Side:京


実力で言うなら、シグナムの方が圧倒的に上なんだが、ヴィヴィオは如何やら途轍もなく頑丈に出来てるらしいな?シグナムの攻撃が殆
ど通じてねぇ感じだぜ……攻撃が効かないとなるとジリ貧になるってのがお約束なんだが、シグナムがそうなるとも思えねぇ。
さて、如何する心算なんだ?



「行くぞアギト!」

「合点!行くぜ、ユニゾン!」

「イン!!」



――ゴォォォォォォォォォォォ!!



って、此処でシグナムがアギトとユニゾンしやがった!!
髪と目の色が変わって、上着がなくなった背に、4枚の炎の翼が現れるとは、何とも強そうじゃねぇか?……此れなら、以上に頑丈なヴィ
ヴィオが相手でも如何にかなるかも知れないぜ!!



「どぅあしかぬぃ、力が増したようどぅがぁ、其れで勝てるかぬぁ?」

「勝てるかどうかは、テメェの目で確かめなルガール。」

だが、敢えて言わせて貰うぜ?勝つのはシグナムだってな!!――アギトとユニゾンしたシグナムは、炎の剣聖だ。相手が例え聖王だと
しても負ける事はねぇ。
ベルカの騎士の強さを、その目に焼き付けると良いぜ!!












リリカルなのは×THE KING OF FIGHTERS~紅蓮の炎~ Round46
『聖王を倒せ!そして打ち砕け!』











No Side


アギトとユニゾンしたシグナムは、炎のオーラを纏って、聖王と化したヴィヴィオとの戦闘を行っていた。
本来、レヴァンティンのような長めの得物は、格闘戦の間合いでは威力を発揮できないのだが、シグナムは、巧みな剣術と体術を持って
して対応し、時には鞘を使っての二刀流攻撃すら繰り出す。

正に流れるような攻撃だが、しかしヴィヴィオも一歩も譲らず、聖王の鎧の圧倒的な防御力に物を言わせ、シグナムの攻撃を受けながら
も拳や蹴りを繰り出し、時には魔力弾をも撃ち出す。


「大した威力だが、此の程度の稚拙な魔力弾では、物量と圧倒的誘導性を持った高町の魔力弾を経験している私には通じんな。
 お手本を見せてやろう――魔力弾とは、こうやって使うんだ!」


その魔力弾をレヴァンティンで弾き飛ばしたシグナムは、掌に巨大な火球を出現させると、其れをヴィヴィオに向かって放つ。
だが、其れは余りにも直射的な攻撃であり、ヴィヴィオの放った魔力弾と大差ないように見える――


――バババババババババババ!


「!?」


が、ヴィヴィオにヒットする直前で、火球が分裂して幾つもの火の玉となってヴィヴィオを取り囲む――文字通り前後左右に上下まで、逃
げ場所がない位にだ。


「逃げ場はないぞ!」


シグナムが拳を握ると同時に、無数の火の玉が一斉にヴィヴィオに向かって飛んでいく。
ヴィヴィオは、其れを拳や蹴りで迎撃するが、上下左右360度から放たれる火の玉全てを迎撃する事など出来る筈もなく、凄まじい物量
の火の玉がヴィヴィオに直撃して爆破炎上!

並の相手ならば、間違いなく戦闘不能に陥った一撃だろう。


「……此れでも、僅かに防護服が焦げただけとは、呆れた頑丈さだな。」

「……殺す……!」


しかしながらヴィヴィオは無傷!
防護服に、多少の焦げ跡は出来た物の、大したダメージを負った様には見えない……が、其れでもシグナムに焦りはない。――今の攻
撃で、聖王の鎧は決して無敵ではなく、防御能力の許容量を超えた攻撃ならば有効打になると言う事が証明されたのだから。

同時に今の攻撃は、ヴィヴィオに対してのプレッシャーにもなって来る。
鋭い剣術と、素早い体術に加えて、自在に操る事の出来る火の玉まで使えるとなると、攻守速のステータスでは勝っていても、使える戦
術の差で負けるだろう。
加えて、今のヴィヴィオは、身体こそ大人だが精神は子供のままで、更に強制的に聖王と化された事で精神面が不安定で、半ば暴走状
態であると言えるのだ。

其処に『相手の方が戦い方が巧い』と言うパーツが加わった事で、ヴィヴィオの精神は余裕がなくなってきているのだ。


「殺すとは穏やかではないが……その程度の稚拙な攻撃では、私を殺す事など出来ん。
 無論、その攻撃の威力は凄まじい故に、真面に喰らえばお陀仏だろうが……どんなに強力な攻撃でも、当たらなければ意味はない。」

「く……黙れぇぇぇぇ!!」


其れを示すかのようにヴィヴィオの攻撃は大振りの物が多くなって雑になって行く。
逆にシグナムは、言葉でヴィヴィオの余裕を更に削りながら攻撃後の隙に的確にカウンターを叩き込み、時にはヴィヴィオの意識の外か
らの火球攻撃も行う。(火球攻撃は、厳密にはユニゾン状態のアギトが制御しているのだが。)
聖王の鎧が頑丈なせいで、HP10000の敵のHPを1ポイントずつ削る様な戦いではあるが、其れでも諦めずに攻撃を加えて行けば何時
かは倒す事が出来る……否、シグナム程の使い手ならば、戦いの中で、更に効率的なダメージの与え方を見つけて、より効果的な戦い
方をするだろう。


「……幾らデカい力を持たせたとは言え、ヴィヴィオは所詮ガキンチョだ。
 数えきれねぇくらいの修羅場を潜り抜けて来たシグナムの敵じゃねぇって事か……第1ラウンドは、此のままシグナムの勝ちだな。」

「そう、おむぉうくぁ?」


現実にシグナムは、更に攻撃の威力を高める為に、全身に炎を纏うと言う選択をし、与えるダメージを増している。
其れを見た京はシグナムの勝ちを略確信するが、しかし劣勢状態のヴィヴィオを見ても、ルガールは不気味な笑みを浮かべ余裕の表情
だ――まるで、何か策があるかのように。


そして、其れは突然現れた。


――ビシュン!!


「!?」


何処からともなくビームが放たれ、シグナムの騎士服の腰マントの裾を焼いたのだ――もちろんヴィヴィオは何もしてないし、ルガールが
何かをした気配もない。
ならば一体何者か?――その正体は直ぐに割れた。


『苦戦していますわねぇ聖王様?
 なので、この不肖クアットロ、助太刀させて頂きますわぁ?……賊は、排除せねばなりませんモノねぇ?』


この攻撃を行ったのは、ヴィヴィオを聖王に変えた、ナンバーズの4番目であるクアットロだ。
戦場には姿を現さずに、身の安全が確保されているゆりかごの最深部から遠隔攻撃を行ったのだ……卑劣極まりないにも程があると言
えるだろう。


「テメェ、チーム戦だとか言っておきながら第3者の乱入とかふざけてんのかルガール!」

「ぬぁにを、言っている草薙京。これはぁ、援護攻撃とぅおいうやつどぅあ!!」

「ヴィヴィオは掴み技を喰らってる訳じゃねぇし、スタン状態でもねぇだろ!其れで援護攻撃って、舐めてんのかオイ!!」

「ピンチ状態うぉ、たぁすけるのぐぁ援護攻撃どぅあ!」


当然、京は猛抗議するが、ルガールは『援護攻撃』だと言って聞く耳持たず……まぁ、戦場である事を考えれば、何でも有りなのだが。
無論、其れを見過ごす京ではなく、援護攻撃がOKなのならばと、シグナムのフォローに入ろうとするが……



――ガキィィィン!!


『おぉっと、無粋な乱入は感心しませんわねぇ?』

「テメェ、どの口が言いやがる!」


出ようとした所で、足をクアットロの遠隔バインドで拘束されてしまった。其れも、クアットロが対オーバーS用に作り出したバインドでだ。
京の力をもってすれば、力ずくで引き千切る事は可能だろうが、しかし其れだって簡単に行く訳ではない――つまり、京がバインドを外す
までの間、シグナムはヴィヴィオの攻撃とクアットロからの攻撃の両方に対処しなくてはならないのだ。

勿論シグナムは一対多の戦いが不得手と言う事は無いが、其れは相手の姿が見えていればの事であり、見えない敵からの攻撃が有る
となると、流石に難儀するのは想像に難くない。


「く……一方の攻撃の出所が分からないと言うのは、やり辛いな……!」


ヴィヴィオの攻撃は見えているから躱す事が出来るが、クアットロからの攻撃は出所が分からないために避ける事が難しい。
歴戦の勘を持ってして避けるにしても、其れには限界があり、次第にクアットロの攻撃による被弾が増えて行く――其れと同時にヴィヴィ
オの攻撃も完全に捌き切る事が出来なくなってきている。

小さく、しかし確実にヴィヴィオの攻撃はシグナムに当たるようになり……


「ハァァァァァァァ!!」


――バキィィィ!!


クアットロの攻撃に足を撃ち抜かれて、動きが止まったシグナムの横っ腹に、強烈なミドルキックがヒット!
更にそれだけでは済まずに、アッパーカットで顎を撃ち抜き、ローキックで膝を破壊し、強烈なボディブローを叩き込んでシグナムを吹き飛
ばして聖王の間の壁にめり込ませる。

人がめり込む程の衝撃とは相当なモノであり、其れを実際に喰らったシグナムには相当なダメージがあるだろう……壁に出来たクレータ
ーに身を預けているシグナムは、ピクリとも動かないのだから。
如何考えても戦闘不能であり、最悪の場合は絶命している可能性すらあるが、この光景に狂気乱舞したのは、最深部に居たクアットロ。


「ふふふ……ふはははは!
 やったわ!やってやった!此れで、私達の勝ちは揺るぎようがない!如何に草薙京が強くても、聖王様とルガールおじ様の2人に勝つ
 事は出来ない筈だし、私がいれば妨害も出来るのだから!
 私達の勝ちよ!!」


勝ちを確信し、勝手に盛大に盛り上がっている。
確かに、シグナムが戦闘不能に陥り、京1人で聖王ヴィヴィオとルガールを相手にするのは幾ら何でもきついだろう――確かに、此のま
まならば、勝ちだと言えるかもしれないだろう。


「そう、其れは良かったわね。」

「へ?」


だが、勝利を確信し、高笑いをしていたクアットロの胸部から、突如として鋭い爪が生えた。
一瞬何事かと思ったが、其処から血が流れだして来た事で、クアットロは『自分が背後から何者かに刺された』と言う事を認識した。して
しまった。

故に、誰がやったのかを確かめるべく首を後ろに曲げたクアットロの視界に飛び込んで来たのは、マッタク持って予想外の人物だった。


「ドゥーエ姉さま?……な、何で?」

「此れが、私の役目だからよ。」


クアットロを貫いたのは、六課の諜報部員であるドゥーエ。
シャマルの旅の鏡でこの場所まで転移し、油断しきっていたクアットロを背後から貫いたのだ……其処には、一切の手加減も慈悲も存在
しない、真なる殺しの技だ。

だが、貫かれたクアットロからしたら訳が分からないだろう――何故、姉に貫かれているのか、その理由が。


「悪いわね、貴女達の姉であるドゥーエは、既に私が、風間二乃が始末させて貰ったわ。
 ちょうどアイツは、私の遺伝子から作られていたから、そっくりそのまま成り代わって、スカリエッティのスパイを演じつつ、六課のスパイ
 として活動していたのよ……最後の最後まで気付かなかったなんて、間抜けにも程があるわねアンタ達は。」

「そんな……そんな馬鹿な!!」


しかしながら、理由を明かされてしまえば、クアットロとしては絶望の真実でしかなかっただろう――スパイだった筈の姉は、既に始末さ
れており、ドゥーエのオリジナルである二乃が、ドゥーエに成り代わって二重スパイを行っていたのだから。


「精々己の馬鹿さ加減に絶望して地獄に落ちなさい。姑息なアンタには、其れがお似合いだわ。」


そんなクアットロに対して、二乃は一切の慈悲を見せずに、胸部を抉り取るようにしてクアットロの心臓を粉砕!
如何に戦闘機人と言えども、人体のエンジンとも言える心臓を失っては生きる事は出来ない。(ギンガは首から下を破壊されたが、心臓
が無事だったので再生出来た。)
その結果、断末魔をあげる事もなくクアットロは絶命。――姑息な手段を用いた者に相応しい、惨めな最期であったと言えるだろう。








――――――








クアットロが絶命したのと同時に、ヴィヴィオは正気を取り戻していた。
元々クアットロの手によって聖王化させられて操られていたのだから、其れを行った者が居なくなったのならば、正常に戻るのは道理と
言えるだろう。

だが、正気を取り戻した事で、ヴィヴィオは、自分が何をしてしまったのかを理解してしまった。


「あ……あ……ママァ!!!!」


自分が、シグナムを討ってしまった……最愛の人の一方を手にかけてしまった……その事実を認識してしまったのだ。――其れは、あま
りにも重く、精神は子供であるヴィヴィオには途轍もない十字架になるだろうが……


「何を騒いでいるヴィヴィオ……私は、生きているぞ?少しばかり、意識が飛んでしまったがな……」

「ママ……?」


シグナムは無事だった。
壁にめり込む程の攻撃を受けながらも、無事だった――ボディブローを喰らう刹那に、レヴァンティンの鞘を持ち上げて盾とし、攻撃の威
力を半減させたのである。


「正気を取り戻したようだなヴィヴィオ……さぁ、一緒に帰ろう。」


シグナムは、正気を取り戻したヴィヴィオに、共に帰ろうと言う。其れは、母としての純粋な思いだが……


「ダメだよ……出来ないよ…!!」


ヴィヴィオは其れを拒む。


「私、操られてたとは言え、ママを殺そうとした……そんな私が、ママ達と一緒にいる事なんて出来ないよ……」


正気を取り戻した事で、ヴィヴィオには、己が母としたシグナムを殺そうとしたという事実が重く伸し掛かっていた……その重責故に一緒
に居る事は出来ないと、そう思ってしまったのだ。


「下らねぇ事言ってんじゃねぇぞヴィヴィオ。誰が、お前が俺達と一緒にいる事は出来ねぇって言った?」

「京の言う通りだぞヴィヴィオ……少なくとも、私達はお前と共に居たいと思ってる……それでも、私達と一緒に居る事は出来ないか?」


其れでも、京とシグナムはヴィヴィオと一緒に居る心算だった。(クアットロが絶命した事で京のバインドは解けている。)
京もシグナムも、『娘』をむざむざ見殺しにするという選択は、最初からなかったのだ……炎の貴公子と、烈火の将は、確りとヴィヴィオの
『親』になっていたのだ。


「ヴィヴィオ、お前は一体如何したい?」

「選べ、私達と共に生きるか、其れともここで朽ちるか!!」

「私は……私は、ママとパパと一緒に居たい……一緒に生きていたい。」


そして、ヴィヴィオの本音を引き出した京とシグナムは、一瞬視線を交差させると、その身に闘気を滾らせて、自身の身体に炎を纏う。


「少しだけ、痛いの我慢できるか?」

「うん、頑張る……」

「良い返事だな。」


一度埋め込まれたレリックは摘出できない……其れを破壊するには、外部からの魔力ダメージを持ってしてレリックを砕く以外に手はな
い……故に、ヴィヴィオを解放する為に、京とシグナムは、己の奥義を炸裂させる!


「おぉぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!

翔けよ隼!

『Sturmfalken.』


京の大蛇薙と、シグナムのシュツルムファルケンが、ヴィヴィオに炸裂し、強烈な炎熱攻撃が、ヴィヴィオに埋め込まれたレリックを燃やし
て、その存在を打ち砕いて行く。


「く……うわぁぁぁぁぁ!!」


そして次の瞬間、ヴィヴィオの体内に埋め込まれていたレリックが体外に排出され、大蛇薙の炎とシュツルムファルケンの炎に晒されて
爆破炎上!

その衝撃で出来たクレーターの中心には、本来の姿に戻ったヴィヴィオが居た……








――――――








Side:京


取り敢えずヴィヴィオの奪還には成功した訳だが、其れで『はいお終い』って訳には行かねぇだろうな――自分の力で立ち上がって、そ
んでもって、シグナムに抱き付く様は、正に感動モノだけどよ。



「フッフッフ……ずぃつぬぃ、素晴らしい戦いだっとぅあ……ならぶぁ、此方も全力持ってしてぇ、貴様を殺す!!!」



だからって、全てが終わるとは思ってないぜ……何たってルガールの野郎が居る訳だからな。
だがなルガール、お前は俺の敵じゃないぜ?……テメェの力は、所詮紛い物に過ぎねぇからな――此処で焼き尽くしてやる――精々首
を洗って待ってな!

テメェは俺の炎で跡形もなく焼き付きしてやるからよ!












 To Be Continued…