時は僅かに遡る。
レジアスが派手に演説をぶっていたそのころ、最高評議会のトップが『安置』されている場所に1人の女性の姿があった。
余り気には留めないが、確か彼女は地上本部の人間であった筈だ。
其れならば、この場に居るのは些かおかしいのだが…
「全く、笑い話にもならない存在ねこいつ等は……まぁ良いわ、精々自分の馬鹿さ加減を後悔しなさい。」
言うが否や、女性はその手に展開した爪で、最高評議会トップの脳髄が入っている培養ポッドを粉砕。
1つ残らず全てだ。
此れだけでも肉体を持たない脳髄には死の宣告だが、女性は更に、その爪で脳髄を切り裂き、完全に殺害する。
「不死の欲望の末路がこれとはね…本当に愚かね…」
其れを行った女性は歪んだ笑みを浮かべ、爪に着いた培養液と脳髄のカスを舐めとる。
同時にその外見が代わり、金髪の鋭い目つきの女性が…
その身体は、スカリエッティの配下である戦闘機人が纏っているのと同じボディスーツでおおわれている。
彼女もまたスカリエッティの手先だったのだ。
何と言う皮肉だろうか?
最高評議会の連中は、自分の手駒だと思っていたものによって、その命を散らすことになったのだ。
この事が公になり、最高評議会のトップの『死滅』が管理局内で認知されるのは、もう少し先の事である。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス100
『絆の決闘者と夜天の主』
地上本部と六課の壊滅、攫われたレーシャとヴィヴィオとギンガ…そして負傷した多数の管理局員。
この結果だけを見ても、此度の戦闘が時空管理局側の『敗北』である事は否定しようのない事であり――そして認めたくない現実であった。
だが、状況は最悪でも絶望的ではない。
「アルトと、ルキノは無事やし、空輸機も動くんが2機残っとる…隊員や物資の空輸は何とか行えるな。」
襲撃の翌日には、この最悪な状況下においても、はやては総司令として行動をしていた。
残存戦力と被害状況を把握し、最善の一手を次々と打っていく――この行動力と部隊運営の手腕は諸手を上げて称賛に値するだろう。
「あぁ、だが六課本部が半壊状態の今、俺達の本拠地となる場所がないが…其れは如何する?」
遊星も其れを手伝う形で、現状を何とかしようとしている。
そこで問題になるのが六課の新たな本部だ。
青空本部――とは流石に行かないだろうが、だからと言ってこの状況下ではまともな建物を借り受けるのは難しい。
「其れなんやけどな…アースラを使おうかと思うんや。」
だが、はやては其れについても解決策を考えていた。
闇の書事件後にその役目を終え、凍結状態にあった『次元航行艦アースラ』を新たな本部とすると言うのだ。
悪い手ではない。
あの船ならば、現状で動ける隊員全員が休む事が出来るだけの部屋はあるし、ブリーフィングルームだって備えている。
仮本部とするには最適だろう。
「アースラ?まだあったのか。」
「廃艦を待つだけの状態やけど、エンジンやその他の機能は昔のままで生きて居る筈や。
別に使っても問題はないやろクロノ君?」
「あぁ、問題ない。
廃艦予定とは言え、アースラは僕の管理下にある船だから、君達が使うと言うなら喜んで提供させてもらうさ。」
「…スマナイなクロノ。」
「気にしないでくれ遊星――其れに僕達は君には大きな借りがあるからな……せめて此れくらいはしないと借りは返せそうにない。」
同席していたクロノもアースラの使用には前向きのようだ。
まぁ、クロノの言う借りがなんであるかを遊星が分かって居ないのは最早当然と言うべきだろう。
だが、其れとは別に、遊星ははやての事が気になった。
こんな状況に於いても総司令として動いているのは確かに大したものだ――が、頑張りすぎている。
もっと言うならば『無理をしている』、『感情を抑え込んでいる』と言うところだろうか?
兎に角遊星はそう言った感じをはやてに覚えていた。
「アースラが使えるなら万々歳や。…他には…」
しかし、其れを感じ取って尚、遊星は何も言えなかった。
必死に頑張るはやての姿が、まるで『今は何も言ってくれるな』と、そう言っているように思えてしまったから。
そして、それは間違いではない。
はやて自身、今は心配の言葉をかけられたくなかった――其れをやられたら一気に張りつめていた糸が切れてしまう気がしたから。
結局、遊星もはやても、現状の確認とこれからの方針を話し合う以外の事は一切しないで時が過ぎて行った。
――――――
「戦闘機人…ですか?」
「スバルさんとノーヴェさんが…」
「もっと言うならギンガもな…」
負傷した六課隊員が入院している聖王病院の一室ではフォワード陣が、矢張り今回の敗北に打ちひしがれていた。
いや、地上本部での戦闘に限れば、地上本部の建物は壊れたが、死傷者は0であり、現れたガジェットも全て退ける事が出来た。
だが、肝心の六課は本部半壊&負傷者多数と言う状況――あまりにも重い。
加えて、ギンガが攫われたと言うのも大きい。
六課の仲間として共に過ごしてきたギンガが敵の手に落ちたと言うのは、フォワード達にとってより重い現実だろう。
何か話を…と言う事で始めた話は、ナカジマ3姉妹もまた『戦闘機人』であると言う話になっていた。
ティアナは以前から知っていたし、クロウも今回の一件で知ったが、エリオとキャロは全く知らなかったのか驚いた表情だ。
「スバル…オメェの腕は大丈夫なのかよ?」
「ちょっときついけど…大丈夫、明日には元に戻るから。」
破損したスバルの腕も痛々しい。
だが、此れも不幸中の幸いか、スバルは戦闘機人であるが故に、此れだけの『怪我』をしながらも直ぐに戦場に戻る事が出来る。
「そうか…けど、そうだな――多分、ギンガは今度は俺達の前に『敵』として現れる、其れは覚悟しておけよ?」
「アニキ!?」
「クロ兄!?」
「「クロウ兄さん!?」」
「クロウお兄ちゃん!?」
スバルの具合を確認しながら、そしてクロウはとんでもない爆弾を投下してくれた。
恐らく言うかどうかは迷ったのだろうが………あくまでも可能性ではあるが、その可能性が極めて高いと考えて伝える事にしたらしい。
伝えておけば、実際の現場で驚いて何もできないと言う事も減ると考えたのかもしれない。
しかし『ギンガが敵になる』と言うのには、流石にこの場の全員が驚いたようだ。
「待てよアニキ!何でギンガが敵になるんだ!?」
「そうだよクロ兄!何でギン姉が!!」
「ギンガが戦闘機人だからだよ!」
「「「「へ?」」」」
其れは何故か?
あくまでもクロウの推測でしかないが、それでも理由を説明するための一発は分かり易いようで分かり難かった。
「良いか?スバルもギンガもノーヴェも戦闘機人、此れは良いな?
でもって、スカリエッティの奴の部下も戦闘機人、此れも良いな?
つまりは其処なんだよ――あの眼帯チビとパイナップル頭はスバルとノーヴェも狙ってたのは間違いねぇ。
けどな、妙だろ?もし、お前達3人を戦闘不能にするだけなら、どうしてあいつらはギンガを攫ったんだ?
スバルの腕くらいなら直ぐに治るだろうが、言い方はワリィがあそこまでぶっ壊れたギンガは直ぐにゃぁ治らねぇだろ?
其れを考えたら、態々ギンガをあの場から連れ去る必要はねぇんだよ――テメェの戦力として利用するって目的でもねぇ限りはな!」
「「「「!!!」」」」
言われてみれば確かにそうだ。
ただ単純に六課の戦力を低下させるのが目的ならば、あの場でギンガを連れ去る必要はない。
何れ治されるだろうが『瀕死』のギンガは放置していっても問題ない筈なのだ。
にも拘わらず連れ去った――其れはつまり、一度ギンガを『破壊』し、今度は自らの戦力として『作り直す』目的が有ったとしか思えないのだ。
まして、スカリエッティは己の戦力として戦闘機人を使っているのだから、全くない話でもないだろう。
味方が敵になると言う状況に、フォワード陣は言葉をなくすが其処は兄貴分のクロウだ。
「だが、ギンガが敵として現れたってんなら、打ん殴って目を覚ましてやりゃ問題ねぇ。
スカリエッティが禁止カードレベルのマッドサイエンティストだとしても、人の心まで完全に作り替えるなんてこたぁ出来る筈がねぇからな。
スバルかノーヴェの本気の一発ぶちかましてやりゃあ目を覚ます筈だ、絶対にな!」
「アニキ…」
「クロ兄…そうだよね!ギン姉が敵になっても、アタシ達で目を覚ましてあげればいいんだよね!」
発破をかけ、落ち込みかけた気分を鼓舞する。
本当にそれで目を覚ますかどうかは分からないが、根拠など無くとも力強い言葉は其れだけで勇気が湧いてくるモノだ。
暗く沈んでいたスバル達の顔にも『希望』の光が戻ってきていた。
「襲撃後に流れたスカリエッティの野郎の宣戦布告からすりゃ、明日が決戦だ!
やってやろうじゃねぇか!ふざけた事やらかしてくれた馬鹿共に、誰に喧嘩売ったか教えてやろうぜ!!」
「うん!」
「おう!!」
「「「はい!!!」」」
フォワード陣は、もう大丈夫だろう……クロウ・ホーガン様様である。
なお、あまりに声が大きかったせいで、直後に聖王病院の看護師に全員が注意されたことを追記しておく。
――――――
「…酷いな…」
改めて壊滅した六課を見ると、そうとしか言えなかった。
ザフィーラの奮闘のおかげで半壊に留まったとは言え、此れでは使用不能だ。
「………」
瓦礫の中に混じっている壊れたデュエルディスク――遊星がレーシャにせがまれて作ったものだ。
そして、同じ場所にあるボロボロになったウサギのぬいぐるみ……此れはなのはがヴィヴィオに送ったものだ。
「…酷いよね…」
「なのはか…」
声を掛けてきたのはなのは。
彼女も遊星と同様に、此処に来ていたらしい。
「スマナイ、もう少し速く到着する事が出来ていれば……こんな事には成らなかったかもしれないな…」
「うぅん…遊星さんのせいじゃないよ…誰のせいでもない――だけど、やりきれないよね。」
「そうだな…」
無言。
六課のメンバーは、全員がその力のすべてを出して戦った……この結果は誰のせいでもないのだ。
其れにこれで終わりではない。
まだ終わってはいないのだ。
決戦を明日に控え、絆を紡ぐ決闘者と、不屈のエースは何を考えるのだろうか?…其れは分からない。
「遊星さんは…」
「ん?」
「遊星さんは、はやてちゃんの事をどう思っていますか?」
そんな中での唐突ななのはの問い。
如何言う意図でその質問をしたのかは分からないが、しかし遊星は、その問いに対して自分でも驚くほど速く答えていた。
「好きなんだろうな、きっと…」
殆ど反射的な応答。
或は遊星自身ですら考えた答えではなく、本当に深層心理の感情が口をついて出た…そんな感じだった。
「勿論、なのはや六課の皆の事は全員好きだが…はやての事はなんていうか…違うんだ、巧く言えないけどな。」
「そこまで分かって居ながら、それでもそれが何なのか理解できてないって、ある意味凄いですね遊星さん…」
其れでもその感情がなんであるかまでははっきりと認識できていない『KING OF DONKAN』の遊星に思わずため息をついてしまう。
「でも、其処まで分かっていれば上出来かなぁ?
ねぇ、遊星さん……今のはやてちゃんを見ててどう思う?」
「はやてを?…そうだな、頑張っていると思う…相当に無理をしているだろうがな。」
「うん…そう、思うよね?だから、遊星さんにお願いがあるんだ――はやてちゃんを支えてあげて。」
「なのは?」
が、突然のお願いには少々戸惑う。
はやてを支えてほしいとは如何言う事だろうか。
「私だってヴィヴィオが攫われたのは辛いけど、私にはフェイトちゃんにアリシアちゃん――弱音を吐ける人がいる。
でも…はやてちゃんは夜天の主で機動六課の総司令だから、そういう人が居ない…寄りかかれる人が居ないの。
私達じゃきっとダメ…はやてちゃんの心を支える事は出来ない…すごく悔しい事だけどね。
でも遊星さんは違う…遊星さんははやてちゃんが唯一寄りかかれる人なの、弱音を吐ける人なの…だからお願い――はやてちゃんを支えてあげて。」
「なのは…あぁ、分かった。
どの道、少し時間が出来たらはやてとは話してみる心算だったからな……俺なりに、やってみるさ。」
そのお願いを遊星だって否とは言わない。
はやてが無理をして頑張っているのは分かっていたし、話はしてみる心算だった。
何より、はやてを支えるなどはやてが9歳の時に出会ったあの日から、心のどこかで無意識の内に決めていたことなのだ。
「うん、安心した…其れじゃあこれは私と約束。
明日の決戦で、私はヴィヴィオを必ず助け出すよ…だから遊星さんも必ずレーシャちゃんを助け出してね?」
「あぁ、言われるまでもないさ。」
――コツン…
何方からと言う事もなく、自然と拳を合わせる。
最強の決闘者と不屈のエースの決意に淀みは無い――明日の決戦はきっと良い結果が出る事だろう。
――――――
なのはと別れた遊星は、はやてを探して六課隊舎の屋上に来ていた。(一応は原形をとどめているため屋上に上がる事は出来る。)
誰かに聞いたわけではない…直感的に此処にはやてが居ると、そう思ったのだ。
そしてその直感は大当たり――はやては屋上で1人夜空を眺めていた。
「遊星?」
「何をしているんだ?」
遊星ははやての隣に立ち、同じように夜空を眺める。
「…約束、守れなかったな…帰ってきたら一緒に遊ぼう言うてたのにね…」
「其れは俺も同じさ…帰ってきたらデュエルをすると言う約束は…守れなかった。」
「はぁ…アカンね私――総司令で部隊長なんやからもっと確りせなアカンのに…此れじゃあ六課の皆に要らん心配かけてまうわ。」
笑みを浮かべて言うが、その笑みはあまりにも痛々しい。
本当は泣き出したいのを必死で抑えている――そんな顔だ。
だが、だからだろうか?
遊星は、自然とはやてを抱きしめていた。
「ゆ、遊星!?」
「もう、頑張らなくて良い。我慢はしなくて良い……泣きたいなら泣けばいい…誰もお前を責めはしないさ…」
優しく…本当に優しく囁かれたその言葉に――はやての緊張の糸が切れた。
「うぅ…うわぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!何でや!何でこんなことになってまうんや!!
私は、管理局を立て直したかっただけなのに……その為に一生懸命頑張って…そんで六課を設立したのに何でこんなんなってまうの?」
抑え込んでいた感情は爆発したら、その勢いは凄い。
今の今まで溜め込んでいた物が一気に溢れ出したようだ。
「レーシャとヴィヴィオも…私は護ってやれんかった……スカリエッティに何かされとるんやないかと思うと、不安でどうにかなりそうや…!
あ、明日の決戦かてそうや…私の出撃命令1つで、皆を死地に送り出さなあかん…本当はしたくないけど、私等がやらな誰がやんねん…!
ねぇ、遊星…私は如何すればいいん?分からない…分からないよ遊星……うわぁぁぁぁあぁぁん!!!」
泣きじゃくるはやてを遊星は何も言わずに抱きしめてやる。
そうすることで改めて分かる、大人になって尚小さなはやてのその身体……一体この小さな身体でどれだけ頑張ってきたと言うのだろうか?
己の胸で泣きじゃくるはやては、総司令でも部隊長でもなく、不安に駆られた1人の小さな女性であった。
「大丈夫だはやて…皆なら大丈夫さ…レーシャもヴィヴィオもきっと…いや、必ず助け出そう…俺達の手で。」
落ち着かせるように、背中を叩きながら務めて優しく言う…
暫くして…
「あの、その…ゴメンな遊星///」
気持ちが落ち着いたのだろう…その途端に遊星に抱きしめられていたことが急に恥ずかしくなったはやては遊星から離れようとするが…
――ぎゅ
遊星は離すどころか、より確りとはやてを抱きしめた。
「ゆゆゆ、遊星!?///」
「離したくないな…あぁ、離したくない。」
「遊星?」
少しばかり遊星が何を言っているのかが分からない。
「そうか…此れが母さんやなのはの言ってたことか………俺は、はやての事が好きなんだな――仲間としてではなく、きっと1人の女性として。」
「はいぃぃぃ!?」
不意打ちにも程があると言うなかれ…仕方ないのだ、本当にたった今自覚したのだから。
弱弱しいはやての姿を見て、不動遊星はこの世に生を受けて20年、初めて異性を意識するに至ったのだ。
「ふふふ、不意打ちにも程があるやろ遊星!!!」
「そうか?…だとしたら悪かったか?」
「はぁ…まぁ、遊星やからなぁ……せやけど、嬉しいなぁ……。
うん、折角言うてくれたのに、私が言わないのはアカンよね……遊星、私も遊星の事が好きや…異性としてな…」
「はやて…」
そしてそれは、はやてに10年越しの思いを伝えさせる事にもなった。
はやても遊星の背に腕を回して抱きしめる…思いは重なったのだ。
が、
「やけど困ったなぁ…」
「困った?」
「うん…あのな、『異常な状況で結ばれた男女は長続きしない』言うのをどこかで聞いたんよ?
六課と地上本部が壊滅して、そんでもって明日はマッドサイエンティスト共と最終決戦――異常な状況にも程があるやん?」
「あぁ、そうだな……だが、長続きしないのは嫌だな。」
何処で聞いたのか、そんな事を言う。
確かに普通とはとても言えないこの状況下では、そう思ってしまうのも無理はない。
「やから、他の事で結ばれよか?」
「?」
言うが早いか…
背伸びをして、はやては遊星と自分の唇を合わせた。
突然の事で遊星も全く反応が出来なかった。
ほんの数秒だが、はやての顔は真っ赤だ。
いや、遊星の顔も僅かに赤い。
「遊星の事が好きです……八神はやては、世界の誰よりも不動遊星の事が好きです。」
「其れは俺もだな…俺は…不動遊星は、この世界の誰よりも八神はやての事が好きだ…だから、お前の事を護っていきたい。」
「護られっぱなしは嫌やなぁ?私も遊星を護りたい…互いに背中を護る言うのはどうやろ?」
「ふ…悪くないな。」
互いに見つめあい、はやてはその双眸を閉じ、そして―――――――
To Be Continued…
*登場カード補足 |