遊星達がゆりかごに突入したのと時を同じくして、フェイト達はスカリエッティのアジトに到着していた。
『誰も居ないし、何もない――妙だな?』
「うん…誰も――ガジェットすら居ないって言うのは流石に妙だけど…此処で止まる事は出来ないよ…」
『なら、進むのみでしょ?』
「うん、止まらないで進むだけ。」
衛兵的役割のガジェットくらいは想定していたが、其れの姿は見えない。
よほど自信があるのが、それとも戦闘用のガジェットは全てミッドに送り込んだのか…其れは分からない。
だが、此処で止まって居たら何も変える事は出来ないであろう。
更に、此処にスカリエッティが居るのならば、其れを確保する事で戦況は大きく有利に動いてくれるはずだ。
『問題は、どんな罠が待ち受けているのかと言う事だが…』
「迷うくらいなら、先ずは駆け抜ける…其れだけですから。」
緊張はあるのだろうが、フェイトの瞳には迷いはない。
同時に稼津斗と麒麟も闘気が膨れ上がって、何時戦闘になっても対処できる状態になっている。
「行こう!」
フェイトの号令を皮切りに、稼津斗と麒麟も内部に突入!
最終決戦の第1幕は、スカリエッティのアジトから幕が上がろうとしていた。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス103
『The Man With Desire』
アジトの内部は、何とも不思議な雰囲気に満ちていた。
通路は、床を除いた壁面、天井面が黄色系で統一され、やや暗めの照明に照らされ言い様のない不気味さを醸し出している。
『俺達が入り込んだ事くらいは感知しているだろうが――矢張り何も現れないな?
どうやら本当に戦力は市街地とゆりかごに注ぎ込んだ……と言う訳じゃなかったか流石に。』
その先に現れたのは無数の敵集団、だがガジェットではない。
ドラゴンゾンビ、エメラルドドラゴン、カオス・マジシャン、デビルマゼラ等々、デュエルモンスターズのモンスターがうじゃうじゃと。
如何やらアジトを護る兵隊には、ガジェットではなくカードのモンスターを使用する事にしたらしい。
確かにガジェットと比べればこちらはソリッドヴィジョンで投影すればいいだけであり、ガジェットを起動するより格段に手間が無い。
更に、デュエルの演出として使われている衝撃発生機構を改造してやれば、其れは十分に攻撃として機能させることが可能なのだ。
ましてや、其れを行ったのは狂気の科学者スカリエッティだ…高いレベルでの『兵器』に仕上がって居る筈だ。
『良くもまぁ、此れだけのモンスターカードを集めたモノだわ…
恐らくはソリッドヴィジョンの投影だろうけど、其れだけにガジェットと違って倒したらそこでお終いって訳には行かないんだよね…』
「此れは言うならば実体のある幻影――倒してもカードが残ってる限りは幾らでも呼び出す事が出来るから…
だけど、其れなら逆に好都合…耐久力はガジェットと比べれば相当に低い筈だから。」
言うが否や、フェイトはモンスター軍団に突撃し…
――………パリィィィィィィ!!
一瞬で10体ものモンスターが砕け散った!正に疾風迅雷、恐るべき速さ!
しかも今のスピードを通常の『インパルスフォーム』で叩き出したと言うのだから、ソニックを展開した際の速さは推して知るべきだろう。
「はぁ!!!!」
『Photon Lancer.』
更に後続のモンスターを複数の雷撃魔力弾で同時多発的に攻撃し、確実にその数を減らして行く。
無論、稼津斗と麒麟だってフェイトに負けてはいない。
『纏めて消えろ…羅刹葬爪!!』
『一刀両断!!』
無数の気弾がモンスターを撃ち貫き、白刃の太刀が煌めく度にモンスターが砕け散っていく。
数にすれば僅か3人だが、其れでも数多に現れるモンスター群は敵にすらなっていない――正に圧倒的な殲滅戦となっていた。
これならば、或は無傷でスカリエッティの許に辿り着く事も出来るかもしれない。
だが、此処は敵の本拠地。
新たに現れたモンスターに、フェイトの魔力弾が着弾する寸前――突然大きな爆発が起こり、その爆風が一行に襲い掛かってきたのだ。
『矢張り、罠の1つや2つは張っていたか――フェイト、麒麟、俺の後ろに下がれ。』
「!!分かった!」
『爆風如きで落とせると思うな…絶気障!!』
その爆風も稼津斗の障壁で難なくシャットアウトしたが…此れは少しばかり攻め難い状況になった事は確かだ。
今回のトラップは恐らく『万能地雷グレイモヤ』の効果を正確に再現した物だろう――それ故に爆発を防ぐのは容易だった。
しかし『魔法の筒』や『ミラーフォース』の様なトラップが仕掛けられていたら、幾ら何でも防ぐのは楽ではない。
『『次元幽閉』とか仕掛けられてたら其れこそ笑えないしね…』
「だけど、迂回路は無いしこのまま進むしか方法は…」
『なら罠そのものを吹き飛ばせばいい。』
「『え?』」
『何でこのカードをとも思ったが…流石は遊星だな、スカリエッティがカードを利用した罠を使ってくることを予想していたらしい。』
楽ではないが、遊星は此れくらいは予想していたのだろう。
出撃前に稼津斗に何かカードを渡していたらしい。
『マジックカード『大嵐』!此れで全ての魔法、罠カードを破壊する!!』
その内の一枚は、最強の魔法・罠破壊カード『大嵐』。
成程、此れの効果を使えば、カードの効果を利用したトラップは全て吹き飛ばせると言う訳だ。
デュエルモンスターズの全てを知り、そして最上のデュエリストたる遊星だからこそ予想できたこの戦術。
其れに対応できるカードを渡しておくとは流石だろう。
そして『大嵐』の効果で発生した暴風は、その効果を忠実に再現し、アジト内部に仕掛けられた罠だけをモノの見事に吹き飛ばしてくれた。
その過程で見えたカードらしきものが『ミラーフォース』『次元幽閉』『魔法の筒』がそれぞれ3枚ずつであった辺りスカリエッティはガチであろう。
が、それら『攻撃反応型トラップ』がなくなってしまえば、護衛兵士のモンスター等、この3人には恐れるに足らない相手だ。
1人は次元大魔導師の血を継いだ雷光の魔導剣士、1人は絶対無敵の存在の分裂体で1人は伝説の幻獣の力を宿した者なのだから。
其れを示すように、新たに現れた3体の『VWXYZ ドラゴンカタパルトキャノン』『ダーク・ホルスドラゴン』『古代の機械巨人』ですら…
「トライデントスマッシャー!!」
『Trident Smasher.』
『虚空裂風穿!!』
『気刃解放斬りぃ!!!』
――ドバガァァン!!
速攻撃滅!!
攻撃力3000を誇るモンスターが合計9体で挑んでもまるで相手にならない。
この分では『F・G・D』を10体差し向けたところで足止めにもならないだろう。
フェイト達は並み居るモンスターを粉砕・滅殺・撃滅しながら、一路スカリエッティを目指して邁進していた。
――――――
「ほう…此れは素晴らしいね…フェイト嬢は勿論として、軽装の女剣士も相当にやる。
そして何より、銀髪の彼は正に『最強』と言うにふさわしい……流石は10年前の『アレ』を不動遊星と共に解決しただけの事はある。」
その快進撃をモニターで見つつ、しかしスカリエッティの顔は狂喜に満ちていた。
自分の編み出した技術で呼び出した護衛兵士のデュエルモンスターズ達はSクラスの魔導師とも互角に戦えるだけの力はある筈だった。
其れが如何だ?
実際にはたった3人の侵入者に手も足も出ずに、現れた端から粉砕されている。
設置した罠が吹き飛ばされたこともあるだろうが、此処まで簡単に処理してくれるとは何と言う面白い連中だろう?
無限の欲望の思考は、この3人の強さへの興味にシフトしていた。
「ドクター、10年前のアレとは?」
「トーレか…君達が知らないのも無理はない――此れは管理局のデータベースの中でも特に機密事項の高い案件だからね。
端的に言うならば、10年前に機動六課の総司令殿の故郷である事件が起きた…巨大な『鬼』と呼ばれる存在が現れるというね。
事件そのものはモノの数時間で解決に至ったのだが――その時、その鬼を倒したのが不動遊星と、モニターに映っている彼だよ。」
どうにもスカリエッティは10年前に海鳴で起きた『リョウメンスクナ』関連の事件を知っているようだ。
故にモニターに映る銀髪蒼眼の男の事も知っているようだ。
「彼は異世界からやってきた人物との事だ…尤も其処に映っている彼は其れから生まれたカードらしいがね。
だが、本体と比べれば大幅に力が劣る筈であるにも係わらずあの強さ……マッタク、私の欲望に火を点けてくれる…!」
此れだけの強敵を前にして無限の欲望を優先するとは、流石は狂科学者と言うところだろう。
ウーノとセッテは兎も角、セインが『この人大丈夫か?』的な表情を浮かべているのは、ある意味で仕方ないだろう。
「だ〜〜がしかし!!3人纏めてこられると面倒な事はこの上ない…分断しようか?
トーレとセッテは私と共にフェイト嬢をお迎えだ…セインは、銀髪の彼の相手を頼もう。
幻獣の力を宿した彼女には、フェイト嬢と来てもらうが、彼女には『最悪のモンスター』と戦ってもらうとしようか……ククク…魔法カード『迷宮変化』!!」
だがそれでも、侵入者に対する対処は考えているようだ。
先ずはフェイトを潰し、その後で稼津斗を潰し……最後に麒麟を潰すと言う事なのだろう。
そして発動した『迷宮変化』はその舞台を整える為のトリガーカードであった。
――――――
『オォォォォ…波導掌!!』
「プラズマ…スマッシャー!!」
『鬼人乱舞!!』
――バガァァン!!!
果たしてこの3人は何処まで強いのだろうか?
現れるモンスターが攻撃力5000だろうと、戦闘で破壊できないモンスターだろうとまるで関係ない。
圧倒的な強さで強引に突破しまるで止まらない。
だが、一行はスカリエッティが切り札の1枚を切った事を知らない……それ故に対処が僅かに遅れる事となった。
『?なんだこの揺れは?……!!!』
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…ドォォン!!
アジト内部がやけに揺れるなと思った次の瞬間、天井から壁が落ち、フェイトと麒麟を稼津斗と隔ててしまった。
「分断!!…稼津斗、稼津斗!!大丈夫!!」
《やられたな…俺は大丈夫だが、お前達は?》
即座に念話での通信を送ってくる辺りは流石と言うべきだろう。
だが、此れで戦力は分断された――今までのような圧倒的な力は此れでは発揮できないだろう。
尤もそれでも個々が異常に強いのでそれほど問題ではないだろうが。
其れとは別に敵の本拠地で分断というのが問題なのだ。
分断された個々に、過剰戦力を投入されたら堪らない……それこそ一瞬でやられてしまう可能性すら有るだろう。
「私と麒麟は大丈夫。――だけど稼津斗は1人で…!!」
《なに、俺なら大丈夫だ……俺のオリジナルはたった1人で億の敵を相手にしたような奴だからな、俺とて誰が相手でも負けん。
だが…こちらを分断した以上、そっちに親玉が行く可能性もある……負けるなよフェイト、麒麟。》
『分かってるって…この雷幻獣は簡単にはやられない…!』
「稼津斗…うん、絶対に負けないから…後で、また必ず!!」
《あぁ、必ずな…!》
通信を終え、フェイトと麒麟は変化した内部廊下の前方を見やる。
薄暗い室内では、10m先は既に闇だが、その闇の向こうからは足音が聞こえて来る……少しずつ、だが確実に此方に向かっている足音が。
「……」
『……』
其れを聞き、フェイトと麒麟は警戒を解かない。
其れに呼応するように、バルディッシュの魔力の大鎌は鋭さを増し、麒麟が新たに装備した雷の力を宿した大剣にも稲妻が迸っている。
「此れは此れはフェイト・テスタロッサ嬢……ようこそ私の城へ…!」
「ジェイル…スカリエッティ…!!!」
其処に現れたのは事件の黒幕であるジェイル・スカリエッティと2人の戦闘機人、トーレとセッテ。
其れを前にして自然とフェイトと麒麟の緊張と闘気も高まる。
特にフェイトは、六課結成前より自分が担当していた事件の容疑者を前にしたのだから余計にだ。
「おやおや…怖い顔だ――そんな顔では折角の美貌が台無しと言うやつではないかね?私には分からないが。」
「ジェイル・スカリエッティ……貴方には数々の嫌疑が…抵抗しないで投降を…………うぅん…止めた。
どうせ言ったって聞かないんだったら言うだけ無駄……ジェイル・スカリエッティ、貴方には此処で沈んでもらいます――平和に暮らす人々の為に!!」
『Synchronize Cartridge Load…Drive ignition.』
其れでも冷静さは失わない。
管理局のマニュアルに従って投降を促す心算だったが、それは止める。
言って聞く相手ではないのは百も承知…其れならば武力制圧をした後で確保した方が万倍効率が良いと言うものだ。
即座にシンクロカートリッジをロードし、自身をシンクロ化する。
其れによって現れたのは銀髪金眼の死を司る美しき女神。
白銀の稲妻を纏った、金刃のデスサイズがその姿を更に鮮烈で美しいものにしている。
「ジェイル・スカリエッティ…覚悟は出来ているね?」
雷光の魔導剣士−フェイト:ATK5600(バルディッシュの補助で攻撃力倍加)
開かれた金色の双眸はスカリエッティと2体の戦闘機人を射抜く。
されど、スカリエッティは微塵も怯まない――どうにも楽に倒せる相手でもないようである。
――――――
一方分断された稼津斗だが…
『ふぅ…精霊になっても酒の美味さを感じる事は出来るか。』
何処から取り出したのか、そもそもどうやって持ってきたのか、ウィスキーのポケット瓶を1本丸々空けていた。
だが、ふざけている訳ではない……稼津斗にとって酒は一種の気付け薬なのだ。
『さて…隠れていないで出てきたらどうだ戦闘機人――居るのは分かっているぞ?』
「げ、気付いてた!?」
背後の壁に向かって話しかける。
分断されたその時から気付いていたのだろう――自身の背後に潜むセインの気配には。
其れに気付きながらも敢えて放置し、酒を呷ったのは絶対強者の余裕故と言うところだ。
『とっくに気付いていたさ…其れこそウィスキーを飲み干す前からな。
だが、分断された先でどれだけの相手が出て来るかと期待したが――期待外れだな、お前の様な三下など瞬殺だ。』
「な!!アタシを舐めるなよ!!」
『ならその力を示してみろ……そうだな、3分以内に俺に攻撃をクリーンヒットさせる事が出来たらお前の力を認めるとしよう。』
「こんのぉぉぉぉ……ぶっ殺す!!!」
心理戦の挑発も実に見事。
相手を逆上させ、冷静な思考を奪えばそれだけで戦いは格段に楽になるのだから。
アジト突入から時間にして30分――フェイトと麒麟はスカリエッティ達と、稼津斗はセインと…ステージボスとの戦闘開始だ――
To Be Continued… 
*登場カード補足 |