決戦当日の朝、なのはは何時もより早く目を覚ましていた。――なのはは無意識だったのかも知れないが、今日と言う日を迎えた事で気分が昂っており、その為に何時もよりも早く目が覚めてしまったのかも知れない。
「いよいよ、私の目的を果たすための第一歩となる戦いの始まりか。」
目を覚ましたなのはは、一糸纏わぬ姿のままベッドから起きると、其のままの姿で窓から飛翔し、登り始めた朝日の陽を浴びながら防護服を構築する……まるで、太陽の力を自分の中に取り入れて行くかのように。
実は、太陽は登り始めてから数分間だけ、光と共に非常に高い魔力を放出している――正確には、其の数分間だけ太陽の魔力が此の世界に届くので、その光を浴びるだけでリンカーコアを大きく活性化させ、己の魔力を高める事が出来るのだ。
太陽の魔力を受けながら構築されたなのはの防護服の強度は、此れまでとは比べ物にならないレベルになっている事だろう。
『太陽の魔力』と聞くと、魔族とは相性が悪そうに思えるが、太陽の魔力は『超自然エネルギー』からなる『純魔力』なので、ナイトウォーカーと呼ばれるヴァンパイアなど一部の例外を除き、魔族であってもその恩恵を十分に得る事が出来るのである。
「いよいよですね、なのはさん。」
「あぁ、遂にこの時が来たよクローゼ。」
そんななのはに声を掛けて来たのはクローゼだ。
彼女もなのはと同様にいつもより早く目が覚めてしまったらしく、アシェルを通常のサイズに戻し、その背に乗って飛んで来たのだ――もっと言うならば、何時もよりも早く目が覚めてしまい、何気なく窓の外を見ていたら飛翔して行くなのはの姿が見えたので追いかけて来たと言う訳だ。
そんな彼女達が居るのはレイストン要塞の上空。決戦日前日、レイストン要塞の軍人以外の『リベリオン・オブ・トゥルーリベール』(以下『反抗軍』と表記)のメンバーもレイストン要塞に集まって、決戦前の宴を行い、其のままレイストン要塞で一夜を過ごしたのだ。
「デュナンを打ち倒してリベールを本来の姿に戻し、そして私の、私達の理想を現実にする為の始まりの場所とする、その日がやって来た……此の戦い、絶対に勝つぞクローゼ。」
「はい、勿論です!必ず勝って、私達の理想を実現させましょう!」
なのはとクローゼの瞳には、『絶対に勝つ』と言う強い意志が宿っており、其処に迷いは一切ない……魔王と熾天使の血を引く者と、リベール王族の正統なる王位継承者がこうして共に戦う日が来るなどと言う事は、彼女達の御先祖様もきっと想像すらしなかっただろう。
クローゼの言った事に、なのはは微笑んで頷くと、アシェルの背に降り立ってクローゼの手を取る。
「此の戦いに勝ち、リベールを取り戻したその時は、私が王になるか、お前が王になるかは分からないが……此の戦いが終わった後でも、お前にはずっと私の側に居て欲しいと思うのだが、如何かな?
いや、この言い方は卑怯だな……クローゼ、此の戦いを前にして、私はお前を愛おしいと思っている事に気が付いた……此の戦いが終わったら、私のパートナーになってくれないだろうか?」
「なのはさん……奇遇ですね、私も同じ事を言おうと思ってました。
以前に私に聞きましたよね?『私がお前の事を愛おしいと思っていると言ったら如何する?』と。……其の時が来たら、私は如何答えるべきだろうと考えていたのですが、私もなのはさんには友情以上の感情を、愛情を抱いてしまったみたいです。
前にフェイトさんがなのはさんに赤面した時、少し面白くなかったのですが……なのはさんに笑顔を向けられるフェイトさんに嫉妬していたんですね。
なのはさん、私も貴女を愛しています。私で良ければ、是非貴女のパートナーにして下さい。」
そして、己の気持ちをぶつけると、クローゼも其れに応え、二人は無事に結ばれる事になり、なのははクローゼの肩を抱くと口付けをし、クローゼも其れを静かに受け入れる……朝焼けが照らす中、なのはとクローゼは決戦前に、暫しの穏やかな時を過ごしたのだった。
黒き星と白き翼 Chapter18
『It's the beginning of the rebellion』
レイストン要塞では、朝食を終えた反抗軍のメンバーが演習所に集まり、作戦の最終確認をしていた。
先ずは正面からリシャール率いる情報部が攻め込んでデュナン軍の注意を引き付け、その隙に港からユリア率いる元王室親衛隊のメンバーと、BLAZE、なのはとクローゼ以外のリベリオンのメンバー、遊撃士達や武道家達、その他リベールの勇士達で構成された主力部隊がグランセルに乗り込んでデュナン軍を挟撃すると同時に、グランセル城に攻め込み、なのはとクローゼはヴァリアスとアシェルを引き連れて空からグランセル城を攻めると言うのが本作戦の基本的な流れだ。
空からの戦力がなのはとクローゼ、そして夫々が従えるドラゴンだけと言うのは些か戦力が不足しているように思うかもしれないが、なのはの魔法攻撃とクローゼのアーツは人、魔族、神族の全ての種を全て合わせてランキングしてもトップ5に名を連ねるレベルで強力である上に、ヴァリアスは闇属性の、アシェルは光属性のドラゴンとしてはトップクラスの力を備えているので、この二人と二体でも充分な戦力となるのだ。
「此方の準備は出来た。ナイアル、王都の住民は如何なっている?」
『そっちの方は抜かりねぇ。
王都の住民は、俺とドロシー以外の全員がエルベ離宮かツァイスに避難してるから、城の人間と兵隊以外は誰もいやしねぇ。だから、遠慮なくやってくれていいぜ……だが、出来るだけ建物は壊さねぇようにしてくれや。』
「其れは善処するとしか言えないのが辛い所だな。」
加えて、なのはは王都の住民が巻き込まれないように、ナイアルに頼んで、住民を王都から避難させていた――戦いとは無関係な一般市民を巻き込まないようにすると言う時点で、デュナンとは雲泥の差が有ると言えるだろう。
ナイアルとドロシーは王都に残っているようで、なのはがその事について問うと、『ペンの力であるべき事を民衆に伝えるのが俺達の仕事だ!俺は戦場記者として、ドロシーは戦場カメラマンとして、此の戦いの一部始終を記録する義務があるんだよ!』との答えが返って来た……リベール通信社の凸凹コンビとして有名なナイアルとドロシーだが、過去には最優秀ジャーナリスト賞を受賞した事もあり、そのジャーナリスト魂は本物であり、今回も戦いの一部始終を余す事無く記録し、リベールが新たに生まれ変わる瞬間も逃さずに記録すると言う覚悟を持って王都に残った訳だ。マッタク持って見上げたジャーナリスト魂だと言えるだろう。
其れを聞いたなのはは、『ならば、私がデュナンを討ち取った事は精々盛大に書いてくれ。捏造にならない程度であれば多少話を盛ってくれても構わん』と返していたので、此の戦いの全容はリベールの国民に派手に伝えられる事になるだろう。
「此れで王都の方は問題無いが……此れから出撃前の挨拶をしようと思ったのだが……大丈夫かそいつは?と言うか、何があった?」
「キョォォォォォォォォ!!」
「おい、何で暴走してんだよ八神!」
「の朝飯ぃぃぃぃ……旨かったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「紛らわしい事してんじゃねぇ、このタコ!!受けろ、此のブロウ!」
「グハァ!此のままでは終わらんぞ!!」
「なぁ姉やん、何で兄やんは時々意味不明なボケかますんやろか?」
「知るかタヌキ。我に聞くな、本人に聞け。どうせ真面な答えは返ってこないだろうがな」
なのはが出撃前の挨拶をしようとした所で、庵が暴走していると思いきや、レイストン要塞の食堂で食べた朝食の美味しさに感激していると言う極めて謎な行動をしており、其れに京が突っ込みを入れて、八神姉妹は若干呆れていた。
出撃前に何をしてるんだと言う所だが、こんな遣り取りが出来るのも心に余裕我ればこそであり、同時に反抗軍のメンバーは適度な緊張感を持ちつつも心の余裕はあると言う事なのだろう。
そして、心の余裕があると言う事は己の力を最大限に発揮して最高のパフォーマンスが出来ると言う事でもあるので、出撃前にこんなコントの様な遣り取りが行われても、其れは咎める事ではないのである――まぁ、突っ込みが突っ込みの範囲を超えた威力であり、京の百八拾弐式を喰らった庵は、即座にアインスが回復する事にはなったのだが……回復した庵が京とバトらないように八神姉妹が確りと拘束はしていた。
「では、改めて。
諸君!遂に来るべき時が来た!本日、我々はデュナン率いる現王国軍との戦いを行い、そしてデュナンを打ち倒して奴の手からリベールを解放して、リベールをあるべき姿へと戻す!
此処に集った者達は、何れも劣らぬリベールの精鋭故にデュナンが集めた烏合の衆に負けるとは思わないが、デュナンも何かしらの切り札を用意している筈……なので、決して油断せずに戦いに臨んでくれ。
そして、誰も死ぬな!全員生きて、リベールをデュナンの手から奪還するんだ!」
「リベールを取り戻す為に、皆さんの力を貸して下さい。エイドスの加護が、皆にあらん事を……!」
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)
改めてなのはが出撃前の挨拶をして、クローゼが其れに続いて一言言った後にリベールではお馴染みとなっているセリフを口にすると、反抗軍のメンバーからは歓声が上がり、同時に士気も爆上がりする――なのはとクローゼ、この二人のカリスマ性と言うのは、民衆を引き付ける事が出来る真のカリスマ性だと言って間違いないだろう。此れが、『上に立つ者の器』と言う奴なのだろうな
そして、士気が上がった反抗軍は、王都に向けて進軍を開始するのだった。
――――――
反抗軍がレイストン要塞を出発してから一時間後には、リシャール率いる情報部が王都の入り口に到着し、そして派手に王都に攻め込んでいた――ライフルを装備した特務兵がライフルを乱射し、鉤爪を装備した特務兵がデュナン軍に切り込んで行くと言う、見事な前衛・後衛のフォーメーションでデュナン軍を圧倒して行く。
デュナン軍の兵士の多くは、金で地位を得た者達で、最低限の戦闘訓練しか行って居なかった烏合の衆でしかないので、精鋭揃いの情報部の敵ではなく、次々と意識を刈り取られて戦闘不能になって行く。
「大佐、御無事ですか?」
「クラリッサ君……あぁ、大丈夫だ。しかし、今の相手の動きは他の兵士とは随分と異なるようだったが……?」
「矢張り大佐も気付きましたか……私も、コイツは少しばかり他の兵とは違うと思いましたので、自分の手で倒して正体を確かめようかと。」
そんな中で、デュナン軍の兵士の一人が、大凡人間とは思えない動きでリシャールに襲い掛かり、其れをクラリッサが撃退したのだが、クラリッサが撃退した相手の兜を蹴り外すと、中から現れたのは大凡人間とは掛け離れた外見の頭部だった。
其れは、言うなれば人間と爬虫類を融合したような見た目であり、普通の兵士でない事だけは誰の目にも明らかだった。
「此れは……まさか、『デュナン公が人工的に悪魔を作っている』と言う、あの噂は本当だったと言うのか?」
「これを見る限り、噂は本当だったと言う他はないと思います。」
同時に其れは、カシウスがダンテに『デュナンは人工的に悪魔を作っている可能性がある』と言った事が、噂ではなく真実であったと言う事を示していた――『爬虫類人間』と言うべき存在は、自然に現れる事は先ずない存在だからね。
そして、此の爬虫類人間は恐らく人間の兵隊に悪魔の因子を融合させて作り出した存在だろう……そんな悍ましいモノを作らせるとは、人としての倫理観と言うモノをデュナンは失ってしまっているのかも知れない。
だが、そうであると言うのならば、デュナン軍のメンバーを『烏合の衆』と言うのは些か危険であると言えるだろう……悪魔の力を得たのであれば、其れは決して侮る事の出来ない戦力であるのだから。
「人外の存在が相手とは……如何やら、この目の封印を解く時が来たみたいですね……」
「……クラリッサ君、流石に今はそう言うのをやっている場合では……」
「いえ、何時も言っていた事は只の冗談ではないのですよ大佐。見せて差し上げましょう、封印されし私の左目、『ヴォーダン・オージュ』を!」
此処でクラリッサが、何時もの中二病を発症したかと思ったら、眼帯を外して左目を顕わにする――そして、眼帯の下から現れたのは、右目とは異なる金色の瞳を持った目だった。
左右で目の色が異なるオッドアイと言うモノは、其れなりに存在して居るモノではあるが、クラリッサの様に黒と金と言う極端なモノは非常に珍しいと言えるだろう。
「この目の力、其れは私の視野に入る範囲での前方10mに相手の動きを一切停止させる『停止結界』を展開する事――無論私に掛かる負荷も決して小さいモノではないのですが、戦闘中に相手の動きを止める事が出来ると言うのは大きなメリットでしょう?」
「確かに。戦闘中に相手の動きが確実に5秒止まれば、その相手を殺す事が出来ると言うからね……だが、負担が大きいのならば乱用は控えたまえ。
敵は未だ大量に居るのだからね。」
「大丈夫です。消耗した時の為に『ファイト一発!』でお馴染みのアレを持って来ていますので。」
「……まぁ、無理だけはしないでくれ。」
その眼の能力は中々にトンデモないモノであり、クラリッサによって動きを封じられた王国軍の兵士……もとい人造悪魔達は情報部の精鋭達によって次々と狩られ、その身をレッドオーブへと変えて行く。
普通の人間の兵士達は、情報部のあまりの強さに恐れ戦き、武器を捨てて逃亡する者が続出……金で地位を買ったに等しい軍人では、戦場で戦う覚悟ってモノは備わって無いと言う事なのだろう。デュナンが行った軍の入隊条件の改革は、王国軍を弱体化させるだけのモノだった訳である。
「これでも、喰らえ!」
クラリッサ自身も、停止結界を発動しながら大口径の導力ランチャーで敵を蹴散らして行く……此の導力ランチャーだけでも相当に強力なのだが、クラリッサはこの他にも、腰のホルダーにデザートイーグルを二丁、肩にはショットガンをぶら下げ、軍靴にはナイフを仕込み、耳のイヤリングは小型爆弾と、『歩く武器庫』と化しており、相当な戦闘力を有していると言えるだろう。若干過重装備であると言えなくもないが。
何にしても、情報部の正面攻撃は大成功し、デュナンに対して先ずは先手を取る形になったのだった。
――――――
情報部が正面からの攻撃に成功したころ、港からの主力部隊を乗せた高速巡洋艦は港を目視出来る場所まで来ていた――奇襲を気付かれないように、ヴァレリア湖畔から出艇してグランセルの港までやって来たのだ。
だが、港にはなのはの予想を裏切って結構な数のデュナン軍の兵士達が集まっていた。
情報部の正面攻撃は成功したが、其方に戦力を回しても、港の警備を行う兵は確保出来ていると言う事だったのだろう。……人工的に作った悪魔が居ると言うのであれば、確かに数の面では何とかなるだろうからな。
「リシャールさん達がもっと引き付けてくれると思ってたんだけど、結構な数が居るな?……こりゃ、結構派手なバトルになるかも知れないけど、やるからには派手にやってやろうじゃなないか!」
「そうよね?派手に行きましょ……派手なの、好きでしょ一夏?」
「まぁな。」
「派手なのが好きなのか?ソイツは何とも良い事だと思うぜ一夏。」
だが、其れを見ても奇襲部隊のメンバーは慌てる事なく、それどころか『派手にやってやるぜ』とやる気が充実していた――予想外に港の戦力が多い程度の事では怯む事は無いのである。
何よりも、戦いに於いて予想外の事が起こるのは当然であり、そんな事に一々驚いていては戦いにならないのである。
「アイツ等……人間じゃねぇな?カシウスが言ってた事はマジだったって訳か。
なら、手加減なんぞは必要ねぇよな……そんじゃ、始めるとしようぜ、楽し過ぎて狂っちまう位のイカレタパーティって奴をな!準備は良いか?Let's
Rock!!」
「滅殺……おぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「電刃……波動拳!」
「氷結波動拳!」
「灼熱波動拳!」
「風神波動拳!」
「真空波動拳!」
先ずは先制攻撃としてダンテがエボニー&アイボニーでの超高速連射を、稼津斗と鬼の子供達が夫々の波動拳で港に居る兵を攻撃すると、船は一気に接岸して主力部隊が港に降り立ち、デュナン軍の兵士と交戦を開始!
港に配置されていた兵は、全てが人工の悪魔だったので、ダンテも遠慮なく其の力を発揮して次々と悪魔を屠って行く……『悪魔も泣き出す男』と言う評判は伊達ではないようである。派手にやり過ぎて、港にある重機やコンテナを破壊してしまっているのが玉に瑕だが。
港には、情報部が相手をした『爬虫類人間』とは異なる人工悪魔、氷の身体を持つフロストと、雷の身体を持つプラズマが配置されていたのだが、其れもマッタク持って問題ではなかった。
フロストは氷の身体を結晶化させて再構築する事で、瞬間移動めいた事が出来る上に、氷の爪を飛ばしたりと高い戦闘力に加え、傷付いた身体を氷で覆って回復する力も有しているのだが、氷だけに高熱には弱いのだ――でもって、主力部隊にはフロストの天敵である炎使いが九人も存在しているので余裕でぶっ倒せるし、プラズマに関しても、一夏とテスタロッサ姉妹が雷属性なので問題は無いのだ。
一夏とテスタロッサ姉妹は、プラズマの攻撃を受けたら逆にパワーアップする位だからな……属性吸収能力と言うのは何とも恐ろしい物があると言えるだろう。
勿論、他のメンバーも其の力を遺憾なく発揮して港の兵達を次々と撃破して行く。
「見せてやるぜ、草薙流の真髄!おぉぉぉりゃぁ!燃え尽きろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「遊びは終わりだ!泣け!叫べ!そして、死ねぇぇぇ!!」
予想外に戦力が集結していた港だったが、しかしそれも大した問題はなかったらしく、港での戦いも反抗軍が優位に進めて行った……志緒が敵陣に突撃して、イグニスブレイクで、大量の敵を蹴散らしたのは圧巻の一言だったが。
「目に焼き付けて、死ぬが良い。」
此処でクリザリッドが本気モードになり、コートを燃やしてバトルスーツ姿になる……そのあまりにもセクシーでインパクトのある姿に、主力部隊もデュナン軍も一瞬目が点になってしまったが、即座に正気を取り戻して戦闘を再開した。
精鋭揃いの主力部隊の前では、デュナンの人工悪魔も次々と狩られて行くだけなのだが、此れは属性の相性と言うモノも大きいだろう――特に、上級悪魔に匹敵する力を持ったフロストの天敵である炎使いが九人も居たと言うのがデュナン軍の誤算であったと言わざるを得ず、反抗軍の戦力分析を怠った事が原因だとも言えるだろう。敵戦力の分析と言うのは、戦いに於いては何よりも大事なモノであるからね。
――――――
そしてグランセル城の上空では――
「いよいよこの時が来たか……クローゼ、準備は良いか?」
「はい、準備万端です。」
なのはとクローゼ、ヴァリアスとアシェルが臨戦態勢を整えていた――今回は戦闘なので、クローゼはなのはにお姫様抱っこされずに、アシェルの背に乗っている。ドラゴンの背に乗る美女と言うのも中々に絵になるモノであるな。
まぁ、其れは其れとして、グランセル城の上空には、城の警護として多数の悪魔と魔獣が飛び交っており、普通ならば城に近付く事は出来ないだろう。
「よくもまぁ、此れだけの悪魔やら魔獣を集めたモノだと感心するが、その程度の戦力では私達を止める事は出来ないと言う事を、その身をもって知るが良い!奴等に黒き炎の裁きを与えろヴァリアス!
焼き尽くせ、ダーク・メガ・フレア!」
「リベールを蝕む者に光の裁きを……眼前の敵を蹴散らしなさいアシェル!滅びのバーストストリーム!!」
だが、なのはもクローゼも普通ではないので城に近付くのは難しくないのだ……城の警護を行っていた悪魔と魔獣をヴァリアスとアシェルの一撃で蹴散らすと王城に降り立つ――なのはとクローゼは、作戦開始から僅か十分足らずでグランセル城に降り立ったのだ。正に圧倒的な力であると言えるだろう。
「城の上空は魔獣と悪魔で防衛しておきながら、城其の物には兵が居ないのか?城に降りた瞬間に、城内の兵が襲って来ると思ったが……何とも不気味なまでに静かなモノだな?」
「叔父様は空中庭園の女王宮ではなく、城内の玉座の方に居るのではないでしょうか?
恐らくですが、城内の兵の殆どが其方の警護に回っている可能性は高いと思います……或は、叔父様は既に城から抜けて何処かへと逃亡してしまったのか――叔父様に僅かでも王としての誇りが残っているのならば、後者だけはないと思いたいのですが。」
「……まぁ、此処で幾ら考えても仕方ない。実際に城内に入って確かめてみれば良いだけの事だ。」
「そう、ですね。」
二人はヴァリアスとアシェルを縮小魔法で小さくすると、空中庭園からグランセル城内部へと進んで行くのだった……
To Be Continued 
補足説明
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