「宝物庫から、物が無くなっているだと?」

「あぁ、其れもデュナンが国民から接収したモノばかりなんだ……価値で言えば、王室に代々伝えられて来たモノの方が上だと思うんだけどな。……歴代女王が継承して来たティアラとか、もうドレだけの値段がするのか分かんねぇ。
 プラチナの本体にルビーにダイヤモンドに珊瑚珠……王室ハンパねぇ。」

「宝物庫にある物が無くなっていたとは夢にも思っていませんでした……今まで気付く事が出来ず、申し訳ありません。」


ある日、なのはは王室親衛隊の一員となった一夏と隊長のユリアから、『宝物庫から物が無くなっている』との報告を受けていた。
グランセル城の宝物庫には、其れこそ値段の付けられないようなドレスや装飾品が眠っているのだが、其れ等には一切手を付けずに、デュナンが王だった時代に、国民から接収した美術品や宝飾品、法外とも言える税率によって取り立てられた税金の類が少しずつだが、確実に無くなっていると言うのだ。
一度や二度ならば誰も気に留めなかっただろうが、数が増えてくれば流石に気が付くと言うモノである……悪い例えだが、店の金庫から五百ミラ硬貨を一枚盗んだとしても一枚減った程度ならば誰も気付かないだろうが、其れも回数が多くなれば気付くのと同じだ。


「盗まれていると言う事か……しかも、国民に返却する予定だったモノ限定で。
 此れは困ったな?返却予定だったモノを盗まれては返す事も出来なくなってしまう……城は、アリシア前女王時代と同様、国民に一般開放して、誰でも自由に見学出来る様になっているが、まさか白昼堂々盗みを働く奴は居るまい。
 となると、夜になるのだが……真正面から来るとは思えん。夜であっても、城の正門には交代制で門番が付いているのだからな……となると、宝物庫に続いていると言う地下水路からの侵入になるのだが……」

「其れも考え辛いと思いますなのはさん。
 宝物庫へと続く地下水路の存在を知っているのは城の関係者でも、王族と王室親衛隊、そして一部の女官達に限られていますし、そもそも地下水路から城の宝物庫に続く扉の鍵は城で保管されている上に、ラッセル博士が作った複製不能の電子キーですので外部からの侵入は難しいかと。」

「となると残る手段は転移魔法……アリシア女王時代に城を訪れた者が転移魔法で城内に忍び込んで宝物庫からと言う事になるが、其れでも誰にも気付かれずに宝物庫へと辿り着いて犯行に及ぶと言うのは無理がある気がするぞ。」


しかも今回の一件は、こうして明確に宝物庫から物が無くなっている事に気付くまで、城の誰にも気付かれずに行われた完全犯罪とも言うべきモノ……褒められたモノではないが、犯人の腕前は可成りのレベルであると考えた方が良いだろう。
何せ宝物庫には、足跡や指紋と言った犯人に繋がる様なモノは一切残されてはおらず、物色した形跡すら残らないように目的のモノを運び出す際に動かしたモノの位置まで元に戻しておくと言う徹底振りなのだ……此れは現場で犯人を張り込む以外に捕まえる手段は存在しないと言えるだろう。


「ふぅ……窃盗事件、其れも国民に返却するモノを盗まれていると言うのは看過出来ん。
 とは言え、二ヶ所ある地下水路への入り口の警備を強化したのでは犯人も現れん……ユリア、地下水路の宝物庫へと続く扉付近に親衛隊の隊員を潜ませておいてくれるか?其れと宝物庫にも。窃盗犯が現れたら、其の場で即捕縛出来るように。」

「御意に。」


だが、なのはは警備の強化で城への侵入を防ぐのではなく、犯人を捕縛する為の策を考え、其れをユリアに伝える……警備を強化すれば確かに城への侵入其の物を防ぐ事が出来るかも知れないが、其れでは何れ犯人に警備の穴を突かれる時が来るので、此処は完全に捕らえる方向に舵を切ったのだ。
決戦は、今夜である……!










黒き星と白き翼 Chapter29
『Appearance, four thieves sisters』










その夜。
人々が寝静まった深夜のグランセルの地下水路に、四つの人影が姿を現した――その人影は全員が其の手に杖を持ち、そして使い魔と思しき小さな使い魔を従えている事から精霊魔導師か、或は『霊使い』と呼ばれる存在なのだろう。
空を覆っていた雲が切れ、月の光によって明らかになった四つの人影は、何れも十四~五歳位の少女だった。
青い髪を腰まで伸ばした少女、紅い髪を肩まで伸ばした勝気そうな少女、栗色のショートヘアーと眼鏡が特徴的な少女に翠の髪を一つに纏めた少女――青髪の少女はトカゲ人間の様な使い魔、紅髪の少女は狐のような使い魔、栗毛の少女は角の生えた齧歯類のような使い魔、翠髪の少女は小さなドラゴンの使い魔を従えているのも特徴的である。
使い魔の特徴を見るに、青髪の少女は水、紅髪の少女は炎、栗毛の少女は地、翠髪の少女は風の属性を備えて居る様だ。


「しっかしまぁ、まさかこんな方法でピッキング不可能な電子ロックを解除するとはな?ラッセルの爺さんが知ったら、頭から湯気出してブチキレるんじゃねぇか?『こんな方法でワシの電子ロックを~~!!』ってな感じでよ?」

「其れは有り得るかもね?
 でも、電子ロックとは言え鍵は鍵。物理的に複製が難しい電子ロックでも、無形の水の力を使えば解除するのは難しくないんだよ――但し、水を鍵の形に固定するのが難しいから、私以外には誰もやらないだけ。」

「でも、まさかこの扉の向こうがお城の宝物庫に繋がってたって言うのは驚きだったかな?何だって、こんな物を作ったんだろう?」

「戦争が起きて、いよいよ城が攻め落とされるとなった場合に、王族の人間が城の外に逃げる為に作られた緊急避難ルートだったのでしょう……其れが、今は私達にとって好都合な侵入ルートになっていると言うのは何とも皮肉な話ですが。」


青髪の少女はそう言うと、使い魔に命じて地下水路への入り口の鍵を解除させる。
ラッセル博士が発明した特殊電子ロックを解除する為の鍵は表面に複数の窪みがあり、その窪みと鍵穴内の突起が一致し、更にツァイスの中央工房で開発された特殊素材で作られた錠前と鍵が触れる事によって発生する微弱な電気反応によって開錠されると言うモノなのだが、水を使えば鍵の窪みと鍵穴の突起を一致させるのは容易であり、微弱な電気反応に関しても、翠髪の少女の力を使えば解決出来る。
風属性は、雷属性も同時に使う事が出来るので、水で出て来た鍵に多種多様な電流を流す事で、開錠の為の微弱な電流反応を知る事も出来るのである。そして、一度分かってしまえば後はもう簡単であり、こうして楽に開錠出来るのである。

そう、彼女達こそが此度の窃盗事件の犯人だ。
こうした方法で夜な夜な地下から王城の宝物庫に忍び込み、誰にも気付かれる事なく宝物庫からデュナンが国民から接収したモノを持ち出していたのだ――犯行を終えた後は、開錠とは逆の手順で施錠し、一切の手掛かりを残さない完全犯罪を遂行していたのである。


「そう、そうやって城に入り込んでいたのね。」

「「「「!!!」」」」


だが、此の日はそうは問屋が卸さなかった!地下水路に入ろうとした彼女達に何者かが声を掛けて来たのだ。
四人の少女は、何者かと思って振り返ったのだが……


「任務、遂行します。」

「「「「きゃーーーーー!?」」」」


盛大に悲鳴を上げる結果となった。
何故って、振り返った其処には、懐中電灯で下から顔を照らしているレオナの姿があったから……下から顔を照らすと言うだけでも、中々恐怖のダイレクトアタックなのだが、レオナは基本無表情で目付きも鋭いので恐怖は倍率ドンである。
加えて今のレオナは己に流れている『オロチの血』を覚醒して赤目赤髪となっているので余計に迫力があるのだ。


「まさか、お前達の様な少女達が犯人だったとはな……だが、だからと言って見逃してやる道理は何処にも無い!捕らえろ!!」


更に、物陰に隠れていた親衛隊の隊員が現れ、少女達を捕縛せんと動く!
ユリアは親衛隊を二つの部隊に分けて地下水路の隠し扉付近と宝物庫に待機させていたのだ。夫々の戦力は十五人ほどだが、其れでもたった四人の窃盗犯を捕らえるには充分の戦力と言えるだろう。


「クソッタレ、待ち伏せかよ!!」

「此れは、真面に戦っても勝てないね……三十六計逃げるに如かず!ウィン、お願い!」

「アイアイサー!喰らえ、マジカルスタングレネード!!」


だが状況不利と判断した少女達は、ウィンと呼ばれた少女が、小さなドラゴンの使い魔の力で魔力を使った閃光を発生させて親衛隊の視界を潰してその場から離脱する……地下水路の闇に慣れた目に対しての閃光は効果抜群だろう。
少女達は、其のまま地下水路から地上に出て王都から離脱しようとするが……



――ズッドォォォォォォン!!



その直前に何かが少女達の前に落下して来た!
其れはまるで隕石が落下したかの如くで、その場には大きなクレーターが出来上がっている……まさかの光景に四人の少女は思わず身構える。未知の宇宙人とか出て来たら、其れこそ何がどうなるか分かったモノではないのだから。


「あ~っはっは!なのはに頼まれて待機して、そして雷光散らして僕さんじょー!!お前等がどろぼーだな?かくごしろー!!」


だが、クレーターから現れたのは宇宙人ではなくアホの子だった。……今回の一件、万が一にも取り逃してしまった場合に備えて、なのははテスタロッサ姉妹にも上空で待機しておくように依頼していたのだ。
でもって、逃走する少女達を上空から見付けたレヴィは隕石の如き勢いで突撃して来たと言う訳である……普通だったら、身体が粉々になっているところだが、レヴィは防御力は紙でありながらやたら打たれ強いと言う矛盾のある存在なので無傷なのだ。この謎の矛盾は、レヴィの生みの親であるプレシアでも解明出来ない謎と言うモノなんだろうな。


「貴女達はもう逃げられない……大人しく投降してくれないかな?」


其処にフェイトが合流し、『ザンバーフォーム』に換装して大剣となったバルディッシュを少女達に突き付けて投降を促す……其れは大人しく投降しないのであれば実力行使もいとわないと言う意思の表れであり、最後通告とも言えるだろう。


「こんな所で捕まる事は出来ないんです……だから、強行突破させて貰います!!!行くよ皆!」

「おうよ!!霊使い奥義!!」

「「「「憑依装着!!」」」」


だが、少女達は怯む事なく魔力を開放して、使い魔の力を解き放つ……その結果、使い魔達は本来の力を発揮し、先程までとは比べ物にならない魔力を其の身に纏い、少女達の魔力も大幅に上昇している。
使い魔の力を最大限に引き出すだけでなく、己の力も最大限に引き出す、精霊魔導師と霊使いの奥義とも言うべき術を使って来たのだ。
其れを見たフェイトはバルディッシュを構え直し、レヴィもバルニフィカスを『ブレイカーフォーム』に換装して少女達と向かい合う……金の大剣と蒼の大剣、其れが揃うと中々に迫力がある。


「プラズマランサー!」

「電刃衝!!」


先に仕掛けたのはフェイトとレヴィからだった。
本命である近距離戦に持ち込むための牽制の魔力弾だが、雷属性の魔法の最大の特徴は攻撃速度にある。魔力弾にしろ直射砲撃にしろ、兎に角速い。一流の使い手が放った場合は、距離にもよるが放ったのを確認してからでは回避は不可能とまで言われているのだ。


「矢張り雷属性ですか……仕込んでおいて正解でした。」


だがその攻撃は、少女達の前に現れた土の壁によって阻まれた――戦って突破するしかないと考えた彼女達もまた、憑依装着を完了すると同時に術を仕込んでいたらしく、栗毛で眼鏡の少女は雷属性に強い地属性の力を使って土の壁を築いたのである。
更に蒼髪の少女が水撃弾を撃ち出すと、紅髪の少女とウィンはお互いの術を合成して『炎の竜巻』を作り出してフェイトとレヴィにぶつける!別にこの攻撃で倒す事が出来なくとも、フェイトとレヴィを怯ませて此の場を突破する事が出来れば其れで良い……炎の竜巻は殺傷能力こそ低いが、攻撃範囲が広いので無傷でやり過ごすには大きく回避する以外の方法はない――一応、炎の竜巻以上の技をぶつけて相殺すると言う手段もあるにはあるが、異なる二つの属性で構成された技を真正面から打ち破ると言うのは中々難しいモノなのだ。


「氷河……」

「雷龍……」

「「波動拳!!」」


しかし、その炎の竜巻は雷と氷の気功波によって相殺されてしまった――一夏と刀奈が現場に駆け付け、合体の波動拳を放ったのだ。いや、一夏と刀奈だけでなくヴィシュヌにロラン、グリフィンも現場に到着していた。
一夏達は宝物庫で待機していたのだが、何故此処に居るのか?ユリアから『賊が逃げた』と言う連絡を受けると同時に簪が地下水路の宝物庫へと繋がる扉からの最短距離を計算して、東区画か西区画の何方から出て来るかを割り出して一夏達に伝えたからである。直接的な戦闘力は低くとも、簪のバックスとしての能力は鬼の子供達の中でもピカ一なのである。


「一気に増援が五人も……此れは、流石にちょっとヤバい気がするよヒータちゃん。」

「まだ大丈夫だろエリア?使い魔入れりゃ、数の上では未だこっちの方が一つだけ上だからな……此れ以上の増援が来る前にコイツ等を突破してさっさとずらかりゃ問題ねぇ!!」

「相変わらず、いっそ清々しいまでの脳筋理論ですね。流石は直情型の炎属性、ある意味で尊敬します。」

「アウス、テメェそりゃ褒めてんのかそれとも貶してんのかどっちだ?オメェみたいなインテリの考えってのは、アタシみてぇな直情型にはちょいとばかり分かり辛いんだけどよ?」

「其れはご想像にお任せします。」

「おし、無事に此処きり抜けたら一発殴るからその心算で居やがれ!」


此の状況に、蒼髪の少女・エリアは不味いと感じたようだが、紅髪の少女・ヒータは使い魔も含めれば数の上では分があるから兎に角此処を突破して離脱すれば其れで良いと言って、栗毛で眼鏡の少女・アウスはそんなヒータに少し呆れている様だった。
アウスの反応に、ヒータは少し怒った様子を見せてはいたモノの、口元には笑みが浮かんでいたので本気で怒っている訳ではないのだろう。
其処から戦闘は激化し、一夏はヒータの使い魔である稲荷火と、刀奈はヒータと、ヴィシュヌはアウスの使い魔のデーモン・イーターと、ロランはウィンの使い魔であるランリュウと、グリフィンはアウスと、フェイトはエリアと、レヴィはウィンと交戦状態に!
属性的な相性で言えば刀奈とヒータは氷の炎でヒータが有利、フェイトとエリアは雷と水でフェイトが有利なのだが、此の状況ではエリアの使い魔であるジゴバイトはフリーになる。
加えてジゴバイトは、他の使い魔とは異なり憑依装着の状態でもう一段階上の『ガガギゴ』と言う形態になる事も出来るので、状況次第では四人の少女を此の場から逃がす為の一撃を放つ事も可能だろう。
ジゴバイトは、エリア達を此の場から離脱させる為に、最大の一撃を放とうと力を集中するが――


「させるかよ、このトカゲ人間がぁ!!」

『!?』


その前に強烈な拳打でもってブッ飛ばされてしまった。
ジゴバイトをブッ飛ばしたのは言うまでもなく、王室親衛隊の嘱託隊員となった、なのはの十年来の付き合いになる、言動は粗暴で粗野だが頼れる兄貴分であるシェンであった。
なのはから直々の依頼を受けたシェンは、『私も手伝います!』と言って譲らなかったユーリと共に本作戦に参加していたのだ――但し、其れは王室親衛隊の正規メンバーにも伝えられていなかった、正に想定外の戦力な訳だが。
とは言え、此処ので更なる増援は少女達にとっては実に有り難くない事であろう……シェンだけならばイーブンだったのが、ユーリも居る事で数の上では不利になってしまったのだから。――普通ならばユーリは戦力として見ない所だが、ユーリは拍翼を展開していたので、嫌でも相当な力を秘めたヤバい相手だと認識せざるを得なかったのである。
因みユーリが拍翼を展開して現れたのは、シェンから『喧嘩や戦いってのは、相手をビビらす事が出来りゃ其れで八割勝負が決まるから、お前は戦う時には最初から拍翼を出来るだけデカく展開して行け。闇色のバカいデカい翼ってのは、其れだけで相手をビビらす事が出来るからな』とのアドバイスを受けたからだ。
若干暴論感が否めなくはないが、シェンは喧嘩上等百戦錬磨の喧嘩無敗の喧嘩士であり、実戦経験だけは豊富な事この上ないので、此の暴論と言える理屈も間違いではないのだろう。実戦経験に勝る理論はないと言うモノかも知れないが。


「ギゴちゃん!!」

『グルルル……』

「畜生め……こうなったら、切り札切るぞお前等!!」

「其れしかないみたいだね……」

「此の場を切り抜ける為にも……」

「「「憑依覚醒!!」」」

「アドバンス召喚!!」


状況的に不利になった少女達は、憑依装着以上の切り札を切って、更に使い魔達を強化する!その結果として、稲荷火は大稲荷火に、ランリュウはラセンリュウ、デーモン・イーターはデーモン・リーパーへと姿を変えたのだが、エリアだけは憑依覚醒の更に上の強化法であるアドバンス召喚を使ってジゴバイトを超強化!
結果として、ジゴバイトは身体の各所が機械化されたサイボーグの様な姿に変化し、他の使い魔とは一線を画す力を持った存在となった様だ。


『ガルルゥゥゥゥ……』
ゴギガ・ガガギゴ:ATK2950



「サイボーグ化ってか?だが、其れが如何したオラァ!俺の拳は鉄も砕くぞ!!」


だが、そんな事はお構いなしに、シェンはゴギガ・ガガギゴに殴り掛かり、ゴギガ・ガガギゴも鋼鉄化された腕で応戦するが、シェンの拳を受けてゴギガ・ガガギゴの鋼鉄の装甲には僅かにヒビが入る。『本気の俺の拳はダイヤモンドよりも硬い』と言うのが自慢のシェンだが、如何やらそれは誇張でもなんでもなく割とガチな事であるのかも知れない。喧嘩士ハンパねぇなマジで。


『ギギャァァァァァァ!!』

「ちぃ、今のを喰らっても怯まねぇとは、中々根性あるじゃねぇかテメェ……上等だ、トコトンまで遣り合おうじゃねぇかオイ!久々の楽しい喧嘩になりそうだぜ!!」


シェンとゴギガ・ガガギゴは其のまま殴り合いになったのだが、戦況は一夏達の方が有利になっていた。
シェンとユーリが参戦した事で数の差は逆転し、ユーリが常にフリーで動く事が出来たため、拍翼を使った攻撃で一夏達のサポートをして四人の少女とその使い魔達に本領を発揮させていなかった。
拍翼は魔力体であり、無形なので様々な攻撃が可能であり、其れが四人の少女達には対処が難しかったのだろう。徐々に押され始め、そして――


「オラァ!コイツで眠っとけぇ!!」

「行くぜ、昇龍裂破!!」

「タイガァァ……レイド!!」

「真空……竜巻旋風脚!!」


シェンがゴギガ・ガガギゴに渾身のチョップを叩き込んでKOし、一夏は大稲荷火に三連続の昇龍拳『昇龍裂破』をブチかまし、ヴィシュヌはデーモン・リーパーに二連続のハイキックからの横飛び蹴りのコンボ『タイガーレイド』を喰らわせ、ロランはラセンリュウに超高速回転の竜巻旋風脚『真空竜巻旋風脚』を放って戦闘不能にする。
使い魔が倒された霊使いは、己の力のみで戦うしかない。
四人の少女は其れなりに高い魔力を秘めているが、夫々が己の得意とする属性を磨いていた事から、其れ以外の属性の力を使う事は出来ず、使い魔が倒されてしまったのでは多勢に無勢だ。


「閃光弾とは、やってくれたな……」

「でもあの判断は悪くなかった……あの場から離脱するには、此の以上ない方法だった。」


其処に、視界が回復したユリア達が駆け付け少女達は完全に包囲され、此れではもう逃げる事は出来ないだろう――また閃光弾を使えば逃げる事も出来るかも知れないが同じ手は二度は通じないと言われているので、其れを使う事は出来ない。仮に其れで逃げおおせても今回の事で顔が割れてしまったので、逃げ切る事は不可能であろう。


「如何やら、巧く行ったようだな?」

「まさか、貴女達の様な少女が犯人だったとは……」


更には、其処にヴァリアスに乗ったなのはと、アシェルに乗ったクローゼが現れた事で少女達は完全に戦意を消失してしまった……エリアの最強使い魔であるゴギガ・ガガギゴならばヴァリアスには勝てるかも知れないが、アシェルに勝つ事は絶対に出来ないと、その圧倒的な力の差を感じ取ってしまったのだ。
なので、四人の少女はその場に膝を付いて両手を上げて『降参』の意を示す。


「賢明な判断だな……ユリア、彼女達を謁見の間に連れて行け。彼女達の申し開きは其処で聞く事にする……だが、絶対に暴力は振るうなよ?彼女達は、あくまでも丁重に扱うんだ。
 其れから、使い魔達の方は治療してやれ。水属性の奴は特に重点的に治療してやるようにな。」

「了解しました陛下。」


少女達は捕らえられたのだが、なのはの命令で乱暴な扱いをされる事なく王城まで護送され、そして謁見の間に連れて来られ、其処で改めてリベールの新女王であるなのはと対峙する事になるのだった。








――――――







「ぐおぉぉ……ぐぬ……京ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


同じ頃、謎の相手との野試合に敗北した柴舟はベッドに括りつけられ、頭に何らかの装置を設置されて、その装置から発せられる電波に抗っていた……だが、その抵抗も虚しく、五分後には柴舟の意識は闇に落ちた。


「……全ては、ライトロードの為に……」


そして、次に柴舟が目を覚ました時には、その瞳に光は宿っていなかった……今この時を持って、柴舟はライトロードの手駒になってしまった、つまりはそう言う事なのであろう。
ライトロードがリベールを襲ったその時は、最悪の父と息子の再会が為されるのは、最早間違いないだろう。
柴舟の手の中では、草薙の紅い炎ではなく、神々しさの中に何処か不気味さを感じさせる金色の炎が揺らいでいた……












 To Be Continued 







補足説明