KOFチーム戦の三回戦第二試合の第二リングの第二ラウンドに現れたのはSSSチームの矢吹真吾と、ロレントチームの草薙京……第二リングの第二ラウンドは、非公式ながら『草薙の師弟対決』となっていた。
元々真吾は一昨年の武術大会で京が優勝したのを見て、京に憧れて半ば押し掛け弟子となり、京も最初は面白半分で技を教えていたのだが、その中で真吾の秘めた才能に気付き、何時しか実戦形式のスパーリングで技を教えると言うスタイルに変え、本気で真吾を鍛えるようになってた――だからこそ、今回のKOFではチームを組まずに、『自分でチームを組むか、個人戦にエントリーしてベスト8まで勝ち残れ』と言う、少しばかり厳しめの課題を課したのだが、真吾はその課題を見事にクリアしてきたのだ。


「草薙の師弟対決か……此の試合、百戦錬磨の武の達人であるお前はどう見る覇王?」

「そうだな……先ず単純な実力で言えば草薙京の方が圧倒的に上だと思うが、此れまでの試合を見た限りでは矢吹真吾には土壇場での『一発』があるから、一概に何方が勝つとは言えないな。」

「弟子が師匠を超えるのか、それとも師匠が弟子に力の差を見せつけるのか、此れは注目の一戦ですね……!」

「確かに、この一戦は三回戦最大のカードかも知れません。」


貴賓席では王達による予想が行われていたのだが、クラウスの予想は可成り的を射ているだろう――地力では京に劣る真吾だが、一瞬の爆発力だけならば京を凌駕する者があるので、その爆発力を発揮出来るか否かが勝負を分けるのは間違いないと言えるのだ。

そして、その注目のリングでは……


「此の試合に俺の全力を注ぎます!行きますよ、草薙さん!!」

「来い真吾!お前の修業の成果、俺に見せてみな!」


最強の師弟対決が幕を揚げていた!
先ずは互いに荒咬みを繰り出し、其れが互角にかち合ってスパークした後に小規模爆発が起こり、其の爆風に僅かに圧されながらも、京はローリングソバットを、真吾は中段回し蹴りを繰り出し、互いの足が交錯する。


「炎こそないが、技も大分サマになってるじゃねぇか?尤も、そう来なくちゃ面白くねぇけどよ!」

「くっ……マダマダ!今の俺はこんなモンじゃありませんよ!」


此処は京が押し勝った形となったが、真吾も押し切られながらも直ぐに体勢を立て直し、互いに構えた状態で向き合う形に……京の方に幾らかの余裕が見られるのは師匠であるが故だろうが。
そんな状態の中で真吾は一つ深呼吸すると、一足飛びで京との間合いを詰めるのだった。











黒き星と白き翼 Chapter58
『師弟対決とKOFの準決勝である!!』










仕切り直しから先に仕掛けた真吾は果敢に攻めて行くが、京は其の攻撃全てを余裕で躱して行く……真吾に技を教えたのは京なので、攻撃の太刀筋など全て把握しているのだろう。ガードもせずに躱し続けると言うのは其れ位の事が出来ていなければ到底不可能な芸当なのだから。


「何で、如何して全部躱せるんですか草薙さん!」

「そりゃ、お前に技教えたの俺だからなぁ?お前の使って来る技は全部知ってるんだぜ?……つっても、攻撃の鋭さとスピードは大会前とは比べ物にならないレベルになってるけどな。」

「だったらこれは如何ですか!」


此処で真吾は肩口から当たるようにジャンピングショルダータックルを繰り出すと、空中で身体を捻って踵を落とす。
ジャンピングショルダータックルは躱した京だが、空中からの踵落としは躱し切れずにガードする事に……真吾の攻撃が初めて京にガードをさせたのだ。


「今のは、鉈車か?コイツはまだ教えてなかった筈だが……」

「はい!お父さんに教わりました!!」

「親父が……成程な。」


真吾が使ったのは草薙流の『百拾式・鉈車』と言う技で、京はまだ教えていなかったのだが、同チームとなった柴舟が真吾に教えていたらしい……となると、真吾は他にも京からまだ教えて貰っていない技を柴舟から習った可能性があると考えるべきだろう。
加えて真吾は、本来ならば炎が必須となる技も、炎が無いなりに独自のアレンジをして使えるようにしてしまうと言う中々に凄い才能が有るので、それらを総合して考えると京も余裕とは行かなくなってくるだろう。


「なら、今度はこっちの番だ!」


鉈車をガードした京は、真吾が着地すると足元を八拾八式で狩って態勢を崩すと七拾五式・改で蹴り上げ、追撃としてR.E.D.KicKを叩き込んで真吾をリングに叩き付ける……が、真吾も負けじと琴月で突撃して肘部分をガードさせると其処から強引に肘をカチ上げてガードを抉じ開け、左右の肘打ちからジャンピングアッパーに繋げるオリジナル技『真吾謹製俺式・錵研ぎ』を喰らわせ、更に鬼焼きで追撃する。


「如何ですか草薙さん、俺のオリジナルの錵研ぎは!」

「中々悪くないが、どうせやるなら左右の肘はきっちりと相手の顎を打つようにしろ。そうすりゃもっと技としての完成度も高くなるし、頑丈な相手にも効くようになる。」

「押忍!でもマダマダぁ!真吾キーーーーック!!」

「それは流石に喰らわねぇよ……おぉりゃあ!!」


続いて放たれた弧を描くような軌道の飛び蹴り『真吾キック』は鬼焼きで迎撃してから奈落落として強制ダウンさせ、其処に追撃の砌穿!双方LPは減っているが、真吾には炎による『火傷』のダメージエミュレートが入る分だけ不利と言えるだろう。
尤も真吾は、不用意な発言をしては、その度に京に燃やされているので燃やされ慣れてはいるのだが、其れは其れ、此れは此れと言う事だろう。

ダウン復帰した真吾に対し、京は右ストレートを繰り出したが、真吾はその右ストレートを肘で打ち下ろすように捌くと、間髪入れずに横蹴りのカウンターをブチかます!


「名前募集中ーーー!!」

「くぅ……今のは良い一撃だったが……んだよ、名前募集中って?」

「肘で相手の攻撃を強引に打ち下ろした所にカウンターで横蹴り入れたら結構良い技になるんじゃないかって思って、其処までは考えたんすけど技名が中々思い付かなくて……お父さんにも相談したんすけど、ピンと来るモノが出て来なかったんすよ!」

「親父じゃ期待出来ねぇだろうな……ならよ、月の肘って書いて『月肘(げっちゅう)』ってのは如何だ?お前のオリジナルだとしてもなんか草薙流っぽいだろ?」

「いいっすねぇ?草薙流じゃないから『俺式・月肘』っすね!」


そして期せずしてその技の名前が決まったところで再び近距離での攻防が開始されるが、真吾の攻撃は再び京に入らなくなって来た――と言うのも京の動きが先程までとは明らかに違うのだ。
それは京が真吾を一人の格闘家として認めた証でもある――先程までは師匠として対応していたが、此処からは師匠も弟子もない一人の格闘家として真吾と戦うと決めたのである。
同時に其れは、真吾が初めて『本気を出した草薙京』と戦う事でもあり、京の本気を見た真吾は今までスパーリングでドレだけ手加減されていたのかを知る事になっただけでなく、京が自分に対して本気を出してくれた事を嬉しく思っていた。


「ボディがお留守だぜ!……もうお休みかい?」

「ま、マダマダぁ!!ギュイィィィィィィィィィィィン!!!」


荒咬み→九傷→七瀬の連続技を喰らった真吾はLPを大きく減らしてレッドゾーンに突入するが、その目の闘気はマダマダ衰えず、此処で一気に気を高めて行く……ギリギリの土壇場でドデカイ一発を放つ心算なのだろう。


「真吾謹製・俺壱百八拾弐式!!コイツで、決まりだぁぁ!!」

「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」


真吾が繰り出したのは京の百八拾弐式のフィニッシュ部分を独立させた超大振りのフック、『真吾謹製・俺百八拾弐式』であり、それに対して京は草薙流の奥義である大蛇薙の大盤振る舞いだ。
真吾の予想以上の成長に最大の敬意を払ったと言う事なのだろう――二つの技は完全にぶつかり合い、京の炎が真吾を燃やし、真吾の拳が京に突き刺さる。
暫し、互いに技を放った状態となっていたが……


「ハハ、ヤッパリ勝てなかったっすね……」


崩れ落ちたのは真吾の方だった。
大蛇薙を喰らいながらも拳を叩き込みはしたが、大蛇薙を真面に喰らった事でLPがゼロになってしまったのだ。


「そう簡単に負けてやれるかよ……だが、俺に本気を出させたんだ、お前は充分に強くなったぜ真吾……特に最後の一発、俺に完璧に入れやがったな?
 ったく、大会が終わった後の修業は此れまでよりも厳しく行くぜ?……来年の大会は、俺の方からお前とチームを組みたいと思うレベルになって見せろよ、真吾?」

「あはは……頑張ります。」


ダウンした真吾に肩を貸して立ち上がらせると、京は真吾の右腕を高らかに突き上げさせる……それは勝者が敗者の健闘を称える『敗者のウィナーポーズ』だ。京にとって真吾はそれをするに値する相手になったのだ。
そして、観客席からは真吾の健闘を称える割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こっていた。――いや、観客席だけでなく、貴賓席で観戦していたなのは、クローゼ、クラウス、アインハルトも立ち上がって拍手を送っていた。真吾は京だけでなく、グランアリーナに集まった者達にも其の実力を認めさせたのだ。


「草薙さん……絶対に優勝して下さい……八神さんにも、負けないで下さいね?」

「当たり前だ、誰にモノ言ってんだお前?」


京に対して『優勝して下さい』と言うのは、つまり柴舟にも勝ってくれと言う事であり、其れは自分達のチームに勝てと言う事なのだが、真吾にとって京は最強の存在であって欲しいのでこう言ってしまったのは致し方あるまい――憧れの存在が何時までも最強であって欲しいと願うのは、憧れが側の願いなのだから。

真吾はふらつきながらも自分の足でリングの外に出て、SSSチームは大将である柴舟が登場だ。


「思い上がるなよ京?」

「……行くぜ。」

「無視かーー!!」


威厳タップリに決めようとした柴舟をガン無視して京は臨戦態勢に……この親父、完全に息子に舐められているようだ。
まぁ、京が喧嘩をしたら『喧嘩したと言う事実』だけで理由も聞かずに鉄拳制裁をかましてくれた親父を京が尊敬するはずもなく、十五歳の時に柴舟をぶっ倒した事で京は完全に柴舟を越えてしまったのだからこれも致し方あるまい――加えて京は柴舟が会得していない草薙球の究極奥義である『無式』を会得しているのだから尚更だろう。


「舐めるでないわ、このヒヨッコが!!」

「そのヒヨッコに目下三十連敗中の親父はヒヨッコ以下のハナクソだな。」


試合開始と同時に神繋りを放って来た柴舟に対してカウンターの百八拾弐式をブチかまして大きくLPを減らすと、ロープに飛ばされて跳ね返って来た所をフロントネックに取り、其のままブレーンバスターの要領で持ち上げると両足首をロックして全身をホールドする。
それは、個人戦でレーシャが見せた『キン肉バスター』の体制だ。


「キン肉バスターか……だが、この技の弱点は既に知れている――ワシに其れが通じると思うのか京?」

「只のキン肉バスターじゃ通じないだろうが、何か忘れてねぇか親父?
 KOFのチーム戦では、『試合の権利が残ってるチームメンバーの援護攻撃』と、『試合の権利が残ってるチームメンバーとの合体攻撃』はルール上、一試合に付き三回まで認められてるんだぜ?――つまり、このキン肉バスターにはアインスのサポートが入るって事だ!行くぜぇ!!」


柴舟をキン肉バスターの体制に取った京は其のままハイジャンプし、其れと同時にリング外で待機していたアインスもジャンプすると、柴舟の両大腿部を膝で極めてホールドし、更に両腕をチキンウィングに極めて柴舟の一切の行動を封じる。
キン肉バスターは首のフックが甘く、両腕の自由が利く事で返し技が多いのだが、こうなってしまえば話は別だ――両腕はチキンウィングに極められている事で使う事が出来ず、首のフックもアインスの重量が加わった事でバッチリと極まって抜け出す事は出来なくなっているのである。


「此れが俺とアインスの合体技!」

「キン肉バスターと、難易度Aのサブミッションである『OLAP』の融合技!」

「「一撃必殺NIKU→LAP!!」」

「げぽらぁ!?」


その究極レベルの合体技を喰らった柴舟には、此の一撃で『頸椎損傷』、『両肩骨折』、『両股関節脱臼』、『脊髄損傷』、『両膝骨折』のダメージエミュレートが発生して一発KO!!ロレント最強カップルである京とアインスの合体技はハンパない威力だった様だ。


「アンタじゃ燃えねぇな。」

「未だ、物足りないのだがな……」


ダブルの勝利ポーズも鮮やかに、ロレントチームが準決勝の最後のイスを獲得し、準決勝の組み合わせは――


・準決勝第一試合:リベールギャルズvsカルバートファイターズ
・第二試合:八神チームvsロレントチーム



と、この様になった。
そして、準決勝の前に休憩時間が設けられたのだが、その休憩時間の間にフィールドではコーナーポストとロープの撤去作業が行われ、チーム戦の為に設置されたリングが解体されていた。
準決勝と決勝戦ではリングが無くなった状態で行われ、リングアウト無しの試合となり、道連れリングアウトのドローは狙う事が出来なくなった、時間切れの判定以外ではドローにはなり得ない可成り厳しいモノとなったのである。


その準決勝の第一試合はリベールギャルズvsカルバートファイターズ。
リベールギャルズの先鋒はグリフィン、カルバートチームの先鋒は此れまでとは異なりジンではなくケンだった――が、ケンが先鋒として登場したのは、ケン自身に焦りがあったからだ。
『カルバートの格闘王』の名はケンにとって誇れるモノだったが、今回のKOFでは一回戦は出番なし、二回戦と三回戦はダブルリングアウトとカルバートファイターズのメンバーの中では唯一白星がなく、カルバートの格闘王の面目は丸潰れの状態だった――特にライバルであり親友でもあるリュウが新たなライバルを此の大会で見い出しているから余計だろう。
ガチガチのルールに縛られた試合に慣れ過ぎたと言うのは格闘家としては言い訳にもならない……略何でもありに近いKOFで、ルールがキッチリ定められた試合の感覚が抜け切っていなかったのは、己がドレだけ格闘家としてぬるま湯に浸かっていたのかを実感するには充分過ぎた。
『せめて決勝戦までに昔の勘を取り戻したい』と考え、ケンは『確実に戦う事が出来る』先鋒を選んだと言う訳だ。


「かかって来な!」

「それじゃ、始めよっか!」


ケンは手招きした後にサムズダウンし、グリフィンは羽織っていたシャツを破り捨て、空手道着のズボンに黒いタンクトップと言う出で立ちになり、第一ラウンド開始。
先ずは互いに波動拳を放ったのだが、グリフィンの放った波動拳の方が気弾が大きく、ケンの波動拳を呑み込んで飛んで行き、ケンは竜巻旋風脚を繰り出して波動拳を避けながらグリフィンに攻撃する。
それに対しグリフィンも竜巻旋風脚を放ったのだが、通常の竜巻旋風脚が蹴り足を出して『トの字』の状態で回転しながら攻撃するのに対し、グリフィンは独自のアレンジを加えて右の飛び足刀蹴り→空中左後回し蹴り→空中踵落としの連続技に変化させていた。
ケンの竜巻旋風脚も密着状態では膝蹴りを入れるアレンジが加えられているのだが、基本の形は守られている……とは言っても技の完成度は何方も高いので此処は互角の勝負となり互いに着地――した所でケンはグリフィンを首相撲に取り、連続で膝蹴りを喰らわせた後に蹴り飛ばした。
此れまでの試合では見せなかった荒々しい攻め……『何でもあり』のKOFの戦い方をして来たのである。


「ふぅん、お兄さんこんなラフ攻撃も出来るんだ?何て言うかもっとこう、綺麗に纏まった格闘家だと思ってたからちょっと意外。」

「如何にも俺はルールに縛られた試合に慣れ過ぎてたってのを此の大会に参加して実感したぜ……せめて決勝戦までに修業してた頃の勘を取り戻さないとだ――結婚して父親になって、格闘家としてはスッカリ腑抜けちまったみたいだからな。」

「そっか……でも、今のお兄さんじゃ私には勝てないと思うよ?……十年前のハーメルの地獄を生き抜いて、鬼に育てられた私にはね。」


次の瞬間、グリフィンの闘気が一気に膨れ上がった。
一夏とは違い、殺意の波動は宿していないが、其れでも鬼の子供達は全員が『鬼の闘気』を其の身に宿しているのだ……それを解放したグリフィンの周囲にはバチバチと稲妻が走っている。


「お兄さんは弱くない、寧ろ強いと思うけど、それはあくまでも『格闘技』に於いて……『格闘』其の物になった場合は、お兄さんは技が綺麗過ぎて勝負にならないよ!」

「技に頼らず格闘其の物をやれってか……師匠が『ワシは教えん、見たけりゃ見てろ』って言ったのは、手取り足取り教えられた技じゃ本当の格闘じゃ役に立たないからだったからか!」


其処からはグリフィンが猛ラッシュでケンを攻め立てる展開となった――ケンもカルバートの格闘王の意地でクリーンヒットこそ許さないが、ガードの上からガリガリと削られ、LPも一ポイント単位で削られて行く。
此のままでは押し切られると思ったケンはグリフィンの攻撃をガードすると同時に昇龍拳を放って強引にグリフィンの攻めを中断させ仕切り直しを図る……その昇竜拳は確かにグリフィンを捉えたが、グリフィンは昇竜拳を喰らいながらもケンを強引にサブミッションに取り、其のままナパームストレッチでフィールドに叩き付け、追撃のフラッシュエルボーを喰らわせる。
だが、ケンも負けじとエルボーを落として来た腕を取ると、腕拉ぎ十字固めに極める……完璧に極まった腕拉ぎ十字固めを外すのは難しく、更にグリフィンの右腕に『靱帯損傷』のダメージエミュレートが発生する……折る心算で極めたからこそのダメージエミュレートだろう。ケンは、ルール無用の試合に、対応して来ていた。


「ぐぬぬ……だけど、ふぬおぉぉぉぉぉ!!」

「んな、嘘だろおい!?」


だが、グリフィンは強引に状態を起こすと、腕を極めているケンごと持ち上げる形で立ち上がり、其処からケンを己の膝に腕ごと叩き落して腕拉ぎ十字固めを解除し、同時に横蹴りを放って吹き飛ばすと、此処で待機していた刀奈がリングインし、合体技の『ダブル真空波動拳』を放ってケンのLPを削り切って、先ずは先勝。
ケンは此の大会初めてのKO負けだったが、其れでも此の試合で大分勘を取り戻す事が出来たのは間違いないので、カルバートファイターズが決勝戦に進んだ際には『カルバートの格闘王』の真の実力を見せてくれる事だろう。

続く第二ラウンドはカルバートファイターズはジンが登場したが、グリフィンは右腕の靱帯損傷のダメージエミュレートを理由に棄権し、リベールギャルズはヴィシュヌが登場と相成った。
パワーとタフネスではジンの方が上だが、打撃の種類とスピードに関してはヴィシュヌの方が上なので、総じて戦えば五分となる試合だが、第二ラウンドは正に互角の戦いとなり、互いに決定打を欠いて削り合いの展開となった末にフルタイム戦ってのドローと言う結果に……互いに合体技を使わなかったのは使ってる余裕がない戦いだった事の現れだろう。
そして試合は大将戦の刀奈vsリュウに。


「一夏が勝てなかった相手に勝てって、ちょ~っと無理ゲーなんだけど、でも全力は出させて貰うわよ?」

「あぁ、見せてくれ君の強さを!」



――推奨BGM『StreetFighterⅡ リュウステージ』



試合開始と同時に、刀奈は水の波動で自身の分身を二体作り出し、二体の分身は刀奈本体の動きを僅かに遅れてトレースする仕様となっているので、凄まじい波状攻撃がリュウに襲い掛かったのだが、リュウは其れ等を全て的確に捌き、更にカウンターで上段足刀蹴りを繰り出して刀奈の本体にダメージを与える。
だが、刀奈も負けじと吹き飛ばされながらも分身二体をリュウに密着させると其のまま爆発させる……至近距離での水蒸気爆発ともなれば、其れだけで一撃KOだろうが、リュウは瞬間的に闘気を身に纏う事で爆発の衝撃を相殺しノーダメージだった。


「今のはイケると思ったんだけど、ダメだったかぁ……」

「ふ、掛かって来い!」


正攻法では勝ち目がないと判断した刀奈は、トコトン搦め手を使って攻めるも、リュウは其れを悉く打ち破り、挙げ句の果てには強烈な気をもってして相手の動きを封じる刀奈の最大の切り札である『沈む床』さえも闘気を爆発させて吹き飛ばして見せたのだ……永遠の挑戦者恐るべしだ。


「あらあら、此れじゃあクリアパッションやミストルティンの槍も通じそうにないわね……なら、此れは如何かしら?」


此処で刀奈は波動拳の構えを取る――無論それは只の波動拳ではなく、己の気を最大まで高めて放つ必殺の一撃の波動拳だ。


「受けて立とう!オォォォォォォ……!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


互いに極限まで気を高め、刀奈の周囲には高められた水の気によって凍り付いた大気が雪となって現れ、リュウの周囲には高められた気によって帯電した大気が火花放電を行っている……そして!


「氷龍……波動拳!!」

「真空……波動拳!!」


互いに必殺の波動拳を放ち、極大の気功波がぶつかり合い、激しくスパークする。
だが、それは徐々に刀奈が押され始め、其処で刀奈は限界まで気を解放して押し返そうとするが、リュウも更に気を解放した事で押し返す事は出来ず、押し合いの末に押し切られてしまい、LPがゼロになってKO負けだ……その際に、道着が壊れて上半身が下着姿になってしまったのは致し方あるまい。


「良い試合だったな。お互いに修業をしてまた戦おう。」

「貴方と戦うには、今の十倍の修業をしないとね。」


試合後、二回戦の一夏戦同様、リュウは刀奈の右腕を揚げてその健闘を称え、観客席からは大きな歓声と拍手が沸き上がる――決して意図した訳ではないのだが、それでも観客を沸かせてしまうリュウは、正に真の格闘家であるのかもしれない。
こうして、決勝戦の椅子の一つはカルバートファイターズが手にし、残る一つの椅子を掛けた第二試合は、八神チームvsロレントチームだ。


「エステル、アインス、気合の貯蔵は充分か?」

「充填率120%よ京!」

「炎殺黒龍波を放てるだけの力は回復した……抜かりはない。」

「それじゃあ、行くぜ!」



「京は俺が倒すが……其れ以外の奴等は貴様等が適当にやれ――だが、無様な敗北だけは許さんぞ?」

「うふふ……レンが無様に負けると思ってるの庵?二回戦の様な油断はもう二度としないわ……エステルと戦うのが楽しみだわ♪」

「貴様の事は心配してないが……俺が心配してるのは貴様だ馬鹿。喧嘩に夢中になって、その結果負けたなどと言う事にはなるなよ、脳筋馬鹿。」

「誰が馬鹿だこの赤毛野郎が!……テメェ、大会が終わったら取り敢えず殴らせろ!」

「だが、断る!」


八神チームは個性が強過ぎてチームワークは期待出来ないかも知れないが、個々の能力は滅茶苦茶高いのでチームワークは壊滅的でも戦えるだろう――ともあれ、エステルとレン、京と庵……複雑な因縁のある者達の直接対決となるKOF大注目の試合が、遂に始まるのだった。










 To Be Continued 







補足説明