・リベール王国:ロレント市郊外・ブライト家


ブライト家のガーデンテラスでは、ブライト家の大黒柱であるカシウスと、草薙流の現正統後継者である京が向かい合う形でガーデンテーブルを挟んで座っている……ガーデンテーブルの上にはカシウスの妻でエステルの母にして、ブライト家のヒエラルキーのトップに君臨するレナお手製のフレンチトーストと、アインスの淹れたキャラメルカプチーノが置かれている。


「それで、朝早くから何の用かな京?」

「……このところ血が騒いで……俺の意思とは無関係に炎が滾るんです。
 前にオロチと戦った時も、似た様な事が有ったんですけど、今回は其の時の比じゃないモノを感じる……カシウスさんも、何か感じてるんじゃないんですか?……って言うか、俺が感じてるんだから確実に何か感じてますよね?」

「……そうか、お前さんも感じ取ったか。或は、草薙の血がお前さんに教えたのか。
 何れにしても、お前さんが感じた其れは決して気のせいではないと言う事だけは間違いないぞ京……そう遠くない未来、確実にリベールを大きく動かす何かが起こる事は確定していると言っても良いだろう。ダンテも、何かを感じ取っているみたいだったしな。」


京は自分が感じ取った予感をカシウスに伝えると、カシウスもまた同じモノを感じ取っていたみたいだ……そして、ルーアンに住む便利屋のダンテもまた同じようなモノを感じているらしい。


「ダンテって……ルーアンの胡散臭い便利屋のオッサンでしたっけ?……胡散臭いクセに、実力だけは確かなんですよねあのオッサン。『勝てる気がしない』んじゃなくて『倒せる気がしねぇ』ってのは初めての感覚でしたよ。」

「ん?お前さん、ダンテと知り合いだったのか?」

「偶々ですけどね……前にルーアンに行った時に、港で怪しげな遣り取りをしてる奴等を見掛けたんで成敗してやろうと思ったら、ダンテと鉢合わせて、お互いに相手の事を敵だと思って遣り合ったんですよ。
 俺とダンテが遣り合った事で、その余波で怪しげな事してた奴等は纏めて消し炭になりましたけどね。」

「お前さんもダンテも何やってんだい……」


そして、京とダンテもまた知り合いだったみたいだ……遊星の時もそうだが、京は何やら面倒事を通じて初対面の誰かと知り合いになるパターンと言うモノに恵まれているらしい。其れを恵まれていると言って良いのかは知らないが。


「とは言え、具体的な事が分からない以上は静観するのが吉だろう……下手に藪を突いて蛇を出す必要はないからな。」

「藪を突いて大蛇が出て来ても、其れは燃やしてやりますけどね。――降りかかる火の粉は祓う、其れが俺のやり方ですから。」


取り敢えずは静観と言うのがカシウスの意見だったが、京は『藪を突いて蛇が出てきたら燃やすだけだ』との考えを持っているらしい――とは言っても、詳しい事が分かるまで京も動く心算はないのだが。


「か、カシウスさん、京さん……た、助けて!」

「ヨシュア?」

「お前、一体何があったんだ?ボロボロじゃねぇか!!」


と、此処でヨシュアが乱入!
京の言うように、可成りボロボロなのだが……


「昨日の夜からレーヴェが家に来てて、それで昨日は家に泊まったんだけど、レーヴェが居る事に気合を入れた姉さんが朝ごはんを作って、其れをレーヴェが食べて暴走しちゃったんだよ!」

「朝飯食って暴走って……ヨシュア、お前の姉ちゃん若しかして……!」

「姉さんは、料理だけはダメなんだ!
 不味いとかそう言うレベルじゃなくて、口にしたら一瞬で昇天レベルなんだよ姉さんの料理は……レーヴェだから昇天はしなかったけど、その代わりに理性を失って暴走してるんだ!
 だから何とかして京さん!京さん、暴走してる人を相手にするの得意でしょう!?」

「な、何とかしてって言われても冗談じゃねぇよ!暴走すんのは八神だけで充分だっての!暴走レオンまで面倒見切れねぇって!」


其れには深い事情があったらしい。
この後、京とヨシュアの間ですったもんだの押し問答が躱されたのだが、其れを行っている間にカシウスが、暴走しているレーヴェの延髄に一発良いのを叩き込んで正気を取り戻させていた。
『調子の悪いモノは大抵叩けば直るんだ』と言っていたが、それで人間を直せるのは世界広しと言えどカシウスだけだろう……この親父、正に最強であるな。











黒き星と白き翼 Chapter12
『神魔が動く、その時は何時か?』










・時の庭園


プレシアが作り出した、現実世界とは隔離された空間である『時の庭園』には、リベリオンの全メンバーが集結していた――と言うのも、協力関係を締結した後、プレシアから『もし良かったら、此処を新たな拠点にしてみない?』と言われたからだ。

其れを聞いたなのはも、今の拠点よりも此方の方がより居場所が割れる事がないので、プレシアの提案に乗ったと言う訳だ……其れだけならば、拠点を移しただけなのだが、時の庭園内部には、新たに此れまでのリベリオンの拠点の内部を其のまま移し替えた地上二階、地下五階の施設が出来上がっていたのだ。
時の庭園のテスタロッサ一家の家同様に、此れもまたプレシアが魔力で作った建物なのだが、その建物の内部にリベリオンの拠点内部を其のまま移し替えてしまうとは、流石は五百年を生きて来た稀代の魔女と言った所だろう。


「まさか、空間を丸ごと転移させる事が出来るとは……保有魔力は私の方が大きいが、魔法の運用技術に関しては彼女の方が遥かに上か。……五百年も生きている彼女に、齢十九の小娘が知識と技術では適う筈もないな。
 だがしかし、彼女の技術は確かに凄い事は認めるが……新たなリベリオンの拠点となる建物の外観に関しては大いに突っ込みを入れたいのは私だけか?」

「其れは私も完全に同意ですなのはさん。」

「鬼の子供達の意見を纏め、そんでもってその代表として俺も同意見だぜ。」

「そうかなぁ?私はカッコいいと思うけど。」

「アルーシェ、その感覚ちょっとおかしいよ!?」


だが、その建物の外観はレトロな雰囲気たっぷりのレンガ造りのビルで、一階にある入り口には『Rebellion』のネオンサインが輝いていたのだから突っ込むなと言うのが無理と言うモノだろう。
此れを『カッコいいと思う』と言ったアルーシェに、璃音が更なる突っ込みを入れたのも致し方あるまい……プレシアの魔女としての実力は確かなモノであるが、センスに関しては若干怪しい所があるのかも知れない。プレシア自身が纏っている衣装も、胸元が大きく開いてるトップスに、大胆なスリットが入ったロングスカートと言う可成りぶっ飛んだモノだからね。

その後、なのは達は新しい拠点に戻り、なのははクローゼと共に最深部の主の間に。


「まぁ、次元の狭間に存在している此の場所ならば、前の拠点以上に誰かに見つかる可能性は低いがな。
 其れに、只拠点内部を転移させるだけでなく、訓練場も頑丈な結界で強化してくれたからな……此れで、私も本気でスパーリングを行う事が出来る。前の訓練場では、本気でバスターをぶちかましたら訓練場が壊れて私もスパーリング相手も生き埋めになってしまう可能性があったからな。」

「……なのはさんが本気で直射魔力砲を撃ったらドレだけの破壊力があるのでしょう?」

「取り敢えず、グランセル城くらいならば一撃で瓦礫と化す事が出来るだろうな。
 そして、切り札の集束砲ならば……グランセル城どころか、王都其の物を灰燼に帰す事が出来るかも知れん。限界まで魔力を集めれば、世界其の物を破壊する事すら出来るかも知れん。」

「凄まじいですね其れは……して、その最強の集束砲の名前は?」

「スターライトブレイカーだ。」

「……星を砕かないで下さい。」


訓練場は、プレシアの結界によって保護され、なのはが本気で戦っても壊れないレベルにはなったらしい……と言うか、本気の直射砲でグランセル城を瓦礫と化す事が出来て、切り札の集束砲ならば王都其の物を灰燼に帰す事が出来るとか、なのはの必殺技の破壊力が可成りハンパない。
まぁ、必殺技と言うのは読んで字の如く『必ず殺す技』なので、其れ位の破壊力があっても……良くないな。明らかに過剰威力だろう。


「復讐すべき相手には、其れ位の一撃を喰らわせてやらねばならないと思って技を磨き続けた結果だよクローゼ。
 それはさておき、プレシアとその娘、そして使い魔も仲間にする事が出来た。リベールでお前に力を貸してくれるであろう者達の事を考えると戦力は充分に整ったと言える訳だが……問題は、その者達と如何やってコンタクトを取り、そして協力を取り付けるかと言う事だ。」


なのはの必殺技のトンデモなさは兎も角として、テスタロッサ一家+リニスの協力を取り付け、更にリベールにはクローゼの味方になってくれる者達が其れなりに居るので戦力的には充分なのだが、クローゼの味方になってくれる者達とコンタクトを取る手段が今のなのはには無かった。
セスを通じて手紙を出すと言う方法もあるのだが、見ず知らずの相手からの手紙なんてのは怪しい事この上ないだけでなく、その内容が要約して『デュナンをぶっ倒すから力を貸せ』と言うモノであれば、普通ならば読んだ時点でゴミ箱行きは間違い無いのだから。


「でしたら、ロレントに行きましょうなのはさん。」

「ロレントに?何故だクローゼ?」

「前にも話しましたが、ロレントにはカシウスさんが居ます。
 カシウスさんならば、此方の事情を説明すればきっと味方になってくれる筈です……そして、カシウスさんは元王国軍の軍人ですので、今でも軍内部に顔が聞くと思うんです。
 であるのならば、情報部のリシャール大佐ともコンタクトを取り易いと思うんです。」


此処で、クローゼがロレント行きを提案して来た。
面識のあるカシウスとコンタクトを取って、其処から王国軍情報部のリシャールに話しを伝え、更にはカシウスの娘にしてA級遊撃士のエステル達――更にはエステルの姉であるアインスの彼氏である京をも戦力に加える心算なのだろう。
因みに京を仲間にした場合、もれなく八神家も付いて来るのでお得です。
京と庵は壊滅的に仲が悪いが、しかし共通の敵がいる場合には共闘する事は出来るので、実は戦力としては可成り期待出来るのだ――京も庵も、現リベール国王のデュナンに対しては不満しかもっていないしね。
京は『アイツは国王の器じゃねぇ』、庵は『権力を盾に、逆らう事の出来ない国民に無自覚の暴力を振るう下衆』と思っているのだ……圧政とまでは行かないが、デュナンの政策は、一部の富裕層を優遇し、其れ以外の者には可成り厳しい税を課すと言う矛盾しているモノであり、庵の『無自覚の暴力』と言うのはあながち間違いではないのである。庵は一見すると、只の危険人物にしか見えないが、其の内には確りと己の正義ってモノを持っているのだ。


「父さんが評価していたカシウス・ブライトか……確かに彼ならば、事情を説明すれば協力してくれるかもしれんな?
 尤も、私が事情を説明せずとも何故かあの村で起きた事の詳細を知っているような気がしてならないのだが、お前はその辺をどう思うクローゼ?何だか、独自の情報網とか持ってる感じがする。私の気のせいかもしれないが。
 私が『不破士郎の娘だ』と言った瞬間に、全てを察してしまうのではないかと思うのだが……?」

「なのはさん……若干否定出来ません其れ。」

「お前もそう思うか。
 だが、察してくれると言うのならば有難い事ではあるか……察してくれるなら其れで良し、そうでなければ此れまで同様に私の過去と目的を話せば良いだけの事だからな。
 何れにせよ、理不尽と不条理、種の違いによる差別が蔓延する世界なんてモノはもう沢山だからな。あんな思いをするのは、私となたねだけで充分だよ。」


取り敢えず、カシウスの所に向かうのは確定として、改めて未来への決意を固めたなのはの拳が硬く握られ、余りにも強く握りしめた事で拳から血が溢れたのは致し方ない事だろう――クローゼによって『全ての種に復讐する』と言う思いは中和されたが、だからと言ってなのはの中にあった復讐心が消えた訳ではなく、復讐すべき相手には必ず裁きの鉄槌を下すと考えている。
同時に、己と同じ思いをする人を無くしたいと言う思いもあり、其れが『差別や偏見がなく、全ての種が平和に暮らせる世界の実現』と言う目標に繋がって行ったのだ。


「其れよりもクローゼ、情報部と元親衛隊の隊員を合わせると、王国軍の何割程になる?」

「え、そうですね……リシャール大佐が組織した情報部は少数精鋭の部隊ですし、親衛隊も選りすぐりの精鋭のみで構成されていたのでそれ程人数は多くはありませんでした。
 情報部と元親衛隊を合わせても、王国軍全体の四分の一程度ではないかと思います。」

「四分の一か……リベリオンの戦力と、お前に力を貸してくれそうな者達を入れても数は王国軍の方が上だが、数の差は質で上回る事が出来るから然程問題ではないか?私も、纏めて倒す方が得意だしな。
 参考までに、情報部を纏め上げているリシャールの強さは、大体ドレ位だ?」

「リシャール大佐の強さですか?
 リシャール大佐は剣の使い手なのですが、腕前はなのはさんのお兄様よりも上かと……恐らく、二刀流相手に一刀流で圧倒出来るだけの力があります。『リシャール大佐の居合いは常人の目には映らない。剣を持つ手が一瞬ぶれたかと思ったら、次の瞬間には藁の束が真っ二つになっていた』と言う逸話がある位です。
 其れから、元親衛隊隊長のユリアさんも、リシャール大佐には敵いませんが剣士としては超一流ですし、親衛隊の隊長にのみ伝えられてきた奥義も会得されていますから、なのはさんの眼鏡には適うかと。」

「兄さん以上の剣士と、其れには敵わないが親衛隊長秘伝の奥義を会得している元親衛隊長か……申し分ないな。
 其れに加えて、カシウス・ブライトとその娘達、遊撃士に草薙の末裔……数の差を覆すには充分だ。」


なのはとクローゼは更に話を詰めて、デュナンと自分達の戦力差と言うモノを考えて行く。
数の面では王国軍の四分の三を有するデュナンの方に分があるが、質の面で言えばなのは達の方に分がある……尤も、其れはカシウスを始めとするリベールの戦力全てがなのは達に味方をしてくれた場合の話ではあるが。
だが、なのはには彼等が味方になってくれると言う確信があった。
己の過去は兎も角、自分の理想とする未来の形には、カシウスは必ず賛同してくれると、そう信じているからだ――カシウスと面識がある訳ではないが、尊敬していた父が評価していた人物ならば、自分の理想を理解してくれる、その理想を実現する為ならば力を貸してくれると。


「早速ロレントに赴いて、カシウスと会う事にしようか?此方の準備が整ったのならば、事は早い方が良いからな。」

「あの、私からロレントに行きましょうと提案しておいて言うのもアレですが、先に叔父様との決着を付けても良いのでしょうか?なのはさんのお母様を追放した神族と、お母様を殺した魔族……其れにライトロードの事は……?」

「勿論そっちもカタを付けるが……クローゼよ、お前だったら自分に恨みを持ってる者が居た場合、何を一番恐れる?お前には、其れなりの戦力があると仮定した場合の話、其れこそ個人の攻撃ならば如何にでも出来る場合には、だ。」

「其れは……私に恨みを持つ相手が、自分が保有する戦力では対抗出来ないだけの力を持つ事、でしょうか?」

「正解だ。もっと正確に言うのであれば、戦力と後ろ盾だ。
 戦力で言うのならば、母さんを追放した神族と、母さんを殺した魔族に復讐するには充分なモノがあるが、今の私には後ろ盾がない……私設組織のリーダー等と言う肩書は、ハッキリ言って何の役にも立たん。
 だが、デュナンを打ち倒してリベールをお前の手に取り戻したとしたらどうだ?少なくとも、デュナンの政治に不満を持っていた国民からの支持は得られる筈だ。
 そして、そうなればリベール通信も私の事を記事にしないと言う手はないから、私の名は広く知れ渡る事になるだろう――そして、其れは結果として私に『リベール王国』と言う後ろ盾を与える事にもなる。
 デュナンを倒した後は、お前がリベールの正統な王として即位する事になる訳だが……だからと言って、お前との関係が終わる訳ではないだろう?『新たな女王が懇意にしている』と言うだけも私にとっては強烈な後ろ盾になる。
 そして、私のバックにはリベール王国があると言う事は、ライトロード以外の連中にとっては脅威となる――母さんを追放した奴等も、母さんを殺した奴も、国家レベルの戦力を持ってる訳ではないからね。
 だから、奴等は私のリベールにおける立場等は考えずに、『高町なのはは、やろうと思えばリベール王国軍を動かす事が出来る』と短絡する訳さ……そして、其の時に感じる恐怖は並大抵のモノではないだろうさ――己に恨みを持っている者が、自分を殺せるだけの戦力と後ろ盾を得ているのだからね。
 母さんを追放した連中と、母さんを殺した奴を葬るのは簡単だ……だが、簡単には殺さん。奴等には、自分が何時殺されるかも分からない恐怖を存分に味わわせた上で葬ってやる。其れ位しなければ私の気は治まらん。

「なのはさん、目の色が反転してますよ?」

「……すまない、少しばかり魔族の血が騒いでしまったようだ。
 つまり、そう言う訳で先ずはリベールの方を先に終わらせてしまった方がいいんだ――そして、ライトロードだが十年間探しても奴等の拠点を見付ける事は出来なかっただけでなく、十年前に私達が暮らしていた村とハーメル村を襲撃したのを最後に、活動がほぼ停止しているんだ。
 凶悪な魔獣や悪魔退治はしている様なのだが、十年前までのような大規模な活動はしていない――ハーメル村を襲撃した部隊が、稼津斗によって全滅した事で、ライトロード全体の部隊の立て直しが必要になったのかも知れないがな。
 何れにしても、奴らの動向はセスでも掴む事が出来ていないからな……動向を掴む事が出来ないのならば、向こうから出てくるようにしてやるまでだ。
 先程も言ったが、私達がデュナンを倒せば、私の名は一時的に世界に響き渡る事になる――そして、其れはライトロードの連中の耳にも入るだろう?――『魔族が居るから』と言うだけで、私達が暮らしていた村を襲ったライトロードは、さて如何するかな?」

「リベールに攻め込んでくる……!!」

「そう言う事だ。
 お前の愛する国を餌にするのは心苦しいが、此れがライトロードを誘き出すには最も効果的なのでな……だから、約束する。ライトロードとの戦いでは、誰一人死なせないと――私を、信じてくれるかクローゼ?」

「貴女を信じていなければ、私は今此処には居ませんよなのはさん――ですが、そう言う事でしたら、叔父様を倒したら私ではなくなのはさんが新たなリベールの王となると言う選択肢もあるのではないでしょうか?
 寧ろ、其方の方がインパクトがあると思います。」

「私がリベールの新たな王だと?……だが、正統な王はお前だろうクローゼ?」

「叔父様を打ち倒すと言う事は、アウスレーゼによる国家統治の終わりを告げるモノにもなりますから、なのはさんが新たなリベールの王になると言うのもアリではないでしょうか?
 勿論、其の時は私もなのはさんの補佐としての立場に収まる心算ですが。」


更に話は進み、最終的にはクローゼがなのはに『新たなリベールの王になっては?』とまで言って来た……確かにクローゼの言うように、なのはが新たなリベール王になれば、此れまでのアウスレーゼによる国家統治の黒歴史であるデュナンを倒した上で、新たなリベールの始まりと言うモノをアピール出来るし、ライトロードに対しても強烈なアピールとなるだろう。
其れは、リベールがライトロードの襲撃を受ける可能性を高める事でもあったのだが、クローゼはなのはが言った『誰一人死なせない』と言う言葉を信じているし、最悪の場合は、己の内に眠っている精霊を完全開放すればライトロードを一網打尽に出来ると言う確信があったからこそ、なのはを新たな王にと言う選択肢があったのだろう。


「私がリベールの新たな王で、お前がその補佐か……其れもアリかもな。」

「そして親衛隊は再編成して、稼津斗さんとクリザリットさんとサイファーさんと、鬼の子供達とレオナさんとシェンさんをぶち込みましょう♪」

「う~ん、大分カオスだな其れは。」


『捕らぬ狸の皮算用』と言うなかれ……なのはもクローゼも、デュナンとの戦いには最終的に勝つ事が出来ると言う確信があるからこそ、こんな事を言いあう事が出来るのだ。

そして、その後主の間にクリザリッドが現れ、『嘗て自分が所属していた組織の一部の機能がまだ健在で、草薙京のクローンを三体完成させている』と言う事を聞いて、早速その場に向かって、完成していた草薙京のクローン三体に『自分に従うように』と最終プログラミングをした上でロールアウトを完了し、そして己の配下とした。
名前に関しては、クローン一号を『草薙京-1』、クローン二号を『草薙京-2』、クローン三号を『KUSANAGI』と命名したのだが、KUSANAGIは京-1と京-2よりも完成度は高かったのだが、人格面で大分別人になっているみたいだった。


「ビビってんのか?あぁ!!」

「……クローゼ、アイツは本物の草薙京と比べたら……」

「別人28号です。」


そしてマジで別人だった。
何れもオリジナルの京と比べたら実力的は劣るが、其れでも八岐大蛇を葬った草薙の力を持つ者が仲間として増えたと言うのは心強い事だろう――星の意思である『オロチ』にすら対抗出来る力が、増えた訳だからね。


「時の庭園に戻り、そしてロレントに向かうぞクローゼ……デュナンを倒して、リベールをあるべき姿に戻す!!」

「はい……行きましょうなのはさん。」


三体の京のクローンを回収したなのはは、時の庭園に戻ると、プレシアに『先ずは自分とクローゼをロレントに転移させてほしい』と頼み、其れを聞いたプレシアも快諾したが、ロレントに直接転移すると目立つと言う事で、ロレント郊外のミストヴァルトに転移する事に。
そして、転移する際になのはとクローゼだけでなく、稼津斗と鬼の子、シェンとクリザリッドにサイファー、璃音も一緒に転移させたのはプレシアも考えての事だろう。
璃音に関しては、なのはから故郷がロレントだと言う事を聞いていたので、故郷に戻してやろうと言う気持ちが働いたのかも知れないけどな。








――――――








そんな訳で、ミストヴァルトに転移したなのは達だったのだが、ミストヴァルトに住んでいる魔獣如きはハッキリ言って準備運動にならないレベルで余裕のよっちゃんイカだった。
なのはが出張るまでもなく、鬼の子供達で事足りるレベルだったからね……まぁ、鬼の子供達も並の武術家なんぞは凌駕する位に強いんだけどね?


「真・昇龍拳!」

「行くわよ……昇龍裂破!」

「喰らえ……神龍拳!」

「これで決めます……疾風迅雷脚!」

「真空……波動拳!!」


一夏達、鬼の子供達はミストヴァルトの魔獣を粉砕!玉砕!!大喝采!!――直接戦闘が得意でない簪は情報解析を的確に行い、魔獣の情報を一夏達に伝えて、戦闘を有利に進めていたのだ。
そして其れだけではなく、円夏はナイフで魔獣を葬り、夏姫はガンブレードで魔獣を屠ってセピスへと変えて行く――加えて、稼津斗とクリザリッドとサイファーも、己が持てる力の全てを解放してミストヴァルトの魔獣を鎧袖一触!
特に、稼津斗が瞬獄殺で二桁の魔獣を葬ったと言うのは圧巻の一言に尽きるだろう。


「では、行くかロレント郊外のブライト家に!」


ミストヴァルトを抜けたなのは達は、ロレント郊外のブライト家に向かって行ったのだが――


「アイツは……あの黒衣のサイドテールは、クローディア殿下を女王宮から連れ去った賊か?……もしそうであるのならば、陛下の耳に入れておかねばなるまい。」


其処をデュナンの配下に目撃されてしまっていた。
ミストヴァルトは一般人が寄り付かない場所ではあるが、其れだけに『外部からの侵入者にとっては都合の良い場所』なので警備員を増やしており、なのは達は運悪くその警備員に見つかってしまったらしい。


「無粋な事はするな……暫し寝ていろ。」

「え?」

「うおりゃぁぁ……シャァア!!」


その警備員は、なのはがアイアンクロをぶちかましてから地面に叩きつけて大ダメージを与えると、其処に一夏がトドメとなるキングコングダイビングニーを叩き込んでターンエンド……実に見事なコンビネーションであると言えるだろう。
そんでもって、KOした警備員は制服を引ん剥いた上で、亀甲縛りにして木の枝に吊るしておいた……此れだけの羞恥を曝したら、彼等が警備員として再起する事は出来ないだろうな――なのはも中々にエグイ事を考えてるみたいだな。


「ゴミが……その程度で私の前に立つな、不愉快極まりないからな。」

「……本気で、お世辞抜きで強いですねなのはさん。」

「十年間、鍛えて来た賜物だよクローゼ。」


取り敢えず、デュナンの配下と思われる連中は余裕でぶっ倒して、なのは達はカシウスの居るブライト家へと向かって行ったのだった――リベールに、変革の風が吹き荒れるのはそう遠くない事なのかも知れないな……!













 To Be Continued 







補足説明