ベエルゼウスの一撃を喰らったクロウは、確かに意識が飛びそうになった――其れは否定しない。
いや、並のデュエリストであったならば確実に意識を飛ばして撃沈されていただろう。
だが、クロウは並のデュエリストではない。
「俺がやられたら…フォワードの連中は…ガキ共は……!!
こんな事で……この程度の攻撃で、俺がへこたれる事なんざ出来ねぇだろうがぁぁぁ!!!!」
不屈のど根性、絶対に折れぬ雑草魂――そう言った、いっそ泥臭いまでのサテライト魂が、クロウを戦闘不能ギリギリから立ち直らせていたのだ。
「俺には遊星のアクセルシンクロや、ジャックのダブルチューニングみたいな事は出来ねぇ。
だけどな、シンクロが指し示す進化の道は其れだけじゃねえ!!トラップカード『カウンターシンクロ』!!
俺が1000ポイント以上の戦闘ダメージ受けた時、墓地のチューナーとチューナー以外のモンスターをゲームから除外して、モンスターをシンクロ召喚する!
コイツで、墓地の『BF−下弦のサルンガ』と『ブラックフェザー・ドラゴン』をゲームから除外してチューニング!!」
そして、この土壇場での新たなシンクロ。
皮肉にも、チンクのベエルゼウス召喚が、クロウに新たな進化の道を指示したようだ。
「黒き烈風よ、鋼の翼にその力を顕現せよ!シンクロ召喚!!大空を制せ、『鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴン』!!」
『ギャァァァァアァ!!』
鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴン:ATK3700
進化の道に限りはない。
クロウは、遊星やジャックとは異なる方法で、己の新たな可能性を切り開いたのだった。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス108
『黒き羽は進化を促す!』
「「「クロウ兄さん!!」」」
「クロ兄!!」
「アニキ!!」
鎧をまとった…と言うよりも、寧ろ全身を金属化したと言った方が適切かもしれない新たな龍を従えて現れたクロウに、フォワード陣は士気が上がっていた。
元より、フォワードの5人はクロウの事を兄貴分として慕っているのだ、そのクロウが無事で、しかも更なる力と共に現れたとなれば士気高揚は道理だろう。
「馬鹿な…ベエルゼウスの一撃を受けて…!!」
「へ…生憎と、この鉄砲玉のクロウ様は往生際が悪くてよぉ……ライフが1ポイントでも残ってんなら徹底的に足掻かせてもらうぜ!
傍目にゃ無様だろうが、んな事知ったこっちゃねえ!無様でも、カッコ悪くても、足掻きに足掻いて足掻き抜いた奴が、最期にゃ勝つもんだぜ!!」
結局のところ、クロウに体裁等は如何でも良い事だったのだ。
いや、遊星もまた同じだろう。
体裁を取り括ろって格好つけて、その結果何も出来ない等と言うよりも、ドレだけカッコ悪くて無様でも足掻き続けて結果を出す事を優先するのだから。
「でもって、オメェ等もよく言ったぜ、エリオ、キャロ、スバル、ノーヴェ!ティアナもよく頑張った!それでこそ、このクロウ様の妹分と弟分だぜ!!
この市街地防衛線は…俺達の勝ちで決めるぜ!!スピードスペル『Sp−BF同調祭』!!
スピードカウンターが8個以上ある時、俺のフィールド上の『BF』を全てリリースして発動!
デッキか墓地から、攻撃力1500以下の『BF』と名の付くチューナーを効果を無効にして可能な限り特殊召喚するぜ!!
アーマード・ウィングと漆黒のホーク・ジョーをリリースし、現れろ『疾風のゲイル』『上限のピナーカ』『極北のブリザード』『BF−そよ風のブリーズ』!!!」
BF−疾風のゲイル:ATK1300
BF−上弦のピナーカ:ATK1200
BF−極北のブリザード:ATK1200
BF−そよ風のブリーズ:ATK1100
此処が勝負と見極めたのだろう。
BFのチューナーを大量展開して、次なる一手の布石を打つ。
「何と言う…だが、チューナーばかりを展開して如何しようと言うのだ?
チューナー同士ではシンクロは出来ないぞ?ランク3のエクシーズなら狙えるだろうが…」
「へ…確かに俺のフィールド『だけ』じゃシンクロは出来ねぇだろうさ。
だが、この場で戦ってるのは俺だけじゃねぇんだぜ?…チンク、お前に見せてやるぜ!デュエリストの持つ無限の可能性ってやつをな!!」
チューナーを大量に呼び出した事を訝しむチンクだが、クロウには勿論考えが有った。
そう、クロウの目的は只1つ!今この場で共に戦っている、フォワードの仲間をシンクロ進化させる事だ!!
「行くぞエリオ!!」
「は、はい!!」
「エリオに、極北のブリザードをチューニング!!
黒き尖風よ、暗雲を切り開く刃となれ!シンクロ召喚!突き貫け、『BFL−雷槍のエリオ』!!!」
「す、凄い!!此れがシンクロ…!!!」
BFL−雷槍のエリオ:ATK2200
先ずはエリオが黒き羽の力を受けて進化。
燃え盛るような赤髪は、宵闇を思わせる黒に変わり、瞳も黒になって居る。
無論此処で終わりではない。
「ティアナ!!」
「はい!!お願いします!!」
「任せとけ!ティアナに上弦のピナーカをチューニング!
黒き烈風よ、荒野を駆け抜け嵐を起こせ!シンクロ召喚!打ち崩せ、『BFG−幻惑のティアナ』!!!」
「実際体験してみると凄いわ此れ…!!」
BFG−幻惑のティアナ:ATK2300
続いてはティアナ。
矢張り外見が代わり、青紫の髪に赤い瞳と言う外見に変化し、其の力も増しているようだ。
「キャロ、準備は良いか?」
「はい!大丈夫です!!」
「良い返事だ!キャロにそよ風のブリーズをチューニング!!
黒きそよ風よ、優しき流れで世界を癒せ。シンクロ召喚、空を舞え『BFS−慈愛のキャロ』!」
「此れが…私の…!」
BFS−慈愛のキャロ:ATK2000
更にキャロ。
綺麗な桜色の髪は眼の覚めるような金色に変化し、その瞳は若葉色だ。
加えてキャロがシンクロ化した影響でフリードとヴォルテールもその力を増しているようだ。
ノーヴェは既にシンクロカートリッジでシンクロ化しているので問題ない。
となれば残るは…
「お前でラストだ!行くぜスバル!!」
「OK、クロ兄!!」
スバルだ。
「スバルに、疾風のゲイルをチューニング!
黒き暴風よ、その荒々しさで全てを吹き飛ばせ!シンクロ召喚!薙ぎ倒せ、『BFW−鉄拳のスバル』!!!」
「この力で…ギン姉を救い出す!!」
BFW−鉄拳のスバル:ATK2300
シンクロ化したその姿は、赤毛に金眼――奇しくも妹であるノーヴェのシンクロ前の姿と同じになっていた。
「んだよスバル、まるでアタシみてぇだな?」
「ノーヴェがノーシンクロで、アタシが鉢巻外したら分からないかもね♪」
一気に戦力強化だ。
そしてシンクロ化の真骨頂は此処から――何故ならば、全員が『BF』であるからだ。
『BF』はカテゴリーモンスターの中でも特にモンスター同士でのシナジーが強烈にして強固なモンスター達だ。
と、言う事はシンクロ化したフォワード達も、互いに補い合う力を持っていると見て良いだろう。
「全員が『ブラックフェザー』になってるからな…先ずはアタシの効果で、全員の攻撃力を800アップする!」
鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴン:ATK3700→4500
BFW−蹴撃のノーヴェ:ATK2300→3100
BFW−鉄拳のスバル:ATK2300→3100
BFG−幻惑のティアナ:ATK2300→3100
BFL−雷槍のエリオ:ATK2200→3000
BFS−慈愛のキャロ:ATK2000→2800
先ずはノーヴェの効果で、フォワード陣とクロウの新たな龍が大きく強化される。
此れだけの攻撃力を有するモンスター群など、普通のデュエルならば其れだけで脅威だろう。
「ノーヴェが攻撃力を強化するなら、アタシは皆に完全効果耐性を付けるよ!」
「僕の効果で、皆さんの攻撃には貫通効果が付く…防御を固めても無意味です!」
「此れだけでも十分強いんでしょうけど…私の力で、『ブラックフェザー』は幻惑のベールに包まれステータスを下げられないわ!」
「まだですよ?私の効果で、皆さんが攻撃する相手の効果は無効になり、攻撃力は元々の数値に固定されます!!」
そして更に、スバルの効果で完全効果耐性、エリオの効果で貫通能力が付加。
加えてティアナの効果で攻守を下げられることは無く、キャロの効果で相手の効果は無効になり強化すら無効にしてしまう。
極めつけはクロウだ。
「へ、BFはオメェ達との相性が抜群に良かったみてぇだな!
残るは俺だ!鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴンのモンスター効果発動!!
コイツが表側表示で存在する限り、俺に対して発生する効果ダメージは0になり、戦闘ダメージも1ターンに1度だけ0になる。
だが、其れだけじゃねぇ…コイツが存在する限り、俺のフィールド上の『ブラックフェザー』の攻撃力と守備力はこのカードのレベル×200ポイントアップする!
ブラックフェザー・フルメタルドラゴンのレベルは10!よって攻撃力は全員2000ポイントアップ!『フルメタルチャージ』!!!」
鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴン:ATK4500→6500
BFW−蹴撃のノーヴェ:ATK3100→5100
BFW−鉄拳のスバル:ATK3100→5100
BFG−幻惑のティアナ:ATK3100→5100
BFL−雷槍のエリオ:ATK3000→5000
BFS−慈愛のキャロ:ATK2800→4800
更なるステータス強化で、全員がレベル12モンスタークラスの能力を得るに至った。
此れならば如何足掻いても負ける事だけは絶対にないだろう……無い筈だ。
「さっきの借りを返すぜチンク!
鎧翼黒龍 ブラックフェザー・フルメタルドラゴンで、魔王超龍 ベエルゼウスに攻撃!!『超黒炎波ノーブル・エクストリーム』!!!」
「ちぃ…迎え撃てベエルゼウス!!!」
――ドガァァァァアァン!!!!
新たな力の覚醒による市街地決戦の第2幕は、クロウの新たな相棒の一撃で幕を上げたのだった。
――――――
同じ頃、時空管理局地上部隊仮本部の一室で、陸のトップであるレジアスが嘗ての友と相対していた。
「生きていたのか…?」
「いや…生かされているに過ぎない…今の俺は、スカリエッティの手駒と化した哀れな死者だ。」
その相手はゼスト。
この部屋の中に居るのは、ゼストと其れに付き従うアギト、レジアス、そしてアモンと、レジアスの娘であるオーリスと、レジアスの秘書官が1人居るだけだ。
「俺はもう長くは持たんだろう……だからこそ俺はお前に問わねばならん。
レジアスよ、あの時の事…お前は初めから知ってたのか?…知っていて俺達をあの場に向かわせたのか?…其れだけを答えてくれ。」
「…何を言っても言い訳にしかならんだろうが…此れだけは天地神明に誓って言おうゼスト…ワシはお前達を売ったりはせん!
信じてもらえぬだろうが…ワシは本当に知らなかったのだ――あの件に関しては。」
問う内容は、自らが死す事になった事件についてだ。
レジアスが最高評議会と何らかの関わりを持っている事は、当時のゼストもうすうす感じてはいた…だからこそ自分が撃たれた時にレジアスを疑ってしまった。
実は自分は――自分達はレジアスに売られたのではないかと。
その真意を問うべく、ゼストは屈辱的とも言える生を受け入れ、スカリエッティの下に居たのだ。
だが、その甲斐は有った。
レジアスはその件には関与していない事は、ゼストには分かった――決して嘘を言っていない事は、付き合いが長いゼストには分かったから。
「ゼストよ…すまなかった…ワシが至らぬばかりに、お前とナカジマ達は…」
「もう良いレジアス…アレがお前の差し金でないと言う事が分かっただけでも、俺は生き恥を曝していた甲斐があった…」
「ゼスト…」
どうやら、ゼストの目的は果たされたようだ。
ならばもうこの場に用はないが…
――ガキィィン!!
突然、何かがぶつかる音が響いた。
「貴様…!!」
「…暗殺を企てるなら、対象の抹殺が完了するまで気配を漏らすべきではない。」
それは秘書官の金属製の爪を、アモンのモンスターが防ぐ音だった。
いや、そもそもこの秘書官、この爪でレジアスを貫く心算だったようだ――如何言う事なのか?
――シュゥゥゥ…
暗殺を邪魔された秘書官の姿が変わっていく。
ショートヘアーの地味な女性から、金髪のロングヘアーの冷徹そうな女性に変わった。
その女性はそう…六課壊滅の少し前に最高評議会のトップである脳味噌を葬った者――戦闘機人ナンバー2、ドゥーエだった。
「何故止めたアモン・ガラム!ドクターを裏切る心算か!!」
「裏切る?…僕は元々お前達の仲間になった覚えなどない。
ただ、僕の理想を現実とするために、スカリエッティの技術は有効だから利用させてもらっただけだ。」
「貴様…!!」
ドゥーエは殺気を放つがアモンは動じない…それだけ強い思いがあるのだろう。
「僕の目的は、全ての人々が不自由なく、差別もなく暮らせる世界を作る事だ。
だが、この世界は穢れきっている……ならば、一度すべてを破壊して再構築した方が話は速い…だからこそ僕は彼に手を貸してやったんだ。
けれど、其れも此処までだ……先ずはお前から消えてもらおう!!」
言うが否や、アモンのモンスターがドゥーエを強襲して吹き飛ばし、更に床に組み伏せて動けなくする。
そして此れは事実上のアモンの勝利を意味する――この場においてアモンに対抗できる戦力は居ないに等しいのだから。
一応ゼストなら力量は上回っているが、この身体ではアモン相手にはそう持たないだろう。
アギトも単体で、アモンのモンスターを相手にするのは無理がある。
だが――
「破壊による再生ですか……其れはお勧めできません――其れは失敗すると相場が決まっていますのでね。」
其処に新たな声。
その声の主は、嘗て自分も『破壊による再生』を目論み、そして失敗した元治安維持局の長官…レクス・ゴドウィンその人だった…
To Be Continued… 
*登場カード補足
Sp−BF同調祭
スピードスペル
自分のスピードカウンターが8個以上ある時に発動できる。
自分フィールド上の「BF」と名の付くモンスターを全てリリースし、デッキか墓地から攻撃力1500以下の「BF」と名の付くチューナーを可能な限り特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になる。
カウンターシンクロ
カウンター罠
自分が1000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時に発動できる。
自分の墓地のチューナーと、チューナー以外のモンスター1体を除外し、除外したモンスターのレベル合計と同じレベルのシンクロモンスターを1体を選択し、
エクストラデッキからシンクロ召喚扱いで特殊召喚する。
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