ホテル・アグスタでのオークションで、今のところ目立った混乱や騒ぎは無い。
 闇オークションのコミュニティが出品した品も競売前にキッチリと隔離されている。

 取引許可が降りたロストギアを落札した者も管理局のデータベースでは善良な一般市民だ。


 そうなると、会場組の遊星達は現状の仕事はあまり無い。
 違法品の隔離があるとは言え、ソレはなのはとフェイトで事足りる。

 と言うよりも、注目集めまくっていた遊星&はやてがオークションに参加しないのはソレはソレで不自然だろう。

 なので、遊星とはやては違法品や参加者に目を光らせながらもオークションに参加していた。


 『さて次なる品は、第24管理世界で見つかったと言う謎の機械の一部…』

 「10万。」

 『イキナリ!?他には…居ないようなので10万で落札です。』

 そして、実は遊星が結構落札していたりする。
 まぁ、競り落としたのは何れも何らかの機械の欠片や用途不明な機械の残骸、言うなればスクラップ。
 もっと言うならガラクタの類。

 だがこれらも使う人にはよっては素晴らしいものへと変動する。
 事実遊星はこれらのガラクタから新たなデバイスの強化パーツなんかが作れるんじゃないかと考えていたりする訳で…

 はやてもそれを分っているから何も言わない。
 このオークションの代金も『必要経費』として落ちるので問題無し。

 相変わらず腕を組んだまま、はやてはご満悦。
 そしてこの2人が更に注目されていたのは言うまでもないだろう。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス84
 『バトルなオークション!』











 一方でホテルの外でも未だ目立った動きは無かった。
 厳重な警備ゆえ早々簡単に誰かが進入する事は先ず不可能だろう。

 「来ませんねえ…」

 「だな…まぁ、何も起きないに越したこたねぇだろ?
  何か起きたら如何にかするが、厄介事は出来るだけ起きてほしくねぇってのが本心だぜ。」

 「まぁ、クロウの言う事も尤もだよな。」

 屋上待機のスバル、クロウ、ヴィータもこんな会話が出るほど。
 確かに厄介事は起きないに越した事は無いし、そちらの方がいい。

 無論警戒は怠らないが。

 「まぁ、俺のBF達も警備に当たってるから何かあっても如何にかなんだろ?
  それに、ヴィータも一緒なんだ、負ける気がしないぜ俺は!」

 「お?そう言われたらアタシだってやる気出ちまうぞ?」

 あの模擬戦以降、クロウとヴィータは仲が良い。
 まるで本当の兄妹のように。

 大凡警備の任とは思えないが、其れが逆に良い。
 クロウとヴィータのやりとりが、フォワード陣から要らぬ緊張を取り去ってくれているのだ。


 元々高いポテンシャルを秘めてはいるが経験不足のフォワード陣。
 現場での緊張が解れるのは良い事だろう。



 「けどま、起きてほしくない厄介事に限って起こるモンなんだよなぁ…」

 「何が来ようと関係ねぇ!
  厄介事引き起こす馬鹿は、アタシ等で纏めて叩きのめすだけだぜ!」

 「へっ、そう来なくちゃよ!!」

 平穏無事に済まないのは最早当然の事なのだろう。
 クロウ達の視線の先には、武器を携えてこちらに向かってくるコートの男と、人では無い人型の『何か』。

 「来るなら来やがれ!頼むぜ『BF−孤高のシルバー・ウィンド』『BFT−漆黒のホーク・ジョー』!」
 BF−孤高のシルバー・ウィンド:ATK2800
 BFT−漆黒のホーク・ジョー:ATK2600



 停止勧告をしたところで止まるような相手では無いだろう。
 ならば打って出るが上策。

 無論イキナリ突撃するような事はしない。
 状況を見極めるのも大切だが…


 『ライトニング02よりスターズ02へ、地上でガジェットを数機確認した、此れより迎撃行動に入る!』


 シグナムからの通信が入った。
 此れで決定、空の連中もスカリエッティの一味と見て間違いない。

 「了解!此方も上空に襲撃者と思しき者を2名視認!戦闘に入るぜ!!」

 ヴィータも空からの襲撃者に対応すべくシンクロカートリッジを起動。
 黒く染まった騎士服は、夜空の戦闘では意外と有利かもしれない。

 「おぉっと、ヴィータなんか敵さんが増えたみたいだぜ?」

 「ガジェット…!」

 そしていざ戦闘と言う所で上空にもガジェットが出現。
 ハッキリとした姿は夜空に紛れて見えないが、有翼の、戦闘機のようなシルッエットしている。

 「はっ、何がどれだけ出てこようと関係ねぇ!全部打っ叩く!!」

 「そうだよな当然!ブラックバード!」

 『行くぜ大将!』

 「行きましょう!」

 ヴィータが夜空へと舞い上がり、クロウとスバルも夫々夜空に『道』を展開し襲撃者に向かって行く。
 ブラックバードもやる気充分だ。


 ただ、新たに現れた戦闘機の様なガジェット。
 其れがクロウにとって、実は見慣れたものである事が分るのは、少しばかり先の事である。








 ――――――








 異変はホテル内部でも起こる。



 ――ズゥゥン…



 突然の大きな振動。
 オークションに参加していた者達の中には、バランスを崩して倒れるものも少なくない。

 「へ!?」

 「はやて!」

 はやてもまた突然の振動にバランスを崩しかけるが、其処は一緒に居るのが遊星だ。
 すぐさま抱き抱えるようにしてはやてを支え、転倒を防ぐ。

 だが、逆に其れがはやての思考を停止させた。
 偶発的とは言え、大好きな遊星に抱き抱えられたはやては瞬間沸騰!
 あっという間に耳まで真っ赤、なんとも初々しい。

 「ゆゆゆ遊星!?///

 「大丈夫か?」

 「だだだ大丈夫やで?うん、大丈夫。田中のマー君が先発で出てきた楽天くらい大丈夫や!///

 「?」

 思考が暴走してるのか少々言ってる事は意味不明であった。


 が、其処は流石に部隊長。
 今の揺れが自然発生の地震で無い事は分っていた。

 「はやて、今のは…」

 「うん、地震やない――ちょお借りるで!」

 『地震か!?』と慌てる市民を前にはやての行動は早かった。
 オークション司会者からマイクを奪い取ると、すぐさま彼等の避難誘導に乗り出す。

 『時空管理局・機動六課司令の八神はやてです。
  皆さん、この揺れは地震やありません、もっと人為的なものです。
  最近話題のガジェットドローンが、オークションの品目当てで現れた可能性があります。
  皆さんは此れより、警備に当たっている機動六課隊員の指示に従って安全な場所に避難してください。』

 実に鮮やか。
 自ら六課司令を名乗ることで混乱を押さえ込み、更に警備に六課が当たっているという事を明らかにする事で市民の不安を払拭。
 其の上で避難指示に従うように言い、一切の混乱無く市民のホテルからの退去を行う。

 無論其の間にもオークション会場の外に居るシャマルとザフィーラに避難誘導を行うように指示するのも忘れない。


 加えて、出品品のチェックをしていたなのはとフェイト、アリシアとも連絡を取り状況を整理。

 流れるような動きは、紛れも無く部隊を取り仕切りる司令の姿そのものであった。

 「…予想通り来たか…なのはちゃんの方にもガジェットが出てきたらしいし、外でも交戦中や。
  遊星、私等は中に入ってきたガジェットの掃討を行うで?」

 「あぁ、分った。ステラ!!」

 『了解しました。ライディングモード起動、スピードカウンター初期値を7に設定。
  バリアジャケット展開、起動完了しました。』

 遊星もステラを起動しすぐさま飛び乗る。
 はやても騎士甲冑を展開して其の後ろに腰掛ける。

 ホテル内でDホイール?と思うなかれ。
 市民の避難誘導は的確に行われているし、避難路もある程度絞り込んである。

 と言う事はつまり市民がまるっきり居ない空の廊下は存在しているのだ、避難路になって居ない場所が。

 其処を使えば出品品の保管庫へは歩くよりもDホイールを使った方が速いは当然の事。
 やや狭い場所だが、もとより道なき場所でライディングデュエルを行っていた遊星にはそんなもの無問題だ。

 はやてが飛び乗った事を確認するとエンジン全開で会場から飛び出し目的地を目指す。

 既にガジェットは倉庫に向かってるのか1機も見かけない。
 まぁ、目的地までにスムーズにつけるのなら問題は一切無い。



 だが、世の中早々巧くは行かないものだ。

 「火の玉!?」

 「此れは…まさか『ファイヤーボール』か!?」

 2人の行く手に無数の火球が突如として降り掛かってきたのだ。
 遊星は巧みなドライブテクニックで其れを避けるが、火球は止まらず降り注ぐ。

 しかもソレは如何やらカードの力を使ったものであるようなのだ。
 なんとも厄介だ。

 「カードやと!?…まさかスカの奴、カードのデータももっとるんか?
  ホンマ、マッドは碌なモンやないな!遊星、そのまま突っ切って!火の玉は私が何とかする!」

 「はやて…あぁ、分った!」

 それでもスピードは落ちない。
 この火球ははやてが押さえ込む、それだけで遊星には減速する理由がなくなったのだ。

 単に信頼と言えるだろう。

 「ほな、見せてやるで『夜天の主』の力を!撃ち抜けバルムンク!」

 そして放たれた無数の魔力の短剣が火球を次々と消し去って行く。
 ただ降り注ぐだけの火球を処理するなど、歴戦の騎士であるはやてにとっては蚊を潰すよりも簡単なことだった。

 「凄いなはやて、10年前よりも更に強くなってるじゃないか。」

 「一杯頑張ったからな♪って、まだ来るかい!鬱陶しいわ、クラウソラス!!」

 更に規模を縮小した直射砲で更なる火球を粉砕!
 此れならば問題なく目的地に辿り着けるだろうと思ったその時!


 『ウガァァァ!!!』


 一体のモンスターが現れて攻撃してきた。
 緑色のまるで悪魔のような風貌のモンスターだ。

 「遊星、此れは!」

 「あぁ、『メンタルスフィア・デーモン』だ!」

 現れたのはシンクロモンスター『メンタルスフィア・デーモン』。
 高い攻撃力と、ライフゲイン効果を備えたレベル8の強力なシンクロモンスターだ。


 最早疑いようも無い。
 確実に敵はデュエルモンスターズの知識を有しているようだ。

 更に、

 「不動遊星…貴様には此処で眠ってもらう!」

 左腕にデュエルディスクを装備した覆面の男が現れた。
 恐らくはこの男がメンタルスフィアを操っているのだろうが…


 「悪いがお前の相手をしている時間は無いんだ。」

 「一昨日来いやアホンダラ!」

 遊星とはやては其の横を素通り。
 おまけに、


 『フアァァ!』

 『ギャー!!』


 メンタルスフィアが何時の間にか現れたターボ・ウォリアーに撃滅されていた。
 メンタルスフィアが現れた時点で召喚しておいたのだろう、見事である。

 「ほなサイなら〜〜〜!!」

 「逃がすかぁ!!」

 当然男は追ってくるが、状況は見極めなければいけない。
 良く見るべきだっただろう、『はやての姿が変わっていること』に。

 「ふっふっふ、この状態の私に勝つ気とは良い度胸や。
  せやけどな、身の程を知れやアホ!ちょっとだけ響け終焉の笛!ラグナロク・プチ!!」

 「シンクロ状態なら威力を抑えても相当なものだな。」

 これまた何時の間にか『ジャンク・シンクロン』とシンクロしたはやての一撃で襲撃者滅殺!
 ホテルが崩れないようにと加減した一撃だが、それでも相手をブッ飛ばすには充分だ。


 「ぐ!!…おのれ…!!忌々しき不動遊星が!!
  く、活動限界か……この借りは必ず返してやる!そして、六課の小娘、貴様にもな!!」

 如何やら襲撃者には活動できる制限時間が有るらしい。
 闇に紛れて消えようとするが、其の刹那に遊星は見た。見えてしまった……見覚えの有る特徴的な前髪と憎悪の篭った瞳が。

 「!!お前は、まさか…!!」

 「必ず殺してやる!必ず…!」

 程なく男の姿は消える。
 遊星はそれ以上は何も言えなかった。

 はやてもまた遊星と襲撃者の間には何か特別な事情が有ると思ったのか遊星に問うことは無かった。


 ともあれ此れで室内に邪魔は無い。
 程なく目的地である保管庫に辿り着き、其処でなのは達と共に迫り来るガジェットを鎧袖一触!

 ガジェットも六課隊長陣+不動遊星の前には只のくず鉄でしかなかったようだ。

 因みに、破壊したがジェットから使えそうなパーツを遊星がぶっこ抜いていたのは言うまでも無いだろう。








 ――――――








 外での戦闘もそろそろ終りが近づいていた。
 地上のガジェットはシグナムとエリオ、ノーヴェーがメインとなって撃滅。

 空の戦闘機型ガジェットもクロウとスバルが的確に叩き落して粉砕!

 薙刀のような武器を持った男には、遅れて合流したアインスが対応し、人型の何かにはヴィータが対応。
 此方も負けることは無い状態だった。

 尤もアインスと互角に渡り合っている男の技量は驚愕に値するのだが…



 だが、それ以上にクロウは別の事に驚いていた。

 「見たこと有るシルエットだと思ったが…ビック・バイパーかよ!!」

 全くの偶然だが、ホーク・ジョーが破壊したガジェットの一体の外部装甲がはがれ其の中身が明らかになったのだ。
 それはクロウも良く知るデュエルモンスターズのモンスター『超時空戦闘機ビック・バイパー』。

 多種多様なコンボが可能な機械族の通常モンスターだ。
 其れを見たクロウもまた『スカリエッティにはカードの情報がある』と看破していた。

 しかし、だからと言って止まらない。
 相手がなんだろうとこの場を通しはしないのだ。

 「ち、長引けば不利だな…此処で一気に決める!!レベル6のアームズ・ウィングに、レベル2の極北のブリザードをチューニング!
  黒き疾風よ、秘めたる思いを其の翼に現出せよ!シンクロ召喚、舞い上がれ『ブラックフェザー・ドラゴン』!!」

 『キアァァァァァァ!!』
 ブラックフェザー・ドラゴン:ATK2800


 戦局を見極め、クロウは自身のデッキ最強の黒翼の龍を呼び出す。

 「一撃でブッ飛ばす!合わせろスバル!!」

 「了解です、クロウさん!!」

 切り札を切るときはここ!
 クロウは己のデュエリストの勘の言うままにスバルにも指示を飛ばす。

 勿論それだけでは無い。

 「スピードスペル『Sp−イクシード・リミット』
  コイツは本来は俺のスピードカウンターが10個以上あるとき、俺の場のモンスター全ての攻撃力を1000ポイントアップするカードだ。
  だが、今の状況で使えば俺の仲間の力全てをアップするぜ!!」
 ブラックフェザー・ドラゴン:ATK2800→3800



 追撃のスピードスペルで今この場で戦うフォワード陣全ての魔力値を一時的に爆発的にアップする。

 其の効果は絶大!

 「おぉぉぉ…!遊びは終りだ!泣け、叫べ、そして……朽ち果てろぉぉぉ!!」

 アインスが目にも留まらぬ八連続の切り裂くような攻撃から更に相手を掴んで魔力を炸裂!
 男は落ちはしないものの相当なダメージを負った様だ。


 「ぶっ潰す!ぶっ叩く!撃ち砕く!!ぶっとべえぇぇぇぇ!!!!」

 『Raketen.』

 ヴィータも増した力に物を言わせて人型を文字通り『ぶっ叩く』。
 此方も一撃戦闘不能は間違いない。

 そして…

 「纏めてブッ飛ばすぜ!ブラックフェザー・ドラゴン、ビック・バイパー軍団を蹴散らせ!『ノーブル・ストリーム』!」

 「一撃必殺!ディバイィィィン…バスター!!!」

 放たれた黒炎と蒼の魔力がビック・バイパーを一機残らず撃墜!
 どちらが有利で有るかは態々聞くまでも無かった。

 「…退くぞ、これ以上は無理だ。」

 男も状況を見極め即時撤退。
 魔法陣が展開したかと思った瞬間に男と人型が消えたのを見ると、別に支援型の誰かがいたのだろう。

 「ち、逃がしたか。」

 「まぁ、ホテルは無事だし出品品にも被害無しだから任務は成功だろ?」

 「…ソレで手を打っとくか。」

 仕留められなかった事が不満そうなヴィータだが相手が退いた以上は無理に追う事も無い。
 既にはやての方から屋内は無事の報告も来ているのだ。

 ホテルアグスタでの戦闘は機動六課の勝利と言って良い結果だろう。



 だが、この戦闘において1人の少女が、其の心に暗い影を落としていたことには誰も気付く事はなかった…


















 To Be Continued… 






*登場カード補足



 Sp−イクシード・リミット
 スピードスペル
 自分のスピードカウンターが10個以上ある時に発動できる。
 エンドフェイズまで自分フィールドに表側表示で存在するモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。