KOF個人戦の準々決勝第二試合の志緒vsクリザリッドは志緒がクリザリッドを下して準決勝へと駒を進め、次は第三試合の空vsノーヴェだが、此の試合もまた中々に見どころのある試合であると言えるだろう。
郁島流の正統後継者である空と、武術大会二連覇の京から直々に格闘技を習っているノーヴェの試合は注目の的なのだ……ノーヴェは京から格闘技の基礎を習っているだけなのだが、京が使う草薙流の技を見て盗んでおり、其れを自己流にアレンジした『ノーヴェ式草薙流』を使っており、其れを此の大会でも使っている事で『若しかして草薙京の隠れ弟子か?』と注目されているのだ。
因みに京の押し掛け弟子である真吾とも何度かスパーリングを行っているのだが、現在の戦績は十四戦してノーヴェの十一勝三敗であり、ノーヴェの三敗は全てタイムオーバーの判定負けであり、その判定も京が負け続けてる真吾に少し甘めの判定を付けての結果なので、実質的には十四戦全勝と言えるのだ……尤も、この判定勝ちが真吾の自信にはなっているのでノーヴェも一応の納得はしているのだが。


「よう、空。出来れば決勝でやりたかったところだがまさか準々決勝でぶつかる事になるとはな?でもまぁ、やるからには互いに出し惜しみなしでだ。」

「当然です。私の持てる力の全てを出して貴女を倒します!」

「ハッ、上等!!」


フィールドに現れたノーヴェと空は短い言葉を交わすと、互いに右の拳を軽く合わせた後に間合いを開けて構える……実はこの二人、武闘家としてはライバルであり親友だったりするのだ。


『さぁ、盛り上がってるKOFの準々決勝も残すところあと二試合!第三試合は郁島空vsノーヴェ!
 郁島流正統後継者の郁島空に対し、ノーヴェも自己流にアレンジした草薙流と、足癖が悪いと言いたくなる多彩な蹴り技が光る強者だけに、此の試合は目が離せない!正に瞬き厳禁だ~~~!!
 先の炎の対決で物理的にホットになってる会場を、今度は美少女同士の戦いで更にホットにしてくれ~~!準々決勝Round3!空vsノーヴェ!Ready……GO!!』



「行きます!」

「おらぁ!!」


試合開始と同時に空は鋭い飛び蹴りの『天翔脚』を、ノーヴェは鋭い横蹴りの『百弐拾五式・七瀬』を繰り出し、蹴り足がぶつかって押し合いとなり、何方も押し切れずに互いに点をずらして間合いを取ると、着地と同時に空は一足飛びでノーヴェに接近して拳打を繰り出し、ノーヴェも九百拾式・鵺摘みで其れを弾く。
鵺摘み後のカウンター技の龍射りは空がスウェーバックで躱した事で互いにノーダメージ……ではなく、空もノーヴェもダメージエミュレートが発生して少しばかり頬が切れて血が出ている。
鵺摘みで捌かれたと思った空の拳と、スウェーバックで躱されたと思ったノーヴェの龍射りの肘は僅かに互いの頬を掠っていたようだ。
試合開始直後の此の激しい攻防に観客は盛り上がり、なのはとクラウス達も魅入っているのだが、そんな中で観客席の片隅では、スーツを着た紫色の髪と金色の目が特徴的な男性がタバコを吹かしながら試合を見つめていた……その隣に、ノーヴェと瓜二つの青髪の少女を連れて。











黒き星と白き翼 Chapter50
『ガンガン行くぜ!燃えろ、ガンガン行進曲!』










白熱する空とノーヴェの試合は互いに決定打を許さず、ライフの削り合いの様な試合になっていた――ライバルとして何度も戦っただけにお互いの手の内は知り尽くしているので一瞬の判断ミスが明暗を分ける事にもなるので、空もノーヴェも大技を出せない状況になっていたのだ。
大技は決まれば必殺だが、外したら逆に大きな隙を晒す事にもなるので先ずは大技を確実に決める状況に持って行く事が大事となってくるのである。……此の削り合いで互いにライフはイエローゾーンには突入しているのだが。

そんな中でノーヴェはバックステップで距離を取ると、右腕を振りかぶる。


「(あの構えは草薙流の百八式・闇払い……ならばこっちも!)」


その構えを見た空は、『闇払いが来る』と考えて、遠距離攻撃である隼風拳を放ったのだが……


「ソイツはフェイクだ!」

「!!」


ノーヴェは其れをジャンプで躱すと七百七式・独楽屠りを叩き込み、其処からローキック→裏拳→百壱拾五式・毒咬み→百壱拾四式・荒咬み→百弐拾八式・九傷→百弐拾五式・七瀬のコンボを喰らわせて空のライフを一気にレッドゾーンに追い込む。


「コイツで決まりだな!」


ノーヴェは既に高めた気を右手に集中させており、其れを放てば『模擬裏百八式・大蛇薙』が空を襲い、決まれば空のライフは尽きるだろう。
だが、其れが放たれるよりも早く起き上がった空は間合いを詰めてノーヴェに接近する……その踏み込みの鋭さは稼津斗戦で見せた意識が飛んで闘争本能のみで放った技と同じモノだが、今回は空の意識は飛んでおらず、意識を保ったままでその技を放ったのだ。
追い込まれた土壇場で、今度は己の意識がある状態で、しかし身体が自然に動いて放たれた其れは合計十発の拳と蹴りをノーヴェに叩き込み、アッパー掌底で顎を打ち抜い手から、トドメに轟雷撃をブチかましてノーヴェをフィールドのフェンスまでぶっ飛ばして大ダメージを与え、ライフ一気にゼロにしてしまった……空は稼津斗戦で開眼した奥義を、此の土壇場で己の意識がある状態で発動したのである。


「はぁ、はぁ……郁島流究極奥義、仮完成です……この技を、『天翔龍舞』と名付けましょう。」

「クソ……ったく、此の土壇場で奥義に至るとか反則だろ流石に?……だけど、その奥義誕生の相手がアタシだってのは悪い気はしねぇな……今回はアタシの負けだが次は負けないからな?準決勝、負けんじゃねぇぞ空!」

「押忍!」


準決勝第三試合は空に軍配が上がったが、会場は満場の拍手に包まれていた。


「おいリョウ、空嬢ちゃんの放った技って……」

「極限奥義の『龍虎乱舞』と同じ性質のモノだろうな……武闘家が最終的に到達する奥義と言うのは、極限状態において放たれる攻撃であるのかもしれないな。」


観客席で観戦していた極限流チームのロバート・ガルシアとリョウ・サカザキは空が放った攻撃が、極限流空手の奥義『龍虎乱舞』と同じモノである事に驚くと同時に、リョウは格闘家が最終的に到達する奥義と言うモノの本質は基本的に同じモノであると考えたようだ。
とは言え、空の至った奥義はまだまだ粗削りな部分もあるので、此れから先更に技として磨きをかけて真の奥義として昇華させて行かねばならないのだが、僅か一試合で無意識ではなく意識があり自我を保った状態で放てるようになったと言うのは大きな成果と言えるだろう。


「よう、惜しかったな。」

「京さん……アハハ、土壇場で逆転されちまいました。アタシもマダマダですね……」


歓声が鳴りやまないフィールドから引き揚げて来たノーヴェを出迎えたのは京だった。
格闘技の基礎を教えていた師として弟子の試合を観戦し、そして真っ先に労ってやろうと考えていたのだろう――普段は自信家で不遜な態度を崩さず、俺様全開の京だが、こう言った気配りは出来る男なのだ。だからこそ人に慕われるのだろう。……と言うか、単に自信家で不遜な態度を取るだけだったらアインスと恋人関係になんぞなって居ないし、エステルとは其れこそ顔を合わせる度に喧嘩をしていた事だろう。


「ま、確かにお前はマダマダだが別に其れで良いんじゃねぇか?
 マダマダって事はよ、マダマダ強くなる余地が残されてるって事だからな……そう言う意味じゃ俺だって全然マダマダだぜ?全力出して漸くカシウスさんとタイムアップに持ち込むのが今の俺の精一杯なんだからな。
 大事なのは、今の自分に満足しないで精進する事だと俺は思うぜ?」

「京さん……そうですね!」

「おし、良い返事だ!大会が終わったら真吾共々みっちり鍛えてやるから覚悟しな……見様見真似で覚えた草薙の拳も、ちゃんと教えてやるからよ。」

「はい!宜しくお願いします!!」

「そんじゃ此処からは観客として試合を観戦するぞ。他人の試合を見るだけでも得るモノっては意外と多いからな。」


京の言った事はある意味で本質を捉えていると言えるだろう。
マダマダであると言う事は、裏を返せば成長の余地がマダマダあると言う事であり、同時に今の自分に満足しなければ、完成と言うモノを見なければ何処までも高みに上る事が出来ると言う事でもある……一つの武術の流派としてはあるところで『完成』と言う形を作っておかねばその流派を学んでいる者達に一つの到達点を示す事が出来ないのが難しい所ではあるが。


「そうだ、ベスト8まで勝ち進んだ褒美に何か奢ってやるよ。何でも良いぜ、遠慮すんなよ?」

「えっと、其れじゃあ武術大会の名物屋台料理『ウルトラジャンボ串焼き』の『厚切りトロハラミ』の塩と、『爆裂エナジーコーラ』で!」

「良いぜ。折角だから俺も何か買うか。其れからアインスとエステルにも……俺は、『焼き鳥セット』とビール、アインスには『ピリ辛ナゲット』とハイボール、エステルには『ワイルドステーキ』と『レッドアイズ・ブラック・サイダー』で良いか。」


観戦中の飲食物を購入すると、京とノーヴェは観客席へと移動しKOF個人戦の残り試合を観戦する事に――そして、その後観客席では超強炭酸のドリンク片手に巨大な骨付き肉に齧り付きながら試合を観戦するエステルの姿が目撃されたとか。
そしてそのエステルと一緒に観戦してたヨシュアは引くどころか、『いっぱい食べる君が好き』的な感じでエステルを見ていたとかいないとか……取り敢えず観客席はとっても平和であるようだ。








―――――――








時は少し遡り、空とノーヴェが激しい戦いをしていた頃、控室では未だにレーシャが眠っていた……のだが、レーシャを膝枕している遊里の顔には驚きの表情が浮かんでいた。


「此れは……」

「如何した遊里?」

「レーシャの身体が熱い……まるでスチームみたいに。……でも、レーシャの寝息は乱れていないし苦しそうでもないの……此れは一体……?」

「なんだって?……此れは、確かに熱いが……だが、レーシャの呼吸は居たって普通だ……如何言う事だ?」


其れはレーシャの身体がとても熱くなっていたから。
そして其れだけ身体が熱くなっているにも拘らずレーシャの寝息は乱れず、苦しそうでもなく安らかな寝顔のままなのだ……普通に考えれば有り得ない事だけに遊里も遊星も少しばかり困惑しているようだ。


「心配御無用。レーシャ君は睡眠状態にありながら次の試合に向けての準備をしているのだよ。」

「貴方は……!」

「ルガール……睡眠状態にありながら次の試合に向けての準備をしているとは如何言う事なんだ?」

「簡単に言えばレーシャ君は睡眠で体力を回復しながらも、細胞が活性化して試合前のウォーミングアップを身体が自動的に行っている状態だと思えば良い。次の試合、彼女は最高のコンディションで臨む事が出来る筈だ。」


其の答えを出してくれたのはレーシャが二回戦で戦った、魔王の一人であるルガールだった。
ベスト8の試合に向かうレーシャの激励に来たのだろうが、其処でレーシャが睡眠状態であるにも拘らず身体が熱くなっていると言う異常事態に遭遇して、其れが何であるのかを説明してくれた訳だ……ルガールも人伝に聞いた話ではあるが、秘書達を使って話の真相の裏を取っているので間違いではないだろう。


「レーシャ君の持つポテンシャルは私でも計り知れんが……此れだけの子供がいると言うのは嬉しい限りだ。なのは君となたね君と言い、将来有望な子供と言うモノにはつい肩入れしてしまうな。」

「……ルガールさん、若しかしてロリコン?」

「ロリコンではないわぁ!私は純粋に未来を担う子供を大切にしたいと、そう思っているだけだ!!」

「そう言えば、テレサ先生の孤児院に居るらしいな?……なら、此れをテレサ先生に届けてくれないか?試作品だが、材料を入れれば生地の練り合わせから発酵、焼き上げまでを行ってくれる『全自動パン焼き機』だ。
 是非とも使った感想を聞かせて欲しい。」

「此れは此れは、有り難く頂くとしよう……だがしかし、機械で果たして彼女の手作りパンの味を再現出来るのか、問題は其処になるだろう。テレサ先生の焼いたクロワッサンは後世に残すべきモノだと私は思っている!そしてハーブティーも!」


なにやらちょっとしたミニコント的な何かが発生したが、遊星作の試作品の『全自動パン焼き機』がテレサに送られるのが確定となった。
そんな遣り取りをしている間に空vsノーヴェの試合は決着し、次はいよいよレーシャの番だ。


「ん~~~~……ふあぁぁぁ~~~~……よっく寝た~~~!おはようお兄ちゃん、お姉ちゃん!其れからルガールさん!」


そして実にタイミングよくレーシャが目を覚ましたのだが、その姿は活力に満ちており、疲労は微塵も感じられない……時間にしたら一時間にも満たない睡眠時間であったにも拘らずレーシャは体力をほぼ全回復したみたいである。


「うん、おはようレーシャ。調子良さそうね?」

「体力は回復出来たみたいだな……次の試合も全力を出してこい。悔いの残らないようにな。」

「コンディションは最高の状態に持って来たか……次の試合も全力で挑むが良い!其の力、存分に発揮したまえ!」

「うん!行ってきます!!」


目を覚ましたレーシャは活力と気力も充実しており、ともすれば二回戦でルガールと戦った時よりもコンディション的には良い状態であるのかもしれない――遊星と遊里の母がスラムで拾って来て不動家の一員となったレーシャは出生其の他が一切不明であるのだが、如何やら只の人間でない事だけは間違いないだろう。
普通の人間ならばこんな短時間での睡眠で体力をほぼ全快するなどまず不可能であるのだから――だとしても、遊星と遊里にしてみればレーシャは愛すべき妹だと言う事は変わらないのでレーシャの出生とかは別に如何でも良い事であったりする。

取り敢えずレーシャは最高のコンディションで準々決勝最後の試合に臨む事が出来そうだ。








――――――








王都のグランアリーナでKOFが盛り上がりを見せている頃、王都郊外の遊歩道――の少し開けた場所では、ダンテとレーヴェが異形の存在を葬っていた。
ダンテが倒したのはクリスタルを思わせる身体をした人型の異形で、レーヴェが倒したのは手の巨大な三本の爪が特徴的な人型の異形だった……クリスタルの方は自らを『エンペラー』、巨大な三本爪は自らを『マジシャン』と称し、其の力は上級魔族や上級神族に匹敵するモノだったのだが、『魔帝』を封印し趣味や暇潰しで悪魔を狩っているダンテと、『剣帝』との二つ名を持ち、『カシウスと互角に戦える数少ない存在』との呼び声も高いレーヴェの前では塵芥に過ぎなかったようだ。


「コレデ……オワリデハナイ……キョウジュトドクターハ……マダ……」

「まだ生きてたのか?下らねぇ御託は地獄でやってろ……その御託を閻魔様が聞いてくれるかは知らねぇがな。」


首だけの状態になりながらもまだ言葉を発するエンペラーに対し、ダンテはアイボニーのチャージショットをブチかまして強制的に沈黙させる……普段は飄々として何処か捉えどころのないダンテだが、やる時にはきちっとやるのだこの男は。


「そんで、何なんだコイツ等は?」

「俺にも分からん……カンパネルラから『エサーガ皇国で不穏な動きがある』と聞いてブルブランに調査を依頼したのだが……『教授』、『ドクター』と呼ばれている者達が何かを画策している事しか掴む事は出来なかった。
 だがコイツ等を見るに、ドクターと教授とやらがリベールに対して何かしらを仕掛けようとしているとみて間違いなかろう……ブルブランの報告では、ドクターも教授も人工的に新たな生命体を作り出していたらしいからな。」

「新たな命の創造、ね……クソッタレの魔帝もそうだったが、命を作り出すとか神にでもなった心算なのかねぇ?
 ……まぁ、来たら来たでぶちのめしてやるだけだ。なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんが取り戻したこのリベールに仇なすってんなら、ソイツは俺の敵以外の何者でもないからな。」


取り敢えず、この異形二体は教授とドクターが生み出したモノで間違いなさそうだ――と同時に、もしもダンテとレーヴェがエンペラーとマジシャンを倒していなかったらKOFの会場はトンデモナイ惨劇の現場となっていた可能性があるだろう。
最強クラスの二人の銀髪剣士によって、KOFは大会を続ける事が出来たようである。








――――――








KOF個人戦準決勝の最終戦を飾るのは不動レーシャvsエレナ。
大会参加者最年少であるレーシャと、大会参加者では空、ノーヴェ、さくらと並んで参加者で二番目の若さであるエレナの試合は準々決勝最終戦に相応しい組み合わせであると言えるだろう。
レーシャは二回戦で魔王であるルガールに其の力を認めさせて準々決勝に駒を進め、エレナは『最強の格闘技は相撲』との意見もある中で、その相撲で言う名誉段である横綱を除けば事実上の最高位である大関にあるエドモンド・本田を撃破したエレナの試合もまた注目の的であるのだ。


「いよいよ準々決勝の最終戦ですが、此の試合はどう見ますかなのはさん?」

「スピードではレーシャに分があるが、エレナは足技が主体のカポエイラを使うからリーチと攻撃範囲ではエレナに分がある……とは言え足技はリーチと攻撃範囲に優れるモノの振りが大きく動作が重くなるので、攻撃後の隙が意外と大きくなるから、その隙を的確に付く事が出来ればレーシャが勝つだろうが、正直何方が勝つかはマッタク予想出来ないと言うのが本音だ。」

「予想不可能ですか……ですが、其れは逆に楽しみですね。」

「だから見届けよう、予測出来ない試合の行く末をな。」


其れだけになのはですら試合結果は予想出来なかったのだが、予想出来ないからこそ楽しめる部分があるのもまた事実――そんな予想不可能な準々決勝の最終試合を戦うレーシャとエレナが、遂にフィールドに現れたのだった。








 To Be Continued 







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