「活動の制限時間に、活動限界時間に達した場合のメンテナンス…面倒なものだな。」

 「まぁ、仕方が無い…君と違って彼は正に『死ぬ直前』だったからね。
  私の技術で再生しても、矢張り無理は隠せないさ……まぁその辺もオイオイ改善するがね。」

 スカリエッティのアジトでは、ホテルに現れた謎の男が円柱状のポッドの中で『メンテナンス』を受けていた。
 遊星に己のモンスターを砕かれ、更にはやての一発を喰らった上で活動限界を向かえ、結構ダメージが大きいようだ。

 つまりこの男は純然たる人間とは言い難い存在なのだろう。
 スカリエッティも思惑あってこの男を使っているようだ。

 尤も眼鏡の青年にはそんな事は如何でも良いことだ。
 彼にとってこの男など歯牙にかけるにも値しないし、スカリエッティに協力しているのも己の目的達成のためなのだ。

 「まぁ、精々『調整』しておいたほうが良い…今のソイツじゃ彼とはとても戦えない。」

 「そうした方が良いね……お出かけかい?」

 「不動遊星…アイツは僕が知る中でも多分最強のデュエリストだろう。
  認識を改める…アイツに勝つには僕自身が強くならないと無理だろうからね。」

 「成程…まぁ期待していよう。」

 青年はそれには答えず部屋を後にする。
 スカリエッティの方も中々どうして曲者揃いであるらしい。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス85
 温度差の不協和音』











 「人的被害は0で物的被害はホテルの警備破損のみ――オークション品は無事と…まぁ上出来やろ?」

 「あぁ、怪我人が1人も出なかったのは喜ばしい事だな。」

 任務を終えた機動六課の面々は管理局に戻り、六課司令室で本日の報告会。
 襲撃を受けたとはいえ負傷者は0。
 オークション品も無事で、物的被害もホテルの外壁の一部損傷のみ――上出来と言って良い結果だった。

 また、外の警備に当たっていたフォワード陣がガジェットを退けたのも大きい。
 謎の戦士はリインフォースとヴィータが対処したとは言え此れは快挙だ。

 其の影にはクロウの存在があるのだが、それでも賞賛ものだろう。

 事実、フォワード陣の沸きかたも凄い。
 司令直々にお褒めの言葉となれば嬉しさも一入なのだ。


 只1人で浮かない顔をしているティアナを除けば。


 「まぁ、何にしてもご苦労様や。
  オークションは中止になってもうたけど任務は成功した、それで良しや。
  ほな、今日は此処まで!任務の疲れを癒したってな……解散!!」

 〆るは勿論総司令殿。
 解散を言い渡し、本日の任務はコレにて終了。

 尤もはやてにはマダ書類整理が残っているのだが…

 「手伝うよ。」

 「うん、お願いするわ♪」

 ソレは遊星が手伝うのがお約束となっている。
 最後まで残って仕事をする遊星とはやてが局内で噂になるのにそう時間は掛からなかった。








 ――――――








 「はぁ、はぁ……ダメ…こんなんじゃ!!」

 隊員宿舎の裏庭で、ティアナは只ひたすらに自主トレーニングに勤しんでいた。
 出動があり、しかも一戦交えて消耗しているにも拘らずに。



 「もしクロウさんが居なかったら…スバルは…!!」

 理由はちゃんと有る。
 実は今日の任務中、ティアナはミスをしてしまっていたのだ。

 飛来するビッグ・バイパーを撃ち落そうと放ったクロスファイヤーの1発が逸れてスバルに向かったのだ。

 幸いクロウの『アーマード・ウィング』がフォローに入ってくれたおかげで大事には至らなかった。
 だが、もしもアーマード・ウィングが居なかったら?…そう考えるとティアナの心は沈むばかりだった。



 言ってしまえば其のミスは自業自得と言える。
 ティアナは今日だけでなく、日常的にオーバーワークとも言える自主錬を続けているのだ。

 六課のトレーニングは厳しい。
 それこそ、ソレを受けたら部屋に戻るなりベッドに突っ伏してもおかしくないほどのハードさだ。

 事実ティアナ以外のフォワード陣は部屋に戻ったとたんにベッドにダイブ。
 屈指の体力を誇るスバルとノーヴェであってもソレが普通だった。

 ソレをせず、無理を通しての自主錬をティアナは続けていたのだ。
 其れでは集中力が散漫になり、ミスも犯すだろう……だが、それにティアナは気付いていなかった。

 「証明しなきゃ…兄さんは無能じゃない…ランスターの弾丸は全てを撃ち抜くって!!」

 譲れない決意と思いが其処にはあるのだろう。
 だが、結果としてソレが己を雁字搦めにしてしまっている様にも見えてしまう。

 「…自主錬は結構だが、根をつめ過ぎたら逆効果なんじゃねぇのか?」

 「!!」

 「よう…そろそろ消灯時間だぜ?」

 「クロウさん…」

 其処に現れたのはクロウ。
 どうやらこの時間に外に出て行ったティアナを見かけて付いてきたらしい。

 「オーバーワークは良くないぜ?大体出動もあったってのに……身体壊しちまうぞ?」

 「……分ってます。」

 「「……………」」

 互いに無言。
 クロウは別分ティアナを咎める気は無い、只『休んだ方が良い』と言いに来ただけ。
 ティアナもクロウに何かある訳では無いが――今日の任務でのミスがどうにもこうにも響いていた。

 「…気にしてんのか、ミスショットの事。」

 「っ!!……はい…」

 「はぁ〜〜…んなこったろうと思ったぜ。
  あのなぁティアナ、オメェは何だ?何者だ?」

 「は?」

 唐突なクロウの問いに思わず間抜けな声を出してしまったのは仕方ないかもしれない。
 イキナリ『何者だ?』と聞かれればソレは困惑するだろう。

 「え〜と…」

 「インストールされたプログラムをこなす機械なのか?違うだろ!
  オメェは自分で考えて行動する人間だろ?人間だったらミスするのは当然の事じゃねぇのか?
  で、其のミスを補ってやるために『仲間』が居るんだろうが……大体アノ程度ミスのうちにも入らねぇ。
  結果的に被害0で済んだんだ、え〜と、ほら『終り良ければ全て良し』って言うだろ?」

 「…………」

 クロウの言う事は分らないでもない。
 いや、ある意味で正論だ――が、それでもティアナには譲れない部分が矢張りある。

 「確かに仲間が居れば…でも、私はそれだけじゃダメなんです!
  凡才の私は人の万倍努力しなきゃ…!こんな、超人揃いの六課の中じゃ…!!」

 「アホ。」

 だがしかしクロウは一刀両断である。
 コレには流石にティアナも鋭い視線を向けてしまうが…

 「誰が凡才だ、誰が。
  オメェの言う才能ってのは『魔法戦闘』に関する事だけかよ?」

 新たなクロウの問いに又も答えられなかった。
 『魔法戦闘』――六課においてはソレのエキスパートが揃っている。
 隊長陣は言うに及ばず、格闘戦で息の合ったコンビネーションを見せるスバルとノーヴェ。
 召喚士として覚醒し、フリードを操るキャロと、高速の槍術を得意とするエリオ。
 フォワード陣でも其の力は相当に高い。

 そんな中に居て、幻術意外特に目だった特長の無いティアナは自身が無かった。

 「確かに魔法戦闘に関しちゃオメェは地味かも知れねぇが…お前、指令塔として滅茶苦茶優秀じゃねぇか。」

 「指令塔……ですか?」

 だが、更に意外なクロウの一言。
 指令塔として優秀とは自分でも良く分らない。

 「んだよ、気付いてねぇのか?模擬戦の時とかお前の作戦バッチリ決まるじゃねぇか。
  実力差がアレだからなのはやヴィータには押し切られちまう事が多いが……実力伯仲なら俺達が全勝してるぜ?
  お前がたった1人で戦うってんなら確かに戦闘技術ってのを向上させりゃ良い。
  けどよ、俺達機動六課は『チーム』だろ?チームにはチームの戦い方があるし、夫々の役目も違うんだぜ?
  お前の役目ってのは、派手にガンガン敵とやり合うよりも、大局を見て指示を飛ばしたり援護に回る事じゃねぇのか?」

 「あ……」

 マッタクもって気付いていなかった。
 確かに模擬戦の時は、実戦よりも緊張が少なく、攻撃よりも寧ろ指示を飛ばしたり援護に回っていた気がする。
 ソレがいざ実戦となると力が入りすぎていたのかもしれない。

 「ま、余計なお世話かも知れねぇけどよ……これ以上は俺も良くわかんねぇ。
  ソレよりもさっさと休めよ?……数日後にゃアノ『鬼教官』の訓練がアンだからな。」


 ――ゴイン!


 「!!ってぇ!!なんだ!?」

 「今のピンクの魔力弾…な、なのはさん…」(汗)

 何やら聞こえていたらしい。
 滅多な事は言うべきでは無いだろう。

 ともあれ、クロウは戻って行った。
 残されたティアナは、クロウの言葉が心に染みていた……が、矢張り戦闘技術も向上させたいと言う思いも消えては居なかった。







 「…で?」

 「おう、出てくタイミングを失っちまった。兄貴分の座もやばいねこりゃ?」

 クロウは帰り道を1人の男と歩いていた。
 男の名は『ヴァイス・グランセニック』、機動六課のヘリ操縦士であると同時に腕利きのスナイパー。
 そして、クロウ同様に六課フォワード陣の兄貴分的な好漢である。

 性格的に良く合うのか、会ってすぐにクロウとは意気投合したようだ。

 「まぁ、オメェが居てくれた方が良かったかもな…どうにも俺はあぁいうのは巧くねぇ。
  多分遊星ならもちっと分りやすく言ってやる事も出来るんだろうけどよ…」

 「あぁ、アイツなら確かに……けど、あぁいう言い方のが伝わるって事もあるからなぁ?」

 「だと良いんだが…」

 何となく、クロウにはティアナが『分って分ってない』様な気がしてならない。
 ソレが杞憂で済めば良いんだが、的中していたらきっと碌な事が起きないと、そう思っていた。

 「…なぁ、何でティアナの奴はあんな我武者羅にトレーニングしてやがんだ?」

 「さぁ…詳しい事は俺も分らんが……殉職した兄が関係してるのは先ず間違いないだろうな。」

 「殉職って…!」

 「ティーダ・ランスター、ティアナの実兄で管理局屈指の狙撃手だったんだが数年前に任務中にな…
  生憎俺は任務で別の世界に居たから殉職の方を聞いたのは大分後の事だ…
  聞いた話だと、葬儀の席で殉職したティーダに心無い言葉を浴びせた奴が居たって事だが…詳細はな…」

 「…あいつ、兄貴が悪く言われたのを気にして…」

 「有りうるね…元々頑固だし、アノ年頃の女の子は中々どうして扱いづらい。」

 「確かに。」

 詳しい事は分らないが、それでも何も起こらなければ良いとは思わずに居られなかった。








 ――――――








 
――数日後


 「…どうやら俺の杞憂だったみてぇだな。」

 模擬戦の本日、クロウは正直にそう漏らした。


 ティアナの動きが目に見えて良い。
 周囲の状況を把握し、魔力弾の牽制と幻術を応用した攻撃を駆使し、同時にスバルやクロウにも的確な指示を出している。
 アノなのはを相手取り、互角に戦っていた。



 キャロとエリオとノーヴェは後半にヴィータとの模擬戦が入っているので今は見学中。
 一緒に見ている遊星もティアナの働きに感心しているようだ。

 「しっかし…アーマード・ウィングが2体居るってのも妙な感じだぜ。」

 そして、なのはと互角に渡り合っている大きな要因がクロウのモンスターをティアナが幻術でコピーしている事にある。
 ソリッドヴィジョンのモンスターの動きは魔導師や騎士と比べれば単純だが、それだけに精度の高いコピーができる。

 無論コピーは簡単に消えるが、それでも本物との波状攻撃は確実になのはを追い込んでいた。


 「コイツは行けるかもな!ブラック・フェザー・ドラゴン『ノーブル・ストリーム』!!」

 『カァアァァァ!!』


 「く…バスター!!」

 『Divine Buster.』


 クロウが己の最強龍で攻撃すればなのはもソレに応える。
 が、其処にすかさずスバルのクロスレンジが入る。

 完璧と言っても過言ではないコンビネーションだった。





 この攻撃までは。


 「!!このスバルは本物!?」

 何度目かの衝突の際に、なのははスバルが幻術でないことに気が付いた。
 確かに幻術に紛れて本体が決定打を与えるのは有効な手段だ。

 事実、ティアナの魔導弾に紛れて放たれた一撃はなのはでも防ぐので手一杯だった。

 だが、問題はソレではなかった。

 「嘘!?」

 「な、マジか!?」

 なのはのみならずクロウも驚く突然の広域魔力弾。
 ソレは下手すればスバルにも直撃しかねない密度だ。

 更に…

 「はぁぁぁあぁぁ!!!」

 其の魔力弾と共にティアナがなのはを強襲。
 無謀を通り越して自殺行為としか言いようがない『特攻』。

 だが、それがなのはにヒットする事はなかった。


 ――ガキィィン!!


 なのはのバインドがティアナとスバルを拘束したから。

 「「!?」」

 「2人とも如何しちゃったのかな……こんな無茶を教えた覚えは無いんだけど…?」

 低い其の声に、スバルもティアナも声が出せない。
 明らかになのはが怒っているのが分ったから。

 「クロウ君が驚いてたのを見ると、クロウ君にも言ってなかったんだ?
  何時もは言う事を聞いてるふりして、その実は無茶の押し通しじゃ意味無いじゃない…!」

 「!!!」

 自分に向けられたなのはの表情を見て、ティアナは心底恐怖を感じた。




 ――無表情。




 光を失った瞳はなのはの怒りの深さを物語っていた。

 「どうしてこんな事をしたの?……私の指導が間違ってたの?
  分らない…分らないよ…皆には『私みたい』になってほしくなかったから基礎を固めてたのに…!!」

 「あ…あぁ…で、でも!!!基礎だけじゃ!!それだけじゃ私は!!」

 「…もう良いよ…ティアナ――少し頭冷やそうか?」

 集束する魔力。
 そして放たれたクロスファイヤー。

 四肢を拘束されたティアナに避けるすべは無い。


 「ちぃ!アーマード・ウィング!!!」

 とっさにクロウがアーマード・ウィングを盾にしてティアナを護った。

 「…クロウ君?」

 「なのは……ちっと黙ってろ…」

 『お仕置き』を止められたなのははクロウに何か言おうとするが、言えなかった。
 静かに、本当に静かに放たれたクロウの一言に秘められた『凄み』を感じたから。



 育ちの違いだろう。
 修羅場を潜ってきたとは言え、温かい家庭で育ったなのは。
 反対に幼少の頃から明日も分らない生き方をしてきたクロウ……胆力には大きな差が有った。

 「ブラックバード…」

 『大将……仕方ねぇ。』

 ブラックバードに命じて道を作り、拘束されたティアナの所まで歩いて行く。

 「…………結局、俺が言った事は何一つ伝わってなかった訳だ…」

 「クロウ…さん?」


 一つ溜息をつき…


 「この大馬鹿ヤロウ!!!!」


 ――バッチィィィン!!


 ティアナの頬を、平手とは言え思い切り張ったのだった…














   To Be Continued… 






 *登場カード補足