ユーリの武器を見付ける為に訪れた場所にて、ユーリがとある魔導書を手にした瞬間に、眩いばかりの光が溢れ出して周囲を照らし出し……そして、程なくして光は治まったのだが、光が治まってから現れたユーリの背には、闇色の魔力の翼が現出していた。


「魔力の翼だと?ってか、お前あの魔導書は如何した?」

「えっと、私の中に取り込まれてしまったみたいです……そして、あの魔導書を取り込んだ結果、この翼、《拍翼》が現れたみたいです。」

「魔導書取り込んだって、其れ大丈夫……みてぇだな?見たところ、なんか体調が悪くなった訳でもねぇみてぇだし。
 って事はつまり、あの魔導書がお前に最適の武器だったって事か?だけどよ、その拍翼とやらは何が出来るんだ?魔力の翼ってのは見れば分かるんだが。」

「拍翼からは、無数の魔力弾を連射出来たり、超強力な魔力砲を放つ事が出来るみたいです。」

「おぉ、そいつは強そうだな?」

「更に拍翼を、剣に変形させて近距離攻撃も出来るみたいですし、身体を包み込む事でシールドとしても機能します。」

「中々に万能だな?」

「そして其れだけでなく、拍翼を巨大な腕にする事も出来るみたいです。こんな風に。」



――ドッギャーン!!



「最後のは若干怖いが、要するにその拍翼ってのは、中々に高性能でありながら汎用性に富んだ武器って事で良いんだろ?良い武器が手に入ったじゃねぇか?
 ソイツなら両手は自由になるから、拍翼で攻撃しながら別の武器も使えるって事だしな?態々、こんな治安の悪い所まで出向いた甲斐もあるってモンだ。」


手にして直ぐにユーリに取り込まれてしまったため、この魔導書が一体何の魔導書であったのかは不明ではあるが、ユーリは魔導書の適合者と認められ、適合者の証として『拍翼』と言う力を手に入れたのだろう。
ユーリの可愛らしい容姿と、恐ろし気な拍翼のギャップもまた中々魅力的と言えるかも知れない。


「そんじゃ、目的は果たしたから帰るとすっか……って、今からじゃリベールに着くのは夜中になっちまうか。
 しゃーねぇ、今日は近くの街で宿取って、リベールに戻るのは明日にするか。宿取ったらどっかで飯にすっけど、何か食いてぇモンあるか?遠慮なく言えよ?」

「えっと、其れじゃあハンバーグが良いです。」

「ハンバーグか……俺も偶にはハンバーグでも良いかもな。」


拍翼は出し入れ可能だったので、消した状態で近くの街まで移動して宿を取り、街のレストランでハンバーグでの夕食を楽しんだ。
その際、トマトソースのチーズインハンバーグを笑顔で食べるユーリを見て、シェンは『良かったぜ、笑う事は出来るみてぇだな。』と内心少しホッとしていた……目の前で両親を喪ってしまった事で、感情を失ってしまったのではないかと心配していたのだ。――尤も、ユーリが感情を失わずに済んだのは、シェンがデュナンとの戦いの時以外は一緒に居て、何かと気に掛けてくれたからなのだが。
子供の頃のなのはとなたねにも懐かれていたシェンだが、どうやら彼は子供の相手が得意であるらしい。










黒き星と白き翼 Chapter28
『平和と言う名のBreak Timeと……?』










「魔導書を取り込んで、そしてその拍翼と言う武器を手に入れたと言う訳か……砲台にも剣にも盾にもなる魔力の翼と言うのは、使い方によっては無限の可能性を秘めているが、果たして腕に変形する機能は必要だったのだろうか?」

「魔力で構成された腕ならば伸ばす事も出来るでしょうから、遠くのモノを引き寄せたり出来て便利そうではありますけれど……あの巨大な腕でパンチのラッシュを使ったら凄い事になる気がします。」

「拍翼で作った腕で、とっても大きな剣使うとかも出来そう……其れだけで相手がビビっちゃうかも!」


リベールに戻ってきたシェンから、ユーリの武器を見付けて来たと報告を受けたなのはとクローゼとヴィヴィオは、目の前で展開された拍翼を見て率直に思った事を口にしていた。
万能な高性能武器である拍翼は、なのはとクローゼの目にも相当に強力なモノだと映った様である……クローゼの言った攻撃は、絵面的に凄い事になりそうではあるが。儚げな美少女が、巨大な魔力の拳で敵をフルボッコとか、ギャップが凄過ぎる。


「しかし、魔導書か……その魔導書、若しかしたら魔導書自身が己の持ち主を選定する為に己を取り込ませ、適格者には絶大な力を齎す反面、非適格者は取り殺してしまうと言われている伝説の呪われし魔導書、『闇の書』だったのかも知れんな?」

「闇の書、ですか?」

「なんだそりゃ?」

「名前からして、なんかヤバそうな雰囲気がバリバリなんだけどなのはママ?」

「私が取り込んだ魔導書って、そんなに凄いモノなんですか?」

「此の世には数え切れないほどの魔導書が存在している。持ち主に相手の力を一時的に封じる力を与える『月の書』、持ち主の潜在能力を開放する『太陽の書』等、様々だが、その中でも特に強い力を持っているとされているのが、八神はやての持つ『夜天の魔導書』、八神なぎさの持つ『紫天の魔導書』、そしてユーリ、お前が取り込んだ『闇の書』だ。
 これら三つの魔導書は何れも強大な闇の力を秘めているのだが、闇の書だけは先程も言った通り、適合者以外の者が手にしたら死に至る……逆に言えば、お前は闇の書の適合者足り得るだけの魔力を備えていたと言う事だがな。」


ユーリが其の身に取り込んだ魔導書の名は、『闇の書』であり、なのはの話を聞く限りでは可成りヤバめの代物ではあるが、適合者でなければ死と言う大き過ぎるリスクが存在する代わりに、適合者であれば絶大な力を手にする事が出来るモノであった。
ハイリスクハイリターンな魔導書であるが、其れに見事に適合したユーリは、なのはが睨んだ通り絶大な魔力を其の身に秘めていたと言う証でもある。そして、其の魔力が闇属性であると言う事の証でもあるのだ――他の属性と違い、闇属性の力は闇属性の者にしか扱う事は出来ないのだから。


「闇の書……闇の力、それが私の力……あの、なのはさん、その……私もなのはさんの仲間にしてくれませんか?此の力を、誰かの為に役に立てたいんです!」

「ほう?」


此処でユーリが、なのはに『仲間にしてください』と言って来た。――其れはつまり、『自分もリベリオンの一員にして下さい』と言う事だろう。
なのははリベールの新たな王となったが、しかし『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』を解散した訳ではなく、リベリオンのメンバーには、有事の際に通常の指揮系統からは外れて行動出来る権限を与えており、そう言った意味ではリベリオンの一員となっていた方が有事の際に自由に動く事が出来る訳である。
其処だけを聞くと、『通常の指揮系統の中に居る者達が窮屈ではないか?』と思うだろうが、なのはは『統率された指揮系統と、自由に動ける戦力の両方がバランス良く存在する事が大事だ』と考えて、こう言う軍の改革を行ったのだ。自由に動ける戦力が敵の陣形を崩した所に、統率された戦力が畳み掛けると言うのは、実に強力な事此の上ないからね。


「其れがお前の意思ならば是非もないが、お前のような子供を軍に在籍させる訳には行かんからな……だから、王室親衛隊の嘱託騎士と言う位置付けにしておこう。
 嘱託騎士ならば、必要な時以外は自由に過ごす事が出来るからな。」

「だな。だが、其れなら俺も配属を変えて貰って良いかなのは?
 俺は王国軍にって事だったが、そうなるとユーリの面倒を見る事が出来なくなっちまうから、出来れば俺も王室親衛隊の嘱託って事にしてくれや……コイツにゃもう家族が居ねぇんだ。だったら、トコトン俺が面倒見てやらねぇとだからな。」

「ふむ……確かにそうだな。ならば、お前の言うように手配をしておこう。
 しかし、ユーリの事をお前に任せたのは私だが、トコトン面倒を見るとは……シェン、お前ガチでロリコンじゃないよな?子供の頃の私となたねにも色々と気を回してくれた事を考えると、どうしてもその疑惑が払拭出来んのだが?」

「誰がロリコンだオラァ!そんな疑惑なんぞ、犬に食わせて抹殺しやがれ!!」


シェンにロリコン疑惑が再浮上したが、シェンにはマジでそんな趣味はない……何故か子供、其れも女子に懐かれるだけである。――アガットも、十一歳年下のティータに懐かれている事を考えると、不良系の兄貴分はめっちゃ年下の女子にモテる『何か』があるのかも知れない。其れを言ったら、志緒にもそう言った存在が居て然ると言う事になるのだが、志緒には現状そう言った相手はいない……若しかしたら、此れから先現われるのかも知れないが。


「ふ、冗談だよシェン。……ではユーリ、お前を新たに王室親衛隊の嘱託騎士として任命する!強大な闇の書の力、使い熟せるように日々励め。」

「はい!!」

「シェン、引き続きユーリの事を頼むぞ?」

「ハッ、言われるまでもねぇってんだ。コイツの事は、何があったって面倒見てやるぜ!」


シェンからの報告は、なのはがユーリに『其の力を使い熟せるように日々励め』と言ってターンエンド!既に、拍翼を自分の思うように使えているユーリだが、其れは使えているだけであって、『使いこなしている』と言うレベルではない――故に、完全に使い熟す為には、マダマダ精進が必要になると言う事であり、敢えて其れを明確とする事でユーリの進むべき道を示したとも言えるだろう。

此れにてシェンからの報告は終わったのだが、シェンとユーリが玉座の間から去ったのと入れ替わるように、王室親衛隊の隊長を務めるユリアが入って来た。


「陛下、少し宜しいでしょうか?」

「ユリアか……如何した?何か急務の事態か?」

「ある意味ではそうかと……フィリップ殿が、先程目を覚ましたとの報告が。」

「なに?」

「フィリップさんが?」

「あのオジサン、目を覚ましたんだ!!」


そのユリアから齎されたのは、デュナンとの戦いの際に、帰天してダンテと戦い、そして破れたフィリップが意識を取り戻したとの事だった――帰天によって強制的に悪魔の力をインストールされたフィリップは、敗北した時は最悪の場合、帰天の反動で死に至るのではないかと考えていたのだが、如何にか持ち堪えてギリギリ命を繋いだ様である。
並の人間だったら、帰天によって悪魔に魂を喰われていただろうが、フィリップは強靭な精神力によって魂を喰われる事を回避したのだ――その代償として、理性を失う事になってしまったのだが、理性を失ってなおダンテと互角に遣り合った其の実力は計り知れないモノがあると言っても過言ではなかろうな。
まぁ、何にしてもそのフィリップが意識を取り戻したと言うのであれば、会いに行く以外の選択肢は存在しないだろう。


「フィリップが意識を取り戻したと言うのであれば、会っておかねばだが……お前達は如何するクローゼ?ヴィヴィオ?」

「其れを、今更聞きますかなのはさん?」

「なのはママが会うって言うなら、勿論私もクローゼママも会うよ!」

「そうか……では行くとしようか、フィリップが入院している病院にな……!!」


フィリップが意識を取り戻したと言う事を聞き、なのはとクローゼとヴィヴィオは、一路フィリップが入院しているグランセルの王立病院へと向かうのだった。








―――――――








グランセルの王立病院にやって来たなのは達は、受付でフィリップとの面会を取り付けると、速攻でフィリップの病室へと直行。
病室のドアをノックすると、中から『どうぞ。』との返事が返って来たので部屋に入ると、病室内ではグレーヘアーを半分けにした壮年の老紳士がベッドで身を起こして本を読んでいた。


「こ、此れはクローディア殿下!!も、申し訳ありませんこの様な格好で!!」

「あ、未だ目が覚めたばかりなんですから無理はダメですよフィリップさん?……でも、思ったよりも元気そうで安心しました。何処か具合の悪い所はありませんか?」

「いえ、此れと言って特には。強いて言うのであれば、全身が筋肉痛と言ったところで御座います……悪魔の力を此の身に宿したとは言え、矢張り老体は無理をするべきではないと痛感しております。」


その老紳士――フィリップは、クローゼの姿を見ると慌てて姿勢を直そうとするが、其れはクローゼがやんわりと制して先ずは身体の具合を尋ねる。入院患者に面会した時のお馴染みの遣り取りと言う奴だろう。
その遣り取りで穏やかな笑みを浮かべたフィリップだったが、クローゼと共に室内に入って来たなのはとヴィヴィオの姿を見ると、その表情が引き締まったモノへと一気に変わった。己が仕えていたデュナンによって幽閉されていた筈のクローゼが、今こうして目の前に現れ、そして見知らぬ人物も一緒だと言う事も相俟って、自分の知らない所で何かが起きた事を察したのだろう。


「クローディア殿下、其方の方は?」

「高町なのはさんです。幽閉されていた私を城から連れ出してくれた恩人で、そしてリベールの新たな王でもあります。」

「何と!幽閉されていた殿下を連れ出したと!!其れだけでなく、リベールの新たな王とは……ですが、貴女がリベールの新たな王となったと言う事は、つまりデュナン様は倒された、と言う事なのでしょうな……」

「あぁ、奴は私とクローゼの手で討ち倒した……尤も、私達が倒したのは、デュナン本人ではなく、デュナンを操り、そして其の存在を乗っ取った下衆な悪魔だがな。」

「左様でございますか……しかし、デュナン様は悪魔に乗っ取られてしまっていたのでしたか。……アリシア女王陛下が急逝した後、クーデターを起こすなど、人が変わってしまったかのようでしたが、本当に別物になっていたとは。」


先ずなのはの事を紹介されたフィリップは、なのはが新たなリベールの王となったと言う事で、デュナンが倒されたと言う事を知り、そしてデュナンが悪魔にその存在を乗っ取られていたと言う事も聞かされた。
長年デュナンに仕えて来たフィリップも、アリシア前女王が急逝した直後のデュナンの豹変振りには驚いたのだが、まさか本当に別物になってしまっていたとは思いもしなかったのだろう。


「フィリップ、デュナンの最側近であったお前が知っている事を全て教えてはくれないだろうか?
 如何に奴が悪魔に乗っ取られていたとは言え、王城の地下の機械兵を自分の命令通りに動くようにするだけならば未だしも、悪魔を作り出したり、人を帰天させたりと、其れ等は大凡一人で出来るモノではない。奴には誰か協力者が居たのか?」

「其れが……私も良く覚えていないのです。
 クローディア殿下を幽閉した後、デュナン様が秘密裏に何かを行っていたようですので、ある日こっそりと執務室に入ってみたのですが……其処には悪魔を培養している無数のカプセルがございました。
 此れは只事ではないと思うと同時に、こんな物を誕生させてはならないと思いカプセルを破壊しようとしたのですが、タイミング悪くデュナン様に見つかってしまい、既に完成していた悪魔達によって捕らえられ、そして帰天の儀式を施されてしまったのです。
 悪魔も、二~三体ならば兎も角、十体以上となると、此の老体には流石に多勢に無勢でした……其れは兎も角、私に帰天の儀式を行う際に、デュナン様以外にもう一人誰か居たように思うのですが、其れが一体誰だったのかを良く覚えていないのです。
 普通ならば顔の特徴位は覚えていそうなモノなのですが……果たしてその者が、男性であったのか女性であったのかすら。帰天後の記憶はありませんので、私が話せるのは此れ位で御座います。」

「儀式の場に叔父様以外にもう一人……」

「でも、オジサンは覚えてないって……如何言う事なんだろう?」

「……記憶の操作、或は暗示の類だろうな。
 自分の存在だけを記憶から消すとは、デュナンの協力者と思しき奴は、余程自分の存在を表に出したくないらしい……となると、この間の戦闘で捕らえた連中の中には居ないだろうな。
 もう一つの可能性としては、今フィリップが話した事其の物が、デュナンによって植え付けられた偽の記憶の可能性だが……人造悪魔の数と、帰天した人数を考えると、デュナンの単独とは考え辛いから、此方の可能性は低いだろう。」


残念ながらフィリップからは有力な情報を得る事は出来なかったが、取り敢えずデュナンには協力者と思しき人物が存在していたと言う可能性があると言う事が分かっただけでも儲けモノだろう。――尤も、一つ面倒事が増えてしまったのも事実だが。
デュナンの協力者が既にリベールから出国して、この間の戦闘に巻き込まれていなかったとしたら、また別の誰かと同じ様な事をしないとは言い切れないからだ……とは言っても、顔も名前も分からない以上は、『ヤバそうな奴が居るから警戒しておこう』位の事しか出来ないのが現実なのだが。


「してクローディア殿下、もう一人の方は?」

「彼女はヴィヴィオ。私となのはさんの娘です。」

「初めまして、ヴィヴィオです!」

「殿下となのは様の……って、娘ですと!?女性同士で娘?否、其れにしても年齢がオカシイと思うのですが!?」

「娘とは言っても義理の娘だ、血は繋がっていない。」

「そ、そうでございますよね……あまりに驚いて、寿命が三十年ほど縮まったかと思いました。」


ヴィヴィオの紹介では、流石にフィリップも驚いたが、義理の娘だと言うと納得したらしい。『三十年ほど寿命が縮まった』とは、現在七十代でありながら、果たして何歳まで生きる心算だったのやらだが。
ヴィヴィオの出自については詳しい事は話さず、『事情があって、精神が幼い』と説明するに止めたのは、なのはとクローゼのフィリップに対する配慮だろう。『デュナンによって兵器として生み出された』と言う事を話せば、フィリップの精神に負担を掛けるだけだと判断したのである。


「其れからフィリップさん、私はもうクローディア・フォン・アウスレーゼではありません。今の私はなのはさんのパートナーである、クローゼ・リンツです。そして、叔父様が居なくなった今、王族としてのアウスレーゼはもう存在していません。
 アウスレーゼの血統によるリベールの統治は終わり、新たな王の下で新生リベールとして生まれ変わったんです。」

「殿下……いえ、クローゼ様……了解いたしました。
 ですが、だからと言ってデュナン様がクローゼ様に行った事は、決して許されぬ事……クローゼ様が幽閉されてしまったのは、デュナン様を止める事が出来なかった私にも責任が御座います。故に、然るべき罰を受ける覚悟は出来ております。
 或は、新たな王たるなのは陛下が罰を下して頂いても一向にかまいませぬ。」

「ふむ……では、お前には身体の調子が戻り次第、グランセルホテルのオーナーになって貰おう。前オーナーがデュナンと癒着していたので、贈賄の罪で更迭したのだが、後任が中々決まらなくて困っていたのだ。
 本音を言うのであれば、王室親衛隊の特別教官になって欲しいのだが、王室関係の事ではお前は絶対に首を縦に振るとは思えんから、民間施設のオーナーを任せたい。尤も、拒否権はないがな。」

「そ、そんなモノが罰に!?それに、私は悪魔の力を宿しています!もしも其れが暴走したら……!!」

「帰天によって得た悪魔の力は、お前が理性を取り戻した事で安定しているから問題ない。直ぐに自在に扱う事も出来るようになるだろう――理性を失った状態でありながらも、ダンテほどの実力者と互角に遣り合っていたと聞いているが、其れはお前の実力が高ければこその事だ。
 悪魔の力は忌むべきモノかも知れないが、力は所詮力でしかなく、扱う者の心次第で善にも悪にもなる。今のお前ならば、力に呑み込まれると言う事もあるまい。
 そしてホテルのオーナーの件は、お前には拒否権は無いのだから充分な罰になるだろう?やりたくなかったとしても、やらざるを得ないのだからな。」


クローゼが幽閉された事には、自分にも責任があると言って、罰を受ける覚悟があると言ったフィリップに対して、なのはは何とも粋な計らいをした……王室に関係する仕事ではなく、民間のホテルのオーナーになれと、拒否権は無いと言ったのだ。
拒否権は無いと言う事は、どうやってもホテルのオーナーになれと言う事であり、嫌でもやるしかないので、確かに罰と言えなくはないが、ホテルの経営が安泰である限りは、ホテルのオーナーの収入も安定したモノとなるので決して悪いモノではないのである。
此れは、実は病院に向かう道中でなのはとクローゼが、『若しもフィリップが自分に罰を与えろと言って来たらどうするか』を話し合って決めたモノだった。確かにフィリップはデュナンの最側近ではあったが、だがデュナンの暴走はフィリップのせいではないので、罰と言えるが罰にはならない罰を与えると言う事で、この案を考えたのであった。


「……!寛大な沙汰に、感謝致します……!!ホテルのオーナー、この命尽きるまで全力で務めさせて頂きます……!!」

「あぁ、期待しているぞフィリップ。」

「ですが焦らず、今は身体を全快する事だけを考えて下さいフィリップさん。」

「ファイトだよ、オジサン!!」

「はい、はい……!!」


その計らいに、フィリップは涙を流して感謝し、そして同時に心の中で何があってもなのはとクローゼの事は絶対に裏切るまいと誓っていた……嘗てデュナンに向けられていた忠誠心は、なのはとクローゼに向けられたのである。
王室に直接係わる事は無くなったが、有事の際には率先して王室の為に動いてくれる事だろう――なのは達には頼もしい仲間が、また一人増えたのだった。








――――――








その夜――


「到着……厳重に施錠された鉄扉、絶対に何かあると思ってたけど、まさかお城の宝物庫に繋がってたとはね?……でも、此れはある意味で都合が良かったかな?」

「だな、アタシ等の目的は此処にあるモノだからな。つか、此れは元々アタシ等市民のモンだったんだ……だから、返してもらうぜ。」

「其れじゃ、チャチャッとお仕事済ませちゃう?」

「あまり時間を掛ける事は出来ませんので、手早く済ませるとしましょう。」


グランセル城の宝物庫には、四つの人影があった。
其れは蒼髪の少女と赤い髪の少女と翠髪の少女と栗毛の少女の四人組だった……如何やらグランセルの何処かから王城に侵入したようだが、時間が深夜と言う事もあって宝物庫の警備も手薄だったので侵入出来たのだろう。

そして四人の少女は、宝物庫から持って来た袋に詰められるだけの物を詰め込むと、誰にも気付かれる事なく、宝物庫から姿を消したのであった……












 To Be Continued 







補足説明