模擬戦終ったその後で、やって来るは司令室。
室内は照明が消され、スクリーンのような壁面には映写機での光が映し出されている。
「ほな、始めよか?頼むでフェイトちゃん。」
「うん、此れがこの前得た情報なんだ。」
フェイトが映写機にあるフィルムを差し込むと、なにやら映像が…
映し出されたのは1人の男。
特徴的な紫色の髪に、濁った金色の目……何処からどうみてもまともな人間には見えない容姿だ。
「はやて、此れは一体誰なんだ?」
「ソレを今から説明する……男の名は『ジェイル・スカリエッティ』。
最近多発しとる無人機事件での無人機械兵器の製作者にして――最高評議会の手駒らしいわ。」
如何にもこの男――ジェイル・スカリエッティは六課にとって極めて面倒な輩であるらしい。
果たして、スカリエッティとは何者なのだろうか?
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス82
『狂科学者の影…』
「ジェイル・スカリエッティ…」
「は、見た目もまともじゃねぇなら精神構造もぶっ壊れてやがるな。
最高評議会の脳味噌共に力を貸してるなんて正気を疑うぜ。」
だが、どんな人物か詳細が分らなくとも、最高評議会の一味と言う時点で碌な者ではないだろう。
そもそも、この映像だけで判断しても濁りきった瞳は不気味さしか感じない。
クロウが言うことも間違いでは無いだろう。
「より正確に言うなら、最高評議会に作られたって言った方が正しいかな?」
「あ?如何言うこった?」
「彼は、最高評議会が『アルハザード』って言う失われた世界の――僅かに残ったデータから再生された人なんだ。
その、アルハザードで天才科学者と言われた人物を――不完全ながら再生した存在なの。」
「はあ!?んだ、そのインチキは?大概にしやがれってんだ!!」
何処までも最高評議会の業は深いらしい。
失われた技術で過去の人物を再生など狂っているとしか思えない。
「不完全と言うのが気になるが……最高評議会は何故コイツを?」
「失われた技術を再生させて、自分達が更に生き長らえるためやろうな。
最高評議会の連中は、或いは肉体を再生させて、その身体の脳に自分の記憶やら何やらを転写する心算かも知れへん。」
「延々とソレを続けることが出来れば、擬似的と言え正に『不死』であるのと変わらないからな…」
「呆れて物が言えねぇ……」
はやての予想は恐らく間違っては居ないだろう。
そもそもスカリエッティの誕生も、或いは肉体再生の実験だった可能性もあるのだ。
更に…
「記憶の転写は兎も角、肉体の再生技術は略完璧に出来上がってると思う――うぅん確実に出来てる。
だって、お母さんはソレを利用して私を作ったんだから。」
フェイトの衝撃告白。
この事実を知っているのは、六課ではなのはとアリシア、後は遊星のみではやてですら知らなかったことだ。
「ちょお待って、初耳なんやけど!?」
「んだよ、フェイトの母ちゃんは…」
「あ〜〜〜違う違う、お母さんは私の無理なお願い聞いてくれただけだから!!」
怪訝な顔になる一同に、アリシアがとっさにフォロー。
最も今度は『どんな願いだ?』的な感じになってるが…
「私の5歳の誕生日の前にね、お母さんから『誕生日には何が欲しい?』って聞かれて、私『妹』って言っちゃったんだ。
でも、お母さんはその時既に離婚してて新しい相手もいなかったから土台無理な話だったの。
けど何て言うか…お母さんはちょっと親バカって言うか娘愛なとこが有って、何が何でも私の願いを叶えようとしてくれたみたいで…」
「そんでクローン技術の転用で双子の妹の誕生ってか?…ある意味スゲェ…」
「因みに、フェイトとアリシアの色んなことにはこっちに飛ばされた俺の母さんも係わっていたそうだ。」
「マジか!?」
「うっそ〜〜ん…」
見事なフォローである。
まぁ、所々脚色した話だが完全な嘘話では無いのでまぁ良いだろう。
「ゴホン…ま、まぁフェイトちゃんの事はプレシアさんの究極的娘愛の結果として無問題や。
やけど、こっちはそうは行かん……アリシアちゃん。」
「OK。フェイトと事件の捜査してて分ったことなんだけど、違法魔導師の実験の裏にはスカリエッティが居るんだよね。」
「最高評議会が裏で手を引いて居るなら当然だけど…きな臭いのはスカリエッティが独自に何かを開発してた可能性があるんだ。」
話を元に戻し、今度はスカリエッティが違法魔導師の研究に携わっていると言う話に。
それだけならば最高評議会の手先であるのだからおかしくは無い。
だが、問題は『独自に何か』と言う点。
敢えてこういう言い方をしたと言う事は、最高評議会ですら知らない何かをやっている可能性があるのだ。
「独自に…無人機械兵の製造と運用か?」
「それだけならまだマシだったかもね…」
「んだよ、マダなんかしてやがんのかよ、この魔導サイエンティストは?」
おまけに、如何も遊星が言う様な事だけでは無いらしい。
無いらしいのだが…
「魔導サイエンティスト…つまりマッドサイエンティスト……」
「どうかしたか、アインス?」
「いや、超高速回転する阿久津を思い出してしまって…」
「あぁ……アレは無いな。」
アインスが要らん事を思い出したらしい。
確かに彼もまたマッドサイエンティストと言えるのかもしれない……今は如何でも良いが。
「と、話の腰を折ったな――スマナイ、続けてくれ。」
「うん…無人機械兵の製造と運用だけなら兎も角…その機械と人造魔導師の融合を行ってるみたいなんだ。」
「なに?」
「機械で作った素体に、クローン培養した人の生きた細胞を被せる――言わばサイボーグ戦士『戦闘機人』。
スカリエッティはソレを作ってる可能性があるんだ。」
「マジかよ……外道は何処までも外道だぜ!!」
本当にトンでもない事をしている。
あくまで此れは此れまで関わった事件からの推測に過ぎないが、だがそれでもハズレでは無いと確信が持てる。
言うなればソレは経験から来る勘。
数多くの事件に関わった彼女達だからこそ、少ない情報から的確な『真相』に辿り着ける事ができる。
「ソレにサイボーグだと?ソレもテメェの手駒としてだろうが…ふざけんな!!
俺と遊星の世界にもサイボーグみてぇな奴は居たが…あいつ等は未来に起こる破滅を防ぐために自分を機械化してまで生きてたんだ!
そうだ、ゾーンやアポリアにはやらなきゃなねぇ事があったから、苦渋の選択のサイボーグ化だった!
けど、この狂科学者はテメェや脳味噌共の欲望の為にサイボーグ戦士作るって……外道にしてもクズ野郎だ!」
「クロウもそう思うか?」
「アタリめーだろヴィータ!
こんなクソッタレは、一発ぶっ飛ばしとかねぇと如何にも治まりがつかねぇ!!」
「実はアタシもだぜ!
ずっと、違法研究の黒幕をアイゼンでぶっ潰してやりたいと思ってたんだ!!」
クロウとヴィータの怒りは当然の事。
いや、表に出さないだけで遊星も、はやても、そしてなのは達もその胸の内では怒りが渦巻いているだろう。
許せない…許してはいけない外道・外法としか言えない研究。
神をも恐れぬ悪魔の所業としか言えないものだから…
だが、はやてには別の懸念があった。
「ヴィータとクロウの怒りは尤もや…私かて、この腐れ外道を許す気は微塵も無い。
やけど…気になるんは、このマッドサイエンティストが何処まで脳味噌共に従順かや。
もしホンマに独自に戦闘機人つくっとるんやったら…脳味噌共にはソレを知らせていない可能性がある。
最悪…スカリエッティが脳味噌の制御下から独立して暴走する可能性は0やない…」
「確かに、力を手に入れた狂人が何をしでかすかはマッタク予測が付かない部分があるからな…」
ソレはスカリエッティの暴走。
遊星の言うように、力を手にした狂人はソレを使って何をしでかすかはマッタク分らない。
場合によってはスカリエッティが最高評議会に牙を剥く可能性も0ではない。
いや、高確率で起こると思っていた方がいいだろう。
正直に言うなら、最高評議会が瓦解するのは別に構わない。
はやて達の目的も最高評議会の解体にあるのだから。
だが、それでスカリエッティが暴走したら厄介極まりない。
只でさえこのスカリエッティの内包する力は未知数なのだ……出来れば暴走前に逮捕・拘束したいと言うのが本音だろう。
「アノ脳味噌だけでも面倒っぽいのに、更に魔導サイエンティストとかマジで笑えねえ…
けど、俺達のやる事は決まってんだ!
結局の所、脳味噌共をぶっ潰して、この外道をとっつかまえりゃ良いんだろ?」
「端的に言えばそう言う事や。
やけど…スカリエッティの方はまだ分らん部分が多すぎやから深入りは禁物や。
基本的には、起こる事件に対処しながら最高評議会が言い逃れできんような確固たる証拠を掴む。
そんで、その過程でスカリエッティの全容を明らかにして、逮捕・拘束…そういう流れや。」
大雑把では有るが大凡の道筋は既に出来ているようだ。
そう言う意味では、今この時に遊星達がこっちに来てくれたのは僥倖だっただろう。
なんせ遊星が居れば情報処理系&技術系の能力は倍以上に跳ね上がる。
実戦の場での戦力もアインスとクロウの加入は実に大きい。
遊星、クロウ、アインスの六課加入は非常にありがたいことだったのだ。
「とりあえず、現状で分ってる事は此処までや。
今日は此れで解散……やけど、相手は有る意味テロリストや…各自、警戒は怠らんようにな?」
「了解です、主はやて。」
はやての会議終了の言葉に、シグナムが代表する形で答えて会議は終了。
各々司令室を出て帰宅の途につくのだが…
「はやては帰らないのか?」
「ん?あ〜…まだちょっと書類の整理が残ってるんや、遊星は先に帰ってて?」
はやてはまだちょっと仕事が残っているらしい。
普段はツヴァイも手伝っているのだが……今日はアインスと姉妹の仲を深めるという事で先に帰したようだ。
で、遊星にも先に帰って良いというが…遊星がそれを受けるはずが無い。
「水臭いな、俺も手伝うよ。」
「え?そんなえぇて、私の仕事やし!」
「だが、1人よりも2人のほうが早いだろう?…俺がそうしたいんだが…迷惑か?」
「う……そないなはず無いやろ……ほな、お願いしよかな?」
「あぁ、任せておけ。」
手伝いを申し出れば、はやても一度は断ろうとするが、『俺がそうしたい』と言われては断れない。
まぁ、はやてとしては本音は一緒に居て欲しかったのでマッタク問題は無いのだ。
面倒な書類整理だが、思い人と一緒ならソレもまた少し違ったものに成る。
部隊長で総司令のはやて故に多忙だが、本日の書類の整理は少し嬉しく楽しい時間となったようだ。
――――――
「さて、潜入している彼女から送られてきた映像だが…如何かね?」
「僕も見たことがない戦術だが…負ける気は無いな。」
何処かにある研究所のような施設。
そこで3人の男がモニターの映像を見て何かを話していた。
1人は紫色の髪の男で白衣を身に纏っている。
もう1人は長身痩躯で眼鏡をかけ、逆立った茶髪とアジアテイストの服装が目を引く。
「…あいつの仲間か…丁度良い、復讐の時だ…!」
そしてもう1人は跳ねた前髪が特徴的な長身の男。
モニターに映っていたのは、クロウが参加していたアノ模擬戦の映像。
紫の髪の男が言うには、管理局に潜入しているスパイからの映像なのだろう。
「復讐か……ふむ、君の宿命の相手のようだね『 』君。
だが、少し待ってくれたまえ…六課に仕掛けるのは今じゃない…まだ準備が出来ていないからね。」
「あぁ、分っているよミスター・スカリエッティ…だが、奴は…不動遊星だけはこの私が葬ってやる!!」
そう、この紫の髪の男こそがジェイル・スカリエッティ。
残る2人は協力者と言う所だろう。
火種は既に投下されている。
果たしてその火種は火種で終るのか、それとも全てを焼き尽くす獄炎となるのか…ソレは誰にも分らない事だ。
今はまだ…
To Be Continued… 
*登場カード補足