リベール一周の旅に出たなたねとネロは、旅が終わったらもう一度訪れる事にしてロレントを発ち、ボースでリベール一のマーケットでの買い物を満喫した後にルーアンを訪れていた。


「前に来た時は直ぐに王都に向かっちまったが、改めて来てみると中々良い街みたいだな此処も?」

「そうですね。
 港町としての活気があふれているだけでなく、観光にも力を入れているようにも見えます……或はなのはが観光と貿易の双方に力を入れた政策をしているのかも知れませんが。
 ですが、ロレントとボースを回って来ましたが……リベールの民は魔族と言うモノに対する偏見がないみたいですね?魔族の証である黒翼のみを展開していたと言うのに、誰も其れに対して何も言いませんでしたから。」

「俺の右腕にもな。
 テメェの国の王様が神族と魔族のハーフだからって訳じゃねぇよな此れは……リベールには、種による差別を是としないってのが根付いてたのかもな。」

「恐らくそうなのでしょうね……全ての人間が魔族を忌み嫌っている訳ではないと言うのは貴重な情報でした。」


なたねとネロはロレントとボースの二ヶ所を回っただけでも、リベールの民は魔族だからと言って差別しないと言う事を実感していた――そして其れは、少しばかりなたねとネロの心に変化を齎している様である。


「時にネロ、そろそろランチ時ではないでしょうか?」

「そうだな?そんじゃ何処か店に――」

「待てコラ食い逃げ~~~!!」

「待てと言われて待つ馬鹿が居るかボゲェ!!」


良い時間になったのでランチタイムに良い時間になったので、何処で食べようかと思っていた所で食い逃げの現場にエンカウント!食い逃げ犯を追い掛けているのは例によって『白飯店』のウェイトレス兼用心棒の乱音だ。


「食い逃げか?遭遇しちまった以上、見て見ぬ振りするのも如何かと思うから……Catch this!」


その食い逃げ犯を、ネロは悪魔の右腕から霊体の腕を伸ばして捕まえるとそのまま地面に叩き付けて一撃KO!……気を失って痙攣してはいるが、生きてはいるので手加減はしたのだろう一応。


「コイツを追い掛けてたみたいだけど、要るか?」

「当然よ!ってか、何だか何処かで見た光景ね此れ?」


こうして無事に食い逃げ犯は御用となった訳だが、なのはと出会った時と略同じシチュエーションに乱音はデジャヴを感じていたようだった……そして、なたねの姿を見て『王様イメチェンしたの?』と口にしたのもまた当然の反応であったと言えるだろう。










黒き星と白き翼 Chapter36
『殺意の波動vsオロチの力=???』










食い逃げ犯を遊撃士のカルナに引き渡した後は、乱音の誘いで彼女が働いている店で昼食を摂る事になり、お勧めのエビ蒸し餃子と生春巻きを注文して、現在ランチタイムの真最中である。


「アンタは王様の双子の妹なのね?道理で似てると思ったわ……王様と違って表情あまり変わらないみたいだけど。」

「これは昔からなので。
 感情の起伏はあるのですが私は其れが顔に出辛いようなのです……子供の頃なのはに、『なたねはもう少し笑った方が良いと思うよ?』と言われたので頑張って笑顔になってみたら顔の筋肉が攣って暫く顔が痛かった記憶がありますから。
 まぁ、其れは其れとして、此の国の新たな王に興味が湧いたからと言ってなのはに勝負を挑むとは随分と無謀な事をしたものですね?私もなのはも武人として名を馳せた父から幼少期より武の手解きを受けているのですから半端な強さではありませんよ?」

「身をもってそれを実感したっての……何なのよアイツ!あんな動き辛そうな服着てるくせに一瞬のスピードはめっちゃ速いし、細身に見えて拳は重いし、トドメの魔法攻撃は極悪な威力だったわよ!!?」

「拳……成程、なのはは相当に手加減したと言う訳ですか。」

「手加減ですってぇ!?手加減なしでって言ったのに!!」

「なのはが手加減しなかったら貴女は死んでいますよ?国王が民を殺したとなれば大問題……其れを避ける為にもなのはは手加減したのでしょう。
 武器ありの戦闘、其れも遠距離砲撃型のなのはが徒手空拳で相手をしたのが何よりの証拠です。」

「手加減してあれ!?王様ハンパねぇ~~~!!」

「本人も充分強いってのに、更に闇属性のドラゴンまで従えてるからな……こう言ったら何だが、他国が国王の暗殺を企てたとしても絶対失敗に終わる未来しか見えねぇのは俺だけか?」


乱音と談笑しながらのランチタイムはなたねとネロにとっては、また一つ人間の良い所を知る事が出来る時間になった様である……ウェイトレスの乱音が特定の客と談笑して良いのかと思うだろうが、乱音に限っては良いのだ。
彼女はウェイトレスであると同時に此の店の用心棒でもあり、彼女のおかげで食い逃げ犯や店に恐喝掛けて来たチンピラを叩きのめせているので店長も彼女にはある程度の自由を認めているのである。


「よう、邪魔するぜ。」

「いらっしゃいませ~~!……ゲッ、ダンテ……」

「オイオイ嬢ちゃん、お客様にそんなあからさまに嫌な顔をするもんじゃないぜ?」

「アンタが来たらこんな顔にもなるってモンでしょうが~~~!ってか、どの面下げて来たのよアンタ!いい加減溜まりに溜まったツケ払いなさいよ!利子トイチで取るわよこの!!」

「わ~ってるって。デカい仕事で金が入ったんでね、ツケ払いに来たんだよ。……と、なたね嬢ちゃんと坊主もいたのか!」

「はい、お久しぶりですね。」

「ツケ溜めるとか、もう少し真面な生活しろよオッサン……」


其処にダンテが来店したのだが、如何やらツケを溜めまくっていたらしく、大きな仕事で金が入ったのでそのツケを払いに来たとの事だった……ダンテは実力だけならばリベールでも唯一カシウスと互角以上に戦えるレベルなのだが如何せん普段の生活は適当極まりないのだ。
デビルハンターとして活きる伝説となっている程の存在でありながら、仕事の報酬の取り分と仲介料の割合を6:4と言うやや取り分多めにするのではなく、8:2にした上でどっちが多く取るかをコイントスで決めると言う事をしている上にコイントスで勝つのは十回に一回程度の割合なので仕事っぷりの割に結構カツカツなのだ。


「はは、そいつは言い返せねぇが、長年染みついちまった生活の癖ってのは今更変えられんさ……そんで、お前さん達の方は如何だい?リベールの都市を幾つか回ってみて何か掴めそうか?」

「そうですね……少なくともリベールの民は、魔族だからと相手を嫌悪し排斥する者では無いと言う事が分かりました。……人間は、魔族を忌み嫌い排斥するモノだと思っていましたが其れは間違いであったようです。
 十年前のあの日、父が魔族であると言う事を知った途端に手の平を返したあの村の人間とは違うようですね……そして、そうであるのならば確かに人間だからと言って無差別に復讐の刃を向けると言うのは間違いであるのかもしれません。
 そして、その中で魔族も全てが滅ぼすべき相手ではないと思いました……ずっと忘れていましたが、私となのはは子供の頃魔王の一人であるルガールにはとても可愛がって貰った事を思い出しました。
 母を追放した神族に関しては未だ良い感情は持てませんが、人間と魔族に関しては取り敢えず無差別な復讐の刃を向けるべきではないのかも知れないと、そう考え始めています。」

「だから、カシウスの言ってた事も今なら分かる……復讐はしない方が良いが、一方で復讐は正当な権利だから復讐すべき相手にのみ復讐するのならば兎も角として無差別に復讐の刃を向けるのは良くないってのがな。」

「おぉ、流石はカシウス良い事言うねぇ?」


其れは其れとして、ネロとなたねの意識は随分と変わって来ているようである。
此れならばリベール一周の旅を終える頃には復讐に染まり切ってしまったなたねの心も相当に変わっているのかも知れない……復讐心を完全に消す事は出来なくとも、少なくとも無差別に復讐の刃を振り下ろす事は無くなる事だろう。多分。








――――――








――王都グランセル・グランアリーナ


グランアリーナでは今日も今日とて王室親衛隊の訓練が行われており、現在は一夏とヴィヴィオがスパーリングを行っていた。
戦闘力ならばヴィヴィオの方が上だが、一夏は稼津斗に鍛えられており、ハーメル村跡を拠点にしようとやって来た野盗を撃退して来た実戦経験の豊富さでヴィヴィオを上回っていた。


「ヴィシュヌお姉ちゃん直伝!タイガァァ……ジェノサイド!!」

「ヴィシュヌの奥義か!……だが、そいつは何度も見てる!其れにヴィシュヌと比べたらマダマダ精度が甘い!その程度の技じゃ俺には通じないぜヴィヴィオ!」

「わわ!?」

「コイツで決まりだ!喰らえ、神龍拳!!」


ヴィヴィオはヴィシュヌから教えて貰った飛び膝蹴りからジャンピングアッパー二連続に繋ぐタイガージェノサイドを繰り出したが、その技は一夏も知っている上にヴィシュヌと比べたら精度が低いのでアッサリと捌かれた上でカウンターの神龍拳を叩き込まれて勝負あり。
戦闘力がドレだけ高くとも、実戦経験の有無と言うのは矢張り大きかった様だ……とは言っても、ここ数日でヴィヴィオは主に鬼の子供達の技を覚えて戦いの幅が大きく広がり、日々急成長してはいるのだが。


「残念、負けちゃいましたか。」

「ヴィヴィオは確かに強いが、十年前のハーメルの地獄を体験し、その後十年間鬼に鍛えられて来た一夏には未だ敵わんのだろうな……そして、本気を出した鬼には私も勝てる気がしない。」

「あはは……」


この訓練はなのはとクローゼも見学しており、ヴィヴィオと一夏のスパーリングも当然見ていたのだが、其れ以上に凄かったのは訓練に参加した稼津斗と一夏と簪を除く鬼の子供達の模擬戦だった。
稼津斗一人に対して、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、マドカ、夏姫の六人で挑んだのだが、稼津斗は其の六人の連携をものともせずに迎撃、或は阿修羅閃空で回避して殆どダメージを受ける事なく、最後は殺意の波動を発動してから拳を地面に叩き付けて巨大な気の柱を発生させる技『金剛獄滅斬』を使って刀奈達をKO。
刀奈達も充分に強いのだが、其処は育ての親にして武の師匠である稼津斗の方がまだ何枚も上手だったと言う事だろう――殺意の波動を使わせるに至った事を考えると、素の状態では些か厳しいと稼津斗は考えたのだろうが。

その模擬戦を見ながら、鬼の子供達の中で唯一のバックスである簪は手元の端末を操作しながら何かをやっていた。模擬戦の記録映像を再生しながらコンソールを叩き、一夏とヴィヴィオ、稼津斗と刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、マドカ、夏姫に何らかの数値を発生させて行く。


「不動兄妹が試作したと言う戦闘力を数値で可視化する機械のモニターとの事だったが、良いデータは取れたか簪?」

「うん、バッチリ。取り敢えず今の模擬戦で一夏達の戦闘力は計測出来た。
 一夏の戦闘力は十六万、ヴィヴィオは二十二万、刀奈とヴィシュヌが十五万七千、ロランが十五万六千五百、グリフィンが十五万七千百、稼津斗さんは測定不能。」

「測定不能って、その機械は幾つまで計測できるのでしょうか?」

「遊星さんは、『取り敢えず百万までにしておいた。』って言ってたから、稼津斗さんの戦闘力は最低でも百万一以上はあると言う事……因みにクローゼさんは十万ジャストで、なのはさんの戦闘力は五十……三万です。」


簪が使っていた端末は不動兄妹が試作した、『戦闘力を数値化して可視化する機械』だったらしく、試作機のモニターを頼まれた簪は模擬戦の場で戦闘力を計測していたと言う訳である。
別に戦闘中でなくとも計測は出来るのだが、戦闘中に計測する事で数値の変化が出ないかどうかをチェックしていたと言う事だろう……その結果、数値の変動は見られなかったので、『気や魔力を大きくした際の戦闘力の変化も計測出来るようにした方が良い』と言うモニター結果を不動兄妹に提出する事になりそうである。


「それにしても、戦闘力の可視化とは面白い事を考えたモノですが、アナライズで調べた際のステータスとはまた異なるのですね?アナライズで一夏さんの事を調べると攻撃力は千五百、防御力は千四百と言う風に出るのですが……?」

「戦闘力と言うのは細かいステータスではなく、全てのステータスをひっくるめた大まかな数値と言う奴なのだろうな……私のヴァリアスは攻撃力二千四百、防御力は二千だが、戦闘力で言えば四十万位になるのかも知れん。」

「となるとアシェルとバハムートは余裕で六十万位になりますね。」


戦闘力は大まかな数値であり細かいステータスは計れないが、アナライズを使う手間なく瞬時に相手の大まかな力と言うモノを計測出来ると言う点では優れていると言えるだろう……今回の機械は試作品なので、此れから改良を重ねて戦闘力の変化の計測や小型化をして行くのであろうが、不動兄妹ならばそう時間が掛からずに携帯できるサイズの戦闘力測定器を作ってしまいそうなのが少し恐ろしい所ではある。


「いやはや精が出る事だ、結構結構!王の守護を司る親衛隊であるのならば、日々鍛えなくてはなるまい。」


そんなグランアリーナに現れたのはルガール。未だ魔界には帰らずにリベールを満喫しているようだ。


「ルガール、いいかげん魔界に帰らなくても良いのか?」

「なに、魔界の不穏分子であった連中は、桃子殿の殺害を行った者と共に魔王として全て粛清したので今の魔界は平和其の物なのでね、私一人が居ないからと言って何か問題が起きるでもなし。
 仮に何か問題が起きたところで、秘書二人とペットの黒豹のロデムで何とかなる。私に大きく劣るとは言え、秘書二人とロデムは中級魔族級の力はあるからね。」

「帰らなくても大丈夫であるのならば何も言いませんが、ルガールさんは此処に如何言った御用件で?」

「私の要件は実にシンプルなモノでね……少しばかり『鬼』と手合わせをしたいと思って此処に来た次第なのだよ。」

「……ほう、俺と手合わせを望むか。」


ルガールがグランアリーナにやって来た目的は稼津斗との手合わせを望んでの事だった。
オロチの力を取り込んだルガールは、殺意の波動にも興味を持ち、其れが如何程の力であるのかを自ら確かめたかったのだろう……今日の今日まで、中々稼津斗に出会う事は出来ず、グランセルの市民に稼津斗の事を聞いて回って漸くグランアリーナに辿り着いた訳だが。

稼津斗は稼津斗で、己との手合わせを望むルガールに対し、其れを受ける気で居るようだ。
元より強者との手合わせ、取り分け『死合う』事を望む稼津斗にって強者との戦いは願ってもない事であり、稼津斗とルガールの利害は完全に一致していると言う訳なのである。


「勝手に話を進めるなと言いたい所だが、言って止まるモノでもあるまい。
 強者同士の戦いと言うのは見るだけでも得るモノがあるしな……ヴィヴィオ、模擬戦が終わったばかりでスマナイが、結界を張ってくれ。稼津斗とルガールが本気で戦ったらグランアリーナが崩壊しかねん。」

「お任せあれなのはママ!」


既に高まっている稼津斗とルガールの闘気に、なのはは『此れは止められない』と判断してヴィヴィオに結界を張らせ、以前になたねと戦ったのと同じ空間を作り出させる――この空間の中でならば、ドレだけグランアリーナが壊れようと結界の外にある現実のグランアリーナには一切の影響はないのだから安心であると言えるだろう。


「なのはさん、良かったのですか?」

「言って止まらないモノは止めるだけ徒労だからな、本人達の気が済むまでやらせた方が良い……まぁ、一応のルールとして相手を殺すのだけは絶対にNGだ。稼津斗もルガールも其れは守って貰うぞ?」

「私は死んでも復活するから大丈夫だがね?と言うか、復活は趣味!」

「復活は趣味……最早突っ込んだら負けな気がしてきました。」

「突っ込まなくて良いぞクローゼ……死んでも復活して、復活するたび強くなるとかもう意味が分からんからな。」


取り敢えず復活とは趣味でやる事ではないだろう。
それはさておき、結界が張られた事で心置きなく戦う事が出来るようになった稼津斗とルガールは、夫々殺意の波動とオロチの力を解放し、稼津斗は肌が浅黒くなって目と髪が紅くなり、ルガールは肌がグレーになり髪が銀色に変わる。


「お手並み拝見と行こうか?」

「ウヌが力、見せてみよ!」



――推奨BGM【The lord GOD】



こうして始まった鬼と魔王の戦いは、先ずは稼津斗が剛波動拳を、ルガールが烈風拳を放って互いに小手調べから。
剛波動拳と烈風拳はぶつかって相殺したが稼津斗は剛波動拳を放つと同時にジャンプして斬空波動拳を放ち、更に天魔空刃脚で急降下の蹴りを放ちながらルガールに肉薄し、攻撃をガードしたルガールを巴投げで投げ飛ばす。


「此の程度ではあるまいな?」

「ハッハー、もっと攻めて来たまえ!」


投げられたルガールは空中で受け身を取って着地すると稼津斗を手招きし、それに対し稼津斗は灼熱波動拳(ヴィシュヌの灼熱波動拳は気功波だが、此方は巨大な気弾)を放つが、ルガールは自身の周りにバリアを張って其れを防ぐとバリアを其のまま飛び道具として放つ。
稼津斗は剛波動拳で其れを相殺しようとするが、放たれたバリア『グラヴィティスマッシュ』は剛波動拳を貫通して飛んできたため阿修羅閃空で其れを躱したのだが……


「その動きは読んでいた……潰れろ!」


阿修羅閃空の先に移動していたルガールは稼津斗の首を掴むと地面を滑るように高速移動してグランアリーナの壁に叩き付け巨大な気の柱での攻撃を加える。気の柱の中に髑髏が見えたのは気のせいではないだろう。


「今の一撃、申し分なし!滅殺……うおりゃぁぁぁぁ!!」


だが其れを喰らった稼津斗も直ぐに復帰し、剛昇龍拳→滅殺剛螺旋のコンボを叩き込んでルガールを吹き飛ばす。


「むぅぅぅぅぅん……滅殺!!」

「うぬぅぅぅぅぅ……カイザー、ウェイブ!!」


そして互いに気を溜めると稼津斗は無数の剛波動拳を放つ滅殺剛波動を、ルガールは特大の気弾であるカイザーウェイブを夫々放ち、無数の気弾と極大の気弾はぶつかって大爆発を起こす。
その爆発の粉塵を突っ切ってルガールは稼津斗に肉薄すると胸倉を掴んで持ち上げ手元で気を炸裂させてダメージを与えたが、稼津斗も負けじと空中で体勢を立て直して無数の斬空波動、天魔剛斬空を放つ。


「受けてみよ、ぬおりゃぁぁぁ!!」

「ジェノサイドカッター!」


更に稼津斗の上空からの手刀、禊とルガールのジェノサイドカッターがかち合って激しいスパークを巻き起こす……あまりの超次元バトルに、親衛隊の隊長であるユリアですら開いた口が塞がらないと言った状態になってしまってるのは致し方ないだろう。
其処からも稼津斗とルガールの一進一退の攻防は続き、互いに譲らなかったのだが、其れだけに削り合いの戦いになってしまい、気付けば二人ともボロボロになっていた。


「殺意の波動、堪能させて貰った。」

「ルガール、その名覚えておこう。」


此処で稼津斗とルガールは此れまで以上に闘気を高め、決着の為の一撃を放つ準備をする……気を溜めている間が無防備と言うなかれ。稼津斗やルガールのレベルになると、気を溜めている間は己の周囲に不可視のバリアを張る事が出来るので、気を溜めるのを妨害される事はないのだ。


「行くぞ……滅殺!ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「カイザー……フェニックス!!」


最後の技として選んだのは、稼津斗が特大の気功波である滅殺剛波動・阿形で、ルガールも特大の気功波であるカイザーフェニックスだった。
その威力は略互角で何方も譲らず押し合いと圧し合いが続く……その余波だけでグランアリーナの観客席が崩壊しているのを見る限り、なのはがヴィヴィオに結界を張らせたのは間違いではなかったようだ。



――バガァァァン!!



やがて二つの極大気功波はぶつかり合ったところがエネルギーの飽和状態を越えて爆発してド派手に相殺し、爆発の粉塵が治まった後には稼津斗もルガールも地に膝をついてグロッキー状態となり、殺意の波動とオロチの力も解除されていた。
殺しはNGのルールの下であっても、殺意の波動とオロチの力の激突と言うのは相当に凄まじいモノであったと言えるだろう。


「今のバトルにレヴィをぶち込んだら面白い事になるんじゃないかと言う件について。」

「其れ収拾つかなくなりません?」

「収拾がつかなくなったその時は、プレシアに何とかして貰う。或は不動兄妹にサンダーボルトかブラックホールを発動して貰えば問題あるまい?」

「其れは其れで大問題な気がしなくもありませんが……」


取り敢えず鬼と魔王の戦いは両社戦闘不能と言う結果で幕を閉じたのだが、此の戦いを見ていた一夏からほんの僅かではあるが殺意の波動特有の闇色のオーラが出ていた事には誰も気付いていなかった。








――――――








その日の夜、なのははグランセル城の空中庭園にて満月から欠け始めた月を眺めていた――否、欠け始めた月を睨みつけていると言った方が正しかもしれない。それ程までに月を見るなのはの眼光は鋭いモノになっていたのだ。


「眠れませんか、なのはさん?」

「クローゼか……あぁ、如何にも気分が昂ってな。」


其処にクローゼが現れ、互いに欠け始めた月を見やる。


「紅い月……何とも不気味ですね?」

「あぁ、魔界では欠け始めた月が紅く染まるのは不吉の前兆とされているからね……此れは、ライトロードとの戦いはそう遠くないのかも知れないな?……十年も待ったのだから、連中との戦いは望む所ではあるがな。」

「なのはさん……そうですね、十年越しの復讐を果たす時が近付いているのかもしれません。」


欠け始めた月は紅く染まっており、其れは魔界において不吉の前兆とされているのだが、なのはは其れをライトロードとの戦いの予兆だと考え、クローゼもその時が近付いているのかも知れないと感じている様だった。


「ライトロードとの戦いは、恐らくリベール全土を巻き込んだ激しいモノになるだろうが……私はリベールの民は只の一人の犠牲も出さないと誓おう。私の誇りとお前の名に誓うよクローゼ。」

「ならば、私も何があろうとも貴女を支える事を誓いましょうなのはさん。私の誇りと、エイドスの名に誓って。」

「其れは、最大級の誓いだな。」

「なのはさんも其れは同じでしょう?」

「其れは確かにな。」


互いに誓いを立てると、その誓いは絶対の証である事を示すように月下での口付けを交わす……不穏な紅い月光の下で交わされた口付けの様子は、地獄の絵師が腐肉と血で描き切った絵画の如き背徳の美しさに満ちていた。








――――――








その頃、エサーガ国領のライトロードの拠点では――


「我等は戦いの勘を取り戻した!よってこれより、魔王の娘が治めている呪われた国であるリベールに攻め入る事とする!リベールに巣くう、魔の根を全て滅ぼし、リベールを解放するのだ!」

「「「「「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」


数日間のトレーニングで戦いの勘を取り戻したライトロード達がリベールへ攻め込む事を決定していたのだった……!










 To Be Continued 







補足説明