赤き竜の力でシティに戻った遊星、そして連れてこられたリインフォース。
 だが、降り立ったのは遊星の最終決戦の地『アーククレイドル』。

 何故此処に降り立ったのか、其れは分らない。
 分らないが…

 「?…リインフォース、なんか身体が透けてないか?」

 『言われてみれば…しかも何か現実感が…

 何故かリインフォースの身体が現実感に乏しい。
 まるでソリッドヴィジョンか、現実世界に現れたカードの精霊だ。

 「ん?此れは…」

 そんなリインフォースの足元に遊星は1枚のカードを発見。
 其のカードは『祝福の風リインフォース』…レベル1の効果モンスターカードだ。

 「…まさかとは思うが赤き竜の力でカードの精霊になったのか?この世界限定の…」

 『ありえるかもしれないな……あっちでは夜天の魔導書の管制人格で此方ではカードの精霊か…

 此れは赤き竜の優しさか、それとも世界の修正力か…
 取り合えずリインフォースはこの世界で『矛盾が無い程度に力が発揮できる』姿へと変わったらしい。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス71
 『BELIEVE IN NEXUS』











 リインフォースの精霊化は兎も角として、矢張り何故アーククレイドルに戻ってきたのか疑問は残る。
 間違いなくゾーンのライフは0にした。

 究極的に強化したスターダスト・ドラゴンで究極時械神セフィロンを倒し、ゾーンに止めを刺したはずだ。
 そして其の直後に赤き竜の力で海鳴に転送されたのだ。

 其れなのに今又アーククレイドルとは些か合点がいかない。
 ましてや遊星は9ヶ月も海鳴で過ごしていたのだ、時間の差分を考えても納得行かない。

 「此れは一体…」
 ――どういう事なんだ?何故アーククレイドルに……まさか!!


 それでも頭をフル回転すれば答えはおのずと見えてきた。

 「シティでは俺が海鳴に飛ばされたときから殆ど時間が経ってないっていうのか?」

 『遊星?いや、だがそれは…

 「赤き竜が世界の矛盾を最小限に抑えようとしたんなら無いことじゃない。
  この世界で俺がいなかったのは僅かに数十秒なら俺が今からジャック達の元に戻っても時間的矛盾はそんなに無い。」

 『成程な…

 ステラで時間を確認すれば、この説は大当たり。
 Dホイールに搭載されている時計は電波式で即座に現地の時間と同期し正確な日時を伝える。

 其れで確認すれば今は遊星が消えてから40秒後。
 遊星はアノ最終決戦直後の時間軸に戻ってきたのだ。

 そして…


 ――ドガァァン!!


 凄まじい轟音と共に巨大な機械が落下してくる。
 其れは遊星と死闘を繰り広げたゾーン…

 自分が動く為のマシーンボディが遊星とのデュエルで限界を迎えたと言うところだろう。
 故に本体は護られているだろうが、それでも落下の衝撃は簡単に消えるものではない。

 「ゾーン!!」

 「…遊星…」

 直ぐに駆け寄り其の顔を覗き込む。
 リインフォースも其れに続く。

 『此れは…本当に遊星なんだな…

 そして驚くのは道理。
 アーククレイドルやその他シティでの事は遊星自身から聞いていた。
 当然ゾーンの事も聞いていたが、実際に見てみると本当に『年老いた遊星』の顔をしているのだから驚くほうが自然だろう。

 「遊星…彼女は?…いえ、どうやら君はこの数十秒と言う間に、私では想像も出来ない経験をしてきたようですね…
  とても良い顔をしていますよ……さっきよりももっと決意と、信念が強くなったような感じだ……」

 「ゾーン…」

 「遊星…私は間違っていたのでしょうか?破滅の未来を防ぐ事は…出来ないのでしょうか?」

 ゾーンはゾーンで遊星が消えていた僅かな時間で、遊星自身が濃密な経験をしたのだろうと考えていた。
 そして、自身の計画は間違いだったのかと問う。
 『破滅の未来を防いで未来を救う』事は間違いだったのか、と。

 が、遊星は首を横に振って否定する『そんなことは無い』と。

 「デュエル中にお前が発した未来への警鐘、警告はシティの皆に届いた。
  俺達がそれを忘れず、心に留めて頑張っていけば、破滅の未来は訪れない、訪れさせない。
  お前達のおかげで俺達は間違った道を選ばないことができる――未来を救うのは俺達の役目さ。」

 「遊星……そうですか…私がこの時代に来たのも無駄ではなかった…」

 ゾーンの顔は心底安らかだ。
 強い意志で己の計画を阻止した遊星、否『チーム5D's』。
 逆境でも諦めずに進んだ者達ならば、或いは未来を救ってくれる……遊星とのデュエルで其れを感じたのだろう。

 「貴女も…遊星の新たな仲間なのでしょう?……力を貸してあげてください…」

 『勿論だ…自らの力が必要なればこそ私は此処に来たのだからな。

 其の遊星と共に現れたリインフォースにも何処か頼もしさを感じたようだ。



 だが、余りのんびりは出来ない。
 ゾーンを倒したとは言え、アーククレイドルは今尚シティへ降下している。
 早急に止めなければシティ崩壊だ。

 「遊星…アーククレイドルは…」

 「あぁ、分っている。」

 「……死ぬ気ですか…?」

 アーククレイドルの停止は『正回転するモーメントのエネルギー』をぶつける以外に手段は無い。
 そして、今此処に有るそのモーメントはステラに搭載されているモーメントエンジンのみ。

 遊星も最初は自分ごとアーククレイドルの『逆回転するモーメント』にDホイール毎突っ込むつもりだった。
 だが、今は違う。
 シティを救うために自分の命を捨てても意味は無いと、海鳴での2つの事件を経験して学んでいたのだ。

 自らを犠牲に何かをなしても残された仲間には悲しみが残るだけだと…


 だからゾーンの問いには又も首を横に振る。
 手段は別にあるのだ。

 「俺は死ぬ気は無い――だがアーククレイドルは止める。方法はある……リインフォース、力を貸してくれ。」

 『言われるまでも無い。…アノ2人も呼ぶんだろう?

 リインフォースも遊星の考えを大体読んでいる。
 遊星が海鳴で、そしてアノ世界の地縛神事件で手に入れた『本来だったら出会うことの無かった仲間』の存在。
 そしてリインフォース――それらの力を結集してアーククレイドルの−モーメントを正回転に戻そうというのだろう。

 「あぁ、頼むぞ『蒼銀の戦士』『雷幻獣−麒麟』!」

 其の仲間2人を呼び出し準備も万端。

 『私の力が必要なんだな?

 『…なんで人間状態で出てきたんだお前は…

 何故か麒麟は人間状態で出てきたが、そんな事は如何でも良い。
 今はアーククレイドルを止めるのが先決だ。

 「アーククレイドルの落下を止める為に力を貸してくれ。
  機関部に乗り込んで、逆回転しているモーメントにお前達の…シンクロの力を打ち込んで正回転に戻す!」

 機関部の場所はアーククレイドル突入時から此処までの道程で判明している。
 後は其処に乗り込んで事をなすだけだ。

 『場所が分ってるなら話は早い、俺の瞬間移動で其処まで飛ぶぞ。

 「あぁ、頼む!」


 言うが早いか一行の姿は其処から消え、一瞬でアーククレイドルの機関部に。

 瞬間移動…なんとも便利な技能である。



 『此れがモーメント…不思議な空間ね?

 『嫌な感じがするのはマイナス回転をしているからなんだろうな…

 その機関部内部は何とも不思議な空間だ。
 マイナス回転するモーメントから生じたエネルギーが満ち、不気味な白い光が部屋全体を照らしている。

 其の遥か上方に見えるモーメント本体…
 此れを止め、正常回転に戻さなければシティは壊滅だ。

 「頼むぞ『ハイパー・シンクロン』『ブースト・ウォリアー』!」

 止める為の力として、リインフォースを進化させるためのモンスターも呼び出す。
 相手はモーメント…加減して止まる相手では無いのだから。

 「リインフォースとブースト・ウォリアーに、ハイパー・シンクロンをチューニング!
  集いし祈りが、此処に新たな希望となる。光射す道となれ!シンクロ召喚!!祝福の風、シンクロチューナー『リインフォース・アインス』!」

 『此れを止める…其れが私の成すべき事の1つだ!

 シンクロチューナーとなって力を増し、一気にモーメントに!
 それだけでは無い。

 そもそもにして此れはデュエルでは無いのだ。
 シンクロチューナーとなったリインフォースは元々が『カードとしては存在していない』ため正規の手順で呼び出す必要が有った。
 が、カードとして存在しているならモンスターゾーンが空いている限り幾らでも呼べるのだ。

 「お前達の力も貸してくれ!『スターダスト・ドラゴン』『閃滅龍 スターブレイカー』!!」

 『クァァァァァ…!』

 『ゴォォォォォ…!』

 自身のエースモンスターと、ゲイルから貰った絆の証――それらも呼び出し全力全壊!
 蒼銀の戦士と麒麟は既に攻撃準備が出来ているようだ。


 「行くぞ皆!モーメントに総攻撃!スターダスト『シューティング・ソニック』!スターブレイカー『シューティング・ジェノサイド』!」

 『覇ぁぁぁ…虚空裂風穿!!

 『撃ち貫け、幻雷裂破!

 『光よ…ナイトメアハウル!

 そして夫々が必殺の一撃をモーメントに撃ち込む。
 不可視の音波と暗黒のブレス、銀色の気功波と金色の雷撃、そして闇色の砲撃。
 光と闇と風の限界突破レベルの全力攻撃に、モーメントの逆回転も其の動きを止める。


 だが、其れで終りではない。
 今度はモーメントを正しく起動しなければアーククレイドルは浮上してくれないのだ。

 「もう一頑張りだ皆!!」

 『任せろ遊星!!

 蒼銀の戦士も銀髪蒼眼となり、リインフォースと麒麟も力を搾り出す。
 スターダストとスターブレイカーも更に攻撃を続けて行く。



 しかし中々動いてくれない。
 正方向に微動はするものの完全起動とはならない。

 逆回転を続けてきたモーメントを正常作動させるのはこの面子の力を持ってしても容易では無いらしい。
 それでも攻撃を続けるが、時間は余り無い。

 逆回転を止めたとは言え、正常作動しなければいずれはシティに落下してしまう。




 ――バガァァァァン!!




 そんな状況で、突然何かが壁を突き破って機関部に突入してきた。

 「遊星!」

 「ゾーン…!!」

 其れはゾーン。
 殆ど行動不能状態になっていゾーンが、身体に鞭打って突入して来たのだ。

 「遊星、君達は脱出してください。君達は未来の為に生きるべきだ。」

 「ゾーン…だが、このモーメントを正常作動させなければシティは…!」

 どうやら遊星達に脱出を促すために来たようだが、此れを放っておける遊星達では無い。
 今尚攻撃は続いているのだ。

 「…私の身体の生命維持装置にはモーメントが使われています……其れをぶつければ…」

 が、ゾーンには最終手段があった。
 自分の――頭部以外の殆どを機械化した身体に搭載された生命維持装置を使っての正常起動…
 己の命と引き換えの特攻手段だ。

 『待て、そんな事をしたらお前は…!

 「良いんですよ…私はもう充分すぎるほど生きた…自らの身体を機械で補強し生命維持装置まで使ってね。
  全ては未来に訪れる破滅を防ぐための事でしたが……其れは成された、もう逝っても良い時です。
  それに、アポリア、アンチノミー、パラドックス…彼等の事も随分待たせてしまいました…」

 「ゾーン…」

 「未来を見届けるのは私ではなく、何れ生まれる私でしょう……遊星、未来を頼みますよ!!」

 最後に其れだけを言ってゾーンはモーメントに特攻!
 誰も何も言えなかった。

 ゾーンも本質は未来を救いたかった…それだけだったのだ。
 それが死闘の果てに未来への希望を見つけた、可能性を見出した――もう充分だったのだ。

 突撃するゾーンの顔には恐れも何もない。
 有るのはただ一つ『安らぎ』だけだ…


 ――アポリア、アンチノミー、パラドックス……未来は救われましたよ…不動遊星と仲間達の手で…
    もう、随分待たせてしまいましたが、私もそちらに逝きます……共に彼等の進む道を見守りましょう…
 「ありがとう、不動遊星……そしてチーム5D'sよ…!」



 ――ドォォォォォン!!…………ヒィィィン…!



 ゾーンが突撃して爆発し、そして直後にモーメントが正方向に回転を…!
 最後の最後で、ゾーンは己の行いに立派にけじめをつけたのだ。

 「ゾーン……あぁ、未来は俺達で護ってみせる!絶望の未来は必ず防いで見せるぞゾーン!!」

 そして機関部には、ゾーンの決意と最期を見届けた遊星の誓いが響いていた…








 ――――――








 其の頃、シティの小高い広場にはチーム5D'sの面々が居た。
 アーククレイドルから脱出した一行はアーククレイドルの行く末を見守っていたのだ。

 誰もが脱出直前に、赤き竜に飲まれて消えた遊星を案じている。

 「遊星…」

 「心配するな十六夜、アイツがどうにかなる訳が無い!赤き竜が何をしようと遊星は無事だ!」

 「ジャック…そう、よね…」

 誰もが遊星の無事を祈っていた。
 それでも不安は消えないのは仕方ない。

 脱出した直後に、再び赤き竜が現れ、其の直後に今度はアーククレイドルが浮上し――そして消えたのだから。


 「遊星…」

 「龍可…ん?……あ〜〜〜〜〜!!!皆、ちょっとアレ見てアレ!!」

 不安そうな龍可を心配する龍亞だが、朝日が昇り始めた空に何かを見つけた。
 其れは赤い翼を生やしたDホイール。

 其れが真っ直ぐにこちらに向かってきている。


 「アレは……遊星!!無事だったかアノ野郎!!」

 「ふん、だから言っただろうアイツが如何にかなる筈がないとな!」

 「お〜〜い、遊星ーーー!!!」

 「遊星…!」

 「遊星…良かった…」

 思わず顔が綻ぶ。
 遊星が無事だった……それだけで充分だ。


 「心配をかけてすまない!ただいま、皆!!」

 「ただいま、じゃねえだろ!行き成り消えたから吃驚したぜ!!」

 「だが、お前なら無事だと信じていたぞ遊星!」

 「おかえり遊星!!」

 先ずは親友、好敵手、そして弟分の3人が声をかける。
 皆嬉しそうだ。

 「おかえりなさい遊星…」

 「おかえり…遊星♪」

 それに続いてアキと龍可も声をかける。
 アキなんかはうっすらと涙まで浮かべている。

 「あぁ、ただいま!戻ってきたぜネオ・ドミノシティに!!」

 ステラから降り、9ヶ月ぶりのシティに降り立つ。
 長らく離れても、矢張り故郷の空気はとても安心できるモノだろう。


 「遊星、其の人達は?」

 『…私達が認識できるのか?小さな少女よ…

 で、精霊が認識できる龍可は遊星と一緒に居るリインフォース達が気になるらしい。

 「そうか、龍可には分るんだな……全部説明する。
  俺が赤き竜に何処に連れて行かれて、そして何をしてたのか…彼女達が何者なのかも全部。」

 「えぇ、聞きたいわ――何が有ったの全部ね。」


 後に英雄と呼ばれる男は、自分の感覚で実に9ヶ月ぶりに己の故郷に舞い戻ったのだった…
















   To Be Continued… 






 *登場カード補足