楯無とオータムが警備を行っているアリーナの上空に現れたのはISだったのだが、其の容姿はなんとも奇妙なモノだった。
一夏の蒼龍皇同様のフルスキンタイプなのはまだ良いとして、胴体部分にも『顔』と思わしき装甲が展開されており、巨大な顔の上にもう一つ顔が乗っかっているような珍妙な外見となっていたのだ。
「顔が二つあるってのと、胴体も顔なのかよってのと、そもそも見た目がダサすぎるってのに俺は何処から突っ込み入れりゃいいんだ?」
「じゃあチャチャっと倒しちゃいましょうか♪」
「うわ~お、無視された、句読点と記号を含めた俺の突っ込み六十文字。」
戦場に於いてはあまりにも軽すぎる会話をしながらもオータムと楯無は現れた襲撃者――ISがハイパーセンサーで捉えた機体を解析した結果『ジャイガンダー』との名称の機体四機を相手に怯む事はなかった。
「じゃあその不満を相手にぶつけて頂戴な♪」
「そうするわ。
ピッチャー大谷翔平、振りかぶって第一球を……投げたぁ!!」
そしてオータムは戦闘開始とばかりにキレッキレのフォームで更識謹製の『対ISハンドグレネード』をジャイガンダーの一体に投擲する――流石に其れを真面に喰らう相手ではなく、横に動く事で其れを避けようとしたのだが、オータムの投げたハンドグレネードは其れに追従するように軌道を変えて其のままジャイガンダーに直撃して大爆発を引き起こした。
「これはこれは、大谷翔平選手もビックリの超高速スライダーね?」
「あの大物がこれしきで驚いてくれるかねぇ?まぁ、素人ながらに中々と褒めてはくれるだろうとは思うけどよ……だが、開戦の合図としては上々だろ会長さんよ?」
「えぇ、充分過ぎるわ……全部ぶっ倒すわよオータム!」
「言われるまでもねぇ……全部スクラップにしてパイロットは廃人にしてやるよ!!」
クラス対抗戦の裏で人知れず始まった戦いは、最初からフルスロットル状態となるのだった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode8
『熱戦!激闘!~Complete combustion is the best~』
アリーナで行われているクラス対抗戦の第二試合である一夏vs鈴の試合はいよいよ佳境に入っていた。
互いに距離を詰めてからの近接戦闘は剣王登龍剣と双刀月牙の激しい剣戟が行われ、その時々に体術の応酬も混ぜ込まれ、一瞬たりとも目が離せない、正に『瞬き厳禁』な戦いが展開されているのだ。
「っかぁ~!やっぱお前との全力のドツキ合いは楽しいな鈴!
手加減なしの全力全壊!だが搦め手も上等の何でもあり、やっぱ俺とお前が遣り合う以上はこうならないと嘘だよなぁ?」
「そうよねぇ?
中学の時、体育の授業の柔道の時に、アタシとアンタの勝負は色々ぶっ飛んでて先生に注意されたのも今となっては良い思い出だわ!!」
「まぁ、柔道でキン肉バスターブチ任せば注意もされるわな。」
「柔道の範囲越えてっからねぇ~~。」
軽口を叩きながらも其の戦闘の激しさが曇る事はなく、剣が、拳が、蹴りが凄まじい勢いで交錯し、其れでありながらも互いに決定打となる一撃を与える事が出来ないエンドレスバウト!
このまま続けばタイムオーバーでの判定になるところだが、此処で先に動いたのは鈴だった。
「此れでも、喰らえぇぇぇ!!」
一夏の斬り込みにカウンター気味の前蹴りを放って強引に間合いを離すと、双天月牙を投擲して来たのだ――それも一刀は槍投げのように直線的に、もう一本はブーメランのように旋回させて一夏の左サイドを狙うように。
普通ならばどちらを先に処理するか迷う二択攻撃なのだが……
「あらよっと!!」
一夏は迷う事無く直線的に向かって来た蒼天月牙を登龍剣で弾くとそれを掴み、続けてやって来たブーメラン軌道の双天月牙には今しがた手にした双天月牙のグリップ部分をブチ当てる事で強制的に連結状態にして見せたのだ。
そして其れだけでなく連結した双天月牙をブーメランのように鈴に投げ返す……が、投擲された双天月牙は急激にその勢いを失い軽々と鈴はキャッチしてしまった。
「お生憎様!双天月牙のコントロールは甲龍が行ってるのよ!アンタが奪って投げてもアタシにダメージは与えられないわ!」
「でしょうねぇ!!」
此処で開いた間合いを潰すように一夏が鈴に突撃する。
同時に鈴の視線が動いた……其れは龍砲を撃つ合図でもあり、一夏は既に其れを見切っているのだが、此処は避ける事はせずに剣王蒼龍皇となった事で巨大になった登龍剣を盾代わりにして強引に突き進んで発射直後の隙を狙ってぶった切る心算なのだろう。
そして一夏の読み通り龍砲が発射され、一夏は其れを登龍剣でガードしたのだが――
「んな!?」
龍砲を登龍剣で防ぐ事は出来た。
だが、一夏は其れ以上進む事が出来ずに逆に吹き飛ばされてしまった――登龍剣で防いだ事でダメージこそなかったがこれには流石に驚かずにはいられなかった。
「なんじゃあ今のは……龍砲、だよな?」
「えぇ其れは間違いないわ。」
「にしちゃ威力がデカすぎねぇか?それと、俺の気のせいじゃなきゃ今の龍砲が弾丸が見えたんだがな?」
「気のせいじゃないわ一夏。
龍砲は本来は空気を圧縮して撃ち出す衝撃砲で、その最大の利点は砲身も砲弾も見えない事なんだけど、所詮は空気だから実弾やビームみたいな光学武装には威力では遠く及ばない。
だけど、逆に言えば空気を圧縮するってんなら圧縮する空気の量を増やせば単純に威力は上がるわよね?」
「まぁ、理屈の上じゃそうなるわな。」
「そこで考えたのよ……龍砲で空気を可能な限り圧縮したらどうなるのかってね。
アンタも知ってるでしょうけど、大抵の物質がそうであるように、空気もまた圧縮すればするほど熱を帯びやがてプラズマ球を生成するわ……アタシは其れを龍砲で行ったのよ!
発射までに時間はかかるけど、当たれば一撃必殺!そして龍砲はまたチャージしてる……今度はクロスレンジで喰らわせてやるわ!!」
「クロスレンジで俺の意識を分散させるか……ったく最高だぜ鈴!
やっぱお前は俺にとって最高の悪友だよ!マッタクもって楽しませてくれる!!」
「それは悪友冥利に尽きるわねぇ!!」
なんと鈴は龍砲で空気を極限まで圧縮してから放ったのだ。
見えない空気弾は厄介だが威力は其処まで高くないので連続で被弾しない限りは致命的なダメージにはならないのだが、鈴は極限まで空気を圧縮してのプラズマキャノンを放って来たのだった。
如何に束お手製のISである蒼龍皇と言えどもプラズマ弾を真面に喰らったらタダでは済まないだろう……しかも鈴は其れを近接戦闘を行いながらチャージ出来るだけでなく、クロスレンジで突然ぶっ放す事も出来るのだから尚更だ。
「だが鈴、今ので俺を仕留められなかったのは痛いぜ?
悪いが俺は同じ攻撃を喰らってやるほどお人好しじゃない……何よりもお前のチャージが済む前にぶっ倒せば其れで済む話だからな!!」
「アンタならそう言うと思ったわ……でも、此処からがアンタとアタシのデートの本番よ!!」
「だな……なら世界一バイオレンスなデートとしゃれ込もうぜ!!」
プラズマキャノンのチャージには時間がかかるだけでなく、甲龍には龍砲以外の遠距離武装は搭載されていなかったので否応なしに一夏と鈴はクロスレンジの斬り合いに発展したのは当然と言えるだろう。
またしても一夏と鈴は激しいクロスレンジの応酬を開始したのだが……少しずつ、しかし確実に戦いの天秤は一夏に傾いていた。
一夏と鈴ではそもそもに体格に差があるので純粋な力比べをしたら一夏が有利なのは当然なのだが、天羽組の色々とぶっ飛んだ極道のアニキ達から色々と学んでいた一夏と、あくまでもスポーツマンとして己を鍛えていた鈴の差は大きい。
言うなれば『殺しの技』を身に付けている一夏の方が切れる札が多いのである。
それに加えて一夏は一番世話をしてくれた『小峠華太』から『本物任侠ってのは弱きを助けて強きを挫くモンだが、戦うとなったら相手が誰であろうと容赦は不要だ。』と聞かされており、つまるところは戦うとなったら相手の老若男女は関係ない状態となっている――だからこそ、普通ならば躊躇われるであろう女性への攻撃も手加減なしで行えているのだ。
だからこそ鈴には焦りが生まれていた。
龍砲でプラズマキャノンを放つにはまだ時間がかかるのだが、双天月牙の二刀流で剣王となった事で巨大化した登龍剣の斬撃を捌き続けるのも少しづつ厳しくなっていたのである。
鈴は所謂『天才タイプ』であり、それこそ近接戦闘に限定すれば一度見れば其れが出来てしまうレベルであり、だからこそ僅か一年程度で中国人ながら日本の国家代表候補生に上り詰める事が出来たのだ。(尚、同じ日本の国家代表候補生である簪は中学の三年間を使って漸く中学卒業ギリギリで代表候補生となっている。)
詰まる所、鈴は世界各国の国家代表候補生の中でもトップクラスの実力者なのだが、其れが後手に回っているのだから一夏の実力の高さが伺えると言うモノだろう。
「そろそろ終わらせるぜ鈴?」
「そう簡単に終わらせないわよ……ジリ貧からの逆転ホームランってのは最高に盛り上がるじゃない?」
「否定はしねぇ寧ろ王道だって言ってやるが……出来るのか?」
「出来るかどうかは問題じゃないわ……やるかやらないかよ!!」
「良くぞ吠えた!其の意気や良し!
故に、俺は其の意気に応える義務がある!それが武人として、そして任侠モノとしての譲れないモノだ……だから、行くぜ鈴!!」
此処で一夏は闘気を極限まで高めるとそれを爆発させると同時にイグニッションブーストを作って一瞬で鈴に肉薄して渾身の袈裟斬りを繰り出す。
その袈裟斬りをギリギリで鈴は避けたのだが、避けた直後に逆袈裟が斬り上げられ、鈴は其れをギリギリで双天月牙でガード。
だが次には一夏の横蹴りが鈴に炸裂した!
「ガハッ!!」
「ボディがお留守だぜ!ってな!」
これによりガードが崩れた鈴に対し、一夏は袈裟斬り→払い斬り→逆袈裟二連斬→逆手切り上げのコンボを叩き込み、シールドエネルギーを大きく削った上で上空に飛ばすだけでなく、逆手切り上げの際に自身もジャンプして鈴との間合いは詰めており……
「オォォォラァァァ!!」
空中で袈裟斬り→払い斬り→回転斬りのコンボを叩き込むと、其処から一気に登龍剣を振りかぶり――
「登龍剣!!!」
「!!」
必殺の一撃を繰り出して来た。
その一撃を鈴は双天月牙を交差させてなんとかガードしたモノの一夏は止まらず、其処からブースターを全開にして鈴を押し込んで行く――当然このまま行けば鈴はアリーナの床に叩きつけられる事になるので如何にかして逃げるべきなのだが、其れが出来ない状態になっているのだ。
鈴も甲龍のブースターを吹かして抵抗はしているモノの、上から押す一夏と下から押し上げる鈴では鈴の方が体格差もあって不利なだけでなく、この押し合いは登龍剣と交差させた双天月牙が触れ合う一点でのバランスで体勢を維持している事もあって鈴は下手に動けないのだ。
自分の方が退けば一夏がそのズレた点を押し切って追撃を加え、押し切ろうとすればこれまた一夏自ら点をずらして鈴の攻撃をいなしてのカウンターが突き刺さる……詰まる所、そんな決定的な一発を貰うくらいならば最大限の抵抗をした上で少しでもダメージを減らして次に繋げた方が良いと鈴は考えたのだ。
考えたのだが……
「その選択は間違いじゃねぇが……俺は其処まで優しくないぜ鈴?」
「え?」
次の瞬間、一夏の圧力が増した――より正確に言うのであれば鈴の抵抗がほぼ無くなったのだ。
何事かと思って鈴が機体の状態を確認すると、甲龍のブースターが損傷していた……そして気付いた、蒼龍皇の両肩に搭載されていたクローが何時の間にかなくなっていた事に。
「一夏、アンタ!!」
「お前が考えてる通りだと思うぜ鈴?
龍爪を飛ばしてお前の機体のブースターをぶっ壊させて貰った!!」
「ちょっと、悪友相手にそこまでして勝ちたいか!?」
「最高の悪友だからこそ勝ちたいんだよ俺は!
てか、勝つために手段なんぞ選んでられるか!勝てば官軍!最終的に勝てばそれで良い!戦術なんぞは勝つ為の手段に過ぎないから使えるモノはなんでも使えだ!
最大限ぶっちゃけると、試合に於いてはルールで禁止されてないモノなら何を使ってもOKだろ?」
「あ~~……そりゃド正論だわ。」
ブースターを破壊された甲龍に抵抗する力はなく、そのまま勢いよくアリーナの床に大激突!!
其の瞬間に砂ぼこりが舞い上がってアリーナを覆い尽くしたのだが……その砂ぼこりが晴れた先にはこの試合の決着が示されていた――鈴は機体がシールドエネルギーエンプティによって強制解除されていたのだが、一夏は健在で足元に転がっている鈴を他所眼に仁王立ちしていたのだ……となればどちらが勝者かは言うまでもないだろう。
『甲龍、シールドエネルギーエンプティ!Wiener is Ichika!!』
「俺の……勝ちだ!!」
一夏の勝利を告げるアナウンスと同時に、一夏は右腕を上げると同時に蒼龍皇を解除して勝利ポーズを決め、アリーナは大歓声に包まれた。
「よう、立てるか鈴?」
「大丈夫よ、絶対防御が発動してたから怪我もないし……にしても、ISバトルで此処までコテンパンにやられたのは初めてだわぁ~~。
でもなんて言うのかしらね?全力出して、その上でここまでの完敗を喫すると逆にスッキリしちゃってるのよねぇ……負けた悔しさはあるんだけど、其れ以上の満足感があるって言えばいいかしら?」
「そりゃ、ISバトルで本当の意味で全力になったのが今回が初めてだったからじゃないのか?
多分だが代表候補生になる為の実技試験や学園の実技試験でもお前は全力を出した事はなかった……お前はある種の天才タイプだから普通の奴が一段ずつ上ってく階段を一足飛びで飛び越えて次の段階に行っちまうからな……其れこそ試験官すらお前にとっては『勝てる相手』でしかなかった訳だ。
だが俺はそうじゃなかった……全力を出しても勝てなかった――だから悔しさと満足感の両方を感じてんだろ。」
「言われてみればそうかもねぇ……だけど、負けっぱなしってのはアタシらしくないわ!必ずリベンジしてやるから覚悟しなさいよ一夏!」
「上等、何時でもその挑戦は受けてやらぁ……楽しみにしてるぜ!」
そして鈴に手を伸ばして起き上がらせると、健闘を称えるように鈴の右手を掲げ、其れにアリーナはまたも歓声に包まれ、鈴も笑顔を作ってその歓声に応えて軽く手を振った後にアリーナから退場して行った。
その後一夏もアリーナから退場したのだが、退場直前にアリーナの一点を睨みつけると其処に向けて右手をピストル型にして撃つ動作をして見せた。
それが何を意味しているのか、多くの観客席の生徒は分かっていなかった……ただ一人を除いて。
「この大衆の中で私を見付けるとは……昂ってしまった気持ちを感じ取られたのかな?
世界初の男性操縦者と言う事で興味はあったが……成程、君は私の想像以上なようだね……良いだろう、君との戦いは最大の舞台となる決勝戦!
其の最高の舞台で最高の戦いを演じるとしようじゃないか!」
それは三組のクラス代表のロランツィーネ・ローランディフィルネィ(このクッソ長い名前にそろそろキレていいっすかね?以降ロランと表記。)だった。
見る人が見たら魅了されて卒倒するほどの妖艶な笑みを浮かべたロランは決勝戦に向けての準備に向かうのだった。
――――――
一方で襲撃者に対処していた楯無とオータムは……
「これで、終いだぁ!!」
「八本のサブアームで串刺し……容赦ないわねぇ?」
「直前に特大の水蒸気爆発ブチかましたアンタがそれ言うか?」
「敵に容赦は不要でしょ?」
「なら容赦ないとか言うなって。」
「いやぁ、此処は言っておくべきかなぁって♪」
「其の場のノリかい!」
襲撃して来た謎のIS『ジャイガンダー』四機を相手にしてパーフェクト勝利を収めていた。
決して弱い相手ではなく、此れがアリーナに突入していたら少しばかり厄介な事になっていたかも知れないが、歴代最強と言われている楯無と、亡国機業最強と言われていたオータムの前には赤子同然であり、楯無が必殺のクリアパッションで大ダメージを与えた後にオータムがダメ押しの一撃を加えてターンエンド。
アラクネ改のサブアームはジャイガンダーの胸部を貫いており、普通ならパイロットは即死なのだが……
「どうやら無人機だったみてぇだなコイツ等は。」
「そのようね……まさか無人機とは……オータム……」
「間違いねぇ、コイツは亡国機業が研究してたモンだ……性能はマダマダだが実戦投入出来るレベルにまでなってたとはな……取り敢えず、コアはぶっこ抜いてガワは……束に送っとくか。」
「亡国が……」
ジャイガンダーは無人機だった。
しかもそれは亡国機業が研究して居たモノだったのだ――裏社会で『亡霊』とも呼ばれている組織があからさまにIS学園に襲撃をかけて来た事に関して楯無は最大限の警戒が必要だと考え、学園の防衛体制を見直すべきかもしれないと考えるのだった。
To Be Continued 
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