぎだ……精々私達を相手にした事を後悔しろ!喰らえ、炎殺黒龍波ぁ!!」


此処でアインスが右腕の包帯を解くと、最強奥義の炎殺黒龍波を放って、シン・シザースを一瞬で焼き尽くして灰にする……依り代を必要とする悪魔ではデス・サイズと並んで最強クラスのデス・シザースも、魔界の炎の化身である黒龍の前では全くの無力であり、アッサリと喰われたのだった。
そして其れだけでは終わらず、黒龍は翡翠の塔の内部も駆け巡って塔内の不浄をも焼き尽くした。


「燃えたろ?」

「アインス……完璧だぜ。」


最後は京の決めポーズを真似てターンエンド。
リベールでは田舎のロレントだが、その保有戦力は王都とタメ張れるベルであるのは間違いないだろう……現役のA級遊撃士が二人もいる上に、其れに勝るとも劣らない実力者が揃っており、更には『最強の親父』の名を欲しい侭にするカシウスが居る時点で、ロレントはぶっ飛んでいるのだがね。



其れはさて置き、最後は紺碧の塔だ。
此処を担当しているのはネロで、矢張り塔内に現れたマリオネットを愛銃のブルー・ローズと愛剣のレッド・クィーンで粉砕しながら、ダンテから『多様な武器を使えるようになった方が良い』との事で借り受けた一対の兄弟剣『アグニ&ルドラ』も駆使して無双していた。


「オッサンから借りた此の双剣、炎属性と風属性で強いし使い易いんだが……」

『兄者、このネロと言う男、ダンテ並みに我等を使いこなしておるぞ!』

『うむ、此れは我も驚いているぞ弟よ!まさか、我等と使いこなすモノがダンテ以外にも居ようとは予想外だ!』


「うるせぇ……」


……アグニ&ルドラは、ダンテが若い頃に手に入れた悪魔の武器であり、剣が本体のアグニとルドラは己を使いこなす事が出来る強い持ち主を探しており、仮初の宿主である巨人像を打ち倒したダンテを新たな主と認めて其の力を貸す事を決めたのだが、あまりにお喋りであるが故に、ダンテから『喋るなよ』と釘を刺されていたのだった――が、今回はダンテの手を離れてネロに使われた事で久々に『お喋り』に火が点いたようだった。
此れにネロは辟易していたのだが、自分が何か言ったら余計に面倒な事になると思って突っ込みを放棄した……其れでも、仕事はキッチリ熟してマリオネットは現れた瞬間に悪魔の右腕でバスターを打ちまして粉砕していたのだが。


「下級悪魔だけか……此れはぼろい商売だったかもな。」


難なく屋上まで辿り着いたネロは、屋上にホーリー・ウォーターを巻いて浄化し、下級の悪魔は存在出来ないようにする。
其の姿は、屋上の謎の装置に映し出されていたのだが、其処に映し出されたネロの背面映像が、あろう事か前を向くと、謎の装置から歩き出して来た……その異様な事態をネロも悪魔の右腕で感じ取り、現れた自分と対峙する。
そして、装置から現れた偽ネロは、本物のネロと対峙すると同時に、其の姿を変え、漆黒の鎧を纏った騎士へと変貌する。


「退屈な仕事だと思ったが、どうやらこれは当たりだったかもな?
 掃き溜めのゴミとは違うよな?……オッサン風に言うなら、ガッツがあるってか?……良いぜ、相手になってやるよ!」

『……!』


漆黒の騎士はネロを手招きすると、紺碧の塔の屋上から飛び降り、ネロも続いて飛び降り紺碧の塔前の広間に降り立つが、漆黒の騎士の姿はない――何処に行ったのかとネロが辺りを見渡すと、漆黒の騎士の姿は紺碧の塔の屋上にあった……飛び降りたと見せかけて、瞬間移動で塔の屋上にやって来たのだろう。
そして漆黒の騎士は塔の屋上から飛び降りると、ネロに兜割りを繰り出すが、ネロは其れをギリギリで回避するとカウンターのストリークを叩き込み、其処からレッド・クィーンのコンボを叩き込んで行く。
それに対し、漆黒の騎士も手にした大剣で応戦する。
漆黒の騎士の剣技は伝説の魔剣士であるスパーダの剣術をベースにしながらも独自のアレンジが加えられており、『相手の技術を模倣する』悪魔とは一線を画すモノだった……パワーではネロの方が上だが、剣術に関しては漆黒の騎士の方が上で、総じて戦えば五分なのだが、このまま続ければジリ貧になると言うところでネロが動いた!


「取ったぜ……ぶっ飛びやがれ!!」

『!!?』


漆黒の騎士の一瞬の隙をついてスナッチで引き寄せると、悪魔の右腕で漆黒の騎士をネックハンキングで拘束し、其処から容赦無用のバスターを叩き込み、漆黒の騎士にダメージを与えて行く。
『鎧を装着しているのならばダメージは殆ど無いのでは?』と思うだろうが、全身を鎧で固めている場合、防御力は上がる代わりに鎧に直接衝撃を受けた場合は衝撃を逃がす事が出来ず、鉄パイプで岩を殴った時の様な痺れ感が全身を駆け巡る為、特に頭や背中への衝撃は充分なダメージソースとなるのだ。

とは言え漆黒の騎士も人外の存在であるので簡単にはやられず、バスターで叩き付けられても即座に復帰しネロに渾身の居合いを放ち、ネロも其れに対してストリークで応戦する。
其のまま鍔迫り合いになるが、此処でネロはレッドクィーンのイクシードを発動してその推進力をもって漆黒の騎士を押し込むと、ブルーローズに魔力を込めたチャージショットを放ち、漆黒の騎士のフルフェイスの兜を破壊する。


「……ダンテ?」

『…………』


砕かれた兜の下から現れたのはダンテと瓜二つな顔だった。
ダンテと異なるのは肌の色と銀髪がオールバックになっている事、目には瞳がなく白く光っている事と肌には不気味な文様が浮かんでいる事だ……此れだけの違いがあってもダンテと似ていると判断したネロも大したモノだが。


『…………』


素顔を晒す事になった漆黒の騎士はマントを翻すと、其の身を青黒い炎へと変えて其の場から飛び去って行ってしまった――決着は付かずだ。


「……何だったんだアイツは?……取り敢えず、オッサンには報告しておいた方が良いだろうな。」


漆黒の騎士が去った事で紺碧の塔の任務もコンプリートとなり、ネロはルーアンに戻って行くのだった。








――――――








各地の四輪の塔での調査結果を聞いたなのはは、任務に携わった者達に労いの言葉を掛けると、報酬を現金で、更に一括で払うと言う太っ腹ぶりを見せてくれた。
削れるところは徹底して削るが、出すべき所には出し惜しみしないのがなのはであり、特に国民の為ならば出費は厭わないのである――尤も其れが出来るのは、なのはがリベールの王となってからは、デュナン時代には断絶状態にあった外国との貿易を再開させ、為替レートでも『ミラ高』の状態にある事が大きいのだが。


「しかしまぁ、地獄門を使った事で悪魔界と繋がり易くなっていたとは言え、エクゾディアの召喚がトリガーになるとは……五つのパーツに分割されていたにも拘らず凄まじいなエクゾディアは?」

「お祖母様が危惧して封印したのも頷けます……ですが、先天属性が聖である私に宿った精霊が闇属性とは一体どういう事なのでしょうか?」

「クローゼママは、聖と闇のデュアル属性って事かな?」

「かも知れん。
 かく言う私も神族の母と魔族の父の間に生まれた事で、光と闇の二つの属性を宿しているからな……まぁ、其れは其れとして、四輪の塔には悪魔界と二度と繋がらないように対策をしなくてはな……」

「……塔に『悪魔祓い』のカードをセットしますか?」

「……何となく、其れでなんとかなる気がしたのだが……カードの力は侮れんな。」


こんな事を話しながら、なのはとクローゼとヴィヴィオはお風呂タイムを楽しみ、風呂を上がったその後はベッドで川の字になって眠りに就くのだった……リベールは今夜も平和である。








――――――








なのはから高額な報酬を貰ったダンテは、デリバリーで生ハムとローストチキンとゴルゴンゾーラチーズがトッピングされた少しばかり値の張るピザと生のイチゴがトッピングされたストロベリーサンデーを頼むと、『Devil May Cly』の事務所内で其れを堪能していた。
因みにネロはデリバリーで寿司を、なたねはタコ焼きと焼きそばをオーダーしていた。


「漆黒の騎士か……その素顔は俺に似てたってか?」

「銀髪はオールバックにしてたし、顔に紋様もあったんだが、一瞬アンタかと思う位には似てたぜダンテ。」

「そうかい……(バージル、お前さんまだ黒騎士のままなのか……だが、其れでもネロの前に現れたってのは、無意識のうちに自分の息子に会いに来たって事なのかよ……だが、生きてるなら俺の所に来いよ――アンタの閻魔刀は今は俺が持ってるんだからな。)」

「オイ、何難しい顔してんだオッサン?取り敢えず、今回の仕事は楽しめたから、礼としてトロの寿司をやるよ。」

「おぉ、気前がいいねぇ…………って、かれぇ!!な、なんじゃこりゃあ!!?」

「だ~っはっは!引っ掛かったなダンテ!その寿司には、付属のワサビを全部ぶち込んだ激辛のワサビ寿司だったんだよ!ワサビのツンとした辛さを堪能しな!前にタバスコタップリのピザ喰わせてくれたお返しだ!」

「おおう、つまりは因果応報!あ~~……鼻から目がいてぇ……」


ネロから漆黒の騎士の事を聞いたダンテは双子の兄であるバージルの事を思ったが、生きているのならば何れ自分の元に現れるだろうと思い、今宵は少しばかり賑やかな晩餐を楽しむのだった。










 To Be Continued 







補足説明