ザフィーラの前に現れた新たな3体のモンスター。
其れはステータスだけならば今まで戦っていた雲魔物と大きな差はない。

それ程強い敵ではないのだ。


「うおぉぉぉ!!でぇえりゃぁぁぁぁ!!!」

しかも戦闘破壊が出来るならばザフィーラの敵ではない。
瞬く間に3体のモンスターは塵と消えてしまった。


――新たなモンスターと警戒したがこの程度か?
   本当にそれだけならば面倒ではないが――なんだ、こいつらを倒した時感じた妙な胸騒ぎは…


だが、妙な違和感と胸騒ぎが残る。
余りにも簡単に倒せすぎたのだ――雲魔物の代わりに出てきたにしては。

その理由は誰にもわからないだろう――

「この3体が破壊されたことで、僕はデッキから『封印』と名の付くモンスターを合計3体手札に加える。
 あと2枚――其れが揃った時こそ君達が終わる時だ……その時まで精々足掻くと良い――そして知るんだな、絶望と言うものを。」

ただ1人、これらのモンスターを召喚したアモンを除いては…













遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス99
『THE PHANTOM GOD』











「ウオォォォォォォオォォッォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」

「ちぃ…なんつ〜魔力だ…!暴走したってのか?…おいスバル!!」

「ギン姉を…かえせぇぇぇぇぇ!!!!!!」

一方で、クロウ達の方は如何とも言えない戦況となっていた。
ウェンディの策略によるノーヴェの奪取は、クロウのとっさの機転で防ぐ事が出来た。

だが、直後――破壊されたギンガを見てスバルが暴走してしまったのだ。
その力はすさまじく、戦闘機人を一撃のもと屠ることなど造作もない事であり、正直言って土壇場でのパワーアップは有りがたい――暴走さえなければ。

スバルはギンガの事で怒りで我を忘れ、精神が肉体を凌駕した状態に陥っている。
そんな状態で戦っては、仮に相手を退けたとしても、反動で自分が戦闘不能になってしまいかねない。

其れは結果として、味方の戦力低下に繋がる事態だ。
だからこそクロウも静止したのだが、忘我のスバルにその言葉は届かない。


「ちぃ!!アーマード・ウィング、スバルをサポートしろ!ステータスの強化なんかは俺がやってやる!!」

『(コクリ)』


最早言葉で止まらないと知ったクロウは、アーマード・ウィングにスバルのサポートを指示し、自身は補助に回る気のようだ。


「なんすかこれ…!!ちょ、とまれッス!!」

一方で、スバルの変化に驚いたのはチンクとウェンディの方だ。
明らかに限界を超えたその魔力量、そんな物を纏った一撃を叩き付けられては堪らない。

突撃して来るスバルと、その後方からやって来るアーマード・ウィングを止めようと、ライディングボードから射撃を行うが――止まらない。
戦闘破壊不可能なアーマード・ウィングは兎も角、スバルは被弾しようとも止まる気配はない。

「うおぉぉぉ…りゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

そして乾坤一擲の一撃!!
流石に振りが大きかったのか、ギリギリでウェンディとチンクは躱したが――スバルの拳が着弾した場所は大きく抉れて壊れている。
間違いなくスバルの拳が砕いたのだろうが、その砕け方が半端ではない……正に粉々、其れこそオーバーに言うなら砂粒レベルに粉砕されているのだ。


「う、嘘っすよね……こんなん喰らったら、アタシ等だって木端微塵ッスよ!?」

「アレは…振動破砕!アイツの戦闘機人としてのIS能力か…!!!」

其れは戦闘機人としてのスバルの力――ギンガの鹵獲は、皮肉にも眠っていたスバルのその力を覚醒させることになってしまったらしい。
そして、この能力はある意味で『戦闘機人殺し』とも言える能力。
スバルの拳が直撃したら、戦闘機人は基礎構造フレームが文字通り『粉々』に破壊されて御終いだろう。


「なんつ〜威力だありゃ…けどよ――
――アンだけの馬鹿威力の一撃使ったら、スバルへの反動だって半端じゃねぇはずだ…!!


だが、クロウはその恐るべき一撃が、スバルの身体にも大きな負担をかける事を即座に見抜いていた。
今は暴走状態で精神が肉体を凌駕しているから良いだろうが、落ち着いたらその負担とダメージはダイレクトに戻ってくる。


『危険』


クロウの脳裏に浮かんだのはその言葉だ。
このまま、怒りのままにスバルを戦わせたら、例えチンクとウェンディを倒したとしてもそのまま反射ダメージでスバルも共倒れと言う事になりかねない。
ベストなのはスバルを落ち着けた上で2人の戦闘機人を倒して確保することだが、其れは中々に難しそうだ。

「だぁぁぁぁ!!!」

「嘘っすよねぇ!?スペアもってきといて良かったっす…

こうしている間にも戦闘は続き、いましがたウェンディのライディングボードが吹っ飛んだ――スペアが何処かにあるようだが。

「ウェンディ、お前は先にファーストを持って離脱しろ。ここは姉が引き受ける!」

「チンク姉!?」

「私のISならば小回りが利くし、奴の間合いの外から攻撃できる――私に任せて行くんだ!」

「…了解っす!!」

目的を優先と言う事なのだろう、チンクはウェンディに離脱するように指示し、ウェンディもまた光学迷彩で隠していたスペアボードで離脱を試みる。
しかし、其れを見過ごすクロウではない。

「逃がすかよ!!来い『BFT−漆黒のホーク・ジョー』『BF−星影のノートゥング』!!」

『オォォォォ!』
BFT−漆黒のホーク・ジョー:ATK2600


『キョォォォォォ!!』
BF−星影のノートゥング:ATK2400


新たに2体のBFを呼び出しウェンディに向かわせる。
この上級モンスター2体を相手にするのは、ウェンディには少々荷が重いが――戦闘に於いて伏兵と言うのは居る者だ。

『お姉ちゃんに任せておきな!』

光学モニターにセインの姿が映ったかと思った刹那、ウェンディの姿が壁の中に『消えた』。
セインが自身の『ディープダイバー』を応用して、逃走経路を作ったのだ。

「んな!?壁の中に消えるとかインチキ効果にも程がアンだろオイ!!!
 ちぃ…壁の中移動されたんじゃどうしようもねぇ――って、のわぁぁぁ!?」

幾らクロウでも壁の中を移動する相手を捕まえる事は出来ない。
其れならばと、スバルの方に集中しようとしたら今度は無数のナイフが飛んできたのだ――ギリギリでヒットはしなかったが。

其れはチンクの攻撃が弾かれたもの。
スバルの間合い外から攻撃するチンクだが、その全てが無敵のアーマード・ウィングによって阻まれているのだ。

「破壊できないとは、何と言うモンスターだ…このままでは…!」

「ウオォォォォォォォォォォ!!砕けろぉぉぉぉ!!!!!」

「しまった!!!」

そして焦りから生まれた僅かな隙をスバルは見逃さない。
マッハキャリバーを全開にして、一騎に間合いを詰めて振動破砕の一撃を炸裂!!

ギリギリでチンクも防御壁を張るが、其れにも構わずスバルは殴る!殴る!!兎に角殴る!!

「やべぇ…此れじゃあスバルは本当に!!
 やめろスバル!!それ以上その攻撃を使ったら、オメェもぶっ壊れちまうぞ!!!」

「うあぁぁぁぁ!!!!ギンねぇぇぇえぇっぇえっぇ!!!」

「くそ…聞こえねぇのか――仕方ねぇ!トラップ発動『デルタ・クロウ−アンチ・エフェクト』!!
 コイツはトラップだが、俺の場のモンスターが『BF』3体のみの場合に手札から発動できる!!
 此れでフィールド上の『BF』以外のモンスターの効果は無効になる――スバルと眼帯娘の能力もな!!」

強制的にスバルを止めるべくモンスター効果を無効にするトラップを発動する。
だが、其れの発動と同時にスバルも最大級の一撃を―――



――バガァァアァァァァァァァン!!!




放つのと効果が成立するのは略同時だった。
スバルの一撃は止まらず、恐らくはチンクを捉えただろう……だが、粉塵が晴れると其処に居たのはスバル1人。
チンクは吹き飛んだのか、ギリギリでセインが逃がしたのかは分からないが姿が見えない。

「あ…うあぁぁ…ギン姉………なんで…どうして…うわぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「スバル…すまねぇ…ギンガを取り戻す事は出来なかった…」

スバルの目の色は元に戻り、暴走状態ではなくなったようだがギンガをあんなにされた悲しみは大きい。
更に、効果の打消しよりも攻撃の着弾の方が僅かに早かったのだろう――その一撃の反動で右腕の神経ケーブルが断裂し機械フレームがむき出しに。
マッハキャリバーも殆ど大破と言っていい状況だ。

「クロ兄…うぅ…うわぁぁぁぁぁん!!」

はち切れた感情は行き場がないのだろう……クロウに縋り付いて、只泣きじゃくるのみ。

クロウも、ギンガが攫われてスバルは大怪我をしてマッハキャリバーが大破、ノーヴェも敵の攻撃で失神と言う結果に、正直何も言えない状態だった…








――――――








六課の方でも戦闘は続いている。

「その様な雑兵で此処を落とすつもりか?……我等を甘く見るな!!牙獣走破ぁぁ!!!!

倒しても倒しても現れるモンスターを前に、しかしザフィーラは無敵にして無双!
攻撃力が2000にも満たないモンスターなど、シンクロ化したザフィーラの敵ではないのだ。

借りにザフィーラが打ち漏らしたとしても、後ろに待ち構えるシャマルに迎撃されるのがオチだ。
更に、ザフィーラ達は知らないが遊星とはやてがこっちに向かっているのだ――その2人が合流すれば勝利は略絶対のものとなる。
この状況なら其れまで持ちこたえる事が可能……な筈だった。


「今破壊された『封印の賢者』と『封印の神官』の効果で新たに2体の『封印』モンスターを手札に加える。
 そして、この瞬間に僕の手札に最強のカードが揃った!!」

六課攻撃を行っていたアモンが、5枚のカードをデュエルディスクに並べた瞬間、変化が起きた。
中空に五芒星が現れ、そして其処に浮かび上がる5枚のカード。

『封印されし者の右手』『封印されし者の左手』『封印されし者の右足』『封印されし者の左足』、そして『封印されしエクゾディア』

そう、アモンが狙っていたのはエクゾディアの完成。
5枚の封印パーツが手札に揃った瞬間に勝利が確定する、一撃必殺のカードを揃える事が目的だったのだ。


『グゥゥゥゥゥ…』
エクゾディア:ATK∞



現れた『幻の召喚神』の攻撃力は無限大――どうしようもない相手だ。


そしてその姿は、ちょうど此処に向かっていた遊星とはやてにも確認が出来た。

「遊星、アレは!!」

「エクゾディアだと!?拙い、アレの攻撃を受けたら六課は…!!」

エクゾディアの巨体は遠くからでも確認できる程に大きい。
まだ六課まで距離があるにもかかわらず目視できるのだから。

だが、其れは同時に対抗策がない事を意味していた。
今ここでどんなカードを発動し、どんなモンスターを召喚してもエクゾディアの攻撃には間に合わない。

ステラのスピードを更に上げても到底間に合わないのだ。

此処はもう祈るしかない――六課を護る無敵の守護獣の強さに。
あの圧倒的に堅い防御なら、或はエクゾディアの攻撃も防げるかもしれない。



「此れにて終わりだ――やれ、エクゾディア!!怒りの業火『エクゾードフレイム』!!!」

『オォォォオォオオ!!!』



――ドガァァァアァァァァァ!!!



放たれた一撃!
其れは真っ直ぐ六課に向かって行く。

「アカン!!皆逃げてぇぇえぇぇ!!!!!」

思わずはやてが叫ぶが、その叫ぶも虚しく怒りの業火は六課を直撃――する寸前で突然止まった。


「ぐぅぅぅ…六課はやらせん!!我らが主の望みのこの部隊、消してなるものかぁぁ!!!」

全身全霊をかけてザフィーラが止めたのだ――無限大の攻撃力を持つモンスターの攻撃を!
更にシャマルが六課全体を防御結界で覆っている。

「ウオォォォォォ…!!!」


「馬鹿な…エクゾディアの攻撃を止めただと…!?」


止めただけではない、少しずつ、本当に少しずつだがザフィーラは其れを押し返し始めている。
守護獣としての務め、そして仲間の為に持った誇りがエクゾディアの力を上回る力をザフィーラに与えているのだ。


「お見事ですが…ここで終わりです。」

「精々眠ってください――目的は果たしました。」

「なに!?」

突然現れた2人の戦闘機人――オットーとディードの背後からの奇襲に、流石のザフィーラも対処は出来ない。
致命傷には至らないが、背後からの攻撃にバランスを崩し…そしてそれはエクゾディアの攻撃を防御出来なくなったことになるわけで…


――ゴォォォオォォォォ!!!


「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

再び勢いを増した炎に、しかしダメージを受けたザフィーラは防ぎきることが出来ない。
何とか防ごうとするが、オットーとディードは執拗に攻撃を仕掛けてくる。


その執拗な攻撃のせいか、シンクロ化も解除されいよいよ状況は最悪に…


「皆!!」

「もうえぇ!逃げて皆ぁぁぁ!!!!」


祈りと願いは届かない。
遊星とはやての叫びを嘲笑うかのように、怒りの炎はその勢いを増し――ザフィーラ諸共六課を包み込んでしまった。






「……正直予想外だな。」

だが、その一撃を受けて尚、六課は消えていなかった。
半壊状態とは言え、消え去っていなかった。

「その身を犠牲にしても護ったのか?……見上げたものだな…」

「はぁ、はぁ……私の仲間はやらせん…絶対に…!!」

その場にやってきたアモンに対し、満身創痍ながらもザフィーラはあくまで道を開ける心算は無いようだ。
だが、アモンの目的は先に進むことではない――エクゾディアの攻撃を防いだ相手の事を確りと見ておきたかったのだ。

「…僕の名はアモン・ガラム――君の名を教えてくれ、誇り高き獣人よ…」

「ヴォルケンリッターが1人…盾の守護獣ザフィーラ…」

「ザフィーラか…その名を覚えておこう。
 だが、この場は僕達の勝ちだ…目的のモノは手に入った――レリックと2人の少女はね…」

「!!…ぐ…貴様…!!」

だが目的は目的。
其れは――レリックの強奪と2人の少女…レーシャとヴィヴィオの拉致に有ったらしい。


オットーとディードが『目的は果たした』と言うあたり、既に確保済みなのだろう。


「これ等の確保で何がどうなるかは知らないが…まぁ、精々頑張ると良い。
 …あの2人は戻ったか?…ならば良いだろう――ザフィーラ、此れを君に渡しておく…スカリエッティのアジトの場所だ。」

「な…に?」

「如何使うか、そもそも信じるかは君に任せるが――有効に活用してくれ。それが僕の目的にも繋がる。」

「まて…」

アモンの真意は読めないが…そのアモンは既に居ない。
ザフィーラの手には、アモンから渡されたスカリエッティのアジトの場所を記す紙切れが1枚あるだけだ。



「ザフィーラ!!皆!!」

「ザフィーラ!シャマル!!」

程なく遊星達が到着したが、其処にあったのは惨状だ。
六課は半壊し、此処にいた者は皆重傷間違いないだろう。


「我が主よ…申し訳ありません…護りきれませんでした――其れのみならずレリックとヴィヴィオとレーシャが…」

「ザフィーラ…何も言わんでぇえよ…こんなボロボロになってまで護ろとしてくれたんやろ?…何も言わんでえぇ…何も…」

「俺達がもう少し早く到着していれば…スマナイ…」


地上部隊本部に現れたガジェットは全て掃討した。
だが、ギンガとレーシャーとヴィヴィオは攫われ、レリックも奪われた。

更には六課と地上部隊本部の事実上の崩壊――





『敗北』




誰が何と言おうと、最終的な結果は其れ以外に言いようのない物だった。


「まだや…まだ終わりやない――終わりにはさせへん!!」

「あぁ、此処で終わっちゃいけない!!」


だが、それでも『諦める』と言う選択肢だけは、遊星とはやて――いや、きっと六課のメンバー全員にはないのだろう。

















 To Be Continued… 






*登場カード補足



デルタ・クロウ−アンチ・エフェクト
通常罠
自分フィールド上に「BF」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。
フィールド上の「BF」と名の付くモンスター以外のモンスターの効果をエンドフェイズまで無効にする。
自分フィールド上に存在するモンスターが「BF」と名のついたモンスター3体のみの場合、このカードは手札から発動できる。