十年振りの再会を果たしたなのはとなたねだったが、なたねが言った『人間、魔族、神族、全てに対しての復讐』に関してなのはは同意する事は出来なかった。
確かになのはもライトロードへの復讐は考えているのだが、復讐すべき魔族は悪魔将軍によって粛清され、父と姉の殺害に加担した村人と、母を天界から追放した神族に関しては、『不破士郎の娘が生きていて、リベールの王になった』と言う事実をもって、『若しかしたら復讐されるのではないか?』と言う何時終わるとも知れない恐怖を与える事で、一応の復讐としていたので同意出来なかったのだ。

もっと言うのであれば、なのははライトロードへの復讐を考えてはいるが、復讐を果たした先には、『全ての種が差別なく生きる事が出来る世界』の実現を目指しているのに対し、なたねは復讐だけが目的となってその先がない……少なくともなのははそう感じたのだ。


「ふくしゅうね……過去に習った事をもう一度学び直す事か。」

「其れは復習です。」

「海の向こうの東方のある国にそんな名前の都市があったと思うのだが。」

「其れは福州です。」

「主に付き従い逆らわない事か。」

「其れは服従です。」

「腹が痛い。」

「腹痛です。……ボケ倒しもいい加減にして下さい。」


取り敢えずボケ倒して有耶無耶にしてしまおうと言う作戦は失敗に終わった。
尤も此れが成功してしまったら、其れは其れでなたねが色々大問題であると言えるだろう……テスタロッサ家の愛すべきアホの子ならば此れで煙に撒けるかも知れないが。


「冗談だ。しかし復讐か……少なくとも街中でする話ではないから場所を変えるとしよう。
 お前は兎も角、今の私はリベールの王だ。其れが民衆の前で復讐だのなんだのと話をしていると言うのは宜しくないからな?お前も其れ位は分かってくれるだろうなたねよ?」

「構いませんよなのは。私も、貴女とちゃんと話をしたいので。」

「と言う事なのでヴィヴィオ、私達を空中庭園まで転移させてくれるか?なたね達の車は……正門前広場にでも転移しておいてくれ。」

「うん、了解です!」

「序に其の車、其れなりに整備をしているみたいだが中々使い込まれて色々と年季が入っている様だから、リベール一の整備士に頼んで整備して貰おうか?彼の腕に掛かれば、新品同様にフルレストアしてくれるだろうさ。代金は此方で持つ。」

「良いのかよ?こっちとしては助かるけどよ。」

「姉から妹とそのパートナーへ、再会のプレゼントと言う奴だ、気にするな。」


一先ず話の内容が内容なので、場所をグランセル城の空中庭園に移し、車は正門前広場に転移させた。一度の転移魔法で複数人移動させるだけでなく、車だけ別の場所に転移させるとは、ヴィヴィオの転移魔法は相当にレベルの高いモノだと言えるだろう。
尚、車の整備を依頼された不動兄妹は、今では珍しいクラシックなワゴンを改造した車に驚いたが、滅多に整備出来るモノではないので気合を入れて整備をするのだった……その整備を、スパナ型の頭をした精霊が手伝っていたとか何とか。











黒き星と白き翼 Chapter32
『黒星と灼星~交わらない二つの道~』










空中庭園に転移したなのは達は、ティータイムで使用しているガーデンテーブルに着く。なのはとなたねが向かい合うように座り、なのはの右側にクローゼ、左側にヴィヴィオが座り。なたねの右側にネロが座ると言った感じだ。


「時にネロだったか?
 その右腕にも少し驚かされたが、背負っている剣も中々に凄そうだな?その重厚な感じ、アガットや志緒が使う重剣にも匹敵すると思うが、お前は其れを自在に振り回す事が出来るのか?」

「あぁ、出来るぜ?ま、俺以外にも振り回せる奴は居るかもしれないが、コイツには特別なギミックが仕込まれてるから、其れを含めると俺以外に使い熟せる奴はいねぇだろうけどな。」

「特殊なギミックですか?」

「イクシードつってな。
 グリップ部分を捻ったり、引き金を絞る事で剣内部のエンジンを起動させて斬撃の威力を爆発的に強化してくれるんだが、そのタイミングが中々にシビアでな……少なくとも並の奴じゃ使い熟せねぇ。」

「夏姫お姉ちゃんのガンブレードみたいな感じかな?」


復讐云々の話をする前に、先ずは別の話題を振って主導権を掴もうとする。
本筋とはマッタク関係ない話題を振って雑談をしながら会話の主導権を握り、自分のペースで話を有利に進めると言うのも、なのはが此の十年で身に付けたモノだ。今回は話の有利不利は兎も角、内容が内容だけに主導権は握っておきたかったのだろう。


「此の剣、レッドクイーンはネロが自分で作り上げたモノですから、ネロ以外に使い熟せないのは道理と言えるでしょう。序に、ネロは銃も使うのですが、その銃も既存のモノをネロが独自に改造したモノですので。」

「お前のパートナーは意外と器用なんだな?……ならば、車の方もフルレストアすれば良いと思うのだが、その辺は如何考える?」

「車は取り敢えず動けば其れで良いからな。」

「そう言う事です。
 さて、話が逸れましたが、一国の王となり絶大な権力と兵力を手に入れたと言うのに、貴女は何故復讐の為の戦いを始めないのですかなのは?一国の軍隊をもってすれば、ライトロードだけでなく魔族や神族と戦う事も可能でしょう。
 まして、人間を滅ぼす事など造作も無い筈……なのに、何故復讐を始めないのですか?」


先手はなのはが取ったが、即座になたねは話題を本筋に戻して来た……双子の姉妹だけに、なのはの思惑を理解し、なのはにペースを握らせんとしたのだろう。姉妹間では中々に駆け引きと言うのも難しいモノがあるみたいだ。


「私はリベールの王だ。
 王が自分の私怨で戦争を出来る筈が無かろう?其れに、母さんを殺した魔族は悪魔将軍によって粛清され既にこの世には居ない。
 母さんを天界から追放した神族は許せんが、彼等は母さんを追放しただけで其れ以外に何かをした訳ではないので、武力をもって復讐すると言うのは些かやり過ぎと言うモノだから、神族の連中は、父さんと姉さんの殺害に加担した村人共々、私がリベールの王になったと言う事実で『若しかしたら復讐されるかも知れない』と言う恐怖を与えてやった方が単純に殺す以上の苦しみになるだろう。……私が生きている限り、その恐怖は続くのだからな。
 ライトロードには当然復讐するが、連中は十年前にハーメルを襲ったのを最後に活動が鈍化していて、今は何処で何をしているのかも分からんから攻撃しようもないと言うのが正直な所だ。
 お前もこの十年、ライトロードの動向は掴めていないだろう?」

「其れは……否定はしません。
 ですがなのは、貴女の復讐対象はライトロードだけなのですか?魔族、神族、そして人間全てに復讐するのではないのですか?」

「あぁ、私の復讐相手は、今やライトロードだけだ。」


だが、本筋である『復讐』に関しての話でも、なのはは『復讐すべき相手はライトロードだけだ』とキッパリと言い切って見せたのだが、其れを聞いたなたねは少しばかり苦い顔をする。
なたねはなのはも自分と同様に魔族、神族、人間と全ての種に対しての復讐を考えているモノだと思っていたのが、実はそうではなかったと言う事を知ってしまったからである。


「何故です?母を天界から追放した神族、母を殺した魔族、そして父と姉を殺したライトロードと人間……其れ等は等しく復讐の相手だった筈でしょう?」

「確かに、私もそう考えていた事はあったさ。
 だが、十年前にクローゼと出会った事でその考えは間違いだと気付いた……人間は魔族を忌み嫌っているモノだと思っていたが、クローゼは魔族の証である黒い翼を持っている私に対して手を差し伸べてくれたんだ。『魔族であろうと人間であろうと、命は平等である』と言ってな。
 故に、全ての種に対して無差別に復讐をするのは間違いだと悟った……復讐すべき相手に復讐するのは復讐者の権利だが、復讐すべき相手以外にも剣を向けると言うのは正しい事ではなく、其れを行ったら其れはもう只の破壊者だ。」

「詭弁ですね……人の気紛れに絆されてしまうとはガッカリです。十年の間に腑抜けになりましたか。」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞなたね。
 腑抜けとは言わんが、お前はこの十年ですっかりと目が曇ってしまったみたいだな?全ての種に対して無差別に復讐を行ったら、其れは『魔族だから』と言う理由だけで父と姉を殺したライトロードと何が違う?」

「彼等は何の罪もない父と姉を殺しました。
 ですが、私には復讐をする理由があります……人間も魔族も神族も、滅びるべきなのです。」

「如何やら、根本から分かっていないみたいだなお前は……お前にもクローゼのような存在が居たらまた違ったのかも知れないが、今のお前は復讐に取りつかれて其れ以外の事を考える事が出来なくなってしまっているみたいだな。」


話は平行線。
なのはにとってライトロードへの復讐は、己の目的を達成する為に必要な工程の一つであるのに対し、なたねはライトロードだけでなく、全ての種に対しての復讐を考えており、復讐其の物が目的となっている……復讐の先があるなのはと、復讐が終着点であるなたねでは、そもそもにして話が成り立たないのだろう。



――バサッ……!



そんな中、空中庭園を大きな影が覆ったかと思ったら、ヴァリアスとアシェルとバハムートが空中庭園の縁に降りて来た。
ヴァリアスとアシェルとバハムートは、最近はフルサイズでリベールの上空の警備を行っており、リベールに近付く不審な飛行船を見つけたその時には必殺のブレスと火炎弾で爆殺して、リベールを空から守護しているのだ。
青き眼の白龍と紅き眼の黒竜、混沌の覇龍は今やリベールの守護神として、嘗てのリベールの象徴である白隼と同じくらいの存在となり、新生リベールの国旗に其の存在を表しても良いのではないかとすら言われているのだ……ミニマム時には、先輩(?)であるジークに叱られる事が有るにしてもだ。


「此れは、ドラゴン?」

「マジかよ、初めて見たぜ……!」

「そう言えば紹介して居なかったな?
 私の相棒の真紅眼の黒竜のヴァリアスだ。」

「私の相棒である青眼の白龍のアシェルです。」

『強靭!無敵!最強!粉砕!玉砕!!大喝采!!!』

「私の相棒の混沌帝龍のバハムートだよ!」


その圧倒的な存在感に驚くなたねとネロに、なのは達は夫々のドラゴンを紹介する……クローゼがアシェルを紹介する際に、何か聞こえた気がするが、其れを気にしてはダメだろう。ダメな筈だ。


「まさか、ドラゴンまで使役しているとは思いませんでした……ですが、此れだけの力を持っていながら復讐の為の戦いを行わないのですか貴女は?」

「ライトロード以外に復讐する気はないからな……そのライトロードも行方が知れんが、私がリベールの王となったと言う事を知れば、必ずやリベールに対しての攻撃を行うだろうから、其処を狩ってやる心算だ。連中の方から攻撃してくれれば、私にも『国と民を守る為』と言うライトロードと戦う為の大義名分も生まれる。そして、リベールが攻撃を受けたとなれば、同盟関係であるエレボニアとカルバートとて黙っている事は出来ん……私を狙ってリベールを攻撃した時点で詰んでるんだ連中は。
 だが、この答えではお前は納得しないのだろうなたね?お前は、ライトロードのみならず全ての種への復讐を考えているみたいだからな?」

「勿論です。」

「まぁ、其れもまた一つの考えだが……なたねよ、お前は全ての種に対しての復讐を果たしてたとしてその先は如何する?今のお前は、復讐を果たす事が生きる意味になっている様に感じるが、目的を果たしたその暁には生きる意味を失って只日々を空虚に生きる心算か?或は、目的を果たした事で満足し自ら命を絶つか?」

「……其れも、良いかも知れませんね。」

「そうか……ならば尚の事、私はお前の目的を是とする事は出来ん。だが、いくら言葉で言った所でお前は聞かんだろう?ならば、身体で分からせてやる。……ヴィヴィオ、結界張れるか?」

「うん!任せてなのはママ!」


復讐の果てに何のヴィジョンも持っていないなたねに対し、なのはは『その目的を認める事は出来ない』と言い放つと、ヴィヴィオに結界の展開を言い渡し、ヴィヴィオは結界を展開して世界を反転させる。
その瞬間世界はセピア色になったが、其れはヴィヴィオの結界で世界が反転したからだ。
この反転世界は結界内に居る者達だけしか存在出来ず、外から入る事は基本的には不可能で、結界内で建物が壊れようとも、現実世界には一切の影響がないと言う中々の優れモノなのである。


「見事な結界だな。
 さて、フィールドは整った……来いなたね。姉としてお前の歪んだ復讐心を否定してやる。」

「ならば私は貴女に正しき復讐心を思い出させて差し上げましょう。」


なのはがなたねにレイジングハートを向けると、なたねもなのはにルシフェリオンを向け、そしてオープンコンバット!


「パイロシューター!」

「アクセルシューター!」


先ずはなたねが小手調べに誘導弾のパイロシューターを放ったが、なのはは其れに対してアクセルシューターを放ってなたねのパイロシューターを相殺……するだけでなく、誘導弾の絶対展開数の差で勝るなのはは、相殺されなかったアクセルシューターをなたねにぶつける。


「此の程度……!」


なたねはルシフェリオンで其れを振り払うと、なのはに肉薄しルシフェリオンでの直接攻撃を行うが、なのはは其の攻撃を略ノールックでレイジングハートを使って対処する……流れるように無駄のない動きで対処するなのはの姿は、一種の芸術であると言っても過言ではないだろう。


「スマッシャー!」

「!!」


更になのはは、近距離用の砲撃をブチかましてなたねを吹き飛ばす!必殺のディバインバスターと比べたら大幅に威力は落ちるのだが、其れでもなたねを大きく吹き飛ばすには充分な威力だった様だ。


「ブラストファイヤー!!」

「ふん、小賢しい!」


だが、なたねは態勢を立て直すと得意の直射砲を放ったが、其れはなのはに片手でいとも簡単に止められてしまった……なのはのグローブの表面は焦げているのでノーダメージでは無かったのだろうが、其れでも必殺の直射砲を片手で受けきると言うのは相当だろう。
本来ならば充分に回避出来る攻撃だったが、敢えて片手で受け止めて見せたのは、早い段階でなたねの心を折る心算なのかも知れない


「私のブラストファイヤーを片手で……!」

「子供の頃は互角だったが、この十年で私とお前には決定的な差が出来てしまった様だな?……私は、戦いが始まった時から殆ど動いていないぞなたね?」

「!!!」


加えてなのはは、戦闘開始時から殆ど動かずになたねの攻撃に対処していたのだ。
こうなると、なのはとなたねの実力差は相当あるように思えるが、実のところなのはとなたねには其処まで大きな実力差は無かったりする。なのはもなたねも、ライトロードとの戦いに備えて鍛えていたし、実戦も何度も経験して今では魔王に匹敵する力を身に付けているのだ。
にも拘らず戦いに於いて差が出てしまっているのは、偏に十年間の生活の違い、其の違いからくる心構えだと言えるだろう。
なたねは己を鍛えてはいたが、仲間と呼べる存在はネロだけであり立場も対等……なたねとネロにはそれぞれ背負うモノがないのだ。
無論、唯一無二のパートナーなので互いに背中を任せられる関係ではあるが、同時に自分の身は自分で守るとの考えもあるのでパートナーではあるが背負っているのは自分の命だけなのだ。
対するなのはは最初に仲間となったのが己に忠誠を誓ったクリザリッド、つまり対等ではない部下を得たのだ……そして其の部下と共に組織を大きくして行く中で、なのはには組織のトップとして仲間や部下の命を預かる覚悟と自覚が芽生え、リベールの王となった今ではリベールの国民全員の命を預かる立場となり、背負うべきモノはより大きくなったが、それがよりなのはの力を底上げしているのだ。背負うべきモノ――もっと分かり易く言うのであれば、『護るべきモノ』の有無の差だ。
此処に、復讐は理想を現実にする過程の一つでしかないなのは、復讐が到着点のなたねと言う、復讐の先がある者と、復讐でお終いの者との違いも加われば、基礎能力は互角であっても差が出るのは当然と言えるだろう。
護るべきモノがあって未来を見据えている者と、護るべきモノは無く未来を見ていない者では、其処に圧倒的な力の差が出てしまうモノなのだ。


「今のお前では私に勝つ事は出来んよ。
 いや、私に勝つ事が出来ないどころか、復讐を果たす事すら出来ん……今のお前では、精々ライトロードの連中を二、三人殺すのが精一杯。……そして、ライトロードの報復によって命を落とすのが関の山だ。
 復讐に囚われ、憎悪で目を曇らせてしまった奴は何一つとして成し遂げる事は出来ん……其れが分からないのかお前は?」

「何を馬鹿な……復讐心を忘れず、憎悪の炎を燃やし続けて来たからこそ、私は今まで生きてこられたんです。燃え滾る復讐心、怒りと憎悪……其れが私を強くしたとも言えます……私は其の力で、貴女に真の復讐心を思い出させます。」

「ふん、そんな染みったれた強さでは私には到底届かんよ。
 其れに、お前何か忘れてないか?今でこそタイマンだが、私はやろうと思えば何時でもお前達を倒す事は出来るんだぞ?ヴィヴィオとバハムートをネロにぶつければ勝てずとも暫く抑えておく事は出来るだろう。
 その上でクローゼ、そしてヴァリアスとアシェルがこの戦線に加わったら果たしてどうなるだろうな?私一人に勝てないのに、今や上級神族に匹敵する力を得たクローゼと、光と闇の上級ドラゴンを相手にして真面に戦えるのか?」

「……!」


加えて此の場での戦力差と言うのも大きいだろう。
なたねの戦力は自身とネロだけなのに対し、なのはにはクローゼとヴィヴィオ、そして夫々が使役するドラゴンに加えて王室親衛隊と言う王直属の部隊まで存在しているのだ……戦闘が始まる前から、なたね達には敗北の道しかなかったと言えるだろう。


「此れが私とお前の差だなたね。
 だが、命までは取らん。此れでも姉妹だからな。……しかし、二度と私の前に現れるな、その考えを改めるまではな。終わりだ。」


此れ以上の戦いは無意味だと、なのははなたねに背を向ける。
しかしそれは、なたねにとっては屈辱だった。『此れ以上戦う価値はない』と、そう言われたも同然なのだなたねにとっては。だからこそ、黙っている事など到底出来るモノでは無かった。


「……ディザスター・ヒート!!」


背を向けたなのはに三連続の直射砲を発射!
普通ならば完全に背後から放たれた攻撃故に、なたねの声で気付いたとしても完全に対処出来るモノではないのだが……


「だから、その程度の攻撃では通じないんだよ。」


なのはは其れをノールックで完全回避。この展開は読んでいた、そう言う事なのだろう。


「私とお前の差と言うモノを見せ付けてやれば分かるかと思ったが、如何やらそうではなかったみたいだな?
 私としてはお前が身を退き、今一度自分の考えを見つめ直して欲しいと思っていたのだが、如何やらそれは無理だったらしい……ならば姉として、お前に決定的な敗北を与えてお前の心を折るとしよう!
 心が折れてしまえばもう戦う気も起らず、中途半端な復讐を行って無駄に命を落とす事も無くなるだろうからな……レイジングハート!」

『All right Master.Restrict Lock.』


次の瞬間、なたねをバインドが拘束して身動きを封じ、なのはは一撃必殺の超必殺技の準備を行う……レイジングハートの先端に結界内の魔力と己の魔力の全てを集中させて行く。
其れは絶対無敵にして不敗の奥義、なのはが十年の時を費やして編み出した究極の必殺技、『スターライト・ブレイカー』を放つ準備が出来た事を意味する。


「コイツはヤバい……なたね!」

「させないよ!」

『ガルルゥゥゥゥ……』


其れを見たネロはなたねを救出せんとするが、背後からヴィヴィオが羽交い絞めにし、更にアシェルとヴァリアスとバハムートに取り囲まれた事で動きを封じられてしまった。クローゼが、全属性の最強アーツを何時でも放てる状態になっていたと言うのも大きいだろう。
パワーだけならば相当に強いネロだが、だからと言って最上級のドラゴン三体と、最強の生物兵器であるヴィヴィオ、そして上級神族に匹敵する力を持つクローゼを同時に相手にすると言うのは幾ら何でも分が悪いどころではない。


「此れで終わりだなたね……全力全壊!」

『Starlight Breaker.』


集めた魔力は直径100m程の魔力球を作り出し、其処から放たれる集束砲の威力は正に『星を砕く』だけの破壊力がある……結界内でなく、現実世界で放たれたら間違いなく射線上にあったモノは跡形もなく無くなってしまうだろう。


――パァン!!


だが、その必殺の一撃が放たれる刹那の瞬間、銃声が鳴り響き、直後になのはの防護服が少しばかり裂かれた事で、なのはの意識は其方に向き、同時に集束砲は発射ギリギリでキャンセルされてしまったのだった。
とは言っても、ネロはヴィヴィオに羽交い絞めにされた上に、クローゼと三体のドラゴンによって完全に動きを封じられているのでブルーローズを撃つ事は出来ない状況だ……では、誰が銃を放ったのか?


「ダンテか……余計な真似を。」

「余計な真似って事はねぇだろ?只の姉妹喧嘩ってんなら兎も角、姉妹喧嘩の範疇を越えたバトルってんなら話は別だ。一国の王様に、妹殺しをさせる訳には行かないだろ流石に。」


その正体はダンテ。
なたねとネロを見失って紅蓮の塔に行ってしまったダンテだったが、軌道修正をして何とか王都に辿り着き、そして王都に展開された結界に気付き、リベリオンで結界を外側から斬り裂いて結界内に入ると言うトンデモナイ力技で此処にやって来たのだ……この男には、大凡常識なんてモノは通用しないのかも知れない。

ともあれダンテの乱入で場が一時的にリセットされたのは間違いないだろう。


「命拾いをしたななたね。ダンテに感謝すると良い。」

「感謝?……寧ろこれは屈辱です。此の土壇場で、命を救われるとは……!」


口では『余計な真似を』と言ったなのはだが、その実ダンテの乱入は有難かった。
なのはは覚悟を決めていたが、其れでも双子の妹を再起不能にしてしまうかも知れない一撃を放つには少しばかりの躊躇いが無かったかと言えば其れは嘘になるのだ……誰だって、実の妹を再起不能にしたいとは思わないだろうからね。

だが其れでも、なたねの瞳には憎悪の炎が宿っている……今回の一件はそう簡単に決着するモノでは無いようである……









 To Be Continued 







補足説明