今の管理局を壊す――確かにはやてはそう言った。
 本気なのだろう、その目は真剣そのものだ。


 「管理局を壊すって…本気かよ?」

 「本気やでクロウ。関西人は冗談は言うても、出来もせん虚勢は張らんし嘘は吐かへんよ。」

 クロウの問いもなんのその。
 まるでぶれない、故に真に本気と思わざるを得ない。

 「管理局は――確かにリンディやレティの派閥を除いて信用が置けないが、壊すと言うのは些か過激じゃないか?」

 「まぁ、普通に考えればそやろね。
  せやけど遊星――クロウもアインスも此れを見て聞いたら、私と同じ考えに至ると思う…略間違いなくな。」


 ――パチンッ


 はやてが指を鳴らすと同時に室内が暗くなり、真っ白な壁に何かの映像が映し出される。
 ソレは何かのグラフの様だった。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス78
 最高評議会の真実』











 「グラフ?けどコイツはなんのグラフなんだ?」

 「それに棒グラフが色分け……此れは一体?」

 映し出されたのは棒グラフ…一体何を表しているのだろうか?

 蒼と赤で色分けされた棒グラフからは、なにやら不穏な雰囲気がしてならない。


 「このグラフは、私等が管理局に入ってから関わった事件の総数。
  グラフの内容は事件の種類別発生件数やね。
  で、棒グラフの色分け――赤いグラフは、未解決のまま捜査が打ち切られた事件や。」

 「捜査が打ち切られた?」

 「我が主、ソレはどういうことです?」

 はやて達が関わった事件の総数は相当数に上っている。
 グラフから4年間で300件を超えていると言う異常な数だ。

 だが、それよりも問題は捜査が打ち切られた事件の数。
 その数は事件総数の実に60%と言う異常事態。

 此れだけの事件が未解決となれば管理局の体制に疑問も生まれるだろう。


 更に問題は打ち切られた事件の種類。
 赤と蒼のグラフを照らし合わせると、圧倒的に多い事件の種類の総数と打ち切られた事件の種類の総数が略合致。

 此れは流石に偶然とは思えない。


 「最初は人手不足から已む無く打ち切りをしてるんやと思った。
  やけど、何回かソレを受けるうちに有ることに気付いたんや。」

 「打ち切られた事件は略全てが『違法な魔導』の研究だったの。
  それこそ、人工的に高い質を持った魔導師を『作り上げる』なんて、非人道的なものまで…!!」

 「何だと!?」

 「人工的にって…人体実験かよ!!」

 「なんと言う……!!」

 話を聞いて瞬間的に怒りが湧き上がる。
 はやてやなのは……否、この場の全員が事件の事を思い出しているのだろう、苦い表情をしている。

 話を聞くだけでも怒りがこみ上げてくるのに、実際にその現場を見たはやて達の怒りは察して余りある。


 「そないな事件は普通に考えれば徹底的に調査・捜査して首謀者しょっ引かんと終りは無い。
  ソレにも拘らず、その施設の研究員を何人か逮捕するとある日突然捜査の打ち切りが言い渡されるなんて事が続いた。
  流石にオカシイ思て、クロノ君の部隊にも手伝ってもろて、極秘に独自捜査を開始したんやけど…」

 「それらの実験は殆どが管理局が裏で糸を引いていたんだ。」

 「「「!!!」」」

 驚くのは無理もない。
 捜査・摘発する側の管理局が裏で糸を引いていたなどとはふざけているにも程がある。


 「正確に言うなら時空管理局・最高評議会――管理局の腐敗の温床にして10年前の事件で私を氷漬けにしようと画策した連中や。」

 「ゴドウィンが言っていた連中か!」

 そして、その実体は地縛神事件の時にはやての永久凍結を目論み、その全ての責任をグレアムに押し付けて暗殺を企てた連中。
 マッタクとんでもない連中が法を司る組織の最高機関に居座っているものだ。


 はやてが『管理局をぶっ壊す』と言うのも納得できる。


 「氷漬けって、人の道外れるのにも程があるぜ!
  けどよ、なんだってそんな事しようとした組織に入るんだ?オメェが危険な目に遭うんじゃねぇのか?」

 クロウの言う事はマッタクその通り。
 自身を氷漬け――事実上の抹殺を目論んでいた組織へ入るとは、信じられるものでは無い。

 「そら、私かて嘱託として地球で起きた事件に協力はしても入局する気はさらさらなかったで?
  やけどな……リンディさんとレティさん、ソレと長官――

 「長官?」

 「あ、ゴドウィンさんや。その3人に頼まれたんや、『管理局を改革するために力を貸して欲しい』てな。
  3人とも、本気で管理局の抜本改革を考えとったんよ?
  最高評議会の解体に、新人の保護と教育、管理局が一手に担ってる司法、医療、政治夫々の独立化まで…
  ソレ聞いて入局を決めたんや、シグナム達も――なのはちゃん達もその時に誘ったんよ。」

 入局の影にはリンディとレティ、それにゴドウィンが深く関係していたらしい。
 その3人の熱意と本気に心打たれたと言う所だろう。

 「更にレティさんが上手く手回ししてくれて、私等を最高評議会派閥から護るために行き成り『尉官』扱いしてくれたんや。
  尉官やったら、如何に最高評議会といえど簡単に部署移動は出来へんからね。
  やから私等は頑張った、頑張って期待に応えようとして、そんで着実にキャリア積んで機動六課設立や。」

 「頑張ったんだな…よくやったなはやて。」

 はやての努力に感心したように遊星が言えば、思わずはやても顔が綻ぶ。
 矢張り褒められるのは嬉しいものだ。

 だが其処は部隊長にして総司令、すぐさま顔を引き締めて話に戻る。

 「でな、機動六課は表向きには『遺失物調査部隊』としてあるんやけどその実体は、対最高評議会の最高機関や。
  評議会に不信感持ってる局員は揃って六課のスタッフになってくれてるから戦力的には充分や。」

 「そうみたいだな…」

 この部屋だけを見ても、熟練の魔導師ならば目玉が飛び出るほどの精鋭揃い。
 ともあればこのメンバーだけで、或いは世界を牛耳る事だって可能だろう。…しないだろうが。


 「そして極め付けが此れや。」

 話は進んで、再びはやてが指を鳴らすと、映し出される映像が変わった。
 ソレは薄暗い部屋だが…問題はそこでは無い。


 「此れは……まさか人の脳か?」

 「うげ…マジかよ…!」

 ソレに映っているのは培養ポッドの様なガラスケースに入った人の脳随。
 此れは一体なんなのだろうか?


 「ソレこそが最高評議会の最高権力者そのものですよ。」

 「不死の欲望に捕らわれた――老害ね。」


 「ゴドウィン!それにレティ!」

 「ゴドウィン!お前、マジに生きてたのかよ…!」

 ソレに答えたのは何時の間にか現れたゴドウィンとレティ。
 見ればリーゼ姉妹の姿もある。

 恐らくリーゼ姉妹の魔法でシャマルの結界を越えてきたのだろう。


 「レティ提督に長官……出来れば念話通信くらい入れてほしんやけどなぁ?行き成りは驚くで?

 「失礼、あまりにも熱心でしたので話しかける機会を逸してしまいまして。ソレに此方の方が面白いでしょう?

 思わぬ再会だが、此れも悪くない。
 最もクロウは驚いたようだが、それでも悪い気分では無いようだ。

 「よう、遊星に闇の書、久しぶりだな!」

 「ロッテ、失礼だよ!」

 「はは、変わらないな2人とも。」

 「元気そうで何よりだ。」

 遊星とアインスのリーゼ姉妹とのやりとりも馴れたものだろう。

 「お前達が健全と言う事は、グレアムも元気なんだな?」

 「あ〜〜…元気なんだけど、私等は既にお父様の使い魔じゃないんだ。
  お父様はやっぱお歳だからね……先の事を考えて、私等に使い魔契約を更新させて、今はレティの使い魔だよ。」

 「そうなのか?…グレアムにも一度きちんと会っておきたいんだがな…」

 「遊星なら言えば会うと思うよ?地縛神事件の事聞いて、お父様はお前の事高評価だったからな〜。」

 懐かしい顔ぶれの登場に、室内の雰囲気も明るくなる。
 だが、再会を懐かしんでもいられない。


 「再会の喜びは――まぁ後で楽しむとして、今言ったとおり、此れが最高評議会の真実よ遊星君。
  不死の欲望と手にした権力の力に固執した、人を辞めた人の成れの果て…それが最高評議会。」

 「私も幾度となく彼等の排除を試みましたが……無理でした。
  彼等には強力な護衛がいて、私達では如何にもなりませんでした。
  ですが…」


 話を戻し、最高評議会の事実を暴露して、しかし排除は難しいと言う。
 だが、ゴドウィンは室内を見回し、そしてレティと目で合図をとると神妙に頷く。


 「君達機動六課ならば、最高評議会を解体し、管理局を本来あるべき姿に戻してくれると私達は信じています。
  そして、不動遊星とクロウ・ホーガン――この2人のシグナーと夜天の管制騎がここにやってきたのも偶然では無いでしょう。
  時は満ちました、今こそ最高評議会の歪んだ欲望を断ち切り、そして新たな世代で世界を動かす時なのです!」

 流石に元セキュリティ長官ともなると、演説めいた言い回しは実に巧い。
 だが、此れはゴドウィンの――引いては六課の後ろ盾であるレティやリンディ達の思いでもある。


 「ったく、長官は美味しいとこもってくなぁ……やけど、遊星とクロウ、それにアインスが来てくれたんは嬉しい誤算や。
  これで、最高評議会にも本格的に攻勢に出る事ができる――最近多発しとる無人戦闘機械の事件は評議会と繋がりありそうやしね。
  ……遊星、アインス、クロウ……私等機動六課に力を貸してくれへんやろか?
  私は――私達は管理局を本来あるべき姿に戻したい、そしてホンマに平和な世界を創りたいんや…」

 そしてはやて達の願い。


 ゴドウィンの言うように、遊星達が此処に飛ばされたのはきっと偶然では無い。
 全て、意味あってのことだろう。



 だから断る理由等ない。

 「断る理由がありません、我が主。私は魔導書、何時でも主の傍にいますよ…」

 「断るはずがないだろう、はやて。俺達は仲間だ、その仲間が正しい事をしようとしてるのに力を貸すのは当然さ。」

 「やってやるよ俺もな!
  テメェ等はセコセコ生き長らえながら、人体実験だの氷漬けだの考える連中は、この鉄砲玉のクロウ様がぶっ潰してやるぜ!」

 力強い言葉で、協力を表明!

 はやて達の顔も一気に明るくなる。

 「ホンマに!……おおきに…!ホンマ嬉しいわ…!」

 自分の考えに賛同してくれたことが何よりも嬉しい。
 そしてソレに協力してくれるとなれば尚の事だろう。

 嬉しい誤算の戦力強化だ。


 「滞りなくですね…ではレティ提督…」

 「任せておいて、遊星君とアインスさんは、長期出張に出ていた六課幹部で三佐扱いにしておくわね。
  ソレでクロウ君は……2人が出張先から連れてきた新人で、一等陸士扱いで如何かしら?」

 「いいんじゃない〜?」

 「まぁ、妥当だと思うよ?」

 此方も裏方が見事な判断で、遊星、クロウ、アインスの立場を確立。
 此れで3人もはれて六課のメンバーだ。



 だが、ソレとは別に……


 「決まりやな!……って、アインスはシグナムと同室として、遊星とクロウの生活場所どないしよ…」

 新たな問題、遊星とクロウの生活場所。
 アインスはシグナムやヴィータと同室で問題ない。

 だが、遊星とクロウは?
 本より男性が極端に少ない機動六課……ソレゆえの問題と言えるだろう。


 「あ?別に俺は野宿でも大丈夫だぜ?」

 「あぁ、サテライト時代は寝る場所に文句は言ってられなかったらな。」

 「いやいやいや、流石に野宿とかアカンから!六課の隊員への待遇が問題になってまうから!」

 確かに野宿とはいかないだろう。
 必死にはやては考える。
 なのは達も考える。

 ついでに何故かステラまで考えている。


 「よし、決めたで…クロウは今日はザフィーラの所に泊まってな?明日にでも隊員宿舎で部屋取るから。」

 「ザフィーラって…このでかい奴か?…俺はいいけど、オメェは良いのか?」

 「構わぬ。本より部屋では狼形態で居る事の方が多い故、室内のものは殆ど使わん。
  ベッドもシャワーも好きに使えば良い。」

 「ならそうさせてもらうぜ。」

 そして取り合えずクロウはザフィーラの部屋に。
 暫くすれば隊員宿舎での生活だが。

 そして遊星は…

 「遊星は……私の部屋や♪」

 「あぁ、俺は別に構わないz「ちょっと待てこら〜〜〜!」…如何したクロウ?」

 はやての部屋になりかけたところでクロウ突貫!
 まぁ、当然の反応だろう。

 「はやて!幾らなんでもソレはねぇだろ!年頃の男女が同室っておまえ…!」

 「ダメ?」

 「上目遣いで言うんじゃねぇ!」

 「…ダメなん?」

 「涙目になるんじゃ「クロウ。」…んだよ遊星?」

 突っ込みいれつつ、其処に遊星がくれば突っ込みも止まる。

 「はやてはこう見えて寂しがりやなんだ、前のときも一緒に寝ていたし問題は無いぞ?」

 そして安定の不動遊星である。
 遊星の中では、はやては以前の少女のイメージからあまり変わっていない様子。
 はやてが子供だった頃と同じように一緒の部屋でも抵抗無しらしい。

 「いや、けどよぉ…」

 「俺は構わないんだからいいだろう?」

 「……まぁ、オメェなら間違いは起きねぇか…」

 結局クロウが折れた。
 反対にはやては嬉しそうだ。


 「ほな、此れで決まりやね♪
  六課の皆は明日にでも紹介するわ――今日は解散して休むとしよか?」

 「うん、ソレがいいと思う。」

 そしてそのまま解散。
 朝の時間から転送された遊星とクロウも、実は徹夜だったので休めるのは実は結構ありがたい事だったりする。






 「遊星♪」

 「はやて…」

 司令室を出て、夫々の部屋に向かう途中、はやては遊星の腕に抱きつく形で腕を絡ませる。
 略密着状態だ。


 「ホンマにおかえりなさい……何時か会える思てたんやけど、やっぱ嬉しいな…」

 「…ソレは俺もさ、尤もはやてには10年も待たせたが……色々有ったんだろう?」

 「そら10年やからね。」

 「聞きたいな、どんな事が有ったのか――事件じゃない普通の事を沢山。」

 「うん!一杯一杯あるんや……私も聞いて欲しい!」

 10年ぶりの再会でも関係は良好。



 部屋に戻ってからもはやての10年分の話しは尽きず、ベッドに入ってもソレは終わらない。
 結局2人が眠りに付いたのは、すっかり日付が変わった頃だった。




 そして翌日――新たな物語が、その産声をあげるのだった。















   To Be Continued… 






 *登場カード補足