グランセル城の空中庭園、其処は女王と側近のお茶会が行われる場所であると同時に、リベールの記念日には女王が民衆に対して、其の姿を見せる場所であるのだが……


「おぉ!やっぱりやるじゃねぇかテメェ!!良いぜ、トコトンまでやろうじゃねぇかオイ!!」

『グガァァァァァァアッァァァァァ!!』


その空中庭園では、シェンとゴギガ・ガガギゴが手加減無用のバトルを行っていた。
シェンもゴギガ・ガガギゴも遠距離の攻撃手段を持たないバリバリの近接戦闘型だけに、真っ向からのぶつかり合いになっている様だ……サイボーグ化しているゴギガ・ガガギゴと素手で互角に渡り合ってる時点で、シェンの拳が鋼鉄並みの強度であるのは間違い無いだろう。
一応、バトルのルールは『飛び道具禁止』、『床を殴っての衝撃波禁止』の徒手空拳の素手ゴロオンリーに限定しているのだが、万が一にも城に影響がないように、なのはが空中庭園全体の床と壁、女王宮にシールドを張っている。
『地下空間でやった方が良いのでは?』と言う意見があるかも知れないが、地下でこの二人を戦わせると、地下室をシールドで強化したとしても、もしもシールドを貫通するような事があった場合、地下空間が崩壊して城其の物が無くなってしまう可能性があるので、空中庭園で戦わせる事にしたのだ。此処ならば城が崩壊すると言う事だけは避けられるから。


「しかしまぁ、あの一件からシェンはスッカリお前の使い魔と戦うのが趣味になってしまったらしい……のだが、態々其の為だけに城に来るか普通?しかも、『おう、水の嬢ちゃんの使い魔と喧嘩しに来たぜ!』って、私が王でなかったら入り口で警備兵に捕縛されているぞ?……アイツがそう簡単に捕縛されるとも思えんがな。」

「シェンさんだったら、警備兵を蹴散らしてしまいそうですからねぇ?」

「と言うか、何であの人最上級のアドバンス召喚したギゴちゃんと互角に戦えるんですか……あの状態のギゴちゃんって、最上級のドラゴンにすら勝つ事が出来るって言うのに……」

「あ~~……シェンは魔王である父に師事していたし、岩を殴ったり、ハンマーで拳を潰したりと鉄の拳を作る事に没頭していたからな。」

「ハンマーで拳を潰すって、そんな事をして大丈夫なんですか!?」

「私も同じ事を思ったので十年前に大丈夫か聞いてみたんだが、ハンマーで拳を潰すと暫く使えなくなる代わりに、治った際には骨も筋肉も皮膚も潰す前よりも遥かに強くなるんだそうだ……そして実際に強くなったのだからもう何も言えなかった。
 魔王だった私の父と互角に戦ったカシウスの話も聞いていたし、何と言うか人の持つ可能性とポテンシャルと言うモノを実感した。人は、魔族や神族と比べると寿命も短く肉体的にも脆いが、寿命は兎も角、肉体は己の努力次第で魔族や神族並みに強くする事が出来るらしい。
 シェンが本気で全身の筋肉を固めたら、刃物が通らんかも知れん。正に鋼の肉体と言う奴だな。」


喧嘩士の強くなり方が何かオカシイが、確かに人間は魔族や神族と比べれば寿命も短く肉体的にも脆いのだが、肉体の強さは自己のトレーニング次第で幾らでも強く出来るのが人間なのだろう。……まぁ、特別トレーニングをしてないにも拘らず恐るべき頑丈さを誇っている志緒のような天然モノも存在しているのだが。


「そう言えばなのはさん、私は最近怪我をした時に凄く治るのが早くなってる気がするんですが、その原因って分かりますか?」

「あぁ、その原因は簡単だ。
 デュナンとの戦いの際、お前は元々は神族だったアウスレーゼの血が覚醒した結果、人でありながら限りなく神族に近い存在となったからだ。その影響で身体の傷の再生が早くなったんだ。
 序に言うと、寿命も神族並みに長くなり、魔族と神族同様、最も力が充実している青年期の姿が長く続く事になる筈だ……此れで、私と同じ時を生きる事が出来るようになった訳だ。」

「其れはまさかの予想外でしたが、なのはさんと同じ時間を生きる事が出来ると言うのは嬉しい事ですね。」


何やらクローゼが凄い事になっていたようだが、なのはと同じ時間を生きる事が出来ると言うのは確かに悪い事ではないだろう。
で、シェンとゴギガ・ガガギゴのバトルはと言うと、互角にガンガン殴り合いを続けた末に、シェンの右ストレートにゴギガ・ガガギゴのクロスカウンターが炸裂し、ダブルノックダウンと言う結果に……一撃必殺のクロスカウンターを喰らってもダブルノックダウンと言う結果になったのはシェンが頑丈だったのか、それともカウンターされても相手を道連れに出来るほどに拳打の威力が高かったのかは定かではないが。











黒き星と白き翼 Chapter31
『十年振りの再会~黒き星と灼炎の星~』










ルーアン港からリベール入りしたなたねとネロは、カジノバー『ラヴェンタル』のランチタイムメニューでルーアンが誇る魚介を使った料理(なたねはイカと明太子のスパゲッティとサーモンのカルパッチョ、ネロはタルタルエビカツバーガーと魚介の天婦羅盛り合わせ)を堪能した後に、王都グランセルに向かう予定だったのだが……


「コール。手札を二枚交換します。」


カジノバーの二階にあるカジノでポーカーをやっていた。
と言うのも、店を出ようとしていた所で二階のカジノから何やら大きな声が聞こえたので気になって向かってみると、其処ではルーアンに観光に来たのだと思われる男女のペアの女性の方が、すっかりポーカーに嵌ってしまった男性に対して、『いい加減にして、ルーアンを観光しましょうよ!』と言っている最中だった。
しかし男性の方は、『良い感じで勝ち続けてるんだから、このまま勝ち続けてもっと儲けた方が得だろ!』と、完全にギャンブル中毒な発言をしており、女性の方は『誰か何とかして』と言った状態になっていたのだ。
其れ自体はなたね達には何の関係もないし、其れこそ見なかった事にしても良かったのだが、なたねは『なのはに会う前に運試しと言うのも悪くないですね?』と考えたようで、女性に『私とネロが彼に勝負を申し込んで見事負かして見せましょう。こっぴどく負ければ、目が覚める筈です。』と言って、男性にポーカーでの勝負を持ち掛けたのである。
ご丁寧に、男性が食いつくように『勝った方が総取りと言う事で如何でしょう?』と一万ミラを掛け金とし、勝てば倍額になると言う餌を垂らした上でだ。
勝てば二万ミラをゲット出来ると言う事で男性は見事に食いつき、三本勝負で先に二本先取した方が勝ちと言うルールで先ずはネロと男性が勝負したのだが、結果はネロも男性も共に『フルハウス』だった。
しかし、男性のフルハウスが『八と六』で構成されていたのに対し、ネロのフルハウスは『キングとエースで構成された最強のフルハウス』だったので、札の強さでネロの勝利となった。
そして続く第二戦、なたねは手札を二枚交換し、男性も手札を一枚交換……何方もドロップしなかったと言う事は、相当に自信のある手札が揃ったと言う事だ。
運命の手札オープン!


「私が揃えたのはスペードの、八・九・十・ジャック・クィーンのストレートフラッシュ!この役に勝てる役など其れこそ、ロイヤルストレートフラッシュしか存在しないぞ!」


先に手札を公開した男性が完成させた役は、スペードのストレートフラッシュと言うポーカーに於いては最強とも言える手札だった。確かに、この役を越える役を手札に揃えると言うのは可成り難易度が高いと言えるだろう。
だが、その最強の役を見てもなたねは動じない。


「スペードのストレートフラッシュ、其れは確かに最強クラスの役でしょう。
 ですが、ジョーカーが一枚だけ入っているこのポーカーでは其れを遥かに上回る役が一つだけ存在します。」


そう言ってなたねは己の手札を一枚ずつ表にしていく。
ハートのエース、ダイヤのエース、クラブのエース、スペードのエース、そしてジョーカー……そう、なたねはジョーカーありのポーカー限定で揃える事が出来る最強の役である『ファイブカード』をエースで完成させたのだ!
初手の手札にはエース三枚とクラブのジャックが揃っており、普通ならば一枚交換で手堅くスリーカードかフルハウスを狙う所を、なたねは二枚交換と言うバクチに打って出て、その結果見事に他の追随を許さない最強の役を完成させたのだった。


「バカな……ファイブカードだとぉぉぉぉ!!」

「貴方の負けです……如何やら強運は此処までだったようですね。」


此れまで景気良く勝っていたところでまさかの二連敗、しかも二戦目は圧倒的な差で負けたと言うのが堪えたらしく、男性はポーカー台から離れて女性と共にルーアン観光に戻る事にしたようだ。


「なたね、お前イカサマしただろ?」

「バレましたか。
 はい、交換した二枚のカードの絵柄を魔法でスペードのエースとジョーカーに書き換えました……勿論、捨て札の中にエースがない事を確認済みだったからこそ出来た事ではありますが……」

「運試しでイカサマってのも如何かと思うんだがな?」

「運試しですよ?イカサマがバレたら、その時点でお終いですから。イカサマがバレるか否か、此れも立派な運試しです。」

「物は言いようだなオイ。」


と、なたねは実はイカサマで最強の役を揃えたらしい……イカサマはダメだが、運試し、或は度胸試しであるのならばギリギリ容認出来ると言った所だろう。イカサマがバレたら即刻退店、最悪出禁になってしまう訳であるからね。
その後、少しばかりスロットで遊んで、稼いだコインを景品と交換した後になたねとネロは王都に向けて出発して行った。


「今の二人……女の方はなのは嬢ちゃんの家族か?
 其れと男の方は……右腕からバージルの気配を感じただと?……あの坊主、若しかしてバージルの?……コイツは、少しばかり面白い事が起きるかもだな。」


でもって、ルーアンを発つなたねとネロをダンテが目撃し、なたねからなのはと似た魔力を感じ、ネロから己の双子の兄の気配を感じると、不法駐輪されていたバイクのキー部分を砕いて直結させてエンジンを掛けると、其れに乗ってなたねとネロの車を追って行った。……ダンテの行った事は完全に犯罪なのだが、不法駐輪もアウトなので、其れを移動させたと言う事で一方的に罪に問う事が出来ない現状もあったりするのである。
ダンテがやたらと手馴れていた事については其れこそ突っ込み不要である。寧ろ突っ込んだら負けだ位に思っていた方が良いのかも知れないな。








――――――








其れから数日後、なのはとクローゼはグランアリーナでヴィヴィオと対峙していた。
と言うのも、ヴィヴィオが『なのはママと、クローゼママの役に立ちたいから鍛えて欲しい』と言って来たからだ。
ヴィヴィオはデュナンが『戦闘兵器』として生み出しただけに戦闘力だけならば最強クラスであるのだが、如何せん実戦経験が皆無であった為にその高い戦闘力を十全に発揮する事が出来ないで居たのだ。
なので、ヴィヴィオは己を鍛えるべく、なのはとクローゼに『自分を鍛えて欲しい』と申し出たのだ。
なのはとクローゼも、その申し出を反対する理由がないのでヴィヴィオの申し出を受け入れてヴィヴィオを鍛える事にしたのだ。


「其れでヴィヴィオ、リクエストはあるか?」

「なのはママの誘導弾はとっても強くてとっても速く。クローゼママのアーツは兎に角強いのをお願い!」

「分かりました……では、手加減はしませんよヴィヴィオ?」

「寧ろ手加減不要でお願いします!」


そうして始まったトレーニングは凄まじいモノだった。
なのはが放った『強くて速い誘導弾』をヴィヴィオは拳で打ち返し、クローゼの最上級のアーツはギリギリで回避……するだけでなく、魔力を纏った拳で相殺出来るモノは相殺しているのだ。ベルカの伝説となっている『聖王』の力を継いでいると言うのは伊達ではない様だ。
『休日の親子のキャッチボール』と言うには余りにもバイオレンスではあるが、このトレーニングによってヴィヴィオの力が底上げされるのは間違い無いだろう――実戦経験の少なさをトレーニングで補う事が出来るのだから。

そして、十数分の後、ヴィヴィオは大の字にダウンしてトレーニングは終了!
なのはの誘導弾を殴り返し、クローゼのアーツを見事に回避していたヴィヴィオだが、トレーニングが続くにつれて疲れが見えて来て、最終的には疲れて動けなくなった所になのはの誘導弾とクローゼのアーツが炸裂してKOされてしまった訳だ。……完全にKOされて目を回しているにも拘わらず、略無傷であるヴィヴィオの頑丈さと言うのは半端なモノではないのだろうが。
しかもダウンしてしまったヴィヴィオは、即座にクローゼが回復アーツを掛けた事で直ぐに目を覚ましたと言うのだから驚きである。


「なのはママもクローゼママも強過ぎだよ~~!!」

「其処は経験の差と言うモノですよヴィヴィオ。
 貴女は確かに強いのですが、実戦経験が皆無なので、私となのはさんにはまだ及びませんよ……ですが、経験の差をトレーニングで埋める事が出来れば、何れは私となのはさんに勝つ事が出来るかも知れませんね?」

「そうかも知れんが、お前が強くなるだけ私とクローゼも強くなるから簡単には越えさせはしないがな。
 だが、少なくとも現時点で既に初めて戦った時よりも数段強くなっているのは間違いないから、其処は自信を持って良いと思う……さてと、トレーニングで大分消費したからエネルギー補給をしようか?
 確かマーケットの近くにアイスの屋台が出ていた筈だから、丁度お茶の時間だし、カフェで飲み物をテイクアウトしてアイスで午後のティータイムと行こうじゃないか。」

「やったー!アイスだーー!」


トレーニング終了後は、なのはの提案でマーケットの近くで営業しているアイスの屋台でアイスを購入してティータイムをする事に……普通ならば、一国の王が市街地に姿を現すと言う事はないのだが、なのははリベールの新たな女王となってから、度々王都の市街地に繰り出しており、『民衆との距離が近い王』としてのイメージを確立していたりするので問題無しだ。
護衛も無しに王自らが王都に出向くと言うのは本来ならば有り得ない事なのだが、なのはの場合は、仮に王の命を狙う賊に襲われた所で秒で返り討ちにしてしまうのでマッタク問題ないのである……相手がドレだけの数であっても、大抵はディバインバスターの一発で如何にかなると言うのが恐ろしい事この上ない。流石魔王の娘。

カフェでなのはは『キャラメルミルクラテ』、クローゼは『ハニージンジャーティ』、ヴィヴィオは『濃厚抹茶ホットチョコ』をテイクアウトし、アイスの屋台では全員が『カップのダブル』で、なのはが『抹茶アイスと大納言小豆アイスのダブル』、クローゼが『マスカルポーネチーズアイスとブルーベリーシャーベットのダブル』、ヴィヴィオが『キャラメルリボンバニラアイスとヘーゼルナッツチョコレートアイスのダブル』を注文し、テラス席で午後のティータイムに。


「あだだ!!キーンって、頭にキーンって来た!!」

「ハハハ、冷たいモノを一気に食べるからだ。温かいモノをゆっくり飲め、そうすれば直ぐに治まる。」

「冷たいモノを一気に沢山食べるのは禁物ですよヴィヴィオ?」

「うん、今其れを身を持って知った所だよ……アイスは美味しけど、一度に一気に食べるのはダメだね。今の頭のキーンは、なのはママのバスターよりもキツかったかも知れないよ。」


そのティータイムは、ヴィヴィオがアイスを一気に食べて頭痛を感じたり、夫々のアイスを食べさせあったりと実に平和なモノであり、其れを見た者達も何だかほっこりとした気分になるのだった。
此の時間が此のまま過ぎれば平和な日常の一コマになっていただろう。


「此処に居ましたか……漸く会えましたね、なのは。城に行って謁見を申し入れても、『女王陛下は現在外出中』と言われてしまい、街中を探す羽目になりましたよ。」


だが、そんな平和な時間を過ごしているなのは達の前に一台の車が停車すると、その中からなのはと瓜二つの容姿の女性が降りて来た――言わずもがな、十年前に生き別れたなのはの双子の妹のなたねだ。
其の姿を見た周囲の人間は勿論驚く。
ティータイムを楽しんでいる女王達の前に車が停車したかと思ったら、その車から降りて来たのは現リベール女王と瓜二つの女性だったのだから……なのはもなたねも防護服のデザインは同じの色違い、髪型に関してもなのはがサイドテール、なたねがストレートのロングと言う違いしかないのだ。
其れ以外に、敢えて違いを上げるとすれば目元だろうか?なのはと比べると、なたねの方がやや鋭い感じである。


「其れは、手間を掛けさせて悪かった……彼是十年振りになるが、矢張りお前も生き延びていたかなたね。」

「お互い悪運が強かったと言う事にしておきましょう……ですが、十年振りの再会です。感動の再会を記念して、ハグしてキスでもした方が良いのでしょうか?……其れとも、こっちのキスの方が私達らしいと言うべきでしょうか?」


突然現れたなたねに驚く事もなく対応したなのはに対し、なたねも淡々と返して手にしたルシフェリオンをなのはに向ける。『こっちのキス』とはつまり、『再会を記念して一発ド派手に勝負』と言う事なのだろう。……略無表情で中々にバイオレンスな事を言っているのが若干恐ろしい。
普通ならば、一国の王に対して武器を向けると言う行為は、その時点て射殺されてもおかしくないのだが、ルシフェリオンを向けられたなのはは全く動じていないどころか口元に笑みを浮かべる余裕のある態度に、周囲の民は王国軍や王室親衛隊、遊撃士協会に連絡を入れるのを忘れるほどに見入ってしまっていた。


「其れは止めておけ。子供の頃ならいざ知らず、今の私とお前が戦ったら王都が焦土になってしまうだろうからな。
 其れよりも十年振りに会ったんだ、お互いに積もる話もあるだろう……良ければお前も此方で一息入れないか?勿論、車の運転をしている者も一緒にな。」

「ふむ……其れも名案ですね。私も彼を紹介しようと思っていましたので。ネロ、ティータイムと行きましょう。」

「ティータイムね……ま、ずっと運転しっ放しで少し疲れたから丁度良いか。」


なたねに言われて車から降りて来たネロの容姿にも周囲は驚く。
短い銀髪に蒼い目だけならば早々珍しくはないが、人々の注目を集めたのはネロの右腕だ――赤い硬質の肌に、鈍く青白い光を放つ手の平と鋭く尖った指……まるで悪魔や魔獣の腕を取って付けた様な異様さが其処にはあったのである。


「その腕、只の人間ではないと推測するが?」

「魔族とのハーフ……いえ、魔族ではなく悪魔でしょうか?」

「さて、そいつは俺にも分からなくてね。」

「彼はネロ。十年前に出会った私のパートナーです……彼もまた、私達と同じ境遇の者です。」

「……ライトロードか。」


ネロも自分達と同じ境遇だと聞き、なのはは即座に彼もまたライトロードによって奪われた者だと理解した。
なのはには鬼の子供達、なたねにはネロ……ライトロードによって家族を奪われた双子の姉妹は、奇しくも同じくライトロードによって全てを奪われた者を仲間にしていたのである。一卵性の双子だけに、何処か似通った部分が有るのだろう。


「取り敢えず飲み物とアイスでも買って来たらどうだ?何なら私の奢りでも良い。十年振りの再会だからな、姉として其れ位するのはやぶさかではないぞ?」

「では、その好意に甘えるとしましょう。」


そして、先ずはなたねとネロはなのはの奢りで飲み物とアイスを購入。
なたねは『マシュマロホットミルク』と『ストロベリーアイスとバニラアイスのダブル』で、ネロは『ジンジャーレモンティ』と『アップルシャーベットとオレンジシャーベットのダブル』だった。


「では先ずは自己紹介と行こうか?リベール王国の女王、高町なのはだ。」

「女王補佐にしてなのはさんのパートナーのクローゼ・リンツです。」

「ヴィヴィオでーす!なのはママとクローゼママの娘です!」

「……娘?」

「養子だ、見て分かれ。」

「ですよね。……コホン、では今度は此方から。高町なたねと申します。なのはの双子の妹です。」

「ネロだ。」


十年振りの再会は、先ずは自己紹介からだ――ヴィヴィオが自己紹介した際に少しばかりお約束な反応が見られたが、其処はサラリと流して自己紹介を終え、此処からが本番である。


「貴女が死んだとは思ってはいませんでしたが、貴女がリベールの皇女殿下を城から連れ去ったと言うリベール通信の記事を見た時には驚きました――同時に、何とも大胆な事をしたと思いましたよ。」

「其の時連れ出したのが、今隣に居るクローゼだよなたね。
 彼女は私の恩人なのでね……不当な幽閉生活を送らされていると言う現状を黙って見ている事は出来なかった。本来ならば、もっと戦力が整ってからと思っていたのだが、デュナンが彼女の暗殺を企てて居ると言う事を聞き、計画を前倒しして城から連れ出す事にしたんだ。全ての準備が整ったら、彼女と共にリベールをデュナンの手から解放し、私の目的を果たす為の始まりの地とする為にな。
 そして、クローゼを城から連れ出す以前から私は仲間を集めて施設武装組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を結成していた……組織の構成員は百人を軽く超えるモノになってしまったがな。」

「……それ程の組織を作り上げているとは思いませんでした。
 ですが、リベールの新たな王となった今こそ、貴女には為すべき事があるのではありませんかなのは?……そう、国と言う絶大な力を得た今こそ、神族、魔族、そしてライトロードをはじめとした人間に復讐をする時でしょう。
 そうです、復讐を始める時は今を於いて他に有りません……!」

「復讐、ね。」


その本番で、自身の此れまでの事を語ったなのはは、なたねが言った事に対して少し難しい顔をすると同時に、自分となたねの目的は絶対的に異なるモノだと言う事を感じ取っていた。
なのはも勿論復讐心はあるが、其れはあくまでも母を殺した魔族と、父と姉を殺したライトロードに対してのモノであり、母を殺した魔族は既にルガール、アーナス、悪魔将軍によって抹殺されており、神族に関しては『母を天界から追放した』だけであり身体的な被害を与えた訳ではないので現状では『高町桃子の娘が生きていて、一国の王になった』と言う事で一種の圧力を掛けておけばいいと考えているので、なのはの復讐相手は目下ライトロードだけなのだが、なたねはそんな事は関係なく、神族、魔族、人間全てに対しての復讐を考えているとなのはは感じ取ったのだ。
其れは、一卵性の双子でありながらなのはとなたねの歩む道が全く異なるモノになってしまった証でもあった……








――――――








その頃――


「っと、此処は何処だ?」


なたねとネロを追っていたダンテは、何処で道を間違ったのかツァイス地方の『紅蓮の塔』にやって来ていた……ルーアンからグランセルに行くには、一度ツァイスを経由する必要があるのだが、一体何処をどう間違ったら紅蓮の塔に辿り着くのかが謎である。


「まぁ、着いちまったモンは仕方ねぇ……塔の内部を冒険してみるとすっか。」


そんな事は全く気にせずに、ダンテは紅蓮の塔に入ると、瞬く間に全階層の魔獣を撃滅し、最上階で『衝撃鋼・ギルガメス』を入手し、其の性能を確かめるべく、紅蓮の塔の屋上からダイブすると、真下に居た縦に連なったポムの集団を手刀で一刀両断!!
更には着地点に大きなクレーターが出来ていたのだから、その威力は凄まじいモノだっただろう。


「コイツは悪くないな。」


ギルガメスの性能を確かめたダンテは、改めて王都に向かって行った……










 To Be Continued 







補足説明