――なんだ、この胸のざわつきは……主はやてとアインス…ホーガンが全力を出している以上、市街地での戦闘で負ける事はない。
   其れにフォワードの連中も、もう入隊したてのひよっこではない……必ずや防衛戦を勝利に導いてくれるはずだ…
   となれば、この胸のざわつきは別の事が原因……陸の本部で何かが起こると言うのか…


市街地を離れて1人地上部隊へと向かっていたシグナムは、言いようのない胸のざわつきを覚えていた。
其れが何かと問われても明確な答えを出す事は出来ないだろう……精々『漠然と妙な予感がする』としか言いようが無いのだ。

嫌な予感と、良い予感が入り混じった不可思議な感覚……其れが今のシグナムが感じて居るものだった。


――良くない事と良い事の両方が起こる…そう言う事なのか?……何にしても急いだ方が良さそうだな。


歴戦の騎士たる烈火の将は気を引き締めると、飛行速度を上げ、一気に陸の本部へと向かって行った…




そして、辿り着いたその先で、生涯のパートナーとなる者との出会いがあるとは、この時シグナムは思ってもいなかった。












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス111
『次元を超えたデュエル』











「私のターン……手札より永続魔法『天輪鐘楼』を発動。
 このカードの効果により、モンスターをシンクロ召喚したプレイヤーはカードを1枚ドロー出来ます。」

地上部隊の仮本部で始まった、レクス・ゴドウィンvsアモン・ガラムのデュエルは、ゴドウィンの先攻で幕を開けていた。
先ずはシンクロ召喚時のボーナスを与える永続魔法を発動し、シンクロ召喚を使用するプレイヤーへのアドバンテージを得ようとする。

ゴドウィンもまた、遊星ほどではないがシンクロ召喚の使い手故に、このカードの効果は十二分に発揮される事だろう。

「更に『手札断札』を発動し、互いのプレイヤーは手札を2枚捨てて新たに2枚ドローする。」

「何をするかと思えば、シンクロ有利の場を整えての手札入れ替えか?……その程度で僕を倒す心算じゃないだろうな?」

「無論…此れは下準備に過ぎません――私は『アポカテクイル』を召喚!」
アポカテクイル:ATK1800


「カードを2枚伏せてターンを終了します。」


あくまで1ターン目は下準備に過ぎないと言い切り、ゴドウィンはそこそこの攻撃力の下級モンスターを呼び出し、リバース2枚でターンエンド。
戦術としては平凡と取られるだろうが、ゴドウィンクラスのデュエリストともなれば平凡な戦術の裏にトンでもない爆弾が隠れて居る事は珍しくない。

アモンのデュエリストの本能も其れを感じ取ったのだろう……顔に僅かばかり緊張の色が浮かぶ。
とは言え、未だデュエルは始まったばかり、彼是詮索しても仕方ないだろう。余計な思考はデュエルの勘を鈍らせる邪魔者でしかないのだから。

「僕のターン!『封印獣バエル』を召喚。」
封印獣バエル:ATK300


「そして永続魔法『封印の真言』を発動し、封印獣の封印されし力を解放する!」

対するアモンは『封印獣』なるモンスターを呼び出し、更に『封印の真言』でその力を解放すると言う。
恐らくは『封印の真言』が存在する事で初めてモンスター効果の使用が出来るモンスター群なのだろう。

「封印獣バエルは、封印の真言が存在する場合、自身をリリースする事でデッキか手札から『封印獣』1体を特殊召喚する。
 僕はバエルをリリースし、デッキから呼び出すのは『封印獣ブロン』!!」

『キシャァァァァァァ!!!』
封印獣ブロン:ATK2700



「ほう…行き成り攻撃力2700の8ツ星モンスターと来ましたか…中々に大盤振る舞いですね?」

「言っただろう、僕は負けられないんだ――正直、お前如きに時間を割いてはいられないからな……悪いが速攻で終わりにさせてもらう。
 封印獣ブロンは、封印の真言がある限りカード効果の対象にならない。
 行くぞ!封印獣ブロンで、アポカテクイルに攻撃!『センチネルスクライド』!!!」


――バガァァン!!!


「ふむ…伏せカードに臆することなく攻撃してくる程度の度胸はありますか…」
ゴドウィン:LP4000→3100


先手を取ったのはアモン。
だが、ゴドウィンは此れ位の攻撃は予想していたのだろう。受けたダメージも900程度と言う事もあり、涼しい顔をしている。

「尤も世界を造り直すなど、大それた事を言うのですから、せめて此れ位の度胸は持っていて貰わねば興醒めですがね。
 ですが、君が攻撃して来る事は予想していました……そしてこの伏せカードは攻撃反応型ではありません。」

「なに?」

「トラップ発動『陰陽祭の祭壇』
 私のフィールド上の『アポカテクイル』『泣き神の石像』『太陽の神官』の何れかが戦闘によって破壊された場合に発動。
 デッキか手札より、チューナーモンスター『赤蟻アスカトル』『スーパイ』をそれぞれ1体ずつ攻撃表示で特殊召喚します。」
赤蟻アスカトル:ATK700
スーパイ:ATK100



「そして、アポカテクイルが破壊された時、墓地の『太陽の神官』を特殊召喚出来ます…蘇りなさい『太陽の神官』!」
太陽の神官:DEF2000


それどころかアモンの攻撃を読み切り、敢えて自分のモンスターを戦闘破壊させる事で一気に3体ものモンスターを呼び出して来た。
しかも、その内2体はチューナーモンスター……次のターンでレベル6か8のシンクロモンスターが呼び出されるのは確実だろう。

「一気に3体のモンスターを……カードを1枚伏せてターンエンドだ。」

「私のターン。…アモン君、誰にも負ける事は出来ないと言う君には酷ですが、このターンで私と君の力の差と言うモノを見せてあげましょう。」

「僕とお前の力の差だと?」

そしてゴドウィンはアモンの心を揺さぶらんとする。
冷静さを失った者がデュエルに勝つのは難しい――故に、相手の冷静さを失わせるための心理戦の技術もまたデュエリストの能力の一つなのだ。

まして、嘗ては治安維持局の長官まで務めたゴドウィンならば、二十歳前の青年の心を揺さぶるなど造作もない事だ。

「聞くよりも体験した方が早いでしょう……私はレベル5の太陽の神官に、レベル3の赤蟻アスカトルをチューニング。
 太陽昇りし時、全ての闇は払われる。降り注げ光よ!シンクロ召喚、『陽光龍−アマツ』!」

『カァァァァァ…!』
陽光龍−アマツ:ATK3000



先ず呼び出したのは攻撃力3000を誇る太陽の龍。
正に万物の長たる太陽の化身に相応しい堂々たるその姿の前では、アモンの上級封印獣であっても矮小な存在に映ってしまう……役者が違うとはこの事だろう。

「攻撃力3000…其れが噂に聞いたシンクロ召喚か…!」

「天輪鐘楼の効果でカードを1枚ドローします…そしてリバースカードオープン、トラップカード『リミット・リバース』
 私の墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚します。……私が呼び戻すのは『太陽の神官』!!」
太陽の神官:ATK1000


勿論そこでは終わらない。
リミット・リバースで太陽の神官を再び蘇生させ、次なるシンクロへの準備も完了だ。

「続いてレベル5の太陽の神官に、レベル1のスーパイをチューニング。
 闇夜に月昇る時、それは一筋の希望となる。光を導け!シンクロ召喚『月光龍−カグヤ』!」

『コォォォォォォォォ…』
月光龍−カグヤ:ATK2500



続いて呼び出されたのは、アマツと対になる月光龍――夜の闇を優しき光で照らす月の化身だ。

「天輪鐘楼の効果で1枚ドロー……さて、此れでも君を倒すには充分な布陣が揃った訳ですが、君の心を折るには更なる力を見せる必要がありますね?
 このターン、私はまだモンスターを通常召喚していません、其処でこのチューナーモンスター『ヴァルナ』を召喚。」
ヴァルナ:DEF300


「レベル2のチューナーだと!?……まさか…!!」

「そう、そのまさかです…私はレベル8の陽光龍−アマツに、レベル2のヴァルナをチューニング!
 天命、運命、そして宿命…全ての事象の理を包み込み、蒼穹の果てより現れよ。シンクロ召喚『天穹覇龍ドラゴアセンション』!!」

『コアァァァァァァァァァァ!!』
天穹覇龍ドラゴアセンション:ATK?



更に太陽の化身を素材に呼び出したのは蒼穹の支配者たる白き龍。
攻撃力不明ながら、その身から溢れだす波動とオーラの強さは、流石レベル10のシンクロモンスターと言ったところだろう。

「天輪鐘楼の効果で1枚ドロー。そしてこの瞬間にドラゴアセンションの効果発動。
 ドラゴアセンションのシンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は私の手札枚数×800ポイントアップします。
 私の手札は5枚…よってドラゴアセンションの攻撃力は4000ポイントとなります!」

『ゴアァァァアァ…!!』
天穹覇龍ドラゴアセンション:ATK4000


「僅か2ターン目で攻撃力4000だと!?」

「何を驚く事が有りますか?
 公式記録に置いて、かの海馬瀬戸は2ターン目で『神』を召喚した記録が残っています…この程度は驚くほどの事でもないでしょう。」

ドラゴアセンションの降臨の効果は絶大だった。
レベル10のシンクロモンスターで、しかもその攻撃力は自身の効果によって4000ポイントとなっている……状況はアモンの圧倒的不利となったのだ。

「さて、覚悟はよろしいですね?天穹覇龍ドラゴアセンションで、封印獣ブロンに攻撃!『アルティメット・アセンティング・ウェーブ』!!」

『カァァァァァァァァ!!!』



――ビカァァァァァァァァァァ!!!!



放たれた強烈な光は、不浄を洗い流すかのように一瞬でブロンを撃滅!……蒼穹の支配者の力は半端なモノではない。


アモン:LP4000→2700
「ぐあぁぁぁぁあ!!…がは……な、何て衝撃だ……だが、僕は負けられないんだ!!トラップ発動『封印の遺言』
 僕の封印獣が戦闘によって破壊された時、デッキからレベル4以下の封印獣を特殊召喚する!遺言に導かれて現れろ『封印獣ヤヌス』!!」
封印獣ヤヌス:DEF500


だが、流石にアモンも只ではやられない。
トラップでモンスターを呼び出し、カグヤの攻撃に備えての壁を用意して来た。

だからと言ってゴドウィンの攻撃が止まるかと言えば其れは否。
ダメージは与えられなくとも、今は攻める時――デュエルの流れを相手に向かわせないためにも、此処は攻撃して勢いを維持すべきだと判断したのだ。

「ならば、月光龍−カグヤで封印獣ヤヌスに攻撃をしましょう!『夜天葬送波』!!」


――バリィィィン!!


現れたヤヌスもあっさりと粉砕!……が、アモンの顔には笑みが浮かんでいた――まるで其れを待っていたかの如く。

「ヤヌスを破壊してくれた事に礼を言うよ。
 封印獣ヤヌスは破壊された時、僕のフィールドに2体の『封印トークン』(星1・地・獣・攻守0)を残す。
 そして、僕のフィールドに封印の真言が存在する場合、残されるトークンは2体ではなく3体になる!!」
封印トークン:DEF0(×3)


狙いはヤヌスが撃破される事で呼び出されるトークンだった。
封印の真言の影響下にあった事で、呼び出されたトークンは3体……次のターンで大型モンスターを呼び出してくるのは確実だろう。

「成程…狙いは其方でしたか――カードを2枚伏せてターンエンド。」

「僕のターン!この瞬間に封印の真言の効果発動。
 封印の真言がある場合、僕はドローフェイズに通常のドローを行う代わりに、デッキから『封印獣』1体を手札に加える事が出来る。
 僕はこの効果で『封印獣神−カタストロフ』を手札に加える。」

続いてのアモンのターンに、アモンは真言の効果で何やら大層な名のモンスターをサーチ。
恐らくはこのモンスターの為に3体ものトークンを呼び出したのだろう。

「お前の勝ちは有り得ない…僕は3体の封印トークンをリリースし、降臨せよ『封印獣神−カタストロフ』!!!」

『ギシャァァアッァアァッァ!!!!』
封印獣神−カタストロフ:ATK4000



アモンもまた、攻撃力4000のモンスターを呼び出して反撃の狼煙を上げんとする。

「カタストロフは封印の真言が存在する限り戦闘でもカード効果でも破壊されない不死のモンスターだ……この意味は分かるだろう?」

「成程…その不死身の効果で、先ずは同じ攻撃力のドラゴアセンションを葬る心算ですか。」

「如何にも……その余裕の態度を崩してやる!カタストロフで、ドラゴアセンションに攻撃!『厄災のカタストルバースト』!!」

「ふむ…悪くない攻撃ですが、高攻撃力のモンスターを出して即攻撃と言うのは短絡的でしょう。
 トラップ発動『地縛霊の誘い』。このカードの効果で、カタストロフの攻撃対象は私が選択します。
 カタストロフの攻撃は、ドラゴアセンションではなく、カグヤへと向かって貰いましょう。」

だが、此処でゴドウィンがとった戦術は、敢えてカグヤを攻撃させると言うモノ。
ダメージ覚悟でドラゴアセンションを護った……とも取れるだろうが、真の目的は其れではない。

「カグヤが攻撃対象となった時、このカードを攻撃する攻撃モンスターの攻撃力の半分の数値だけ私のライフを回復します。」
ゴドウィン:LP3100→5100


狙いはこのライフゲイン効果。
カグヤは攻撃表示ゆえにダメージは受けるモノの、結果としては500ポイントのライフ回復に繋がるのだ。


――バガァァン!!


ゴドウィン:LP5100→3600

「更にカグヤが破壊された時、墓地より『陽光龍−アマツ』が復活します!」

『ガァァァアァ!!』
陽光龍−アマツ:ATK3000



更に月が沈んだ事で、太陽が昇る……無限ループの始まりだ。

「そして更にトラップ発動『デストラクト・ポーション』
 私のフィールド上のモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のライフを回復します。
 此れで、アマツを破壊し私のライフは3000ポイント回復する…そして、アマツは死した、次の私のターンのスタンバイフェイズにカグヤを復活させます。」
ゴドウィン:LP3600→6600


「な、此れはまさか!!」

「そう…月が沈む時に陽が昇り、陽が没する時に月がその姿を現す…太陽と月が存在する限り続く無限ループですよ。
 この大自然、超宇宙の理を、人が捻じ曲げる事など不可能でしょう?」

「ぐ…カードを1枚セットしてターンエンド…」

此処に来て、アモンは漸く目の前の男が只者ではないと気付くに至った。
自分の知らないシンクロを使うからと言う訳ではない……ゴドウィンは、アモンが今まで戦ってきたデュエリストの中でも最強レベルの相手であると理解したのだ。

「私のターン…この瞬間にカグヤは再び空に顕現する。」

『ハァァァァァァ…』
月光龍−カグヤ:ATK2500


「く……だが、其れでもカタストロフを倒す事は出来にないぞ!!

其れでも状況はアモンが少しばかり有利なのだろう……確かに破壊できない攻撃力4000のモンスターは其れだけで脅威となるのだから。
だが――

「いえ、このターンで終わりですよ…」

ゴドウィンは終幕宣言――どうやらカタストロフを凌駕するモンスターがあるらしい。

「私は手札から魔法カード『ディメンジョン・アドバンス』を発動。
 このターン、モンスターをアドバンス召喚する場合、墓地のモンスターを除外する事で、必要なリリースとする事が出来ます。
 私は墓地のアポカテクイルとスーパイを除外して2体の魂をリリース!
 さて、出番です……地に縛られし邪神となる前の真なる神の姿を今ここに顕現せよ。アドバンス召喚、現れよ『天放神Wiraqocha Rasca』!!」

『コアァァァァァァァ……!!』
天放神Wiraqocha Rasca:ATK?



現れたそのモンスターは、光り輝く黄金のコンドル。
そう、其れは呪われた大地に縛られ、魔道へと堕ちる前の神の姿……『地縛神Wiraqocha Rasca』の真の姿が、今ここに降臨したのだった――

















 To Be Continued… 






*登場カード補足



ディメンジョン・アドバンス
通常魔法
自分がモンスターをアドバンス召喚する場合、墓地のモンスターをゲームから除外する事で必要なリリースとする事が出来る。



天輪鐘楼
永続魔法
モンスターのシンクロ召喚に成功したプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローする。



封印の真言
永続魔法
このカードが表側表示で存在する場合、自分のターンのドローフェイズに通常のドローを行う代わりに、
デッキから「封印獣」と名の付くモンスター1体を選択して手札に加える事が出来る。



陰陽祭の祭壇
通常罠
自分フィールド上の「アポカテクイル」「泣き神の石像」「太陽の神官」の何れかが戦闘によって破壊された場合に発動できる。
自分のデッキまたは手札から、「赤蟻アスカトル」と「スーパイ」を1体ずつ特殊召喚する。



封印の遺言
通常罠
自分フィールド上の「封印獣」と名の付くモンスターが戦闘によって破壊されたときに発動できる。
デッキからレベル4以下の「封印獣」と名の付くモンスター1体を選択して特殊召喚する。