Side:ティアナ


私とロックの前に現れた相手――ナンバーズと呼ばれる戦闘機人と、ロックの父親だって言うギース・ハワード。
ナンバーズだけなら、少し苦戦したとしても、私とロックのコンビなら勝つ事は難しくない。って言うか、勝てると思うけど、アイツは、ギースは
その限りじゃないわ絶対に。

私でも分かる位の『悪の波動』をその身に宿しながら、其れを肯定して受け入れて自分の力としている――こう見えて、結構多くの犯罪者
を見て来たけれど、ここまで『純粋』な悪人は初めて見たわ。
其れこそ、気を抜いたら私達の方まで、ギースの『悪の波動』に呑み込まれてしまうかもしれない……



「……ちぃ!!」

「ロック?如何したの?」

「クソっ垂れ……血が騒ぐぜ――どんなに俺が否定しても、俺がアイツの血を引いてる事実は変わらねぇって事なのか?――アイツの波動
 に、血が騒ぐってのはそう言う事なんだろうな。
 だが、逆に好都合だぜ――この血が騒ぐ時ってのは、俺の力も増大される時だからな。
 ナンバーズごと、纏めて片付けてやる!!」



……ちょっと心配したけど、ロックは大丈夫みたいね――なら、行ける!
ギースはトンでもない相手かも知れないけど、力が増大したロックを、私がちゃんとサポートすれば、ギースにだって負けないと思うからね。
――一曲お願いできますか、ダンディなおじさま?



「レディからのお誘いを断る程無粋な性格はしていないつもりだが、どうせならば己の殻を破った相手と躍りたいものだ。
 先ずは、彼女達を倒してみるが良い――そして勝てたのならば、ミッドチルダで一番高いビルの最上階に来るが良い。
 私は其処で待たせて貰うとしよう。」


――バシュン!!


!!……転移魔法で……となると、先ずはナンバーズを倒さないとギースに辿り着く事すら出来ないって訳か――上等じゃないのよ!!
以前の私だったら諦めていたかもしれないけど、今の私には諦めるって言う選択肢はない――何よりも、ロックって言うパートナーが居るん
だから!!

私達も、廃ビルに転移させられたみたいだけど、ナンバーズを蹴散らして、ギースの元に行こうじゃない!――いざ、戦闘開始ね!!












リリカルなのは×THE KING OF FIGHTERS~紅蓮の炎~ Round36
『決戦のミッドチルダ~ロックとティアナ~』











Side:ロック


ギースの野郎、先ずはナンバーズとやらを俺達にぶつけて、テメェはラスボス気取りで高みの見物か?ったく良い御身分な事だが、一体何
時までその余裕が続くかな?
俺は、女を相手にするのは苦手だが、相手が明確な『敵』だってんならその限りじゃねぇ……テメェ等は、速攻でぶっ倒すぜナンバーズ!



「アタシ等を倒すっすか?……笑えねぇ冗談すね?
 こっちは、アタシに加えてセイン姉にオットーとディードの計4人――戦力はアンタ等の倍っす。其れで勝てると思ってんすか?」

「俺に言わせれば、お前等こそ、高が2倍程度の戦力で俺とティアナを止める事が出来ると思ってのか?――だとしたらお前達は、俺達の
 事を舐め過ぎだ。」

だから、手加減なしだ――覚悟して貰うぜ、ナンバーズ!!
ティアナ、お前がバックで、俺がトップで行く!お前の正確な援護を期待してるぜ?



「任せなさいロック……高が2倍程度の戦力差、覆してあげようじゃないの!!」


「威勢は良いみたいだけど、果たしてできるかなぁ?」



出来るかどうかじゃなくて、大事なのはやるかやらないかだってテリーが昔言ってたぜ?――まぁ、真理だよな。
やる前から『出来なさそうだからやらない』ってんじゃ、確率は本当に0%だが、とりあえずやってみれば、無理そうな事だって成し遂げられ
る可能性ってモンが有るんだからな。

そして教えてやる!スカリエッティの手駒でしかないお前等と、ミッドの命運を背負った俺達とでは、背負った物の重さが違うって言う事を!
精々後悔しな……認めたくねぇ事だが、ギース・ハワードの血を引く者に戦いを挑んじまったって言う事をな。








――――――








No Side


――推奨BGM:Bloody(By KOF'97Newface Team)


「せい!でやぁぁぁ!!」

「!!」


廃ビル内での戦いで、先手と取ったのはロックとティアナの方だった。
ティアナが無数の魔力弾を放つと同時に、ロックがオットーにレイジラン・typeシフトで肉薄し、其処から目にも留まらぬ速さでハードエッジを
繰り出して、オットーを吹き飛ばす。


「コイツ……思ったよりも素早いっすね――!!!」

「成程、ギースのオッサンが『強い』って言うだけあるわ……」

「ですが、此れしきでくたばるオットーではありません――数の利を活かして、攻めれば……」



「そうはさせないわよ!!」


其れを見た他のナンバーズ……ウェンディ達は、次なる一手の為に動こうとするが、其れを狙ったかのようにティアナのバインドが発動して
ナンバーズの動きを封じる。
ロックのハードエッジで吹き飛ばされたオットーも確り拘束している辺りはマッタク持って抜け目がないと言えるだろう。

ティアナのバインドは、可成り精度が高く、隠密性こそないが、堅さだけで言うのならばなのはのレストリクロックを僅かばかり上回るのだ。
故にその拘束力は凄まじく、リインフォース・アインス並みの力で無理矢理引き千切るか、ジャケットパージを利用しない限りは不可能だ。





普通ならば。





「……そう、簡単にはやらせてくれないか……」

「AMF……私の魔力結合は維持されているから、限定的に発動する簡易版て言う所かしら其れは?」


突如ティアナのバインドが霧散し、ウェンディ達の拘束が解除される。
無論ティアナが解いた等と言う事は無く、その原因は彼女達が持っていた簡易型のAMFとも言うべき物が原因だったらしい。スカリエッティ
一味も、中々に準備が良いようだ。


「『簡易AMF:Type-B』……バインドなんかの拘束術式に対して発動するAMFだよ。
 此れさえあれば、ドレだけ高レベルの魔導師のバインドすら無力と化すって訳。――今のバインドはヤバかったから、此れが無かったら
 確実にやられてたけどね。
 だけど、此れでこっちを拘束して数の利を潰すって言う戦術はもう取れないよ!!」


同時に、バインドが通じないと言うのは、ロックとティアナにとっては少々有り難くない事態だ。
数の上で劣るとなれば、その数の利を潰すのが定石であり、その為の最も有効な手段の1つがバインドによる拘束なのだ。圧倒的な数の
差があっても、敵の動きが全て止まってしまえば脅威たり得ないのだから。(尤も世の中には、100倍の戦力差?何それ美味しいの?と言
わんばかりに、数の暴力を、バカ魔力に物を言わせた直射砲の暴力で消し飛ばす奴もいるが……)

だが、その有効手段が使えないとなると、数の差は少々響いて来る。
何よりも厄介なのは、壁抜けの能力を持っているセインの拘束が出来なくなってしまったと言う事だろう――壁や床の中を自在に移動出来
るセインは、一体何処から攻撃してくるか分からないのだから。

其れでも、ティアナとロックの顔に焦りは見えない。
ロックは格闘家として、不利な状況で何度も戦って来た経験があるので、相手の方が有利な状況でも焦る事はない(ホームディシジョンが
酷い場所でも、文句のつけようのないKO勝ちをした事もある。)し、ティアナは、指揮官として状況を見極め、次の一手を考えているからだ。


「(壁抜けの能力は確かに厄介だけど、私達を攻撃する際には必ず外に出て来なければならない――私に同じ能力があったと仮定した場
  合、私だったら間違いなく気付かれにくい背後からの攻撃を選択するわ。
  敵からの攻撃は、床や壁に潜る事で回避し、その上で壁や床を動き回って相手の背後から攻撃……と言うのが、主な戦術の筈。)」


即座にセインが採るであろう最も確率の高い戦い方を予測し、その対策を考える。
此れだけの事を考えながらも、ナンバーズと再度交戦を開始したロックの援護はキッチリと行っていると言うのだから、ティアナは『前線で戦
える指揮官』であると言えるかもしれない。

序に、援護を行いながらも、自分が直接狙われた時の為に、幻術で自分の分身も作り出しているのだから実に大したモノである。



その一方で、ロックは戦闘機人達の戦闘力を分析していた。
戦闘能力だけで言うのならば、六課の魔導師と比べても充分に戦えるレベルであり、AMFの恩赦を受ければ場合によっては有利に戦える
だろうと考えたと同時に、高いのは戦闘能力だけだとも判断していた。
オットーとディードの波状攻撃に加えて、ピョンピョン飛び回りながらライディングボードを使って攻撃してくるウェンディ、壁や床の中を移動し
ながら死角からの攻撃をしてくるセイン――何れも非常に強力なのだが、其れだけだ。
ロックにしてみれば、非常に良く出来ているし厄介な攻撃だが、何れの攻撃もとても読み易いモノだった。

オットーとディードのコンビネーションは見事だったが、夫々の役割が完璧に分かれ過ぎているせいで、攻撃が読みやすいし、ウェンディと
セインの攻撃も、死角を狙っての攻撃と言う意図が見え見えなので、避けるのに難はない。



そう、この場に現れた戦闘機人達は、圧倒的に実戦経験が不足していたのだ。
無論、戦闘機人同士の模擬戦はやっていたのだろうが、模擬戦と実戦は全く違う物であり、如何に強い力を持っている戦闘機人であろうと
も、経験が少なければ百戦錬磨のロックや、なのはから『地獄すら生温い』と思われる訓練を受けて来たティアナの相手ではない。


「此れは……予想以上に強い……?」

「僕達が圧倒できないとは……でも――」

「アタシ等は負けらんねぇんすよ~~!」

「ギアを上げるよ~~~!!」


だが、相手もスカリエッティの生み出した戦闘機人だ。
状況があまり宜しくないと見るや否や、此れまでの攻撃方法からガラリとフォーメーションを変え、屋内である事を最大限に利用した攻撃方
法へとシフトする。

セインのディープダイバーによる攻撃はあまり変化が無いが、オットーとディードとウェンディの攻撃には変化があった。
閉ざされた空間を利用し、壁や天井をも足場と捉え、それらを利用した多角的な攻撃を仕掛けて来たのだ――単純なコンビネーション攻撃
ならば対処は簡単だったが、空間を利用した多角的攻撃と言うのは非常に厄介極まりない物だ。


「ち……!!」

「く……!!」


実際に、ロックもティアナもクリーンヒットこそ免れているが、細かい被弾を受けてしまっているのだ。
夫々のダメージは大した事ないが、塵も積もれば山となると言うように、細かいダメージでも蓄積すれば何れ戦闘不能に陥ってしまうのは、
火を見るよりも明らかだ。

……驚くべきは、この状況でクリーンヒットを許さないロックとティアナなのだが。


「(場所が悪い――閉ざされた空間に於いて、此れだけの事が出来るのは厄介極まりないわ。――何か手は……って、閉ざされた空間?
  そうだ、彼女達の多角的攻撃は、壁や天井がある事が前提――なら、其れがなくなったら?)
 ロック――『全てを吹き飛ばして』!!」

「全てを?……そう言う事か!!任せときなティアナ!!」


ティアナが何かに気付き、ロックに指示を飛ばす。
ロックもロックで、ティアナが何を言わんとしてるのかを理解し――



レイジング……ストォォォォォォォォォォォム!!!!



レイジングストームを発動!
有効射程内に戦闘機人はいないので無駄打ちとも思えるだろうが、ロックの狙いは戦闘機人の撃破ではなく、この廃ビルの破壊だ。
戦闘機人達の多角的攻撃は、壁や天井のある閉ざされた空間があればこその物であるのならば、そのフィールドを消し去れば良いと考え
えたティアナは、最低限の言葉でロックに其れを伝え、ロックも其れに応えたのだ。

ロックのレイジングストームは、瞬く間にビルを瓦礫へと変え、ナンバーズの多角的攻撃を封じる。
此れだけでも大したものだが、このビル破壊は思わぬ結果を残してくれた。



「やば……今の攻撃で簡易AMFが壊れた――!!!」



ビルをも倒壊させるロックのレイジングストームは、その余波で戦闘機人達の簡易AMFをも破壊していたのだ――其れはつまり、一度は失
われたアドバンテージを取り戻した事でもある。
簡易AMFが機能しなくなったのならば、再びバインドが有効になったのだから。

だからもう、ロックとティアナのコンビに負けは無い。


「く……このぉ!!」

「丸見えなんだよ!!」


ディープダイバーの能力で背後から現れたセインに対して、ロックはカウンターの真空投げで投げ飛ばし、更に羅刹をブチかまして弩派手に
吹き飛ばす!
序に羅刹の余波で、ウェンディとオットーとディードも怯ませる。


「其処よ!チェーンバインド!!」


そして、その隙を逃さずに、ティアナが魔力の鎖――チェーンバインドで戦闘機人達を拘束!絶対に逃げられない様に、3重掛けのバインド
で完全拘束!

こうなっては、ナンバーズに成す術はない。
簡易AMFの力で脱出できたバインドではあるが、その簡易AMFが機能しないのではこの拘束から逃れるのは難しい。と言うか、先ず絶対
に不可能だ。

故に、ウェンディ達の表情は恐怖に歪む――自分達は、此処で負けるのだと言う事を悟ってしまったから。
そして同時に、自分達がギンガにドレだけの事をしてしまったのかを理解する――如何足掻いても勝つ事が出来ない相手を、目の前にして
しまった絶望をその身で感じてしまったのだから。


「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



しかし、後悔してももう遅い。
ロックもティアナも、既に最強の一撃を放つ準備が出来ていたのだから。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉ………此れで終いだ!虚空烈風拳!!!

「此れで終わり――ファントムブレイザー!!



――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



ロックの放った無数の烈風拳と、ティアナのバスター級の直射砲を真面に受けたウェンディ達は、確認するまでもなく戦闘不能!――命に
別状はないが、全員が気を失ってしまった以上、これ以上の戦闘は不可能だ。


「あばよ……」

「少し、私達を舐め過ぎたわね?……それがこの結果。この勝負、私達の勝ちよ。」


ロック&ティアナvsナンバーズの戦いは、多少の苦戦はしながらも、ロックとティアナが圧倒的な勝利を収める結果となったのだった。








――――――








Side:ロック


ふぅ……少々厄介な相手だったが、ネタが分かれば倒すのに難は無かったぜ――まぁ、此れもティアナの指揮官としての目が有ったからこ
そなんだけどな。

スカリエッティの部下を4人も確保できたってのはデカいが、其れだけじゃこの事態は終わらねぇ――スカリエッティの野郎をぶっ倒さないと
この事態は終わりを迎えねぇだろうからな。

なら、スカリエッティの野郎をぶっ倒す為にも、不安要素は取り除いておかないとだ。
その為にも、ギースを討つ――あいつを葬らない限り、俺は何処に行ってもギース・ハワードの息子って言う色眼鏡で見られちまうからな。
其れそ払拭する為に、アイツは倒さないとならねぇ!!

「ティアナ、ギースの居場所は分かったか?」

「バッチリよ――ミッドチルダで一番高いビル……ミッドチルダ貿易センタービルの最上階に居るみたい……正に高みの見物って言うところ
 よね此れは。」



高みの見物とは恐れ入るぜギース。
だが、そんな余裕をかましてられるのも今だけだ――俺とティアナがテメェの本拠地に乗り込んで纏えて蹂躙してやるから覚悟しときな!

塵は塵に、灰は灰に――死者は蘇っちゃいけねぇんだ!――だから、俺が貴様を再び地獄に送り返してる!!
精々覚悟してな……ギース・ハワード!!!












 To Be Continued…