其の日、王都グランセルの発着場は此れまでにないレベルの厳戒態勢が取られていた――と言うのも、本日はベルカ皇国の王がリベールを訪れる日であるからだ。
王室親衛隊のメンバーだけでなく、リシャール率いる王国軍の兵士も発着場の警備に当たっているのを見るに、テロリストの類が発着場に何かを仕掛ける事は出来ないだろう……嘱託のシェンとユーリ、霊使い四姉妹、殺意の波動とオロチの暗黒パワーを内包した稼津斗とルガールも居るのでテロリストが何かしようとした瞬間に、其れは滅殺確定なのだから。
発着場内ではなのはとクローゼ、ヴィヴィオがベルカからの便の到着を待っていた。
「今日は白なんですねなのはさん?」
「ベルカの覇王との会談の場で黒い服と言うのは些か礼儀を欠くだろう?黒は、一般的には不吉な色とされているからな……だが、この白い防護服は実戦向きではないんだ。
己の魔力で構成した防護服は、黒いほど堅く、赤いほど強いとされているからな。」
「つまり、なのはさんの通常時の防護服は堅く、なたねさんの防護服は強いと言う訳ですね?」
「魔族と神族の血を引きながら、しかし私の先天属性は『闇』だから、黒や紫の方がより強いと言うのはあるがな。」
クラウスとの会談に向け、本日のなのはの防護服は何時もの黒ではなく白いモノになっていた……黒は些か印象が良くないと考えたのだろう――東方では、黒は葬儀に使われる色でもあるのだから。
其れは其れとして、この場にはリベール通信のナイアルとドロシーも居るのは当然と言えるだろう――リベール王国が初めて海の向こうの外国との同盟を結ぶと言う大ニュースを報じない選択肢は存在していないのだから。……尚、今回もなのは率いる革命軍とデュナン軍が戦った時と同様、ドロシーのオーバルカメラのフィルムは全て経費で落とされていたりする。
其れから数分後、発着場には一気の飛空艇が現れた。
燃え盛る轟炎の如き真紅の流線型のフォルムにベルカの王族の紋章……ベルカ皇国が誇る最新鋭の飛空艇『ラグナロク』がリベールに到着したのだ。
このラグナロク、リベールが誇る最新鋭の飛空艇『アルセイユ』と同じく王直結の飛空艇であると同時に戦闘能力も兼ね備えており、戦闘飛空艇としても使用する事が可能だったりするのだ。
ラグナロクが発着場に着陸すると扉が開き、中からはベルカ皇国の王であるクラウス、その妹のアインハルト、最側近のシグナムが現れて発着場のデッキに降りてなのは達と対峙する形に。
「改めて、ようこそリベールにベルカ王。」
「あぁ、今日と言う日を楽しみにしていたよリベール女王。」
そして二人の王は握手を交わし、その光景をドロシーが神技じみたカメラ捌きで激写!熱写!!爆写!!!フィルムが経費落ちるなら遠慮はいらないとばかりに撮りまくり、ナイアルもメモにペンを走らせる……そのメモに書かれている事は一般人には読めそうにない走り書きなのだが、記事を書くナイアルに読めれば其れで良いので特に問題はないだろう。
再び出会ったリベールの魔王とベルカの覇王、その再会は両国にとってより良い未来を切り拓くための階となる事だろう。
黒き星と白き翼 Chapter44
『リベールとベルカ。新たなる同盟締結!』
「クラウスには名乗ったが、其方の二人とは初めて会うな?リベール女王の高町なのはだ、ようこそリベールへ。」
「クラウス・G・S・イングヴァルドの妹のハイディ・E・S・イングヴァルドです……先日は愚兄が大変ご迷惑をおかけしました!妹として心よりお詫び申し上げます!!」
「陛下の側近のシグナムと言う……本当に先日は陛下が迷惑をおかけした!側近として、そして幼馴染としてキッチリと〆ておいたので何卒、先日の無礼は水に流して頂きたい!」
「……やっぱり〆られたか。」
「同情の余地はありませんね……」
アインハルトとシグナムにも挨拶をしたなのはだったが、二人からは挨拶と共にこの間のクラウスのお忍びの一件で謝罪をされる事に……妹と最側近に何も言わずに勝手にリベールを訪れて、あまつさえリベールの王に勝負を申し込んだと言うのは一歩間違えは外交問題に発展しかねないので、此れはある意味で当然の事だろう。
「まぁ、確かに驚きはしたが、私もベルカの覇王の拳を味わう貴重な体験が出来たのでな、迷惑とは思っていない……寧ろ、此れから同盟を結ぶ国の王の力を知る事が出来たと考えればプラスだからな。
其れに、私も久しぶりに本気で戦う事が出来たので満足した……機会があれば、今度は時間無制限で戦いたいものだ。」
だがなのははマッタク持って問題だとは思っておらず、寧ろクラウスと戦う事が出来て満足だったようだ……噂に聞いたベルカの覇王の拳を直に感じる事が出来たと言うのも大きかったのだろう。
「……リベール王が寛大な方で良かったですね兄さん……そうでなかったら、私は謝罪の為に貴方をブッ飛ばしていました。」
「うん、俺も心底そう思っているよアインハルト。」
「アインハルト?ハイディではないのか?」
「私のミドルネームのE・Sは『アインハルト・ストラトス』の略なのです。親しい人は、皆アインハルトと呼ぶのですよ。」
「成程な……では、私もアインハルトと呼ばせて貰っても良いか?ハイディよりも、其方の方が親しみも湧くのでな。……其れよりも、いっそもっと大胆に『アイン』と言うのは如何だろうか?」
「其れも良いですね。」
発着場から出発した一行は徒歩でグランセル城に向かっていた。
普通は王専用の特別車を使うのだが、なのはとクローゼの戦闘力はクッソ高い上に護衛の親衛隊に至っては『親衛隊だけで一国落とせんじゃね?』と言ったレベルの戦闘力がある上に、殺意の波動+オロチの暗黒パワーを内包している稼津斗とルガールが居るので徒歩での移動であってもマッタク問題ないのだ――加えて、ベルカ王のクラウスも、その妹のアインハルト、最側近のシグナムもバリバリの戦士型なので移動中を襲撃された所で余裕で返り討ちに出来るのである……『戦う力』を持っている王と言うのはある意味最強であると言えるだろう。
そして徒歩で王城に向かった事で、クラウスとアインハルトとシグナムはなのはが民に近い王である事を認識する事になった……と言うのも、王城への道のりの中で、王都の住民が気軽になのはに声を掛けて来たからだ。
クラウスもベルカでは民に近い王として民の支持を受けているが、なのはは其れ以上だったのだ……仕事の合間に息抜きとして王都を中心にリベール各地を訪れていたからこその事だろう。
其れはさておき、一行はグランセル城に到着し、執務室に移動して同盟の調印式を行う事に。
同盟を結ぶための書類にサインし、後は判を捺すだけなのだが……
「なのは殿、此処はベルカに古代より伝わる判を捺すとしないか?」
「古代のベルカから伝わる判だと?」
「己の親指をの表面を切って血を出し、其の血で印を捺す血判だ……ベルカでは古代より、血判は己の命を賭した違える事を許さない約束に使われて来たモノ――ベルカとリベールの同盟は俺達の命が尽きても変わらぬ証として如何だろうか?」
「ふむ、異論はない。」
クラウスが予想外の提案をしてくれたが、詳細を聞いたなのはは其れを受け入れ、なのはは魔力で生成した魔力刃で、クラウスは護身用のナイフで夫々己の親指の表面を切って出血させると、其れを書類に押し付けて血判を施し、調印完了。
だがしかし、其れだけでは終わらない。
「ではクラウス殿、今度は此方の……と言うか魔族の流儀でも同盟締結の誓いを交わそうか?」
「魔族の?」
「左様。」
なのはが指を鳴らすと執務室の外に待機していた侍女がトレーに杯を二つと小さな酒瓶を乗せて入って来た。
「此れは?」
「見ての通り酒と杯だ……魔族の間では、重要な約束をする時、熱い酒を酌み交わす事で其れを破らぬ証とする。
嘘を吐く事の出来ない魔族だが、『あの時はその心算だったが、今はもうその気がなくなった』と言ってしまえば、其れは嘘ではなく当人の気持ちが変わっただけとなり消滅する事はないからね……そう言う事がないように証を立てる。ベルカの血判と同じ様なモノだと思ってくれれば良い。」
「熱い酒か……酒は嗜む程度だが、この小さな杯であれば酔うと言う事もないからな、魔族の流儀の誓い、乗らせて貰うとしよう。」
なのはからの提案を受けたクラウスは、其れを承諾したのだが手にした杯に酒が注がれた瞬間に驚く事となった。
酒が注がれた瞬間に、持っていた杯が持って居られないほどに一気に熱くなったからだ……冷たかった杯を一瞬で其処まで熱してしまうとは、注がれた酒の温度は如何程であるのか想像も出来ない。
だが、その酒をクラウスは一気に飲み干した!が、実は此れが正解だ。
『熱いから』と少しずつ飲もうとしたら逆に口内を火傷してしまう――一気に煽り、口内に止める事なく一気に飲み干してしまえば喉を通って胃に流れ込むので火傷はしないのだ。
そしてなのはも其れを一気に飲み干す……なのはの方は三回目と言う事もあり慣れた様子だ。
「ふぅ……この緊張感、堪らんな。」
「まさか此処まで熱いとは思わなかったが……此れだけ熱してもアルコールが飛ばないとは、一体どんな酒なんだ?」
「普通の酒だが、熱し方が普通ではないんだ。
沸騰させるとアルコールは飛んでしまうから、沸騰しないギリギリの温度を保ちながら熱し続ける事で焼けるような火の酒が出来上がると言う訳だ……因みに、此の火の酒を瓶ごと口に突っ込むと言う拷問もあるとかないとか。」
「其れは空恐ろしいな。」
ともあれ、ベルカ式の血判と、魔族式の誓いを交わした事により、リベールとベルカの同盟は此れから先の未来もずっと続いて行く事になるのは間違いないだろう。
同盟締結の調印が終わった後は、両国の通商に関する取り決めや、其れによる為替ルート等も話し合われ、リベールで10ミラで売られている物が、ベルカでは1000ドゥルで売られている事から、当面は1ミラ100ドゥルで取引する事が決まったのだった。
――――――
会談は滞りなく終わり、夜には晩餐会も予定されているのだが、其れまではまだ時間があるのでなのははクラウスと共に王都を散策する事に。勿論なのはのパートナーであるクローゼ、クラウスの妹のアインハルトと側近のシグナムも一緒だ。ヴィヴィオは親衛隊の訓練に参加しているので一緒ではないが。
「此れがエレボニア帝国の大使館で、反対側にあるのがカルバート共和国の大使館だ。……新たに、ベルカ皇国の大使館も早急に建造せねばだな。」
「ベルカにも、リベール王国の大使館を造らねばだな。」
「まぁ、大使館くらいは霊使い四姉妹と不動兄妹に依頼すれば直ぐに出来るがな……復興に一カ月は必要だろうと思っていたエルベ離宮を僅か一週間で復興させてしまったからな。」
「其れは、凄いな?その技術、是非とも我が国に提供して欲しいモノだ。」
「不動兄妹の技術は、果たして他者に教える事が出来るモノかどうかが問題だな……ラッセル博士もリベールが誇る天才だが、不動兄妹は其れを遥かに凌駕しているからな。多分だが兄の遊星と妹の遊里の合計IQは四百超えるんじゃないだろうか?」
「単純計算でIQ二百以上確定か……其れほどの天才は、少なくとも俺はベルカ国内では知らないから技術提供して貰うのは無理か。」
リベールの王であるなのはとそのパートナーのクローゼ、ベルカの王であるクラウスと妹のアインハルトが市街地を散策するにしては護衛が実質シグナムだけと言うのは普通は有り得ない事だが、シグナム以外の四人も夫々が『戦う力』を持っているのでマッタク持って問題無しだ――『親衛隊や王国軍の兵士を護衛に付けて人数が多くなると王都の民に威圧感を与えるかも知れない』となのはが考えてこの人数での散策になってる部分もあるのだが。
その後、一行はマーケットに顔を出した後に、リベール通信本社でナイアルからの独占インタビューを受け、その後はマーケット近くで営業している移動式のアイスクリーム屋でアイスを購入して簡易に設置されていたパラソルベンチで冷たい甘味を堪能した。
『キングサイズを頼むと、無料でスモールサイズサービス』のキャンペーン中だったので、全員がキングサイズを注文し、なのははキングがキャラメルリボンでスモールはチョコクッキー、クローゼはキングがチョコミントでスモールがラムレーズン、クラウスはキングがマスカルポーネチーズでスモールがブルーベリー、アインハルトはキングがチョコレートでスモールはストロベリー、シグナムはキングが抹茶でスモールが小倉クリームだった……シグナムのチョイスが中々に渋い。
アイスを堪能した後は、グランセル城と並ぶ王都の名所である『グランセルアリーナ』を訪れていた。
「此処は?」
「グランセルアリーナ……リベールで一年に一度行われる一大イベントである『武術大会』の会場だ――尤も、デュナンが新たな王となった後は、デュナンが招待したチームが優勝する出来レースになっていたようだが。
そんな中で、去年と一昨年は草薙京率いるチームがデュナンの招待チームを撃破しての二連覇を達成したと言うのだから、出来レースに辟易していた国民はさぞスカッとしただろうな。」
「武術大会の……だが、使われるのは其の時だけなのか?」
「普段は王室親衛隊が訓練で使っていますね。
以前は王室親衛隊は王都からレイストン要塞まで移動して訓練を行っていたのですが、其れでは効率が悪いと言う事でグランセルアリーナで訓練を行うようになったんです。此処ならば、訓練を行っている最中に王都で何か起きても直ぐに対処出来ますから。」
「成程、よく考えられているのですね……と言う事は、今も中で親衛隊が訓練を?」
「あぁ、行っている筈だ。何なら見て行くか?王室親衛隊は隊員の数では王国軍に劣るが、逆に言えばその隊員は『王の護衛を任された軍の精鋭』とも言える者達ばかりだからな……リベールが誇る部隊の訓練を見学すると言うのも悪くはあるまい。
今日は特別コーチとしてロレントから草薙京が来ている筈だからな。」
「そうだな……是非とも見学させて貰おう。」
なのはとクローゼがグランセルアリーナの事を簡単に説明し、一行はアリーナ内で行われている王室親衛隊の訓練を視察する事に――なのはとクローゼが訓練を視察するのは何時もの事だが、外国の王と共に視察するのは初めての事だ。
そしてアリーナに入ると……
「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」
「タイガァァ……キャノン!!」
いきなり京の大蛇薙とヴィシュヌのタイガーキャノンがぶち当たると言う大バトルに遭遇!
強大な炎と気弾がかち合って爆炎が発生し、京もヴィシュヌも体勢を崩すが、京は一早く体勢を立て直すとヴィシュヌに向かって突撃し、弐百壱拾弐式・琴月 陽を叩き込んで燃やす!
だが、ヴィシュヌは転がって炎を消すと其処から鋭いスライディングキックを繰り出し、更に鋭い蹴り上げで京のガードを抉じ開けると強烈な飛び膝蹴りを食らわせる。
正に一進一退の攻防が繰り広げられていた……京もヴィシュヌも炎属性故に、その戦いは物理的に熱いモノとなっていた。実際に此の戦いで、アリーナ内の温度は真夏日の気温を余裕で越えるモノとなっているのだ。
そんな熱いバトルが展開されている一方で、アリーナの隅には珍しく親衛隊の制服を着たレオナと、何時もの服装の一夏と、何故か庵の姿があった。
「では、此れより暴走を制御する訓練を開始する。……因みに、制御に失敗するとあぁなる。」
「ふぅ……あふぅ……キョォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「……気を付けるよ。」
如何やら暴走を制御する訓練の為に庵は呼ばれたらしい。
先のライトロードとの戦いで殺意の波動に目覚めた一夏だが、其の力を完全に制御する事は出来ず、殺意の波動が暴走してしまったので其れを制御出来るようになる必要があると考えたレオナがこの訓練を行う事を決めたのだ。
今やオロチの力を完全に制御出来ているレオナだからこそ提案出来た事であり、一夏が殺意の波動の完全コントロールが出来るようになればリベールにとってもプラスになると考えたのだろう……暴走の制御が出来ないとどうなるかの見本として庵を呼ぶのは如何かと思うが。
「草薙の炎と遣り合うとは、やるじゃないかヴィシュヌ……因縁とか宿命とか関係ない戦いで此れだけ楽しめたのは紅丸との試合以来だぜ――流石は鬼の子供達の一人ってか?
お前で此れなら、お前よりも強い一夏とはもっと楽しめるかもな。」
「一夏は私の倍……とは言いませんが、1.25倍は強いですから。」
「倍率微妙だなオイ……其処は恋人補正入れてやれよ?」
京とヴィシュヌの戦いは、京のR.E.D.KicKとヴィシュヌが昇龍拳を自己流にアレンジしたタイガーブロウがかち合って火花を散らし、互いに着地すると一気に気を高めて最大の一撃を放たんとする。
「行きます!灼熱……波動拳!!」
「コイツで終わりだ!俺からは逃げられねぇんだよ!」
ヴィシュヌが轟炎の気功波『灼熱波動拳』を放ち、京は裏百弐拾壱式・天叢雲を放ち、強大な気功波と無数の巨大な火柱がぶつかって爆炎が上がる……が、京はその爆炎の中を自らを炎に包んで突っ切ってヴィシュヌに突撃し……
「見せてやるぜ、草薙流の真髄!」
「!!」
裏千弐百壱拾弐式・八雲を叩き込む。
巨大な闇払いを喰らわせた後に、炎の拳で連続ブローを叩き込み、トドメに巨大な炎の渦でヴィシュヌを吹き飛ばす!
「熱くなれたろ?」
「消し炭になるかと思いましたよ……ですが、流石に今ので限界が来たみたいですね……降参します。」
何とか受け身を取ったヴィシュヌだったが、大ダメージを負ってしまい此処で降参し、今回は京に軍配が上がった――しかしながら、千八百年の歴史を持つ草薙流の歴代正統後継者の中でも、『草薙流始まって以来の天才』と称される京と中々良い戦いをしたヴィシュヌの実力は相当なモノだろう。
そして同時に其れは、簪以外の鬼の子供達も同等の実力を秘めていると言う事であり、頭一つ抜きん出ている一夏は京と互角以上の戦いが出来ると言う事でもあるのだ……鬼に育てられたのは伊達ではないようだ。
そして京とヴィシュヌの戦い以外にも、親衛隊隊長のユリアが夏姫との模擬戦を行い、ヴィヴィオが刀奈達と相手を変えて連続でスパーリングを行い、他の隊員はバハムートを相手に訓練を行っていた……ドラゴンを相手に訓練を行う部隊と言うのは中々無いだろう。
「此れは……思っていた以上に内容が濃い訓練だな?此れほどの訓練を行っているのならば、親衛隊の実力は疑いようもない……俺も武闘家の血が騒いできた。」
「武闘家の血に火が点いたと言うのであれば見学した甲斐もあったと言うモノ……だがしかし、残念ながら訓練に参加させる事は出来ないんだクラウス殿。他国の王を自国の軍の訓練に参加させたとなれば、其れだけで問題になってしまうからね。」
「……仕方ない、この滾りはベルカに帰ってから発散するとしよう。」
其れを見たクラウスは武闘家の血が騒いだみたいだが、流石に親衛隊の訓練に参加させる訳には行かないので見学のみとなった――が、クラウスが帰国したベルカはクラウスの滾りを発散する為にシグナムを始めとする側近は大分大変な事になるかも知れない。尤もやり過ぎたらアインハルトがクラウスをしばいて強制終了になるので大丈夫だろうが。
其の後は王城前の広場で釣りに興じた後、王城の大広間にて晩餐会が行われ、贅の限りが尽くされた王宮料理に舌鼓を打ち、そしてクラウス一行は本日は王城で一泊するのだが、王城内に作られたエルモ村からの温泉を引いている大浴場での風呂には大満足したようだった。
取り敢えず、リベールとベルカの同盟締結は無事に、そしてとても良い形で行われたと言って良いだろう。
そして、ベルカとの同盟締結により、リベールの基盤はより強固になった、其れも間違いない事だった。
――――――
――とある研究所
仄暗い部屋の中には、身体に幾つものコードが繋がれた屈強な男性が三人座っており、その背後には黒光りする結晶が入ったポッドが存在していた……そして、黒光りする結晶が怪しい光を放った瞬間、男達が稲妻に打たれたかのように痙攣し、そして其のまま動かなくなってしまった。
「首尾は如何かなドクター?」
「ふむ、大成功だよ教授。
この『黒晶』によって、疑似的ではあるが人に『オロチの力』を宿す事が出来た……ククク、此れは若しかしたらライトロード以上の傑作かもしれない――そうだね、リベールで年に一度行われている武術大会に、彼等を送り込んでみると言うのは如何だろう?」
「ふむ、其れは面白そうだ。そして、実験の成果を試す場としては此の上ない。」
そして、其処に存在してたのは此の上ない純粋なまでの『悪意』だった……ライトロードに殺意の波動を植え付けた上で復活させた教授とドクターは、また何かよからん事を企んでいるのだった。
To Be Continued 
補足説明
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