聖王と次元大魔導師――其れに姿を変えたヴィヴィオとレーシャに、流石のなのはと遊星も驚きは隠せなかった。
レーシャがプレシア、ヴィヴィオがオリヴィエのクローンである事は知っていたが、実際にそれが大人の姿になると中々に凄まじいモノがある。

特にレーシャは其れが強い。
ヴィヴィオと違い、オリジナルであるプレシアが健在であるが故に、その容姿は多くの人が知っているからだ。
だが……

「……此れじゃない。」

「?」

何かを呟いたかと思った瞬間、再びレーシャの姿が変わった。その姿は最早プレシアではなく…

「はやて!!」

はやての姿だった。
髪の色こそレーシャのモノだが、それ以外は騎士服のインナーのみのはやてと言った姿だ。
それだけではなく、その顔には遊星のマーカーと同じ模様まで現れている――レーシャの記憶の中の『憧れと愛しさと強さ』の象徴が再現されたのだ。



「ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


――ドガバァァン!!!


「レーシャ!!…く、トラップ発動『くず鉄のかかし』!此れで相手の攻撃を1度だけ無効にする!」

半ば暴走状態とも言えるレーシャの攻撃を、遊星はエーストラップでシャットアウト!
だが、状況は決して良くはない――遊星もなのはも、自分の『娘』に攻撃して止めると言う方法は有効だと知りながらも、如何しても戸惑う。
如何に助ける為とは言え、非殺傷であるとは言え娘に刃を向けると言う行為は躊躇われるのだろう。


或は、スカリエッティが此処まで計算の内で計画を練ったとしたらある意味で称賛モノだろう――反吐が出そうな悪意に対してのみだが。

「……苦しいんだなレーシャ……身も心も自分の思い通りにならなくて。
 だが安心しろ、必ず助ける…俺はその為に此処に来たんだ!…いや俺だけじゃなく、はやてもお前を救いたいと、そう思ってるんだ!
 俺の思い、はやての思いをお前に必ず届かせる!!……行くぞ!!」


其れでも遊星は己のスタイルを崩さず、あくまでもレーシャの心に呼びかける戦いをつづける事を決めた。
ゆりかごの内部2か所の『玉座』に於ける最強の戦いは遂に切って落とされるようだ。












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス115
『暴走せし大魔導師と聖王』











なのはもまた、すっかり変わりきってしまったヴィヴィオの姿に、一瞬とは言え戦慄し動きを止めていた。

紅と碧のオッドアイはさることながら、自分よりも高い身長、サイドポニーに纏めたハニーブロンド、そして漆黒の防護服。

なのはの前に現れたのは『最強』と謳われた聖王女として覚醒した……『聖王』と化したヴィヴィオの姿が!
だが、このヴィヴィオの髪型や防護服にはなのはとの類似点が見て取れる――やはりヴィヴィオの記憶の『憧れと愛しさと強さ』が再現されたのだ。

「……うぅぅぅ……」

「ヴィヴィオ……」
――物凄い魔力……恐らくははやてちゃんよりももっと強い――其れだけなら戦い方次第でどうにでもなるけど……


「苦しいんだね……」

低く呻くヴィヴィオを見て、小さくそう漏らした。
強大な力に身体と心が付いて行っていない、己の中で荒れ狂う力をどうやって扱っていいかが分かっていないと、なのははヴィヴィオをそう判断した。


――制御できてない巨大な力ほど厄介なモノは無い。
   リミッター完全解除とシンクロ、ブラスター2で、果たして今のヴィヴィオを止める事が出来るかどうか…


今にも牙を剥かんとするヴィヴィオに警戒を怠らずに、冷静に状況を分析する。
最大の禁術である『ブラスター3』を使えば、恐らくは今のヴィヴィオにも対応できるだろうが、如何せんリスクが高すぎる。
強制的に自身の能力を引き上げるブラスターシステムは、遊星が改良を加えても尚身体への負担が大きすぎる――まだ切り札を切る時ではない。


だが、そんな事はお構いなしに、最低最悪の悪意は状況をかき回す。

『うふふ……さぁ聖王様、玉座に貴女に害をなさんとする逆賊が入り込みましたよ?……如何なされます?』

「敵…?……敵は、倒さなきゃ…!」

『あははは!そうですわ!敵は倒さないといけませんわ!
 貴女の敵は、眼前の白き魔導師……其れを完膚なきまでに叩きのめして殺さなければゆりかごは落とされてしまいますわよ〜〜!』

「あ……ア……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

クアットロの言葉に弾かれるようにヴィヴィオはなのはへと突進し重い拳打一閃!
余りのスピードに、なのはも回避行動が間に合わずギリギリでプロテクションを張って何とか防御するが、制御不能なパワーは殺しきれない。

「く…!!」

完全に防ぐのは無理と判断したのだろう、自ら後ろに跳んで拳打のダメージを軽減して体勢を建て直しアクセルシューターで反撃する。
複雑な軌道を描いて飛び回る誘導弾はおいそれと補足出来るモノではない。

『あはははは!無駄よエース・オブ・エース!!』

だが、その誘導弾も何処からともなく現れた無数の魔力弾で掻き消されてしまう。
最深部のコントロールルームに居るクアットロが遠隔操作で、魔力弾を操りアクセルシューターを相殺して来たのだ。

更に其れのみならず、新たな魔力弾をなのはに放ちその動きを制限しようとする。

「く……これじゃあ!!」

如何になのはと言えど、動きを制限された上で格闘型のヴィヴィオと戦うのは楽ではない。
無数に現れる魔力弾と、クロスレンジ戦闘を仕掛けて来るヴィヴィオに同時に対処しろなど無理ゲーも良い所だ。

「うあぁぁぁぁぁあ!!!!!」

「しまった!!!!」


そして、回避と防御の比重が大きくなれば何処かに綻びが出来て大きな隙が生まれてしまう。
魔力弾を避けようとして僅かに体勢を崩したのは、今のヴィヴィオには絶好の好機であったのだろう――


――ドゴォォォォォ!!!


「カハッ……!」

重爆ボディブローが炸裂し、なのはの動きが完全に止まる。
そして其処にクアットロの魔力弾が無数に降り注ぎ、更に追撃にヴィヴィオがアックスパンチで床へと叩き落とす。

間違いなくダメージは大きいだろうが、其れでもなのはは倒れない。
床に叩き付けられながらもアクセルシューターを放ち、ヴィヴィオの追撃と新たな魔力弾に対処して来た――エース・オブ・エースの名は伊達ではない。

だが、矢張りダメージは大きいのだろう。
肩で息をしている辺り、相当に消耗してしまったようだ――だが、その瞳からは闘志は消えて居ない。

「待っててねヴィヴィオ……必ず貴女を助けるから!!」

『Excellion Mode.』

その闘志を受け、レイジングハートもヴィヴィオを助け出さんとするなのはの為にエクセリオンモードを起動する。
リミッター完全解除+シンクロ+ブラスター2でのエクセリオンなど、一歩間違えばデバイスが大破してしまうだろうが、其れでも起動したのだ。

全てはなのはの思いを成すために……レイジングハートのなのはに対する信頼と信愛が其れを起動させたのだ。

「レイジングハート…」

『Let's go Master.(行きましょうマスター。)』

「うん……行こうレイジングハート、ヴィヴィオを助けに!!」

『All right.(了解です。)』

愛機…否、相棒と共にヴィヴィオを助け出さんと、なのはは飛ぶ――もう、救うために攻撃する事に迷いはなかった。








――――――








さて、同刻の動力炉だが…

「は〜っはっは!!行くぜ野郎ども!このエンジンをぶっ壊す!!……全軍突撃ぃ!!!!」

『『『『『『『『『!!!!!!!』』』』』』』』』

何故かガジェットがヴィータと共に動力炉を攻撃していた。
……此れは全くの偶然なのだが、ヴィータに殴り飛ばされたガジェットが動作不良を起こし、何の因果かヴィータの命令に従うようになってしまったのだ。
無論全てではないが、10機ほどのガジェットがヴィータの僕と化していた。

『行くぞテメェ等!ロリ姉御のご命令だ!!』
『ロリ上司来た此れ!あと10年は戦える!!』
『汚物は…消毒だぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!』


しかも何か訳の分からない事を叫んでいる個体まで居る――果たしてガジェットは如何なる構造なのか果てしなく謎である。

「オラオラオラ!!もうアタシは止まらねえ!!テメェがぶっ壊れるまで殴るのを止めねぇからな!!!」

『Explosion.』

動力炉での戦いは、半ば集団苛めと化しているようだった。
尤も、此れだけの攻撃を受けても、未だに破損しない動力炉の頑丈さは大したものだと思うが……

「うらぁ!ぶっ飛べぇ!!!!!」

其れが壊れるのも時間の問題だろう。








――――――








遊星とレーシャの戦いは一進一退だった。
此方にはウーノの横槍が入って来たが、防御に定評のある遊星には魔力弾程度は大した脅威ではない。
3体のドラゴンの奮闘も有り、遊星はジャンク・ウォリアーと共にレーシャとのバトルに集中する事が出来ていた。

だが…

「死ね、不動遊星!!!」

「ディヴァイン!!!」

突如現れたディヴァインの奇襲をギリギリで躱し、体勢を維持する。
だが、此れは存外厄介な状況となった――事実上の3vs1は幾ら遊星でもきついだろう……だが、遊星に焦りの表情は無い。

「この期に及んでまだ俺の前に立ち塞がるか?」

「当然だ……復讐は我に有り!……貴様だけは殺さねば気がすまん!!」

「ふ……」

焦るどころか、ディヴァインの言葉に失笑を漏らすほどの余裕ぶりだ。

だが、失笑されたディヴァインは穏やかではない……ありありと分かるほどに怒りが立ち上っている――この程度で激昂とは気は短いらしい。

「何が可笑しい?」

「……そんなに俺に倒されたいか?……ならば望み通りにしてやるぞディヴァイン!!」

言うが早いか、閃滅龍 メテオ・ブレイカーをディヴァインに差し向け、その僕であるハイパー・サイコガンナーを粉砕!!
今の遊星を止められるものなど居ないだろう……大事な存在を助け出さんとしている遊星には無限の力が宿っているのだから。

「貴様…!!」

其れに歯噛みするディヴァインだが、遊星を相手にするには駒が足りない。
最強レベルが立ち並ぶ遊星のフィールドを攻略するのは簡単ではない――寧ろ難易度はS+と言っても過言ではあるまい。


だが、其処は流石に嘗ては組織の長を務めたディヴァイン――遊星の強さの源でもあると同時に、最大の弱点であるモノを見抜いていた。
悪意たっぷりの笑みを浮かべると、其れを実行せんと動く。

「メンタル・スフィア・デーモンよ……大魔導師に攻撃しろ!!!」

新たな攻撃対象は遊星……ではなく、何とレーシャ。
ありったけの魔力を詰め込んだのだろう、その攻撃はメンタル・スフィアのステータスを遥かに上回る破壊力を秘めているようだ。

もしもこれがレーシャに炸裂したら、重傷は免れないだろう。
遊星の『くず鉄のかかし』も、新たなレーシャの攻撃を防ぐために使ってしまったので、即時再使用は出来ない。

「ディヴァイン…貴様…!!」

「くくく…良い顔だな……さて、如何する不動遊星!!」

「く……レーシャ!!!!!」

防ぐ手立てがないのならば如何するか?………自分が盾になる、それ以外にはないだろう。
メンタル・スフィアの攻撃から、レーシャを護るように遊星は立ち塞がり、そしてその身に攻撃を受けたのだった……








――――――








「あ………」

一方で玉座での戦いは終わりを迎えようとしていた。
リミッター解除+シンクロ+ブラスター2+エクセリオンのなのはを相手にしても尚、ヴィヴィオの圧倒的な強さは健在だった。

迫りくる誘導弾を回避して近づき、重い蹴りと拳を無数に放ってなのはの防御を削る。
強大な砲撃は、最小限度の動きで避け、逆に速度重視の直射砲で反撃し、なのはに攻撃の糸口をつかませないでいたのだ。

更にはクアットロの執拗な攻撃も有り、遂になのははヴィヴィオの拳打を受け、更に吹き飛んだところに直射砲を叩き込まれたしまった。

壁にはなのはを中心にして大きなくぼみが……凄まじい破壊力だったのだろう。

其れ受けたなのはは、窪みの縁に腰掛けるように崩れ落ちる。










更に、遊星もまた…

「く………」

ディヴァインの凶行からレーシャを護るべく、全身にメンタル・スフィアの攻撃を受け、膝をついたのちにダウン……



2つの玉座での戦いは、どうやら最悪の展開を呈して来たようである。











いや、だからこそ誰も気付かなかったのだろう。
遊星のモンスター達は消えて居ない事に、なのはのシンクロ状態が解除されてはいない事には……















 To Be Continued… 






*登場カード補足