Side:京


ヴィヴィオを保護して六課に戻って来た訳なんだが……此れは如何やら危惧した事態が勃発しちまったみてぇだな?



庵さん、なのはちゃん、何か申し開きはあるかなぁ?

「「……ありません。」」(汗)



物の見事に更地になっちまった演習場に、どす黒いオーラを纏ったはやての前で正座させられてる八神となのは……予想はしてたが、マジ
で、八神となのはの模擬戦はトンでもないレベルだったみたいだな?

一体どんな戦いだったんだよスバル?



「京兄……えっとね、なのはさんが距離を詰めさせないようにアクセルシューターの弾幕で庵さんを攻撃してたんだけど、庵さんも其れを八酒
 杯で消し飛ばして互角の戦いだったんだ。
 でも、なのはさんが庵さんをバインドで拘束したとたん、庵さんが暴走して……」

「そんでなのはと暴走八神が戦った結果、演習場が更地になっちまったと……此れは、部隊長様直々の説教も仕方ねぇってモンだぜ。」

この件に関して、はやてが始末書上げる事になるのは間違いねぇからな。

そんな所で悪いんだが、聖王病院に搬送されたこの子――ヴィヴィオは、機動六課で預かる事になったから、その為の書類も準備しといて
くれよ、総司令様。











リリカルなのは×THE KING OF FIGHTERS~紅蓮の炎~ Round25
『The evening Sun&Moon』











「はぁ?ちょお待ちや!
 私は其の子の見舞いに行けとは言ったけど、保護して連れてこいとは言うてへんよ?何で連れてきてもうたんや?」

「見舞いに行った際に、此の子がシスター・シャッハに追われているのを見まして、あのままではよくないと思い、主はやてが六課で保護す
 ると言っていたと言ってしまいました……ヴィヴィオを保護する為とは言え、少し軽率な行動であったかもしれません。」



まぁ、ヴィヴィオが此処に居るのはそう言う事だ。
加えて、ヴィヴィオはシグナムを『ママ』認識してるから、今更『受け入れられない』って送り返す事も出来ねぇだろ?何よりも、こんだけシグ
ナムに懐いてんだ。引き剥がす方が酷じゃねぇか?



「……其れは、確かにそうやな。
 寧ろ、私の名を出したんは英断やでシグナム。自慢やないけど、私の名は異例のスピード出世のお陰で局内に知れ渡っとるから、私の名
 を出せば、大抵の事が何とかなるからな。」



雷名ってやつかい?なんとも便利なもんだ。
同じ、『八神』でも、随分とお前とは差があるモンだなぁ八神?



「……貴様、喧嘩を売っているのか?」

「誰が勝つ喧嘩を売るかよ。事実を言ったまでだ。
 片や国の統治機構の一部隊の総司令で二佐の地位にいるのに対して、片や無職のバンドマンだろ?社会的地位はどっちが上かなんて
 考えるまでもねぇだろ。」

「高校5年生が偉そうな事を言うな。
 いい加減卒業せんか、此の恥知らず。」



こっちに来た時点で俺はダブリじゃねぇし。
つーか、こっちで暮らして行くのに当たって学歴不詳ってのは拙いから、親父に頼んで俺とテリーとロックとレオナは通信制で『大学卒業』の
最終学歴取らせて貰える事になってるからな。
大体お前だって、最終学歴高卒じゃねぇか?……否、お前の事考えると、よく高卒まで行ったって感じがしなくもねぇが……



「あ~~~……確かに庵さんの性格考えると、気に入らない先生に八稚女かましそう。」

「教師暴行で退学になってもおかしくない訳か……意外と忍耐力あんだなコイツ。」

「ただ、周囲に興味がなかっただけではないの?」



うん、八神の事を的確に理解してんなスバルよ。
そして、その答えで正解だレオナ。コイツは興味のない相手にまで歯牙にかけるような奴じゃないからな――って、ヴィヴィオ、八神に近付
くなよ!そいつは超危険人物だ!!



「……なんだ小娘?」

「……変な頭。」



ってオイ、行き成りだな!?
まさか八神に初対面でこんな事を言うとは、ガキながらにヴィヴィオはトンデモナイ度胸の持ち主なのか?……否、ガキだからある意味で怖
い物知らずなのか。



「此のままでは終わらんぞーーーー!!」

「其れでKOされんのか八神ぃ!!!」

まぁ、趣味の悪い赤毛でもアイツは拘りが有ったみたいだから、其れを面と向かって『変』て言われたらダメージデカいのかも知れねぇがな。
弱点を的確に攻めるヴィヴィオは恐るべしだな。

時にシグナム、ヴィヴィオを六課で預かるのは良いが、何時までも六課保護って訳にも行かねぇだろ?その辺は如何するんだ?



「六課で保護する申請が通ったら、此の子の保護責任者申請をした上で養子に向かえるのがベターではないかと思っている。
 お前のお陰で、ヴィヴィオはすっかり私の事を母親と認識しているのでな……」

「まぁ、懐いてるから良いじゃねぇか?ガキに懐かれるってのは、そいつの人柄が良いからだぜ?子供は、純粋に人を見るからな。」

「ならば、喜ぶべき事としておこう。」



そうしといてくれ。……って、如何したスバル?



「んと、シグナムさんが此の子のママならパパは誰になるのかなって思って。シングルマザーよりも、両親が揃ってる方が良いと思うんだ。」

「そいつはスバルの意見に同感だが……此処はもう、兄貴がパパで良いんじゃねぇ?」

「そうね、兄さんとシグナムさんはお似合いだし、いっそ夫婦でも良いかも♪」



……な~~に、勝手な事言ってやがんだお前等は?
シグナムに母親役を押し付けちまったから、俺が父親役をやれってのは兎も角として、シグナムとはまだ夫婦じゃねぇよ。見りゃ分かんだろ。



「ほ~~?『まだ』って言う事は何時かはって事やなぁ?
 なんや、私のあずかり知らんところで進展しとったん京さんとシグナムは?ちょお、其れを聞かせて貰いたいもんやなぁ?」

「主はやて!?」

「進展……したって言うのかアレ?
 シグナムが実はこの世界におけるクシナダの転生体で、草薙とクシナダは結構深い関係がある。で、まぁ何だかんだで気も合うから、いっ
 その事付き合って見るかって言っただけだ。
 ……そういや、返事貰ってねぇな?」

「軽!アッサリしとるなぁ?
 男女間のお付き合いって、もっとこう燃え上がるモンとちゃうん?そんなドライにはいそうですかで決めてえぇモンとちゃうんやない!?」



んなモンは幻想だとは言わねぇが、燃え上がると冷めるのも早いぜ?
気が合う、仲が良い+αの方が、案外巧く行くってモンだと思うぜ、俺の経験から言わせて貰うとな。大体なぁ、『惚れる』と『惚ける』は同じ
字なんだ。相手に惚れてる間は惚けてんのさ。



「経験てどういう事やねん?」

「元の世界での彼女との付き合いの始まりも気が合うからで始まったもんだからな。ユキの事は、向こうの俺に任せるけどな。」

「何や納得いかん部分もあるけど、付き合わないか言われて答えを保留にしとくんは良くないなぁ?
 シグナム、ちゃんと返事せなアカンよ?良い機会やから、此処でお答えしとき。と言うかしなさい、司令命令&主命令♪」

「其れは職権乱用ですよ、主はやて!!」



本気でな。
はやては冗談の心算なんだろうが、シグナムみたいなタイプにこの手の冗談は性質が悪いよなぁ……返事貰ってねぇって言っちまった俺も
俺だけど。



「うぅむ……そうだな、堅く考える事もないか?
 此れまで何度も飲みに行ってる仲ではあるし、付き合うとなったとて何が大きく変わる訳でもないだろうからな……私で良ければ付き合わ
 せてくれ、京。」

「なら、改めてこれからもよろしくな。」

「喜んでヴィヴィオ、シグナムが貴女のママで、京がパパになってくれるそうよ。」

「パパも居るの?わ~い♪」



と言う訳でシグナムと付き合う事になった訳だ。
しかも、レオナがヴィヴィオに要点だけを簡潔に説明してくれた事で、ヴィヴィオも喜んでるみたいだからな?……今度、クイントさんに育児
の事とか聞かねぇとな。
にしても父親役か。向こうの親父を基準に考えたら色々ダメそうだ――そう言えば、ハイデルンは父親としてどんな感じだったんだレオナ?



「私には、ルガールに殺された教官の娘の面影が有ったって教官が言っていた。
 其れが影響してるかどうかは知らないけれど、仕事がない時には良く海に連れて行ってもらった記憶がある。私が軍人を目指す前は、と
 ても優しかった気がする。
 軍人を目指すようになってからは、徹底的に暗殺術を仕込まれたけれど。」

「……亡き娘の面影を見出した養女に、叩き込むか普通、暗殺術を?」

「いや、普通は叩き込まないと思うぜ?」

「レオナちゃんのお義父さんは、色々ぶっ飛んだ人なんやなぁ……でも、逆にフェイトちゃんを下した実力に納得してまう感じやね。」

「そう……」



……取り敢えず、ハイデルンも父親としては手本になりそうにねぇな。
こっちの親父なら手本になりそうだが、アレは親父のキャラであって俺じゃねぇからな……まぁ、俺は俺なりにやってみれば良いか。

んでだ、ヴィヴィオの事で話の腰折っちまったが、なのはと八神への処分は如何すんだ?
流石に演習場を更地にしちまったってのは、始末書だけじゃ済まねぇんじゃねぇか?演習場を壊したどころか、完全に消し去っちまった訳な
んだからな?



「京、余計な事を言うな!このまま、有耶無耶になって済む所だったものを!」

「そうだよ京さん、余計な事しないでなの!!」

「いや、こんだけやっといてお咎めなしとかあり得ねぇだろ普通に。」

「やってしまった事に対しては、責任を取るべき――組織に属する人間なら尚更。」

「軍人のアンタが言うと説得力あるなレオナ?」

「ロックの言う通り説得力ありまくりね。」



レオナとロックとティアナも同意してるし、口にしない面々も『お咎めなしはないだろう』って顔してるし、スバルとギンガに至っては『此れは酌
量の余地なし』って感じの苦笑いだし、ノーヴェは『やっちゃって下さい』って感じで呆れてるからな。
総司令様、判決は?



「なのはちゃんも庵さんも、始末書50枚!なのはちゃんは3カ月間、30%の減俸!庵さんは、3カ月間、嘱託報酬30%カット!
 そんでもって、2人共1カ月間模擬戦禁止&火急の事態を除いて出動禁止!あと、1カ月間食堂で皿洗いな?異議は認めへんで!!」

「ちょ、30%は酷いよはやてちゃん!」

「此のままでは終わらんぞーーーー!!」

「アホ抜かすなぁ!此れでも温情判決やで!?
 なのはちゃんで言うなら、減俸は当然として普通やったら降格にボーナスなし、一歩間違ったら懲戒免職モンやからな今回の事態は!!
 此れで済んだ事に感謝せんかい!!」



結構きついけど、此れでも温情判決だったのか……まぁ、このグラウンドゼロの跡地を見れば納得だけどな。
取り敢えず御愁傷様だな八神。報酬カット分は、精々バンド活動で補いな。ライブやるってんなら、サクラくらいにはなってやるからよ。



「必要ない。貴様のサクラなどなくとも、俺のライブは常に満席だったのでな――少なくとも、向こうの世界では。」



そうかい。ま、ミュージシャンとしての八神の名は、インディーズの世界では知れ渡ってたからな――八神があの性格だから、メジャーデビュ
ーの話は蹴りまくってたらしいけど。



「…………」(うつらうつら…)

「って、如何したヴィヴィオ?」

「……眠い。」

「眠い?……まぁ、聖王病院での事から色々あったから、子供の身体には堪えたのだろうな?
 仮眠室――は、今は解放されてない時間帯だから、こっちに来いヴィヴィオ。ソファでは些か不満もあろうが、私の膝で良ければ枕にする
 と良い。」



睡魔が襲って来たって事か。
でもって、其処で膝枕をしてやるとは、お前意外と母親に向いてんじゃねぇかシグナム?結構様になってると思うぜ。



「此れまでの人生、子供の面倒を見る機会がなかったわけではなかったからな――ある程度の事は出来る。
 戦いが本分の騎士であるが故に、少々武骨な対応になってしまうがな。」

「でも、出来るだけたいしたモンだと思うぜ俺は。――どうせなら、子守歌でも歌ってやるか?」

「其れも良いが、子守歌など知らないぞ私は?」



穏やかなメロディの歌なら何でもいんだよ。
其れに、俺の趣味は詩を書く事だぜ?即興で歌位は思いつくモンだ。そんじゃあ、ヴィヴィオが良い眠りに付けるように一曲捧げるぜ。



俺を、駆り立てる激しさは、君の微笑みに癒された
照れくさくて言えないけど、君の事を、守って居たい……



「どんな夢を見て眠るのか?せめて、その夢を守りたい。
 壊れそうで触れる事も出来ずいるよ。月が、夜の街照らす。」


ってシグナム?
俺の即興の詩とメロディに合わせて続きを歌ってくるとは、案外センスあるな。


「眠れずに震えながら、一人闇に迷う時、そう、思えば良い――夜空に揺れてる月を。」

「空を染めていく茜色。なぜか優しさを感じてる。
 誰もが皆、大事な人胸に灯す。まるで、夕陽のように。
 夜が来て、深い闇が、街や人を包んでも。
 そう、消せやしない。心の温盛だけは。」

「眠れずに(夜が来て)、震えながら(深い闇が)、一人闇に迷う時。
 そう(そう)、思えば良い(消せやしない)。夜空に揺れてる月を。」

「夜が来て(眠れずに)、深い闇が(震えながら)、街や人を包んでも。」

「「そう、消せやしない(思えば良い。)心の温盛だけは。(夜空に揺れてる月を。)」」

「………」(すやすや)



如何やら寝たみたいだな――って、如何したはやて?



「シグナム、京さん……今の歌でCDデビューせぇへん!?
 即興とは思えへん良い歌やったで!此れに楽器演奏での曲を付けたら、ミリオンセラー間違いなしや!!美男美女の炎使いユニット!此
 れは行けるで!!」

「いや、しねぇからな?」

「しませんからね、主はやて。」

「なんでやねぇぇん!!」



普通に考えてしねぇだろ。それに、今のはヴィヴィオの為の一曲だ、不特定多数に聞かせるモンじゃねぇからな。
にしても、ガキの寝顔は可愛いって言うが、マジでそうだな?シグナムの膝に頭を乗せて眠ってるヴィヴィオの寝顔は、正に『天使の寝顔』
って言うもんだぜ――コイツは、絶対に守ってやらないとな。

ヴィヴィオが保護された状況を考えると、スカリエッティとか言うやつが、ヴィヴィオを狙ってる可能性もゼロじゃねぇからな。
ヴィヴィオに降りかかる火の粉は全部払ってやるぜ。――それが、此れからの俺の役目だろうからな。



「私を忘れるなよ京?降りかかる火の粉は私も払ってやる。」

「そう言えばそうだったな。」

ま、そん時は頼りにしてるぜシグナム?
戦う力を持ったクシナダと、草薙が力を合わせればどんな敵でも薙ぎ払えるだろうからな――守るべき存在が居るなら尚更だぜ。
ヴィヴィオは俺達が護る――草薙の炎に誓ってな。








――――――








Side:???


聖王の器は六課に保護されたか……此処まで事はスカリエッティの目論見通りだけど、同時に八神司令の思惑通りでもあるわね。
恐らく総司令は、あの子がスカリエッティと何か関係がある事は見抜いている筈だから、其れを考慮した上で六課で預かる事を了承した訳
だからね。

でも、それ以上に衝撃だったのは、シグナムがクシナダの転生体だったと言う事実ね。
確か、クシナダはオロチの触媒となる存在で、クシナダを介してオロチはその姿を顕現すると言う事だから――この事実はスカリエッティに
は伝えない方が良いわね。……ピンポイントで狙われないように『六課の関係者にクシナダの転生体』が居ると報告しておこうかしらね。

マッタク、六課とスカリエッティの二重スパイも楽じゃないわ。
スカリエッティからは情報を得ないといけない反面、六課の情報をストレートに流す訳にも行かなものね……



『わ……は……ロ…チ。』



でも、其れでも此奴だけは復活させてはいけないわ。
コイツが完全に復活したら、この世界は闇に包まれてしまうからね……此奴も、脳味噌共と共に葬ってやった方が良いかも知れないわ。

今はまだその時ではないけれど、その時が来たら、纏めて終わりにしてやるわ。――狂った科学者はミッドには必要ないのだからね。










 To Be Continued…