Side:シグナム
休日の突然の出撃だったと言う事もあり、また主はやても六課指令として事態を把握しなくてはならないと言う事で、報告や詳細は明日と言
う事になり、今日はそのまま自宅に帰り、風呂の後にベッドに直行したのだが……此れは、何だ?
いや、夢なのだろうが……
『いましばらく待っていろクシナダ……他の7人は間に合わなかったが、オロチを打ち倒し、せめてお前だけでも助け出して見せる。』
『草薙様……!』
『愚かな……我に逆らうのは、この星に逆らうと同義。
我はこの星の意思――其れに逆らうと言うのか草薙よ。』
『人が自然との調和を忘れ、人間の利だけを求めていると言うのは、確かに私も感じているし、お前が怒るのも無理はないだろう。
だからと言って、全ての人を滅ぼすと言うのは余りにも短絡的過ぎるぞオロチよ。
確かに人は欲深く、業の深い生き物かも知れないが、人には、他者を慈しみ愛する心もまた備わっている――そして、其れが失われない
限りは、人が決定的に道を間違えてしまう事は無いと私は思っているのだ。
であるにも拘らず、その可能性を排除し、人を滅ぼすと言うのならば、私は貴様を討つ!!力を貸してくれ八尺瓊!!』
『是非もない――我等の炎の前にひれ伏すが良い、オロチよ!!』
余りにも突飛すぎるな、この夢は。
オロチと呼ばれる銀髪の存在と対峙するのは、京と庵……そして、オロチと呼ばれた存在に生贄として捧げられている女性は、私なのか?
いや、よく似ているが違うのだろうな。
京と庵に似ている者は、髪の色が違う上に、長く伸びた後ろ髪を1本に縛っているし、私に似ている者は髪型こそ同じだが髪は艶やかな黒
髪だからな。
だが、此れが全く持って荒唐無稽な夢であるとは思えん。
何よりも、私の中には戦乱期のベルカで戦っていた記憶とは別に、遥かな昔に誰かに助けられた記憶が存在しているのだからな。……或い
は、私と京と庵は、時を越えた深いかかわりがあるのかも知れん。
私は、ベルカの騎士である以前に、もっと重要な役割を持った人間だったのかもしれないな……
リリカルなのは×THE KING OF FIGHTERS~紅蓮の炎~ Round23
『KD-0084~運命の少女~』
Side:京
休日潰しの出動の翌日。
まぁ、大体予想はしてたが、六課全員がブリーフィングルームに勢揃いだな?――謎の少女の保護に始まり、行き成りの襲撃に加えて、ル
ガールが現れた上に、テリーの話だと、ギースの野郎まで現れたらしいから、こうして集まるのは当然だけどよ。
そんで、何か重要な事は分かったかい総司令様?
「可成りな。
ガジェットから大体の当たりは付けとったんやけど、今回の事で、敵さんの詳細を掴む事が出来たわ。
私達機動六課の敵は、次元世界全域に指名手配されとる稀代の重犯罪人にして科学者の『ジェイル・スカリエッティ』や――奇しくも、フェイ
トちゃんが追ってた相手が、今回の黒幕って訳や。」
「ジェイル・スカリエッティ?何モンだそいつは?」
「稀代の重犯罪人にして科学者って言う時点で、嫌な予感しかしないけどな。」
まぁ、其れは其の通りだけどなロック。
だが、重犯罪人で科学者って事は、そいつは間違いなくマッドサイエンティストの類だよな?――てか、そう考えないと、ルガールとギース
が復活した理由がなくなっちまうぜ。
マッドサイエンティストなら、死んだ命の再生くらいは考えそうだからな。
てか、前にティアナに取りついたオロチ擬きも、若しかしてそいつが作ったんじゃねぇのか?可能性としては、大いにあると思うぜ俺は。
「まぁ、可能性は0やない――と言うか、その可能性は『サイコロを10回ふって、偶数の目が1回以上出る確率』ってなモンやろな。」
「つまり、限りなく100%に近いって事か。」
ったく、何てモンを作ってくれやがったのか。
まぁ、ティアナを取り込もうとしたあたり、未だオロチのクローン体は完成してなくて、人の心の隙につけ込む力だけが出来上がってたのかも
知れねぇが。
だが、ガジェットは兎も角、俺のクローンにギースにルガールにオロチ……早急に手を打った方が良いんじゃないのか此れ?
敵の本拠地でも割り出して、六課全員でカチコミかけた方が良いんじゃねぇかオイ。
「其れがそう簡単には行かへんのよ?
奴さんの本拠地は此れまで何度も調べてみたし、ミッドチルダ全域はおろか、管理世界や管理外世界の事まで調べたけど収穫はゼロや。
その道のプロに本拠地に潜入してデータを持ってきてもろても、本拠地のデータだけは、ファイルを開いた瞬間にデータがクラッシュして割り
出す事が出来なかったんよ。」
「逆に言うのならば、そこまでして己の本拠地を知られたくない理由がある……?
テロリストの類は、拠点を頻繁に移すから、今の拠点を知られても致命傷にはならない筈だけれど、其処までして拠点を知られたくないの
は、彼にとって其処が重要な場所だから。」
「流石は現役の軍人さんや、冴えとるなレオナちゃん。
私もレオナちゃんと同じように考えとるんや――京さんのクローンや、ガジェットを作るとなったら、其れなりに大きな施設が必要になって来
るから、拠点は移動しようがない。
やから、何が何でもこっちに拠点のデータを渡す事は出来へんのやってね。」
成程な。
でもよぉ、其れなら其れで潜入させた奴にダイナマイトでも持たせて、スカリエッティとやらのアジトを爆破しちまえばよくないか?
管理局的に爆弾は御法度なのかも知れないが、其処は『魔力爆弾』とか言っちまえば誤魔化せるだろ?って言うか、そう言う裏工作は得意
って事だしなはやては。
「……否定はせんけど、其れをやったらやったで面倒な事になるんや。
なんぼ重犯罪人言うても、アジトを直接攻撃して奴さんを死なせてもうたら、私が色々と叩かれるんよ――如何なる犯罪者でも、逮捕して
から司法の裁きを受けさせるっちゅうのが管理局の方針やさかいな。
マッタクもって、ホンマに管理局の法は変な所で甘いっちゅーか……私やったら、裁判の余地もないような極悪人には司法の裁きを下さず
に天誅喰らわしても良いと思うんやけどね。」
「極端だが、其れも手だと思うぜはやて。
特に財力のある極悪人てのは、司法の場の人間を買収して自分が裁かれないようにする事もあるからな…ギースもそうだったからな。」
「アイツ、そんな事までしてたのかよ……マジでアイツは俺の親父じゃねぇ……」
……ギースの死後、サウスタウンの治安が一時的に悪くなったのは、其れが原因だったのか。
まぁ、はやての考えも間違いじゃないと思うぜ?この世には、如何足掻いたって更生が望めない極悪人てのは存在するモンだから、そいつ
等を消す為には、少し強引な手段も必要なのかもな。
尤も、其れを言ったら真っ先になのはを取り締まってリンカーコアを機能不全にした上で投獄しとけって事になるんだけどな。
「はっはっは、其れは無理やで京さん。
こう言っちゃなんやけど、なのはちゃんは10年前にシャマルにリンカーコアぶち抜かれながらも、ブレイカーで結界破壊した猛者やで?
そんな人外を如何にか出来る訳ないやん。」
「……俺が言うのもなんだが、奴は人間ではない――奴がオロチ四天王だと言われても俺は信じるぞ京。」
……此れから先、どんな事態が起きてもなのはが居れば最終的には何となるような気がして来たぜ。
そう言えばよ、休日返上の切っ掛けになった女の子はどうなったんだ?――あの時はヘリで聖王病院に輸送するって言ってたが……
「其れについては問題なしや。
件の女の子は無事に入院して、順調に回復してるそうやで?――擦り傷なんかの外傷は多かったけど、命に係わる様な怪我はなかった
し、栄養不良の状態も点滴で改善されてるそうや。」
「其れを聞いて安心したぜ――保護したガキが死んじまったってのは、良い気分じゃねぇからな。」
「そやね。
それでや、京さんとシグナムにお願いがあるんやけど、ちょお聖王病院まで行って、其の子の様子を見て来てもらえへんかな?」
「……は?」
「主はやて?」
要はその子の見舞いに行けって事か?
別に構わねぇけど、なんで俺とシグナムなんだよ?――子供の扱いならテリーの方が巧いし、フェイトだって子供の面倒を見るのは慣れてる
んだろ?
俺達以外にも適任者が居るんじゃねぇか?
「まぁ、そうなんやけど、フェイトちゃんにはスカリエッティの彼是でやって貰わなアカン事があるし……なのはちゃんは………」
「せっかくの休日を潰してくれた代償は払って貰うの……テロリスト共、今度会ったら1匹残らず塵殺してやるの……」
「あの様子やから、子供のお見舞いは無理やろ。」
「「………」」(汗)
無理だな。てかさせちゃいけねぇパターンだアレ――下手したら、子供の心に一生消えないトラウマ刻み込みかねぇからな。
OK、そう言う事ならやらせて貰うよ。シグナムも、それで良いだろ?
「異論はない。
あの状態の高町を行かせたら、何かが引き金となって聖王教会を吹き飛ばしかねんからな……主はやて、高町の事を頼みますよ?」
「あはは……始末書確定の模擬戦でもやらせんとアレは治まらんやろうなぁ……何やろう、今更ながらなのはちゃんを六課に誘った事を後
悔しそうや――魔導師としては優秀であるから余計にな~~。」
心中察するぜはやて。
しかしまぁアレだな、ルガールは兎も角、ギースが復活したとなると、テリーもロックも大分複雑だろうが……大丈夫か?特にロック。
「大丈夫だ京。寧ろ願ったりだぜ。
アイツは、ギースの事は一度この手でブッ飛ばしてやりたかった。そう思ってたからな。――母さんの苦しみの半分でも、アイツに味わわせ
てやるさ。」
「壮大な親子喧嘩の果てに深まる絆……は、期待できねぇなコイツは。」
此処まで自分のガキに恨まれる親ってのも早々居ないと思うぜ。
まぁ良いか、ロックの事は家族の問題だから、外野が彼是言うもんでもねぇ。最終的に如何するかは、ロックが決める事だからな。
さて、そんじゃまぁ、見舞いとやらに行くとするか。
「八神司令、アタシも兄貴についてっちゃダメですか?」
「ノーヴェ?」
「別にかめへんけど、何で?」
「だって、昨日の兄貴とシグナムさんとのお出掛け潰されちゃったから。」
「あ~~~……成程。
確かに其れなら昨日の面子が揃う訳やから、えぇで、ノーヴェも行ってきや。」
「ありがとうございます!」
んで、出発前にノーヴェがメンバーに追加か。ま、確かに昨日の面子が此れで揃うからな――だが八神、テメーは駄目だ、子供が怖がる。
「なにぃ?俺だって子供を和ませる笑顔くらい浮かべる事は出来るぞ!このように!」(ニヤリ)
「「「怖いわ!!」」」
「……まるでホラー映画ね。」
レオナの言うように、テメーの笑顔はマジホラーだぜ八神!
そんな不気味な笑顔見たら子供は間違いなく泣くから、テメーはなのはの鬱憤晴らしの模擬戦の相手でも務めてやがれ!!
「貴様、俺に死ねと言っているのだな?」
「非殺傷設定だから死なねぇだろ?――おーい、なのは!八神が模擬戦の相手してくれるってよ!!」
「なっ!京、貴様ぁ!!!」
「庵さんが……其れは楽しみだなぁ。
さぁ庵さん、たっぷりと確りと、全力全壊の模擬戦を楽しみましょう……手加減なしで行きますから覚悟して下さいね?」
「……仕方あるまい、相手になってやろう。負けっぱなしと言うのも性に合わんのでな。
だが京、貴様見舞いから帰ってきたら覚えていろよ?殺すなと言われているから其れは守るが、9割殺しにしてくれる。」
やれるもんならやってみな。俺が戻ってきたときに、お前が其れを出来る状態にあるとは思えねぇけどな。
ま、精々ブレイカーとやらを喰らわない様に頑張れよ、八神。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「「夢?」」
「あぁ、とても奇妙な夢だった。
私と京と庵に似た人物と、銀髪で『オロチ』と呼ばれていた存在が出てくる夢で、『クシナダ』と呼ばれた私に似た人物がオロチの生贄に捧
げられ、草薙と八尺瓊と言う者が、オロチに戦いを挑むと言う物だった。」
見舞いに行く道がてらの雑談で、シグナムが『妙な夢を見た』って言うから、その内容を聞いてみたら、コイツは何ともトンでもねぇなオイ?
草薙と八尺瓊にオロチ、そしてクシナダって、1800年前のオロチとの戦いの場面じゃねぇか其れ。
「……若しかしたら、其れは前世の記憶、或は過去の自分の記憶なのかも知れねぇな。
俺も、神楽の所で過去の自分と同調した事があったからな……俺がこの世界に来た事で、この世界の誰かが『クシナダ』になったのかもと
は思ってたが、お前がそうなのかもなシグナム。」
「お前がこの世界に来た事で、私は『私ではない私の過去』を手に入れたと言う事か。――だが、悪い気分ではない。
後付けの物であるとは言え、私とお前は過去からの絆で結ばれていると言う事なのだろうからな?」
「そう言って、速攻で切り替えられるシグナムさんがすげぇ。
いや、母さんに連れられてナカジマ家の一員になって短期間で馴染んじまったアタシが言う事でもねぇと思うけど。」
いやぁ、其れはクイントさんだからだろ?俺だって『お兄ちゃん連れて来たわよ』の後で1週間もしないでスバルとギンガと馴染んだからな。
其れを考えると、シグナムの順応性はハンパないぜマジで。
しかし、この世界のクシナダの転生体がシグナムとはな……
「如何した京?私がクシナダでは問題が有るか?」
「いや、問題はねぇんだけど、元の世界でクシナダの転生体のユキは俺の彼女だったからさ。
だからって訳じゃねぇんだが……俺と付き合ってみるかシグナム?」
「な!?」
「兄貴とシグナムさん?……意外とお似合いかもな。――兄貴、アタシは応援するからな!!」
ありがとよノーヴェ。
でもって、伊達や酔狂でこんな事を言ってるんじゃないんだぜシグナム?
俺とアンタは何だかんだで気が合うし、共通の話題もあるから退屈はしねぇだろ?――俺とユキとの関係だって『偶々話してみたら気が合っ
た』程度の事から始まった訳だからな。
「……展開が急すぎて頭が追い付かん……少し時間をくれ。」
「ま、其れが普通だよな。」
寧ろ、俺とユキの関係がすんなり行き過ぎた感が否めねぇからな……其れもまた、草薙とクシナダの因縁があったからなのかもだけどな。
さて、そんな事を話してる間に目的地の聖王病院に到着だが――
「………」(キョロキョロ)
庭で入院着を着た子供が辺りをキョロキョロ見回してる?って言うか、あの子は昨日保護された子だよな?
たった1日で動き回れるようになるまで回復したのは驚きだが、何だってあんなに辺りを窺ってるんだ?――何かを探してるみたいだが……
「オイ、何か探してるのか?」
「……ママを、ママを探してるの……ママが何処にも居ないの。」
ママって、母親を探してるってか?
……保護された時の事を考えると、コイツの母親が真面な奴で、そして居るかどうかも分からねぇが、其れをストレートに伝えるのは酷って
モンだよな。
「ママが居ないのか?そいつは大変だ。
でも安心な、アタシ達も手伝ってやるから一緒にママを探そうぜ?――例え途中で怖い奴等が襲ってきても大丈夫だ。
アタシは結構強いし、一緒に居るお兄さんとお姉さんは、如何少なく見積もっても、アタシの5倍は強いからな♪」
「5倍は言い過ぎだが、少なくとも倍は強いだろうな。――俺達が、一緒に探してやるから安心しな。」
「此のまま捨て置く事は出来んからな。」
こういう時、ノーヴェの性格は有り難いぜ。
あっと言う間に、女の子の不安を取り除いてみせたからな――俺には到底出来そうにないモンだぜ。
まぁ、そう言う事だから安心しな。お前のママは俺達が必ず見つけてやるからよ。――もし見つからなかったその時は、六課の誰かがコイツ
の母親に成るって言う選択肢もあるからな。
そんじゃ、先ずは、一緒に病院内を回ってみるとするか。
「その子を、此方に渡してください。」
「あ?」
「何?」
「って言うか誰?」
で、動こうと思った途端に聞こえてきた声に思わず動きを止めちまったぜ。俺だけじゃなくシグナムとノーヴェもな。
んでもって、現れたのはトンファー型の武器を携えたショートカットの女……俺と同い年位だろうが、コイツは並の実力者じゃねぇな絶対に。
テメェが何者かは知らねぇが、コイツに手を出すってんなら敵とみなして排除させて貰うぜ?
俺の炎が、草薙の血が、コイツを守れって騒いでるんでね!!
To Be Continued… 
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