「「「「「骨董品のオークション?」」」」」

 「其れが新しい任務なのか?」

 「せや。ホテル・アグスタで行われる骨董品のオークションの警備が次の任務や。」

 ある日の機動六課のブリーフィングルームでは新たな任務が言い渡されていた。

 その任務とは骨董品オークションが行われるホテルの警備。
 まぁ、骨董品の中には希少価値のあるお宝や何やらが紛れ込んでいる事は少なくない。

 そうなると其れを狙うコソ泥的な輩だって居る訳で、成程この任務は理に適っている。

 だが、其れを額面どおりに受け取らないのが遊星とクロウだ。


 「警備ねぇ?…それだけなら此れだけの戦力が集う六課が態々出張る必要はねぇよな?」

 「警備も確かに必要だが…本当の狙いはスカリエッティ一味の襲撃からの護衛か?」

 あまりにも鋭い勘に、しかしはやてはマッタク嫌味なく『にやっ』と口角を上げる。

 我が意を得たりとばかりの不敵な笑みだ。

 「流石やなぁ?デュエリストの勘には感服するばかりや――確かにただの警備が目的や無い。
  詳細は…アリシア二尉、宜しくたのむで?」

 「了解。じゃあ先ずはこれを見てね。」

 室内が暗くなり、光学モニターが起動し何かを映し出す。
 此度の任務は、如何やら簡単に済む物でも無さそうだ。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス83
 最新任務は競売会?』











 アリシアが映し出したのは、今回のオークションに出品される骨董品の一覧表。
 普通だったらオークション開催のホスト側が漏らす事無いデータだが、其処は執務官補の腕の見せ所。

 時空管理局所属の執務官補で二尉と言う立場を最大限に利用して吸い出せるだけのデータを吸い出したのだ。
 アリシアの行動力と度胸の強さだからこそできたと言う所だろう。


 そうして得た出品物の一覧。
 一見すれば何処にでもあるような骨董品の数々だが…


 「此れは…取引許可の出ているロストロギアが含まれている?」

 「お、よく気付いたなティアナ。
  そや、今回のオークションには取引許可が下りてるロストロギアも含まれてるんや。
  それだけの物を、あのマッドサイエンティストが放って置く筈が無い。
  それどころか、今まで奴さんが収集しとったレリックと勘違いしてガジェットが来る可能性もある。」

 ティアナの洞察力が冴え渡り、オークションの特徴を看破。
 はやても其れを正解だと言い、ホテル警備の全容を明らかにする。

 早い話が、この取得許可ロストロギアがスカリエッティの手に渡るのを防ぎたいのだ。


 たかが骨董品、されど骨董品。
 如何に取引許可が下りてるとは言え一応はロストロギア…そんな物が狂科学者に渡るなど考えただけでも恐ろしい。

 そもそも一般人には理解不能な思考回路を持った狂人が相手、警戒をしてし過ぎるという事も無い。


 今回の任務の前に、スカリエッティの事は六課フォワード陣にも伝えてある。
 判明した相手が広域指名手配の次元犯罪者と言う事で、皆一様に気を引き締めている。


 まぁ、ガチガチに緊張もしていたが、其処はクロウが巧くフォローしてくれた。



 其れはさておき、アリシアが端末を操作して画像が変わり大きな建物が映し出される。
 此れが件の『ホテル・アグスタ』だろう。

 シャマルとツヴァイを除いたヴォルケンリッター4人が既に現場入りしているとの事だ。
 …本当に警護と警備にしては凄まじい戦力だ。


 「それから、今回のオークションには闇オークションのコミュニティも数点出品してるから其れを抑えるのも仕事だよ。」

 「私等と遊星は建物の中の警護と違法品の発見摘発に回るから、前線部隊は副隊長陣に従うように…えぇな?」

 「「「「「はい!!」」」」」
 「おう、任せときな!!」


 緊張も解れたフォワード陣と、元より誰が相手だろうと退く事の無いクロウの返事はなんとも頼もしい。

 少なくとも此れなら『任務失敗で部隊壊滅』と言うような事態だけは絶対に起きないだろう。


 「うん、良い返事や。
  さてと……唐突やけど、今回のこの任務から、新たなメンバーが六課に『出向』扱いで来る事になった。」

 「新メンバーですか?」

 「せや。まぁ、スバルとノーヴェには馴染み深い人やけどね?」

 「「?」」

 何か含んだような物言いだが……こう言う時は実にタイミングよくその人物が現れる物だ。


 「失礼します。」

 ドアのノック音と同時に女性の声。
 はやては『来たか』とばかりに扉に目をむけ、スバルとノーヴェは『今の声は!?』と言わんばかりに顔を見合わせている。

 「丁度良いタイミングや、入ってきてや。」

 「はい。」

 扉を開けて入ってきたのは、蒼いロングストレートの髪が印象的な物腰柔らかそうな女性。
 だが、その柔らかそうな雰囲気の中にも凛とした強さが見て取れる美人さんだ。

 「ギンガ!?」
 「ギン姉!?」


 そしてこの女性は如何やらノーヴェとスバルの姉で有るらしい。
 如何にも自分の姉が、自分が所属する部隊に出向してくるとは思わなかったようだ。

 そんな2人の妹に笑顔を送り、しかし女性は表情を引き締め敬礼をして挨拶をする。

 「本日付で、陸上警備隊108部隊から機動六課に出向しましたギンガ・ナカジマです、宜しくお願いします!」

 其れに倣いフォワード陣も敬礼して返す。

 「へ〜〜…スバルとノーヴェの姉ちゃんか。クロウ・ホーガンだ、まぁ宜しく頼むぜ!」

 尤もクロウは何時も通り砕けた感じだ。
 部隊の中ではどうかと思われる態度だが、はやても其れを咎める気は無い。

 寧ろ、クロウのこの人当たりの良さはありがたいとさえ思っているのだ。

 「アンタもこれからは一緒に戦う仲間だろ?息を合わせてばっちし行こうぜ!」

 「え?…はぁ…」

 困惑気味だがギンガもスッカリ出向の緊張からは解放されたようだ。
 クロウ・ホーガン様様である。

 次いで、

 「不動遊星だ、宜しくなギンガ。」

 「貴方が…!噂はかねがね…八神司令と共に大事件を解決したとか――お会いできて光栄です。」

 恐らくははやてか、或いははやてと縁のある誰かから聞いていたのだろう、遊星の事は知っているらしい。
 差し出された手を握り返し握手を交わす。

 機動六課に又新たな仲間が加わった瞬間だった。


 「早速で悪いけど、ギンガにはフォワード陣と共に外での警備を担当してもらう事になるんやけど…大丈夫やね?」

 「はい、お任せ下さい。」

 そしてギンガの役目もスバルやクロウと同じく建物外の警備担当だ。
 外の護りは此れで相当に強固になっただろう。


 「ところでシャマル先生、その箱はなんでしょうか?」

 と、唐突にキャロがシャマルの足元に有る箱について尋ねた。
 確かにちょっと大きめな箱は気になるだろう。

 「うふふ、隊長陣と遊星君の『お仕事着』よ♪」

 とりあえず大切な物らしい。

 序でに、

 「そういや遊星、俺のブラックバードは?」

 「あぁ、デバイス改造は出来てる…渡しておくな。」

 クロウのブラックバードも遊星の手で改造されていた。
 Dホイールをデバイスに改造するとは、不動遊星矢張り侮れない。

 「へ〜〜、黒い翼のペンダント…待機状態って奴か?」

 「あぁ。『デュエル』の掛け声で起動するようにしてある。」

 「成程な…んじゃあ、デュエル!!」

 そして早速起動!
 デバイス起動特有の光が溢れ、そして起動完了!

 クロウの服装はWRGPで使っていたライダージャケットに変わり、そしてブラックバードもDホイール形態で存在している。

 「おぉ!此れがバリアジャケットか!なんかシックリ来るぜ!ブラックバードも、宜しくな!」

 『おう!任せろ大将!』

 「へへ…中々良いAIじゃねぇか!気に入ったぜ相棒!」

 どうやら搭載AIは男気満点らしい。
 クロウの相棒としてはピッタリだろう。


 新たな仲間を得て、そして新たな任務が始まる。








 ――――――








 そして任務開始数分前。
 ホテル・アグスタの一室は華で満ちていた。

 シャマルが用意した『お仕事着』に着替えた六課隊長陣とアリシアが居たから。

 4人とも夫々の魔力光をイメージしたドレスに身を包み、髪型も何時もとは変えている。

 なのは、フェイト、アリシアは何時もは縛っている髪を解きストレートロングを強調。
 はやては分け方を何時もとは逆にし髪留めも外している。

 なんと言うか『大人の女性の魅力全開』と言わんばかり。
 胸元が大きく開いたドレスが更に魅力を倍増している。

 フォワード陣が見とれてしまうのも無理ないだろう。

 「ドナイや?」

 聞かれても無言で頷くしかない。
 それ程に極上なのだこの華は。


 更に!

 「スマナイ、こういう服はなれてなくて時間が掛かった。」

 ダークスーツに身を包んだ遊星参上!
 深いグレーのスーツは遊星に実に良く似合っている。

 「着慣れていないんだが…おかしくないか?」

 「なんだよ、そういう格好も似合うじゃねぇか遊星!」

 矢張り着慣れないせいか、遊星は不安が有るらしいがクロウは高評価。

 「遊星…カッコイイ。」
 「良く似合ってるの…」
 「流石極上イケメン…」

 「イケメンは服を選ばないって言うけど…」
 「あぁ、其れを体現してるぜ遊星さんは…」
 「いや、幾らなんでも完璧に着こなしすぎじゃない?」

 六課メンバーも高評価だ。
 だが、

 「………」

 はやては無言。
 よくよく見ればその顔は真っ赤になっている。

 「はやて?」

 「遊星………結婚して。」

 そしてぶっちゃけた。
 ドレスアップした遊星に完全にやられたと言う事だろうが、色々ぶっ飛びすぎである。

 「え?…大丈夫かはやて?」

 「ふえ!?あ、アレ?私は一体?」

 序でに忘我状態だった。
 とりあえずドレスアップ遊星の破壊力は凄かったらしい。

 「調子が悪いんなら無理はダメだぞ?」

 「だ、大丈夫やて!その…ちょっと遊星に見とれただけやから…

 「?」

 「な、何でも無い!ほな、行こか?」

 誤魔化すように、遊星の腕に自分の腕を絡ませはやてはオークション会場に。

 「「はやて!?」」
 「待って、はやてちゃん!!」


 其れを追うようになのはとテスタロッサ姉妹も会場に。
 なんとも慌しい事だ。


 「…なぁシャマル、はやてのやつ、若しかして…」

 「多分考えてる通りよクロウ君…」

 「だよなぁやっぱし…」

 クロウにははやての気持ちはバッチリ分ってしまったようだ。
 まぁ、目下の問題は遊星が其れに気付くかどうかだが…







 だがしかし!


 ――着飾ったはやてを見た時に一瞬胸が高鳴ったが…一体なんなんだ?


 遊星は遊星で理解できなくともはやてを意識したらしい。
 果たして気付く日は来るのかどうか…





 閑話休題(ソレは兎も角)





 オークション会場は既に多くの客で賑わっている。
 まぁ、この高級ホテルでのオークション故に富豪層が目立つのは仕方ない事だろう。

 が、その会場においてはやては注目を集めていた。

 機動六課設立の模様はミッド全体にテレビ中継され、そして六課を取り仕切る若き美人司令の事は誰もが知っている。

 その超有名人の美人司令が、これまた極上の男性を連れて会場に現れたとなれば注目もやむ無しだ。

 「なんか注目されていないか?」

 「ん〜〜…まぁ、私は結構有名やからね、その有名人が男同伴で現れた事に注目しとるんやろ。」

 「…大丈夫なのか?」

 「大丈夫や、会場にはゴシップ系雑誌の記者入れへんようになってるし、オークションの様子以外は撮影禁止やから。」

 「成程な。」

 取り合えず、要らん心配はする必要は無いようだ。

 少し離れた場所ではなのはがユーノと旧交温めている。
 富豪層が中心のオークションとは言え意外とフランクな部分も有るらしい。


 だが、遊星もはやても、なのはもテスタロッサ姉妹も警戒は怠っていない。
 アリシア以外の4人は何時でもデバイスを起動できるようにしてるし、アリシアも即時部隊間での通信が出来るようにしている。


 抜かりは無い。
 後はオークションが始まるのを待つだけだ。








 ――――――








 『…という事だ、お願いできるかな?』

 「…承知した。」

 同刻、ホテルの真下の地下では、一人の男がスカリエッティとの通信を終えていた。
 恐らくはスカリエッティの協力者だろうが…


 「マテよ旦那!それで良いのかよ!?」

 「いた仕方あるまい…俺の命を握ってるは奴だからな…目的果たすまでは死ぬ訳に行かん…!」

 「旦那…」

 長身の男の傍を浮かぶ一体の人型の『何か』は…やるせない感じだ。

 恐らくはスカリエッティへの協力は本心ではない。
 だが、従う他に無いと言うところなのだろう。

 「俺はアイツに問わねばならん…アイツの本心を!!」

 「…分ったよ旦那…とことん付き合うぜ!」

 「スマンな。」

 男は薙刀のような武器を展開し、少女も炎熱を迸らせる。



 オークション会場である、このホテル・アグスタが戦場に変わるのは――如何やら間違いないようだ…













   To Be Continued… 






 *登場カード補足