・リベール王国ルーアン市


ロレントがモルガン率いるハーケン門の部隊に襲撃された翌日、カシウスはルーアンの街の裏通りにある便利屋――ダンテが営む『Devil My Cry』にやって来ていた。
手土産にアンチョビのピザとジンとトニックウォーターを持って来てる辺り、カシウスはダンテの事を分かっている様だ。


「邪魔するぞダンテ。」

「カシウス……アンタが此処に来るとは珍しいな?俺に何か頼み事か?それとも、デカい仕事でも入ったか?」

「まぁ、その両方と言えるかもしれん。」


『取り敢えず土産だ』と言って、カシウスはピザとジンとトニックウォーターをダンテの机に置くと、自分もソファーに腰を下ろしてポケットから、ウィスキーのポケット瓶を取り出して一口。
タバコで一服しても良いのだが、ダンテはタバコが嫌いなので遠慮したのだろう。


「両方ってのは如何言う事だ?」

「ロレントが王国軍に襲撃されたのは、リベール通信の号外でお前さんも知ってるだろう?
 そして、何故そんな事が起きたのかと言うと、ロレントにクローディア殿下と、殿下をグランセル城から連れ出した奴が居たからだ……デュナン公は、其の二人を恐れて、亡き者にする為に、モルガンにロレントを攻撃させた訳だ。
 だが、其れは失敗し、此の号外で王国軍がロレントを攻撃したと言う事が国民に知れ渡って、デュナン公を倒せと言う気質が高まるのは必至だし、俺もロレントをアリシア女王の頃に戻したいと思ってるんだ――その為に、お前さんの力を貸して欲しいんだがどうだ?勿論、正式な仕事としての依頼だ。相応の報酬は払うぞ?」

「カシウス、アンタも知ってるだろ?俺は、人間同士の争いなんぞには興味はねぇ。てか、デュナン程度が相手なら、アンタが出張れば俺の出る幕は無いだろ?」


カシウスが、『デュナンに戦いを挑むから力を貸せ』と言うも、ダンテは難色を示す……『Devil My Cry』は便利屋だが、クライアントの依頼を受けるか否かは、完全にダンテがその依頼を気に入るか如何かなので、本当の意味での便利屋とは言い難いのだ。
特にダンテは、人間同士の争いと言うモノは徹底してスルーする傾向にあるからな。


「お前さんならそう言うと思ったが、デュナン公を調べている内に少しばかり妙な事が分かってな……如何にも最近、デュナン公はお前さんが持ってるような悪魔の武器を集めているみたいなんだ。」


だが、このカシウスの一言にダンテの眉が動く――『悪魔』と聞いては、黙って居られないのだろう。
嘗ては、母親の仇を討つ為に悪魔を狩っていたダンテだが、目的を果たした後は、最早趣味で悪魔狩りをしているようなモノだが、逆にだからこそカシウスの言った事を捨て置く事は出来なかったのかも知れない。


「何だそりゃ?悪魔の武器なんざ、下手に手を出せば命を落としかねないんだが……そんなモンを集めて、博物館でも開く心算か?」

「其れだけじゃない。人工的に悪魔を作ってるって言う話まである。」

「なら、一緒に動物園も開園だな。」

「あんまり集客は見込めそうにないが……その本当の目的は、そう言ったモノを使ってリベールを支配しようとしているとしたら、如何する?」

「……少なくとも、暇潰しにはなりそうだ。」


アンチョビのピザを齧りながら、ダンテは不敵な笑みを浮かべてそう答え、カシウスも『お前さんならそう言うと思った』と言わんばかりの笑みを浮かべる――取り敢えず極めて強力な仲間が出来たのは間違いないだろう。
そしてダンテは、愛用のリベリオンを背負って、カシウスと共にレイストン要塞へと向かって行ったのだった。










黒き星と白き翼 Chapter17
『It's the beginning of the revolution』









・ツァイス地方:レイストン要塞


リベール王国最大の軍事要塞であるレイストン要塞には、なのは率いるリベリオン、リシャール率いる情報部、ユリア率いる元王国親衛隊、志緒率いるBLAZEだけでなく、エステルとヨシュアを筆頭にした遊撃士、京や庵と言った武闘家、更にはリベール国外からもエステルとヨシュアが嘗て一緒に仕事をした仲間、京の格闘仲間、ダンテの仕事仲間などに加え、其れ以外にも多くの人物が集まっていた。


「よもや此れほどの人数が集まるとは……リベール通信社が出した号外は、思った以上の起爆剤になったみたいだが、此れだけデュナンに不満を持つ者が居ると言うのに、何故此れまで国民が暴動を起こさなかったのか不思議だ。」

「叔父様は、一部の富裕層を優遇する政策ばかりを行っていたみたいですが、ですがだからと言って国民に対して圧政と言う程の事まではしていなかったらしく、叔父様に不満はあっても、生活が困窮している訳ではなかったので、此れまでは何とか爆発しないで済んでいたみたいです。」

「ならば何故、あの号外の後で其れが爆発したのだろうな?」

「それは、今回の一件で、叔父様は私となのはさんを殺す為だけにロレントを攻撃し、結果として十四名もの死者を出しました……しかも、其れを実行したのは国民を守る立場である筈の王国軍――己の脅威となる者を排除する為ならば国民の命を簡単に犠牲にすると言う事が明らかになりましたから、そんな暴君を打ち倒そうと考えるのは当然ではないでしょうか?」

「そうだな、マッタク持ってその通りだと思うよクローゼ。
 だからこそ、私達は確実にデュナンを打ち倒してリベールをあるべき姿に戻さねばならない……そうでなければ、奴によって奪われた十四人の命に報いる事は出来ないからな。」

「えぇ、そうですね……十四人もの尊い命を奪った罪に対する罰、叔父様には其れを受けさせねばならないでしょうし。」


こんな事を話しながら、集まった人物を見渡して、なのはとクローゼは戦力的には充分デュナンと渡り合えるどころか、確実に上回る事が出来ると確信していた――ロレントでの攻防で、デュナンの最大戦力であろうハーケン門の一団はほぼ壊滅し、情報部と元親衛隊を除いた王国軍の戦力は数だけは多くとも、質では大きく劣っていると言わざるを得ないからだ。
本来、王国軍の兵士は、士官学校で厳しい訓練を全てクリアした者だけがなる事が出来る『選りすぐりの努力のエリート』の集団なのだが、デュナンが国王に就任してからは、『年間所得が一千万ミラを超え、納税額が百万ミラを超える家の人間は、士官学校を卒業せずとも王国軍の尉官になり、国王直属の部隊に配属される』と言うトンデモナイ事をしてくれたので、デュナンを守る兵は金の力でその地位につき、碌に戦った経験もない烏合の衆なのだ。
カシウスがダンテに言っていたように、その烏合の衆も悪魔の武器で武装すれば強化されるし、人工的に生み出した悪魔も居るのであれば、其れなりの戦力にはなるのかもしれないが、なのは達の戦力とは雲泥の差が有るのは否めない。

なのは率いるリベリオンの戦闘要員は、なのはが己の目的を果たす為に集めた選りすぐりの強者であり、リシャール率いる情報部と、ユリア率いる元親衛隊のメンバーは、士官学校の厳しい訓練を潜り抜け、そして王国軍の軍人となってからは実際に何度も現場に足を運んで来た、経験豊富な叩き上げだ。『選りすぐりの努力のエリート』なのに、現場の叩き上げと言うのは些か矛盾するかもしれないが、要するにデュナンの息が掛かった兵士達とは一線を画す存在だと言う事だ。

其れだけでも充分なまでの差が有るのだが、エステルとヨシュアを筆頭とした遊撃士集団も、此れまで幾多の修羅場を駆け抜けてきた猛者であるし、志緒がリーダーを務めるBLAZEも、ロレントの警備や、ロレント周辺の魔獣退治で経験は豊富であり、京や庵の様な武道家は戦う事には慣れているのでマッタク持って問題なしなのである。

……特に京と庵は、日常的に殺し合いみたいな戦いをしているからね――京は『俺は八神庵としてのお前と純粋に戦いたい』と思ってるのに対し、庵は『草薙も八神も関係ない。貴様が気に入らん、だから殺す』と思ってるので、其処に滅茶苦茶温度差がある訳だが、京も庵もお互いに戦う事其の物は楽しんでいるみたいなので、あまりとやかく言うべきではないのかも知れないな。


「いやぁ、其れにしても草薙さん、凄い人の数ですねぇ?この人達で、今の王様に戦いを挑むんすよね?」

「まぁ、そうなるだろうが……まさかお前が来るとは思ってなかったぜ真吾?お前の事だから、軍人と戦うって聞いたらビビッて萎縮しちまうんじゃねぇかと思ってたんだけどな?」

「見損なわないで下さい!
 確かに俺はマダマダ未熟かもしれないですけど、俺は草薙さんの弟子なんですよ?草薙さんがやるって言うのに、弟子の俺がやらないでどうするんですか!俺だってやる時にはやるんすよ!
 其れに、草薙さんの無式を俺なりにアレンジした技も開発しましたし!」

「……草薙流の最終決戦奥義を勝手にアレンジするなよ。」


京と庵の関係はさて置き、レイストン要塞の一角では、京の弟子を自称する『矢吹真吾』が、京の前でやる気を見せていた。
二年前の武術大会で優勝した京を見た事で、京に憧れて半ば押しかける形で京に弟子入りした真吾は、此れまで戦いとは無縁の人生を送って来た事で、戦いに関しては若干ビビりな部分があるのだが、いざ覚悟を決めたその時は中々の実力を発揮してくれるのだ。
京から教わった技も、炎こそないが型は完璧にマスターしており、『草薙京直伝草薙流古武術』を名乗るまでになっている――其れでも、妹弟子のノーヴェには、スパーリングでは微妙に負け越しているのだけれどね。


「おい、遊星。」

「庵か、如何した?」

「家のテレビの映りが悪いので、轟斧陰・死神を叩き込んだら完全に映らなくなったので今度直しに来い。そして、はやてに昼飯を用意させておくから食って行け。妹贔屓をする心算はないが、はやての料理は可成り旨い。」

「修理の依頼は有り難いが、あまり壊すなよ?機械にだって、魂はあるんだからな。」

「その魂も、はやての恋路に貢献出来るのであれば、さぞ光栄だろう……百鬼夜行にもなる事が出来ないモノ等、精々この位でも役に立たねば存在した意味が無いと言うモノだ。」


その一方では、庵が遊星にテレビの修理を依頼していたのだが、映りの悪いテレビに渾身の踵落としをブチかませば、其れはトドメになるわな――尤も、庵がテレビにトドメを指したのは、全部はやての為なんだがな。
サラッと、『はやての飯を食って行け』と言ってる辺り、只の危険人物に見えて、実は『妹思いの良いお兄ちゃん』なのかもしれないな庵は。
遊星の妹の一人であるレーシャは、めっちゃ『お兄ちゃん大好きっ子』なので、庵が言った事を聞いたらキレて噛みつきそうだが、今回は格闘技の先輩であるノーヴェと話をしていた事で庵と遊星の会話は聞こえては居なかったらしい……聞こえていたら、レイストン要塞で小バトルが勃発していたかも知れない。


「そう言えばなのはさん、如何して叔父様と戦うのを三日後にしたのですか?ロレントの一件の後でも、直ぐに攻め込む事は可能だったと思うのですが……?」

「確かにそうかも知れないが、其れはデュナン側の戦力が整っていない所に攻撃を仕掛ける事になる――十全の力を発揮出来ない相手を攻撃すると言うのは、決して褒められたモノではないと私は思って居てね。
 十全の相手を叩きのめしてこそ、真の勝利だ。だから、私はデュナンに三日間の猶予を与えたんだ……奴が、十全の戦力を揃える事が出来るようにな。」

「真の勝利を収めるためにですか……成程、納得しました。」


庵と遊星が彼是やっている最中、クローゼはなのはに、『何故デュナンに三日間の猶予を与えたのか』と聞いて来たが、なのはの答えを聞いて妙に納得してしまっていた。
『十全に力を発揮出来る相手を叩きのめしてこそ意味がある』と言うのは正にその通りなのだ――己が最強と信じた者達を真っ向から叩き潰せば、其れだけで相手の心をぶち折るには充分な事であり、仮にデュナンが何とか生き延びたとしても再起する事は出来なくなる訳だ。普通ならば、自分が信じた最強の戦力を真っ向から叩き潰してしまった相手に恐怖を覚え、もう一度戦おうと言う気持ちは中々起きないモノだから。
特にデュナンの様に、自らは前線に出ないで後方から指示だけを出しているタイプの人間は尚更だろう。


「なのはさん、其れではソロソロ……」

「そうだな、始めるか。」


此処でなのはとクローゼが一団の前に歩み出ると、リシャールが情報部の隊員を、ユリアが元親衛隊の隊員を整列させ、其れを見た軍人でない者達もなのはとクローゼに注目する。


「反デュナンの思いを持った同志諸君、本日は良くこうしてこのレイストン要塞に集まってくれた。
 私の名は、高町なのは。私設組織『リベリオン・アナガスト・アンリゾナブル』のリーダーを務めている者であり、此度のデュナンへの反抗作戦に於いてもリーダーを務めさせて貰う事になったので、宜しく頼む。
 そして私の隣に居るのは、クローゼ・リンツ。彼女には、我等の旗印となって貰おうと思って居る。」

「ご紹介に与りました、クローゼ・リンツです――が、此の名前は世を忍ぶための名です。
 私の本当の名は、クローディア・フォン・アウスレーゼ。前リベール女王の、アリシア・フォン・アウスレーゼの孫であり、前女王が急逝した後に、現在のデュナン王によって女王宮に幽閉されていた者です。」


其処でなのはが挨拶をした後にクローゼの事を紹介したのだが、此処でクローゼが特大の爆弾を投下し、その場にいた多くの者達を驚かせた――先日のロレントでの戦いに参加していた者達はクローゼの正体も聞かされていたのだが、そうでない者達にとっては、正に寝耳に水と言ったレベルの衝撃的な情報だからね。
まぁ、普通に考えれば、何者かに攫われた筈の自国の皇女殿下がこうして目の前に居るとは中々信じられるものではないから仕方ないかも知れないのだから――ツァイスのギルドの受付であるキリカは其れほど驚いて居なかったが、彼女は独自の情報網を持っているので、クローゼの事は知って居たのだろうね。


「アンタがクローディア皇女殿下だって?……確かに、アリシア女王の面影があるな?
 幽閉された上に、何処かの誰かに攫われたって聞いてたが、そんな皇女殿下がこうして目の前に居て、そんでもって一緒に戦える!こんな幸運滅多にないぜ?」


驚いて絶句している者達の静寂を破ったのは、ダンテだった。
大袈裟で、ともすればワザとらしいとも言える位のオーバーリアクションで振る舞った後は、空に向かって愛用のハンドガンを一発ぶっ放して場を盛り上げようとする。クレイジーなパーティは、ダンテの大好物なので、此れ位は普通にやってしまうのだ。


「嗚呼、確かに貴方の言う通りだな名も知らぬダンディーな小父様よ。
 かの皇女殿下が我等の旗印となって、リベールを私物化している現愚王に戦いを挑むと言うのは、極めて素晴らしい革命劇であると言わざるを得ない……何よりも、高町なのはは闇、クローディア殿下は光であり、夫々が闇属性と光属性の龍を従えていると来た。
 闇と光は相反する属性であるが、だからこそ力を合わせたその時は、何者をも寄せ付けないカオスの力を呼び覚まし、全てを呑み込んでしまう程のモノが生まれると言うからね……デュナン王の運命は、此の戦いの火ぶたが切って落とされたその時が終わりの時さ。」


そして、其れに乗っかる形でロランがかましてくれた。
女優志望で日々己の演技を磨いて来たロランは、ダンテ以上に芝居掛かった所作とセリフで注目を集め、挙げ句の果てには『気が合うなお嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?』と聞いて来たダンテに対し、『女性に名を聞く時は、まず自分から名乗るべきではないかなミスター?』と返し、名を交換した後はダンテが『気が合いそうだな嬢ちゃん?お近付きの印に、一曲如何だい?』と言うと、ロランも『余興としては、ありかもしれないね』と若干悪乗りして、ちょっとしたダンスを披露し、ダンテがロランの背を抱える形でフィニッシュ!その場のノリと勢いとは、かくも恐ろしい物がある。序に『何処から音楽が流れて来たのか?』とかは聞いてはいけない。
ダンテは、ダンスの最中に『無刃剣ルシフェル』を装備していたらしく、口には薔薇が咥えられており、フィニッシュ後にはその薔薇を上空に投げ、其れをハンドガンで撃ち抜く……


「電刃……波動拳!」


前に、一夏が電刃波動拳で粉砕した。
ロランが乗っかったのは良いとして、ダンテが当たり前のようにロランとダンスを披露した事が少しばかり気に入らなかったのだろう……まぁ、テメェの彼女が見知らぬオッサンと一曲踊ったってのは、黙ってられるもんじゃないからな。
ロランがダンテの誘いに乗っかったのも、『ロランだからなぁ……』と思いつつも、少しばかり面白くない部分が有ったのだろうが。


「おぉっと、ロラン嬢ちゃんはお前さんの彼女だったのか坊主?そりゃ悪い事をしちまったなぁ……まぁ、今回の事はちょっとしたパフォーマンスって事で勘弁してくれ。」

「パフォーマンスじゃなかったら、アンタに直接電刃波動拳ブチかましてるぜオッサン。
 其れと、ロランだけじゃなくて、刀奈と簪とヴィシュヌとグリフィンも俺の彼女だから、手を出したら誰であろうとタダじゃ置かねぇ……最悪の場合、殺意の波動に身を委ねても、俺はそいつをぶっ殺す!」

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね一夏ったら♪」

「一夏は、サラッとそう言う事を言うのが反則過ぎる。」

「まぁ、そんな所も好きになった訳ですが。」

「一夏って、本当にスペック高いよね~~♪」

「ふふ、私も少しばかり悪乗りしてしまって悪かったね?君のそんな情熱的な所も大好きだよ一夏。」


そして、一夏は嫁ズへの愛の深さをぶっちゃけて、嫁ズは其れを聞いて全員が頬を染めて一夏に惚れ直しており、一夏達の師匠兼育ての親である稼津斗は、『殺意の波動はそう簡単に制御出来る物ではないぞ一夏』と言っていた。
ダンテの一言から、場は正にカオスディメンジョンな状況になってしまったのだが――


「ククククク……あはははは!!
 まさか、こうなるとは思わなかったぞ?まさかの寸劇の果てには、恋人達の惚気が待って居たとはな……普通ならば、『惚気は他所でやれ馬鹿者共』と言ってやる所だが、こうも堂々とやられると文句を言う気にもならん。いっそ清々しさすら感じてしまうよ。」

「其れじゃ、アタシも洸君とイチャ付いてもいいですか~?」

「璃音…好きにしろ。尤も、洸が公然とイチャ付けるかどうかの方が問題かもしれんがな……」


それに対してなのはは高笑いを上げると、此れまでの一連の流れを許容した上で、更には悪乗りして来た璃音にも対処し、『リーダーとしての器』と言うモノを、レイストン要塞に集まった者達に見せ付けていた。


「高町なのは、彼女にならば俺達の未来を預ける事も出来ると確信した。
 俺達の未来を、彼女に預けてみようじゃないか――彼女ならば、きっとリベールに明るい未来の光をもたらしてくれる筈だからな。」

「私も兄さんの言う事に賛成だわ。
 デュナンが、クーデターを起こして強引に王になってから、リベールは暗黒の時代を送る事になったけど、その暗黒時代ももう終わりにする時が来た!私達の手で、リベールを取り戻すのよ!」

「やろう、私達の手で!」


そして、此処で遊星、遊里、レーシャの『不動三兄妹』が声を上げて、カードに封印されている精霊を開放する。
遊星と遊里は技術者、レーシャは幼い武道家だが、『精霊召喚士』としての能力も持っており、遊星と遊里の場合は技術者としての裏方も、精霊召喚士として前線に出て戦う事も出来るのだ。
そんな不動三兄妹がカードから解放した精霊は、遊星が、絶対的な守護の力を有した『スターダスト・ドラゴン』、遊里が聖なる力を宿した神姫『プリンセス・ヴァルキリア』、レーシャが果てなき銀河を飛翔する『銀河眼の光子竜』と、何れも高位の精霊だった。
特にレーシャの『銀河眼の光子竜』は、クローゼのアシェルに匹敵する程の力を有しており、その圧倒的な力でレイストン要塞に集まった人々を震撼させていた。


「……へへ、コイツはトンデモナイ奴が出て来たもんだが、此れだけのものを見せられたら俺の炎だって黙ってる事は出来ねぇ――見せてやるぜ、草薙流の真髄って奴をな!」

「そうだな、見せてやろうじゃないか京、デュナンに私達の力と言うモノをな――そして後悔させてやろうじゃないか、クーデターを起こしてクローディア殿下を幽閉して強引に王になった事をな。」

「そうね!思いっきり太極輪を叩き込んでやるわ!」

「それで済ませてあげるだなんて、優しいわねエステルは。
 私だったら、魂に直接致命傷を与えて植物状態にしてやっているところよ……死神は、死者の魂を黄泉へ送るのが本分だけれど、外道の魂に永遠の苦しみを与えるのも仕事のウチですもの♪」

「……其れは笑顔で言う事ではないと思うよレン。」


其れを受けた京は炎を滾らせ、アインスは其れに同意し、エステルは何やら物騒な事を言い、レンは其れ以上に物騒な事を言って、ヨシュアは其れに突っ込んでいた。
だがしかし、此処までの一連の流れで、レイストン要塞に集まった者達の心は一つになり、此処に反デュナンを掲げる反抗軍として『リベリオン・オブ・トゥルーリベール』が結成され、デュナンからリベールを取り戻す為の戦いの準備を進めて行くのだった。


「デュナンの次は貴様の番だ京……其れを忘れるな。」

「はいはい、分かってるって。だが、先ずはデュナンだ。後れを取るなよ八神?」

「ふん、誰にモノを言っている?ふざけた事を言うと殺すぞ?」

「そもそも、俺を殺す気満々のお前に言われても、実感がねぇな。」


一抹の不安要素は、京と庵の不仲だが、この二人は普段はいがみ合っていても、共通の敵がいる場合には共闘は辞さない程度の柔軟さがあるので、多分大丈夫だろう。庵が何らかの原因で暴走したらヤバいかも知れないけどね。








――――――








挨拶を終えたなのはとクローゼは、レイストン要塞の作戦会議室で、如何にしてデュナンに攻撃を仕掛けるかと言う事を話し合っていた――と言うのも、グランセル城は正面門以外の三面は、湖に囲まれており、正面から攻め入る事が出来る戦力が可成り制限されてしまうのだ。
攻め入る手段が限定されてしまうのは喜ばしい事ではないのだが……


「正面以外の三方は湖に囲まれているとは言え、この程度は私達にとっては障害にはなり得んよ……少なくとも、リベリオンの戦闘要員は、全員が空を飛ぶ術を習得しているからな。」


其れをなのはは一蹴する。
此度のデュナンへの反抗作戦に参加した者達の多くは空を飛ぶ術を身に付けているので、三方が水に囲まれている程度では、マッタク持って障害にすらならないのである。


「リシャール、正面からの攻撃、任せたぞ?」

「任されたよなのは君――全てはリベールの、そしてこの世界から差別と偏見をなくすために!」



そして、リシャールはなのはから直接の任務を受けて其れを是として、グランセル城への真正面からの攻撃の役割を担う事になった――可成り危険な任務ではあるのだが、リシャールは迷う事無く其れを受け入れた。それ程までにリシャールの愛国心は深いのだろうな。
そして、その愛国心は今は革命のリーダーであるなのはに向かっているが故に、なのは達が負ける事はないだろう。リシャールの愛国心を、その身に受けたなのはが率いる一団が負けるなどと言う事は、絶対にあり得ないと、そう言っても良い事だからね。


其れから、二日が経過し、遂に決戦の時がやって来たのだった――!










 To Be Continued 







補足説明