大盛り上がりのグランアリーナのロビーでは、KOFの裏決勝戦とも言うべき戦いが幕を開けようとしていた――オロチ八傑集の一人である『山崎竜二』はアリーナの受付及び警備員を必殺の『蛇使い』でKOして来たのだが、其処で待ち受けていたのは草薙流古武術の後継者であり草薙家の前当主である草薙柴舟だった。
京が無式を会得したのを機に、京を草薙流の正統後継者と認め、家督を譲って一線を退いたが、其の実力は未だ健在であり、並の武闘家では大凡太刀打ち出来ない実力があるのだ――其れを圧倒してしまう京は、間違いなく天才なのだろうが。


「シャアーー!」

「此れは……見た目以上のリーチ以上のパンチ……そして鞭の如きしなり、関節を外して放って来たか!」

「……蛇使いの秘密を速攻で看過するとは、ロートルにしてはやるじゃねぇか……きぃっひっひ、そうでなくちゃ面白くないけどよぉ!ヒャッハー、精々楽しませてくれよな草薙柴舟さんよぉ!!」

「ふふ、火遊びは危険じゃぞ?……尤も、お主の様な輩には全身火傷を喰らわせねば分からぬのだろうがな……何にしても、お主がオロチ八傑州であるのならばワシとて見過ごす事は出来ん……草薙の使命として払ってやるわい!!」

「やってみやがれ、この雑魚が。」


其処から柴舟と山崎のバトルが開始され、山崎はオロチ八傑集としてだけでなくヤクザとして生きて来た凶暴性を遺憾なく発揮して暴れ、柴舟は老獪な戦い方で山崎に決定打を与えずに、逆に焔重ねや神罹を喰らわせてダメージを与えて行く。
だが、山崎はタフネスも相当に強く、柴舟の攻撃を喰らってもまだまだ元気だった。


「ククク……良い攻撃だったがよぉ、此の程度で俺を倒せると思ってんのか?」

「まぁ、そう簡単には行かんのだろうが……じゃが、其れはあくまでもワシ一人がお主と戦った時の事だ――其処に草薙の拳を会得した援軍が来たとしたら如何じゃろうな?……出番だぞ、京のクローン達よ!!」

「……行くぜ。」

「俺の出番かい?」

「ビビってんのか?あぁん!!」


更に此処で柴舟は京のクローン三体を召喚!
能力的は本物の京には劣るとは言え、クローン京三人も決して低くない実力を備えているので、柴舟にとっては此の上ない援軍と言えるのである。


「オイコラ、流石に四対一は卑怯過ぎんだろうが!!」

「京達が消耗しとる決勝戦後に乱入しようとし腐っていた輩がどの口を抜かすか……其れにお主、素手で戦うフリをしながら懐に刃物を隠し持っとるだろう?隙を見てワシを刺し殺す心算だったか?」

「バレてんなら隠しとく意味もねぇか……こうなったら四人纏めて三枚に下ろしてやらぁ!!」

「テメェ、素手で勝負しやがれ!!」


此処で山崎は隠し持っていた匕首を取り出し、其れを使って斬りかかって来た。
流石に刃物を持っているとなれば四人でも簡単には行かない上に、山崎は『砂かけ』や『凶器攻撃』と言った攻撃も平然と使って来るので生粋の武闘家にはやり辛い相手であると言えるだろう。


「これは試合ではないから卑怯とは言うまいが……看板や脚立、着ぐるみの頭は兎も角として、何処から持って来たのだ其の冷凍マグロは?」

「知るか。落ちてたんだよぉ!」

「王都の寿司バーの仕入れ車が事故でも起こしたんじゃろうか……取り敢えず、食べ物を粗末にしたらいかんぞ!」

「テメェ等ぶっ殺したら、解体して食う!」


……若干会話がアホらしい所もあるが、最終&京のクローンズと山崎の戦いは激しさを増し、そして其れを見ていた王都市民によって王国軍と遊撃士協会に通報がなされ、数分後に王国軍の軍人と遊撃士数名が現場に駆け付け、其れを見た山崎は状況不利と見て一旦この場を離脱したのだった。
取り敢えずは柴舟の介入で山崎を退ける事が出来たが、山崎はマダマダ暴れたりないだろうから此れで済んだとは思えない――とは言え、今回の件で山崎は警戒対象となったのでKOFに乱入するのは難しくなったと言えるだろう。
柴舟は、京のあずかり知らない所で中々良い仕事をしたのだった。











黒き星と白き翼 Chapter61
『白熱の決勝戦開幕!全力で行くぜ!』










そんな事が起こっているとは誰も知らないアリーナでは、カルバートファイターズとロレントチームによるKOFチーム戦の決勝戦の試合が幕を開けようとしていた。
カルバートファイターズの先鋒はケン、ロレントチームの先鋒はエステル――此れで一回戦を除いてエステルが連続で先鋒を務めた訳だが、勝とうが負けようがエステルの戦いは味方の士気を高めてくれるので、先鋒としてはうってつけなのである。


『さぁ、いよいよKOFチーム戦の決勝戦!
 その決勝戦の第一ラウンドを戦うのはカルバートの格闘王、『紅蓮の飛龍』ケン・マスターズ!対するはリベールのA級遊撃士、『太陽の娘』エステル・ブライト!
 ケン・マスターズが格闘王の強さを見せるのか!?其れともエステル・ブライトが史上最年少でA級遊撃士になった力を見せ付けるのか!?ベテランの格闘王と若き遊撃士のホープ、勝利するのは果たして何方なのか~~!!!
 KOFチーム戦ラウンド1!ケンvsエステル!Ready……Duel Start!!!』


「掛かって来な!」

「よぉっし!全力で行くわよ!!」


第一ラウンドはケンvsエステル。
ケンは軽く手招きした後にサムズダウンし、エステルは羽織っていたジャージを脱ぎ捨てて棒術具を右手でバトン回ししてから構える――互いに隙は無いが、先に動いたのはエステルの方だった。
棒術具を下から上に振り上げて衝撃波を発生させて其れを飛ばすと、ケンは其れをギリギリまで引き付けてから竜巻旋風脚で回避しつつエステルを攻撃する。
エステルは其れを的確にガードして棒術具を振り上げて間合いを取ると、棒術具をギリギリまで長く持ってから超高速の連続突きを繰り出す――その連続突きの速さは相当なモノで、観客には棒術具の残像が見えたくらいだ。
普通ならば完全に防ぐ事は出来ない連続突きだが、ケンは其れを全てガード……ではなく攻撃を捌く『ブロッキング』で捌き切って見せた。試合ではなくストリートファイトの勘を取り戻したケンは、カルバートの格闘王の名に恥じない実力を発揮しているようだ。


「此れを防いじゃうの?これは結構自信あったんだけどなぁ……だったらこれは如何?ファイヤー!!」

「炎の旋風攻撃か……だが燃やす事なら負けないぜ?昇龍拳!!」


続けて放たれた『火炎旋風輪』に炎の昇龍拳がぶつかり、爆炎が撒き上がる。
だが、その爆炎も何のその、ケンとエステルは爆炎を突っ切ってぶつかり合い、エステルの棒術具とケンの蹴りが交錯する――が、此処で経験で勝るケンが蹴り足を其のまま振り下ろして踵落としに繋ぎ、其れをギリギリで躱したモノの動きが一瞬止まったエステルに対して身体を反転させて後回し蹴りを叩き込む。
其れを真面に喰らってしまったエステルはLPを大きく減らしたが、転んでもタダでは起きないとばかりにほぼ反射的に蹴り足の膝裏に棒術具を叩き付けてダメージを与える。
更にエステルは追撃として金剛撃を放ったが、其処にケンが神龍拳を合わせるカウンターを放ち、錐揉み回転する攻撃を喰らったエステルのライフは一気にレッドゾーンに突入!
其れでもエステルは諦める事無く受け身を取ると、ケンの着地を狙って足払いを放って体勢を崩すと……


「山川穂高ぁ!!」


謎のかけ声と共に渾身の一本足打法一閃!
此れを喰らった事でケンのライフもオレンジゾーンに突入したのだが、ケンは空中で受け身を取ると其処から波動拳を放ってエステルを牽制すると、着地と同時に踝を狙った足払いでエステルの体制を崩し――


「コイツで決めるぜ……ド派手にな!!」


其処に炎を纏った連続蹴りからの炎の竜巻旋風脚に繋ぐ『紅蓮旋風脚』を放って一気にエステルのライフを削ってゼロにする……今大会初のKO勝ちで初戦はケンが勝利し、先ずはカルバートファイターズが先手を取る展開に。


「ゴメン、負けちゃった……」

「気にするなエステル……直ぐに私が取り返してやるさ。」

「カルバートの格闘王相手に良くやったぜエステル。後は俺達に任せときな。」


戻って来たエステルを労うと、ロレントチームはアインスが次鋒として登場。
ケンは勝者の権利としてLPが回復したのだが、イエローゾーンで開始と言うのは些か分が悪いだろう――序に言うと、ダメージエミュレートこそ発生しなかったモノのエステルの膝への攻撃でケンは膝に痛みを感じる位にはダメージを受けていたのだ。
膝にダメージがあるとなればドレだけ誤魔化そうとしても動きが悪くなのは隠し切れず、僅かであっても動きが鈍くなったとなれば其れはアインスにとってはカモに等しかった。


「如何やら思った以上にエステルとの戦いで消耗していたみたいだな?
 お前は蹴り技が自慢だと思っていたが、その蹴りにキレがマッタク無くなっている……エステルとの試合で見せた連続蹴りで限界を迎えたか?」

「ち、お見通しかよ……!」

「万全の状態ならば兎も角として、消耗した上に足にダメージを負った状態では私の相手ではないな……出来れば万全の状態のお前と戦いたかったが、チーム戦ではチームの勝利が最優先なのでな?
 此処は一気に決めさせて貰うぞ!」


ケンの上段回し蹴りをスウェーバックで躱したアインスは、其処からブリッジでケンの足を跳ね上げると、更に連続のブリッジでケンの身体をも跳ね上げ、自身も飛び上がりながら連続のブリッジを繰り返し、ケンの抵抗力を奪って行く。


「此れで決める!マッスル・スパーク!!」


アインスはケンの首を右膝で、左足を左膝で極め、更に両腕をチキンウィングに極めてダメージを与えると、其処から背面合わせの状態になって両足を自身の両足で極めると、再び両腕をチキンウィングに極めて取って其のまま一気にフィールドに向かって降下し、ケンを地面に叩き付ける。
これぞ、嘗て地上に降りた武術の神が型を思い付きながらも完成までには至らず、後世に完成を託して三種の技の型を石板に彫り込んだとされている『三種の神技』の一つにして三種の神技の最高峰と言われる、『マッスル・スパーク』だった。
その石板自体はグランセルの博物館に展示されており誰でも見る事は出来るのだが、石板に彫り込まれている技の型はいずれも断片的であり、一流の武闘家であっても其処から技を完成させるのは極めて難しいのだが、アインスは別角度から石板を見ると技の別の型が隠し彫りされている事に気付き、其処から完成形を思い描いて、炎殺黒龍波の習得と並行してマッスル・スパークをも完成させていたのだ。

その奥義を喰らったケンはLPがゼロになって試合終了。


「なんて技だ……DSAAルールじゃなかったら死んでたかもしれないぜ……」

「其れはないな。
 マッスル・スパークは『相手を確実に戦闘不能にするが絶対に殺さない技』。言うなれば究極の峰打ちだからね……まぁ、此れに辿り着く前に仮完成とした技は、全く逆の『相手を確実に殺す技』だったので、此れは違うと思ったのだけれどな。」

「……因みに、そっちはどんな技だったんだ?」

「技の前半部分は相手の腕を背後で交差させて極め、後半部分は矢張り相手の腕を交差した状態で極めて胸から叩き付けて相手の全身の骨を略バラバラにしてしまうモノだよ。
 命を懸けた戦いならば兎も角、試合で使っていい技じゃなかった。」

「マッタクだな……だが、アンタの強さは見事だったぜ?万全の状態でも勝てたかどうか分からないからな。でも、ジンは俺よりも強いぜ?」

「あぁ、ジンが強いのは知っているよ……カシウスの知り合いだからね。」

「何だ、知ってたのか?なら俺が言う事は此れ以上はないな……良い試合を期待してるぜ。」


ダメージエミュレートが解除されたケンは其のまま自チームの待機所に戻りジンとタッチ。
続く第三ラウンドはジンとアインスの戦いになるのだが、ジンは此の大会無敗ではないがKO負けは一度も無いと言う頑丈さを誇っており、また使う武術もリュウとケンとは異なる『泰斗流』と言うモノであり、巨体の割には素早いと言う可成りの強者なので、これは良い試合が期待出来るだろう。


「LPがイエロー状態で足にダメージを負っていたとは言え、ケンをノーダメージで倒しちまうとは流石と言うべきかアインス?エステル、レン共々、日々精進してると見えるな?」

「妹達が日々強くなっているのでね、姉として負けられないと思っているだけさ……その結果、トンデモナイ奥義を二つも会得してしまった訳だがな。」

「其れを会得したのは大したモノだと思うがな。」


試合開始前に軽く雑談を交わしたが、MCさんのアナウンスで試合開始が宣言されると一転して互いに『闘う者』の顔付きになり、ジンは胸の辺りで両拳を構えたオーソドックスな構えを取り、アインスは半身の状態で左の拳を顔の近くに構え、右腕は拳を握った状態で真っ直ぐに下に伸ばすと言う独特の構えを取る。
両者とも隙は無く、先ずは互いに隙を窺う気組みの状態となったのだが、先に動いたのはアインスの方だった――気組みの際にタイムオーバー以外でジンに勝つ道筋を割り出したのだろう。

先ずはジンの周囲に無数のブラッディ・ダガーを配置すると其れを一斉に放つ。
逃げ場のない全方位攻撃だが、ジンは其れを己の闘気を爆発させた衝撃波で全て叩き落し、凄まじいスピードで間合いを詰めて来たアインスに対してカウンター気味に拳を放つ。
しかしアインスはその拳をギリギリで躱すと腕に飛びつき、腕を極めつつ自ら回転してジンの巨体を投げ飛ばす。


「極め投げか……俺じゃなかったら今の一撃で腕が折れてるところだ。」

「マッタク、相変わらずの頑丈さだなジン!」


其れを喰らってもジンは全くノーダメージ。
其処からは、互いに近距離でガンガン打ち合うバリバリの近距離戦に――殴り合いと言うのは体格が大きい方が有利であり、普通ならばアインスよりも30㎝以上も身長で勝り、体重はアインスの倍はあるジンの方が絶対有利なのだが、アインスはカシウス仕込みの技で体格差をカバーし互角に打ち合う事が出来ていた。
だが、そうだとしてもジンの拳は重く、ガードの上からでもLPが削られてしまい、逆にアインスの打撃はガードされるとダメージを与えられないので此のまま殴り合いを続ければアインスがジリ貧になるのは確定だ。
マッスル・スパークを極める事が出来れば一発逆転も狙えるのだが、ジン相手に其れを極めるのは可成り難しいだろう――そもそもにして、体格差が大きいと極め技は力で外される事も少なくないのだから。


「マッタク持って、なんだって今大会は私の相手は頑丈な奴ばかりなのか……此のままではジリ貧は確定なのでな……悪いが使わせて貰うぞ。」


此のままでは圧し負けると判断したアインスは、ジンの拳に蹴りを合わせる形で自ら後ろに飛んで間合いを離すと、右腕の包帯を外す……其れは、最強最大の奥義を放つという合図に他ならなかった。


「DSAAルールならば死ぬ事はないが……受け切れるかジン?行くぞ!炎殺……黒龍波!!」


そして放たれた炎殺黒龍波。
黒炎の龍はジンに向かってその牙を剥き、喰らい尽くさんとするが、ジンは其れから逃げる事無く気を高めて自己強化を施すと真っ向から炎殺黒龍波を受け止めた。
其れは普通ならば可成り無謀な事だが、炎殺黒龍波は使用者にとっても一撃必殺であり防がれたら二発目はないと言う事をジンは二回戦の試合を見て理解していたのだ……つまり耐え切れれば勝てるのだと。
だが、ジンは其れだけで飽き足らず、なんと黒龍波を押し返し始めたのだ。
圧倒的な体格とフィジカルがあるからこその力技だが、遂にジンは黒龍波を押し返し、黒炎の龍はアインスに向かって行く。
まさかの黒龍波の押し返しであり、其れを喰らったアインスはKO間違いなしだろう。
だが、押し返された黒龍波を見たアインスは口元に笑みを浮かべると、右手を前に差し出して黒龍波を受け止めた――だけでなく、受け止めると同時に黒龍波は消え去ったのだ。
此れだけならばアインスが押し返された黒龍波をレジストしたに過ぎないのだが、ジンには黒龍波がただ霧散したのではなく、アインスに吸収されたように見えた。


「ふむ、中々に旨かった。」

「お前さん、ソイツは……」


そして其れは正しかったらしく、黒龍波を霧散させた後のアインスには黒炎のオーラが発生していた。


「炎殺黒龍波は只の攻撃技ではない……黒龍波を自らに取り込む事で其の力を爆発的に高める事が出来る、一種の『餌』なのさ――黒龍波を取り込んだ私は、さっきまでよりも可成り強いぞ?」

「まさか、押し返した事が仇になるとはな……」


其処からはアインスの猛攻が始まり、反撃すら許さない猛ラッシュでジンのLPを削って行き、ハイキックからの踵落としで強引にガードを抉じ開けると……


「おぉぉぉ……此れで終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


見様見真似で会得した大蛇薙を黒い炎で放ってジンのLPをゼロにして試合終了!
アインスの二人抜きでロレントチームが一歩リードしたように見えるが、炎殺黒龍波を使った以上、黒龍波を食ったとは言えアインスは使用後の強制睡眠となるので試合は強制的に大将戦に。


『ケン・マスターズが先手を取ったと思ったら、今度はアインス・ブライトが怒涛の二人抜き!
 だが、アインスは此処で京にタッチし、試合は第四ラウンドで大将戦と言う異例の事態に!だが、泣いても笑っても此れがKOFチーム戦のラストバトル!
 『永遠の挑戦者』ことリュウが勝つのか!其れともディフェンディングチャンピオンである『炎の貴公子』こと草薙京が勝つのか!
 果たして、勝利の女神は何方に微笑むのか!決勝戦ファイナルラウンド!リュウvs京!This is gonna be a match to remember!Fight!!』



そして、MCさんの掛け声と共に、KOFのラストマッチが其の幕を上げたのだった。










 To Be Continued 







補足説明