KOF二回戦の注目の一戦であるレーシャvsルガールは、ルガールが勝ちを譲った形ではあるがレーシャの勝利で幕を閉じたのだが、此れはある意味で物凄い事だとも言えるだろう――レーシャは若干十歳で魔王が勝ちを譲るに値する程の力があったと言う事になるのだから。


「魔王であるルガールが勝ちを譲るとは……其れだけの可能性があると言う事か彼女は……不動遊星と不動遊里が中々にぶっ飛んでいる事は知っていたが、末っ子もまた中々ぶっ飛んでいた訳だ。
 マッタク、不動家は超人の巣窟か?」

「其れは若干否定出来ないのが悲しいですね。
 其れよりもなのはさん、次の試合も注目の一戦ではありませんか?」

「稼津斗とBLAZEの一員である郁島空の試合か……確かに此の試合もまた注目の一戦だな?
 稼津斗の実力は今更疑いようもないが、郁島空の実力もまた高い……彼女もスピードを重視した格闘スタイルだが、彼女の場合は只速いだけでなく其処に重さも加わって来るから、稼津斗とて簡単に勝つ事は出来まい。
 郁島空の攻撃は、スピードこそがパワーを体現しているのだからね。」

「スピードこそがパワー……似たような言葉を俺も聞いた事があるな?
 ゼムリア大陸の東方にある国のとある武術では、スピードをパワーとする為に徹底して突きのスピードを磨き、最終的には鍋で真っ赤に焼いた大量の小石に貫手を連続で行っても火傷しないようになるとか……火傷する間もなく焼けた小石から貫手を抜くと言うのは凄まじいスピードだと思う。」

「……其れはスピードと言うよりも、気や魔法による身体保護の訓練ではなかろうか?確かにスピードも鍛えらえるだろうが……」

「因みに実際やってみたら右手を盛大に火傷してアインハルトとシグナム、そして医者に滅茶苦茶怒られた。」

「だろうな。」

「でしょうね。」

「なぜあんな馬鹿な事をしたんですか兄さん……」


次の試合である稼津斗vs空の試合もまた注目の試合であった。
稼津斗の実力は文字通りの一騎当千であり、殺意の波動を発動しての攻撃は一撃で巨岩を砕き、深海に沈んだ潜水艦を海上に吹き飛ばし、隕石すら粉砕してしまう程のモノであるのだが、空が使う郁島流もスピードに特化しながらもスピードを其のまま破壊力にしてしまう流派であるので一撃の破壊力は計り知れない――故になのはも稼津斗と言えども簡単に勝てるとは思わなかった。
……スピードこそがパワーと聞いて、クラウスが噂に聞いたゼムリア大陸の東方にあるとある武術の修行法を思い出し、其れを実行してシャレにならない火傷をしたと言う事が明らかになったが、其れは其れとしてスピードこそがパワーと言うのはある意味で究極の破壊力と言えるだろう。
例えば柔らかいゴムボールでも時速100kmを超える速度でぶつかれば当然痛いし、当たり所が悪ければ気を失う事もあるのだから――加えて郁島流空手は、一般的な空手と違って、手の攻撃も拳打だけでなく掌打や貫手も使うので局所破壊や内部破壊も可能になっているのだ。


「鬼と天才少女……さて、どうなるか楽しみだな?」

「えぇ、そうですね。」


レーシャvsルガールと同レベルに注目の試合である稼津斗vs空の試合を前に、なのはの口元には自然と不敵な笑みが浮かんでいた。











黒き星と白き翼 Chapter48
『激戦上等!熱戦必須のKOF(個人戦)です!』










フィールドで向き合っている稼津斗と空は既に闘気が極限まで高まっており、稼津斗は殺意の波動を解放してはいないが殺意の波動特有の闇色のオーラを纏い、空も先天属性である風属性の翠の闘気を纏っている。
単純な戦闘力で言えば、稼津斗は通常状態でも百万を超えているのに対して、空はジャスト十五万なのでマッタク持って勝負にならないのだが、戦闘力はあくまでも一種の参考数値であるので、其れだけでは決まらない――特に気を高める事で戦闘力を底上げする術を身に付けている者であれば、やろうと思えば己の戦闘力を十倍以上にする事も可能なのだから。


『さぁ、次も大注目の一戦だ~~!
 一回戦をDSAAルール下でありながら相手を一撃で滅殺(あくまでもDSAA判定で即死判定であり、実際には生きてます)した『鬼』……豪鬼・稼津斗に対するのは、郁島流の正統後継者にしてロレントの自警団BLAZEの一員である郁島空だ~~!!
 最強の鬼が蹂躙するのか!それとも史上最年少で郁島流の正統後継者となった空が鬼を打ち破るのか!一体どんな結果になるのか、俺でも予想出来ないぞ~?
 稼津斗vs空!Ready……Go!!』




「全力で行きます!」

「俺の滅殺の拳、其の身で試すか?」


試合開始と同時に稼津斗と空は地を蹴って飛び出し互いに飛び蹴りを繰り出し蹴り足が交差する……が、其れでは終わらず、稼津斗も空も宙に浮いたまま激しい拳と蹴りの応酬を開始!
稼津斗も空も武空術を体得しているからこそ可能な攻防だが、互いに攻撃を行いながら防御も同時に行ってクリーンヒットを許していないのだから、その攻防が如何にハイレベルであるのかが窺えるだろう。


「落ちろ!」

「く……ですが、天翔脚!」


その攻防で、稼津斗はアックスパンチで空を強引に地上に叩き落とすが、空は受け身を取って体勢を立て直すと上昇しながらの連続蹴りを繰り出し、稼津斗もそれに対して空中から急降下する飛び蹴り、『天魔空刃脚』を繰り出し、互いに蹴り足が克ち合って激しくスパークしてそしてぶつかり合った闘気が爆発して、稼津斗は上空に、空は地上に吹き飛ばされる。
だが、その程度では二人とも怯まず、稼津斗は空中で体勢を立て直すと斬空波動を放ち、空も其れに対して隼風拳を放って相殺する。


「うむ、実に見事な腕前だ……だが、此れは受けきれるかな?剛螺旋!」


其処に再び稼津斗が天魔空刃脚で強襲すると、足払いで空の体勢を崩すと其処に竜巻斬空脚を叩き込み、更に追撃として竜巻斬空脚の殺意の波動強化版とも言える『滅殺剛螺旋』をブチかまして空を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた空はアリーナの壁に激突し、大きくライフを減らす事になったのだが、だからと言ってスタンする事は無く、稼津斗の着地時を狙って強襲し、左右の正拳突きから回し蹴り、裏拳、右ストレートのコンボを叩き込む。
回し蹴り、裏拳、右ストレートのコンボは円運動で行われ、遠心力も加わるので、相当な威力になっている――此の円運動による遠心力を利用した連続技は、郁島流では『竜巻撃』と呼ばれ、奥義の一つとなっているのだが、空が放った其れは奥義以上の破壊力を持っていた。


「遠心力を応用した攻撃は見事だけど……その拳の形、独学で究極の拳の型に辿り着いたって訳か……」

「寝ている時に、飛んで来た蚊を反射的に殴った時に気付いたんですけどね。」


その破壊力の正体は空の拳の形にあった。
空の拳はガッチリと握りしめられたモノではなく、人が脱力した際に自然に形作られる拳の形だったのだ――中指と薬指は完全に折り畳まれておきながら、人差し指と小指は尖った形をしており、親指は添えるだけ……其れは、人が生まれて初めて形作る拳の形であると同時に、脱力した状態から放たれる必殺の拳打の形でもあるのである。
完全なる脱力から一気に力を集中した一撃の破壊力は凄まじく、ダメージエミュレートによって稼津斗には『左下腕部骨折』のダメージが入った。


「俺の腕をダメージエミュレート下とは言え折って見せるとは大したモンだ……腕を折られたとなれば、其処で戦闘不能だが、生憎と俺は骨が折れた程度は大したダメージにはならない。
 殺意の波動によって、肉体の損傷は即修復されるからな。」

「其れは流石にチート過ぎる気がします。」

「だが、其れも俺の特権だ……殺意の波動を飼いならすのに三百年掛かったからな……此れもまた、三百年の修業の賜物ってやつだ!」

「三百年……同時に其れは貴方が己の武を磨き上げて来た時間でもある訳ですね?――ならば、其の三百年の武に、全力で挑ませて頂きます!!……覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「来い、郁島空!ヌゥゥゥゥン!!」


そのダメージエミュレートも即座に回付してしまう稼津斗なのだが、だからと言って空は怯まずに気を高め、稼津斗も同様に気を高めて行く――そして……


「郁島流最終奥義……風塵虎吼掌!!」

「滅殺……ぬおりゃぁぁぁぁ!!」


空の風塵虎吼掌と稼津斗の滅殺剛波動・阿形がかち合い、凄まじい気功波の押し合いが発生!
其れは全く互角で、何方も一歩も退かない――殺意の波動とオロチの力を解放すれば稼津斗が余裕で押し切るだろうが、其れをしないのは純粋に空と武闘家として戦いたいと思ったからだろう。
とは言え、地力の差から徐々に空が押されて来たのだが……


「負けるな空!僕が知ってる空は、此の程度で負ける奴じゃなかったぞ!」

「祐騎君……そうだね、私は此の程度では負けません!」


観客席から聞こえて来た祐騎からの応援に空は気力を限界突破レベルで開放すると、己の気功波に其れを乗せて稼津斗の滅殺剛波動・阿形を押し返して行く……徐々にではあるが、其れは確実に稼津斗の攻撃を押し返していた。


「空ー、負けるな!!」

「まだ行けるわよ、空ちゃん!!」

「空ちゃん頑張ってーーー!!」

「もっともっと……行けますよ空ちゃん。」


更に観客席からBLAZEの仲間達の声援が飛び、其れが更に空を後押しするだけでなく……


気合を入れろや郁島ぁぁぁ!!!


選手入場口から次試合を控えた志緒が現れ、気合入りまくりの檄を飛ばす!
BLAZEのリーダーを務めている志緒の檄は、ドレだけ疲労困憊状態であっても動けるようになってしまう不思議な力があり、その檄を受けた空の攻撃は一気に稼津斗の攻撃を押し返し、そして押し込んで行く。


「仲間の声援を力に変えるか……ならば俺も其れに応えねばだな……ぬぅぅぅぅぅん!!」


それに対し稼津斗は殺意の波動を解放して『鬼』となると、気を高めて気功波の威力を底上げする……結果として、二つの気功波は完全に拮抗し、やがて押し合いによる飽和エネルギーが臨界点に達して完全相殺して対消滅する事に。
此処で先に動いたのは空だった。
此れだけの巨大な気功波を撃った後であれば、更にもう一発気功波を撃つ事は出来ないと判断して接近戦を挑んだのだ。


「ふ、甘いわ!」

「な!気弾の連射!?」


だが稼津斗は、其れに対し両手から無数の剛波動拳を放つ滅殺剛波動を放って空を迎撃!
滅殺剛波動・阿形の様な高威力の気功波ではないが、其れでも威力の高い気弾である剛波動拳を無数に放たれたらその威力は相当なモノとなる……完全にカウンターの一撃だっただけに空は防御も回避も出来ずに其れを喰らい、アリーナの壁までフッ飛ばされ、ライフも一気にレッドゾーンに突入してしまった。
ダメージエミュレートにより背部打撲、頭部裂傷、胸部・腹部打撲も加わり、普通ならここでドクターストップだろう……だが、そんな状態でも空は立ち上がり戦う意思を示した――のだが、その様子は少しおかしかった。
立って構えてはいるモノの、目は虚ろで焦点が定まらず、しかし稼津斗から視線は外さない……まるで追い詰められた猛獣が、相討ち覚悟で相手の喉笛に牙を突き立てようとしているかの如くだったのだ。


「…………」

「む……速い!」


最早意識はなく、闘争本能のみで立ち上がった空は、一気に間合いを詰めると其処から稼津斗と激しい打撃の応酬に突入。
その応酬は、はじめの内こそ拮抗していたが、やがて空の方が推し始める……闘争本能のみで攻撃を行った事により、普段は空が無意識に制御しているスピードが全開となり、『鬼』となった稼津斗でも捌き切れなくなっていたのだ。


「此処まで速いとは……捌き切れぬ!」


此のままでは不利と判断した稼津斗は、阿修羅閃空で間合いを離そうとするが……


「…………」

「何……この踏み込みは!」


空は其れを追うように鋭い踏み込みで稼津斗に近付き、其処から目にも止まらぬ拳と蹴りの連続攻撃を叩き込み、その連続攻撃の締めは腰の入った正拳突き!!
此の攻撃を真面に喰らった稼津斗もまたライフがレッドゾーンに……殺意の波動を解放すると攻撃力は大幅に上がる代わりに、防御力が低下してしまうのでレッドゾーンになってしまったのだ。


「い……今のは一体?身体が、勝手に反応した?其れに、この疲労は……」


此処で空が意識を取り戻し、今の攻撃に対して自ら疑問を抱いていた……今自分が行った攻撃は、郁島流の教えの中にも無かったモノなのだから、困惑するのも当然と言えるだろう。


「其れこそが、武道を修めた者が極限状態に陥った時に放つ事が出来る究極奥義よ……未完成故に俺もまたこうして倒されずに済んだが、極めた一撃であったのならば俺は負けていたか……実に見事な攻撃だったぞ郁島空よ。」


しかし、五百年の時を生きて来た稼津斗は、空の攻撃が『極限状態において放たれる攻撃』と言う事を看破していたらしく、此の土壇場でその境地に至った空の事を素直に賞賛していた。


「思えば『鬼』と化した俺に決定的なダメージを入れた人間は果たして何時ぶりだったか?
 ……一夏達も才能に溢れる若者だが、お前も其れに負けず劣らずの才能の持ち主のようだ……ならば、此処で大会から姿を消してしまうと言うのは惜しい事この上ないと言うモノ――その武を極め、そして己だけの『必殺』を見付けろ。……其の時が来たら、また拳を交えようぞ。此の試合、お前の勝ちだ郁島空。」

「稼津斗さん……押忍、その期待に応えて見せます!」


此処で稼津斗が殺意の波動を解除し、フィールドから去ろうとしたのだが……


「ひゃっほーい!火引弾、只今参上!行くぞオラァ!!」


其処に長い髪を一つに束ねて、ピンクの空手道着の下に黒いシャツを着込んだ男が突如として乱入して来た――KOFにエントリーした選手ではなく、完全なる大会の乱入者な訳だ。


「……滅殺!……紛い物が、死にも値せぬ!」

「お、お花畑が見えるっす。」


その乱入者は、アッサリと稼津斗の瞬獄殺によってKOされて退場する事になった……一体コイツは何がしたかったのか、マッタク持って謎である――此れでも『最強流』なる武術の師範を務めていたりするのだから、武道家もピンキリと言う事なのだろう。

予想外の乱入者があったが、試合は順調に進み、次は志緒とアガットの試合だ。


「全力で行かせて貰いますよアガットさん!」

「本気で来いや高幡!」


互いに身の丈以上の大剣を獲物として、更に炎属性である志緒とアガットの試合は開始直後から真っ向勝負のぶつかり合いとなり、互いにパワー全開の攻撃を行った結果、木製の武器が粉々になり、其処からは拳の殴り合いに発展!
互いにノーガードの殴り合いになり、アガットの右ストレートと志緒の右アッパーが夫々に炸裂し……そして膝を折ったのはアガットの方だった。
何方の拳も相手の顔面を捕らえた一撃だったが、アガットの右ストレートが志緒の頬に炸裂したのに対し、志緒のアッパーはアガットの顎に突き刺さっていたので、この結果はある意味で当然と言えるだろう――顎への一撃は脳を揺らす効果もあるのだから。

だが、其れ以上に勝敗を分けたのは頑丈さの差があるだろう。
志緒とアガットは物理攻撃は双方Sクラスなのだが、体力と物理防御に差があった――アガットの体力と物理防御はAクラスだが、志緒の体力と物理防御はSクラスであるのだ……その上で物理攻撃が同じであれば志緒がアガットの物理防御を超える攻撃が出来たのは道理だと言えるだろう。


「高幡……ドンだけ頑丈なんだテメェは?」

「さぁな……だが、鉄パイプの一撃位なら耐えられるかもしれないですよアガットさん。」

「マジかよ……ったく、呆れた頑丈さだぜ。」


ダメージエミュレートによって『脳震盪』が発生したアガットは強制的にドクターストップとなり、志緒の勝ちとなった――生来の打たれ強さを持つ志緒に物理攻撃でダメージを与えるのは略不可能であるのかもしれない。


そして二回戦の最終試合となるクリザリットvsK'の試合だが、実は此れは中々に因縁のある対決だったりする。
クリザリッドはライトロードによって壊滅した秘密組織『NESTS』によって生み出された改造人間であるのだが、K'もまたNESTSによってクリザリッド同様『草薙の遺伝子』を植え付けられて炎を操る術を身に付けた改造人間なのである――尤も、K'は其の力を自ら制御出来ないので、制御の為の赤いグローブが欠かせないのだが。
そのK'はNESTSがライトロードの襲撃を受けた際には、別任務でアジトを離れていたために被害を被らず、NESTSが瓦解した事で自由を手にしていたのだ――であるにも拘らず、KOFの個人戦で同じ境遇のクリザリッドと戦う事になるとは、運命の巡り合わせとは、なんとも分からないモノである。
もっとも此の戦いはK'がKOFに参加した目的とも言えるモノだった……望まぬ力を植え付け、更には力を植え付けられる以前の記憶を抹消されてしまったK'にとって、NESTSは忌むべき存在であり、その組織の元幹部であるクリザリッドを試合とは言え叩き潰せる絶好の機会だったのである。


「NESTSの生き残り……片付けてやるぜ。」

「やってみろ……我が力、目に焼き付けて死ぬが良い。」


K'が右手に宿した炎を握り潰して構えると、クリザリッドも全身に炎を纏ってコートを燃やすと此の上なくセクシーなバトルスーツ姿となって構える……互いにNESTSによって『草薙の力』を植え付けらえた者同士の戦いは、文字通り灼熱した熱いモノになるだろう。









 To Be Continued 







補足説明