最大級の一撃を受けてなのははダウンしてしまった。
攻撃の衝撃によって生じた窪みに腰掛けるように倒れ伏したなのはを見るヴィヴィオは無言……恐らくは如何して良いのか分からないのだろう。

「!?」

だが、そのヴィヴィオは突如悪寒を感じた――他でもない倒した筈のなのはから。
其れは最早本能的な恐怖としか言いようのない感情だ……ヴィヴィオの深層心理が、驚異の存在が其処に居ると言う事に警鐘を鳴らしていた。

『………ガァァァァ…』

「ひっ!!!」

そして突如聞こえて来た、低い唸り声に思わず小さく悲鳴を上げてしまう――ヴィヴィオにとってはそれ程の相手なのだろう。

『ワリィゴハイネガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』
ジャンク・バーサーカー(な  ま  は  げ):ATK2700


そして現れたるは毎度おなじみ『なまはげ』ことジャンク・バーサーカー!
遊星がなのはに渡していたカードは此れだったのだ……成程、良く分かっていると言うべきだろう。

「いぃやぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁっぁぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

其れを見たヴィヴィオは聖王の威厳は何処にだ。
相当に怖いのだろう、なのはに止めを刺すのも忘れて、バーサーカーから逃げ回る。

『イネェガァァァァァァァァァッァァァッァァァ!!!!!』

「きゃ〜〜〜〜〜〜!!こないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!!!」

『イネガァァァァァッァァァァッァァァァァァ!!!!!!』

アックスソードを振り回しながらブロンドの美女を追い回す狂戦士――何度見てもシュールな光景である。

「……あ、あれ?何時かどこかで見た光景…?」

そして、この騒ぎで目を覚ましたなのはは、目の前の光景に軽い既視感を感じて居た。












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス116
『底無しの悪意に鉄槌を下せ!』











「くははははは!!くたばったか不動遊星!!」

一方で遊星が戦っていた場所では、崩れ落ちた遊星を見下ろしながらディヴァインが歓喜の声を上げていた。
憎き仇敵を打ち負かし、そして自分がとどめの一撃を加えた――その事実が、この自尊心の塊に手足が生えたような男の感情を満たしきっていた。

だが、此処で予想外の事態が起きた。

「え……お父さん?」

レーシャの洗脳が解け、遊星を認知し、倒れ伏す遊星に心配そうに声を掛けていたのだ。

「確りしてよお父さん!目を開けて!!」

だが、自分の呼びかけに答えない遊星にレーシャの焦りが募る。


「呼びかけても無駄だ……そいつはたった今死んだんだよ……この私の手によってね!!」

さらに追い打ちを掛けるかの様なディヴァインの悪意に満ち満ちたセリフ……だが、これがイケなかった。


「お父さんが死んだ……そしてそれをやったのはお前……!」

遊星が死んだと聞いて、其れまで抑えられていたレーシャの感情は一気に沸騰し、そして転化したのだ『純然たる怒り』へと。

「許さない……絶対に許さない!!」

「!!」

そして言うが早いか、レーシャは雷速の超絶高速移動でディヴァインに肉薄し、重爆ボディブローを一閃し、更に側頭部への上段回し蹴り。
更に、ワンツーの連続ボディアッパーに繋げて、止めとばかりにアッパーカットでブッ飛ばす。

強大な魔力を持ち、身体が大人になったレーシャの魔力付与の格闘攻撃など想像もしたくない。
だが、其れを受けてもディヴァインの顔には悪意の笑みが浮かんでいる……この男、悪知恵『だけ』は良く働くのだから面倒な事この上ない。

「ふふふ……許さないか……ならば私を殺した後で君も自害するかい?
 洗脳されていて覚えていないと言うのならば教えてあげよう……君こそ彼にもっと激しい攻撃を仕掛けていたのだ、殺さんばかりのね。」

「!!!う、嘘!!そんな事は……」

「ハハハハハハ!本当に覚えていないとは、相当にクアットロ嬢の洗脳は大したものだ!称賛に値するよ!
 実に滑稽だな大魔導師殿!君は操られ、知らない内に愛する『父』を殺そうとしていたのだ!ハハハハ、此れは実に愉快極まりない!!」

今度はレーシャの心を抉りに掛かっていた。
如何に操られていたとは言え、大好きな遊星を攻撃していたと言う事実にレーシャの心は砕けそうになる……いや、クラッシュ寸前だろう。

「だが、安心したまえ……事が済めば君とて用済みとなる。その暁には私が君を彼の許へと送って――


――バキィィィィィィィィィ!!!!


「グハァァァァァァァァァァ!!!!!!」

だが、悪意のセリフはそれ以上は続かなかった。
突如ディヴァインの背中を襲った衝撃と言うにも生温いほどの、宛ら車が激突したかのような重い重爆撃。

「お前の悪意のセリフは聞くに堪えない……少しその口を閉じていろディヴァイン!!」

その衝撃の正体は、遊星のジャンク・ウォリアーが放った渾身の『スクラップ・フィスト』。
ディヴァインのモンスターの攻撃をたっぷりとその身に受けて、一瞬意識が飛んだ遊星だが、其れでも僅か数分で復活しこの一撃を喰らわせたのだ。


そして、目を覚ました遊星は誰が見ても分かるほどに怒っていた。
若しかしたら幼少時代から共に過ごして来たクロウやジャックですら見た事がないかも知れないと言うくらいに、その顔は怒りに染まっていた。

「き、貴様……!!」

「ディヴァイン……レーシャの心を傷付け、あまつさえ殺すだと?……ふざけるのも大概にしろ!
 レーシャは確かに操られていたが、その子の攻撃は只の1発も俺には当たっていない!
 其れに、知らない場所に連れてこられた子供が不安になって暴れてしまうくらいはよくある事だ……其れで俺を攻撃したって気にもならない。
 だがディヴァイン、お前はレーシャを狙った!そしてその心を悪意で傷付けた……絶対に許さん、覚悟は出来ているんだろうな!!」


――ギュイィィィィィン!!


遊星の怒りに呼応するように、その背に『赤き竜の紋章』が現れ、魔力が急速に増大していく。

「俺はスピードスペル『Sp−エクストラチェンジャー』を発動!
 俺のスピードカウンターが8個以上ある時、俺のフィールド上のシンクロモンスターを2体までリリースして発動!
 エクストラデッキからリリースしたモンスターのレベルよりも低いレベルのシンクロモンスターを特殊召喚する!
 俺はメテオ・ブレイカーと、Sinスターダスト零式をリリースし、エクストラデッキから『フォーミュラ・シンクロン』『リサイクル・ウォリアー』を特殊召喚!」
フォーミュラ・シンクロン:DEF1500
リサイクル・ウォリアー:DEF1000



「更にチューナーモンスター『ミラージュ・シンクロン』を召喚!」
ミラージュ・シンクロン:ATK1200


「レベル5のジャンク・ウォリアーに、レベル3のミラージュ・シンクロンをチューニング!
 集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚、飛翔せよ『スターダスト・ドラゴン』!!!」

『クァァァァァァァ!!!』
スターダスト・ドラゴン:ATK2500



現れたのは遊星のエース。あらゆる破壊を包み込む守護の星龍『スターダスト・ドラゴン』。
だが、其れだけではない……既に『最強の星龍』を呼び出す準備は整っているのだ。


「お父さん…?」

「少しだけ待っていてくれレーシャ……アイツを倒し、そしてお前を助け出す……信じてくれ。」

「……うん…」

遊星が僅かに見せた笑顔にレーシャも落ち着きを取り戻したのだろう。
だが、ディヴァイン討伐はまた別問題だ。

レーシャに向けたのとは全く違う鋭い……其れこそ射殺さんばかりの視線をディヴァインに向ける。
そのあまりの激しさと鋭さに、ディヴァインも少しばかり後退ったくらいだ。

「覚悟は良いなディヴァイン!俺は絶対にお前を許さない…………オーバートップ・クリアマインド!!


――轟!!


「スターダスト・ドラゴンと、リサイクル・ウォリアーに、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!
 集いし希望の結晶が、更なる進化を照らし出す。光射す道となれ!デルタ・アクセルシンクロォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


――ドガァァァン!!!!


「降誕せよ、『コズミック・ブレイザー・ドラゴン』!!!」

『ガァァァァァァァァァァァァ!!!!!』
コズミック・ブレイザー・ドラゴン:ATK3800



雷鳴が轟くが如く轟音と共に降臨したのは最強の星龍『コズミック・ブレイザー・ドラゴン』。
大宇宙の力をその身に宿し、ディヴァインのサイキックモンスター達を睨みつけている……如何やら遊星と同様に相当怒っているようだ。

「コズミック・ブレイザー・ドラゴンの効果発動!
 デッキの上からカード5枚をめくって確認し、その中のチューナーの数まで通常の攻撃に加えて攻撃出来る!
 ……俺が確認したカードの内、チューナーは5体!よってこのターン、コズミック・ブレイザーは6回の攻撃が可能になる!!!」

「な、なんだとぉ!?」

最早驚くしかない。
自分が巨大な地縛神に喰らわれたあとで、遊星は予想をはるかに超えた成長をしていた……ディヴァインは否が応でも其れを認めるしかなかった。




そして、最早自分には敗北以外の道は残っていないと言う事も……

「コズミック・ブレイザー・ドラゴンで、ディヴァインのモンスター全てに攻撃!『シューティングフォース・ブレイカー』!!!!」

『グオォォォ……カァァァァァァァァ!!!!!』


――キィィィィン……ドガァァァァァァァァァァァァァ!!!!



放たれた一撃は、いとも簡単にディヴァインの僕達を一撃消滅させ、更にディヴァイン自身にも大ダメージを与える。
折れぬ心と千切れぬ絆が、醜悪な悪意を打倒した瞬間だった。


そして……


――ボロリ…


「な!?」

「「!!!!」」

攻撃を受けたディヴァインの腕がもげた……しかもその腕は腐敗が始まっている。

『……如何やらそこが活動限界でしたか……ご苦労様ですね。』

「活動限界だと!?……ど、如何言う事だ!!」

『あらあらおじ様、本当に私達が貴方を仲間だと思ってるなんて甘い事を思ってたんですかぁ?
 貴方は所詮はレリック・ウェポンの実験体……あの失敗作よりも少しばかり出来の良かった捨て駒に過ぎないですわよぉ?
 でも〜〜、捨て駒の割には不動遊星に大層な痛手を与えてくれたので、其処だけは評価してあげても良いですわぁ。
 だけど、オジサマはもう用済みですわ………だから精々そのまま死んじゃって……出来損ないのスクラップにこれ以上の用はないわ。』


その理由を告げたのは、ディヴァイン以上の悪意の存在。
ウーノとクアットロのセリフに『嘘だろう?』とも言いたげなディヴァインだが、限界を超えた身体は急速に腐敗し、崩れ落ちて行く。

このグロテスクな光景を見せまいと、レーシャの頭を抱きかかえた遊星の判断は見事だろう。

「ば…馬鹿な……」

そして此れがディヴァインが現世で放った最後の言葉となった。
多くの人間をサイコデュエリストの実験台にして来た男は、最終的には己自身が実験体といて扱われ、惨めな死を迎えたのだ……哀れである。


更に…


――バチィ!!!


レーシャを抱きかかえていた遊星が、電撃によって弾かれる。

「お父さん!!」

『貴女もまた手駒に過ぎない……洗脳は解けてしまいましたが、まだ手駒として働いてもらいますよ…』

「あ、あ、………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

今度はレーシャの意識をそのままに身体のコントロールを乗っ取って来た……外道ここに極まれりである。
だが……


――ガシィ!!


暴れさせられようとしているレーシャの身体は、機皇星龍−スターダストがキッチリとホールドし、遊星への攻撃を食い止めていた。

「ありがとう、機皇星龍……なのは、そっちは如何だ?」

『うん、何とか……ジャンク・バーサーカーがヴィヴィオを抑えてくれているから…』

「そうか……なら行けるな。」

そして、遊星となのはにはまだ切り札が残されているようだった。






だが、その態度が気に入らないのは最深部のコントロールルームに居るウーノとクアットロだ。
完全に手負いの遊星となのはは、一切諦めていない……ヴィヴィオとレーシャは完全に此方の手駒であるにも拘らずだ。

「忌まわしいですわね……でも、その拘束も所詮は長くは続きませんわ!其れが解かれたらその時こそ!!」

『……其れは如何かな?』

「え?」

まだ此方に利がある……そう思っていたが、遊星の一言に思わず反応し、辺りを見回す。



そして見つけた……桜色の光の玉を。







「……見つけた。」

其れはなのはが戦闘中に密かに放っていた広域エリアサーチ用の誘導弾。
そう、なのははヴィヴィオと戦いながら、ヴィヴィオとレーシャを操って居る者の居場所を探していたのだ。

『Wide Area Search successful.Coordinates are specific. Distance calculated.(ワイドエリアサーチ成功。座標特定、距離算出。)』




「これは……エリアサーチ!まさか、ずっと私達を探していた?」

「だ、大丈夫ですわウーノお姉さま!
 見つかりはしましたが、だけどここは最深部……此処まで来られる人間なんて……」

『あぁ、確かにそこまで行く事は出来ないだろう。
 だが、俺もなのはも、其処に攻撃を到達させる事は出来る!!』

「「!!!!!」」

見つかった以上、撃墜は免れないらしい。
この時、クアットロの脳裏には数年前の空港火災で、なのはが壁抜き砲撃で脱出路を確保してた光景が蘇っていた。





「スピードスペル『Sp−The Battle Of Ace』!!
 俺のスピードカウンターが7個以上ある時、自軍のシンクロモンスターの攻撃力をスピードカウンターの数×200ポイントアップする!
 俺のスピードカウンターは12!よってコズミック・ブレイザーと、シンクロ状態のなのはの攻撃力は2400アップする!」

『クアァァァァァァ!!!』
コズミック・ブレイザー・ドラゴン:ATK3800→6200





「流石だね遊星さん…」
不撓の魔導師−なのは:ATK2700→5100


遊星がスピードスペルで力を底上げすれば、なのはだって負けてはいない。

「ブラスタァァァ……3ーーーーーーー!!!!!」


――ゴォォォォォォォォォ!!!!


限界突破の『ブラスター3』を解放し、更にカートリッジを3発ロードする。
そしてそれと同時に、コズミック・ブレイザー・ドラゴンも、最大の一撃を放たんと力を集中している。


ディバイィィィィン……バスタァァァァァァァァァーーーー!!!!


「撃ち貫け、コズミック・ブレイザー・ドラゴン!シューティングフォース・オーバー・ブレイカー!!!!」

『コアァァァァァ……シャァァァァァァ!!!!』


同時に放たれた桜色の極大砲撃と、白銀の殲滅波動。
其れは混じりあい、床を破壊し、壁を貫き、隔壁を溶解して目標へと向かって行く。



「そ、そんな馬鹿な……!!」

「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そして、ウーノとクアットロに逃げ場などない。
最も安全な最深部だが、逆を言えば、其処に到達するだけの強大な一撃を撃ちこまれた場合は逃げる事が出来ないと言う事でもあるのだ。

己は安全な場所に身を置いて謀略を巡らせたツケが此処で回って来たのだ。

「ぐ……あぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いぃやぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



最強にして究極の一撃のコラボレーション攻撃は、逃げる事も許さずに敵を完全紛滅!!
最強の英雄とエース・オブ・エースの前には、如何なる謀略も無意味であると言う事の証明であった。



だが、此れで終わりではない。

「レーシャ………」




「ヴィヴィオ……」


遊星となのはにはまだすべき事が残っているのだ。


己の娘をレリックの呪縛から解放して助け出すと言う、最大の使命がまだ残っているのだ……デュエルの終焉を告げるラストターンが――













 To Be Continued… 






*登場カード補足



Sp−エクストラチェンジャー
スピードスペル
自分のスピードカウンターが8個以上ある時に、自分フィールド上のシンクロモンスターを2体までリリースして発動する。
エクストラデッキから、リリースしたモンスターよりも低いレベルのシンクロモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この特殊召喚はシンクロ召喚合扱いとし、この効果で特殊召喚したシンクロモンスターの効果は無効になる。