『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にして数日、リベリオンの拠点にある訓練場では、『鬼の子供達』の一人である一夏がシェンを相手にスパーリングの真最中なのだが、其
の戦いは熾烈を極めていた。
パワーでは圧倒的にシェンの方が上なのだが、一夏はスピードと手数の多さでシェンを上回るので、総じて戦えば五分……リベリオンでもトップクラスの実力者の持ち
主であるシェンと互角に渡り合えるだけの実力を持っているとは、『鬼』に育てられたと言うのは伊達ではないようだ。
「シェンと互角に渡り合うとは、矢張り鬼の子供達の実力は相当に高いな?
其れに一夏は、己の気に雷の属性を付与する事が出来る様だ――魔力の属性変換資質と言うのは此れまでも幾つか見て来たが、気の属性変換と言うのは初めて
見たぞ?
一夏は雷属性、刀奈は水&氷属性、ヴィシュヌは炎属性、ロランは風属性、グリフィンは固定属性はなく、周囲の環境によって変わる特殊属性と来たからな。」
「気と言うのも、奥が深そうですね。」
此のスパーリングを見ていたなのはとクローゼも、思わず感嘆する位だ。
なのはは此れまで歩んで来た人生の中で、何度も強者と言うモノを目の当たりにしており、クローゼも幽閉されるまでは、毎年祖母のアリシア女王と武術大会を観戦し
ていたので『闘う者』、『戦う者』を見る目は可成り肥えているのだが、そのなのはとクローゼが見ても鬼の子供達の実力は相当に高く、特に『気』を使った技は実に見
事なモノに映ったようだ――気を操る戦い方を見た事がない訳ではないが、その多くは自己強化が多く、稼津斗や一夏達のように『気弾』や『気功波』として使うと言う
のは見慣れていないのだろう。
リベリオンにも気を操る者として、クリザリッド、シェン、レオナが居るが、シェンは基本的に自己強化のみ、クリザリッドは竜巻を起こしたり炎を纏ったりはするが気弾や
気功波として使う事はなく、レオナはエネルギー球を発生させる事は出来るがそのエネルギー球はその場に止まったままであり、基本的には気を相手に送り込んで爆
破させる使い方なのである。
因みに、クリザリッドは炎を使えるが、此れは気に炎の属性を付与しているのではなく、体内に移植された草薙一族の遺伝子によるモノで元々が炎属性であるので属
性付与とはまた別なのだ。
「『鬼』と『鬼の子供達』……本当に存在してるかどうかは不明だったが、存在している可能性に賭けてハーメルまで行った甲斐はあったと言うモノだな。」
「そうですね……頼もしい仲間が増えて何よりです。」
稼津斗達の加入により、リベリオンの戦力が大きく底上げされたのは間違いない――特に、ハーメル村を襲ったライトロードの軍勢を一人で全滅させた稼津斗の力は
計り知れないモノがあるのだから。
さて、其れは其れとして一夏とシェンのスパーリングは佳境に入り、一夏が『電刃錬気』を使って全身に雷を纏うと、その両手に気を集中し……
「電刃……波動拳!!」
必殺の気功波を発射!!
普通の気功波ならばガードは出来るが、雷の属性が付与された気功波はガードしても痺れてしまうので事実上のガード不可能技だったりする――序に、炎属性は火
傷し、氷属性は凍傷、風属性は鎌鼬で斬られるので、属性付き気功波は基本ガード不能なのである。
一夏の攻撃が放たれる前に潰そうとしてたシェンは、ガードも回避も間に合わず、結果其れを真面に喰らう結果になってしまい、全身が痺れて勝負ありだ。
「ククク……す、すまんクローゼ。完全に私の空耳なのだが、一夏の技が『原人波動拳』に聞こえて少しツボに入った……なんだ原人波動拳って。原始人を発射して攻
撃すると言うのか?」
「原始人を発射して攻撃……そ、想像すると途轍もなくシュールな光景ですね?」
その一方では、なのはが謎の空耳アワーを発動してツボに入ったらしく、クローゼはクローゼでなのはが言った事を想像して少しばかりツボに入ってしまったようだ。
……なのはとクローゼは、似たような感性をしているのかも知れないな。
一夏との一戦を終えたシェンは、クローゼにアーツで回復して貰い、刀奈、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィンともスパーリングを行ったのだが、生来の頑丈さと、喧嘩好きな
性格のおかげで本人はマッタク全然平気だったようである。
尚、夏姫のスパーリングの相手はサイファーが、稼津斗のスパーリングの相手はクリザリッドが務めたのだが、稼津斗とクリザリッドのスパーリングは、余りにも激し過
ぎてリベリオンの拠点が壊れそうな勢いだったので、なのはが拡声器を使って強制的に終了させる結果となった……強過ぎると言うのも、スパーリングでは問題なの
かも知れない。
黒き星と白き翼 Chapter5
『ちょっとした日常と、まさかの真実!』
訓練場でのスパーリングを観戦し終えたなのははクローゼを連れてリベリオンの拠点の最深部……主の間に来ていた。
人の世界の城や、天界の宮殿が最上部に最も位の高い存在の間があるのと異なり、尤も深い場所に主の間があると言うのもまた、なのはが魔族の在り方と言うモノ
を好んでいるからだろう。
魔族では、地下のより深い場所に居る者こそが強い力を持っていると考えられているのだ――此れは、スパーダが定めた法によって、心と言うモノを理解した悪魔が
魔族になる前から続いていた、魔界のより深い場所に棲んでいる悪魔ほど強大な力を持つと言うモノが関係しているのだろう。
事実、現在『魔王』を名乗っているルガール、アーナス、悪魔将軍の三名も、己が居住する場所は魔界でも最も深い場所なのだから。
「さてとクローゼ、私達の準備が整った暁にはデュナンに戦いを仕掛ける訳だが、その際にリベールで私達の側に付いてくれる戦力に心当たりはあるか?」
「そうですね……元王室親衛隊の皆さんとリシャール大佐率いる情報部は味方になってくれると思います。特に親衛隊のユリアさんと、情報部のリシャール大佐は、私
が幽閉された後も、小まめに面会に来て下さいましたから。
ユリアさんは、親衛隊が解体されてしまったので、私との面会は難しかった筈なのに……」
「お前を慕う者は、矢張り多いのだな。」
其処でなのはは、クローゼに『何れデュナンと戦う事になった際に、リベールで自分達の側になってくれる戦力はあるか?』と聞いたのだが、行き成り中々に大きな戦
力が出て来てくれた。
クローゼを幽閉した後、デュナンによって解体された『王室親衛隊』だが、その隊員は王国軍の兵士として活動しており、大部分はリシャールが率いる情報部に吸収さ
れており、隠れてその牙を研いでおり、リシャールもまた水面下ではデュナンを倒さんと画策しているのだ……幽閉生活を送っていたクローゼに余計な心配を掛けたく
ないからと、ユリアもリシャールも話していない事なので、クローゼは水面下での動きは全く知らないのだが。
「王国軍の部隊の一つが味方となってくれればありがたいが、其れとは別に戦力になりそうな者は?」
「其れでしたら、先ずは遊撃士の方々ですね。
リベールにはS級の遊撃士が一人、A級の遊撃士が五人も居ますから。」
「A級の遊撃士が五人も居るだけでなく、幻と言われるS級の遊撃士まで居るのかリベールには!?」
更なる戦力はリベールの遊撃士なのだが、S級遊撃士が一人、A級遊撃士が五人居ると言う事を聞いてなのはは驚いた――遊撃士制度を導入している国は、リベー
ルの他に、隣国のエレボニアとカルバードがあるが、エレボニアにはA級遊撃士は存在せず、カルバードにはA級遊撃士が一人しか居ないのだから、リベールにはA級
遊撃士が五人も居て、更にS級が一人居ると聞いたら驚くのは当然と言えるだろう。
「はい。
S級の遊撃士はカシウス・ブライトさん――元王国軍の軍人で、軍を退役した後は遊撃士となったのです。お祖母様からの信頼も厚く、幼い頃は私も随分とお世話に
なった記憶があります。」
「カシウス・ブライト……聞いた事がある。
生前の父が、酒が入ると良く其の名を口にしていた……『人間の身でありながら、魔王と称される自分と互角に渡り合ったのは、後にも先にも彼だけだ』、と言ってい
たよ――魔王たる私の父と互角に渡り合うとか、カシウスは本当に人間か?魔王と渡り合える人間など、私は見た事がないぞ?」
「人間だと思います、多分。」
そのS級遊撃士のカシウス・ブライトは、嘗て魔王でありなのはの父である『不破士郎』と戦って互角だったらしい……普段は妻と娘の尻に敷かれている親父ではある
が、その本気の実力は魔王に匹敵るモノである訳か。うん、普通に人間じゃないわあの親父。
「そして、カシウスさんの御息女のエステルさん、エステルさんのパートナーであるヨシュアさん、エステルさんとヨシュアさんの先輩遊撃士のシェラザードさんとアガットさ
んとクルツさんがA級の遊撃士になりますね。」
「カシウス・ブライトは娘も相当か。」
「因みに、エステルさんには姉妹が居まして、姉のアインスさんと妹のレンちゃんも其の実力は可成り高いと思います――幽閉前に、カシウスさんに誘われて、お忍び
でブライト家を見に行った事があるのですが、アインスさんとレンちゃんも其処で高い実力を見せてくれましたので。
あぁ、其れと、アインスさんと交際している草薙京さんも戦力としては期待出来るかも知れません。勝負は付かなかったとは言え、カシウスさんと三十分一本勝負を行
って、押され気味とは言え引き分けましたから。
尤も、その時はお忍びだったのでエステルさん達とは顔は会わせる事も話もする事もありませんでしたが。」
「まぁ、一般家庭に次期国王となる人物が来たとなれば大騒ぎだから仕方ないだろうさ。
しかし草薙とは……千八百年前にオロチを封じたと言われている草薙の末裔か?確かに、戦力としては申し分ないな。」
更に、軍と遊撃士以外にも戦力になるモノは多いので、デュナンと事を構える際の戦力は問題ないだろう――何よりも、リベールの民は現国王であるデュナンには不
満しかなく、『幽閉されているクローディア皇女殿下を解放して新たなリベールの王に!』と言う意見も少なくないので、多くの民はリベリオンの味方になって、デュナン
に対して反旗を翻す反旗を翻す筈だ。
なので、今の内に味方となる戦力をピックアップしておくに越した事はないのである。
主の間でのなのはとクローゼの意見交換は其処からも白熱して行われた――意見交換と言うのは大事な事なので、其れはトコトンまでやるべき事だろう。――尤も、
其れで完徹となってしまっては笑えないがな。
なのはもクローゼも、翌日は徹夜したとは思えない程に元気で、訓練場でシェンとサイファーを相手にスパーリングを行い、見事勝利を収めると言う結果を出した。リベ
リオンのリーダーと、元皇女殿下のタッグは思いのほか強力だったらしい。
実戦経験は乏しいクローゼだが、それだけに強者との戦いは即骨身になると言う事なのだろう……実際に、クローゼの動きはスパーリングの最中に凄まじい勢いでよ
くなっていたのだから。
そして、スパーリングが終わる頃には、クローゼはサイファーと互角に戦えるまでになっていた……其れは即ち、クローゼには元来『闘う者』の才能が秘められていた
と言う事なのだろう。
幽閉されていた皇女殿下は、戦う力を持った姫騎士でもあったのだ。
「サイファーと互角に渡り合うとは、やるなクローゼ?」
「守られてるだけのお姫さまではありませんから♪」
「ふ、そうだったな。」
スパーリングを終えた後は、なのははクローゼの頬にキスを落とす……『女性同士で何してんの?』と思うかもしれないが、頬へのキスは『親愛の証』なので、同性で
あっても問題はない!母親が子供の頬にキスを落とす事は決して珍しい事ではないのだから。
「頬、ですか……お祖母様からして貰った事がありますが、最後にして貰ったのは何時だったか……」
「あ~~……すまん。良く母からされていたモノでついやってしまった。」
「いえ、嫌ではなかったので謝らないで下さい。其れに、少し嬉しかったのも事実ですから。」
「そうか……其れならば良かった。」
親愛の証をされて不快になる者は早々居ないだろう……野郎同士で同じ事をしたら、一部の腐女子を除いてドン引きだろうが。
なんにしても、なのはとクローゼは互いに相手に対して友情よりも強い感情を持ってるのは間違いない――己が只の復讐者にならずに済んだ切っ掛けをくれた少女と
窮屈な鳥籠から連れ出してくれた女性と、お互いに感謝してもしきれないモノがある訳なのだから。
――――――
・リベール王国:ロレント市郊外・ブライト家
「おおぉぉぉぉ……喰らいやがれぇぇぇ!!!」
「んな!きゃぁぁぁぁ!!」
「へへ、燃えたろ?」
ブライト家の庭では、最早日課となっているスパーリングが行われており、今は京とエステルがスパーリングを行い、京がエステルの金剛撃にカウンターの七拾五式・
改を叩き込んで、追撃に大蛇薙をぶちかましてターンエンド。
A級遊撃士のエステルの実力は相当に高いのだが、そのエステルをも圧倒するアインスと互角の実力を持つ京にはマダマダ敵わないらしい――京は、歴代の草薙家
頭首の中でも最強と言われているほどの実力者であり、若干十五歳で父を越えてしまった天才だからな。
……尤も、其れを言うのならば史上最年少でA級遊撃士になったエステルと、その恋人であるヨシュアも間違いなく天才なのだけれどね。
「相変わらず強いわね京?」
「まぁな……でもまだまださ。今の俺じゃカシウスさんと引き分ける事は出来ても、勝つのは難しいだろうからな……マジであの人は強いぜ。」
「あ~~……父さんは別格だからね。
そう言えば気になったんだけど、どうして京は父さんには敬称を付けて敬語を使うのかしら?柴舟さんにはため口で敬称もないのに。」
「あ~~~……其れは、俺の過去に関係してるな。」
スパーリング後に、エステルは此れまで気になっていた事を京に尋ねたのだが、京は意外とアッサリその口を割ってくれた。
「ガキの頃なんだけどさ、俺は近所の悪ガキとの喧嘩が絶えなかったんだ――だけど、俺が喧嘩をしたと知った時、親父は喧嘩の原因も聞かずに、俺が喧嘩したって
事だけでぶん殴るだけだった。お袋は話を聞いてくれたけどな。
だけど、カシウスさんは違った。
カシウスさんは喧嘩を止めるだけじゃなく喧嘩の理由を、俺の話を聞いてくれた――そんでもって、『確かに悪いのは彼等の方だが、だからと言ってイキナリ手を出し
てはダメだ』って諭してくれたんだ。
でもって、その後俺はカシウスさんと戦ってボロ負けしただろ?そん時にさ、カシウスさんは俺の中で『親父よりも人として武道家として尊敬出来る存在』になったって
訳だ。」
其れは、カシウスを慕うようになるわ京も。
喧嘩は確かに良くない事だとは思うが、『喧嘩をした』と言う事実だけで、息子を鉄拳制裁すると言うのは間違い極まりないだろう――下手したら、京はグレてトンデモ
ない事になっていたかも知れないのだから。
「理由を聞かずにぶっ飛ばすのは確かに無いわ……って、京がやたらと柴舟さんに辛辣で口が悪いのって……」
「ガキの頃に理由も聞かずにぶん殴られた事への意趣返しだな。
序にこの前、お袋と『サバの味噌煮に砂糖を使うか否か』で言い合いになってたから、お袋の『砂糖は使わない』って意見に賛同したら逆ギレして、『稽古を付けてや
る』とか言って来たから……」
「どうしたの?」
「毒咬み→荒咬み→九傷→七瀬→七十五式・改→轢鉄→大蛇薙→神塵のコンボ叩き込んでKOした。ぶっちゃけ、もう親父には負ける気がしねぇ。」
京が柴舟に対して口が悪いのも、子供の頃に喧嘩をしたと言う事実だけで、理由も聞かずに殴られていたのが原因だった様だ……そら、理由も聞かずに殴られたら、
不平不満も溜まるってモノだからな。実の父親であっても、辛辣な態度を取りたくもなるだろう。
柴舟は武道家としては一流であっても、父親としては残念な人だったのかもしれないな――尤も『草薙の拳を喧嘩に使うな』と言う思いはあったのかも知れないが、そ
れも口に出さんと子供には伝わらんだろうて。
「ふふ、絶好調みたいだね京さん?今度は僕の相手をして貰っても良いかな?」
「ヨシュア、お前も来てたのか……良いぜ、掛かって来な。」
そしてブライト家の庭では、今度は京とヨシュアのスパーリングが開始され、炎の剛撃と神速の瞬撃による凄まじいバトルが展開されるのだった。
――――――
・リベリオン拠点:応接室
リベリオンの拠点である応接室にて、なのはは情報屋のセスと対峙していた。
と言うのも、セスが『お前さんの耳に入れておきたい情報がある』とリベリオンの拠点を訪ねて来たからだ――なのはもまた、セスの諜報能力の高さは信頼しているの
で、そのセスが持って来た情報には価値があると判断したのだ。
そして、その情報は共有しておいた方良いと考えてクローゼも此の場には同席している。
「其れでセス、私の耳に入れておきたい情報と言うのはなんだ?」
「其れはだな、十年前の士郎氏がライトロードと暮らしていた村の住民によって殺された一件に関しての事だ。」
「あの時の出来事に関してだと!?」
挨拶もそこそこに本題を切り出したなのはに対してセスが口にしたのは、『十年前の不破士郎がライトロードによって討たれた一件』に関する事であり、思わずなのは
も身を乗り出してしまった。
父と姉を失い、双子の妹と生き別れる事になった事件に関する事ともなれば当然の反応かも知れないが。
「お前さんから話を聞いて、個人的な興味からあの事件の事を調べてたんだが、如何にも不審な点が出て来てな。
当時、士郎氏は魔族である事を隠し、姓も妻の桃子氏の『高町』を名乗り、髪の色も変えていて、村の住民も、ライトロードが士郎氏が魔族だと言う事を明らかにする
まで、士郎氏が魔族である事は知らなかった……にも拘らず、如何してライトロードはあの村に『魔王』の一人である士郎氏が居る事を知ったのだろうな?」
「……言われてみれば、確かにそうだな?」
だが、セスから言われた事を考え、なのははあの日の事を疑問に思った。
ライトロードは『魔族排斥』を掲げる過激派の一団なので、魔族である父の事を討ちに来たのだと思っていたが、そもそもにして如何してライトロードはその村に不破士
郎が居るのかを知ったのかは謎だったのだ。
当時士郎が暮らしていた村は、地図にも載らないくらいの辺境の小さな村であり、ライトロードでもその存在は感知していないレベルのモノだった――にも拘らず、ライ
トロードの襲撃を受けて、なのはは父と姉を喪った。改めて言われると、釈然としないモノがあるのだ。
「此れはあくまで俺の考えなのだが、恐らくはライトロードに士郎氏があの場所に居ると言う事をリークした奴が居るんじゃないか?そうじゃなければ、ライトロードがあ
の村を襲う理由がまるでない。」
「!!」
其処でセスの私見を聞いてなのはは衝撃を受けた……十年前のあの襲撃が誰かによって手引きされたモノだと言うのなら、復讐する相手は変わって来るのだから。
「父の存在をライトロードにリークした存在が居るだと?
だが、当時の村の住民は父が魔族である事は知らなかった……だとしたら、そんなまさか!!」
「なのはさん?」
そして、其処まで考えた時、なのはには最悪の可能性が頭に浮かんでしまった……其れは絶対に信じたくない事でもあり、その事実に辿り着いたなのは自身が否定
したい事だったのだから。
余りにショックだったその事実に、なのは額に手を当てて天井を仰ぎ、クローゼもそんななのはを心配そうに見やる……それ程までに衝撃だったのだ、辿り着いてしま
った事実は。
「何故、今まで気付かなかったのだろうな。
父と姉は死に、なたねとも生き別れたが、なたねとは別に生死不明になっている人物が一人だけ居た事に……父と姉はライトロードに殺され、遠巻きに遺体も確認
したが、其処には居なかった人物が居た事に……!」
「なのはさん、何か分かったのですか?」
「クローゼ、セスの話を聞いて私は復讐すべき相手はあの村の住民でないと理解したよ。
父は魔族である事を隠し、魔王である事を知られないために母の姓を名乗っていたにも拘らず、ライトロードによって居場所を特定されて討たれた――だが其れは、
セスの言ったように、誰かがライトロードに父の存在をリークしなければあり得ない事だ。
村の住人はライトロードに言われるまで、父が魔族であった事は知らなかった――其れを踏まえると、父の存在をライトロードにリークしたのは、さて誰だろうな?」
「それは……そんな、まさか!!」
「そう、ライトロードに父の存在をリークしたのは身内と言う事になる。」
「!!」
その衝撃の事実は、士郎の存在をライトロードにリークしたのは身内だったと言う事実だ。
大凡信じたくない事ではあるが、セスの言った事と照らし合わせて考えると、其れがシックリ来てしまうのもまた事実であると同時に、あの襲撃の後で生死不明になっ
ていると言う事もまた、なのはにとっては充分な事であった。
『魔族や神族が情報をリークしてライトロードを利用した』と言う可能性は考えていないようにも思えるが、魔族と神族は基本的に『己の軍勢を使って戦う』事を考えると
魔族や神族がライトロードを利用した可能性は先ず有り得ないのである。
「よもや復讐すべき相手が身内に居るとは思わかなったが……此れが事実であるのならば、私は貴方を討たねばならないな兄さん――否、不破恭也!!」
その相手は、兄である『不破恭也』だったのだから。
「なのはさんのお兄様が、お父様をライトロードに売っただなんて……そんなの、余りにも酷過ぎます!!如何して、自分の父親を売る事が出来るんですか!!」
「兄さんと父は直接的には血が繋がっていないんだ……兄さんは、父が拾った孤児だったらしいからね……父に拾って貰わなかったら野垂れ死んで居たかも知れな
いと言うのに、恩を仇で返す此の所業を許す事は出来ん。
奴には、父と姉の命を散らした報いを徹底的に叩き込んでやる!!」
復讐すべき相手は、ライトロードに加勢した村人ではなく、ライトロードに士郎の存在をリークした兄であり、恩を仇で返すと言う外道極まりない所業をした兄に対し、な
のははその怒りを燃やし、先ずは兄を討ち倒す事を決意したようだ。
「セス、不破恭也の居場所はドレだけあれば特定出来る?」
「一週間……いや、五日あれば特定出来ると思う。」
「五日……充分だ。特定出来たら教えてくれ。」
「うん、了解だ。」
まさか復讐すべき相手が身内に居たとは驚くべき事だが、だがだからと言ってなのはは容赦はしない――最愛の父と姉を喪った原因となる者は、例え身内であったと
しても明確に『敵』なのだから。
「人の業と言うモノは深く、時に醜いモノですね……勿論、人の大多数は清らかなモノなのですが、極一部にはこう言う醜い存在が居るのですね――叔父様がそうで
あったように。」
「だからこそ、そう言ったモノは一掃する。
全ての種が何の偏見もなく平等で平和に暮らせる世界に、そう言った存在は邪魔でしかないからな。」
「そうですね。」
若干過激な思想であるかも知れないが、全ての種が争わずに平和に暮らせる世界を実現する為には、先ずは偏見をなくす事が第一であり、偏見を持つ者を排除する
のが一番の近道なのである――偏見と言うモノは、一番の障害となるモノだからな。
まぁ、何れにしても期せずして、なのはが復讐すべき相手が誰なのかと言うのが分かったのは悪くなかっただろう――『復讐すべき真の相手は誰なのか?』って事が
分かれば、余計な血を流さずに済むのだから。
だが、其れとは別に、セスによって居場所が割れたら恭也は覚悟すべきだろう……最強にして最恐の妹が、トンデモナイ戦力を引き連れてやって来る訳なのだから。
なのは自身初となる断罪を行う時は、着実に進んでいる様だった……
To Be Continued 
補足説明
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