己の常識の範疇を超えた事が目の前で起きた場合、人は如何するであろうか?

泣きわめく?範疇を超えた事態に対して攻撃を仕掛ける?恐れ慄いて震える?


今上げたホンの一例の行動をとる者も少なくないだろう――だが、大抵の人はこうなってしまうのではないか?……身体が硬直してしまうと言う状態に。

地上部隊の仮本部で、アモンはまさにそんな状態になって居た。


ゴドウィンが呼び出した『天放神Wiraqocha Rasca』は、この仮本部を遥かに凌駕する大きさでありながら、しかし室内に存在しているのだ。
そう、まるでこの部屋そのものがWiraqocha Rascaの大きさに合わせて拡張されたとでも言うように。

其れだけならばソリッドヴィジョンの演出と片付ける事も出来るが、Wiraqocha Rascaの発する威光にアモンは戦慄していたのだ。
この黄金に輝くコンドルは、あの三幻魔ですら凌駕するほどの力を発している――完全にアモンの理解の及ばない存在であった。

「なんだ、そのモンスターは…!!」

「ナスカの地上絵は知っていますね?
 このカードは、その地上絵のコンドルが地に縛られし邪神となる前の真なる姿ですよ。」

「何だと…!!」

アモンの頭はオーバーヒート寸前と言っても良いだろう……あまりにも理解の範疇を超えすぎているのだ。
いや、三幻魔以上の存在が目の前に現れた時点で、アモンが培ってきた様々な常識やら何やらは砕け散ってしまっていた――其れほどの存在だったのだ。

「アモン君、デュエル前にも言いましたが、私は今此処で君の心を砕きます。」

天を解放する名を冠した光の神を従え、ゴドウィンは冷静かつ冷徹に、デュエルの終幕を宣言した。












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス112
『デュエルの決着、そして結末』











ゴドウィン:LP6600
天放神Wiraqocha Rasca:ATK?
天穹覇龍ドラゴアセンション:ATK4000
月光龍−カグヤ:ATK2500


アモン:LP2700
封印獣神−カタストロフ:ATK4000




「天放神Wiraqocha Rascaの攻守の値は、常に私のライフポイントと同じになります。
 今の私のライフは6600…よってWiraqocha Rascaの攻撃力と守備力もまた6600ポイントとなります。」
天放神Wiraqocha Rasca:ATK&DEF?→6600


「攻撃力…6600だと!?」

この局面で、攻撃力6600の超大型モンスターとくれば、アモンでなくとも驚くだろう。
いや、アモンには驚いている暇すらない……このターンのバトルフェイズで、自分のライフが戦闘で削り取られるのは略確定の状態だ。

デュエリスト未満のプレイヤーなら、此処で命乞いをするか何とかして此処か逃げようとするだろ。
だが、実力的には並以上のアモンは其れを選択する事はなかった。

「攻撃力6600…確かに脅威だが其れが如何した!
 カタストロフは封印の真言がある限り破壊されず、如何なるモンスター効果をも受けない最強の封印獣だ。
 例えそのモンスターの攻撃を受けようとも僕のライフは100ポイントだけ残る……其れだけ残っていれば次のターンで其れを倒す事も可能だ。」
――と、言うよりもこの伏せカードは『封印の禁術』。
   封印獣が攻撃対象になった時、相手フィールド上のモンスターの効果を全て無効にし、攻撃対象になった封印獣の攻撃力を倍にする。
   効果で攻撃力を得て居るモンスターは効果が無効になれば攻撃力は0……カタストロフに攻撃した時がお前の終わりだゴドウィン!!


腐ってもデュエリストのアモンはデュエルを途中で投げ出したりはしない…其れが傍目には逆境であってだ。
尤も、其れは同時に逆境への対抗手段がある事を暗に示している事にもなるのだが……

「…誰がカタストロフに攻撃をすると言いましたか?」

「なに?」

だが、矢張り駆け引きになればゴドウィンの方が遥かに上手であるのは、如何あっても覆す事が出来ない。
アモンの伏せカードも大体の予想が付いたとばかりの笑みを浮かべ、ゴドウィンはある種『死刑宣告』にも近い宣言を下す。

「君の伏せカードは、恐らく封印獣への攻撃をトリガーに発動する迎撃型のトラップでしょう。
 ならば対処法は実に簡単……封印獣に攻撃せずに君のライフを0にするだけの事――Wiraqocha Rascaにはその力が備わっているのです。」

「モンスターを攻撃せずに僕にダメージを与えるだと…?」

「如何にも。
 では、お教えしましょう!天放神Wiraqocha Rascaは、相手プレイヤーにダイレクトアタックをする事が可能なモンスターなのです!」

「なに!?攻撃力6600でのダイレクトアタックだと!?」

驚愕――そうと言わずして何と言えと言うのか?
攻撃力6600でのダイレクトアタックなど反則にも程がある……何よりダイレクトアタックではアモンのカードは全く役に立たない。

勝敗は、今この時完全に決したのだ。

「馬鹿な……僕が負けるのか…?」

「……アモン君、試みに問いましょう。
 君の目的その物は私も支持します。確かに差別も偏見もない、誰もが平等に生きる事が出来る世界はある種の理想郷と言えるでしょう。
 ですが、破壊による再生でその世界を造って――君は一体その世界で何を成すのです?」

「え…?」

「その世界を造れば、君の目的はそこで達成された事になります。それで如何するのですか?
 新たな世界を構築した『神』にでもなる気ですか?……いや、其れでは余りにも意味がない――新たな神の存在は新たな歪みを生みますからね。」

「な、何が言いたい!!」

「ふむ…如何やら私の問いに対する答えは持ち合わせていないようですね……ではハッキリと言いましょう!
 アモン君、君は目的達成と同時に自らの命を差し出さねばならない!
 破壊による再生を完璧に行う事の最後の一手は、其れを行った者の消滅…即ち死を持って破壊による再生は完遂するのです!」

更にゴドウィンの言葉がアモンを切り裂く。
そう、嘗て破壊による再生を目論み、あと一歩の所にまで漕ぎ付けたゴドウィンだからこそ言える言葉によって。

ゴドウィンも目的達成の暁には自らを滅し、全てを消し去る心算だったのだから

「破壊による再生を行うなら、その先の世界に自らを存在させない覚悟が必要となります。
 新たに生まれた世界を見る事は許されないのです――何故ならば其れを行った者が生きていては古い世界は消えきってないのですから。」

「そんな…馬鹿な……」

「分かったでしょう?生きて世界を変えるなら、破壊による再生は有り得ないのです。」

「…………」

もう、アモンは何も言えなかった。
恋人であるエコーを犠牲にしてまで臨んだ破壊による再生――だが、其れが完遂した先の世界を見る事が許されないのだ。
それこそ、その世界にエコーの墓標を立て、そして花を手向けて礼を言う事すら許されないのだ――余りにもアモンには残酷な真実だった。

「アモン君、君にはまだ未来がある……やり直しも出来ます――その為に私は君の心を砕く。
 今度は道を間違えずに理想を現実にしてください……バトル!天放神Wiraqocha Rascaでダイレクトアタック!『ポーラスター・オベーーイ』!!!」

『ЁЙфДБМЗЫ…!!』


――ゴォォォォ…!!!


「………」
アモン:LP2700→0


決着。
黄金のコンドルの一撃はアモンの残りライフを容赦なく焼き付くし、そしてアモン自身の闇をも焼き尽くしたのかもしれない。

アモンは膝をついたまま動こうとはしない……恐らく本当に心が砕かれ何も考えられないのだろう。





だが、アモンが動けなくなったのは同時にドゥーエの拘束が解かれる事を意味している。
デュエルが終わり、アモンが動けないならばドゥーエの動きを封じていた封印獣もまた焼失し、拘束は解かれてしまうのだ。

「目的は果たす……死ね、レジアス・ゲイズ…!」

「!!」

「しまった…!」

「レジアス!!」

完全な奇襲!
レジアスは反応できず、ゴドウィンとゼストも救出には間に合わないだろう。


万事休すか?…誰もがそう思った。


「王手には…まだ早い!!覇ぁぁぁぁ…紫電双刃閃!!!

その瞬間、ドゥーエの爪がレジアスを貫くその刹那にシンクロ化したシグナムが部屋に突入して一撃を喰らわせたのだ。
後コンマ1秒でも遅ければレジアスは胸を貫かれて死んでいただろう。

だが、ドゥーエは吹き飛ばされながらもレジアスを爪で斬り付けていた…其れも可成り深く。

「私を止めたのは見事だけれど…残念だったわね――どの道そいつは死ぬわよ?
 心臓は貫けなかったけど、大事な血管を何本か斬る事は出来たモノ……5分も経たずに失血死するわ!」

「貴様……!!」

防げなかった……即死は防いだがレジアスの死は防げなかったようだ。
今から救護班を要請しても到着には10分は掛かるし、シグナムは治癒魔法の類は使えない。
ゴドウィンのデッキのライフゲイン系のカードを使っても、其れは体力を回復させるだけで身体の傷は治せない――完全に詰みだ。


「レジアス!おい、レジアス!!!」

「ゼストよ…すまなかった……ワシが最高評議会と手を組まねばお前とナカジマを死なせる事はなかった…ワシは…愚かだな。
 最高評議会に加担し、スカリエッティに加担し……そして最後には見限られたか……道化も此処まで来ると笑えんものだ……
 だが、此れであの時死した者達にあの世で詫びる事が――できる筈はないか……ワシは地獄…行き…だろうから…な…」

「確りしろレジアス!レジアスーーー!!!」

「…………」

ゼストの言葉にレジアスはもう答える事はなかった。

「貴様ぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!!!」

レジアスの死……其れがゼストの怒りを限界突破させた。
槍を構え、限界を超えての一撃を友を殺した敵に――

「其れはさせない!」

振り下ろす事は出来なかった。
ドゥーエに振り下ろされるはずの一撃は、シグナムによって止められてしまったのだ。

「止めるな!俺は、俺はそいつを生かしておく事は出来ん!
 レジアスを散々利用したにも拘らず、ゴミ屑のように斬り捨てたそいつを生かしておく事は出来んのだ!!」

「だが、コイツを斬ってどうなる!貴方の友は戻ってはこない!
 何よりコイツは、事件の関係者故に、殺されてしまっては此方とて困るのだ!」

シグナムとてドゥーエの所業は到底許す事の出来ないモノだ――だが、六課の隊員であるシグナムは個人的感情を優先させはしなかった。
ドゥーエも事件の重要な参考人であり、またスパイ活動をしていたならば膨大な量の管理局データを得て居る筈だ。
それらの押収の為にも彼女に生きていて貰わねば困るのだ。

「あくまでどかないか?」

「どかん……誇りある騎士を人殺しにする事は出来んのでな。」

まっすぐ前を見据え、シグナムは退かない。
ゼストも勿論退く気はない――ならば導き出される答えは一つ、戦うだけだ。

シグナムがゼストの槍を払うと同時に、ゼストは絶妙な体重移動でバランスを保ち、身体をひねって槍で薙ぎ払う。

だがシグナムとて歴戦の騎士。
その薙ぎ払い攻撃を紙一重で躱し、髪を纏めていたリボンを斬られるに留める。

そして槍を薙ぎ払ったゼストには隙が出来ている。
槍はその大きさから、攻撃後の隙が大きい――故に、攻撃が躱された事はそのままゲームエンドに直結する。

絶!!

「!!!!」


――ズバァァァァァ!!


その隙を見逃さずに、シグナムはレヴァンティンで居合い一閃!……勝負ありだ。
元よりギリギリ生かされていたゼストとシンクロ化したシグナムでは勝負にすらならなかっただろう。

「……見事だベルカの騎士よ……生き恥をさらしていた俺も此れで漸く…」

ドゥーエに襲い掛かろうとした時の激しさはもうない。
シグナムとのホンの僅かな戦いが、ゼストの気持ちを落ち着かせたようだ。

「旦那!旦那ぁ!!」

がっくりと膝をつくゼストにアギトが目に涙を浮かべて寄り添う。
アギトにとってゼストは恩人であり、そしてとても大事な人だったのだ。

「アギトか………一つ頼まれてくれベルカの騎士よ。
 コイツは、アギトは真正のベルカ式ユニゾンデバイスだが、今まで己と相性の良いロードには恵まれなかったのだ…
 だが、お前ならばアギトとの相性は良さそうだ……如何かアギトのロードになってはくれまいか?……俺の遺言だ、聞いてほしい。」

「其れが望みとあらば……其れに真正ベルカ――古代ベルカの融合騎と言うならば我が同胞。
 私で良いのならば、喜んでこの小さくも勇ましい炎熱の騎士のロードとなりましょう。」

「あぁ…お前ならばきっと………名を、聞かせてはくれぬか?」

「夜天の守護騎士ヴォルケンリッターが将・シグナムです。」

「!!……あのヴォルケンリッターの将殿だったか……我が名はゼスト……2度目の死の間際にお前の様な者に会えて幸せだな俺は。
 ……アギトよ、お前は此れから彼女の融合騎として生きるのだ……お前のロードに相応しい騎士と共に…其れがお前への願いだ……」

「旦那……分かったよ、アタシは生きるよ……新しいロードと共に!!」

そのアギトをシグナムに託し、ゼストは最後の力を振り絞って死したレジアスの隣に横たわる。

「安心しろレジアス…俺もお前と共に地獄めぐりに付き合ってやる……お前だけを地獄に…行かせは……しない……」

そして事切れた。
誇り高き騎士は、漸く呪縛から逃れて旅立てたのだ。


そんなゼストと、そしてやり方は間違ったが高い志を持っていたレジアスの亡骸に、一礼し、シグナムは、


――バキィィィ!!!


床に座り込むドゥーエを思い切り殴りつけた。
殴られたドゥーエが部屋の端にまで吹き飛んだのを見る限り、一切手加減をしないで殴ったのだろう。

「本音を言うならばお前の事を殺してやりたい所だ――だが、其れでは何の意味もない。
 お前はスパイ活動中に命を落とす事も使命として受け入れているだろうし、牢屋に入れられても何も感じないのだろうからな。
 だからお前には、更生プログラムを受けてもらう、拒否権は無い。人の心をその身に宿して、己のした事の罪深さを知って悔いるが良い!!」

俯いて顔は見えないが、きっと泣いているのだろう……その身体は僅かに震えている。
だが、涙は見せずドゥーエに此れからの事を告げるだけだ。

「ゴドウィン中将、此処は頼みます……私は市街地の方に戻らねばなりませんので…」

「分かりました…くれぐれも気を付けて。」

ゴドウィンも余計な事は言わない――シグナムの中に渦巻く感情は複雑極まりないだろうから。

「……アギトよ、可能ならばお前も一緒に来てほしいのだが…」

「……うん、行くよ……旦那は言った、新しいロードの下で生きろって……何よりアンタはアタシとの相性が良いからな。
 …うん、アタシはアンタと一緒に行きたいんだ……良いよなシグナム?新しいマイロード!!」

「あぁ…無論だ!
 早速だが、お前の力を借りたい――市街地にはまだ多くのガジェットが居るのでな…其れを全て殲滅せねばならない。」

そして、シグナムは戻る前にアギトにも声を掛け供に来てほしいと言い、アギトも其れを受け入れる。
ゼストの最後の願いは、如何やら成就したようだ。

「では行くぞアギト!!」

「おう!ユニゾン…イン!!!!」

瞬間、凄まじい力が溢れ、シグナムの姿が変わっていた。
桃色の髪は薄い緋色になり、瞳は薄紫に……そして騎士甲冑は上着がなくなり青紫色に変化している。

「此れは…この力は!!」

す、すげぇ…融合率99.98%!マジで旦那の言う通りだ…!

融合率は略100%と言う相性の良さだった。
此れならば誰にも負けはしない――そう確信し、シグナムは市街地へと戻っていく。


「行きましたか……では、貴女を逮捕しますよ…」

残ったゴドウィンは、ドゥーエに手錠をかけて捕縛。
ドゥーエは一切抵抗しなかったが、其れが一体何を意味するのかを知るのは彼女の更生プログラムが終了した後の事になる。






そして十数分後、市街地での戦闘は六課の完全勝利で幕を閉じたのだった。








――――――








こうしてスカリエッティのアジトと市街地戦は六課の勝利となった。
残るは一つ――ゆりかごのみ。



では、最後の時の巻き戻しを行おう。
そして、StSの最大の戦いをご覧いただこう。


絆の決闘者と、不屈のエース・オブ・エース、鉄槌の騎士が織りなすゆりかごでの戦いと言うモノを…

















 To Be Continued… 






*登場カード補足



封印の禁術
カウンター罠
自分フィールド上の「封印獣」と名の付くモンスターが相手の攻撃対象になった時に発動できる。
相手フィールド上のモンスターの効果を無効にし、攻撃対象になったモンスターの攻撃力を倍にする。
このカードを発動したターンのエンドフェイズ、自分のライフは100になる。