なのはの最大級の集束砲に加え、光と闇のドラゴンの攻撃、草薙の奥義と殺意の波動の滅殺技、レオナの暗殺術の超奥義によって移動要塞は三機とも全て、其れはもう見事なまでのスクラップとなり、モルガン将軍以下、戦闘に参加したハーケン門の兵士は略全てが捕縛されていた。
移動要塞内の兵の中には、スターライトブレイカーが放たれる前に逃げた者も多く、全ての兵とは行かないが、其れでも此度出撃した兵の八割を捕縛出来たのは成果としては充分と言えるだろう。


「将軍達を倒しはしたが、連中の人的被害は重傷者が最大であるのに対し、リベールの人的被害は死者が最大であり……其れも十四名もか。
 しかも其れが、戦いとは無縁なロレントの市民であった事を考えると心が痛むな……だが、だからこそ私の為すべき事は増えた――無慈悲に奪われた命の叫び、必ず、あの無能な王に届けてやらねばな。
 せめてそれ位の事をしなければ、死者は浮かばれんだろう。」

「なのはさん……そう、ですね。」


だが、ロレントの被害として、ホテルと教会、時計塔が全壊し、十四名もの死者が出たと言うのは決して小さな被害であるとは言えないだろう――敢えて、不幸中の幸いと言うのならば、ホテルが満室でなかった事と教会がお祈りの時間ではなかった事で人が少なく、死者の数が十四名で済んだと言う事だろう。
これがもし、ホテルが満室で、教会がお祈りの時間だったらと考えると、死者はもっと増えていたのかも知れないのだから。


「だが、先ずは死者を丁重に弔ってやらねばならないのだが……さて、どうやって魂を冥界へと送ってやるかが問題だ。」

「死者の魂は、自然と冥界へ渡るのではないのですか?」

「老いや、病気で死を迎えた場合は、魂が死を受け入れている場合が多いので自然と冥界に渡る事が出来るのだが、今回のように突然の形で死を迎えた場合、己の死を受け入れられない、自分が死んだ事に気付いてない事があるんだ。
 そう言った魂は冥界に渡る事が出来ずに現世に留まってしまい、やがて自らを現世に縛り付けて地縛霊となる。
 死んだ事に気付いていない場合は其処で終わりなのだが、己の死を受け入れられない魂は、生者に対する羨望と嫉妬、なぜ自分が死ななければならなかったのかと言う思いに囚われ、其れ等の負の感情が募り募って生者に害をなす悪霊、最悪の場合は悪魔にまで身を墜としてしま。
 そうならないようにする為にも、今回の犠牲者の魂に己の死を納得させて冥界に送ってやらねばならないだろう?」

「其れは、確かにその通りですが……ですが、一体如何やって?」

「そう言う事なら、レンの出番ね♪」


先ずは死者を弔うのが先なのだが、今回の一件の犠牲者の多くは突然訪れた死を受け入れられない、或は突然過ぎて死んだ事に気付いていない可能性があるだけでなく、そう言った魂を放置しておくと良くない事になるので、如何したモノかと考えていたところで声を上げたのがレンだった。


「レン……そう言えば、お前は死神の系譜だったか。」

「うふふ、その通りよ。
 エステルとの約束で、生者の魂を狩る事は止めたけど、死神として死者の魂が迷わずに冥界に渡れるようにする事は止めてはいないわ――死神の大鎌は、元々死者の現世への強い思いを断ち切って、冥界に渡らせる為の物だもの。」

「えぇとレンちゃん、大鎌で強制的に現世への思いを断ち切っても大丈夫なんですか?」

「大丈夫よクローゼ。死者の魂は、現世への思いを断ち切られた瞬間に己の死を受け入れて、あるいは自分が死んだ事に気が付いて冥界に渡るから……じゃあ、久しぶりに一仕事してくるわね。」


レンは元々死神の系譜であるので、死者の魂から現世への執着を断ち切る事位は造作も無い訳で、レンは次々と犠牲者の魂を現世と切り離して冥界へと渡らせて行く……その姿は美しくも何処か哀しさを感じさせる、『葬送の舞』のようにも見えた。
レンによって現世との繋がりを絶たれた魂は、次々と冥界へと旅立ち、程なくして十四個の光の塊が天へと昇って行ったのだった。


「如何やら、全員無事に冥界に渡る事が出来そうだな。」

「レンちゃんが居てくれて良かったですね。
 ですが、彼女が死神の系譜だと言うのは良いとして、レンちゃんの様な可憐な死神も居るのに、どうして世間一般の死神のイメージと言うのは、骸骨が黒いローブを纏って大鎌を手にしている姿なのでしょうか?」

「其れは恐らくだが、『デス・サイズ』と言う悪魔のせいだろう。
 牛の頭蓋骨を依り代にしている悪魔で、何かを依り代にして人間の世界に現れる悪魔の中では飛び切り強い力を持っているのだが、其れに襲われて、何とか逃げ延びた人間が、『死神に襲われた』と言った事が幾度となく重なって、死神のイメージが出来上がってしまったのだろう。」

「本物の死神にとっては、はた迷惑な風評被害ですよね其れ?」

「マッタクだ。デス・サイズ相手に、名誉棄損で訴訟を起こしたら勝てるレベルだ。」


こんな事を言いながらも、なのはは天に登って行く光に右手を高く上げ、クローゼは胸の前で指を組んでいた――なのはは魔族の、クローゼは人の、夫々死者の魂を送る際の『祈り』を行っていたのだ。
そして、祈ると同時に『その無念は必ず晴らす』と心に誓ってもいた。










黒き星と白き翼 Chapter16
『When raising the signal of rebellion』









魂を冥界へと渡らせた後に、遺体を収めた棺は斎場へと運ばれ、其処で焼いてお骨にした後に夫々の墓へと埋葬されるのだが、流石に一気に十四名もの遺体を焼く事は出来ないので、一度に五体ずつ焼くにしても、一体をお骨にするのに必要な時間は大体二時間~三時間なので、全てがお骨になるまでには六~九時間と言う時間が必要になる訳であり、斎場はフル稼働状態だろう。


「臨むのなら、俺の炎で送ってやっても構わんぞ?」

「……いや、其れは止めとけ八神。八尺瓊本来の紅い炎なら未だしも、オロチが混ざった紫炎で焼かれとなったら仏さんも浮かばれねぇって。」

「ならば、矢張り貴様をあの世に送るしかないようだな京!」

「いや、何でそうなるんだよテメェは!?」


ロレントから運び出されて行く棺を見ながら、庵が何やら不穏な事を言って、其れに京が突っ込んだら、如何言う訳か『京を殺す』と言う理論に落ち着いてしまったみたいだが、その直後になぎさが『何をしておるか此の愚兄が!』と、はやてが『京さん、毎度毎度兄が迷惑かけとります!』と突っ込みの直射砲をぶちかまして庵を吹っ飛ばし、庵は『此のままでは終わらんぞ!』と絶叫していた……死者を見送る場で何をやっているのかだ。


「……父ちゃんと母ちゃんに、最後の挨拶はしなくていいのか?」

「……もう、さっき済ませて来た。」

「そうかい。」


そんな中、シェンは一人の少女の事を気に掛けていた。
その少女は十歳ほどで、肩まで伸びたウェーブの掛かった金髪と、東方の国で見られる『袴』によく似た白い服が特徴的だが、アメジストを思わせる紫色の瞳からは光が消え、深い悲しみを抱えている事が見てとれる。


「シェン……十年前も、私となたねに良くしてくれたが、今度はその娘とは、お前若しかしてロリコンだったのか?」

「不穏な事言ってんじゃねぇなのは!誰がロリコンだ誰が!俺は単純に、目の前で両親が死んじまったコイツの事を放っておけなかっただけだ!……十年前、お前達の時には間に合わなかったら、せめて今回位はコイツの側に居てやろうと思ってよ。
 何より、コイツの親父さんとお袋さんが、ホテルの下敷きになるのを俺はコイツと一緒に見ちまったからな。」

「……ロリコン疑惑は、重い空気を吹き飛ばす為の冗談だから真に受けないでくれ。
 だが、この子は目の前で両親を亡くしてしまった訳か……此の子の思いは、痛い程に分かってしまうな。」

「なのはさん……」


其処にやって来たなのはは、シェンと軽口を交わしながらも、この少女の思いが痛い程に、怖い程に分かってしまった――なのはもまた、突如として理不尽に家族を喪った経験があるからだ。なのはの壮絶な過去を知るクローゼもまた、この少女の思いが分かってしまったのかも知れないな。


「お前、名前は?」

「……ユーリ。ユーリ・エーベルヴァイン。」

「ユーリか、良い名だな……お前は、お前の両親を殺した奴等の事が憎いか?」

「……分からない。でも、お父さんとお母さんを殺した人達の事は、許せない……絶対に。」

「ふ、其れは当然の思いだ――誰しも、己の家族を殺した相手を許す事など出来る筈もない。その家族が、己にとってはどうしようもないクズな集団であったと言うのならば話は別だがな。
 だが、そうでないのならば家族を殺した相手を許してはならないんだ絶対に……だが、子供のお前では相手を許す事は出来なくとも、その相手に鉄槌を下す事は出来ないだろう?……だから、その思いを私に預けてくれ。
 その思い、必ずやデュナンに届け、奴に己の愚行を後悔させると約束しよう!」


だからこそ、なのははユーリと名乗った少女の『許せない』と言う感情を放っておく事は出来なかった。――あまりにも突然の事で、『憎悪』には至ってない感情だが、しかし、だからこそ純粋に『家族を理不尽に奪われた怒り』が其処には有ったのだ。
故になのはは、其れを汲み上げて、『必ず、お前の両親を殺した相手にお前に代って鉄槌を下す』と約束したのだ。嘘を吐く事の出来ない魔族の約束と言うモノは絶対であるから、なのはのやるべき事は一つ増えたのだが、其れもまたなのはにとっては己を奮い立たせる要素になるので問題はない。
寧ろ背負うモノが多い程、なのはは強くなるのだ。リベリオンの仲間の思い、そして理想の実現と既に大きく沢山の思いをなのはは背負っているからね。


「シェン、ユーリはお前に任せる。両親の死のショックで閉ざされた心を、如何にか解き解してやってくれるか?」

「難易度たっけぇなオイ!……だが、俺としてもコイツの事を放っておく事は出来ねぇと思ってたからよ、出来るかどうかは分からねぇが、やるだけやってやるぜ!其れに、お前の事だ、ユーリの事も仲間に迎え入れる心算なんだろ?
 コイツが内に秘めている魔力は、俺でも分かる位には馬鹿デカいからな。」

「其れは否定せんよ。……リベリオンに招き入れるかは、彼女の意思を尊重するけれどね。」


なのははシェンにユーリの事を任せる事にしたが、ユーリの中には途轍もなく大きな魔力が存在しているので、其れを戦力としてリベリオンに引き入れる事も視野に入れての事だった。
『目の前で両親を喪った子供を、大きな魔力があるから自軍に引き入れる』と言う事だけを考えるとトンデモナイ事かもしれないが、なのはは此れまで普通に子供も保護しているので、ユーリが戦う事を望まないのであれば他の子供達と同様に、普通に保護するだけだ――無論、戦う道を選んでくれるのであれば心強い事は間違いないのだが。


「其れと、時間があったら彼女を連れて此処に行けシェン。此の場所には、私のレイジングハートに匹敵するアーティファクトが埋まっているとの噂だ――其処で、彼女の武器を見繕って来てくれ。
 リベリオンに入るにしろ入らないにしろ、両親を喪ってしまった彼女には、自分の身を守る為の力が必要だからな。」

「こんな情報を何処から……って、セスの野郎か。OK分かった。なら、デュナンをぶっ倒した後にでも行ってみるわ。」


なのははシェンに、とある村の地図を渡して、『時間があったらユーリを連れて行ってこい』と言った……レイジングハートに匹敵するアーティファクトが眠ってるとか、相当にトンデモねぇ場所なのだが、あまり一般には知られていない場所なので、実はお宝は荒らされてなかったりするのだ。


「オイオイオイ、何が起きてるのかと思って来てみりゃ、街が滅茶苦茶じゃねぇかよ!一体如何なってやがる!?」

「ホテルも教会も時計塔も粉々になっちゃってますよ、先輩~~~!」


と、其処に現れたのは無精ヒゲと短めのボサボサ頭が特徴的な男性と、眼鏡とピンクの髪が特徴的な、何処かフワフワした雰囲気の女性だ。
男性の方は手にペンとメモ帳を、女性は一眼のカメラを持っているのを見るに、報道関係の記者と言った感じに見えるが、だとしたら何故ロレントに居るのだろうか?ロレントが王国軍から攻撃を受けたと言う事は、少なくとも今回の一件に関わった者達以外は誰も知らない筈だが……?


「ナイアル!其れにドロシーも!!」

「お二人とも、如何されたんですか?」

「おぉ、エステルにヨシュアじゃねぇか!
 如何もこうも、ボースでメイベル市長を取材しててな、近くまで来たからお前さん達の顔でも見てこうかと思ってたら、ハーケン門からロレントに向かって移動要塞が出てくのが見えてよ。
 兵士に見つかったらメンドクセェから、迂回してロレントまで来てみりゃこの有り様だ……まさかと思うが、王国軍がやったのか、この惨状は?」


ナイアルと呼ばれた男性は、矢張り記者だったらしく、ドロシーと呼ばれた女性と共にボース市の市長を取材して帰る前にロレントに寄ろうとした際に、ロレントに向かう王国軍を見掛け、見つからないように迂回してロレントにやって来たのだと言う。
そして、到着したロレントでは自分達と入れ替わるように、犠牲者を収めた棺が運び出され、中に入ってみればホテルと教会と時計塔が崩壊していたと言うのだ……一体何があったのかを察するには充分だったようだ。


「其の通りだ。
 此度の事は、王国軍がやった事だ……私とクローゼを殺す為だけにな。」

「私となのはさんだけを狙えば良いのに、無関係なロレントの人々を巻き添えにするとは……民を守る為の王国軍が、民の命を奪う等、悪夢であるとしか言い様がありません。」


ナイアルの問いに答えたのはエステルとヨシュアではなく、なのはとクローゼだった――口調は静かだが、其れが逆に恐ろしいと感じさせるほどには、二人の身体からは『怒気』と『覇気』が漏れ出していた。
感情をコントロール出来るとは言っても、コントロールし切れない場合と言うのもあると言う事なのだろう。


「ん?(。´・ω・)ん?……あ~~~~!!センパーイ、此の人グランセル城からクローディア皇女殿下を連れ出した人ですよ!!」

「あんだとぉ!?って事は若しかして……クローゼって呼ばれた其方の女性は、クローディア皇女殿下だったりするのか!?」


此処でドロシーがなのはの正体に気付き、其処からナイアルがクローゼの正体に辿り着いた……実は、以前にリベール通信に掲載された『クローゼを城から連れ去るなのは』の写真を激写したのが、他ならぬドロシーであり、記事を書いたのがナイアルだったのだ。


「今更隠す事でもないから、其の答えはイエスだと言っておくが……エステル、ヨシュア、彼等は?知り合いみたいだが?」

「この二人は、ナイアルとドロシー。リベール通信社の記者とカメラマンの名物コンビよ。」

「僕達も、過去に何度かお世話になってるんだ――記者独自の情報網を使って、重要な情報を得てくれたり、重要な証拠を写真に収めてくれて居たり、ナイアルさんとドロシーさんには、足を向けて眠れないよ。」

「ほう……リベール通信の記者とカメラマンか……」


エステルとヨシュアから、ナイアルとドロシーが何者であるかを聞いたなのはは、少しばかり考えると、まるで『此の上なく面白い悪戯を思いついた悪ガキ』宛らの『悪い笑み』を浮かべてナイアル達を見やる。


「ナイアルとドロシーと言ったな?
 もしも時間あるのならば暫し私に付き合わないか?付き合ってくれたら、飛び切りの特ダネを提供出来る自信があるのだが……如何だ?」

「飛び切りの特ダネと聞いちゃ、黙ってられねぇが……黙ってられねぇから付き合わせて貰う!!」

「……ナイアルって、本気でリベール通信に命懸けてるわよね。」

「ぶっちゃけ、今のリベール通信ってナイアルさんの記事と、ドロシーさんの写真で成り立ってる部分が多いからね。」


でもって、『特ダネを提供出来る』と行ってみたら、見事に食いついて来たので、なのははクローゼと共に、ナイアルとドロシーを連れて此度ロレントを襲撃した王国軍の兵士達をレイストン要塞に輸送する為の輸送機までやって来た。
今回出撃した兵士は、ハーケン門からやって来ていたので、このままレイストン要塞まで運んでしまったら、国境の警備が手薄になるのだが、其処は現場のクラリッサが、応援として寄越した特務隊の隊員を国境警備に当たらせる事で対処した。
必要最低限の人員として残ったハーケン門の兵士は、『特命により、暫くは国境警備は情報部特務隊が務める事になった』と言って、可成り強引ではあるが納得させたのだ……時には力業も大事だな。








――――――








レイストン要塞に到着した輸送機から降ろされた兵士は独房にて取り調べを受ける事になったのだが、ハーケン門の最高責任者であるモルガンは、独房ではなく、リシャールの司令官室へと送られていた。
その司令官室に居るのはレイストン要塞の最高責任者であるリシャールと副官のクラリッサ、なのはとクローゼ、リベール通信の記者であるナイアルと、カメラマンのドロシー、そしてモルガンだった。


「こうして直接会うのは初めてだね高町なのは君……改めて自己紹介をしよう。私はアラン・リシャール。レイストン要塞の全権を任されている者だ。」

「直接会うのは初めてだが……成程、カシウスがお前を評価していたのが良く分かったよ。矢張り、直接会わねば分からぬ事の方が多いと実感しているよ。」

「百聞は一見に如かずとはよく言ったモノさ――先ずは、礼を言わせてくれ。
 幽閉されていたクローディア殿下を開放してくれた事、誠に感謝する。私達も機を伺っていたのだが、中々機会が訪れなくてね……よもや、あの様な方法で殿下を連れ出すとは思って居なかったが。」

「細かい事を彼是考えるのは得意ではないのでな……私なりのやり方でやらせて貰っただけだ。何よりも、デュナンがクローゼの殺害を計画していると知っては、一刻も早くクローゼを城から連れ出さねばならないと思ったからな。
 恩人の命を、ムザムザ散らせる事は出来んよ。」


先ずはなのはとリシャールが改めて自己紹介をして、握手を交わした。
通信機越しでは言葉を交わした事はあるが、矢張り実際に直接会ってこそ分かる事もある訳で、直接会った事でなのはもリシャールもお互いに『信頼に足りる相手だ』と思えたようだ。


「さて……其れでは、始めるとするか。」


リシャールとの挨拶を済ませたなのはは、拘束されているモルガンにレイジングハートの切っ先を向けてそう宣言する……その姿は、紛れもない『魔王』だ。一般人がこのなのはを見たら、其れだけで失神してしまう位に、今のなのはが纏ってるオーラは凄まじいのだ。
其れを間近で喰らっても意識を保っているモルガンは、腐っても将軍と言った所だろう。


「改めて問うがモルガンよ、お前達の目的は私とクローゼだったのだろう?ならば、私とクローゼを殺す為の暗殺者を放てば事足りる筈なのに、何故移動要塞まで駆り出してロレントに無差別攻撃を仕掛けた?
 戦いとは無縁の市民を巻き込む事に抵抗はなかったのか?」

「全ては陛下の為!そしてこの国の未来の為よ!
 貴様等はリベールの未来の不安要素となる存在……そうであるのならば確実に排除せねばなるまい!その為には、多少の国民の犠牲は致し方あるまい――犠牲になった者達は、リベールの未来に貢献出来たと、寧ろ誇るべきであろう!」

「貴様……」


なのはの問いに対してのモルガンの答えは、唾棄すべきモノだった。
確かに国の安定の為には、多少の犠牲が必要になるのかも知れないが、だからと言って戦いとは無関係な市民を軍が虐殺して良い理由にはならない――今回モルガンが選択したのは『十を救う為に一を犠牲にする』、最悪の二択にもならない事だったのだからね。

そして、そんな答えを口にしたモルガンは、横っ面をレイジングハートで殴りつけられて指令室の壁にブッ飛ばされて、頭が壁にゴールイン!横っ面でなく、顎を打ち抜いていたら、天井にぶら下がっていただろうな……魔法なしで、大の男をブッ飛ばすとか、なのはの腕力は侮れない。
まぁ、魔族は子供であっても、人間の成人男性並みの力があるので、大人になれば女性であっても相当な力がある訳だがな……


「嘗ては、英雄と言われた将軍が此処まで堕落してしまうとは嘆かわしい事この上ないが……人は変われば変わってしまうと言う事か。もしも、カシウスさんが軍に残っていたら、こんな事にはならなかったのだろうか?」

「さて、其れは分からんが……少なくとも今のモルガンには、軍人の誇りと言うモノは微塵も存在しない――只只管に、デュナンに言われるがまま、何の疑問もなく任務を遂行する、デュナンにとって都合の良い駒に成り果てているのは間違いない。
 兵士の中にはモルガンの命令だから、不本意ながらも命令に従った者も居るかもしれないが、コイツは己の意思でロレントを攻撃して、十四名もの尊い命を奪ったのだからもはや極刑は免れんだろう――リシャール、この救いようのない愚者に判決を下してやってくれ。」

「なのは君……そうだね、モルガン将軍への沙汰は、私が直々に下すとしよう!
 モルガン将軍、ロレントの市民を十四人も殺害した罪は決して軽くなく、そして軍人として決してしてはならない事を貴方はしてしまった……故に、その罪は死罰を持って償う以外に方法はない!!」


モルガンをブッ飛ばしたなのはは、最終的な判断をリシャールに委ねたが、そのリシャールが下した判決は『死刑』だった……ロレントの市民を十四人も殺した張本人なのだから、この判断は当然と言えるだろう。
殺人罪は、三人以上殺して居たら死刑が確定と言われている訳だから、十四人も殺したら、其れは死刑以外の判決はなかろう――死刑が存在せず、量刑のみの国だったら『懲役十四万年と終身刑三回』とか言う訳分からん判決が下されそうだけどね。


取り敢えずデュナンには死刑が宣告されたが、兵士達には『命令には逆らう事が出来なかった』と言う事が考慮され、その多くが二年以下の自宅謹慎の処分で済んだのだった。此れは、モルガン率いるハーケン門が縦割りだったからこその事だろう。
縦割りの社会では、上の言う事は絶対で、下の人間は其れに意見する事すら許されないからね。


「さて、ネタとしては如何かなナイアル?」

「コイツは特ダネなんてもんじゃねぇ!早速デスクに戻って記事にするぜ……こりゃ、間違いなくリベールにとっての起爆剤になるんじゃねぇか?……アリシア女王が急逝してから、リベールは暗黒時代にあったが、其れも終わりが見えて来たかも知れねぇ!」


此れまでの事をメモ帳に書き写したナイアルは、写真を撮っていたドロシーと共にレイストン要塞を後にして、グランセルのリベール通信社に戻って行った……王国軍がロレントを襲撃してロレント側に多数の死者が出たとなれば、其れは国民の反感を煽り、やがてその思いは軍を統括する立場である現国王のデュナンに向かう事になるからね。そうなれば、自然と革命の炎は上がるだろう。

だが、其れとは別に、死刑を宣告されたモルガンは、レイストン要塞の演習場に連れ出され、即時刑が執行されようとしていた。


「最後に何か言い残す事はあるかモルガンよ?」

「……貴様等では、陛下に勝つ事は出来ん。陛下は、其れだけの力を持っておられるのだからな――!!」

「本気でそう思っているのだとしたら、貴様の目は濁っているどころの話ではないな……私とデュナン、本当に強かったのは何方か、精々あの世で見届けるが良い。」


その状況にあっても、デュナンの勝利を信じているモルガンに対し、なのははリシャールから刀を借りると、見様見真似の居合いを放ち……そして納刀すると同時にモルガンの首は胴を離れて地面に転がり、残された胴体部分は切断箇所から噴水の如く血が噴き出している。
そして、なのはは其の血に濡れる事を厭わずにモルガンの首を手に取り――


「これが私の、私達からの宣戦布告だデュナン……精々、戦いの準備を怠らぬ事だな!」


其れを掲げて、デュナンへの宣戦布告を口にする。
モルガンの生首を手にし、全身を血で濡らしたなのはの姿は、背徳の絵師が血と腐肉で描き切った、ある種の狂気的な美しさを秘めていた――此の場にドロシーが居たら、間違いなく激写していただろう。
尤も、余りにも過激なのでリベール通信の写真には使えないだろうが。




そして、其れから数時間後、グランセル城のデュナンの元には、『高町なのは』と『クローディア・フォン・アウスレーゼ』の連名でモルガンの首が届けられたのだった。
『三日後に、グランセルに攻撃を行う。精々、戦力を整えておくんだな』との、なのは直筆のメッセージカードと共に。


「ぐぬぬ……全ての兵をグランセルに集めよ!そして、アレも何時でも使えるようにしておけ!……余は、こんな所で終わりはせぬ。リベールだけでなく世界の王となるべきが余なのだ。
 その邪魔をすると言うのならば、姪っ子と言えど容赦はせん……今度こそ、確実にその命を貰うぞクローディア!」


其れを見たデュナンもまた、合戦の準備をしているだけでなく、何やら切り札があるみたいだが……果たして何があるのか?



そして、ロレントでの一件は、その日の内にリベール通信が号外を発行した事で、リベールの国民の多くが王国軍がロレントを攻撃した事実を知り、其れがデュナンの指示だったと言う事も明らかなって、一気に『反デュナン』の気運が高まったのだった。









 To Be Continued 







補足説明