此度の事件の黒幕たる狂科学者は、2体の戦闘機人を従えてこの場に現れた。

其れと相対するは、雷を纏った2人の麗しき女戦士。
1人は金色の雷光を纏った麗しき死の女神でもう1人は白雷を纏いし幻獣の化身だ。

「ジェイル・スカリエッティ、レリックの違法所持と、数々のテロ行為の容疑で貴方を逮捕します!!」

大人しくお縄に付いた方が身のためだよ?

是非もないし、聞く心算は無い。
言うが早いか、フェイトと麒麟はスカリエッティに向かって突撃!
雷光を纏ったそのスピードは紛れもなく『超光速』であり、並の視力では捕らえる事すら出来ないだろう。

だが、相手は狂科学者に、その配下の戦闘機人だ――簡単には通してくれない。


――ガキィィィン!!


フェイトの攻撃はトーレが、麒麟の攻撃はセッテがそれぞれ受け止める。
だが、この2人が出てくる事などは分かりきっている――スグに一旦間合いを離して仕切り直し。

フェイトはバルディッシュを大鎌から斧へと形状を変化させ、麒麟も装備武器を双剣からスラッシュアックスへと換装する。


「ふむ…矢張りやるね君達は……此れはこのままでは些か分が悪そうだねぇ…?」

フェイトと麒麟の実力は半端ではない。
まして、フェイトはシンクロ状態であるのだから、その力を全開にすれば戦闘機人など塵芥に過ぎない相手だろう。

だが、スカリエッティは余裕の笑みを崩さない。

「そうだねぇ…其方の幻獣の化身には彼等の相手をしてもらおうかな?」

そう言いながら、スカリエッティは5枚のモンスターカードを取り出し、何やら装置に差し込んだ…












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス104
『閃烈なる雷光』











――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


スカリエッティが、取り出した5枚のカードを謎の装置に差し込んだ途端に、アジト内部には地震のような揺れが発生――だが、断じて地震などではない。
地震では感じる事の出来ない、圧倒的な魔力値をフェイトは確かに感じ取っていた。


――なんだろうこの感じ…すごく、嫌な予感がする…!!


そしてその予想は当たってしまった。
地鳴りと共に現れた5体のモンスターは…


『しゃあ!!』
ゴヨウ・ガーディアン:ATK2800


『ゴォォォォン…』
ダーク・ダイブ・ボンバー:ATK2600


『『『ガァァァァァァァァァ!!』』』
混沌帝龍−終焉の使者−:ATK3000(×3)



デュエルでの使用禁止が設定されている極悪モンスター達。
しかも、その筆頭とも言える『混沌帝龍』が3体も!!スカリエッティはなりふり構わずフェイト達を叩き潰す心算なのだろう。


いや、最初から形振りなど構ってはいなかっただろう――スカリエッティの目的は『己が欲望を満たす』、此れに尽きるのだから。


全部禁止カードって…恥も外聞もないって言うか…

「スカリエッティならある意味当然だよ麒麟――だけど、何をどれだけ呼び出そうとも、私達を止める事は出来ない!」

嫌な予感が当たってしまった事に、内心歯噛みしつつも、しかしフェイトは折れず、恐怖もなかった。
『誰が相手でも勝てる』――その強烈な思いが、フェイトに目の前で展開された、トンでもモンスター展示会のインパクトを乗り越えさせていた。

「ふむ…微塵も恐怖は無いと見た――が、この5体は先程まで君達が相手をしていたモノとは質が違う。
 更には2:7となった戦力差を超えると言うのかね?」

「出来るかどうかは問題じゃない――やるかやらないか…どんな時でも大事なのはその気持ち!」

「くくく…ははははっはは!!
 此れは愉快!実に面白い!!ウーノ、セッテ、フェイト嬢のお相手を…禁止モンスター達は幻獣の化身を攻撃だ。」

一体何がオカシイのか、狂喜の笑い声を上げながら、戦闘機人と禁止モンスター達に攻撃を命じる。

そして再び激突!
フェイトは2体の戦闘機人と、麒麟は5体の極悪モンスターと交戦開始。

雷光が迸り、雷鳴が轟き、剣閃が走り、轟炎が猛る――その様相は正に『最終決戦』と言っても過言ではない。
しかし、その戦いを見ながらスカリエッティの顔にはより歪んだ笑みが浮かんでいた。








――――――








同じ頃、分断された稼津斗はと言うと…

3分…時間切れだ。

「そんな…触れる事すら出来ないなんて――嘘だろ?」

完全にセインを手玉に取っていた。
元々戦闘能力に於いては、月とスッポン程も差があるのだから、此れはある意味当然の結果と言えるだろうが――セインは納得できない。

出来る筈がないだろう。

「つーか、何でディープダイバー使って床の下とかから仕掛けた攻撃にまで対処できるんだよ!!
 確かにアンタが滅茶苦茶強いのは良く分かったけど、見えない場所からの攻撃に何で瞬時に対応できんだ!?」

見えなくても気配は確りと感じ取れるからな…お前の馬鹿正直な闘気は分かり易い。

ディープダイバーまで使って攻撃したにもかかわず、全ての攻撃に対処されてしまったのだから。
が、稼津斗からすれば壁や床に潜ろうとも全く関係ないのだ……気配が分かればそれで十分過ぎる。

「気配って…マジで?」

半径1km程だがな。俺の本体の方はもっと行けるだろうが…

「其れを踏まえると――つまりこの中でアタシの攻撃がアンタに当たる事は…」

まぁ、先ず無いだろうな。仮に当たったとしても、恐らく大したダメージにはならん。

見せつけられた圧倒的な力の差。
開いた口が塞がらないとは正にこの事だろう。

お前は話が通じそうだから聞くんだが……何故スカリエッティなどに従う?
 俺には、お前がスカリエッティに忠誠を誓っているようには見えん――奴の為に戦うと言うよりも、お前自身が戦う事を楽しんでないか?

「!!…何故ばれたし!?」

…闘気同様、分かり易い奴だな。
 楽しそうだったんだよ、壁に潜り込む能力を使ってる時のお前は――気に入ってるんだろう、自分のその力を。
 だから、その力を使う事が出来る場所があるのが嬉しくて、簡単にその場所が得られるからスカリエッティの下に居る…そんなところか。

が、此れは人生経験からだろうが、稼津斗はセインが真にスカリエッティに心酔して居る者ではないと見抜いていた。
或は僅か数分の戦闘で其れを知ったのか…何れにせよ、セインは『話が出来る相手』だと思ったのは間違いないだろう。

もしそうなら俺と共に来い――お前がその力を発揮できるもっと良い場所を教えてやる。
 幸い、六課の隊長陣は頭が柔らかいからな、此度の事件の捜査に協力でもすれば、監視のきつい場所への投獄なんかにはならないさ。

「…ちょっと魅力的かも…だけど、今は其れは出来ない!
 アタシは今はドクターの下に居て、アンタ等とは敵対関係なんだ……ドクターが負けない限り、其れは…」

…まぁ、其れで良い。
 フェイトと麒麟の方も、近い内に決着がつくだろう――あの2人の勝利でな。
 だから其れまでは思い切りやり合おうじゃないか?……お前にはまだ隠し玉があるみたいだしな。

魅力的な稼津斗の誘い…だが、セインは『今』はダメだと言う。
スカリエッティが健在である以上は、示された道は選べないと――

だが、それで良かった。
枷はあくまでもスカリエッティなのだから、其れが外れればセインは大人しく投降するだろう。

ならば稼津斗は、フェイトと麒麟がスカリエッティを確保するまで、セインの相手をしてやれば良い。
一時の苦戦が有ろうとも、あの2人が負ける事など微塵も考えていなかった。

「隠し玉って…勘が鋭すぎるっての!
 まぁ、ばれてんならイイや…折角貰ったんだから使わなきゃ勿体ないしね!出番だ『No.107 銀河眼の時空龍』!!」

『ゴアァァァァァン!!』
No.107 銀河眼の時空龍:ATK3000


そして『隠し玉』を看破されたセインも、勿体付けずに、アモンから貰ったランク8のエクシーズモンスターを呼び出す。

それが隠し玉か…中々の力を持ったカードだな――相手にとって不足は無い、来い!

「手加減不要!行っけー、銀河眼の時空龍!『殲滅のタキオン・スパイラル』!!」

虚空裂風穿!!!

此方の戦闘も、一気に激しさが増して来たようだ。








――――――








「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


一方で、フェイトと麒麟は戦闘機人2体と、禁止モンスター5体を相手取り、しかし天下無双とも言うべき強さを見せつけていた。
勿論楽な相手ではないから全くの無傷ではない。

だが、それでも状況は2人に有利だった――この時までは。


――バキィィィィン!!


「うわっ!?」

此れは!!

突如、2人の身体が鎖で拘束された。

「くくく…ハッハッハ!!素晴らしい強さだ2人とも!!実に見事なものだよ、称賛に値する。
 だが、幾ら強くても、この『闇の呪縛』から逃れるのは簡単ではないだろう?」

其れをやったのはスカリエッティ。
トラップカード『闇の呪縛』を使い、フェイトと麒麟の2人を拘束したのだ。

「いやはや流石は幻獣の化身の力はすさまじいね。
 そして、それと同等以上の力を持っているフェイト嬢も――流石はプレシア・テスタロッサ女史が作り上げただけの事はある。」

そして拘束するだけではない――フェイトにとっては禁忌とも言える一言を口にした。
『作られた』…此れはフェイトにとって絶対禁忌となる言葉だ。

プレシアに娘として認めてもらい、そして敬愛するアリシアと共に家族として生きていても消える事のなかったフェイトの『傷』。
自分がアリシアのコピーであると言う消す事の出来ない事実――其れは今なお消える事のないフェイトの重荷だった。

「作られた……」

「そうとも…君は所詮、アリシア・テスタロッサのコピーとして生み出されたクローンの失敗作に過ぎない。
 君の母も姉も、実は君の事を疎ましいと思っているかもしれないのだよ?……表面上は家族として付き合いながらもね。」

禁忌を口にしただけではなく、更にフェイトの心を抉っていく。
『そんなことは無い!』――フェイトだって、大声で其れを叫びたかった。

いや、先ず此方を言われていたならば迷わずフェイトはそう叫んでいただろう。
優しい母と、天真爛漫な姉は家族となってからは何時だって自分に優しくしてくれたのだから。

だが、先に禁忌を口にされたことでフェイトは動揺し、反論が出来ない状態となっていた。

ふざけた事を言うな!お前に何が分かるんだ!

「何も分からないさ…興味もない――だが、F計画の遺産たる彼女には興味がある……まぁ、其れは良い。
 フェイト嬢…君もまた酷い人間だな?…保護した幼い子供を戦場に立たせるのだから。
 或は最初からそれが目的で保護したのかね――エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエの2名は?」

麒麟の抗議を受けても悪意の言葉は止まらない。

「!!…ち、違う!!私はあの2人には平和に過ごしてほしかった!!…だけど、あの2人は自分の意志で…」

「果たしてそうかな?君は無意識の内に、彼等が武器を手にして戦いに赴くように仕向けたのだよ。
 保護した幼子を手駒として使うなど、君も相当な鬼畜だな。」

禁忌の一撃で揺れたフェイトの心はあまりにも脆かった。
スカリエッティの悪意たっぷりの言葉に抉られ、折れる寸前だった。

麒麟も、スカリエッティの余りの外道さに今直ぐにでも飛びかかりたい気分だった。
だが『闇の呪縛』で身体を拘束されては其れも叶わない――状況は一気に最悪なものとなった。

「所詮君はアリシアのクローンの失敗作で、鬼畜の悪魔と言う事さ!
 そんな君が管理局の執務官で正義を語る――何とも滑稽だな……あぁ、次元世界最大級のコメディだ。
 認めたまえフェイト嬢…君は所詮はできそこn『『違う!!』』…む?」

尚も続くスカリエッティの悪意を止めたのは、市街地で戦っているエリオとキャロからの通信だった。
何か用があって、フェイトへの通信を開いたのだろうが、その際に聞こえて来たのだ…スカリエッティの悪意が。

当然2人は黙って居られなかった――母の様に慕っているフェイトが苦しめられているのを。

『違いますよフェイトさん!僕達は自分の意志でこの道を選んだんです…決してフェイトさんが誘導した訳じゃない!!』

『私もエリオ君も、フェイトさんに恩返しがしたかった…だからフェイトさんと共に戦う道を選んだんです…此れは私達の意志!
 それに、フェイトさんは何時だって私達の事を第一に考えてくれてました…フェイトさんは私とエリオ君のお母さんです!!』


心からの偽らざる言葉をフェイトに送る。
其れはスカリエッティが放った悪意を吹き飛ばすには十分だった。

更に…

『随分と勝手な事を言ってくれるわねジェイル…』

『私とお母さんがフェイトを愛してないだなんて、勝手な事言わないでよ!!』

プレシアとアリシアからも通信が!
此方はエリオとキャロとは違い、可也怒っている……特にプレシアは目の部分が前髪の陰で隠されて非常に怖い。

『フェイトは確かに私がアリシアのクローンとして生み出した…其れは覆しようのない事実だし否定もしない。
 だけど、其れが何?フェイトはフェイト…私の愛する娘である事には何も変わりは無いわ
――憶測だけで勝手な事を言わないでくれるかしら?』

『違うよお母さん!私とフェイトは元々双子だったの!
 私は事故で長い間眠ってたけど、フェイトはずっと元気だった
――そう言う事でしょ?』

『…そうね、其れが正しいわね♪』


「母さん、アリシア…エリオ、キャロ………ありがとう。」

悪意を上回る温かい言葉に、フェイトの瞳からは知らずに涙がこぼれていた。

…自分は一体何を気にしていたのか……何も気にする事など無かったのだ。
フェイト・テスタロッサはこの世にただ1人だなのだ。
そして、自分が保護した2人の幼子は平穏な暮らしを蹴ってまで自分と共にある事を選んでくれた――其れだけで抉られたフェイトの心は持ち直していた。


「馬鹿な…!」

『私の娘達をあまり甘く見ない事ねジェイル……精々後悔なさい――フェイトの心を砕こうとしたことをね。』

『僕達も頑張ります!だから、フェイトさんも負けないでください!!』

『勝って、そしてまた皆で会いましょう!!』


「母さん…エリオ、キャロ…うん!!私はもう大丈夫…負けないから!!」

フェイトの瞳に、再び強い意志の光が宿る――こうなればもう大丈夫だろう。
プレシアとエリオ&キャロとの通信も此処で切れた……が、アリシアとだけはまだ繋がっていた。

「アリシア、私はもう大丈夫だよ?」

『うん。だけどフェイト、私も一緒に戦うよ!…ずっと、一緒に戦いたいって思ってたんだ…私には魔導の才能が無いから今までは無理だったけど。
 だけど遊星に頼んで作って貰った此れで…『トランスチューナーカートリッジ』のおかげで、私はフェイトと一緒に戦う事が出来る!!』


そのアリシアは、フェイトと共に戦うと言う。
魔導の才能が無いアリシアは、其れでも誰かの役に立ちたいと、徹底的にロングアーチとしての腕を磨き、六課の通信士となった。
だが、サポートだけでなくフェイトと共に戦いたいと言う思いが、常にアリシアの中には存在していた。

その思いをかなえたのが遊星だ。
アリシアの真剣な願いを受けて、遊星もその思いをくみ取り作ったのだ『トランスチューナーカートリッジ』を。

「アリシア、其れは!!」

『私をチューナーモンスターにするシステム!!
 そして、チューナーとなった私をフェイトにチューニングする!!』

そのシステムは使用者をチューナーモンスターと化すと言うモノ。
アリシアは自身をチューナーとし、フェイトに自身をチューニングする事で共に戦おうと思ったのだ。

「アリシア……分かった!一緒に戦おう、お姉ちゃん!」

『ふ、不意打ちは反則!!でも、そう呼んでもらったならやる気は更に倍加だよ!!
 行くよ!トランスチューナーカートリッジ起動!アリシア・テスタロッサをチューナーモンスターにトランス!!
 そして、チューナーとなった私を、フェイトにチューニング!!』


全ての準備が整い、画面の向こうのアリシアが4つの緑の輪となり――其れが転送され、フェイトの身体を包み込む。

「な…馬鹿な!!」

スカリエッティですら驚くその光景。
4つの輪に包まれたフェイトは、その存在を新たな姿へと進化させていく。


――カッ!!


光の筋が走り、そしてそれが収まった時――彼女は其処に居た。


眩い金色の髪に、紅と蒼のオッドアイ、漆黒のバリアジャケットに身を包み、手にしているのは黄金と蒼銀の双剣。
その身の周りには金雷と蒼雷が迸り、圧倒的な存在感を醸し出している。

更に、その身から発せられる魔力で、自身と麒麟を拘束していた『闇の呪縛』をも粉砕だ。

「「…私はフェイトでもアリシアでもない…私はお前を倒す者だ――覚悟するんだな。」」

プレシアが言った『2人で1人、1人で2人』…其れを体現したこの姿。



戦局は再び逆転したのだ――

















 To Be Continued… 






*登場カード補足