カーテンの隙間から射し込む朝日を感じて、遊星は目を覚ました。
その傍らには、自分の左腕を枕にして眠っているはやてが居る。

一緒に寝ると言うのは何時もの事であり、別に珍しい事ではない――ただ一点、遊星もはやても一糸纏わぬ姿であると言う事を除けば。


互いに気持ちが通じ合い、心が重なり、そして愛し合うのは自然の流れだった。

寝返りを打ったのだろうか?今は自分に背を向けて寝ているはやてが、遊星には堪らなく愛おしく感じた。
と、同時に…


――…俺は意外と独占欲が強いのかもしれないな。


そう思わずにはいられなかった。

はやての首筋に咲く赤い花――遊星が付けた『所有者の刻印』。
それは管理局の『はやてファン』を一蹴する破壊力があるものだろう……遊星も矢張り男だったのだ。

「…はやて、朝だぞ。」

「ん…」

そんなはやてを後ろから抱きしめる。
その感触に目を覚ましたはやてだが…


――ボンッ!


爆発した。
きっと昨晩の事を思い出したのだろう…真っ赤だ。完熟トマトか、或は絶妙な茹で加減のゆでだこ宜しく真っ赤だ。

「はやて?」

「ご、ごめん遊星…は、恥ずかしくて、顔見られへん…///

決戦の日の朝は、何ともくすぐったいものであった。












遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス101
『最終決戦に向かって…』











アースラのブリーフィングルームには負傷者以外、全ての六課メンバーが集結していた。
スバルの腕もギリギリではあるが『治療』が間に合ったようだ。

「ほな、作戦の説明や!――と言いたい所やけど、其れに先立って皆に伝えなあかん事がある…攫われたヴィヴィオとレーシャの事や。」

決戦前の作戦会議――と思いきや、其れに先駆けてヴィヴィオとレーシャの事が出てきた。
確かにスカリエッティに攫われたあの2人の少女の事も無視は出来ないが、この場で何を伝えると言うのだろうか?

「2人が保護された際に治療のために聖王病院に運ばれた事は皆知っていると思うが、その時に病院では血液検査なんかも行っていたらしいんだ。」

「そんで、その血液サンプルを念の為にDNA鑑定してもらったんや。
 そしたらな…ヴィヴィオは古代ベルカの聖王オリヴィエの、レーシャは……」

「はやて、如何したの?」

ヴィヴィオの正体は暴露したが、レーシャの正体を言い淀むはやてにフェイトが問う。
ヴィヴィオ=聖王は確かに衝撃的な事実だ。

だが、はやてが言い淀むとは、レーシャにはそれ以上の秘密があると言うのだろうか。

「フェイトちゃんとアリシアちゃんは特に覚悟して聞いてな?
 レーシャはな………プレシアさんのクローンなんや…」

「「!!!」」

言い淀んだ理由は其処にあった。
レーシャはプレシアのクローン……其れをアリシアとフェイトに伝える事に抵抗があったのだ。

「あの子が…」

「お母さんのクローン…」

「あぁ…恐らくスカリエッティは過去の最強と現在の最強をクローニングする事で全てを手にしようとしていたんじゃないのか?
 そして、レーシャを最強の衛兵とし、ヴィヴィオを『鍵』とするつもりだったんだ。」


驚くテスタロッサ姉妹をよそに、更に遊星が説明していく。
成程それならば、クローニングも納得だ。

だが、レーシャの衛兵は兎も角、ヴィヴィオが『鍵』と言うのが解せない。

「……『ゆりかご』ですね?」

それに答えを提示したのはアインスだ。
永劫とも言える時を生きてきた彼女には、聖王を『鍵』とする存在がなんであるのか即座に分かったらしい。

「「「「「!!!」」」」」

「正解やアインス……今回の事と、カリムの予言照らし合わせてみたらスカリエッティの目的は只1つに絞られた。
 アイツは――封印されたゆりかごを起動して、無差別にこの世界を攻撃する心算や。」

「何だそりゃあ!?世界吹っ飛ばして征服でもしようってのかよ!?」

最強最悪と言われた古代の超兵器――ゆりかご。
その起動の鍵こそが聖王のクローン=ヴィヴィオであり、その超兵器での攻撃がスカリエッティの目的であるらしいのだ。

だが、クロウの言うように無差別攻撃をしてどうするのだろうか?

「違うわ…彼はそんな事を考えている訳じゃない。」

世界征服か?と言う考えに異を唱えたのは別室で作業していたはずのプレシアだ。
此処に来たと言う事は、行っていた作業が終わったのだろう。

「プレシアさん、終わったんですか?」

「えぇ、何とか――全員分のデバイスの補修と強化改造は終わったわ。」

「流石に、ちょっと時間的にきつかったけど性能は保証するわよ。」

「母さんもスマナイな。」

一緒に沙羅もやってきていた。
作業と言うのは各自のデバイスの補修と強化であったらしい。

「其れは良いけどよプレシア、スカリエッティの野郎の目的が世界征服じゃねぇってんなら、一体野郎は何のために無差別攻撃なんぞしやがるんだ?」

其れは其れとして、スカリエッティの目的の本質を知っているらしいプレシアの発言は気になる。
無差別攻撃の意図は何だと言うのだろうか?

「何の為に、ね……端的に言うなら『自らの欲望を満たすため』と言うのが妥当でしょうね。
 自分の研究成果、実験結果、そう言ったモノを只使ってみたい、試してみたい、如何なるのかを見てみたい……彼に在るのは其れだけよ。」

救いようがないとはこの事だろう。
スカリエッティは道を踏み外してしまった狂科学者ではなく、思考回路そのものが最初から人とは180度ズレていたのだ。

同時に全員が思った――言葉は通じないと。
ならばやる事は只1つ……正面から乗り込んでブッ飛ばすだけだ。

「まぁ、敵さんがまともやないのは重々分かってた事やけど、此れで説得不可能な相手言うんは確定や。
 ほな改めて作戦の説明と行くで?基本的に、先ず部隊を2つに分けるんや。
 スカリエッティのアジト突入組と、市街地に出てくるであろう戦闘機人とガジェットの迎撃組やな。」

「スカリエッティのアジトの詳細は…アモン・ガラム――六課を襲撃した相手がザフィーラに渡した紙切れから分かっている。
 正直、罠の可能性の方が高いんだが…」

「たとえ罠であっても、其処に記された場所に乗り込むしかないか…」

そして戦闘作戦だが、此れは非常にシンプルなものだ。
アモンがザフィーラに渡した紙切れに記されていたスカリエッティのアジトに突入組が乗り込んで親玉を確保し、そしてゆりかごの起動を止め攫われた2人の救出。

その間、迎撃組は市街地を襲撃するであろうガジェットと戦闘機人に対処。
クロウの予想が正しければ、この時ギンガも敵戦力として出てくる可能性があるので、その場合にはギンガの救出もプラスされる。

問題は戦力の割り振りだ。
突入組の人数は、如何しても少数になってしまう故に隊長陣での編成になるだろう。
そうなると誰を選抜するかなのだが、其れは既にはやての中では決まりきっていた。

「突入組は遊星とヴィータ、其れからなのはちゃんとフェイトちゃんの4人!
 それ以外の武装隊メンバーは全て迎撃組として連中を迎え撃つ!!」

公の場だが、もう階級なんかを付けた堅苦しい呼称はなしだ。
格式ばった物言いよりも、普段通りの方がいっそ士気も高まり、緊張も適当に解れると考えたのだろう。

しかし、何とも大胆なチーム分けをしたものだ。
突入組は僅かに4人!
だが、これ以上ないメンバーと言えるだろう。

アタッカーもサポーターもこなせる遊星に、あらゆるレンジでの戦闘に対応できるヴィータ。
圧倒的な火力と防御力を有した移動砲台のなのはと、雷速の魔導剣士であるフェイト。
そして此処に遊星のデッキの仲間達まで加わるのだから、戦力としては申し分ないだろう。

「作戦に先駆けて、皆のデバイスは母さんとプレシアとマリーで補修と強化を施してある。
 作戦の開始は1時間後だ、その間にデバイスの確認と、各自休息をとっておいてくれ。」

自然と遊星が『副指令』のような感じになり、作戦会議は滞りなく終了。


決戦を1時間後に控え、各員ひとまず解散となった。








――――――








「あの、なのはさん…」

「すこし、良いですか?」

「スバル、ノーヴェ、其れにティアナも…如何したの?」

ブリーフィングルームを出たなのはに声を掛けてきたのはスバルとノーヴェとティアナだ。
何かあったのだろうか?

「何つーかその…必ず無事に戻ってきてください!
 アタシ等、まだなのはさんから教わりたい事沢山あるんです!!
 アタシ等も迎撃組として、全力全開で頑張るから、なのはさんも必ずヴィヴィオを助け出して戻ってきてください!!」

弩ストレートな物言いに、思わずなのはの目が丸くなる。
が、直ぐに優しい笑みを浮かべ3人の頭を順に撫でてやる。

「うん、大丈夫…必ず戻って来るよ――貴女達の憧れたなのはさんは無敵なんだから。
 だから、私とも約束ね?ギンガが出てきたら、必ず助け出してあげてね?…約束だよ?」

「「「はい!!」」」

なのはの思いに曇りは無く、またスバル達の思いにも淀みは無い。
不屈のエースと、その教え子達ならばきっと――いや絶対に大丈夫だろう。











また、別の場所ではテスタロッサ姉妹とエリオ、キャロが似たような会話をしていた。

「大丈夫、私は必ず戻って来るから――アリシアも外部からサポートしてくれるから絶対に大丈夫だよ。」

「だから、2人は自分の事に集中!特にエリオは男の子なんだから、敵と戦うだけじゃなくて常にキャロの事も気にかけておくこと!
 そしてキャロも護られてるだけじゃなくて『竜召喚士』としての力を最大限に発揮して『護る為の戦い』をする事。
 其れが出来ていれば、エリオとキャロのコンビは最強だからね♪」

フェイトが2人を安心させ、アリシアが2人を鼓舞する。
対照的な性格の2人ならではの見事な方法と言えるだろう。

そしてその効果は絶大。

「「はい!!」」

まだ幼い2人だが、その瞳に迷いも恐怖もない。
まだまだ小さな槍騎士と竜召喚士は、しかし1人前の『戦う者』であった。

そして…

「其れは貴女達もよ、フェイト、アリシア。」

「母さん!」
「お母さん!!」

プレシアもまた2人の娘が心配だったようだ。

「貴女達は2人で1人であり、1人で2人だと言う事を忘れないで。
 アリシア1人では無理な事もフェイトが居れば、フェイト1人では無理な事もアリシアが居れば必ず出来る――其れだけは忘れないで。」

「母さん…うん、分かってる。」

「大丈夫!私とフェイトは嘗て『大魔導師』とまで謳われたお母さんの娘なんだから!」

プレシアの言う事だって勿論分かっている。
親が思う以上に子供と言うのは成長するらしい。

「分かっているなら良いわ…フェイト、アリシア、エリオ君とキャロちゃんも――頑張ってね。」

「「「「はい!!!」」」」












騎士達も…

「ワリィな、アインス、シグナム、ツヴァイ――市街地の方は任せるぜ?」

「あぁ任された。」

「だがヴィータ、お前は敵の本拠地に乗り込むんだ…無理だけはしないでくれ。」

「気を付けてくださいですぅ…」

「ハッ!アタシがそう簡単にやられるかよ!
 鬼が出ようが蛇が出ようが関係ねぇ!アタシの…アタシ等の前に立ち塞がる奴らは何であろうとアイゼンでブッ飛ばすだけだ!!」

『Ja.』

夫々の決意を胸に士気を高めていた。
特に突入組のヴィータは余計にだ。

騎士の全員がそうだが、ヴィータは騎士達の中でも特に仲間意識が強い。
そんなヴィータにとってザフィーラとシャマルを落とした相手は粉砕撃滅確定なのだ。

更にはレーシャを攫ってはやてと遊星を、ヴィヴィオを攫ってなのはを、ギンガを強奪してスバルとノーヴェを悲しませた相手をヴィータは絶対に許さない。
怒りの臨界点はとっくに突破しているのだ。

「アタシの方は問題ねぇ…だからオメェ等も奴らに手加減なんてするんじゃねぇぞ?」

「言われるまでもない…主はやてに盾突いたのだ…其れだけでも万死に値するからな。」

「精々分からせてやるさ――自分が一体誰に刃を向けたのか……向けてしまったのかを。」

「ツヴァイも頑張るです!!」

そしてそれはシグナム達も同様。
騎士達の闘気は極めて高いレベルに上り詰めている――その力は戦場で遺憾なく発揮される事だろう。









そして遊星とはやては…

「遊ちゃんも意外と大胆ねぇ…はやてちゃんの首筋のそれ、遊ちゃんが付けたんでしょ?」

「母さん!?」
「沙羅さん!?」


「あら、『お義母さん』でも良いのよ〜〜♪」

沙羅に弄られていた。
はやての首筋の『刻印』は、沙羅にとって絶好のターゲットだったようだ。

「漸くって感じだけど…やっと2人は結ばれたのね?…おめでとうはやてちゃん、遊ちゃん♪」

だが、一転真面目な顔になり晴れて結ばれた2人を祝福する。

「…あぁ、ありがとう母さん。」

「ありがとうございます、沙羅さん!」

遊星もはやても其れに礼を言う。
母親から祝福、母親同然の人からの祝福は何よりも嬉しい事だった。

「だからこそ、2人とも必ず無事で居てね?レーシャちゃんは確かに可愛い子だけど、やっぱりはやてちゃんが産んでくれた孫の顔も見たいもの♪」

「ちょ、沙羅さん!?」

「少し気が早すぎないか?」

だが、其処は不動沙羅、最後の最後で一発かますのは忘れない。
此れもまた『必ず戻ってきてほしい』と言う願いの裏返しではあるのだが…

「マッタク…せやけど分かりました。必ず無事にやり遂げてみせます!夜天の主の名に誓って!」

「あぁ。俺もシグナーとして、そしてデュエリストの魂に誓って必ずやり遂げて、そして無事に帰ってくる!」

「うん、その意気よ♪」

其れを感じ、はやても遊星も誓いを新たに。
絆の決闘者はレーシャを救ってスカリエッティを討ち、夜天の主は己の力の全てを懸けてミッドチルダを護るだろう。



――ビー!ビー!!


其処に鳴り響くエマージェンシーコール。
作戦開始まではまだ時間があるが――どうやらスカリエッティ達は、試合開始のゴング前に突っかけて来たようだ。


「…まぁ、相手方に此方の都合など関係ないか…はやて!」

「せやなぁ…予定より大分早いけど、戦いなんてもんはいつ何時でも予定通りには始まらんもんや…行くで!!」

「あぁ!」

其れでも慌てる事は無い。
作戦開始は1時間後などと言うのはあくまでも此方で決めた事であって、スカリエッティには関係ない事だ。

だが、だからと言って先に仕掛けられたとて慌てない。
此れもまた予想の範疇なのだから。

「若いわねぇ……でも其れは大事な事よ――頑張ってね、遊ちゃん、はやてちゃん…そして六課の皆…」

ブリッジに向かう遊星とはやての背を眺め、沙羅は無意識の内にそう呟いていた。




ミッドチルダを舞台にした最終決戦開始まで、あと数分――
















 To Be Continued… 






*登場カード補足