王都グランセルに設置されていた、悪魔召喚装置『地獄門』は全て破壊され、悪魔の絶対数は全ての地獄門が破壊されるまでに召喚された数となる訳なのだが、だとしても如何せん数が多過ぎる。
地獄門が破壊されるまでにひっきりなしに召喚されていた事もあって、その数は余裕で四桁に達して居るだろう。


「ったく、いい加減鬱陶しいなこんだけ居ると……遊星、お前エネコン持ってたっけか?」

「いや、俺は持ってないな。」

「アタシは持ってるよ京さん!」

「ならレーシャ、八神を対象にしてエネコン発動してくれ。」


そんな中、京は遊星にエネコン……エネミーコントローラーを持ってないかと聞き、遊星は持ってないが遊星の妹であるレーシャは持って居たので、其れを庵を対象にして発動して貰う事に。
精霊召喚士は、カードに封印された精霊を使役するだけでなく、精霊をサポートする為のカードや、敵を妨害する為のカードも使用し、精霊のカードと其れ等のカードで構築されたデッキを持っているのだ。
そして、本来はカードの力は己の魔力によって引き出す物なのだが、『其れでは召喚士の負担が大きい』と考えた不動兄妹が、精霊召喚士用の専用デバイス『デュエルディスク』を開発し、精霊召喚士の負担は大幅に減る事になったのだ。
そして、デュエルディスクを使って発動されたサポートカードは、ソリッドヴィジョンと言う技術によって実体化され、レーシャが発動したエネミーコントローラーも、大型のコントローラーが実体化されたのだ……但し、カードイラストの2ボタンではなく、CボタンとDボタンが追加された4ボタン型だったが。


「でも、これで如何するの京さん?」

「←→←→←→A+Cってな。」


「キョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


でもって、京がコマンドを入力すると、エネミーコントローラーの対象となった庵が暴走し、手当たり次第に悪魔を屠り始めた……暴走前から、容赦なく悪魔を屠っていた庵だが、理性が打っ飛んだ暴走状態では其れに拍車が掛かっていると言えるだろう。
理性が吹っ飛んで本能のままに戦うってのは、中々に恐ろしいモノがあるな……其れでも、味方には襲い掛からずに、悪魔だけを撃滅しているのだから、敵か味方かを判別する事だけは出来ているのだろう。

ともあれ、王都の市街地に現れた悪魔達は確実にその数を減らしているのは間違いないだろう――反抗軍の戦力は、人工悪魔では止める事が出来るレベルではなかったと言う事だった訳だ。
二千年前に魔帝を討ち封印したスパーダの息子と、千八百年前に八岐大蛇を討った草薙と八尺瓊の末裔に加えて、リベールの精鋭達が集まった反抗軍であれば、此の結果は当然であったと言えるだろう。反抗軍のメンバーに、多少の負傷者は居る者の何れも軽症であり、死者は一人も居ないと言うのも凄まじい事である。

程なく、王都に現れた悪魔は全て葬られ、遊星が庵に『魔法解除』を発動してエネミーコントローラーの効果を解除して正気に戻し、倒された王国軍の兵士達は全員拘束される事になった。
そしてその様子はバッチリとドロシーがカメラに収め、ナイアルが記事に必要な事柄をメモに纏めており、市街地での様子を一通り取材し終えると、グランセル城へと向かって行った。
同時に、京、庵、ブライト三姉妹、ヨシュア、BLAZEのメンバーもグランセル城に向かうのだった。










黒き星と白き翼 Chapter21
『聖王とのガチバトル~私達がママだ~』









一足先にグランセル城の城門前に辿り着いたダンテと、一夏と一夏の嫁ズは、意外な事にまだ城内には入っていなかった……と言うのも、城門がバカでかい上に非常に重く、更に機械仕掛けであるせいで、ダンテが本気でこじ開けようとしてもビクともしないのだ。
此れが、マフィアのボスの豪邸とかならば強引に破壊してでも乗り込む所なのだが、此れはグランセル城の城門であり、此の戦いが終わった暁には新しきリベール王の居城となる事を考えると、破壊すると言うのは流石のダンテであってもやろうとは思わなかったのだろう。
一夏達が空を飛んで空中庭園から城内に入って内側から門を開けると言う方法もあるのだが、門のを操作する装置が何処にあるかも分からない上に、手分けして探している内に城内で迷ってしまい、孤立した所を攻撃される危険性がある事を考えると、この方法もリスクの方が高いので行う事は難しいのだ。――実際には、城内に兵士は居ないのだが、一夏達は其れを知らないので仕方ないだろう。


「なんだよダンテ、まだ城に入ってなかったのか?アンタの事だから、城に一番近い場所の地獄門なんてさっさと片付けて、とっくに城に突入してると思ったけどな?」

「俺としてもそうする心算だったんだが、思った以上に門が重くてな。
 流石にお城の門をぶっ壊したら不味いだろうから、如何したモンかと足りねぇ頭を捻って考えてた所だ……さて、如何したモンかねぇ?」

「なら、此処は僕の出番だね。」


城に向かっていた京達も追い付き、ダンテが現状を説明した所でBLAZEのメンバーの一人である『四宮祐騎』が声を上げた。


「祐騎君、如何にか出来るの?」

「あのねぇ空、僕が王国全土のセキュリティシステムの開発に関わってるって事忘れてない?その中には、当然グランセル城のセキュリティも含まれてる訳で、城門のセキュリティシステムを作ったのも僕だよ?
 実際にシステムを城門に組み込んだのは、ラッセル博士と不動兄妹だけどさ……でも、システムを開発したのは僕だから、如何すれば内側からしか開ける事の出来ない城門を外から開ける事が出来るかも分かるって訳。
 答えは簡単、城内のコントロールルームの端末をハッキングして操作すれば良いだけ。」


何ともトンデモナイ事を言ってくれたが、祐騎は自身でそう言ったように、リベール王国全土のセキュリティシステムの開発に関わっており、その詳細を知って居る数少ない人物でもある上に、ハッカーとしての顔も持っているので城内のコントロールルームを外部から操作する位は朝飯前なのである。


「ねぇヨシュア、アレって良いの?」

「本当だったら犯罪なんだけど、今は四の五の言ってる場合じゃないからお咎めなしって事にしておこうよエステル。」

「つか、そう言う事なら簪に連絡入れれば其れで解決したんじゃねぇか?刀奈、簪だったら同じ事出来るよな?」

「其れは勿論出来るわよ一夏。若しかしたら、簪の方が少しだけ仕事が早いかも知れないわ……って、貴方の仕事が遅いって言ってる訳じゃないからね四宮君。姉の贔屓目と言うやつだと思って頂戴な♪」

「……そう言うの、逆に腹が立つから黙っててくれると助かるんだけど。」

「おい、急げ小僧。あと一分以内に門を開かねば灰にするぞ。」

「八神、お前もう少し言い方考えろよ……」


そんなこんなで、祐騎がハッキングを開始してから五分後には見事に城門が開いたのだった……逆に言うと、祐騎はやろうと思えば何時でもグランセル城に自由に出入り出来ると言う事なのだが、流石にこう言ったハッカーとしての技は自分の趣味以外に使う事はないので、其れは大丈夫だろう。祐騎は、ハッカーはハッカーであっても、所謂『ホワイトハッカー』と言う奴なのである。


「門が開いたか……其れじゃあ、イカレタパーティの最終章を始めるとするか!フィナーレはド派手に行くぜ?確り最後まで付いて来いよ坊主共?」

「アンタこそ、張り切り過ぎてガス欠起こすなよダンテ?此の中では、一番の年長者な訳だしな。」

「そうそう。年寄りの冷や水って言うには早いかも知れないけど、ヤバいと思ったら我慢しないで言ってくれよ?オッサン一人に無理させたとか、流石に俺達がカッコ悪過ぎるからな。」

「ま、僕達の足だけは引っ張らないでよねオジサン。」

「……口の減らねぇガキ共だなマッタク。」


軽口を叩きながら一行は城内に入り、そして城内に兵士が配備されてない事を知り、ダンテが城の下から悪魔の気配を感じ取り……全員で地下へ通じるルートが無いかと探した結果、宝物庫奥のエレベーターを発見し地下へと向かうのだった。








――――――








・グランセル城:地下中部


地下区画の開けた場所でデュナンに追い付いたなのはとクローゼだったが、其処でデュナンは新たに三種の人工悪魔を大量に召喚したかと思ったら、其れだけではなく人が一人入るだけのポッドを現し、その中からは漆黒のボディスーツに身を包み、ハニーブロンドの髪をサイドテールに纏めた、紅と翠のオッドアイが特徴的な女性が現れた。
更に其の女性は、其の身に虹色のオーラを纏っており、同時に其れはその女性の身に収まり切らない魔力が過剰エネルギーとして溢れ出している事を示していた。
保有魔力で言えば、神魔の力を開放していない状態のなのはを上回って居るだろう。
だが、なのはもクローゼも其れ以上にデュナンが言った事を無視する事は出来なかった――デュナンが言った『千年の時を経て、蘇るが良い、古代ベルカの聖王』って言うのは、トンデモナイ事を口走っている訳なのだからね。


「デュナン……貴様、まさか古代ベルカの聖王を、悲劇の聖王オリヴィエを蘇らせたと言うのか!……外道が!!」

「何と言う事を……千年前、自らの命と引き換えに戦争を終結させた聖王を己の欲望の為に蘇らせるとは――其れが、彼女の魂を穢す行為だと知っての狼藉ですか叔父様!!」

「ククク、結論を急ぐな。
 確かにこ奴は、古代ベルカの聖王の力を継いでいるが、かの聖王本人と言う訳ではない。
 こ奴はクローン技術によって生まれた新たな聖王…とは言え、現代に残された聖王オリヴィエの遺伝子など、今や遺品として残された物に僅かに付着している髪の毛一本程度の物、そんな僅かな遺伝子情報では完全なクローニングなど出来よう筈もない。
 だが、足りない部分を他の何かで補う事で、、限りなく近いモノを作る事は出来る――こ奴は聖王の遺伝子を持った聖王ではない存在、聖王の子孫と言うべきかも知れん。」


だがしかし、此の女性は聖王を蘇らせた訳ではなく、あくまでも少ない聖王の遺伝子を他の要素で補った存在であるらしい……聖王の子孫と言うのは言い得て妙だと言えるだろう。


「こ奴の名は、ヴィヴィオ。
 さぁヴィヴィオよ、お前の敵は栗毛のサイドテールと、菫色の髪のショートカットだ!そ奴等を始末すれば、ママに会う事が出来るかも知れんぞ?ママに会いたければ目の前の敵を殺せ!!」

「この人達を倒せばママに会えるの?……なら、この人達を殺す……!!」


其処でデュナンが最悪な事を言ってヴィヴィオを炊き付け、ヴィヴィオは其の身に秘めた魔力を解放して臨戦態勢に!……人工的に生み出されたヴィヴィオには、そもそもママは存在していないのだが、ママが居ない不安を逆利用するとか、デュナンはトンデモねぇ極悪外道だと言っても言い過ぎではあるまい。
だって、なのはとクローゼを倒した所でヴィヴィオがママに会う事はないのだから。……間違いなく、役目を果たしたらヴィヴィオを抹殺する気しかないのだろうなデュナンは。正に外道だわ。


「デュナン!!」

「叔父様!」

「此処を切り抜ける事が出来たら、最深部で会おうではないかクローディアよ……精々足掻くが良い。」


デュナンは更に地下深くに向かい、なのはとクローゼも其れを追おうとするが、デュナンが召喚した悪魔が其れをさせんと襲い掛かって来た――其れはなのはとクローゼ、そして夫々が使役するドラゴンの前では塵芥に等しいモノではあったが、其れでも数が多いので蹴散らすのに少しばかり手間取り、結果としてデュナンを取り逃す事になってしまった。
其れだけならば、エレベーターを再起動して追えば良いだけの話なのだが……


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ちぃ!」


デュナンの言葉で、半ば暴走状態になってしまったヴィヴィオが居ると言うのであればそうも行かない。
何せ古代ベルカの聖王は、『魔剣士スパーダ』、『三種の神器』に並んで『古代三伝説』と謳われる存在であり、完全ではないと言っても其の力を受け継いでいるヴィヴィオは無視出来る存在ではないのだ。

ヴィヴィオの攻撃を、なのははレイジングハートで捌くと、カウンターのクロススマッシャーを叩き込んでヴィヴィオを吹き飛ばす……が、其れを喰らったヴィヴィオは全くの無傷。漆黒のボディスーツ――防護服の防御力は相当に高いと見て良いだろう。


「……クローゼ、アイツの相手は私がやる。お前はヴァリアスとアシェルと共に悪魔共を倒してくれ。――アイツの攻撃力は半端じゃない。如何に防御アイテムを装備していると言っても、アイツの攻撃を真面に喰らったらお前は即死だ。」

「なのはさん……分かりました。ですが、無理はなさらないで下さい!」

「其れは、少し約束しかねるな!」


なのははヴィヴィオと、クローゼはアシェル、ヴァリアスと共に悪魔との戦いを始める。
先程のヴィヴィオの攻撃を捌いただけで、なのはにはその攻撃がドレだけ危険なモノであるかが分かり、防御アイテムを装備しているとは言え、普通の人間であるクローゼが此の攻撃をまともに受けたら危険と考え、肉体的には遥かに頑丈な自分が相手をする事にしたのである。封印されている精霊が解放されている状態であればまた話は変わってくるのかも知れないが、兎に角今はなのはがヴィヴィオと戦うのがベストなのだ。


「(真正面から攻撃を受けたら、レイジングハートも砕かれかねないか……彼女は恐らくインファイター、通常であれば距離を取って射撃で削って行くのがセオリーなのだが、あの防御力ではその戦法は逆に悪手になるか。なら――!)
 レイジングハート、最大出力でアクセルシューターを出せるだけ出すぞ!」

『All right.』


なのははヴィヴィオに対し、アクセルシューターを放つが、其れは普段使っているような牽制や相手の動きを制限する為のモノではなく、一発一発が必殺の威力を持っている魔力弾だ。しかもその数は、通常使用する際の最大数である十二個の実に三倍の三十六個!!
如何になのはの空間認識能力と平行思考能力が高いとは言っても、此れだけの数を同時に操作する事など不可能なのだが、大前提として、なのはは此のアクセルシューターを精密操作する気など最初からない。
精密な操作をしない代わりに、三十六個もの魔力弾を一気に真正面からヴィヴィオに向かって撃ち放ったのである。
『防御力が高くて距離を取って削って行く戦法が通じないのであれば、小細工せずにその防御の上からでもダメージを与えられる攻撃を最初からブチかます』、此れがなのはの思い付いたヴィヴィオとの戦い方だった。

その戦法は先ずは当たり、全ての魔力弾がヴィヴィオにヒットして爆発を起こし粉塵が上がる。


「今ので掠り傷も負わんとは、呆れた頑丈さだな。」

「うぅ……うわぁぁぁ!!」


だが、粉塵が晴れて現れたヴィヴィオは全くの無傷!掠り傷どころか、防護服に一切の破損が見られないと言う状態だったのだ。
なのはの姿を確認したヴィヴィオは突撃し、なのはは再び激強アクセルシューターを放つも、今度はヴィヴィオも其れを受ける事はなく、拳で弾き飛ばしながら向かって来る……一度直撃を喰らった事で、『此の攻撃は弾く事が出来る強さだ』と学んだのだろう。
其のままなのはに殴り掛かるが、なのはは其れを躱すと身体を反転させヴィヴィオの背にレイジングハートで遠心力たっぷりのカウンターを叩き込んでヴィヴィオを吹き飛ばす。
此れもまた常人ならばKOされるであろう一撃だが、ヴィヴィオはマッタク堪えていない様子で空中で姿勢を整えると、飛んでいるグラディウスを二匹掴み、其れを剣にして斬り掛かってくる。
グラディウスの剣状態は其れなりの大剣なのだが、ヴィヴィオは其れを難なく振り回してくる……防護服の強度と打たれ強さだけでなく、戦闘方法に関しても体術以外に色々とプログラミングされているのだろう。
だが、その二刀流剣術はなのはには通じない。
なのはの近接戦闘のレベルは、『並の使い手ならば勝てるが、一流には敵わず、達人には瞬殺される』と言う感じなのだが、此れはあくまでもガチで近接戦闘をやった場合の話であり、防御主体で戦う場合にはその限りではない――と言うのも、父の士郎、兄の恭也、姉の美由希がバリバリの近接戦闘タイプであり、その戦いを何度も見ていたため、達人クラスに近接攻撃を当てる事は出来なくとも、攻撃を防御・回避するのに難は無い……故に、ヴィヴィオの二刀流剣術をレイジングハートで弾く程度は造作も無いのだ。


「剣術も出来る様だが、振りが大き過ぎるな。」

「!!」


ヴィヴィオの攻撃の隙に、クロススマッシャーを叩き込んで吹き飛ばす事で、手にしていたグラディウスは砕け散ってしまったが、ヴィヴィオは矢張りノーダメージ。其れどころか、纏っている虹色のオーラが強くなっている程だ。


「お前の攻撃は私には通用しないが、私の攻撃はお前にダメージを与える事は出来ないか……此れはもう、如何にかしてスターライトブレイカーを叩き込むより他に方法はなさそうだな。」


今までの攻防で、なのははヴィヴィオの力を略把握したようだ。
確かにヴィヴィオの攻撃力は凄まじく、其の攻撃を真面に喰らってしまったら神魔であるなのはでも死にはしなくとも相当なダメージを喰らうのは間違いないが、ヴィヴィオの戦闘技術は拙い……もっと正確に言うのであれば、戦い方は知っているが知識として持っているだけなのだ。
攻撃の仕方に無駄はなく、的確なのだがあまりにも素直である為に読み易い上に、牽制やフェイントと言ったモノは一切使って来ないので、十年の間に幾多の実戦を経験して来たなのはからすれば全く脅威にはなり得ないモノであるのだ。
だが逆に、なのはの攻撃もまたヴィヴィオには決定打にはならない……至近距離でのクロススマッシャーですらノーダメージであるのでは、必殺のディバインバスターも大したダメージにはならないだろう。
神魔の力を開放すればまた違うのかも知れないが、最深部へ逃げたデュナンが何を隠し持っているか分からない以上、此処で余り大きく魔力を消費する事も出来ない故に、なのははドレだけ堅い相手であっても確実に戦闘不能にする超必殺技のスターライトブレイカーを如何にして叩き込むか、その戦術を構築して行くのであった。








――――――








一方でクローゼの方はと言うと、此れはもう『苦戦?何それ美味しいの?』と言う状態だった。
デュナンが新たに呼び出した三種の悪魔は数こそ多いが、そもそもにしてヴァリアスとアシェルと比べたら塵芥の集団でしかなく、ヴァリアスの黒炎とアシェルのブレスを喰らって次々とその身をレッドオーブへと変えて行った。
更に、クローゼが矢継ぎ早にジオカタストロフ、コキュートス、アークプロミネンス、グランストリーム、カラミティブラスト、テンペストフォール、アヴァロンゲートと各属性の最強アーツを繰り出して三種の悪魔を滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!
二体のドラゴンと言う最強の守護が居る事で、クローゼは己の本領であるアーツの力を百二十%発揮出来ているようだ。


「此れで終わりです!アシェル!ヴァリアス!同時攻撃です!混沌のマキシマムバースト!!」

『ゴォォォォォォォ!!』

『グガァァァァア!!』



トドメはアシェルとヴァリアスの合体攻撃!
光と闇は、本来相反する属性なのだが、それ故に二つの力が重なった時には強烈なまでの対消滅現象が起こり、周囲のモノを問答無用で消し去ってしまうのである。
そして、その対消滅の力は人工悪魔に耐えられるモノではなく、残った悪魔はカオスの力に呑み込まれて粉砕!玉砕!!大喝采!!!


「この程度では、私達を止める事は出来ませんよ叔父様……」


そう言ったクローゼの背には魔力で構成された白き翼が……如何やらこの戦いで、元々は神族であったアウスレーゼの血が、クローゼの中で覚醒したのだった。








――――――








ヴィヴィオとの戦いを続けているなのはは、攻撃してくるヴィヴィオに対して違和感を感じていた。
と言うのも、ヴィヴィオの攻撃は確かに正確で鋭いのだが、其の攻撃からは敵意や殺気と言うモノをマッタク持って感じる事が出来なかったのだ――寧ろ、感じたのは不安と恐怖と言った感情だった。
何故ヴィヴィオの攻撃に、そのような感情が籠っているのか分からなかったなのはだが……


「ママ……何処に居るの?ママ……」

「!!(此れは……コイツは、ヴィヴィオは母を喪った時の私だ……!)」


何度目かの攻防の際に、ヴィヴィオの眼に涙が浮かんでいた事に気付いて、其れが分かった……ヴィヴィオは母親が居ない事が不安で怖いのだと。其れは、母を喪った時の自分と同じであると。
なのはも幼い時に母を喪い、それから暫くは母が居ない事が不安で、怖くて泣いて過ごした経験があるので、ヴィヴィオの気持ちは痛い程に分かってしまった……そして分かってしまったが故に、此れ以上ヴィヴィオを攻撃すると言う事は出来なかった。
身体は大人であっても、精神は子供であるヴィヴィオを此れ以上戦わせてはいけないとも思ったのだろう。


「ヴィヴィオ、お前が戦うのはママに会う為か?」

「貴女達を倒せばママに会えるって、あの人はそう言った……だから、私は貴女達を倒す!」

「そうか……だが、私達を倒した所でお前はママに会う事は出来ない。そもそもにして、お前にママは存在していないのだからな。」


だが、敢えてなのははヴィヴィオに対して残酷な現実を突き付ける事にした。
オリヴィエのクローンにもならないヴィヴィオには、母となる存在などそもそもにして存在していない……なのはとクローゼを倒せばママと会えると言うのは、所詮はデュナンがヴィヴィオを体良く操る為の嘘八百に過ぎないのだ。


「そ、そんな……嘘だ。そんなの嘘だ!」

「生憎と、魔族は嘘を吐く事が出来ないので、私の言っている事は真実だ。お前のママは、最初から存在しない。」

「嘘だぁぁぁぁぁ!!」


なのはの言葉を聞いたヴィヴィオは、なのはに突撃して渾身の一撃を繰り出す――が、なのはは其れを防ぐ事も躱す事もせずに真面に受ける。
ヴィヴィオの拳はなのはの腹に突き刺さり、なのはの口からは魔族と神族の混血の証である翠の血が溢れるが、しかしなのはは倒れずに踏み止まると、ヴィヴィオの事を優しく抱きしめた。


「だが、お前がママが居なくて不安で怖いと言うのであれば、私がお前のママになろう。最初からママが存在しないと言うのであれば、他の誰かがママになったとしても問題はあるまい?」

「え……貴女が、ママ?」

「なのはさんだけでは足りないと言うのであれば、私も貴女のママになりましょう。」


更に其処にクローゼがやって来て、背後からヴィヴィオを抱きしめる。


「もう何も怖い事はない……高町なのはと。」

「クローゼ・リンツが。」

「「お前(貴女)のママになる(なります)。」」

「なのはママと、クローゼママ……うん、分かった。」

「もうお前に怖い事をする人は居ない……目覚めて直ぐに大暴れして疲れただろう?だから、今は眠れヴィヴィオ。次に目を覚ましたその時は、お前にとって良い世界が出来ている筈だから。」

「うん……」


なのはとクローゼに抱きしめられた事で安心したのか、ヴィヴィオは其のまま眠ってしまった……此れは、デュナンも予想していなかった展開だろう。ヴィヴィオが倒される事は想定していたとしても、まさかなのはとクローゼの娘になるなんて事は予想出来る筈もないからね。


「眠ってしまったか……スマナイが回復アーツを掛けてくれるかクローゼ?太陽の魔力を浴びた魔力で構築した防護服の上からでも、相当なダメージを叩き込んでくれたからな……間違いなく胃が破けているな此れは。」

「無理はしないで下さいって言いましたよね?」

「約束しかねると言った筈だ。」


なのはは中々にヤバいダメージを負っていたようだが、其れもクローゼの回復アーツで即時回復してノープロブレム。普通の人間だったら、内臓破裂の即死攻撃も、神魔のなのはならば致命傷ギリギリの大ダメージで済んだみたいだ。


「其れで、此れから如何しますかなのはさん?」

「決まって居るだろう、デュナンを追ってそして討つ。
 幼き心に殺しの重責を負わせようとした奴には、死をくれてやらねば私の気が治まらん……輪廻の輪に加わる事も出来ぬように、奴の魂を欠片も残らぬように消滅させてくれる!」

「矢張りそうですよね……叔父様は、確実に討たねばなりません。リベールの未来の為にも!」

「そう言う訳だ……ヴァリアス、お前は此処でヴィヴィオを守れ。デュナンが健在である以上、また悪魔が現れないとも限らないのでな。」

「アシェルも、ヴァリアスと共にヴィヴィオを守って下さい。」

『ガウゥゥゥゥ……』

『グルル……』



そのダメージもクローゼのアーツで回復すると、なのははヴァリアスに、クローゼはアシェルに、『ヴィヴィオを守れ』と命令して、エレベーターで更に地下深くへと進んで行くので行った。
そして、なのはとクローゼと入れ替わるように京達がこの場に到着したのであった。










 To Be Continued 







補足説明