なのは達と入れ替わる形で、一夏達はグランセル地下の中部に到着していた――もう少し早かったらなのはとクローゼと合流出来ていた事を考えると、祐騎の開門に五分と言うのは結構大きなタイムロスだったのかもしれない。まぁ、祐騎は可成り良くやったとは思うがな。
その中部で一夏達を待っていたのは、白と黒の二体の龍と、その龍に守らるように横たわっていた、ハニーブロンドをサイドテールにした女性だった。


「ヴァリアス、アシェル、此の人は?」

『ガウ、ガウゥゥゥ……』

『グルゥ……シャァァ……』


「……成程、此の人はデュナンが用意した人造人間で、なのはさんと戦って、そんでもって色々あってなのはさんとクローゼさんの娘になって、今は眠ってるって訳か。
 でもって、なのはさんとクローゼさんに命じられて、お前達は此の人を守ってる、そう言う事だな?」


一夏の問いに答えるように、ヴァリアスとアシェルが低く唸るが、其れだけで一夏には何があったのかが分かってしまったらしい……洞察力に優れていると言うのは素晴らしい事ではあるが、ドラゴンの唸り声を理解出来る人間が、果たしてこの世にドレだけ存在するのやらだ。
『鬼の子供達』の中でも、最強レベルの一夏は割とぶっ飛んでいるのかも知れないな。



「なんだ坊主、お前なのは嬢ちゃんとクローゼ嬢ちゃんのペットの言う事が分かるのかい?」

『ゴガァァア!!』

『ガバァァァァァ!!』



――粉砕!玉砕!!大喝采!!!




そんでもって、軽口を叩いたダンテに、ヴァリアスの黒炎弾と、アシェルの滅びのバーストストリームが炸裂して、ダンテは衣服はノーダメージながら、肌だけがこんがり焼けると言う、此の上なく器用なダメージの受け方をしていた。
光と闇の最上級ドラゴンの攻撃を受けて、此れで済んでるダンテは、間違いなくクソチートキャラと言っても過言ではあるまいな……此の攻撃、普通の人間だったら遺体も残らずに消滅だからね。



「『ペットじゃなくて相棒だ』、ですって。
 ダメよ小父様、ドラゴンは神聖な生き物な上、彼等のような高位のドラゴンはプライドも高いのだから、ペット呼ばわりされたら其れは怒るわよ?」

「ソイツは、たった今身を持って知ったぜ。
 しかしそいつ等だけが居て、なのは嬢ちゃんもクローゼ嬢ちゃんも居ないとなると、二人は先に進んだって事か……其処の金髪嬢ちゃんには、頼りになる護衛が居るみたいだから、この場はそいつ等に任せて俺達は先に進むとするか。」

「言われるまでもなく、一夏達は先に行っちまったぜダンテ。」

「オイオイオイ、ったく最近の若い奴等はせっかちだねぇ?年長者の話ってのは最後まで聞くもんだ。」


取り敢えず、状況を確認した後に一行もなのはとクローゼを追って最深部に向かって行く……のだが、道中の機械兵や魔獣、人造悪魔等は既になのはとクローゼによって一掃されていたので、進む事に難は無く、此れならば直ぐに最深部に辿り着く事が出来るだろう。
尤も、余りにも退屈なので、ダンテと庵はストレスゲージが上昇しているみたいだが、そのストレスは最深部で思う存分発散してくれる事だろう……発散し過ぎて、地下空間の崩落と言う結果だけは勘弁願いたいモノではあるのだが。










黒き星と白き翼 Chapter22
『地下空間の最深部~Semi Final~』










道中に現れた敵を、現れた端から強力な魔法とアーツで屠り倒し、なのはとクローゼは遂にグランセル城地下空間の最深部に辿り着いた。なのはは勿論、クローゼまでもが、『コイツ人間じゃねぇ』と言いたくなる位の威力のアーツを使っていたのには驚きである。
極稀に、魔法とアーツを潜りに抜けてくる敵も居るには居たのだが、そう言った連中はなのはにレイジングハートで打っ叩かれて粉々になるか、クローゼにレイピアで真っ二つにされてお陀仏だ……魚をベースに作られたカットラスの事を三枚下ろしにしたと言うのは中々にシャレが利いた倒し方であったと言えるだろう。

魔法やアーツを得意とする遠距離型のイメージのあるなのはとクローゼだが、この二人は近接戦闘に関しても並の人間よりも遥かに強かったりするので、機械兵や魔獣、人造悪魔程度ならば近接戦闘でも余裕で倒せてしまうのだ。

ヴァリアスとアシェル、二体のドラゴンの力が無くとも圧倒的であるのだが、逆に言うと其れは魔法もアーツも常に最強クラスのモノを使っていたと言う事であり、普通であれば体力も魔力も枯渇してしまう所だが、最深部に辿り着いたなのはとクローゼは息一つ乱れていなかった。
勿論、体力と魔力が無限状態になっていると言う訳ではなく、人造悪魔を倒した際に、体力を回復するグリーンオーブと、魔力を回復するホワイトオーブがレッドオーブと共に現われ、其れを得る事で消費した体力と魔力を回復出来たと言う訳である。


「この先に叔父様が……ヴィヴィオも相当に強い力を持っていたみたいですが、叔父様はあの場をヴィヴィオに丸投げして最深部に向かいました。
 つまり、最深部にはヴィヴィオすら凌駕する強大な力を持った切り札があると言う事だと思いますが……」

「其れが何であろうとも、私達は其れを越えてデュナンを討つだけだ……ヴィヴィオ以上の何かが出て来た所で、私達の敵ではない。
 そしてデュナン自身は、碌に武術の心得もない戦いの素人だからな……仮に奴が其の身に強大な力を宿したとしても、戦いのイロハも知らん素人では勝負にすらならん。豚が焼き豚になって終いだ。」

「……毒吐く時は容赦ないですね?」

「魔族の血を引いている故に、嘘になり兼ねない曖昧な言い回しは出来ないモノでな。」


最深部の細い通路を進んで行くと、突如視界が開けて広い空間に出た。
ヴィヴィオと戦った場所と比べても遜色ない位の広さのある場所であり、その奥には最深部の最奥部へと通じる階段が見えるのだが、その階段の前には執事風の格好をした老紳士とアルトアンジェロ、そして無数のビアンコアンジェロが陣取っていた。


「フィリップさん!?」

「知り合いか、クローゼ?」

「はい……あの老紳士は、フィリップさんと言って、叔父様の最側近だった方であり、嘗ては親衛隊の隊長を務めていた方です。
 現役を引退した後は、其の能力の高さをお祖母様に買われて叔父様の最側近となり、そして同時に叔父様のお目付け役でもあったのですが、叔父様がクーデターを起こして以降はその姿を見ていなかったんです。」


その老紳士――フィリップは、デュナンの最側近でありクローゼとも面識のある人物であった。
デュナンが皇太子であった時代は、何かと暴走しがちなデュナンの事を宥めつつ、デュナンが満足しながらも他者への被害が最小限になるように尽力していた人物なのだが、アリシア前女王の死後にデュナンが起こしたクーデター以降は姿が見えなくなっていたのだ。


「フィリップさん、私です。クローディア・フォン・アウスレーゼです。
 此の奥に叔父様が居るのですよね?でしたら道を開けて下さい……私は、此れ以上リベールを叔父様の好きにさせておく事は出来ないんです。ですから、道を開けて下さい!叔父様の最側近の貴方ならば分かりますよね?今の叔父様は普通でないと言う事が!」

「…………」


フィリップに向かってクローゼは、『道を開けろ』と言うが、フィリップは其れには応えず、代わりに眼鏡の奥の瞳が怪しく光り、次の瞬間フィリップを中心に凄まじいまでの魔力の嵐が吹き荒れ、其れが治まるとフィリップはその姿を変えていた。
右肩からは大きな白い翼が生え、右手には黄金の剣を握り、左腕には全身を覆う事が出来るであろう巨大な盾を装備し、全身は純白の鎧で覆われている……一見すると天使の騎士の様だが、其の身からは禍々しい魔力が放たれている。


「フィリップさん!」

「此れは……一体如何言う事だ?」


予想外の事態に、なのはとクローゼも少しばかり動揺してしまったが、其れも仕方ないと言えるだろう。
魔族や悪魔との混血と言う存在であれば、『デビルトリガー』と言われる力を発揮する事で、人外の姿に変身する事が出来る場合もあるのだが、フィリップは普通の人間であるので姿を変える事など出来ないのだ。
『変身魔法』と言うモノもあると言えばあるのだが、其れでも此処まで完全なる別物になると言うのは不可能だ。変身魔法は、何処かしらに変身前の特徴が出てしまうモノであるのだから。


「コイツは、帰天だな。デュナンの奴、何処で知ったか知らないが、人間を悪魔化する方法を見付けてやがったか。」

「ダンテ……其れに一夏達もか。」

「ダンテさん、皆さん……」


その疑問に答えたのは、なのはとクローゼに追い付いたダンテだった。
ベリアルのセリフから、デュナンが己に悪魔の力を宿そうとしていると言う事を知ったダンテは、『若しかしたら、デュナンの部下の何人かは悪魔になってるかも知れないな』と思っていたのだが、その予想は大当たりだったらしい。


「とは言っても、そいつは帰天した影響で、一時的に自我を失ってるだけだから、ぶっ倒して強制的に帰天状態を解除してやれば正気を取り戻す筈だ……まぁ、鎧の奴等は手遅れだろうけどな。」

「オッサン、鎧の奴の中身って悪魔の魂だって言ってなかったか?」

「市街地に現れた奴はな。
 ここに居る奴等は、帰天した王国軍の奴等が鎧を着込んでいやがる……市街地に現れた奴等とは、見た目は同じでも其の力には雲泥の差が有るってモンだ。」


更に最悪な事に、アルトアンジェロとビアンコアンジェロは、市街地現れた『鎧に悪魔の魂を詰め込んだ存在』ではなく、帰天した王国軍の兵士が鎧を纏っていると言うのだ……リシャール率いる情報部の兵士と比べれば可成り質が落ちるとは言え、腐っても王国軍の兵士が悪魔化した存在が鎧を着込んで居ると言うのであれば、確かに市街地に現れたのとは一線を画す力があると言えるだろう。
尤も、アルトアンジェロとビアンコアンジェロの中身は手遅れ――倒しても正気を取り戻す事は無く、悪魔として散る以外の選択肢は無いようだが。


「コイツ等は俺達が引き受けるから、なのはさんとクローゼさんはデュナンを!」

「露払い……にしては、些かメンバーが豪華過ぎるかも知れないが、メインイベントを盛り上げるのもセミファイナルを任された演者の役割だからな。精々派手に燃やしてやるぜ!足引っ張んなよ八神!」

「誰に物を言っている京……余りにもふざけた事を言っていると殺すぞ?」

「元々京さんを殺す気満々のくせに、彼は何を言ってるのかしらねぇ……京さんの将来の義妹として、貴女は如何思うかしらエステルさん?其れとレンちゃんも。」

「刀奈、此処でアタシに振る!?」

「レンは、彼の京に対する『殺す』は、最早挨拶みたいなモノだと思ってるわ♪」

「だとしたら物騒極まりないよね……」


此処で一夏がなのはとクローゼに『先に行け』と、啖呵を切ってフィリップと無数のアンジェロに電刃波動拳を放つと、其れに続いて京が裏百八式・大蛇薙でアンジェロ達を焼却処分!鉄製の鎧をいとも簡単に溶解してしまうとは、草薙の炎の凄まじさが如何ほどかが分かると言うモノだ。
刀奈の問いに対して、エステルは突っ込み、レンは冷静に答え、ヨシュアはレンの答えに突っ込みを入れていたのだが、其れは其れが出来るだけの余裕があると言う証でもあり、圧倒的な数の差を前にしても其処に一切の焦りと言うモノは存在していなかった。


「行けよ、なのはさん、姫さん!おぉりゃぁぁぁぁ……イグニス・ブレイク!!」

「志緒……恩にきる。行くぞクローゼ!」

「はい!」

「ナイアルさんとドロシーさんも!貴方達が見届けるべきは、僕達の戦いじゃなくて彼女達の戦いの筈です!」

「ヨシュア……確かにその通りだな!行くぞドロシー!リベールが変わる瞬間、まかり間違っても撮りこぼすんじゃねぇぞ!」

「合点承知の助です!」


なのはとクローゼの行く手を阻んだアンジェロ達は、BLAZEのリーダーである高幡志緒が二段ジャンプ、『エアハイク』からの『イグニス・ブレイク』で鎧袖一触し、最奥部への道を切り拓く。
志緒も武術の心得はマッタク無いのだが、子供の頃から理不尽で不条理な事があれば、其れに対して喧嘩を売ってぶちのめして来たので、実戦経験は豊富で、武術の心得が無くともクソ強いのである。パワーだけならば、ダンテをも上回っていると言うのだから恐ろしい事この上ないだろう。
更に、此の面子の中では誰よりも速いヨシュアがアンジェロ達を攪乱し、ナイアルとドロシーを最奥部へと向かわせる――現王のデュナンが討ち倒される瞬間は、確かに絶対に記録せねばならない事だろうからね。


「そんじゃ、俺達も始めるとするか爺さん?神聖なる存在と言われている天使様と、こうして出会えた上に戦える……こんな幸運、滅多にないからな――イカレタパーティのセミファイナル、開幕だぜ!」

「……!」


帰天したフィリップはダンテと睨み合っていたのだが、ダンテが天井に向かって一発発砲したのを皮切りにダンテに斬りかかる!……が、ダンテは其れをサイドロールで回避すると、突進突き『スティンガー』を繰り出す!
其れは完璧なカウンターであり、普通ならば必殺になるのだが、フィリップは左腕の盾で其れを防ぐ……帰天したフィリップの実力は、アンジェロ達とは比べ物にならない位に高いと言っても良いだろう。


「コイツを防ぐとは、中々やるじゃないか……如何やら、アンタの相手をするにはリベリオンじゃ足りないみたいだな――だったら、コイツは如何だ?」


其れを見たダンテは、リベリオンに魔力を注ぎ、その姿を変える。
両刃の長剣だったリベリオンは、片刃の大剣へと姿を変えたのだが、変わったその姿は一般的な『剣』とは多きく異なる存在だったが、此れこそが伝説の魔剣士・スパーダが使っていた『魔剣スパーダ』なのだ。
本来は、スパーダの封印状態であるフォースエッジに、ダンテと双子の兄であるバージルに託されたアミュレットを融合させる事で解放される魔剣なのだが、ダンテはフォースエッジを、リベリオンに融合させており、バージルのアミュレットも持っているので、スパーダの封印を解く事が出来たのだ。


「此処からの俺は、少し強いぜ爺さんよ。」


スパーダの切っ先をフィリップに向け、ダンテは不敵な笑みを浮かべる……生きながらに『伝説のデビルハンター』と称されるのは伊達ではないと思わせるだけの迫力が其処には有った。
セミファイナルの戦いも、可なり派手になるのは、もう間違いないだろう。








――――――








最深部の最奥部までやって来たなのはとクローゼを出迎えたのは、見えている上半身だけで5~6mはあるのではないかと言う位に巨大な像だった……人型でありながらも、頭部の角と、背の翼が其れが人でない事を示していた。


「城に地下空間があったって事だけでも驚きなのに、何なんだよ此処は?まるで、遺跡其のモンじゃねぇか……この空間だけで、一つ記事が書けそうだぜ。」

「其れもそうですけど、あれって一体何の像なんですか~~?神様だったりするんですかねぇ?」

「あの見た目は、お世辞にも趣味が良いとは言えんが……其れよりも、隠れていないで出てこいデュナン!此処に居るのは分かっているぞ!!」

「この期に及んで、隠れていると言うのは潔くないですよ叔父様。」


其処にデュナンの姿は見えなかったが、なのはが一喝し、クローゼも其れに続くと、物陰からデュナンが現れた――その顔に、此の上ない位の邪悪な笑みを浮かべた状態でだ。


「良くぞ此処まで辿り着く事が出来たと、先ずは褒めておこうクローディア。そして、黒衣の魔導師よ。
 よもやヴィヴィオを倒し、帰天したフィリップすらも退けて余の前に立つとは……少しばかり、お主達の力を見誤っていたと言わざるを得まい。……矢張り、最後は余が自ら手を下さねばならないようだ。」

「悪いがヴィヴィオは倒していない。彼女の不安と恐怖を取り除いてやった上で、今は私とクローゼのドラゴンに守られて、あの場所で眠っている。フィリップは、私の仲間達が戦っているところだが、まぁそう時間は掛からずに勝負が決まるだろう。」

「叔父様、残るは貴方だけです……市街地は制圧しましたし、ヴィヴィオも最早貴方の駒ではありません。
 フィリップさんと鎧の悪魔は、一夏君達が必ず倒す筈――もう貴方に勝ち目はありません。大人しく降参して下さいませんか?お祖母様だって、私と叔父様が争う事を望んではいない筈です。」

「ふ、其れは出来ん相談だなクローディアよ。」


現れたデュナンに、戦況がどうなっているかを話し、負けを認めるように言うクローゼだが、其れでもデュナンに退く気はないらしい……デュナンからしたら圧倒的に不利なこの戦況を引っ繰り返すだけの切り札があると言う事なのだろう。
状況は正に一触即発と言った感じで、ナイアルとドロシーも固唾を飲んで状況を見守っている……その状態でもメモ帳にペンを走らせているナイアルと、シャッターを切っているドロシーのプロ魂には脱帽だが。


「戦うしかない、か……元より、話し合いでの解決など出来るとは思ってないがな。
 だが、戦う前に私の質問に答えろデュナン。魔獣は、訓練する事で人が使う事は可能だが……貴様、人工的に悪魔を作る方法と、人に悪魔の力を植え付ける方法を何処で知った?此れは、間違いなく禁術の類だろう?」

「其れと、この地下空間に配備されていた機械兵、アレは一体何なのです?」

「答えてやる義理は無いのだが……まぁ良い、此処まで辿り着いた褒美と、冥途の土産に教えてやろう。
 まず機械兵だが、この地下空間が太古の遺跡である事は知っていよう?あの機械兵もまた、太古の遺物よ……完全に機能を停止していたのだが、此の最深部にアレをコントロールする為の装置があってな、其れを使って再起動し、余の命令に従うようにセッティングしたのだ。
 そして人造悪魔の作り方と帰天の方法は……其れを話すには、余に起きた事を話す必要があるか。
 伯母上が亡くなる数週間前から、余にだけ聞こえる声が語り掛けて来たのだ……『此のまま、あの小娘にリベールの王位を渡してしまって良いのか』とな。
 余も最初は、幻聴かと思っていたのだが、その声は日に日に強くなり、次第に余はクローディア、お主がこの国の新たな王になる事に否定的な感情を持つようになった……そして、伯母上が亡くなった時に、その感情が爆発してお主を幽閉し、余が新たな王となった。
 だが、王となれば力が必要になる……余が雇った傭兵団は、ソコソコ使える連中であり、余の警護をするだけならば充分であったが、一国の王には更に強い力が必要になる――そう考えた時、余に語り掛けて来た声が、人工的に悪魔を作り出す方法と、人に悪魔の力を宿す方法を、帰天の方法を教えてくれたのだ!」


人造悪魔と帰天、そして機械兵士の事を聞くと、意外なほどにアッサリと口を割ってくれた……のだが、其れを聞いたなのはの目付きが鋭くなった。今の話を聞いて、デュナンへの嫌悪感が増したのだろうか?


「もう一つだけ教えろ。デュナン……貴様も帰天しているな?」

「如何にも!余は人でありながら悪魔の力を宿し、そして此れより神となるのだ!!」

「矢張りそうだったか……デュナン、貴様喰われたな。」

「喰われたって、如何言う事ですかなのはさん?」

「簡単な事だよクローゼ。
 デュナンに語り掛けて来たのは、悪魔界の悪魔だ。野心を持ってはいるが、自分の力では悪魔界を掌握する事は出来ないと考えて、人間界を掌握しようとした奴だろうな。
 悪魔と言うのは、人の闇を増幅させる事に長けている奴も居るのだが……デュナンには少なからずお前がリベールの王になる事に対する不満があったのだろう、その不満を増幅させ、そしてお前を幽閉してデュナンが新たなリベールの王になるように誘導し、人造悪魔の製造方法と帰天の方法をデュナンに教え、デュナンが帰天する際にデュナンに憑りつき、其の存在を乗っ取ったんだ。
 アレは、デュナンの姿をした別の存在だ。」

「そんな……!」


デュナンが帰天していると言う事を確認したなのはは、デュナンの凶行の原因は何であるのかを一気に看破して見せた……アリシア前女王の死後に起きたクーデターも、クローゼの幽閉も、全てはデュナンの心の闇に入り込んだ悪魔の仕業だったのだ。


「全ては貴様の目論見通りだったのだろうが、私の存在を知らなかった事が貴様の敗因だ……コソコソと人を操る事でしか己の目的を果たす事が出来ない雑魚が、まさか魔王と熾天使の血を引く私に勝てると思っている訳ではなかろうな?
 悪魔界は、種族の格など関係なく、力が全ての弱肉強食の世界だと聞く……ならば、お前には分かるだろう?私とお前の間にある圧倒的な力の差と言うモノが。」


此処でなのはは、己の中の魔族と神族の力を開放!
背には白と黒の翼が四枚現われ、瞳が金色に輝く……なのはの本気モードである神魔の状態なっただけでなく、クローゼも先の戦いで覚醒した力を開放して、その背に魔力で構成された白き翼が現れる。


「こりゃスゲェ……撮ってるかドロシー!」

「勿論です先輩!バッチリ撮ってますよぉ!!」


ナイアルとドロシーのプロ魂は、以下略。
神魔状態のなのはと、先祖の力を開放したクローゼの発する魔力は凄まじく、なのはの周囲には漆黒と黄金のオーラが、クローゼの周囲には純白のオーラが現われてスパークしている。
並の相手ならば、此れだけで敵前逃亡して居る位にその姿は威風堂々としており、闇の女帝と光の皇女の揃い踏みと言った感じである。


「ククク……ならば、余も見せてやろう。余の真の切り札と言うモノを!」


其れに対し、デュナンは帰天したが、その姿は変わらずに禍々しい闇のオーラを纏った状態となり、そして背後にある巨大な像の胸部が開き、其処から無数の触手が伸びて来てデュナンに絡みつき、其の身を取り込んで行く。
取り込まれたデュナンは、生きながらに其の身を細胞レベルで分解されると言う苦痛を味わいながらも像と融合して絶大な力を得て行く……デュナンが人間のままだったら到底耐える事は出来なかっただろうが、帰天して悪魔となった事で耐えられたのだろう。

そして――


「…………」


像の目が怪しく光った次の瞬間、最奥部の景色は一変し、この星の外――満点の星空を思わせる空間へと変わったのだった。空間其の物を変えてしまうとは、デュナンを乗っ取った悪魔は、デュナンの持つ魔力をも吸収して、可成りの力を身に付けているらしい。
デュナン自身は碌にアーツも使う事が出来なかったのだが、アウスレーゼの系譜として高い魔力は秘めていたので、悪魔にとっては良い餌でもあったのだろう。


「此処が最終決戦の場か?……ふむ、悪くない。この広大な星空を貴様の墓標にしてやろうではないか……暗黒の炎に焼かれて死ね!」

「悪魔に乗っ取られてしまったのでは、もう救う術は存在しませんか……ならば、私は貴方を討ちます!御覚悟下さい、叔父様……!」


だが、なのはもクローゼも其れに怯む事無く、なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアを像と融合したデュナンに向け、更に己の中の魔力を完全開放して、其の身に纏うオーラが強化される。


「これが最終決戦だ……行くぞクローゼ!」

「はい、なのはさん!」


そして、なのはがレイジングハートを構えて突撃すると同時に、クローゼもレイピアに魔力を込めて突撃する――リベールを巡る最終決戦のゴングが、今正に打ち鳴らされたのだった。










 To Be Continued 







補足説明