セスから十年前のまさかの可能性を聞いてから三日後、なのはとクローゼはリベリオンの応接室にてセスと対峙していた――セスが此処に来たと言う事は、この三日で、恭也の居場所を掴んだと言う事なのだろう。


「お前が来たと言う事は、恭也の居場所が掴めたと、そう思って良いのだなセス?」

「あぁ、バッチリと掴めたよ。
 奴さんは、ウミナリって小さな村で剣術道場を開いて生計を立てているみたいだ……彼の剣術は、護身にも使えると言う事で大変評判みたいだね。」

「剣術道場だと?確かにアイツは剣士としての実力は高かったが、その剣は父さんから習ったモノだ……父さんを裏切っておきながら、その剣をもってして生計を立てていると言うのか?……何処までも許しがたいな。
 幼い私となたねに向けていたあの笑顔も、全ては偽りだったと考えると、其れだけで腸が煮えくり返る思いだ。」


恭也の現状をセスから聞いたなのはは秒で怒り爆発!!……と同時に、その背に黒と白の一対の翼が現れる。――普段は隠しているのだが、気持ちが昂るとどうにも出て来てしまうようだ。
しかし、それ程激昂するのも当然と言えば当然だ……血は繋がっていないとは言え、兄と慕っていた人物が父をライトロードに売り、其れだけではなく売った相手の剣を教える道場を開いて生計を立てていると言うのは、父を裏切っただけでなく馬鹿にした話なのだから。


「いっそ殺さずに、生かさず殺さずの苦痛を永遠に与えてやろうか?……とは言え、私はあまり拷問には明るくないが。クローゼも、拷問の類は詳しくはないだろう?」

「そうですね……リベール王国の歴史はとても長いのですが、その歴史において拷問が行われた事はないようですし、過去の戦争で捕虜にした敵国の兵士にも拷問を行うどころか、収容施設で生活させると言う事以外は可成りの好待遇だったようです。」

「敵国の捕虜をも手厚く扱うとは、リベールの歴代の王の品格の高さと人格が良く分かると言うモノだ。それに引き換え、あのタヌキオヤジは……。
 まぁ、今は奴の事よりも恭也の事だな……拷問には明るくないとは言え、そうであるのならば簡単に死なせなければ良いだけの事――父も姉も、ライトロードと村人に切り刻まれて死んだ。その苦しみの一万分の一でも、味わわせてやらねばな……!」


なのはの瞳に宿るのは煉獄の炎……十年前のあの日、クローゼに救われるまでなのはの瞳に宿っていたモノと同じ、いや其れ以上だ。
愛する父と姉を死に追いやったのは、血が繋がっていないとは言え兄だったと言う残酷な事実に、家族を裏切った者が今ものうのうと生きていると言う現実に、怒りにも憎悪にも火が点いてしまったのだ――尤も、其れを爆発させずに、己の中で燃やしているのが逆に恐ろしいが。


「クローゼ、お前は今回此処に残っていてくれ……血が繋がっていないとは言え、家族だった者を討つと言う光景を、お前には見せたくない。」

「……いえ、私もご一緒しますなのはさん。」

「クローゼ……そう言ってくれるのは嬉しいが、今回ばかりは……」

「……私も、何れ血縁関係のある叔父を討たねばならない身です。なので、大丈夫です……私も連れて行って下さい。」

「……そうだったな。お前は何れ、血の繋がった叔父と戦うのだったな――ならば、一緒に来てくれクローゼ。私が恭也を討つ姿を見て、デュナンに対する一切の情を捨て去ると良い!」

「……はい!」


なのはとしては、今回の一件にクローゼを同行させる気はなかったのだが、クローゼの想いを聞き連れて行く事を決めた……デュナンに戦いを仕掛けると言う事は、クローゼも身内と戦う事になるのだから、己が兄を討つ姿を見せて、デュナンへの情を完全に捨てさせた方が良いと思ったのだろう。
『叔父への情を捨て去れ』と言うのは、些か酷かもしれないが、クローゼは既に『デュナンが自分の暗殺を画策していた』と言う事を知っている……故に、デュナンへの情を捨て去る事に躊躇いはない。……其れは、普通ならば越えてはいけない一線なのかも知れないが、クローゼにとっては越えるべき一線でもあるのだ。


「皇女殿下は、中々に肝が据わっているお方みたいだねなのは?」

「ふ、彼女は十年前に魔族の血を引いた者だと知りながら私に声を掛けて来たんだぞ?僅か九歳であれだけの度胸があったんだ、大人となった今では大抵の事には怯まんだろうさ。」

「確かに、大抵の事には驚きませんが……物陰から現れて、マッハの速度で移動する黒いアレにはどうしても怯んでしまいますね……」

「其れは仕方ない……アレは、人間、魔族、神族問わず敵だ。あのサイファーでさえ、アレを見たら悲鳴を上げるからな?……尤も、サイファーの場合は悲鳴を上げたあとでアレを惨殺するが。
 殺虫剤をぶっ掛けた後でスリッパで叩き、更にバーナーで燃やすと言うのは流石にやり過ぎではないかと思うのだが、お前は如何考える?」

「明らかにオーバーキルですね。」


……ドレだけ肝が据わっている女性であっても、大抵の場合『奴』を見たら怯むだろうから、其れは仕方がないだろうが、クローゼの胆力に目を見張るモノがあるのは事実であり、リベリオンのメンバーも其れは全員が認めている事でもある。
不撓不屈の闇属性のなのはと、不撓不屈で光属性のクローゼのコンビは、絶対値を同じにする闇と光でバランスが取れているのかもしれない。










黒き星と白き翼 Chapter6
『裏切者は本物?偽物?其れとも鏡像?』










「其れでなのはさん、私の他には誰を連れて行くんですか?」

「クリザリッドやサイファーを連れて行くのがベストなのだろうが、今回は新戦力を連れて行く事にする――鬼の子供達と璃音を連れて行く心算だ。」

「稼津斗さんは?」

「稼津斗にはクリザリッドと共に私が留守中の此の拠点を守って貰おうと思っている……如何に見つかり難く、到達するのが困難な場所とは言え、だからと言って何者も来ないと言う訳ではないからな。」


セスによって恭也の居場所を知ったなのはだが、今回連れて行くメンバーは既に決めていた……リベリオンの新たな戦力である璃音と鬼の子供達だ。
璃音は競り落としたその日から魔法を勉強して、其の力を開花させて行っただけではなく、己の特技である『歌』を使った戦い方も身に付けており、鬼の子供達の実力は折り紙付きなので、連れて行くには充分過ぎる戦力だと言えるのだ。


「なのは、恭也をぶっ倒すってんなら俺も連れてけ。」

「シェン?」


其処に声を掛けて来たのはシェンだ。
『十年前の真実』を、なのははリベリオンのメンバー全員に話していたのだが、其れを聞いて誰よりも腸が煮えくり返ったのがシェンだった……シェンは士郎に師事して居たのだから、当然と言えば当然なのだが。


「恭也は、俺にとっては兄弟子でもあるからな……その兄弟子が、師匠を裏切ってライトロードに売ったと聞いちゃ俺の拳が黙ってられねぇんだ!恩を仇で返す真似をしやがった、道を踏み外した兄弟子に、一発かましてやらねぇと気が済まねぇんだよ!」

「シェン……分かった、お前も一緒に来てくれ。」


粗野で粗暴なシェンだが、『漢』として筋の通らない事は大嫌いなので、恭也の裏切りは到底許せるモノでは無いのだ……シェン自身、恭也の事を兄弟子として慕っていたからこそ許せないのだろう。
『愛は転じて憎しみに変わる』と言うが、其れと同様に『尊敬は転じて殺意に変わる』と言う事なのかもしれない。――同時に、恭也に向けられている怒りや殺意と言う物が、逆に士郎が如何に慕われていたかと言う証であると言えるだろう。

シェンの参戦を認めたなのはは、今度は璃音と鬼の子供達に『一緒に来てくれるか?』と聞くと、全員が二つ返事で『OK』してくれた……普通は少し戸惑うモノだと思うのだが、少しも戸惑わずにOKしたのはなのはのカリスマ性があってこそかもな。


「では、準備が出来次第出発するが……一夏、マドカはレオナと何をしているんだ?」

「あ~~……無言で会話してるんじゃねぇ?」

「無言で会話とは、矛盾が凄過ぎるな……」


マドカもレオナも、幼くしてライトロードによって家族を喪ったために、感情の多くを失ってしまったのだが、其れだけに無言でも何か通じるモノがあるらしい……少なくとも、一般人には分からないだろうが。
で、暫し見つめ合った後に、レオナとマドカは別れた……冗談抜きで無言の会話をしていたらしいな。一体何を話していたのかは、彼女達のみが知ると言った所だろうな、間違いなく。
ともあれ、出発準備は万端な訳だが――


「なのはさん、少し待って。」

「簪か……如何した?」


此処で簪が声を掛けて来た。
鬼の子供達の中では武力面では最弱の簪だが、其れを補って有り余る頭脳があり、リベリオンに参加した後もその頭脳を遺憾なく発揮して、クリザリッドのバトルスーツやサイファーの武器の強化案を次々と提案し、そして其れを実現させた実績がある――故に、なのはも簪からの意見は何か重要なモノがあると判断しているのだ。


「アーティファクトについて少し調べていたんだけど……『映し身の鏡』って知ってる?」

「映し身の鏡?聞いた事がないが、それが如何した?」

「この鏡は、鏡に映り込んだ対象を鏡の中に引きずり込んで、引き摺り込んだ対象とは真逆の性格の鏡像を現実として生み出すモノみたい……若しかしたら……」

「此れから討ちに行く恭也は、その鏡が作り出した偽物である可能性があると、そう言う事か?」

「可能性の一つとして考えておいて欲しい。」


その簪が齎してくれた情報はとても大きなモノだった――なのはも知り得なかったアーティファクト『映し身の鏡』には、鏡面に映り込んだ人物と真逆の鏡像を作り出して、本物を鏡の中に閉じ込めて鏡像を現実に送り出す力があると言うのだ…と言う事は、十年前にライトロードに父を売った恭也は、その鏡が作り出した鏡像だって言う可能性は決して低くないのである。


「簪、鏡に捕らわれた者を救うには如何すれば良い?」

「鏡像を倒して、鏡を砕けば助ける事が出来るみたい……鏡の中に捕らわれた人物は死ぬ事は出来ないみたいだから、救い出す事は出来ると思う。」

「そうか……先ずは、恭也が本物であるか否かを見極める必要があるか。」


簪が齎してくれた情報では、父を売った恭也は本当の恭也でない可能性も出て来た……簪が調べたアーティファクトによって作り出された恭也の鏡像がやったと言う可能性の方が寧ろ高いと言えるだろう。
だが、なのはのやる事は変わらない……本物の恭也が父をライトロードに売ったのならば倒すだけであるし、鏡像の恭也がやった事であるのならば、其れをぶち殺して、鏡の中から本物の恭也を取り戻すだけなのだからね。

そして、全員が準備万端なので恭也が営む道場を目指してリベリオンの拠点を出発!!
シェンと鬼の子供達は全員が空を飛ぶ術を身に付けており、璃音もまた己に発現したソウルデヴァイスの『セラフィムレイヤー』で空を飛ぶ事が出来るのだけれど、クローゼだけは飛ぶ術を持っていないので、なのはが抱き抱えて飛んで行く事になった。今の所、空を飛べるようになるアーツは存在していないのが、アーツが魔法に劣ると言われている原因なのかもしれない。


「それにしても、鬼の子供達は、マドカと夏姫を除く女性陣全員が一夏と恋人関係にあると言うのには流石に驚いたな?……確かに一夏は整った容姿だと思うが、其れでも、恋人五人と言うのは流石に如何かと思うのだが?」

「本人達が幸せであるのならば、其れで良いんじゃないでしょうか?愛の形は人夫々ですよ、なのはさん。」


目的地に向かうまでの間は、特に他愛もない話をしたりするのだが、稼津斗達が仲間になって数日、更識姉妹、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンの五人はマドカや夏姫よりも一夏との距離が近い事に気が付き、何となく『一夏と仲が良さそうだが、特別な関係か?』と聞いてみたところ、此の五人は何と全員が一夏と交際中である事が判明したのだ……此れには流石のなのはも驚いてしまった。
しかも、更に驚く事にこんな状態になっているのは、五人から思いを告げられて悩んでいた一夏に、夏姫が『たった一人の女性しか愛していけないとは誰が決めた?』と言って後押ししたからなのだと言うのだ……確かに、『一夫一妻でなければならない』とは誰が決めた事かと言えばそうなのかも知れないが。


「愛の形は人夫々か……私の両親も、魔族と神族と言う、本来相容れない種族同士が夫婦になった訳だからな。……そして考えてみると、魔界には決して少なくない数の『女性同士のカップル』も存在していたよ。
 まぁ、其処は魔族は女性同士でも子を生す事が出来るという事情もあるのかもしれないが……」

「魔族は女性同士で子供を生せるのですか?」

「あぁ、可能だ。
 魔族の女性は己の遺伝子情報を他の女性に送り込み、妊娠させる事が出来るんだ……その方法に関しては、内容がアレ過ぎるので今は割愛するがな。」

「あ、何となく察しました。
 因みになんですが、なのはさんの恋愛対象は何方ですか?」

「さて、何方だろうな?……だが、私がお前の事を愛おしいと思っていると言ったら、お前は如何するクローゼ?」

「其れは……直ぐに応える事は出来ないと思いますが、真剣に考えてちゃんとなのはさんに返事をしようとは思います――因みに、私が同じ事をなのはさんに言ったとしたら如何します?」

「ふ、私もお前と同じさ。」


其処から『魔族では女性同士のカップルもいた』と言う方向に話題が進み、更にはなのはとクローゼ自身の事にも話が……なのはもクローゼも、少なくとも現段階で互いに『友情』以上の感情を持ってる事は間違いないだろうが、そん感情が『愛情』に発展するかは未知数と言った所だろう。
尤も、事情を何も知らない第三者が、なのはがクローゼを抱き抱えて飛んでいる姿を見たら、『只の女友達ではない』と思うだろうが。

そんな感じの空中散歩を行う事凡そ三十分、目的地である『ウミナリ』が見えてきた。


「アレがウミナリか……直接街に降りたら大騒ぎになるだろうから、近くの林に下りて、其処から歩いて行くとしよう。」

「了解だぜ、なのはさん。」


目的地を目視したなのは達は、余計な混乱を避けるためにウミナリの近くの林に降下して、其処から徒歩でウミナリへと向かう事にした。飛行魔法や、気を使用した飛行術……『武空術』があるとは言え、行き成り空から人が下りて来たとなれば街の人々が驚くのは目に見えているので、この判断は妥当であると言えるだろう。
尤も、璃音だけはセラフィムレイヤーの力で、地面から数センチだけ浮いて移動していたが。

五分ほど歩いた所でウミナリに到着し、街には特に門番等も居なかったのでスンナリと街に入り、先ずはウミナリの住民に恭也の道場について聞いて情報収集だ。情報と言うのは最大の武器になるので、情報収集は基本なのだ。
……その情報収取をしている最中に、クローゼと一夏の彼女達が街のチャラ男にナンパされる事が何度かあったのだが、其れはなのはと一夏が、ディバインバスターと電刃波動拳の合体攻撃を喰らわせて撃退した……一応手加減はしたので死んではいないが、ナンパ男達は暫く桜色と雷がトラウマになる事は間違いないだろう。

さて、そうして恭也の道場についての情報を集めたのが……


「恭也の道場に入門した者は、例外なく入門前とは見違える位に強くなっているか……此れだけならば何の問題もないが――」

「入門者の全員が、『感情表現が乏しくなってしまった』と言うのは問題がある様に思います……剣術に集中して他の事には興味が無くなったと捉える事も出来ますけれど、入門者全員がと言うのは流石に有り得ないと思います。」

「いや、マジであり得ないぜ?
 俺達もカヅさんに武道を習ってるし、武道に集中はしてるけど他の事に興味が無くなるなんて事はないからな……てか、そうじゃなかったら俺に五人も彼女出来てないし。」

「うん、お前が言うと物凄い説得力だな一夏。」


恭也の道場に入門した者は、全員が入門前とは見違える位に強くなっているのだが、その強さと引き換えに『感情を失った』に等しい状態になっていると言うのは、幾ら何でもオカシイと言わざるをないだろう。
だが、この情報だけでも恭也の道場が普通でない事は明らかだ……其れに疑問を抱いても、具体的に何かをしようとはしない街の住人も少しオカシイのかもしれないが、其れは其れとしてなのは達は恭也の道場に足を運んでいた。
そして、道場に到着すると……


「たのもー!!道場主の不破恭也は居るか!!」


なのはは道場の扉をレイジングハートで粉砕!玉砕!!大喝采!!!……ディバインバスターで吹っ飛ばしたのではなく、レイジングハートでブッ叩いてぶっ壊したと言うのだから恐ろしい事この上ない。
当然、このトンデモナイ事態に、道場内に居た門下生は黙ってはおらず、『道場破りか?』と思ってなのは達に向かって来たのだが、ドレだけ強かろうと道場の門下生では、数々の修羅場を潜って来たなのはと鬼の子供達の敵ではないだけではなく、静かに牙を研いでいたクローゼと、ロレントの自警団の一員として荒事になれていた璃音の敵でもなく、あっと言う間に鎧袖一触!
圧倒的な力の差を見せ付ける結果になったのだった。


「何の騒ぎだ?……って、お前は!!」

「十年ぶりだな兄さん?十年前のあの日に死んだと思っていたが、クタバリ損なったようだな?……まぁ、私も死に損なった訳だが、お互い悪運が強かった様だな?」

「ふ、確かにな。」


そして、この騒ぎを聞きつけて道場主である恭也が現れ、なのはと十年ぶりの再会を果たす……とは言え、其れは感動の再会とは言えないモノであり、軽口の応酬となってしまったのだが。


「お前が来るとは思っていなかったが、良く俺が此処にいると分かったな?」

「信頼できる情報屋が仲間に居るのでね……ソイツに依頼した訳ではないが、ソイツが十年前の事に興味を持って調べてくれてな……其処で、兄さんが生きていると言う事を知って、会いに来たんだ。
 なたねも生死不明になってる以上、兄さんは私の唯一の家族だからな。」

「そうか……俺も、お前が生きていてくれたのは嬉しいと思うよ。」


恭也の言う事に、なのはは『父を売っておいてどの口が言う』と思ったが、その感情を表には出さずに恭也と対峙する……怒りの感情をコントロール出来るのもまたなのはの強みであるのかもしれないな。


「私も兄さんが生きていた事は嬉しく思うよ……兄さんが生きていなかったら私は天涯孤独の身になっていたからな。」

「なら、泥水啜ってでも生きてきた甲斐があるってものだな……俺が生き抜いて来れたのは、何時かお前達と再会出来るって信じていたからだからな。」


だがしかし、この恭也と話をしても、なのはには恭也の真意を掴む事は出来なかった……目の前の恭也は、自分となたねの事を大切に思ってくれていた兄と何ら変わらなかったからだ。
だが――


「(恭也の右腕に傷痕?あんなの有ったか?)」


此処でなのはは恭也の右腕の傷痕に気が付いた。
恭也の腕には傷痕はあったのだが、其れはなのはの記憶では左腕にあった筈なのだ……であるにも拘らず、目の前の恭也の左腕には傷痕はなく、右腕にだけ傷痕があるのだから、違和感を覚えるのは当然であると言えるだろう。


「兄さん、その右腕の傷は如何した?半グレにでも襲われたか?」


なので、なのはは此処で恭也にカマを掛ける事にした。――疑わしい相手にカマを掛けるのはある種の基本であると言えるだろう。カマを掛けた事で、真実が顕わになると言う事は珍しい事ではないのだからね。


「何を言ってるんだなのは?この傷痕は、お前を守った時に付いたモノだろう……忘れてしまったのか?」

「いや、覚えているよ……凶悪な魔獣に襲われた時に、兄さんはその身を挺して私となたねを守り、そして腕に一生消えない傷を負った……だが、兄さんが魔獣の攻撃を受けて負傷したのは左腕なのだがな?……貴様、何者だ?」


そしてそのカマ掛けは大成功で、目の前の恭也は見事なまでに自爆してくれた……本物恭也ならば左腕にある筈の傷痕が右腕にあると言う時点で、怪しい事この上無かったのだが、なのはの質問に答えた事で、その正体が明らかになったのである。


「成程、俺は試されていたと言う訳か……渋いねぇ?アンタマッタク持って渋いぜ!!」

「貴様、『映し身の鏡』によって映し出された鏡像だな?……貴様、何故ライトロードを手引きした!何故、父さんと姉さんをライトロードに殺させた!!」

「バレてたって訳か……そんなもん決まってんだろ?俺が恭也の鏡像だからさ。
 アイツは不破士郎を慕っていたが、鏡像である俺には其れが嫌悪と憎しみになるって訳さ……だからよ、ライトロードに情報をリークして、士郎と美由希をブチ殺してやったんだ……お前は生き延びたみたいだけどな!!」

「兄さんが反転した存在故にか……だが、其れを聞いて安心したよ……此れで、私も戸惑わずに貴様を殺す事が出来るからな。
 本当に兄さんが父を裏切ったと言うのならば悩みもしただろうが、兄さんの姿を模した鏡像が黒幕だったと言うのならば私も一切悩む事無く貴様を滅してやる事が出来る訳だからな……覚悟は良いな貴様?」


この恭也は、簪が調べたアーティファクトの『映し身の鏡』によって作り出された鏡像であり、不破恭也とは似ても似つかない外道だった……そして、其れを知ったなのは、偽恭也にレイジングハートの先端を向けて戦闘開始とも言える一言を口にする。


「覚悟を決めるのはお前の方かも知れんぞ?……俺の道場の門下生は、俺の僕だからな……起きろ下僕共、敵を殺すぞ。」


それに対し、偽恭也が指を鳴らすと、既にKOされた筈の門下生がゾンビの如く立ち上がってなのは達を見やる……のだが、その目には生気がない――その姿はまるで、死して尚戦い続ける『ゾンビソルジャー』の如しである。
偽恭也は、門下生を鍛えると同時に、洗脳して己の手駒として居たのだろう――其れならば、恭也の道場に入門した者が『感情欠落者』になったと言うのも頷ける。
偽恭也によって、洗脳されたのであれば人間らしい感情と言うモノを失ってしまったとしても何らオカシイ事はないのだからね。


「門下生は手駒か……いや、門下生だけでなくウミナリの住人も洗脳しているな貴様?……ウミナリの住民は、入門者の異常な強化と感情欠落に疑問を抱きながらも、其れを言及する事はなかった――お前が洗脳していたからだ、違うか?」

「頭の良い子は好きではないな……聡過ぎて目的を達成し辛いからね――そして、後悔しているよ……十年前に、君が生き残ってしまったと言う事にね。」

「ならば、その後悔を抱いたまま溺死して地獄に落ちるが良い……尤も、貴様には地獄すら生温いがな!」


まさかのウミナリの住民全員を洗脳していると言う事実を肯定された事によって、なのはの怒りは限界を突破して、その背に白と黒の翼が顕現して、なのはの周囲に魔力のオーラが発生して、飽和状態になった魔力が火花放電を起こしている――それ程に、なのははブチ切れている訳であるのだ。


「覚悟は良いな?……貴様は骨の欠片も残さない位に滅殺してやる!!兄さんの名を騙って愚行を行った報い、受けて貰うぞ!!」

「やってみろ、出来るモノならば。」


そして、戦闘開始!!
なのはは偽恭也に突撃したが、偽恭也は其れを受け流すと同時に、手駒となった門下生を操って、なのは達を殲滅しようするが……


「覇ぁぁぁぁぁぁ……其処です!!」

「行くぜ……真・昇龍拳!!」

「行くわよ?……疾風迅雷脚!!」

「灼熱……波動拳!!」

「行くよ……ハイパートルネード!!」

「ロラン、お願い!!」

「了解だ璃音。」

「Uh~~……」


クローゼも一夏達も、その門下生を鎧袖一触!
クローゼは見事なレイピア捌きで門下生を打ち倒し、一夏は強烈な拳打で門下生をKOし、刀奈は目にも止まらぬ連続蹴りで門下生を打ち倒し、ヴィシュヌは烈火の波動で門下生を燃やし、グリフィンは乱打からの旋風脚で門下生をボコボコにし、璃音とロランは合体攻撃で門下生を粉砕!!
『歌』を武器にした璃音は、風の気を持つロランと共に必殺技を考えていたのだ――其れは、璃音の歌の両脇に気で作った圧縮空気の壁を作ってやる事で璃音の歌声に指向性を持たせて撃ち出すと言うモノだ。
そして其れは見事に成功して、偽恭也の軍団に決して小さくない損害を与える……指向性を持った璃音の歌は『音の槍』とも言うべき物であり、不可視の攻撃なのでこの損害は当然と言えば当然なのかもしれないが。
そして其れだけでなく、マドカは無数の気弾で門下生を翻弄し、夏姫はガンブレードで門下生の意識を刈り取って行く……戦う姫騎士、熾天使の末裔、鬼の子供達の戦闘力は相当に高いようだ。
シェンはと言うと……


「三下はすっこんでろオラァ!!」


これまた我流の喧嘩殺法で門下生をフルボッコ!!士郎に師事していたのは伊達ではない。


「馬鹿な、俺の門下生達が……!!」

「ふ、私達を舐めるなよ?
 貴様の手駒達は確かに強いのだろうが、戦う姫騎士であるクローゼ、熾天使の力を受け継いだ璃音、鬼に育てられた鬼の子供達に比べたらハナクソでしかない。
 そもそもにして、洗脳して支配した存在と、私と絆を紡いだ仲間では勝負にならん……だが、貴様は簡単には殺さん。
 父さんと姉さんが受けた苦しみを味わわせるだけでなく、本当の兄さんが捕らわれている『映し身の鏡』が何処にあるのかを話して貰う必要があるからな。」


そう言うとなのははレイジングハートの先端を偽恭也に向けて威圧する……そして、其の威圧を喰らった偽恭也は思わず身震いし、僅かに後退る。それ程までに、今のなのはから発せられる威圧はハンパなモノではないのだ。
家族を亡くしたあの日から、なのはは己の中にある修羅を磨いていたのだから、鏡によって作り出された偽物風情にはあまりにも巨大過ぎる相手だろう。


「このまま、この街一つを乗っ取り、何れはもっと大きな一団にする筈が、こんな所で……貴様ら全員殺してやるぞ!!」

「やってみろ。お前では出来ないだろうがな。」


それでも偽恭也に『退く』と言う選択肢はないらしく、互いに闘気が爆発して一気に戦闘状態に!!
此処に、なのはの復讐の第一弾となる戦いが始まったのだった。








――――――








――同じ頃……


「ったく、此れだけの悪魔が現れるとかマジかよ?ま、儲かるから良いけどよ。」


ある街は突如現れた悪魔によって蹂躙されていたのだが、その街を訪れた銀髪の青年と栗毛の女性によって悪魔は逆に蹂躙される事になった。


「馬鹿な真似はよせ!死ぬぞ!!」

「あぁ?うるせぇポリだな?死に損ないは、其処で見てな!」


其れだ言うと、銀髪の青年は背負った剣で悪魔を切り裂くと、剣で斬り裂けなった悪魔を異形の右腕で捕らえると、地面に何度も叩き付けた後で投げ飛ばして滅殺する……その圧倒的な力に、悪魔に対処していた警察官すら言葉が出ないようだ。


「あ、アイツは一体?」

「彼は、悪魔をボコるのが趣味なんです。」


銀髪の青年は悪魔を一掃し、栗毛の女性も、悪魔を得意の魔法で蹂躙していたのだから、最早突っ込みは要らないだろう……取り敢えず、この二人の相性はバッチリだと言っても過言ではないだろうね。
程なくして、銀髪の青年は悪魔を一掃して、栗毛の女性に『GJ』のサインを送り、栗毛の女性も其れに応えるようにサムズアップして見せた……取り敢えず、此のコンビは相当な実力者あるのは間違いないだろう。












 To Be Continued 







補足説明