シティの高級住宅地、通称トップス。
 その一画にある龍亞と龍可の家の庭で、双子の兄妹はこれからの事に思いを馳せていた。

 「お父さん達に会うのって随分久しぶりだから、何か照れくさいかな〜?」

 「うん、そうかも……けど、嬉しいよね?」

 「そりゃそうさ。やっと皆で一緒に暮らせるんだから。
  この街を離れるのは少し寂しいけど、会おうと思えば又何時でも会えるから。」

 この2人はこの街を離れて両親と暮らす事を選んだ。
 皆が、夫々の道を歩もうとしているのだ。

 「龍亞、なんか前よりも頼もしくなったね――うん、カッコ良くなった♪」

 「そ、そうかな?あんまりわかんないけど…へへ、照れるな。」

 「もう、頼りにしてるわよ『お兄ちゃん』!」

 そして、旅立ちの日は――もう明日だ。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス75
 『みらいいろ〜彩られた未来〜











 「それじゃあ、パパ、ママ――頑張ってくるね。」

 「あぁ、お前のやりたいようにやってきなさい、アキ。」

 「でも、頑張りすぎて無茶しないでね?」

 アカデミアを卒業したアキは、医者になるために渡米を決めた。
 最新の医療技術と知識を、向こうで学ぶ事にしたのだ。

 当然彼女もシティを離れる事になる。
 きっと医者になるまでは戻らない覚悟だろう。

 「ところでアキ…彼には――遊星君にはちゃんと挨拶をしたのかい?」

 両親も温かく其れを送り出そうとしている。
 が、父親は如何にも遊星の事が気になるらしい。

 娘の遊星への慕情など、とっくに気付いているだろう。

 其れゆえのちょっとしたお節介だ。

 「…まだ…これからちゃんとするつもりよ…」

 「そうか……だが、後悔だけはしないようにしなさい。」

 「うん、分ってる……ありがとう、パパ…」


 そちらの方は、まだ決着は付かないようである。








 ――――――








 「ふぅ……これで、此処のコーヒーも暫くは飲めんと言う訳か…矢張り口惜しいな『ブルーアイズマウンテン』と別れるのは。」

 プロリーグへの参加を決めたジャックは、行きつけのカフェでコーヒーを堪能中。
 1杯3000円のブルーアイズマウンテンを……此れで4杯目。

 総額12000円、WRGP期間中だったらクロウがブチキレテいるだろう。


 誰よりも早く将来を決めたとは言え、コーヒー限定での散財は中々治るものでは無いらしい。

 そんな彼の元に…

 「ジャック〜〜、私も付いてって良い?」

 「む…カーリーか…」

 グルグル眼鏡の女性記者。
 眼鏡を外せば超絶美人のカーリー渚参上!

 如何にもジャックに付いて行こうとしているらしい。

 何を隠そうこの2人、嘗てのダークシグナー事件の際に相思相愛の関係になっている。
 事件後はそれ以前に戻ったように見えるが……実はそうでもなかったらしい。


 「ふ…キングたるもの、専属の記者とカメラマンが居るというのも悪くない――好きにしろ。」

 「じゃあ、遠慮なく付いていくんだから〜〜♪」


 素直では無いが、それもまたジャックの魅力だろう…カーリーをはじめとしたジャックファンには。

 ジャックの進む未来は栄光の『華』と、愛でるべき『花』が待っている事だろう。








 ――――――








 「そうかい…アンタは遊星と一緒にシティに残るんだね?」

 「あぁ、取り合えずはな。」

 クロウは、マーサハウスにて、自身の育ての親であるマーサに報告中。
 他の4人と違って、クロウは己の道を決めていない。

 端から見れば其れは余りカッコイイ物ではないかもしれない。

 だが、クロウは迷っている事に迷っていない。
 どうせならとことん迷って悩んで、その上で決めた未来も悪くない……そう思っているのだ。

 「アキや龍可に龍亞、ジャックと比べりゃ全然カッコワリィかもしれねぇけど…もう迷う事には迷ってねぇ。
  迷いに迷って、悩みに悩んで――全力で模索した未来ってのも良いモンじゃねえかと思うんだ。」

 「あぁ、当然さ。
  カッコ悪くなんか無いよ――徹底的に悩んで決めると良い…悩んだ事は決して無駄にはならないよ。」

 「…そう言ってくれると少し楽だぜ…サンキュ、マーサ。」

 未だ道は見えぬとも、其れは必要な事なのだろう。
 若しかしたら、クロウは誰よりも誇れる道を歩んでいくのかもしれない。


 「クロウ兄ちゃんは残るの?」

 「プロにならないの?」

 「お前等……あぁ、今はまだな。
  キッチリ自分の道って奴を見極めて…プロになるのは其れからでも遅くねぇ。
  スタートダッシュで出遅れても、必ずジャックを追い越してやるぜ――俺は『鉄砲玉のクロウ』だからな!」

 そう、きっと子供達に胸を張って誇れる道を…








 ――――――








 「…アキ、居るのか?」

 夜、此れまで整備・開発室として使っていたポッポハウスの1階に遊星は来ていた。
 どうやらアキに呼び出されたようだが、室内は明かりも無く暗い。
 ドアが開いていた事から既にアキは来ているのだろうが…

 「灯りを点けるぞ?」

 「待って!灯りは…点けないで。今の顔は見せられないから…」

 矢張り来ていた。
 暗い部屋の中で遊星を待っていたらしい。

 『今の顔は見せられない』と言う辺り、どんな状態であるかは推して知るべきだろう。
 勿論遊星も其れを解って灯りは点けない。


 「一体如何したんだ?」

 「うん…ちょっと――本当に、此処にはもう、遊星しか居ないのね。」

 「あぁ、クロウも今はセキュリティの宿舎を使っているからな。」

 世間話…と言う訳では無い。
 あくまで此れは会話のきっかけ――2人きりで話す事は、此れを最後に暫く出来ないのだ。

 と言うよりも、アキは何か意を決しているようにも見える。

 「遊星…私!……私…貴方に出会えてよかった…」

 きっと言いたい事は違っただろう。
 だが、今此の場で『ソレ』を言うのはどうやら止めにしたらしい。

 「本当はね、初めて遊星に会ったとき、少し怖い人だと思ったのよ?
  当時は無法地帯だったサテライトの出身者で――マーカーと相俟って、まるで街の不良みたいだった。」

 「はは、ソレは俺も同じさ。
  普段は兎も角、アキに睨まれると本当に怖いからな……もしチーム戦で負けたら何を言われるか、内心怖かったよ。」

 「ちょ、そんなこと思ってたの!?」

 別れの物悲しさなど微塵も無い。
 本当に、心から2人での会話を楽しんでいるのだ。

 「…アキ、笑顔を忘れるな。お前の笑顔は皆に勇気を与える事が出来る。」

 「ソレをくれたのは貴方よ遊星。
  魔女の呪縛を撃ち砕いて、私を私にしてくれた……本当に、ありがとうね。」

 「呪縛を解いたのはお前自身の力さ。」

 時間にしたら5分にも満たない。
 だが、それでも或いは充分だったのかもしれない。


 「…それじゃあ、もう行くね?」

 「あぁ、頑張って来いアキ。」

 最後の会話もそろそろお開きだ。
 旅立ちは明朝……夜更かしは良くない。

 「あ、そうだ!」

 「?」

 が、思い出したかのようにアキは再び遊星に向き直る。
 一体なんだと言うのだろう?

 「夢を叶えて医者になれたら、私は此の街に戻ってきて開業しようと思ってるの。」

 「シティに新たに病院を造るのか?」

 「えぇ、小さくていいんだけど――その時は病院の設計を遊星にお願いしていいかしら?」

 「…あぁ、分った。俺でよければ引き受けよう。」

 ソレは最後のお願いだった。
 何時になるかは分らないが、自分が医者になった暁には自分の病院を持ちたい。
 そしてその設計は遊星にと言う事だった。

 遊星も断りはしない。
 快く受け入れ……そして今度こそお開きだ。

 「それじゃあ、何時かまたね?」

 「あぁ、何時かな。」


 こうして、アキは自分の思いを自分の中に閉じ込めて旅立つ事を決めた。



 そして、この時が自らの思いを伝える事の出来る最後の時だったことを知るのは、少し先のことである。








 ――――――








 夜更け。
 シティはまだ眠らない――ビルや道路の灯りはまるでオルゴールの箱に散りばめられた宝石のようだ。

 「………」

 遊星はただ1人、街が一望できる高台でシティを見下ろしていた。
 既に日付は変わり、今日、アキ、ジャック、龍可と龍亞はシティを発つ。

 仲間達の旅立ちに、遊星は何を思うのだろう…

 「不審者発見!此れより職務質問を開始する〜。」

 「っ…牛尾!」

 其処に現れた牛尾。
 セキュリティの捜査官で、現在のクロウの上司だ。

 「よう、何やってんだこんなところで?明日――早いんじゃないのか?」

 「ふっ、今夜は眠りたくないんだ
  此の街の空気を全身で感じたい、俺達が護った街の空気を…」

 「ったく、言う事が気障だねぇ………良いのかよ本当に。」

 遊星は柵に寄りかかり、牛尾も柵にもたれかかる。
 牛尾が何を言わんとしているのかは分る。

 『一緒に戦ってきた仲間がチリジリになっても良いのか?』と言うのだろう。

 「…本当は俺だって離れたくないさ。
  だが、ソレはできない――何時かは皆が自分の目標に向かって進んでいかないとな。」

 「お前らの絆は、それで良いのか?」

 「絆は絆さ――離れていても繋がっている。
  俺は此の街に残り、皆の絆を繋いで護っていきたい――此の街と一緒に。」

 だが、未来は夫々の手で決めるものだ。
 仲間だからとずっと一緒に居たら、其処で停滞してしまう。

 勿論又共に歩む未来もあるだろうが、一時の別離は必ず訪れるものだ。

 「そうか…お前等も何時の間にか大人になってたんだな。
  …てかよ、クロウから聞いたんだが、お前が訪れたって言う異世界…其処とシティを繋ぐとか本気か?」

 「至って本気だぜ牛尾。次元航行の技術はやって出来ない事じゃないと思う。
  現に、向こうの世界では『次元航行艦』なんてものも有ったくらいだからな。」

 「うへぇ…なんだそりゃ。
  けど、お前なら出来るような気がするから不思議だぜ――そっちも巧く行くと良いな。」

 「あぁ、頑張るさ。」

 最悪の出会いだった此の2人も、今では親友同士と呼べる間柄。
 未明過ぎまで、色々と話し込む事になってしまったのも致し方ないのかもしれない。



 そして…








 ――――――








 明朝・ネオドミノシティ・ネオダイダロスブリッジ旧市街地側


 此のシティの象徴とも言える大橋の旧市街地側スタート地点に、『チーム5D's』の全てのメンバーが揃っていた。
 遊星、クロウ、ジャック、アキはDホイールに跨り、龍可と龍亞はDボードに。

 いよいよ今日は旅立ちの日。
 遊星とクロウは仲間達を見送るために此処にいるのだ。

 「行くぜお前ら!」

 「これが、俺達のラストランだ!」

 クロウと遊星の号令を合図に、6人全員が一気に飛び出し、レーンを疾走する。

 遊星とクロウが先頭を走り、他の4人がソレに続く。

 皆夫々の胸に思う事はあるだろう。
 だが、ソレは誰も口に出さない。

 シティのラストランで感じる風を、全身で受けて其の身に刻み込んでいるのだろう。



 暫く走り、そして見えてきた分岐点。
 此の分岐点がそのまま、4人の道となる。

 そしてその手前で、遊星とクロウは停止し、手を掲げる。



 ――パンッ、パンッ!パッ、パッ、パパン!



 ジャック、アキ、龍亞、龍可の順でハイタッチ。
 4人はそのまま振り返る事無く夫々の道へと進んでイク。


 涙も言葉も無い。
 だが、チーム5D'sにはこれ以上無い旅立ちの姿だ。


 「……行っちまったな。」

 「あぁ…そうだな。」

 暫く皆が進んだほうを見て、どちらとも無く呟く。

 シティに残った2人は、しかし対照的。
 道を決めた遊星と、模索中のクロウ。

 だが、対照的でもやる事は変わらない。
 互いに全力投球で事に望むだけだ。


 「戻るか。遅れると牛尾の旦那にどやされちまうからな。」

 「そうだな。俺もモーメントの方でやる事もあるからな。」

 見送りが終れば、2人には夫々の日常が待っている。




 いや、待っている筈だった。



 ――ヒィィィン…!!




 「「!?」」

 シグナーの痣が輝くまでは。

 「此れは…!!」

 「おい、遊星アレは!!」


 『クェァァァァァァァ…!!』


 全く唐突に、そして現れた赤き竜。
 だが、今回は只現れただけでは無い。

 その身の周りに、今旅立った4人の痣を浮かばせていたのだ。

 「その痣はジャック達の!!」

 「どう言う事だよ……俺と遊星の痣は、残ったままだぜ?」

 恐らく旅立った4人には既に痣が無くなっているだろう。
 つまり、ジャックとアキと龍可と龍亞はシグナーの務めから解放されたのだ。

 だが、遊星とクロウの痣は残ったまま――ソレが意味するものはつまり…


 「クロウ…」

 「みなまで言うなよ遊星。良いぜ、やってやるよ!此の鉄砲玉のクロウ様の力が必要だってんならな!!」

 異世界への渡航。
 嘗ての経験から、遊星には何故赤き竜が現れたのかは分った。

 そして、自分とクロウの痣が無くなっていない事も。


 「…そうか……赤き竜よ、俺とクロウの力が必要なんだな?」

 「ならさっさと連れて行けよ。ただ、戻ってくる時には此の時間で頼むぜ?遅刻すると牛尾の旦那に説教喰らっちまうからな!」

 だが、此の2人は迷わない。
 異世界に飛ばされても、此の時間に戻ってくる事は可能。

 ならば厄介事は済ませてしまうに限る。


 『遊星、クロウ、行き先は『アノ世界』だそうだ。

 リインフォースも現れ、赤き竜の意思を2人に伝える。
 アノ世界とは、つまり遊星が訪れた次元世界だろう。

 『さぁ、連れて行ってくれ赤き竜よ…

 『クァァァァァァァァァ!!』


 瞬間、赤い光が弾け――遊星とクロウはDホイールごとシティから姿を消したのだった。








 そして…





 ――シュゥゥゥン…


 転送完了。


 「もう着いたのかよ?…一瞬だったな。……つーか此処が『海鳴』なのか?随分荒れた場所だな…」

 あっという間の出来事だった。
 だが、出た場所は荒野と表現すべき荒涼とした大地。

 少なくとも遊星の知る海鳴では無いだろう。

 「いや、此処は海鳴じゃない……海鳴はもっと綺麗な街だった…此処は一体…?」

 だから遊星も困惑する。
 リインフォースが言うには転送先は海鳴であったはずだ。

 だが、此処はあまりにも記憶にある海鳴とはかけ離れている。


 「…海鳴ではなかったか…」

 「リインフォース?」

 「うわっ!お前、本当に人だったのかよ!!」

 しかしながら、リインフォースは精霊状態ではなくなっている。
 つまりはアノ次元世界であるのだが…


 「遊星、此処は海鳴では無いが同じ次元世界だ。
  ――僅かにだが、我が主や将達の魔力を感じる…」

 「はやてやシグナムの魔力を?……だが、だとしたら此処は一体…」

 はやてやシグナム達の魔力を感じると言う事は、つまりはアノ世界のどこかと言う事になる。
 だとしたら何処なのだろうか?


 「オメーが本当に人だったのは驚いたが、今はそれどころじゃねえ……何処なんだよここは?」

 「あくまで私の…夜天の魔導書の記憶でしかないが、私は遠い昔の此の場所を知っている。
  此処は地球ではなく、数多に存在する次元世界の1つ。
  そして、現『時空管理局』の本局が存在する次元世界――










  ――
ミッドチルダだ。」
















   To Be Continued… 






 *登場カード補足