――ツァイス市・中央工房


不吉な紅い月が上った数日後、なのはとクローゼはツァイスの中央工房にやって来ていた――なたねとネロの武器の整備を中央工房に依頼していたのと、なのはのレイジングハートが模擬戦中にショートしてしまったのでその修理も依頼していたので進捗状況を聞きに来たのだ。


「遊星、遊里、依頼した件は如何なっている?」

「なのはか……全て問題ない。
 レイジングハートはフレームを強化して此れまでの二十倍の不可にも耐えらえるようにした上で、新たにカートリッジシステムを搭載してみた。
 魔導師の魔法の威力を爆発的に高めてくれるカートリッジシステムは以前から研究はされていたんだが、人間の魔導師ではその負荷に耐える事が出来ないから採用されてこなかったんだ。
 だが、魔族と神族の血を引くお前ならその負荷にも耐える事が出来るとのシミュレート結果が出たので思い切って搭載してみた。同様の強化はルシフェリオンにも施してある。」

「レッドクィーンはギア比を調整してイクシードを強化して、ブルーローズは思い切って開発中の無限弾薬システムをぶっこんでみました!
 これでもう、ブルーローズは弾切れの心配なし!」

「調整通り越して魔改造だな此れは。」

「って言うか何なんですか無限弾薬システムって……」


聞いてみた結果、不動兄妹は整備とか修理を越えてレイジングハートとルシフェリオンとレッドクィーンとブルーローズを魔改造していた――人間には負荷が大きいからと言う理由で採用されてこなかったカートリッジシステムを、神魔であるなのはとなたねならば大丈夫だろうと搭載するとは思い切ったモノである。
其れだけでも充分なのだが、ブルーローズに至っては無限弾薬システムと言う謎の機能を搭載する始末……確かに弾切れを気にする事なく使えると言うのは銃を使う者からしたら有難い事ではあるが。


「そもそも無限弾薬って、魔力弾ならば未だしも実弾でどうやってそれを実現しているんだ?」

「弾丸に蘇生系アーツと同じ効果を付与する事で、使用済みになった弾丸を即時発射前の状態に戻るようにしているんだ。
 ダンテのハンドガンを同じ様に改造する場合は薬莢の排出機構をオミットしなくてならないんだが、ネロのブルーローズはリボルバーだったから弾丸を変えるだけで済んだな。
 ……しまった、夏姫のガンブレードをライオンハートに改造する際にも同じ処理をした弾丸を入れておくべきだったな。」

「……クローゼ、私は今心底不動兄妹がリベールに居てくれて良かったと思っているよ。」

「奇遇ですねなのはさん、私もです。」


不動兄妹の技術力と頭脳はリベールでもトップクラスであるのは間違いないだろう。
この二人の才能を開花させたのはラッセル博士ではあるが、今では最早ラッセル博士すら超えるほどの存在になっており、マードック工房長が引退したら次の工房長は遊星か遊里のどちらかではないかと言う噂まであるのだ。
取り敢えず魔改造された武器のうち、やたらと重い上に容量オーバーでレイジングハートに収納する事も出来ないレッドクィーン以外の武器は持って帰る事にし、レッドクィーンはグランセル城宛てに送って貰う事にしたのだが、帰り際に遊星が『遊里と一緒に新型の戦術オーブメントを試作してみたので使ってみてくれ』と、クローゼに独自に開発した戦術オーブメントを渡した。
その新型戦術オーブメントは、クォーツセットスロットが此れまでの八個から十個に増えており、更にセットしたクォーツのレベルを一段階アップさせると言う中々にチートな性能をしていた。
序にクォーツセットスロットが十個に増えた事で新たに使用可能になった未発見のアーツまで開拓してしまったのだから本気でトンデモナイと言えるだろう。
なんにしてもなのはとクローゼの戦闘力が大幅にアップしたのは間違いなく、其れ自体はリベールにとっては良い事であるな。










黒き星と白き翼 Chapter37
『ちょっとした日常と、新たな戦いと』










ツァイスを出たなのはとクローゼは空を飛んでグランセルに向かっていたのだが、クローゼはなのはにお姫様抱っこされずに自力で飛行していた。
なのはにお姫様抱っこされるのはマッタク持って構わないのだが、なのはもアシェルも居ない状況でも空を飛ぶ事が出来た方が良いと考えたクローゼは試行錯誤を繰り返した末に風属性と空属性の補助系アーツを複数同時発動する事で飛行する術を編み出したのである。
普通は複数の属性のアーツの同時発動など不可能なのだが、神族の血に覚醒したクローゼの高い魔力を持ってすれば可能だったのだ……尤も、補助系アーツの同時発動は攻撃系アーツの同時発動よりも難易度が高かったのだが。


「自分の力で空を飛ぶと言うのも気持ちが良いモノですね?」

「自由に空を飛ぶと言うのは、鳥やドラゴン、飛行魔法や武空術を会得した者の特権だったのだが、まさか複数のアーツを駆使する事で飛ぶとは私も驚きだよ……これで私がお前を抱きかかえる必要がなくなったと言うのは少し寂しい気もするがな。」

「ふふ、偶にはお願いしても良いですか?」

「其れは勿論だ。」


そのままグランセルに向かっていると前方にツァイスからグランセルへ向かう飛空艇が見えて来た。なのはとクローゼがツァイスを出発するよりも前に離陸していたのだが追い付いてしまった様だ。
なのはとクローゼは飛空艇の横を通り過ぎてグランセルに向かう心算だったのだが……


「おや、なのはとクローゼではありませんか。」

「よう、久しぶりだな?」

「なたねとネロ、お前達もツァイスから王都に向かっていたのか。」

「私となのはさんも先程までツァイスに居たのですが……こんな偶然もあるのですね。」


その飛空艇の甲板にはなたねとネロが居た。
ルーアンを一回りしたなたねとネロは、紺碧の塔を見学した後にカルデア隧道を通ってツァイスに向かい、ツァイスを一回りした後はエルモ村まで足を延ばして紅葉亭で温泉を満喫しつい先ほどツァイスの発着場からグランセル行きの飛空艇に乗ったのである。


「如何だなたね、リベールを見て回って何か得るものはあったか?」

「そうですね……取り敢えず、全ての人間が魔族に対して悪い感情を持っている訳ではないと言う事を知る事が出来たのは貴重な事であったと思います。
 此れまでは生きる為に素性を隠してきましたが、敢えて魔族の証である黒い翼だけを出していて、ネロも右腕を露わにしていたにもかかわらずリベールの人達は私達を排除しようとはせず、逆に受け入れてくれました。
 少なくとも、リベールの人達のような人間も居るのであれば、無差別に全ての人間に対して復讐の刃を振り下ろすと言うのは正統な復讐ではないのではと、そう思い始めています。」

「そう思えるようになったのならば上出来だ。
 私とて復讐心は持っているから偉そうな事は言えんが、再会した時よりもずっと良い目をしているぞなたね?瞳の奥に復讐の炎は宿ってはいるが、少なくとも瞳の濁りは大分取れたみたいだな?
 整備と改造が済んだ武器を引き取った帰り道でこうして会うとは、此れも何かの導きかもしれん……今のお前達にならば渡しても問題はないだろう。預かっていた武器を返すぞ。」


なたねの話を聞いたなのはは、なたねもネロも良い方向に変わっている事を確信し、レイジングハートに収納していたルシフェリオンとブルーローズを取り出すとなたねとネロに投げ渡す。


「此れは……」

「不動兄妹に整備を頼んでおいたのだが、整備を通り越して魔改造されてしまったよ……だが、性能は以前と比べ物にならない程に向上しているので其処は安心して良いと思うぞ?」

「いえ、そう言う事ではなく私達に返してしまって良いのですか?」

「今のお前達にならば返しても問題ないと判断しただけの事……もしもお前達が其れを使って暴れるような事があったのならば、私は己の目が節穴であった事を恥じつつ、今度こそお前達に引導を渡すだけだ。」


もしもなたねの目が再会した時から何も変わっていなかったらなのはは武器を返しはしなかっただろうが、リベールを一周して行く先々で様々な人達との交流をして来たなたねは復讐のみに彩られて濁っていた瞳に光が宿り、少なくとも無差別な復讐はしないだろうとなのはは判断して武器を返したのだ。
ネロも変わって行くなたねと一緒に居た事で只の復讐者ではなくなっているようだ。


「返してくれるのは良いんだけどよ、レッドクィーンは?」

「アレは重い上にレイジングハートに収納しようにも容量オーバーになるからグランセル城に送って貰う事にした……明日の昼には着くだろうから、その頃に取りに来てくれ。」

「OK、了解だ。」


ルシフェリオンとブルーローズを返却すると、なのはとクローゼは加速してグランセルに向けて驀進!
飛空艇の最大速度は時速250kmなのだが、其れを余裕で振り切ってしまうなのはとクローゼの飛行速度は時速300kmはあるとみて間違いないだろう……尚、スピードに定評のあるテスタロッサ姉妹は、姉のフェイトの最高時速は500kmで妹のレヴィの最高時速は700kmなのだが、レヴィは雷属性の攻撃を受けた場合には一時的にパワーアップして攻撃力が三倍になり最高時速はマッハ5になるのだった。
フェイトもレヴィもプレシアが実子だったアリシアを基に作り出した人造人間なのだが、フェイトは物理攻撃と魔力とスピードを高めに設定しつつもスタンダードな性能にしたのに対し、レヴィは物理攻撃と魔力とスピードに全振りした事でフェイトにはない特殊能力を発現してしまったらしい……アホの子恐るべしだ。


飛空艇よりも先にグランセルに到着したなのはとクローゼはグランアリーナを訪れて親衛隊の訓練に顔を出したのだが……


「俺は今日は親衛隊の訓練の手伝いに来てんだ!テメェの相手をしてる暇なんぞねぇんだよ!」

「知るか、俺は貴様を殺せるなら場所は何処だっていいんだよ……そう言う訳で死ね京!!」

「お前はお呼びではない……即時この場から立ち去れ!」


訓練の手伝いに来た京に対して呼んでも居ないのに庵が乱入して、稼津斗が庵に禊からの滅殺剛昇竜をブチかましてグランアリーナの外に場外ホームランすると言うカオス極まりない現場に遭遇してしまった……京を殺す為だけにグランセルまでやって来た庵の執念はある意味で表彰物であると言っても罰は当たるまい。
その後は、京とユリアによる模擬戦が行われたのだが、此れは京が圧勝して見せた。
ユリアも嘗てはカシウスに師事し、王室親衛隊の歴代隊長の中でも最強と言われるだけの実力の持ち主なのだが、京は千八百年の歴史がある草薙家に於いて草薙家始まって以来の天才と称されるほどの才能の持ち主である上に、『努力は嫌いだぜ』と言いつつもその裏では地道な修業を続けて来た事で其の実力はリベールで五本の指に入る程になっているのだからユリアを圧倒しても何ら不思議ではないのだ。ユリアはリベールで十本の指に入る実力者で、京は五本の指に入る実力者、それだけの差だったのだ。

京とユリアのバトル以外では、一夏&刀奈のタッグとレオナ&アルーシェのタッグの模擬戦も行われており、連携で勝る一夏・刀奈タッグが押し気味だったのだが、終盤でレオナがオロチの血を覚醒させた事で状況が一変し刀奈をリボルスパークで戦闘不能にすると、間髪入れずに一夏にグランドセイバーで斬り込んでグライディングバスターに繋ぐと、其処からブイスラッシャーを叩き込んでターンエンド!
一夏もブイスラッシャーに対して神龍拳を放ったのだが、僅かに打ち負けたと言う事なのだろう。
因みにヴィヴィオはヴィシュヌとスパーリングをして、新たにタイガーキャノンとタイガーレイドを習得していた。


「……取り敢えず、親衛隊の訓練は問題ないようだな。」

「そうみたいですね。」


親衛隊の訓練を視察したなのはとクローゼはグランセル城に戻って通常業務に復帰して各種書類の処理をする事になった……その書類の多くは、デュナンが溜めに溜めたモノであるのでマダマダ残っているのだがなのはとクローゼは其れをマッハで処理して行ったのだった。
マッハで処理してもマダマダ書類があると言うのはドレだけデュナンが無能な王であったかの証とも言えるだろう……もしもなのはとクローゼがデュナンを討ち倒していなかったらリベールは数年のうちに滅んでいたのかも知れないだろう。

その後は夕食を楽しみ、なのはとクローゼとヴィヴィオは城内に新たに設置された大浴場でお風呂を楽しんだ後に寝間着に着替えて夫々の部屋で眠りに就いた筈だったのだが……


「クローゼ?其れにヴィヴィオも?」

「ふふ、来ちゃいました。」

「今日は皆で一緒に寝よう、なのはママ。」


なのはの寝室にはクローゼとヴィヴィオが居た。
此れにはなのはも驚き、慌てて防護服を解除するのを止めた……流石に娘の前でイキナリ一糸纏わぬ姿になると言うのは憚られたようだ。尤も、慌てて解除を停止した影響で色が黒から白に変わると言う珍事が起こってしまったが。


「皆で一緒に寝ようって言われても、大人三人で寝るには幾ら何でもベッドが小さい……と思ったら、何時の間に私の寝室のベッドは超キングサイズになったのだ?」

「今日は皆で一緒に寝たいからって、なのはママが来る前にお城の人に変えて貰ったの♪」

「……其れ以前に、こんなベッド城にあったか?」

「分解された状態で宝物庫に仕舞われていたみたいで……如何やら叔父様が購入した様なのですが、結局使う事なく宝物庫にと言う事らしくて、ですが物は良いので使わないのも勿体ないので使ってしまおうかと。」

「成程……そして今まであった私のベッドは反対側に移動されたと言う訳か。」


デュナンが買うだけ買って一度も使わなかった超キングサイズのベッドもなのはの寝室にセットされているので、此れならばなのはとクローゼとヴィヴィオの三人が一緒に寝る事も可能だろう。


「一緒に寝るのは構わないが如何したんだヴィヴィオ?これまで別々だったのに……何か怖い事でもあったか?」

「う……なのはママ鋭い。
 実はね、親衛隊の訓練に参加してる時に、リベールに伝わる都市伝説を聞いちゃって……中にはホラー系の話もあったから、ちょっと怖くなっちゃった……」

「リベールの都市伝説……クローゼ、お前知ってるか?」

「噂程度ですが、ジェニス王立学園には旧校舎からしか入れない地下空間があって、其処には太古の巨大な機械兵士が眠っているとか、ミストヴァルトの最奥の場所には稀に二体の使い魔を連れた可成り際どい服装の女性が現れて、その女性と出会うと幸せな夢に引きずり込まれて眠ったままになるとか、ルーアンの夜空には時々白い人影が現れるとか、ジェニス王立学園に通じる街道には時々非常に凶暴なパンダが現れるとか、ツァイスの遊撃士協会の受け付けの女性は未来予知能力を持っているとか、ロレントでは満月の度に『キョォォォォォ!』と言う謎の雄叫びが聞こえるとか……」

「最後のは絶対八神庵だろ。」


ヴィヴィオが一緒に寝たいと言ったのは、昼間の訓練時にリベールの都市伝説を聞いてしまい、その中にはホラーめいた内容もあってすっかり怖くなってしまったからであった……肉体的には十六、七ではあるが精神的には十歳前後なので此れも致し方ない事だろう。


「ルーアンの夜空に現れる白い人影も怖かったんだけど一番怖かったのは、『グランアリーナの亡霊』って言う話だよ~~!
 新月の夜になるとグランアリーナには此の世に未練を残して死んだ武道家の亡霊が現れ、グランアリーナの近くを通った者に戦いを仕掛け、戦いを仕掛けられた者は精神を病んで廃人になるか、狂ったように戦いを求めて彷徨うようになるとか怖すぎるよ~~~!!」

「……其れは、確かに怖いな。何故その様な都市伝説が出来たのかが気になるが。」

「私が生まれる前の話だったと思いますが、恒例行事である武術大会で参加者が試合中に命を落とす事故があったみたいなんです……リベール国外からの参加者だった筈ですが、腕試しで参加した大会で命を落とす事になるとはさぞ無念だった事でしょう。
 その方の事が、何時しかこんな都市伝説を生んでしまったのかもしれませんね。」


都市伝説の裏側には、その都市伝説が生まれた切っ掛けがあるモノだが、この恐怖の都市伝説も確りと裏が存在していた……その起源を知ったところで恐怖が和らぐと言うモノでもないのだろうが。


「こんな話を聞いてしまっては怖くなって一人で眠れなくなるのも無理はないか……分かったヴィヴィオ、今夜は私とクローゼが一緒に寝てやる。お前の両脇に私とクローゼが居れば怖くないだろう?」

「貴女の事は、私となのはさんが守ってあげます。何があっても絶対に……だから大丈夫ですよヴィヴィオ。」

「うん。」


ヴィヴィオを安心させるようになのはとクローゼはそう言うと、なのはは防護服を寝間着に再構成してベッドに……三人で一緒に寝る時に何も着ていないと言うのは流石に拙いと思ったのだろう。
そしてヴィヴィオを挟み込む形でベッドに入ったのだが、ヴィヴィオはなのはに『何か面白い話をして』と言い、なのはは少し考えた末に、『ある所に一匹の猫が居ました。その猫は頭が白いだけでなく身体も白く、手足も白い猫でした。そして其の猫は長くて立派な尾を持っていたのですがその立派な尾も白かったのです。全身真っ白で尾も白い猫。以上、尾も白い話でした。』とまさかのボケ倒しを行い、其れが逆にクローゼとヴィヴィオにはウケていた。
その後クローゼがリベールに伝わる昔話を話したり、なのはが幼い頃に桃子から聞いた御伽噺を話している内にヴィヴィオは眠くなったのかウトウトし始め、やがて寝息を立て始めた。


「眠ったか……」

「そうみたいですね……」


ヴィヴィオが眠った事を確認したなのはとクローゼは其の頬にキスを落とすと、ヴィヴィオを守るかのように寄り添って眠りに就くのだった。








――――――








翌日、なたねとネロは再びロレント郊外にあるブライト家を訪れていた。
以前に訪れた時には外出していて不在だったレナとレンも居り、カシウスから改めて紹介され、なたねとネロも挨拶をした……のは良いとして、同じ頃に京もブライト家を訪れていたのだが、今日訪れていたのは京一人ではなく三人のクローン京も一緒だったのだ。


「草薙京、貴方は四つ子だったのですか?」

「いや、コイツ等は俺のクローン。
 紺の服来てるのがクローン一号で、茶色の服がクローン二号、一際肌が黒くて目が紅くて黒い服なのがクローン三号。完成度としては三号が最も高いんだが、完成度の高さと引き換えに性格面だけじゃなくて何故か声まで俺とは別人になってんだよな。」

「其れはとても興味深い案件ですね。」


略完璧にクローニングしたと思ったら外見以外は別人になってしまったと言うのは中々に謎だが、逆に言うならば完全なクローン人間を作り出すのは簡単な事ではないと言う事なのだろう。


「己のクローンを受け入れてるって時点でお前さんも大したモンだともうがな京。
 其れは其れとして、また俺の所に来たと言う事は、リベールを回ってみて何か得るモノがあったかな?」

「はい……少なくとも、全ての人間が魔族を忌み嫌い排除しようと考えている訳ではないと言う事が分かり、同時に魔族を忌み嫌わずに排除しようとしない人間にまで復讐の刃を振り下ろすのは違うのではないかと、正統な復讐と言うのは無差別なモノでは無いのではないか、そう考えるようになりました。
 ですが、だからと言って私の復讐心が無くなったかと聞かれればそれは否です……だからこそ悩んでいます。カシウス・ブライト、私は一体如何すれば良いのでしょうか?其れが分からなくなってしまったのです。」

「なに、悩む事はないだろ?
 正統な復讐が無差別なモノでは無いと考えられるようになったってんなら、真に復讐すべき相手にだけ復讐をすればいいだけの話だからな……そして、お前さん達の復讐すべき相手は陛下と同じくライトロードだけである筈だ。
 ならばライトロードへの正統な復讐を果たして、その後は好きに生きれば良いんじゃないか?少なくとも、俺はそう思うぞ?」

「……確かにその通りであるのかもしれません……その意見参考にさせて頂きますカシウス・ブライト――リベールを一周して改めて会って、なのはが何故『ロレントを訪れる事が有ったらカシウス・ブライトに会っておくと良い』と言ったのかが理解出来ました。」

「ソイツは俺もだ……アンタの言う事は深いなカシウス。」


京のクローンは兎も角として、リベールを回って全ての人間が魔族を忌み嫌って排除しようとしている訳ではないと言う事を知ったなたねとネロだったが、だからこそ復讐すべき真の相手は誰なのかと悩む事になったのだが、其処はカシウスが改めて復讐すべき相手は誰であるのかを提示した事で、真に復讐すべき相手は誰であるのかをなたねもネロも思い出し、その瞳には純粋な復讐の炎が宿るのだった。
濁りの晴れた目に宿った真の復讐の炎ならば、復讐すべき相手を見誤る事もないだろう……今この時をもって、なたねとネロは真の復讐者となったのだった。








――――――








同じ頃、リベールの空を巡回していたアシェルとジークはリベールに近付いて来る一団を発見していた。
その一団は全員が白い衣を纏い、複数の使い魔的な獣を従えていた……リベールの近郊にライトロードの一団が姿を現したのである――其れも、只姿を現しただけでなく数万と言う凄まじい軍勢でだ。


『グル……グルル……』

『ピュイ!ピューイ!!』



ライトロードの一団の前にアシェルが立ち塞がると、ジークは城に向けて飛び立ち、リベールの守護を司る龍の一体がライトロードと対峙する事に……そしてアシェルは挨拶変わりだと言わんばかりに必殺技である滅びのバーストストリームを放ってライトロードの軍勢を攻撃し、進行を阻止しようとする。


『グルルゥ……!』

『グオォォォォォォォォォォォォ……!』


更に其処にヴァリアスとバハムートも現れ、リベールの守護竜三体がライトロードと対峙する事に――だが、それは同時にリベールとライトロードの戦いの火蓋が切って落とされたと言う事でもある。
そしてこの戦いは、なのはとなたねにとっては過去の清算となる大きな戦いでもあるので絶対に負ける事は出来ないだろう。

なのはとなたねにとっては十年越しの復讐が遂に始まった、そう言っても間違いではないだろう――何れにしてもリベールとライトロードの戦いが始まり、リベール全土が戦場と化すのであった――!










 To Be Continued 







補足説明