KOF個人戦の決勝戦前、空の控室にはBLAZEのメンバーが終結していた。
「十歳の子供が相手ってなると、普通に考えりゃ空が勝つんだが、相手がレーシャちゃんだとそうは言いきれねぇんだよな……ロレントの大型ヴィジョンで観戦してるじっちゃんから、『不動レーシャと言う幼子の潜在能力は相当なモンじゃな』ってメッセージ入ってたからな。」
「でも空ちゃんなら勝てると思うわ。」
「ま、空なら大丈夫じゃない?どんな相手でも真っ直ぐにぶつかってく、ある意味での馬鹿正直さに僕は惹かれたんだからね……だから、頑張んなよ空。」
「おぉ、珍しく祐騎君がデレた!
まぁ、其れは兎も角全力でやっちゃえ空ちゃん!」
「ふふ、最高の試合を期待してますよ空ちゃん。」
仲間達が次々と激励して行くが……
「気合を入れろや郁島ぁぁ!!!」
「押忍!!」
BLAZEのリーダーである志緒の一喝が最も効果があったようだ――志緒の一喝は理論的根拠は一切ナッシングで、根性論上等なモノなのだが、其れでもその一喝には仲間を鼓舞する力があるのだから、BLAZEのリーダーと言うのは伊達ではないだろう。
そして、空は最高の状態で決勝戦に。
だが、其れは空だけではない。
「レーシャ、難しく考える事は無い。お前の全力を尽くして来い。全力を尽くした先にきっと新たな道が待っている筈だからな。」
「空ちゃんは確かに強いけど、レーシャもとっても強いって事、兄さんもアタシも知ってるから♪全力でぶつかれば、きっと最高の結果が待ってる筈よ!」
「空君は『鬼』に認められた逸材だが、君もまた『魔王』たる私が認めた逸材……そして君の才能を持ってすれば、この大会で戦った相手の技も案外使えるようになっている可能性は充分に有り得る事だ。
だとすれば技の引き出しは君の方が多いと言えるだろう……そのアドバンテージを活かして存分に戦って来るが良い!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ルガールさん……ウッス!全力でやってきます!!」
レーシャもまた兄である遊星、姉である遊里、そしてルガールから激励を受け最高の精神状態で決勝戦に臨む事が出来ているようだ――特にルガールが言った事はレーシャ自身も気付いていなかった事であり、其れに気付かされた事は大きな自信となっただろう。
レーシャと空、KOF個人戦の決勝戦のフィールドに、才能溢れる二人の少女が現れたのだった。
黒き星と白き翼 Chapter52
『KOF個人戦決勝戦!手加減は不要だ!』
レーシャと空がフィールドに現れるとアリーナは大歓声に包まれた。
魔王が認めたレーシャと、鬼が認めた空の試合は其れだけ期待出来ると言う事でもあり、そして其れが決勝戦であると言う事も大きい――己の信念を貫く形で棄権した志緒だが、その決断は結果として大会をより盛り上げる事に繋がったみたいである。
「ベルカの王が乱入すると拙いから、こうして覆面をして乱入すれば……」
「ダメですよ兄さん。大人しく観戦していて下さい。」
「だ~いぶ戦闘狂の血が騒いでいるな覇王は……後で稼津斗と戦わせてやった方が良いかも知れん。」
「『鬼』と戦えば、少しは満足出来るかも知れませんね……」
貴賓席ではクラウスが凄い試合を連続で見て来た事で武闘家としての血が騒ぎまくって妹のアインハルトに抑え込まれていたが、ベルカの覇王の血を騒がせるだけの試合が行われていたKOFは可成りレベルの高い大会であったと言えるだろう。
『Ladies&Gentleman!KOF個人戦もいよいよ決勝戦だ~~~!
決勝戦を戦うのは、大会参加者最年少ながら魔王に其の力を認められた不動レーシャと、これまた大会参加者で二番目に若いながらも鬼に其の力を認められた郁島空ーーー!
何方も小柄ながら、しかしスピードはハンパない!超高速のバトルが展開されるのを俺は期待してやまないぞ~~!!
何方が勝ってもオカシクないこの試合!優勝の栄冠を手にするのは何方なのか!!KOF個人戦ファイナルバトル!デュエル、スタァァァトォォォォォ!!』
「行くよ、空さん!」
「全力でやろうか、レーシャちゃん!」
MCの試合開始の合図と共にレーシャと空は地面を蹴って間合いを詰め、レーシャの肘と空の拳がぶつかる。
拳では打ち負けると判断したレーシャは、人体で最も固くて鋭い肘を繰り出したのだが、其れは空の拳と互角であり互いに押し切る事は出来なかった――が、押し切れないと判断したレーシャは肘を引くと逆の手で掌底を繰り出し、その掌底は肘を引かれた事でバランスを崩した空の左肩に突き刺さる。
先手はレーシャが取る形となったが、空も負けてはおらず、掌底は喰らいながらも即座に身体を反転させると、掌底を繰り出したレーシャの腕を取って一本背負いで投げ飛ばす!
郁島流空手の正統後継者である空だが、空手だけではなく柔術も修めているので投げ技や極め技に関しても一流の技を持っているのだ。
「見事なカウンターだったけど、此れは如何?」
投げ飛ばされたレーシャは空中で態勢を立て直すと、自身の周囲にバリアを展開する。
此れはルガールが使った『グラビティスマッシュ』であり、ルガールは展開したバリアを飛び道具として放つのだが、レーシャはバリアを飛び道具としては使わず、バリアを展開したまま空に突撃した。
「其れなら……!」
それに対し、空は拳に気を集中させるとジャンピングアッパーでレーシャの突撃を迎え撃ち、全身にバリアを纏ったレーシャと気を纏った空の拳がかち合って激しくスパークし、飽和状態になったエネルギーが臨界点を越えて爆発を起こし夫々をアリーナのフェンスまで吹き飛ばす!
これによりレーシャも空もライフを減らす事になったが、二人ともそんな事は関係ないと言うかの如く一足飛びで距離を縮めると、目にも止まらぬ超高速のインファイトを展開して攻防一体の凄まじい打ち合いを行う。
その打ち合いの中で、レーシャはルガールやエレナの技も使っていたので、ルガールが言っていた事は間違いではなかったようだ――戦った相手の技も自分のモノとして使う事が出来ると言うのはトンデモナイ反則技とも言えるが、其れもまたレーシャの才能と言う事なのだろう。
互いに一歩も退かないその攻防は、ライフの削り合いとなり、少しずつだが確実に両者のライフは減って行った。
「はぁ!!」
「せいや!!」
もう何度目とも分からない攻防で拳がかち合って、その衝撃で強制的に間合いが離されると、レーシャも空も気を高めて行く。
「全力全開……か~め~は~め~……波ぁ!!」
「風塵虎吼掌!!」
放たれた気功波は互いに譲らず完全な押し合いとなるが、この気功波の押し合いに関してはレーシャの方に分がると言える――今はまだ通常のかめはめ波を放っている状態であるが、レーシャは此処から更に最大二百倍の鬼強化が出来るからだ。
「互角……だったら、10倍だぁ!!」
此処でレーシャが10倍かめはめ波に強化し、空の風塵虎吼掌を押し返して行く……が、押し返され始めた瞬間に空は気功波を放つのを止めるとハイジャンプで風塵虎吼掌を押し返して来た10倍かめはめ波を躱すと、其のままレーシャ目掛けて鋭い蹴りで急降下!
気功波の押し合いになったらレーシャは必ず10倍かめはめ波を使って来ると予想した上でのカウンターとなる攻撃であり、極大の気功波だけに撃つのを止めてもレーシャは直ぐには動く事が出来ないので避ける事は略不可能と言えるだろう。
「そう来たか……だったらこれで如何だぁ!!」
「えぇ!?」
「オイオイオイ、そんなのありかよ?遊星と遊里も『無理を通せば道理が引っ込む』ような事をやってのけるが、末っ子は『無理を通して道理を蹴っ飛ばす』ってか?」
「子供故の柔軟な発想、と言う奴なのだろうな。」
「てか、フィールドと客席を隔てるシールドがなかったら大惨事になってるんじゃないの此れ?」
「決勝戦前のインターバルでシールドの強化を行った不動兄妹には感謝しないとだね。」
だが、此処でレーシャはなんと強引に10倍かめはめ波を放つ腕を持ち上げて蹴りを放って来た空を下から薙ぎ払う形で迎撃して見せたのだ。
気功波と言うのは強力であればあるほど地上で放った場合は足の踏ん張りが必要になり、気功波の威力に自身が吹き飛ばされないように前傾姿勢になる事が多く、それ故に放っている最中に姿勢を変えると言うのは可成り難しいのだが、レーシャは10倍かめはめ波を上方向に向ける事で逆に自身を地面に押し付けて姿勢を安定させると言う可成り強引な方法で気功波の軌道を変えて見せたのだ。
そしてこのカウンターのカウンターは見事空に決まり、これにより空のライフは一気にオレンジゾーンに突入し、後一発喰らったらレッドゾーンと言う所まで来ていた。
「オレンジで止まっちゃったか……此れは逆に拙いかな?」
ライフでは大幅に有利になったレーシャだが、実のところ今の一撃で空を倒せなかったと言うのは可成り拙い状況であると言えるのだ――何故ならば、追い込まれたこの状況は空の奥義発動の条件が整ったともいえる状況だからだ。
「……覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
10倍かめはめ波を真面に喰らってしまった空は所々服が消し飛び、裂傷や打撲、出血のダメージエミュレートが発生しているが、裂帛の気合と同時に闘気を爆発させてレーシャとの間合いを一気に詰め、稼津斗戦で開眼し、ノーヴェ戦で仮完成に至った郁島流奥義『天翔龍舞』をレーシャに叩き込んで行く。
自我を保ちながら、しかし無意識の闘争本能から繰り出された連続攻撃はノーヴェに放ったモノよりも洗練され、そして其の動きには一切に無駄が無くなっていた。僅か三試合で空は奥義の完全完成に漕ぎ付けたのだ。
「トドメです!」
計十発の拳と蹴りを叩き込むと、ノーヴェの時とは違いアッパー掌底ではなくジャンピングアッパーカットを叩き込んだ後に錐揉み回転するジャンピングアッパーを繰り出して締めに空中で轟雷撃をブチかましてレーシャをフィールドに叩き落として大ダメージを与え、レーシャのライフをレッドゾーンに追い込む。
「ところがギッチョン、まだ行ける!!」
フィールドに叩き付けられたレーシャには、これまた打撲に裂傷、出血のダメージエミュレートが発生し、ご丁寧に頭から血が噴き出すエミュレートまで発生しているのだがレーシャはまだまだ元気で試合は続行と言ったところだ。
とは言え、レーシャも空もライフは互いにギリギリであり、ダメージエミュレートの事を考えれば長く戦う事が出来ないのも事実である――となれば、次が最後の攻防となるだろう。
「空さんの奥義、堪能させて貰ったよ……だったら、今度は私の奥義を空さんに味わって貰わないとだよね?」
「レーシャちゃん……そうですね。その拳、受けさせて貰います。」
此の土壇場でレーシャは先のエレナ戦で開眼した『風の拳』の構えを取ると、空も轟雷撃の構えを取って互いに闘気を高めて行く。
そして……
「覇ぁぁぁぁぁぁ!!」
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
空が間合いを一気に詰め、渾身の轟雷撃を放ったが、其れはレーシャの間合いの外から放ったモノではなくレーシャの間合いの中まで踏み込んではなった一撃であった。
リーチは空の方が長いのでレーシャの間合いの外から放つ事も可能だった筈だが空は敢えてレーシャの間合いに踏み込んで放ったのだ――其れは、レーシャの拳を己の身で感じたいと思ったからだろう。
その結果、空の拳はレーシャの顔面を捉え、レーシャの拳はアッパー気味に空の胸を一閃する。
一瞬の攻防だが、吹き飛ばされたのはレーシャだった……アリーナのフェンスまで吹き飛ばされたレーシャのライフはゼロとなり、試合終了だ。
「同じだな、俺が風の拳に開眼した後でサガットと戦った時と……レーシャは空に、己の拳を刻み込んだ……ケン、ジン、世界は広いな。まだ見ぬ未完の大器が此れだけ居るんだからな。
此れだから格闘は止められない……そして格闘は恐ろしいが、同時に面白い。」
「格闘にゴールはない。強くなろうと言う思いを持ち続ける限り何処までも強くなれるのかもしれんな。」
「たっく、相変わらずクサいセリフだねぇ?だけどお前等の言う事は格闘の真実なのかも知れないな。」
観客席ではカルバートチームのリュウとジンとケンがこんな会話をしていたが、勝負が決したフィールドでは空がトンデモナイ事になっていた。
ライフはギリギリ残った空だったが、レーシャの風の拳で一閃された胸は大きく裂けて出血している――更にこの傷はダメージエミュレートを貫通して発生したガチのモノであったりするのだ。詰まるところ、空の身体にはガチで消えない傷痕が刻まれた訳だが……
「まだ未熟で、とても乱暴な一撃ですが、其れでも貴女の拳はこの身に刻まれました……この傷は、私にとっての勲章です。」
「空さん……此れが今の私の精一杯だったよ。」
空はレーシャに近付くと其の身を抱擁しレーシャの健闘を称え、レーシャもまたその抱擁に応えて空の背に手を回す。
全力を出し合った美少女が互いの健闘を称えて抱擁し合う様は実に絵になるモノであり、リベール通信の花形カメラマンであるドロシーがシャッターを切りまくり、これまた花形記者であるナイアルが空とレーシャへの決勝戦後の突撃インタビューを行う事を決めたのも至極当然の事だったと言えるだろう。
「全力全壊、実に見事な、決勝戦に相応しい試合だったな。因みに全力全開ではなく、全力全壊だ。『開』ではなく『壊』だ。」
「全力で全てを壊す……何とも恐ろしいですね。」
「よ~し、やっぱりちょっと乱入して来る!此れだけの試合を見せられて黙っていられるか!否、黙っている事は出来ないに決まっているだろう!」
「だからダメですよ兄さん。」
決勝戦に相応しい試合を見せてくれたレーシャと空になのはは素直に賞賛の言葉を送っていたが、クラウスは戦闘狂の血がバーニングソウルして乱入しようとして居たが、其れは妹のアインハルトが見事な卍固めを極めて阻止していた。
ともあれKOFの個人戦は空が優勝、レーシャが準優勝と言う形で幕を閉じた。
そしてその夜は、KOF個人戦の終了と大会優勝者を称える晩餐会がグランセル城の空中庭園と城前広場で開催され、城の関係者とKOF参加者だけでなく一般市民も参加出来るオープンな晩餐会は大いに盛り上がっていた。
グランセル城のシェフが腕を振るった宮廷料理は元より、料理の腕に自信がある志緒と一夏が振る舞った料理も大好評であった。
「「かんぱーい!!」」
そんな中でエステルとグリフィンは骨付き豚もも肉のローストを右手に持って、左手にはジンジャーエールの入ったグラスを持って盛大に乾杯すると豪快に巨大な骨付きに齧り付いていた。
「ヨシュアさん、アレ如何思います?」
「アレも彼女達の魅力、そう思わない一夏?」
「ま、そうっすよね。」
夫々の恋人であるヨシュアと一夏は何かを悟っている様だった。
この晩餐会は夜遅くまで続き、終了が宣言されたのは日付が変わった頃で晩餐会の参加者はグランセル城の客人室かグランセルホテルに泊まる事になったのだったが、此れもまたある意味では貴重な体験と言えるだろう。
そして、その翌日――
『Ladies&Gentleman!
昨日のKOF個人戦は見応えあるバトルが展開されたが、KOFはマダマダ終わりじゃないぞ~~~!
今日からはKOFのチーム戦の開幕だ~~!何れ劣らぬ実力者達で構成されたチーム戦は、個人戦以上に熱く激しい試合が展開されるのかも知れないぞ~~!?
そして大注目は、草薙京がデュナン前王の時代からの武術大会からの通算での三連覇を成し遂げられるかどうかだ~~!
KOFチーム戦、此処に開幕だ~~~!!』
グランアリーナではMCがKOFのチーム戦の開幕を盛大に宣言し、KOFのチーム戦が開幕したのだった。
「ふむ……二回戦で彼等は草薙京のチームと当たるか……此れは、なんとも楽しみではないかなドクター?」
「あぁ、実に楽しみだよドクター……疑似的にオロチの力を得た彼等が、オロチを屠った草薙を相手に何処まで出来るのか、実に見物だよ。」
その裏に、途轍もない悪意を含んで……!
To Be Continued 
補足説明
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