午前中の訓練は基礎のフィジカルトレーニング。

 だが基礎と侮る事なかれ、その内容は結構ハードだ。
 じじつ、トレーニングを終えたフォワード陣は…

 「はぁ…やっぱキツイね…」

 「まぁ、基礎は大事だかんな…」

 「はぁはぁはぁ…」

 「ぜぃぜぃぜぃ…」

 「はふぅぅぅ…」

 スバルとノーヴェを除いて全員がグロッキーであった。
 まぁ、若さゆえに回復も早く回復量も多いので昼休みの1時間で確り回復はするだろう。


 さて、そのフォワード陣だけでなく、この訓練を受けていたものが居る――クロウだ。

 『どうせなら』と参加したのだが、息が上がるどころか全然平気!
 スバルやノーヴェと比べてもマダマダ元気は有り余っているようである。

 「何だよ、此れくらいでへばっちまったのか?こんなもん準備運動だろうがよ。」

 「はぁ、はぁ……く、クロウさんは何者なんですか?」

 エリオの疑問はご尤も。
 自分達が息を上げるフィジカルトレーニングに初参加で楽勝ってのは信じられないだろう。

 「何って…デュエリストだ!決まってんだろ!」

 それに対するクロウの答えはシンプルなもの。
 だが、フォワード陣は全員が思った――『デュエリスト恐るべし』と。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス80
 六課の日常風景?』











 ともあれ午前中の訓練は此れにて終了。
 尚、遊星はトレーニングには参加していない。

 サボったのではなく、はやてから『フォワード陣のデバイスメンテナンス』を頼まれたからだ。

 フィジカルトレーニングは基礎体力の向上が目的なのでデバイスは使用しない。
 簡単なメンテナンスを行うには絶好の機会だったりするのだ。

 「ドナイや?」

 「あぁ、全て問題ない――此れを作ったのはマリーなのか?」

 「ん?あ〜〜ちゃうちゃう、此れ作ったのはシャーリーや。」

 「シャーリー?」

 聞きなれない名前だ。
 てっきり遊星は、デバイスの出来具合からマリーが作ったものだとばかり思っていた。
 フォワード陣のデバイスには、以前に遊星がマリーに教えた技術の片鱗が見て取れたから。

 だが、どうも違うらしい。

 「シャリオ・フィニーノ。通称シャーリー。六課の、主にフォワード陣のデバイスの開発・メンテナンスを担当してくれとる。
  マリーさんは、主に私等隊長陣のデバイスを担当してくれとるんよ。」

 「そうなのか。まぁ、此れだけ人が多いと、デバイスのメンテナンスにも人手が居るだろうしな。」

 「…まぁ、私を除いた隊長陣のデバイスは『凄すぎて』マリーさん以外にメンテナンスが出来へんのやけどね?」

 「マリー以外では無理なのか?」

 「遊星…自分がドンだけなのはちゃん達のデバイスに魔改造施したか少し自覚しよか?」

 マッタクである。
 なのはとフェイト、そして騎士達が管理局入りした際にデバイスがあまりの性能に『ロストロギア』扱いされそうになったのは秘密である。


 「まぁ、ソレはソレとして、マリーさんとは多分昼休みに会えるんと違うかなぁ?
  基本管理局員全員のデバイスメンテナンスを引き受けてる人なんやけど――まぁ、六課サイドやから。」

 マリーも矢張り六課側だった。
 ソレでいながら『全局員のデバイスメンテナンス』を引き受けていると言う事は、評議会派のデバイスから何か情報を引き出してるのかもしれない。
 反評議会派恐るべし。

 「マリーも頑張っているんだな……だが…」

 「ドナイした?」

 「いや、もう彼女の方が年上なのに、まだ俺を『師匠』と呼ぶんだろうか?」

 「あ〜〜…まぁ、其れ位は容赦したってや?尊敬の念の表れやから。」

 「まぁ構わないがな。」

 不動師匠も色々大変そうである。








 ――――――








 「取り合えず、先ず一言突っ込みてぇ…」

 「「へ?」」

 「スバル!エリオ!!お前等そのフザケタ量のスパゲッティは一体なんだ!?」

 昼休みの食堂、全員が夫々の昼食メニューを手に席についたところでクロウの突っ込みが怒号と共に入った。

 無理も無い。
 スバルとエリオが手にしているのは山盛りのスパゲッティ……ではなく『スパゲッティの山』
 ぶっちゃけ座るとスパゲッティの山で2人の姿は見えなくなる。
 推定20人前はあるだろうこの量に突っ込むのは仕方ない。

 だって、明らかにこの量を1人で食べるつもりでいるのだから。

 「何だと言われても…」

 「今日のお昼ご飯…ですよねぇ?」

 「いや、明らかに量がおかしいだろ!!喰いすぎだろ!そんなに喰って午後の模擬戦動けるのかよ!?」

 「「はい。」」

 「うそだろぉぉぉ!?」

 なお、はやてをはじめとした隊長陣、そしてティアナとノーヴェとキャロは何も言わない。
 最早馴れたと言うところだろう。

 「クロウ、2人とも成長期だから良く食べるんじゃないのか?」

 「いや、ソレにしたってスゲェだろ…あの量が身体に納まるのかよ?」

 「ソレが納まるんだよ、アタシの姉貴とエリオの場合は――ったくなんでアタシは食欲普通なのに姉2人は大喰らいなんだ?」

 スバルの大食いはノーヴェにも謎であるらしい。
 また遊星の言う事も一理有るが、量は如何とも……

 「はぁ…まぁ、飯が美味く食えんなら問題ねぇか?けど、頼んだ以上は残すんじゃねぇぞ?」

 「「はい♪」」

 「なら良し!好きなだけ喰え!」

 クロウの言う事は自身がサテライトでギリギリの生活をしてきた経験から。
 その日暮らしであった頃は食べ物は兎に角粗末に出来なかったのだ。

 まぁ、スバルもエリオも其処は分かっているようだから良いだろう。


 程なく食事が始まり、いやスバルとエリオの食べっぷりの素晴らしい事。
 スパゲッティの山が見る見る無くなり…

 「「おかわり!」」

 「もう何も言えねえ…」

 お見事である。
 そんな賑やかな食事風景に……


 「師匠〜〜〜!!!」

 「マリー?」

 現れたるはデバイスマイスター、マリエル・アテンザ。
 憧れの師匠・不動遊星に迷わず突貫である。

 「八神司令から連絡受けて、驚きましたよ〜〜!お久しぶりです、変わりませんねぇ?」

 「あぁ、久しぶりだな。マリーもあまり変わっていないな。」

 嬉しそうなマリーに、遊星も笑みがこぼれる。
 この辺はメカニック同士で通じるものがあるのだろう。

 「ん?マリー、後ろに居るのは?」

 「あ、紹介しますね!私と同じデバイスマイスターの資格を持つシャリオ・フィニーノです。」

 「あぁ、彼女がはやてが言っていた…」

 そしてもう1人。
 マリーと一緒に来た眼鏡っ娘――彼女がはやての言っていたシャーリーであるらしい。
 どうやら午前中はマリーの仕事を手伝いに行っていた様だ。

 「シャリオ・フィニーノです。お噂は八神司令やマリーさんから聞いてます。これから宜しくお願いしますね?」

 「不動遊星だ、此方こそよろしくな。」

 そして握手。
 此れが後に『管理局最強メカニックトリオ』と呼ばれる3者が初めて一同に会した時だった。

 「シャーリー、遊星の腕は天下無敵や。メカニックで聞きたいこと有ったら聞くとええよ?」

 「はい、勿論その心算です!」

 若しかしたら遊星にメカニックとして2人目の弟子が出来る日は遠くないのかもしれない。


 「「おかわり!!」」

 「マジか!?」

 「突っ込むだけ無駄だ、クロウさん…」

 取り合えず、昼休みは平和であった。








 ――――――








 そして午後!
 いよいよ模擬戦。

 朝にはやてが発表したように、なのは&ヴィータvsフォワード陣+クロウと言う組み合わせ。

 既に仮想戦闘空間は起動しており、フィールドは廃都市の様な装いとなっている。


 さて、この模擬戦に先立ち、フォワード陣は作戦会議の真っ最中。

 「フォーメーションは何時もと変わらずなんだけど……クロウさんは出来ればスバルかノーヴェと行動を共にしてくれますか?」

 「別に構わねえが、何でその2人限定なんだ?」

 「クロウさんはそのバイクに乗って戦うんですよね?だったら、空中に『道』を作れるその2人と一緒の方が都合が良いかと…」

 「空中に道…成程な。OK、良いぜDホイーラーにとって走れる場所は全て道だからな!」

 新たに加わったクロウの動き方も決まり、準備は完了。
 いざ開始位置に。


 なのはとヴィータは空中で待機し、フォワード陣を見ている。

 始まりの合図があればすぐにでも戦闘開始と言った空気だ。



 『ほな、準備はえぇか?本日の訓練ラスト!模擬戦……開始ぃ!!』

 拡声器からはやての模擬戦開始が告げられ、全員一斉に散開!


 「ウィングロード!」

 「エアライナー!」

 先ずはスバルとノーヴェーが空中に魔力の道を作り、他のメンバーの足場を確保する。
 そして、その足場に真っ先に乗ったのは言うまでも無くクロウ。

 Dホイールのエンジンを吹かし、物凄い勢いで青い道を爆走!

 「は、良いじゃねぇか此れ!此れなら走るにはこまらねぇ!!行くぜ!!」

 なのははが放つ誘導弾を回避しながら、各々戦闘を開始!

 ティアナは後方から射撃で支援し、キャロもまた同様に後方から支援。
 スバル、ノーヴェ、エリオは得意とするクロスレンジでなのはとヴィータに挑む。

 そしてクロウは…当然デュエル!

 「俺は『BF−蒼炎のシュラ』を召喚!
  更に俺の場に『BF』が存在するとき、『BF−黒槍のブラスト』『BF−疾風のゲイル』は特殊召喚出来る!」
 BF−蒼炎のシュラ:ATK1800
 BF−黒槍のブラスト:ATK1700
 BF−疾風のゲイル:ATK1300



 イキナリお得意の超速召喚を使って3体ものモンスターを揃えてきた。
 この速さは圧巻だが、クロウの強さはそれだけでは無い。

 「更に手札からトラップ発動!『デルタ・クロウ−アンチリバース』を発動!」

 「な!?ちょっと待てよ、トラップは一度伏せなきゃ使えないはずだろ!?」

 「へ、このカードは俺のモンスターが『BF』3体のみの場合、手札から発動できるんだよ!
  そしてその効果は相手の伏せカードの全破壊だが……この世界だとこうなるんじゃねぇのか?」

 ルールを知っているが故に手札からのトラップと言う戦法に異を唱えたヴィータにカード効果を説明。
 そして、クロウの狙いは見事に的中する。


 ――パリィィン!!


 何かが砕けたのだ。

 「そんな…!バインドが!!」

 ソレはなのはが仕掛けておいた設置型のバインド。
 スバルやノーヴェを引っ掛ける心算で設置しておいたのだろうが、クロウには『何かある』と読まれていたようだ。

 そう、この読みの深さこそがクロウの最大の武器。
 遊星とは全く違うが、恐ろしいまでの勘の良さがあるのだ。

 今回はソレがなのはのバインド破壊に繋がったようだ。


 「なのはさんのバインドを読んでたなんて…」

 「あぁ、スゲェよな…」

 フォワード陣もクロウの勘の良さと、トリッキーな戦術に感心。
 だが、此れで終わりでは無い!

 「悪いが先ずはお前等の力を半減するぜ!
  疾風のゲイルの効果でヴィータの能力を半分にするぜ!」

 「なんだと!?…く…なんだ力が思ったようにはいらねぇ…!」

 更にゲイルの効果でヴィータを弱体化。
 此れは大きな効果だ。

 「ジェットダスター!」

 「ナックルダスター!!」

 「ちぃ…くっそぉ!!」

 ソレを示すかのように、ノーヴェとスバルが2人がかりとは言え、ヴィータに圧し勝ったのだ。
 こんな事はこれが初めてのこと。

 クロウが加わった事でフォワード陣の戦術、戦力が大きく向上したのは間違いない。

 「デュエリストの可能性は無限大だ!行くぜ!
  レベル4の黒槍のブラストに、レベル3の疾風のゲイルをチューニング!
  黒き旋風よ、天空へ翔け上がる翼となれ!シンクロ召喚、出でよ『BF−アーマード・ウィング』!」

 『ファァァァァァァ!!』
 BF−アーマード・ウィング:ATK2500


 そしてシンクロ。
 一切手は抜かないということだろう。


 ふと、なのはとクロウの視線が交錯した。

 不敵な笑みを浮かべるクロウに、何処か楽しそうななのは。

 「やるね、クロウ君?」

 「簡単に終っちまったらつまらねぇだろ?
  けど、悪いがこの模擬戦は俺達が勝たせてもらうぜ!!」

 「出来るものなら!!」


 なのはが誘導弾を発射し、アーマード・ウィングがソレを殴り消す。


 どうやらこの模擬戦は、只の模擬戦では終りそうにない様だ。














   To Be Continued… 






 *登場カード補足