KOFチーム戦の準決勝の第二試合の大将戦である『草薙京』vs『八神庵』の因縁の戦いは、序盤は互いに連続技でダメージを与えつつLPを削る展開になっていたところで突如として庵が暴走して試合は一気に混迷の様相を呈して来ていた。


「此れは、庵さんが暴走!……此れは直ぐにでも試合を止めた方が良いのではないでしょうかなのはさん?」

「まぁ、確かにそうかも知れんが……試合を良く見ろクローゼ。暴走した八神庵を相手に回して、しかし草薙京は寧ろ優位に戦いを進めているように見えないか?」

「其れは……言われてみれば確かに。」


暴走した庵は理性を失って本能でのみ行動する危険な存在であるのだが、其れだけに目の前の京にだけ襲い掛かっており、他には目をくれない状況であり、京自身も暴走庵に対して優位に戦いを進めていた。


「そんな殺気駄々漏れの攻撃が俺に通じると思ってんのか?だとしたら俺を舐め過ぎだぜ八神!!うおりゃあ!ボディが、がら空きだぜ!燃えろぉ!!」

「ごわぁぁ!!」


暴走庵の琴月 陰をアッパーでカウンターすると、其処から七拾五式・改へと繋ぎ、更に荒咬み→八錆→琴月 陽のコンボを叩き込んで暴走庵を燃やす!


「ザマァねぇな八神?
 暴走してリミッター外れてんのに此の程度か!いや、暴走してるお前よりも何時ものお前の方が遥かに強いぜ……狂った力で俺に勝てると思ってんのか八神ぃ!」

「キョォォォォォォォォォォォ!!」


暴走した庵は攻撃力が上がっているのは勿論、スピードが暴走前とは比べ物にならない位に上がっており、分かり易く言えば暴走庵は普通の歩きのスピードが暴走前の庵のダッシュよりも速いのだ……ジャンプも速く低い軌道になり、ジャンプ攻撃に対処するのも難しいのだが、京はそれら全てを的確に潰して行く。
武闘家としての経験と勘が暴走庵の攻撃を完璧なまでに読み切っているのだ。
庵の暴走と言うアクシデントはあったモノの、暴れまくる庵を迎撃する京の試合内容は観客には割とウケが良く、観客席は意外に沸いていたのだが、そんな観客席の一角には沸いている観客とは異なる者達が居た。
其れは教授とドクター、そして毛皮のコートを纏った凶悪そうな面構えの大男だった。


「キッヒッヒ……少しばかり気合入れてやったら本当に暴走しやがるとはなぁ?だが教授さんにドクターさんよぉ、野郎を暴走させて如何しようってんだぁ?」

「血の暴走の詳細な生のデータが欲しくてね……生のデータが取れれば、其れを基にスポーツマンチームの様に疑似的にオロチの力を其の身に宿した人間に暴走の要素を付与する事が出来る。」

「そして、其の物が暴走の力を自在に使いこなせるようになったとしたら、其れはもう超人と呼べるとは思わないかね山崎君?
 そして、その超人達を量産出来れば超人の軍隊を作る事も可能になる――そうなれば、人間界だけでなく魔界も天界も制圧出来るだろう……自分の作ったモノが全ての世界を統べると言うのは実に面白い事だと思わないかね?」

「あぁん、小難しい話は良く分からねぇが……まぁ、此れで俺の仕事は一つ終わった訳だ。後は決勝戦が終わったら、適当に暴れてやりゃ良いんだな?」

「うむ、其方の方は好きにやってくれて構わないよ。」


そして、其の三人は何やら良からぬ事を考えているようだった。
教授とドクターの瞳には狂気、毛皮のコートの大男――山崎竜二の瞳には狂気と凶暴性が宿っており、KOFの決勝戦後には大きな波乱が巻き起こる事は間違い無さそうである。











黒き星と白き翼 Chapter60
『因縁の決着!そして決勝戦!~動き出す悪意~』










フィールドでは何度目かの攻防が行われ、鋭い飛び込みからの蹴りを放って来た庵に対し、京は鵺摘みでその飛び蹴りを弾いた後に龍射りでカウンターして庵を吹き飛ばす。
この時点で庵のLPは残り60%程にまで減ってしまっていた。


「八神よぉ、テメェが望んでたのはこんな戦いだったのか?だとしたらガッカリだぜ。
 テメェに付き纏われんのはウザったい事この上ないんだが、テメェと戦うのは案外嫌いじゃなかったんだぜ俺は?『またか。』と思いつつも、テメェとの戦いを楽しいとも思ってたしな。
 だけどな、俺は八神庵としてのお前と戦いたいんだ!オロチの力に呑み込まれちまうような男に、用はねぇんだよ!分かってんのか、八神ぃ!!」


そんな状況で、京は己の思いを庵にぶつけた。
京と庵の戦いは、草薙と八神と言う六百六十年の因縁を超えた、草薙京と八神庵と言うモノであり、其処には運命も、血の宿命も関係は無かった――其れは純粋な京と庵の戦いであるのだ。
だからこそ、その戦いで暴走した庵に対し、京は落胆の感情を抱いてしまったのだ。



――バキィ!!



だが、その直後、庵が己の顔面に拳を叩き込んだ。
此れには観客も『何事か!?』と驚いたのだが……


「オロチの力に呑み込まれるような男に用はないだと?……ならば、正気の俺ならば用が足りると言う事だな京?」

「ハッ、テメェでテメェを殴って正気を取り戻すとはやるじゃねぇか八神?そんじゃ、こっから仕切り直しだな……つっても、此のままじゃLPの差が大きいから、テメェから一発寄こせ。対等な状況で勝たなきゃ意味がねぇからな。」

「ふん、此れは暴走した俺へのペナルティとしておけ……其れに、俺が貴様の言う事を聞くとでも?」

「ま、そうだよな。」


其れにより庵は正気を取り戻し、暴走していた時の凶暴な殺気はなりを潜めていた。
京に『オロチの力に呑み込まれちまうような男に、用はねぇんだよ!』と言われた事が庵の自我を呼び覚まし、其れがオロチの血の暴走を超えたのだ……庵も、京との戦いを血の暴走に妨害されるのは我慢出来なかったのだろう。


「しかし、暴走した俺と対峙して無事だったとは……くたばり損なったか。」

「テメェの都合で生きちゃいねぇよ。」


其処から仕切り直しと試合が再開され、庵が爪櫛で飛び掛かり、京は轢鉄を合わせ、振り下ろされた蒼炎と打ち上げられた紅炎がぶつかり合うが、其れでは止まらずに庵は其処から琴月 陰を、京は琴月 陽を繰り出して互いに肘がかち合い、その衝撃で強制的に間合いが離される。


「如何したぁ!」

「喰らえ!」


互いに闇払いを放ち、其れは相殺されたが……


「遊びは終わりだ!!」


闇払いを追いかけるように庵が八稚女を発動して京との間合いを詰め、斬り裂くような連撃を喰らわせて行く。


「泣け!叫べ!そして、狂い散れぇ!楽には死ねんぞ!ククク……ハァッハッハ!!」


更に八稚女後に彩華へと繋いで京のLPを大きく減らす――だが、京も直ぐに起き上がって不敵な笑みを浮かべて見せた。先程の暴走庵との戦いでは見せる事は無かった、『戦いを楽しんでいる笑み』をだ。


「はっ、テメェヤッパリ暴走してねぇ方が強いじゃねぇか?だったらオロチの力なんぞ邪魔なだけだから捨てちまえ。」

「捨てれるのならば捨てたい所だが、六百六十年の時を渡って受け継がれて来たモノをどうやって捨てろと言うのだ貴様は?」

「ダンテに頼んでみたらどうだ?
 あのオッサン、『閻魔刀』とか言う、『人と魔を分かつ刀』ってのを手に入れたって聞いたからな。ソイツを使えば、お前からオロチの血を引き剥がす事くらい出来るんじゃねぇのか?つかあのオッサンも、カシウスさんに負けず劣らずのチートっぷりだから出来んだろ。」

「だとしたら、先ずははやてとなぎさからだな……今はまだ大丈夫だが、将来的に妹がオロチの血に苛まれるのを見たくはないのでな。」

「……お前、意外と良い兄貴だよな。
 だけどよぉ、妹の恋を成就させる為に家の家電品ぶっ壊すってのは如何なんだ?遊星は『仕事になるから助かる』って言ってたけどよぉ……」

「ならばお互いにウィン・ウィンの関係だから問題あるまい……其れよりも、行くぞ京!」

「だな……うおぉぉりゃぁ!!」


此れでLPは略互角となり、試合は再びLPの削り合いのような展開となり、京の紅炎と庵の蒼炎が幾度となく交錯して炸裂し、フィールドの芝は殆ど焼かれて土の地面が露わになっていた。
其れは正に炎の戦いであり、アリーナの熱気を物理的に高めていた。


「熱い試合を冷えたビールと飲みながら観戦すると言うのは実に贅沢だと思わないか覇王?」

「確かに此れは此の上ない贅沢だな。」


貴賓席ではなのはとクラウスがキンキンに冷えたビールを片手に試合を観戦していたが、此れは此の二人に限った事ではなく観客席でも冷えたビールを所望する声は多く、ビールの売り子は大忙しであり、未成年からはソフトドリンクの注文も上がっていたのでソフトドリンクの売り子も大忙しだった。
其れは其れとして、フィールドでは白熱した試合が続き……


「楽には死ねんぞ!」

「俺からは逃げられねぇんだよ!」


庵が八酒杯を、京が天叢雲を放ち、無数の火柱が派手にぶつかり合う。
其の力はマッタクの互角であり、此のまま試合が続いてもタイムオーバーの末の判定勝ちか、ドローになってのエクストララウンドになるのは確実だ――だが、エクストララウンドになるのならば兎も角として、判定勝ちでは京も庵も満足は出来ないだろう。


「此のままじゃ埒が明かねぇか……本当なら決勝戦まで取っておきたかったんだが、如何やら今のテメェにはコイツを使わねぇと勝つ事は出来ねぇみたいだから、悪いが使わせて貰うぜ八神!」



――轟!!



此処で京が気合を入れると、京の背に銀の炎で構成された三対六枚の翼が現れ、京の髪も赤みを帯びた茶色に変化した。


「貴様、その姿は……?」

「マギア・エレビアってのは聞いた事があるだろ八神?本来的に対して放つ攻撃魔法を自身に取り込む事で己を強化する魔法だ。
 其れって若しかしたら草薙流の技を自分に取り込む事で同じ事が出来るんじゃねぇかと思って、無式の力を取り込んだら此の力を得たって訳だ……完全に制御出来るようになったのはKOFが始まる直前だったけどよ。
 だが、この姿になった俺はさっきまでと比べてちょ~っと強いぜ?」

「ほざくか……!」


まさかの京の強化状態開放だったが、強化状態となった京の力は力は凄まじく、庵がマッタク持って相手にならないほどだった。


「見せてやるぜ、草薙流の真髄!おぉりゃあ!せい!燃え尽きろぉぉぉ!!……熱くなれたろ?」

「此のままでは終わらんぞ!」


壮絶なラッシュの末に京が八雲を決めて庵のLPをゼロにして試合終了。


「満足したか、八神?」


決めゼリフも鮮やかに、京は強化状態を解除すると、上着を脱いで其れを片手に持って肩に掛けて勝利ポーズを決め、客席からは大歓声が沸き起こる――一昨年の武術大会から黄金カードとなっている京と庵の戦いは観客にとっても待ち望んでいたモノなので、この大歓声は当然と言えるのだ。


「殺しが御法度の大会ではこれが限界だが、貴様との戦いには満足出来た……ルールで負けたのは癪だがな。
 だが、貴様を倒すのはこの俺だと言う事を忘れるなよ京?俺以外に負けるなど断じて許さん……貴様は俺が殺すまで誰にも負けてはならんのだ。」

「つっても、俺は既にカシウスさんに負けまくってんだけどな?」

「カシウス・ブライトは例外だ。奴に関しては、俺とて勝てるヴィジョンが全く見えん。」

「お前にしちゃ素直な感想だな。」


ルールで負けたのには癪だと言いつつ、庵は京との戦い其の物には満足出来たようだった――奇しくも去年の大会で戦う事になった老武術家から『お主、口では物騒な事を言っておるが、実はあの青年と戦うのを楽しみにしているのではないか?』と言われた事が現実である事を、庵は自ら証明する事になったのだ。


「つっても、この強化状態を使いこなせる様になった以上、今のお前じゃ俺に勝つ事は出来ねぇよ……オロチの血を捨てて八神本来の紅い炎を取り戻すか、或は親衛隊のレオナみたいに暴走を制御出来るようにならない限りはな。
 どっちを選ぶかはお前次第だけどよ、精々修行して出直して来な。そんときゃ何時でも相手になってやるからよ。」

「ククク……ならば俺はオロチの力も、八神本来の力も、その双方を使いこなせる様になってやる……そして超えてやる、貴様もオロチもな!」

「ハハ、楽しみにしてるぜ八神!」


口ではなんだかんだ言いながらも、京と庵も本心では相手と戦う事を楽しみにしており、そう言う意味では『真の好敵手』と言える関係なのだろう――京が『俺様』な性格である事と、庵が凶暴な事で一般的なライバル関係とは少し異なっているだけで。


『けっちゃーく!!
 草薙と八神、因縁の対決を制したのは『猛き炎の伝承者』にしてリベールのディフェンディングチャンピオン、草薙京ーーーー!!
 文字通り熱い戦いに会場は大盛り上がりだったぞ~~!!俺的には、此の試合は今大会のベストバウトトップ5に選びたい位だった~~!!だが、大会はまだ終わっていない!
 次はいよいよ決勝戦!『カルバートファイターズ』vs『ロレントチーム』の戦いは、今大会最大のバトルになる事は間違いない!さぁ、決勝戦までの十分間のインターバルの間にトイレを済ませよう!そして其れが済んだら飲み物とスナックの準備だ~~!!』



MCさんが見事なアナウンスとマイクパフォーマンスで会場のボルテージを引き上げ、十分間のインターバル中にはジェニス王立学園のチアリーダー部による見事なチアダンスが披露され、これまた会場を沸かせていた。
そして、インターバル後、先ずはフィールドにはロレントの自警団『BLAZE』のメンバーが現れ、生演奏で璃音がリベールの国歌を歌うと言うサプライズが待っていたのだが、観客は全員璃音の歌声に聞き惚れてしまっていた……『天使の歌声』とは、正に此の事であった。


『さぁ、KOFのチーム戦もいよいよ決勝戦だ!!
 先ずは青のゲートより、『カルバートファイターズ』の入場だ!!』



続いてMCさんが、先ずはカルバートチームの入場を宣言すると、青のゲートの格子が持ち上がり、其れと同時に特徴的な重低音の前奏の音楽が会場に流れる。(推奨BGM、StreetFighterⅡ『リュウのテーマ』)
決勝戦はより盛り上がるように、チームごとに入場して、更には入場テーマも流して少しばかり派手にやると言う事になっていたのだ――個人戦では無かった事だが、だからこそ観客に与えるインパクトは大きいと言えるだろう。


「ジン、リュウ……勝つぜ、此の試合!」

「あぁ、此処まで来たのならば矢張り優勝したいモノだからな。」

「此の試合、俺が此の大会で最も望んでいた戦いが出来るかも知れないな。」


そして入場して来たカルバートファイターズの面々に客席からは歓声が上がる。
ジンとリュウは此れまでと同じだが、ケンは長く伸ばして腰の辺りで縛っていた金髪を肩の辺りでバッサリと切ると言う大胆なイメチェンをして来たのも観客にとっては衝撃的だっただろう……準決勝でグリフィンに負けた事で、何かが吹っ切れたのかもしれない。


『続いて、赤のゲートより、『ロレントチーム』の入場だ~~~~!!』


続いて赤のゲートの格子が持ち上がり、同時にギターによる演奏が始まる。(推奨BGM、KOF97『ESAKA FOREVER』)


「いよいよ決勝戦だ……気合の貯蔵は充分か!?」

「アタシは何時でも気合120%!!」

「準決勝では黒龍波を使う事は無かったから力は充分だ……思い切り暴れてやろうじゃないか。」

「そう来なくちゃな……それじゃあ、行くぜ!!」


続いて入場して来たロレントチームには観客は更に歓声を上げる。
リベールのディフェンディングチャンピオンである京とアインスとエステルの三人による三連覇は観客の多くが望んでいる事ではあるのだが、其の一方で三連覇を阻止するチームへの期待があるのもまた事実であり、そう言う意味では一回戦から大将を務めて無敗であるリュウには多くの期待が寄せられていた――リュウならば京の不敗神話を崩すのかもしれないと思ったのだろう。


「「…………」」


その京とリュウは、互いに相手を見やると、リュウは腕を組んだ状態で薄く笑い、京は指先に炎を宿して不敵に笑ってみせた――どんな試合展開になるかは分からないが、決勝戦の大将戦は間違いなく物凄い事になるのは間違い無さそうだ。








――――――








そんな盛り上がりを見せるアリーナの裏では……


「キッヒッヒ……此の決勝戦が終わったらやっと暴れられるって訳か……教授とドクターが何を考えてるかは知らねぇが、好きに暴れる事が出来て金も貰えるってんなら此れほど良い仕事はねぇ。
 血が騒ぐぜぇ……全員纏めて血祭りに上げてやるぜ!」


山崎が決勝戦が終わるのを今か今かと待っていた。
決勝戦が終わったら山崎は試合会場に乱入して暴れまくる――其れが教授とドクターからの第二の依頼だった。山崎にとっては教授とドクターの思惑は如何でも良く、自分が暴れられる場があると言う事が重要だったのだ。


「其れは少々聞き捨てならんな、オロチ八傑集の山崎竜二殿?」

「テメェは……!」


だが、その山崎の前に現れたのは草薙柴舟だった。
三回戦では京に秒殺されたが、其れゆえにダメージエミュレートが解除されれば元気其の物であり、アリーナ内にあるオロチの気配を感じ取ってこの場にやって来たと言う事なのだろう。


「生意気でいけ好かんが、其れでも息子の晴れ舞台を穢されると言うのは些か容認出来んのでな……此処で足止めさせて貰うぞオロチよ!」

「ロートルが出しゃばってんじゃねぇぞ、この雑魚が……!」


KOFチーム戦の決勝戦の裏では、KOFの裏決勝戦の幕が切って下ろされようとしていた――!











 To Be Continued 







補足説明