『魔女の娘達』との接触を果たしたなのはは、『アクロスカフェ』に仲間達を呼び、そして魔女ことプレシアの元に行く心算だったのだが――


「……如何してこうなった?」

「すっかりお茶会ですね……」


アクロスカフェでは絶賛『お茶会』が開催されていた!
と言うのも、合流したメンバーの稼津斗を見たレヴィが、『おまえみたことあるぞ?おかーさんとのしゃしんにうつってた『鬼』だよな?でも、鬼っぽくないぞー』と言ったのを切っ掛けに、稼津斗が殺意の波動を開放して『鬼』の姿となり、其れを見たレヴィが感激して、そしてお茶会に……いや、マジで如何してそうなったんか分からんて。
因みにセスは、『プレシア・テスタロッサの元に向かうんなら、俺の仕事は此処までだ』と言って帰って行ったので、お茶会には参加していない。翠屋のシュークリームはキッチリとテイクアウトしていたが。


「うわ、何だよこのシュークリーム!メッチャ旨い!!」

「シュー皮のサクサク感と、クリームの甘さが絶妙ね……あぁ、蕩けそうだわ。」

「これは、正に究極のシュークリーム。」

「至高のスウィーツとは、正にこの事だね。口から全身に幸せな気分が広がっていく、そう思えてならないよ。」

「このシュークリームを食べたら、確かに二度と他のシュークリームを食べる事は出来ないかも知れません――それ程の美味しさですから。」

「う~ん、とっても美味しいね此れは!冗談抜きで、ほっぺが落ちるかと思ったよ。」


唐突に始まったお茶会だったが、翠屋のシュークリームは一夏達『鬼の子供達』にも好評だった――熾天使の桃子が考案したシュークリームは、最強無敵のスウィーツであるのは間違いないだろう。一夏達だけでなく、ヴァリアスとアシェルも顔をクリームだらけにして堪能しているし……ドラゴンすら虜にするとは本気で凄いとしか言いようがないだろう。


「うむ……確かに旨いな?お前も同じモノが作れるのかなのは?」

「作り方は母から教えて貰ったから一応は作れるが、母の味の再現率は85%と言う所だな。其れでも充分に旨いが、プロの職人が再現したモノには及ばんよ……まぁ其れでも拠点に居る子供達には好評だけれどね。」

「『なのは先生のシュークリーム』は、子供達も楽しみにしているみたいですから♪」


なのはもシュークリームを作る事は出来る様だが、マダマダ桃子の味には及ばないらしい。
其れでも、リベリオンの子供達に偶に作る事があるのは、自分の腕の向上と、子供達の喜ぶ顔を見るのが嬉しいからだろう……自分が、子供の頃に辛い経験をしているので、子供達には辛い思いをせずに笑顔で居て欲しいと思っているのかも知れない。

尚、リベリオンの食堂のメニューには現在シュークリームは存在しておらず、不定期にセットメニューのデザートとして付くに留まっている――と言うのも、元はレギュラーメニューだったのだが、余りに人気が出たために追加注文が相次ぎ、砂糖も小麦粉も卵もクリームも無くなると言う事態が発生し、食堂が一時営業停止となったのである……シュークリームだけに食材を使う事は出来ないので、シュークリームは惜しまれつつもレギュラーメニューから除外される事になったのだった。


「では、今度こそ行くとしようか?フェイト、案内を頼んで良いか?」

「うん、付いて来て。レヴィ、行くよ。」

「も?」(ハムスターほっぺ)

「……すみません、此れ残りは全部テイクアウトでお願いします。」


お茶会も一段落したので、改めてプレシアの元に行こうとしたら、レヴィがまだ食べていたので残りはテイクアウトする事に……先程あれだけ食べていたと言うのに、追加で更に『クリームコロッケバーガー』、『焼き肉ライスバーガー』、『タンドリーフライドチキン』を注文していたのだ。
本当によく食べるモノだが、テイクアウト用に包んで貰って此れで本当に準備は万端となり、なのは達はフェイトに案内されてミッドチルダを後にしたのだった。









黒き星と白き翼 Chapter11
『魔女との邂逅と新たな仲間と』










ミッドチルダを発ってから凡そ十分、なのは達は人気のない森の中に来ていた。道中、レヴィはテイクアウトした料理を食べていた。ゴミはヴィシュヌが燃やして灰にした――紙は自然に分解されるが、灰にした方が分解が早いのである。
この森は結構深く、道中では魔獣や悪魔ともエンカウントしたがこの面子の敵ではなく、瞬く間に魔獣はセピスに、悪魔はオーブへと姿を変えるだけだった……そして、縮小サイズであってもヴァリアスとアシェルの力は健在で、ヴァリアスの黒き炎とアシェルの滅びの威光は、襲って来た敵を容赦なく撃滅したのである。


「……強いんだね、なのは達は。」

「己の目的を果たす為に、十年間鍛えて来たからな――魔王や上級神族が相手でも負けないだけの力があると自負しているよ。
 其れよりもフェイト、何故こんな森の奥にやって来たんだ?」

「転移する所を誰にも見られたくないから。
 お母さんの居場所を知られたくないんだ……どんな輩が『魔女』の力を欲してるか分かったモノじゃないし、若しも後を付けられて『魔女の所へ連れて行け』なんて言われたら、レヴィがその相手に何をするか分からないから。」

「なにをするだって?そんなのきまってるじゃないかへいと!おかーさんをりよーしよーとするヤツなんて、この僕がボッコボコのフルボッコにして、あの世にセイグッバイさせてやるだけだって!
 そう、僕は強い!」

「……頭はメッチャ弱そうだけどな。」

「一夏、其れは言っちゃダメよ。」


そして、こんな深い森にやって来たのは、転移する所を誰にも見られたくないからだった様だ。
五百年と言う時が経っているとは言え、稀代の『魔女』の名を知る者は決して少なくなく、其の力を己の欲望の為に利用しようとする輩が居るのもまた事実であり、そんな輩からプレシアを守る為に、フェイトは自分達の家まで転移する際には人気の無い場所を選んでいるのだ――魔獣や悪魔が徘徊している深い森は、転移するには打って付けの場所と言う訳だ。――同時に、そんな輩をレヴィが手加減抜きでフルボッコにしてしまう事態を避けると言う目的もあったらしい。
もしもそんな事をしてしまったら、逆に目立ってしまい、逆にプレシアの力を利用する者達に目を付けられてしまう事態になりかねないからね。


「其れじゃあ、行くよ。」


フェイトは、首から掛けていたペンダントを手に取ると、其れを大鎌へと変え、そして魔方陣を展開する。


「バルディッシュ、時の庭園に私達を転送して。」

『Yes sir.』


フェイトがそう言うと同時に魔法陣が光り、光が治まった時には周囲の景色は一変していた――鬱蒼とした森の中から、東方の文化が満載の場所になっていたのだ。


「此処は……?」

「『時の庭園』。お母さんが作り出した、現実とは隔絶された空間だよ。」

「現実から隔絶された空間を作り出すとは、流石は魔女と言った所だが……何故に東方の文化が満載なのだろうか?」

「しかも、絶妙かつ微妙に間違ってますね?池に錦鯉が居るのは良いとして、如何して一緒に金魚まで居るのでしょうか?金魚は、金魚鉢で飼うモノであって、鯉と同居はさせませんよ?」

「其れから、此の盆栽も間違っているな?
 兄さんが盆栽が趣味だから分かるのだが、盆栽とは決して大きくするモノではない。小さな鉢の中で、小さなワビサビを表現するのが盆栽だ。大きく育ててしまったら盆栽の意味はないぞ?」

「……五百年経った今でも、東方文化の間違った知識は直っていなかったかプレシア。」



だが、その東方文化は色々と間違っている部分が有り、なのは達も少しばかり頭に手を当てる事態に――特に五百年前にプレシアと交流のあった稼津斗は、五百年経った今でも、プレシアの間違った東方文化知識には少しばかり呆れているみたいだ。
『稀代の魔女は、東方文化を間違って覚えていた』なんてのは、三流のゴシップ紙が喜んで飛びつきそうなネタではあるな。ネタにした所で、都市伝説になって終わりかも知れないが。

それはさて置き、フェイトに案内されて、なのは一行はこれまた東方風の建物までやって来ていた。


「お母さんとリニスには連絡を入れてあるから、貴女達を迎える準備は出来ていると思う。」

「既に連絡をしていたのか?……その手際の良さには好感が持てるなフェイト?私としても、物事はスムーズに進むに越した事は事はないと思っているのでね……お前がプレシアに連絡を入れていたと言うのは有り難い事この上ない。礼を言うぞ。」

「……き、気にしなくていいよ。当然の事をしただけだから。」


既に連絡を入れていたと言うフェイトに、なのははニヒルな笑みを浮かべて礼を言ったのだが、其れを見たフェイトは少し顔を赤くしてなのはから顔を背けた……なのはの浮かべたニヒルな笑みは、同性であっても直視出来ない位に魅力的なモノだったみたいだ。
黒衣を纏った美女の偽悪的なニヒルな笑みってのは可成りダークな魅力があるからね……此れで、なのはが背に翼を展開していたら更にその魅力は高まっていた事だろう。



――ギュム!!



「!?……クローゼ、イキナリ何をするんだ!?」

「さて、何でしょうね?」


でもって、なのははクローゼに思い切り背中を抓られる事になった。
クローゼ的に、フェイトがなのはに赤面したのが少しばかり面白くなかったのだろう――なのはとクローゼが再会したのは最近の事だが、其れでも互いに十年間、一度も相手の事を忘れた事はなかったので、会えない期間は長くとも縁は途切れていなかったのだ……其れなのに、ついさっき知り合ったばかりのフェイトがなのはにと言うのは、クローゼからしたらちょっとした案件な訳だ。
……なのはもクローゼも気付いては居ないが、互いに相手に友情以上の感情を持っているのは間違いないだろうね。


「クローゼ、若しかしてフェイトに嫉妬したのか?」

「……そうです、と言ったら如何しますか?」

「なら、こうする。」


此処でなのはは、クローゼを抱きしめた。
そしてただ抱きしめるだけでなく、その背に四枚の翼を展開し、その翼でクローゼを包み込むと言う事までやってのけたのだ。――その光景は、一種の神々しさまで感じるモノであり、絵画のモチーフになるレベルだった。


「なのはさん?」

「私がこうしたいと思う相手はお前だけだよクローゼ。そして、お前の事は他の誰にも渡したくないと思っている……其れでは足りないか?」

「……いえ、充分です。」


クローゼもなのはに抱きしめられて、更に翼で包みこまれた事で気持ちが落ち着いたようだ……なのはもクローゼも、さっさと自分の気持ちに気付いて付き合ってしまえと言うのは下世話な事なのだろう。この二人の今後は、温かい目で見守っていくが吉だな。

そんな事がありつつも、建物の中に入り、フェイトの案内で奥まで進み……


「お母さん、フェイトです。高町なのは達を連れて来ました。」

「……入って良いわよ、フェイト。」

「僕は?」

「勿論、貴女も入ってらっしゃいなレヴィ。」

「よっしゃー!」


奥の間の扉がオープン!……扉が障子だった事には突っ込んではいけないのだろう。
其れは其れとして、扉が開いて現れたプレシアは、正に『魔女』と言った佇まいだった……畳張りの部屋故に、荘厳な椅子は無かったモノの、畳張りの部屋でも違和感はない、竹作りの椅子に坐したプレシアは、胸元が大きく開き、スカートには大胆なスリットが入った漆黒の衣装を纏い、手には金色の杖を携えていたのだからね。


「お初にお目に掛かる、プレシア・テスタロッサ殿。『稀代の魔女』と言われている貴女と、こうして出会えた事を光栄に思う。」

「其れは私もよ、高町なのはさん。『魔王』として、そして稀代の武人としても名を馳せていた、『不破士郎』と、全ての神族の中でもとりわけ慈愛に満ちていた熾天使『高町桃子』の娘と会う事が出来るとは思っても居なかったわ――そして貴方と再び会う事が出来るとも思わなかったわよ、稼津斗。」

「其れは俺もだプレシア。
 あのまま永遠に封印されたままだと思っていたのだが……よもやこうしてまた会う事が出来るとは思っていなかった。俺を封印していた祠を壊した事だけは、ライトロードに感謝すべきかも知れん。」


先ずは、互いに腹の探り合いと言った感じだが、プレシアと稼津斗は旧知の仲であるので、逆に久しぶり、五百年ぶりの再会と言う事で、自然と言葉が出て来てみたいである。
五百年が経った今でも、『鬼』と『魔女』の友情は健在であるみたいだ。


「其れはそうかも知れないわね。
 さて……其れで、私に一体何の用があるのかしらなのはさん?」

「貴女に用があるのは確かだが、五百年を生きて来た貴女から見て、今の世界は如何見えるプレシア殿?あまりにも不条理と理不尽に満ちてはいないだろうか?
 種の違いによる差別と偏見、力の弱い者や正直者、地道に努力をして来た者達が、力だけが強い者や狡猾に嘘を吐き、小手先で巧く立ち回る連中によって本当の力を発揮する事が出来ずにいる……無論全てがそうだとは言わないがね。
 中でも、戦争や強盗で親を喪った子供達の現状は目を覆いたくなるモノがある……ストリートチルドレンとして生きているのならばまだ良い方だ――治安の悪い場所になるとマフィアに犯罪の片棒を担がされたり、女児の場合は売春紛いの事をさせられて十代で妊娠などと言う事すらある……そして、最悪の場合は命を落として路地裏にゴミ同然に放置される。
 そして、私自身も種の違いによる偏見と差別で両親と姉を喪った……母は魔族と結婚したと言うただそれだけの理由で天界を追放され、そして魔界で父の魔王の座を狙う魔族が放った刺客に殺された。
 父と姉は、魔界を出てから移り住んだ村で、『魔族が居るから』と言う理由だけで村を襲ったライトロードと、父が魔族であると知った途端に父に刃を向けた村人達に殺された……こんな理不尽と不条理が蔓延る世界を、貴女は如何思うプレシア殿?……いや、プレシア・テスタロッサ!」

「貴女の言う通り、この世は不条理と理不尽に満ち溢れていると思うわ。
 力の無い者は虐げられ、力の有る者だけが良い思いをする――そして種の違いによる差別と偏見もそうよ。差別と偏見は、お互いに相手の事をよく知らない、正しく知らないからこそ起こるモノだわ。
 スパーダが魔帝を打ち倒して二千年が経った今でも、魔族と悪魔を神族と人間が正しく区別出来ていないのが、魔族が偏見を持たれている原因だと思うわ……だからこそ、ライトロードの様な歪んだ正義を掲げて、『魔族を絶対悪』とする存在が生まれてしまったのでしょう。……歪んでいるのよ、此の世界は。
 貴女が生まれる前に起きた、外界からの侵略者との戦いの時は、人も魔族も神族も一致団結して侵略者に立ち向かい、最終的には貴女の両親が力を合わせて侵略者を倒した訳だけれど、其れも戦いが終われば自然と忘れられてしまい、全ての種が共に生きる事が出来る世界は実現されなかった。世の中、儘ならないモノね。
 でもなのはさん、貴女もまた種の違いによる差別と偏見で家族を喪っている……貴女の目的は、家族を奪ったモノへの復讐なのかしら?」

「復讐も目的の一つだが……しかし、無差別に復讐する訳ではない――否、父と姉が殺された後は、母を追放した神族、母を殺した魔族、父と姉を殺した人間全てに復讐してやると思っていたが、彼女と、クローゼと出会った事でその考えは変わったよ。」


其処から、なのはとプレシアの話が始まり、プレシアが『目的は復讐か?』と聞くと、『其れも目的の一つだ』と答えながらも『クローゼと会った事で、全てに復讐する気は無くなった』言った。
其れを聞いたプレシアは、少しばかり訝し気な表情を浮かべるが――


「行き倒れかけていた私に、クローゼは声を掛けて、そして食べ物と金を渡してくれたんだ……そして、其れだけでなく『此の世界に種による優劣は存在しない』と言ってくれてな――其れで、人間全てが魔族を忌み嫌っている訳ではないと知った。
 もしもクローゼと出会わなければ、私は煉獄にその身を落とし、己の命が尽きるその時まで無差別に殺戮を行う殺人マシーンになっていただろう……だが、クローゼのおかげで、私は復讐の先に自分が何を望んでいるのかを知る事が出来た。
 私は、もう二度と私と同じ存在を生み出したくなかったんだ……種の違いなど関係なく、全ての種が共に笑いあって平和に暮らせる世界こそが、私の望んでいたモノだと言う事に気付いた。
 私から家族を奪った者達に対しての因果は応報するが、其れで終わりではない――私は、全ての種が平和に暮らせる国を作りたい。そして、恩人であるクローゼの出身地であるリベールをその始まりの場所としたいんだ。
 だが、その為には、リベールを今の無能な王から解放しなくてはならない。そして、リベールと言う一国に戦いを挑むには相応の戦力が必要になる……私の組織にも戦力はあるが、しかし一国と事を構えるには未だ足りないのもまた事実。
 だから、貴女の力を貸して欲しいんだプレシア!此の世界を変えるには、貴女の力が必要なんだ。」


此処でなのはが一気に此れまでの事を話し、『復讐は復讐として、最終的には全ての種が平和に暮らせる世界を作りたい』と言う目的を告げる――魔族は嘘を吐く事が出来ないので、なのはの思いは全て本物なのだ。……嘘を吐く事は出来ないが、戦闘中のトリックプレイなんかは出来るってんだから些か謎ではあるけどな。


「フフフ……アハハハハ!!
 全ての種が平和に暮らせる世界ね……其れは私も嘗て目指していたけれど、実現は不可能だと判断して諦めていたわ――でも、其れを本気でやろうとしているとは驚きだわ。
 言葉は悪いけれど、貴女は馬鹿よなのはさん。でも、其れは此の世界を変えるのに必要な馬鹿だわ――魔女になって五百年、退屈な日々だったけれど、五百年の時を経て貴女の様な存在に出会う事が出来るとは思わなかったわ。
 私が理想としながらも、実現は無理だと判断して諦めてしまったモノを実現しようと言うのならば、喜んでこの力を貸すわ。」


だが、なのはの真の目的を聞いたプレシアは、高らかに笑った後で、なのはに力を貸すと言ってくれた――プレシアも、全ての種が平和に暮らせる世界を目指した事があったみたいだが、『実現は不可能』と諦めた過去があったのだ。
其れから五百年もの時が経った今、その理想を本気で実現させようとしているなのはと出会い、嘗ての理想を現実にするべく己の力を貸す事を決めたのだ――稀代の魔女の協力を取り付けるだけのモノが、なのはの目的にはあった訳である。


「そして、私だけでなく娘達とリニスも貴女に力を貸すわ……魔女の力、貴女に託すわね。」

「プレシア……ありがとう。其の力、存分に発揮して貰うぞ?プレシアだけでなくお前達にもなフェイト、レヴィ、リニス。」

「任せてくれていいよなのは。私もレヴィも、貴女の話を聞いてやる気は充実してるから。」

「さべつとへんけんはよくなーい!そんでもって、それでひとがしぬなんて言うのはごんごどーだーん!そんな奴らは、この僕がいっぴきのこらずにくちくしてやる~~!
 さぁ、かかってこーい!」

「よもやこんな事になるとは思いませんでしたが、嘗てプレシアが諦めてしまった理想を実現すると言うのであれば、此の力を存分に使って下さい。」


更にプレシアだけでなく、フェイトとレヴィとリニスもなのはに力を貸す事に――レヴィが一抹の不安要素ではあるが、レヴィには弱い頭を補って有り余るパワーとスピードがあるので、多分何があっても大丈夫だろう。アホの子は、色々と無敵だからね。


「決して裏切ってくれるなよプレシア?魔族の掟に於いては、裏切り者には死の制裁が待っているからな……私は、お前を死なせたくはないからな。」

「絶対に貴女達に対する裏切りだけはしないと誓うわ――魔女は嘘を吐く事は出来るけれど、『仲間を裏切る事』出来ないの。仲間を裏切った魔女は、その代償として他者に魔女の力を継承する事が出来ず、死ぬ事が出来なくなるのよ。
 でも、裏切りをした魔女には不死が残り、不老は消える……つまり、醜く老いた姿で生き続けなければなならないと言う訳……御伽噺の魔女の多くが悪役で、老婆の姿で描かれているのは、裏切りの魔女をモチーフにしているからかも知れないわね。」

「魔女に裏切りは許されない、か。其れを聞いて逆に安心したよプレシア。裏切られないと言う事が分かっただけでも儲けモノだ――では、此れから宜しく頼むぞ?」

「えぇ、此方こそね。」


そして此処に同盟が締結され、リベリオンの戦力は大きく増強されたのだった。

同盟締結後は、時の庭園の庭でバーベキューパーティが開かれて大いに楽しんだ――良い感じに焼き上がった骨付き肉をレヴィが豪快に齧り付き、グリフィンも負けじと特大のステーキ(400g)六枚を平らげていた。特大の骨付き肉を齧り付くレヴィと、400gのステーキを六枚、つまり2400gをペロリと平らげたグリフィンは相当な健啖家と言えるだろうな。


「……青髪って健啖家なのか?」

「私と簪の食欲は普通だと思うのだけれど?」

「寧ろ、私は少し小食かも。」

「だよな……あの二人が良く食べるだけか。」


取り敢えず、グリフィンとレヴィはなんか仲良くなれそうである。







――――――







・リベール王国:ロレント市・草薙家


「態々ツァイスから来て貰って悪いな遊星?」

「気にするな京、此れも仕事だからな。」


草薙家の庭先では、京のバイクを修理している蟹の様な髪型をしている青年の姿があった――青年の名は『不動遊星』、ツァイス在住の技術者で、ラッセル博士の弟子でもあるツァイス屈指の技術者だ。
そんな彼がロレントに来ているのは、京から『バイクの調子が悪いから見てくれ』との依頼を受けたからだ。
京と遊星は互いに知り合いなので、こう言った依頼もしやすいのかもしれない――京と遊星が出会ったのは、ルーアンでの倉庫街だったのだが、其処でジェニス王立学園の女子生徒に何やらしようとしていたチンピラ一味を一緒にぶちのめした事が切っ掛けで、ダチ公関係になっているのである。


「んで、直りそう?」

「直す事は出来るが、モーターが焼き付いて、ブレーキベルトも大分減ってるから、此れは全体的にレストアした方が良いかもしれないな。」

「ならそうしてくれ。
 俺は機械の詳しい事は分からねえからよ――でも、お前に任せときゃ安心って位にはお前を信頼してんだぜ遊星……お前なら、ぶっ壊れる前の状態に戻す事位は容易いだろうからな。」

「なら、その期待には応えないとだな。」

「ま、お前に任せときゃ大丈夫だろうけどよ……時によ、お前の妹……下の方は血が繋がってねぇんだよな?確かお袋さんが連れて来たって事だったが……カシウスさんにしろ、お前の所にしろ、妹ってのは連れて来るモンなのか?カシウスさんの所は、妹だけじゃなく姉もだけど。」

「母さんもカシウスさんも、困ってる孤児を放っておく事が出来なかったんだろうな……流石に『妹連れて来たわよ!』って言うのには、俺も遊里も驚いたが。」

「そりゃ、驚くのが普通だろ?しかも、お前と遊里とは結構歳離れてるんだろ?」

「あぁ、今十歳だから、俺とは九つ、遊里とは八つ離れてるな。だが、レーシャは俺と遊里に懐いてくれているからな……血は繋がってないが、可愛い妹さ。」

「……兄弟の居ない俺には分からねぇ感情だな。」


取り敢えず、姉や妹は普通は連れて来るモノではないだろう。
特にブライト家の場合、カシウスがエステルに『お姉ちゃん連れて来たぞ』とアインスを連れて来たかと思えば、その数年後には、エステルが『妹連れて来たわ』とレンを連れて来ている訳だからね……カシウスの血は、間違いなくエステルに受け継がれていると言えるだろう。

京と話をしながらも、遊星の作業の手は止まらず、的確に京のバイクを修理していく。
ジャンクパーツからバイクを一台作り上げてしまうだけの技術を持っている遊星にとって、京が自分用にカスタマイズしているとは言え、一般に売られているバイクの修理なんぞは朝飯前なのだろう。


「良し、此れで大丈夫だ。
 モーターのコイルをより強力なモノへと変えておいたから、此れでもう早々焼き付く事はないと思う。ブレーキベルトも最新素材のモノと交換しておいたから効きが違う筈だ。」

「相変わらず見事な手際で。んで、幾ら?」

「京のバイクはマニアの間ではプレミアム価格が付いてるモデルだ、俺としても貴重なモノを見させて貰ったから、その分を差し引いて三万で良い。」

「儲けは度外視かよ……俺としては助かるけど、個人の修理業を展開してるなら、その辺はシビアになった方が良いと思うぜ?儲けが出なくなって廃業しましたなんてのは笑えないからな。
 つっても、お前の場合、その技術力があれば修理業を畳んだ所で、ツァイスの中央工房での仕事もあるから大して問題じゃないのかも知れないけどな。んで、この後も予定が入ってるのか?」

「はやてに頼まれて、八神家のキッチンの修理だな。
 何でも、コーヒーを淹れる為に湯を沸かそうとしたら、中々火が点かなかったので、庵がコンロに琴月 陰を叩き込んだらしい。」

「何してやがんだよ八神……つか、やるにしても其処は闇払いにしとけよ。琴月かましたら、そらぶっ壊れるってモンだぜ。」


京のバイクの修理が終わった後は、八神家のキッチンの修理の予定が遊星には入っているようだ――京の宿敵である庵が、ぶっ壊したようだが。因みに、八神家の末っ子のはやては、遊星が修理に来るたびにお茶やお菓子を出して労っているとても良い子である。
遊星の事を労っているのは、はやてが初めて遊星にあったその日に一目惚れをして、そして何とか距離を縮めようとしているからなのけどね。


「取り敢えず助かったぜ遊星、仕事頑張れよ。」

「あぁ、任せておけ。」


京のバイクの修理を終えた遊星は、お題を受け取ると次の仕事場へと向かい、京は一人となったのだが……



――ボッ!



突如として、右手に炎が宿る。


「(またか。
  このところ血が騒ぐ……オロチと戦った時とも違うこの感覚――そう遠くない未来に、何かが起きるって事なのかもな。でもって、俺が此れだけの事を感じてるなら、きっとカシウスさんも何かを感じ取ってる筈だ。
  近い内に、カシウスさんと話をしてみるか。)」


京は京で、此れから起きるであろう世界のうねりと言うモノを、草薙の血で感じ取っていたみたいだ――そして、京が何かを感じたのならば、京よりも遥かに高い実力を持っているカシウスが何かを感じ取るのもまた必然と言えるだろう。

だが、其れは裏を返せば、なのはが動いたと言う事はカシウスや草薙がその余波を感じるほどに大きい事だったのだろう。――世界が動く時は、それほど遠くは無いのかも知れない。











 To Be Continued 







補足説明


・此の世界で使われている主なエネルギー


基本的にはラッセル博士によって開発された『オーブメント』を使った導力エネルギーが主となっているが、不動兄妹によって開発された新エネルギー機構『モーメント』も一部では、実験的に使用されている。
『オーブメント』に関しては、魔族が住む魔界、神族が住む天界でも使われている。