捕らえられた少女達は王城の謁見の間まで連れて来られたが、少女達は此の状況に少し困惑していた。
もしも捕まったその時はレイストン要塞の地下牢まっしぐらだと思っていたのが王城の謁見の間に連れて来られただけでなく、手錠すら掛けられなかった事に驚いて居る様だ……手錠を掛けずとも、少女達の周りはユリアとレオナ、鬼の子供達と王室親衛隊でもトップクラスの実力者に加え、頭上は小型化したアシェルとヴァリアスが固めていたので逃げる事は略不可能な状況ではあったのだが。


「改めて自己紹介をしておこう。リベールの新たな女王となった高町なのはだ。」

「女王補佐のクローゼ・リンツです。」


謁見の間にて玉座に座したなのははレイジングハートを小脇に抱えて足を組み威厳タップリに己の名を名乗り、クローゼはその横に立って己の名を名乗ると同時に『女王補佐』である事を告げる。
現リベール女王のなのはと、元王族であるクローゼが並んだその様を前にして一切委縮した様子がない少女達も中々胆が据わっていると言えるだろう……其れ位胆が据わっているからこそ、王城の宝物庫からモノを盗み出すなどと言う大胆不敵な犯行を行えたのだろうが。


「先ずは、お前達の名前を聞かせてくれないか?名も知らぬのでは、中々に話もし辛いのでな。」

「……そう、ですね。私はエリア。エリア・チャーム・エンディミアです。」

「ヒータ・チャーム・エンディミアだ。」

「アウス・チャーム・エンディミアと言います。」

「ウィン・チャーム・エンディミアだよ。」

「同じミドルネームとファミリーネーム……姉妹か?」

「はい、四卵生の四つ子です。」

「四つ子とは、珍しいですね?三つ子までなら見た事はありましたけれど、四つ子は初めてです……」


そして少女達は四つ子の姉妹だった……四つ子の姉妹が夫々異なる属性の持ち主で、夫々が己の属性を極めんとする『霊使い』だと言うのは相当なレアケースであると言っても過言ではないだろう。付け加えるならば、髪と目の色が己の属性を示していると言うのも可成り珍しいモノであったりする。
そんなレアケースな四姉妹が何故宝物庫からモノを盗み出すと言う犯行に及んでしまったのか……










黒き星と白き翼 Chapter30
『窃盗事件の事後処理と王の沙汰と』










「四卵生の四つ子とは初めて聞いたが……何故お前達は王城の宝物庫から盗みを行っていたのだ?
 其れも、売れば高額な貴金属や宝飾品の類ではなく、デュナンが民から接収したモノばかりを狙って。こう言っては何だが、お前達が盗み出したモノの金銭的価値は其処まで高くはない筈だが?」

「アレは元々アタシ等のモンだ。其れを取り返して、盗まれた人達に返して何か問題があんのかよ?」


なのはは少女達に『何故宝物庫からの盗みを行っていたのか』と問うと、返って来たのはまさかの答えだった――彼女達が、デュナンが不当に接収されたモノだけをピンポイントで宝物庫から盗み出していたのは、本来の持ち主に帰す為だったと言うのだ。
だが、この答えを聞いてなのはもクローゼも合点が行った。確かに元の持ち主に戻す為に宝物庫から持ち出したと言うのであれば、デュナンが接収したモノだけをターゲットにして、王室の貴金属や宝飾品、美術品に一切手を付けなかったと言うのも納得出来るのである。


「つまり、お前達は盗賊と言うよりも義賊だったと言う訳か。
 う~む……だがそうなると少々如何したモノか困ってしまうな?下賤なコソ泥であったのならば然るべき処分を下さねばならないが、持ち出されたモノはいずれ民に返却しようと思って居たモノであり、其れ等はちゃんと持ち主に戻されていると言うのだからな……無許可ではあるが、私達がやるべき仕事を先回りしてくれたとも言える訳で……」

「そうですね……城への不法侵入と言う理由で処罰するのは何か違うと思いますし。果てさて、本当に如何しましょうか?」

「え……あれって何れ返す予定だったんですか?」

「勿論だ。アレはデュナンが民から無理矢理接収したモノなのだから、デュナンが居なくなった今、本来の持ち主に返すのは当然の事だ……尤も、外交や物流と言ったモノを優先して立て直さねばならぬ故に、後手に回っていたのは事実ではあるがな。」

「って事は……アタシ等がやってた事って、リスクを冒しただけで殆ど無駄だったって事か?」

「む、無駄じゃなかったんじゃないかな?持ち主の人も接収されたモノが戻って来て喜んでたし、お礼に色々貰えたし。パンとかお菓子とか綺麗な織物とか。」

「お金は受け取りませんでしたが、逆にお金でなかったのは良かったかも知れません……食べ物や布地であればママ先生もあまり深く聞く事はありませんし、ポーリィ達も喜んでいましたから。」


だが、今度は四姉妹の方が驚く事になってしまった。
自分達はデュナンが民から無理矢理接収したモノを本来の持ち主に返却していたと言うのに、実は此れ等のモノは何れ民に返却する予定だったのと言うのだから。ヒータが言うように、リスクを冒して無駄な事をしていたと感じても仕方ないだろう。


「ママ先生とは?」

「私達が暮らしている孤児院の経営者と言うか責任者と言うか……孤児院の子供達に勉強なんかも教えているので、親しみを込めてママ先生って呼んでるんです。」

「孤児院……そうか、お前達も親が居ない訳か。しかしママ先生……先生か、ふむ……」


そしてアウスが口にした『ママ先生』と言う単語から、この四姉妹は親が孤児院で生活していると言う事が明らかになったのだが、其れを聞いたなのはは何か考えるような格好に。
其れは決してポーズではなく、本気で何かを考えているようだ。


「……そのママ先生とやらと会う事は出来るか?」

「へ?其れは、出来ると思いますよ?」

「ふむ……では連れて行ってくれないか、お前達が暮らしていると言う孤児院に。ママ先生と会って話をしてみたい……話しの結果次第では、お前達の処遇を決める事も、私の目的も果たす事が出来るやも知れん。」

「アタシ等の処遇が?……まぁ、ママ先生に任せりゃ大丈夫か。分かった、連れて行ってやるよ。アウスとウィンも良いよな?」

「私は賛成だよヒータ。」

「異存は有りません。」


そして考えた結果、なのはは四姉妹が『ママ先生』と呼ぶ人物と会ってみる事にしたようだ。『ママ』だけならばそうは思わなかっただろうが、『ママ先生』と言うのがなのはの琴線に触れたのだろう。
なのははリベールに新たな教育制度を作ろうと考えているのだが、リベリオンで教師が出来そうな人材をもってしてもその数は圧倒的に足りないので、教師役を探していたところなので、孤児院の子供達から『先生』と呼ばれている存在に興味を持つなと言うのが無理な話であろう。

四姉妹も、自分達の処遇が其れで決まるとなれば無視出来る事ではないし、なのはが何をしようとしているのかも気になったので孤児院に案内する事を受け入れた。
傍から見れば盗賊でしかない自分達を手錠や縄で拘束する事もなく、牢屋ではなく王城の謁見室に連れて来て話を聞いたなのはとクローゼならば、ママ先生を害する事はないと判断したのだろう。


「なのはママ、クローゼママ!使い魔さん達の治療終わったよ~~!皆回復してとっても元気!!」


此処でタイミングよく、ヴィヴィオが治療が終わった四姉妹の使い魔と共に謁見の間にやって来た。
ヒータのきつね火、ウィンのプチリュウ、アウスのデーモン・ビーバーは其処まで大きなダメージを負った訳でなく、治癒魔法で簡単に治療出来たのだが、シェンとガチンコで遣り合ったギゴバイトは割とダメージが大きかったらしく、治癒魔法だけでは治し切れず、腕や足に包帯が巻かれていた。


「エリアの使い魔には遣り過ぎてしまった様だな……シェンは面倒見も良いし仲間思いなのだが、いざ戦闘になると如何にも加減と言うモノが出来なくなるのが珠に傷でな――そもそもにして、三度の飯より喧嘩が好きと言う性格は如何にかならんモノだろうか?
 決して自分より弱い相手に自分から拳を上げる事はないし、喧嘩するにしても相応の理由があるから咎める事が出来ないと言うのが困りモノだ。」

「シェンさんは確かに面倒見は良いですよね?ユーリちゃんも懐いてるみたいですし。」


……喧嘩士は手加減が出来ない脳筋であった。
尤も、シェンは相手の方から挑んで来ない限りは、絶対に自分よりも格下の相手に拳を振るう事はない真の無頼漢であるのだが、そんなシェンがガチになったと言うのは其れだけエリアの使い魔であるギゴバイトの最強形態であるゴギガ・ガガギゴは手強かったと言う事なのだろう。
それはさておき、ヴィヴィオがなのはとクローゼの事を『ママ』と呼んだ事で、四姉妹はちょっといとした混乱状態に陥ってしまった――外見的には自分達よりも年上で、なのはとクローゼよりも背が高いハニーブロンドとオッドアイが特徴的な美少女が、同じ位の歳格好であるなのはとクローゼの事を『ママ』と呼べば、其れは混乱するなと言うのが無理と言うモノだろう。なのはとクローゼがヴィヴィオの本当のママだとしたら一体何歳の時の子供だって言う事と、そもそも女同士で子供って如何言う事だとなってしまうからね……魔族には女性同士でも子を生す方法があるのだが。
ヴィヴィオに関しては、なのはがとクローゼが『血は繋がってない義理の娘』と言う事を説明してターンエンド。そして、孤児院に向かう為に城から出ようとしたのだが…


「アレ?エリア達じゃない?お城で会うなんてちょっとビックリ。」

「城の見学に来ていたのか?」

「「遊星さんに遊里さん?」」

「博士達ですか……」

「遊星兄ちゃんと遊里姉ちゃん……何だって城に来てんだよ?」

「城門のメンテナンスだ。其れと王室親衛隊の夏姫から、ガンブレードの調整を依頼されていてな。」

「……知り合いだったのか?」

「この子達の孤児院からも修理の依頼があったりしますから。」

「遊星兄ちゃん達が直してくれると、直す前より高性能になるんだよ。」


城門にて不動兄妹とエンカウント!
不動兄妹は城門の定期メンテナンスに来ていたのだが、そのメンテナンスの最中に鉢合わせたと言う訳だ……四姉妹と不動兄妹は顔見知りであるらしく、軽く挨拶を交わす――流石に宝物庫からモノを持ち出していたと言う事は言えないので、城の見学に来ていたと言う事に四姉妹はしたのだが。
取り敢えず、不動兄妹がメンテナンスを行っているのであれば城門が不具合を起こす事はないだろうし、夏姫のガンブレードも調整するだけでなく、今よりももっと高性能なモノになるのは確実だろう。
今や夏姫以外には使う者は居なくなったと言っても過言ではない超レア武器であるガンブレードを調整出来ると言うのは不動兄妹にとってもまたとない機会なのだからね……若しかしたら、過去の資料などから最早伝説となっている最高性能のガンブレードを作り上げてしまうかも知れないな。

不動兄妹がやる事は国のマイナスにはならないので、なのはも『では、任せたぞ』と言うに留めて其れ以上は何も言わずに城前の広場に移動し、其処でヴァリアスを通常サイズに戻すと、クローゼはアシェルを、ヴィヴィオはバハムートを通常サイズに戻してその背に乗る。
其れを見たウィンも、プチリュウをラセンリュウに強化すると、その背に四姉妹が乗り込んで、いざ孤児院に出発である。








――――――








そうして空の旅を行うこと五分弱で、街道と孤児院の分かれ道に到着し、なのは達は其処に着陸して其処からは徒歩で孤児院に向かう――ヴァリアスとアシェルとバハムートはフルサイズでは大き過ぎて、孤児院の庭では間に合わないのではないかと考え、此の場所でミニサイズにした方が良いと判断したのである。


「アレ、なのはとクローゼか?女王様と女王補佐が何してんだこんな所で?」

「一緒に居るのは孤児院の子達ではないか?」

「草薙京とアインス・ブライトか。」


その道中、後から声を掛けられたので振り返ってみると、声を掛けて来たのは京とアインスだった。バイクに二人乗りしているところを見ると、ロレントからバイクで遠出して来たと言う所だろう。


「お前達こそこんな所で何をしている?この先にあるのは孤児院だけだろう?バイクで遠出してまで来るところでもないと思うが……」

「あぁ、孤児院の方はお袋から『ルーアンの方に行くんだったら、マーシア孤児院に寄ってハーブを買って来て』って頼まれちまってな……お袋曰く、あそこのハーブじゃないとハーブティにならねぇんだとさ。」

「うちの母も、マーシア孤児院のハーブでないと肉の香草焼きの出来が今一つだと言っていたな。」


京とアインスの目的は、此れからなのは達が訪れようとしている孤児院――マーシア孤児院で売られているハーブだった。
実はマーシア孤児院の庭には広大なハーブ畑があり、その畑で収穫されたハーブを販売する事で孤児院の運営資金に充てていたりするのだ。もっと言うと、完全無農薬の有機栽培されたハーブは質も良く、ボースの高級レストランでも使われている位なのである。


「ハーブを売っているんですか?」

「売ってるっちゃ売ってるんだけど、ママ先生ってば儲け度外視の良心価格で販売してるから、実はあんまり利益上ってないんだよ……一般相場の六割程度の値段って安過ぎるって。」

「良心価格過ぎるが……価格が安くて質が良いとなれば顧客は付くだろう。態々ロレントから買いに来る者も要るようだしな。」

「普段は宅配で注文してるけどな。」


京とアインスはバイクを降り、なのは達とそんな話をしながら坂道を登って行くと目的のマーシア孤児院に到着。
その庭のハーブ畑には多種多様なハーブが青々と葉を茂らせ、太陽の光を浴びて光り輝いている。一部ハーブが生えていない畑もあるが、其処は此れから別の種類のハーブの種を蒔くのだろう。



――ドスン!!



と、そのハーブが生えていない畑に突如何かが落ちて来た。
其れは人型で、赤いスラックスに燕尾服の様なスーツ、口元には髭を生やして右目は赤い義眼……そう、魔王の一人であるルガールが土だけのハーブ畑に降って来たのである。


「ハッハッハーーー!!」


其れだけでも驚きなのだが、何とルガールは其の場で高速回転を始めると、其のまま畑の中を動き回って畑の土をかき混ぜる!耕す!!其の姿は、人間耕運機の如くであり、実に良い感じに土が解されて行く。此れならば肥料を混ぜるのも楽になり、ハーブも良く根を張る事が出来る事だろう。
畑全体を満遍なく耕した後は、ポーズを決めてフィニッシュである。


「テレサ先生、この位で如何かな?」

「充分ですルガールさん。此れだけ良く耕して頂ければ、ハーブも元気に育つ事が出来ると思います。」


やり切った顔のルガールと、そのルガールに礼を言う女性――ルガールが『テレサ先生』と呼んでいたのを見るに、彼女が此の孤児院の責任者なのだろう――その光景に、なのは達は少しばかり言葉を失ってしまった。
特になのはは『魔王が何やってんだ』と言わんばかりの表情を浮かべている……確かに、魔王が孤児院のハーブ畑耕してるとか、どんな状況なのかではあるが。


「おや?其処に居るのはなのは君とクローゼ君。他にも大勢いるようだが、此処に何か用かな?」

「確かに此処に用があって来たのだが、お前は此処で何をしているルガール?てっきり魔界に帰ったモノだとばかり思っていたぞ?」

「いやなに、なのは君が新たに王となったリベールと言う国がどんなモノかと思ってリベール中を旅していてね……その最中に、マーシア孤児院の看板が気になったので来てみれば実に見事なハーブ畑が存在しているではないか。
 あまりに見事なので、一体どのような人が此処を管理しているのか興味が出たのでね……家の方を訊ねたら、極上のハーブティと菓子をもってもてなしてくれたのでね、その礼として此れからハーブの種を蒔く畑の土を耕していたと言う訳なのだよ。」

「なら普通に鍬で耕せ。何もデッド・エンド・スクリーマーで耕さなくても良いだろうに……」


畑を耕したのは、良いもてなしをしてくれた事に対する礼だったらしい。
其れは其れとして、ルガールがなのは達に気付いたように、テレサと呼ばれた女性もまたなのは達に気付いた。なのは達と共いる霊使い四姉妹にもだ……そして、ルガールがなのはの事を『リベールの新たな王』と称した事で何かを悟った様子でもある。


「まぁ良い……貴女が此の孤児院の責任者か?」

「はい、テレサと言います。……取り敢えず中にどうぞ。」


なのはの問いにテレサは応えると、なのはとクローゼとヴィヴィオと四姉妹を家の中に招き入れた。その後で、改めて京に対応し、注文されたハーブを畑から収穫して渡した。袋詰めではなく、紙に包んでいるところにテレサの拘りが見て取れる。袋詰めよりも紙で包んだ方が温かみがあるモノなのだ。
ハーブを受け取った京達を見送ると、テレサも家の中に入り、なのは達にハーブティと手作りのアップルパイを出して自分もテーブルに着いた。


「単刀直入に聞きますが、此の子達はお城からモノを盗んでいたのですね?」

「まぁ、広義の意味では盗んでいたと言うのだろうな矢張り。」

「矢張りそうでしたか……ここ最近、此の子達が食べ物や布生地を持って来る事が増えたので少し不審には思っていたんです。
 この子達は、『最近いい仕事を見付けたんだ』と言っていましたが、孤児院育ちの此の子達がそう簡単に仕事に就ける筈はないと思っていましたから……孤児院育ちと言うだけで偏見を持たれてしまいますからね。」

「そう言う方面での差別や偏見と言うモノも存在しているのか……」

「其方の差別や偏見も無くして行かないといけませんね……」

「て言うか、ママ先生にはとっくにバレてたんだ……」

「さっすがに良い仕事を見付けたってのは無理があったみてぇだな。」

「物乞いしたの方が良かったかな?」

「其れは逆にアウトですよウィン。」


テレサは四姉妹が何をしているのか、大体の予想をしていたらしい。
其れでも四姉妹を深く追求せずに咎める事もしなかったのは、彼女達がそうしているのは此の孤児院の為である事を重々承知していたからだ……一歩間違えば牢屋行き間違いなしの事であっても、其れを咎める事が出来なかったのだ。――もっと言うのであれば、己の予想が外れていて欲しいと言う思いもあったのかも知れない。


「この子達のした事は決して許される事ではないので、罰を与えられるのは当然の事だと思いますが、この子達は決して私利私欲の為にやった訳ではないのです。ですから、如何か温情ある沙汰を。」

「……何か勘違いしているようだが、私は彼女達を罰する気はない。
 確かに彼女達は城からモノを持ち出してはいたが、其れ等は全てデュナンが民から接収したモノであり、彼女達は其れを本来の持ち主に返していたに過ぎん。何れ私達がやるべき仕事を先回りして行ってくれた訳だ。
 無断で城に忍び込んだのは褒められた事ではないが、だからと言って誰かが迷惑を被ったと言う訳でもないのでな……寧ろ、先延ばしにしていた仕事を消化してくれたのだから此方としては礼こそ言っても処罰する等と言う事は出来ん。
 私が此処に来たのはな、貴女をスカウトに来たんだ。」

「え?」

「リベールの公的な教育機関は、ルーアン地方のジェニス王立学園しかないだろう?
 しかもジェニス王立学園に入学出来るのは十五歳以上の少年少女達だ……それ未満の子供達に対しての教育機関は存在していないので、私が王になったのを機に各地に教育機関を設置しようと思っているんだ。
 貴女には、ルーアン地方での小児教育を担当して貰いたい……子供達に『ママ先生』と慕われている貴女ならばその役目は充分に果たせると思うからな。」


だがなのはは四姉妹を罰する事はないと言い、それどころかテレサにルーアン地方での小児教育を担当して欲しいと言って来た――マーシア孤児院の建物はそれ程大きなモノではないが、其れでもルーアン地方の小児教育の一端を担う事は出来るだろう。


「私がルーアンの小児教育を?……勿体ない話ですが、私にそんな事が出来るとは思えません。」

「私が貴女ならば出来ると判断したと言うのではダメか?――貴女に会って、貴女の人柄を見て、貴女ならば任せられるとな。
 現実に、貴女が育てた彼女達はこれ程までに立派に成長しているようだし、貴女が彼女達に慕われていると言う事は此処に来るまでの間に良く分かった……そんな貴女の他にルーアン地方の小児教育を任せられる人は早々居ないと思う。
 其れに、此れは少し俗っぽい話になるが、小児教育機関となれば補助金も出る上に、当然貴女にも給与が発生するので孤児院の運営の足しにもなろう。決して悪い話ではないと思うがな?」

「其れは……分かりました。其処まで仰って頂いているのに、其れでも断ると言うのは失礼に当たりますね。
 私で宜しければ、小児教育の担当、謹んでお受けさせて頂きます。」


なのはは四姉妹を罰する気はないと言う事を告げると、テレサにルーアン地方での小児教育を担当して欲しいと言い、更には補助金とテレサへの給与も出すと言う破格の好待遇で迎える事を告げる。
テレサも迷いはしたが、最終的にはこの好待遇を受け入れてルーアン地方の小児教育を担当する事に――なのはに此処まで評価されておきながら断ると言うのは流石に失礼だろうと思ったのだろう。この話を受けて補助金と給与が出て運営資金が潤沢になれば、子供達にもっと良い暮らしをさせる事が出来ると言う思いも少なからずあったのかも知れないが。


「其れと、この四姉妹は城で預からせて欲しいのだが如何だろうか?
 此れだけの力を持った霊使いと言うのは中々お目に掛かれるモノではないのでな……王室親衛隊の嘱託魔導師と言う形で雇わせて貰いたいと思ってな?まぁ、其れはあくまで肩書であり、平時は女官達の手伝いと言う感じの仕事になると思うが。
 正直な所、今の城は働き手が足りない状況でな……デュナンが自分に都合の良い人間ばかりで固めていたせいで。」

「この子達がお城で……ですが、本当に良いのでしょうか?この子達が手に職を持つ事が出来ると言うのは有難い事ですが。」

「貴女と彼女達が了承して下さるのであれば大丈夫です。正直な所、私となのはさんだけで書類の整理をすると言うのも可成りキツイモノがありますので、此方としても働き手が増えてくれた方が有難いので。」


更になのはは、霊使い四姉妹を王室親衛隊の嘱託魔導師と言う形で雇わせて欲しいまで言ったのだ。『平時は女官の手伝い』と言う事は、『有事の際には戦闘に参加して貰う』と言う事でもあるのだが待遇としては悪くないモノだろう。
此れには四姉妹も驚いたが、城で雇ってくれると言う事はつまり、『最近良い仕事を見付けた』と言う、テレサに吐いていた嘘を現実にする事が出来る訳でもあり、四人全員がなのはの提案を受け入れ、テレサも『この子達をお願いします』と言って彼女達を城に送り出す事を決めたのだった。
こうして、誰一人不利益を被る事なく、此度の窃盗事件は静かに幕を下ろした。








――――――








同じ頃、グランセル城では……


「現存してる資料から、出来るだけ最高の改造をしてみたんだが如何だ?」

「うん、申し分ない。
 リボルバーのグリップは其のままに、刀身を青光りする半透明なモノにするとはな……此れは、幻のガンブレードと言われている『ライオンハート』其の物だな。」

「あぁ、其れを目指したからな。」

「やっぱりやるなら最高性能を目指さないとね♪」


不動兄妹が夏姫のガンブレードを魔改造していた。
数少ない過去の資料から、幻とも言われているガンブレードを作り出してしまうとは、不動兄妹の頭脳と技術力には脱帽モノである――そして、夏姫のガンブレードだけでなく一夏の雪片・弐式も調整して『高周波振動ブレード』としての機能を追加して、ダイヤモンドでも両断出来るようにしてしまったのだからマジで驚きである。





そして其れから数日後――


「此処がリベールですか……中々良い場所の様ですね。」

「そんじゃ、早速城に向かうか?」

「……その前に、このルーアンで腹ごしらえをしましょう。そろそろランチタイムなので時間的にも丁度良いですし。何よりも、このルーアンは海鮮が有名だと聞きましたので、其れを堪能しない手は無いでしょう?」


ルーアン港に大型の客船が入港し、その船からはなたねとネロが降りて来た――復讐に取りつかれたなのはの双子の妹と、彼女と目的を同じとするデビルクォーターが、遂にリベールの地にやって来たのであった……












 To Be Continued 







補足説明