一夏とセシリアのクラス代表決定戦が行われる当日、放課後のアリーナは学園の生徒で溢れかえっていた。
一年一組の生徒が全員観戦に来ているのは言うに及ばずだが、他のクラスや上級生も相当数がアリーナに集まっていた事でアリーナは超満員札止めの満員御礼状態となっていた。

その観客の中には生徒会長である楯無と副会長である蓮杖夏姫の姿もあった。


「凄い盛り上がりだけど、其れだけに一夏君とセシリアちゃんは其の盛り上がりに応えなければならない。
 学園の公式大会ではない上に一年一組以外の観客は、私も含めて野次馬同然とは言えISバトルである以上はガチンコの勝負でありながらもエンターテイメントな部分もおろそかにしてはならないわよ?
 その二つを絶妙なバランスで成り立たせるのは可成り難易度が高いわ……さて、どうなるか見せてもらうわよ一夏君、セシリアちゃん♪」

「勝負其の物は間違いなく織斑一夏が勝つだろうがな。」

「言い切るわね?その根拠は?」

「そもそもにして織斑一夏とセシリア・オルコットでは自力に大きな差があるし、此の一週間二人の訓練を陰から観察していたが、織斑一夏が仲間と共に訓練して試合での対策も行っていたのに対し、セシリア・オルコットは単独で動かない的の射撃訓練のみを行い自分の考えだけで試合の対策を行っていた……さて、そうなると夫々の勝率は100%と0%はなしにした場合は如何なる刀奈?」

「一夏君の勝率が99・99%でセシリアちゃんの勝率は0.01%になっちゃうわね♪
 でもこの試合でセシリアちゃんは確実に己が井の中の蛙だった事を其の身をもって知ることになるでしょうね……」

「恐らくは嫌と言うほどにな。」


楯無の問いに対し、夏姫は迷う事無く『一夏が勝つ』と断言し、その理由も述べていたのだが、其れに関しては楯無も同感だった。
セシリアは確かに代表候補生としては恥じない実力を有しているのだが、試合の経験は代表候補生への昇格試験とIS学園の入学試験だけであり、実戦経験が圧倒的に足りないのだ。
それに対して一夏は三年前からISの実戦的訓練を束が開発したチート級の性能を持つ無人機相手に行っており、生身での鍛錬も天羽組の人外の極道と行っていたので銃弾位は余裕で回避出来るようになっているので実戦経験はバッチリなのである。


「まぁ、なんにしてもセシリアちゃんの言動は到底許される事ではないから、キッチリとやっちゃいなさいな一夏君。
 セシリアちゃんを殺さない限りは私の持てる力を全て使って君の事を政治的な観点からは守ってあげるからね……はぁ、一夏君が男の子じゃなかったら確実に惚れてたわね。」

「女が男に惚れるんだ。それで良いんだ、普通そうだろ刀奈……ってな事をお前と恋人関係であるアタシが言ったところで説得力は皆無だがな。」

「私達はラブラブだからね♪」


楯無と夏姫の関係には深く突っ込まない事として、アリーナの時計は試合開始の時刻を示し、其の瞬間にアリーナのスピーカーから一夏とセシリアの試合を開始するとの旨が告げられ、解説は放送部の部長で、解説はまさかの千冬だった。
体育祭や文化祭レベルの盛り上がりを見せる中で、一夏とセシリアの試合が始まろうとしてた。








夏と銀河と無限の成層圏 Episode4
『クラス代表決定戦~Samuai vs Aristocracy~』










先ずは先にフィールドに現れたのはセシリアだった。
カタパルトから出撃して見事なバレルロールを行った上でBT兵装を射出して適当にフィールドを駆け巡らせた後にBT兵装のプラットフォームに戻してポーズを決めて試合前の会場のボルテージを上げて行く。

続いて一夏がフィールドに現れたのが、一夏はピットから出撃するのではなく、通常はシールドエネルギーが0になった選手が退出する為のドアから現れたのだった。


「待たせたなオルコット。」

「女性を待たせるとは紳士足りえませんわよ織斑さん。
 其れにISを展開せずに通路から現れるとは何の心算ですの?……まさかとは思いますが、試合前に降参する心算ですか?」

「そんな筈ないだろ?
 ISバトルってのはエンターテイメントの要素も大事だからな……試合前に盛り上げようと思ってな!!」


セシリアからの挑発交じりの一言に動じる事無く、一夏は待機状態の専用機を放り投げ――


「蒼龍皇ーーー!!」

『応ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』


専用機の名を叫ぶと、それに呼応するかのな声が響き、直後にアリーナのフィールド内に、三頭身のロボットが現れていた――青を基調とした機体の両肩にはゴールドのクローが搭載され、背部には黄金の剣がマウントされている。


「覇ぁ!!」


それに合わせて一夏は気合を入れると、ロボットから金色の道が照らし出され、一夏はその上をホバリングする形で進んで行き、其の最中に一夏はドラゴンのオーラに包まれ、そのオーラが弾けた次の瞬間には一夏は制服からISスーツに変わっており、ジャンプ一番其のロボットと重なった瞬間、眩い閃光がフィールドを覆い、その閃光が収まった時には、専用機を纏った一夏の姿があった。
三頭身ロボットの各パーツは一夏の身体に装着され、三頭身のロボットは一夏と同じ頭身の全身装甲タイプのISとして展開され、此処に世界初となる男性IS操縦者の専用ISがその全容を現したのだった。


「ISバトルにはエンターテイメント要素も必要……其れをよく理解していらっしゃる中々に派手な登場でしたわ織斑さん。
 ですが、フルスキンタイプのISは既に時代遅れの代物ですわ……そんな骨董品が専用機とは、貴方が社長を務める会社の技術力も高が知れていると言うモノですわ。」

「見た目で判断すると痛い目見るぜオルコット。
 其れにだ、こっちの方が見た目もカッコいいから俺が全身装甲にしてくれって頼んだんだよ……だから俺の相棒は全身装甲タイプの第三世代機(実は第四世代機)だから舐めない方が良いぜ?」

「では、その力が如何程か試させて頂きますわ!」


一夏は背部にマウントされた金色の剣『登龍剣』を抜くとセシリアにその剣先を向け、セシリアはスナイパーライフル『スターライトMkⅡ』の照準を一夏に合わせる。
そして試合開始がコールされると同時にセシリアはスターライトMkⅡの引き金を引いて一夏にレーザーを放ったのだが一夏は其れをあっさりとかわし、高速突進から渾身の突きを繰り出して来た。
試合開始直後の奇襲とも言える一撃を避けられると思っていなかったセシリアは驚きつつも一夏の渾身の突きをとっさのサイドロールでギリギリ回避すると同時にスターライトMkⅡを連射モードに切り替えて連続でレーザーを放つ。


「射撃で俺を倒したいなら最低でも天羽組の速水さんレベルの腕前を身に付けてこい!」


そのレーザーを一夏は登龍剣で斬り飛ばすだけでなく、一発は掴んで砕いて見せたのだ。
レーザーをどうやって掴んで砕いたのか、その詳しいメカニズムに関しては詳細を検索するだけ徒労だろう……蒼龍皇は束が一夏の為に作り出した唯一無二のISであり、其れは最早ブラックボックスの塊と言っても過言ではなく、既存のISの常識など一切通じない機体と言えるのである。
ついでに言うと、一夏が口にした『速水』とは織斑姉弟が世話になった天羽組の最弱組員であり、つい最近までは半グレとの喧嘩でも負ける程だったのだが、その最弱組員にすら射撃の腕で負けているセシリアの腕前は推して知るべきだろう――とは言え、表の世界と裏の世界ではそもそもにして力の定義が異なるので、セシリアを裏社会の最弱レベルに劣るから弱いと言い切る事は出来ないのだが。


「ちょろちょろと……では此れは如何です?お行きなさいティアーズ!!」


射撃を全て回避されたセシリアは、此処でブルーティアーズに搭載されている四機のBT兵装を展開して一夏に多角的攻撃を仕掛けて来た。
上下左右何処から放たれるか予想できない攻撃は厄介であるだけでなく、対応も難しく、少なくともイギリス国内に於いてセシリアと模擬戦をして勝った相手は一年前にIS学園に入学したイギリス代表候補生の『サラ・ウェルキン』だけだった。
だがこの試合では自分が勝手に下と思っていた男性である一夏に対して切り札を切る事になった――普通なら初見のBT兵器を攻略できずに敗北必至だろうが、一夏はそうではなかった!!


「(蒼龍皇、やけに射撃が素直だと思わねぇか?普通ならもっとフェイントとか入れると思うんだが。)」

《恐らくだが彼女は此れまで実戦と言うモノを経験していない。
 だから攻撃の全てが教科書通りなんだ――とは言っても、此れほどまでにBT兵装を自在に扱う事が出来ると言うのは相当な努力があっての事だが。》

「(代表候補生の名は伊達じゃねぇって事か。
  女尊男卑思考の三下と思ってたが如何やら相応の実力は備えてるみたいで安心したぜ……三下をぶっ倒したところで面白くねぇからな……だが、曲がりなりにも相応の実力があるってんならありがてぇ……悪いが経験値になってもらうぜオルコット!!)」


BT兵装の多角的攻撃を見事に回避し、時にはBT兵装から発射されるレーザーを登龍剣で斬り飛ばし、更には肩アーマーに搭載されているクローをパージしてBT兵装として使用し、ブルーティアーズのBT兵装を狙う。


「そのクロー、BT兵装でしたの!?」

「BT兵装は何もアンタの専売特許って訳でもないだろ?実際に俺の妹の円夏の専用機にもBT兵装が搭載されてるからな。
 それと、もうお前のBT兵装は見切ったから通じないぜ……あらよっと!!」


更に一夏はBT兵装の動きを読んでレーザーを躱すと一瞬で肉薄して其れを破壊し、続けざまに残る三機のBT兵装を斬り裂き――


「それが運命だ……」


登龍剣を背部にマウントした直後にブルーティアーズのBT兵装は爆発四散!
絶対的有利を齎す筈だったBT兵装が全て破壊されたとなったらセシリアの武器はスナイパーライフル『スターライトMkⅡ』のみとなるのだが、スナイパーライフルは精密な射撃が出来る反面、連射力はなかったので高速で移動する一夏に狙いを定める事が出来ず決定打を撃ち込めずにいた。


「(よもや私の方が押される事になろうとは……認めましょう、貴方は間違いなく強者であると!
  ですが、だからこそ私は負けられません!!だから、いま少しだけ力を貸して下さいませティアーズ!!)」


だが、ここでセシリアの目の色が変わった。
一夏の接近を許し、登龍剣による一撃が炸裂するその瞬間、セシリアは一夏の一撃をスターライトMkⅡで防いで見せた――一夏の予想以上の実力に驚いたと言うのもあるが、其れ以上にイギリス国内では同世代で敵無しだったセシリアにとって、同世代で自分を上回る存在は初めてであり、其れがセシリアの奥に眠っていた闘志に火を点けたのだ。


「此れを防ぐか……懐に飛び込めばスナイパーは楽勝だと思ったんだが……俺の予想以上の実力があるみたいだなオルコット!!」

「貴方の実力が私の予想以上だった……其れが私が代表候補生になった頃の気持ちを思い出させてくれましたわ。
 私はイギリスの国家代表候補生になった事と同世代で相手になる人が居なかった事で自分がイギリスでは最強だと思い込み、他国の代表候補生、ましてや世界初となる男性IS操縦者の実力も『精々代表候補程度』であると侮っていました――それどころか自らの地位に驕り日本人を、日本を侮辱する発言まで……本当に思い出すと恥ずかしいですわ。
 こうして実際に戦ってみれば貴方は代表候補生を遥かに凌ぐ実力を有していました……其れが私の目を覚まさせてくれましたわ!!――英国淑女として礼をいたしますわ……『此処からが本番』ですわよ織斑さん?」

「ここからが本番か、上等だオルコット!!
 だが、BT兵装を全て失ったお前の勝ち筋は俺にスナイパーライフルでの決定打を与える以外の選択肢は無いと思うんだが、さてお前はどんな手を見せてくれるんだオルコット?」

「其れは、此れですわ!!」


次の瞬間にはブルーティアーズが分裂していた。
正確に言うのであればスカートアーマーが開き、其処に内蔵されていたミサイルビットが展開されていた――此の至近距離でのミサイルとなれば回避は極めて困難でなり、直撃すれば一撃でシールドエネルギーはゼロになるか、ギリギリで耐えきってもシールドエネルギーはレッドゾーン間違いなしの正にブルーティアーズの最後の切り札だ。


「至近距離でのミサイルか……普通なら直撃確定だが、生憎と俺は普通じゃないんでね!!」


一夏はミサイルビットの一個を登龍剣で斬り裂くと、もう一個はギリギリのスウェーバックで躱した後に足を押し付けてミサイルをサーフボードの様に操ってアリーナ内を飛び回ると、最後はミサイルをアリーナの天井にブッ飛ばして爆発させてターンエンド。


「空中サーフィンってのも乙なもんだな?
 さてと、これでお前の武器は其のスナイパーライフルだけになっちまったがどうするオルコット?まだ続けるってんなら相手になるが、スナイパーライフルだけで俺に勝てると思ってる訳じゃないよな?」

「よもやこれすら見切られてしまうとは流石に驚きですわよ!?
 此方の切り札が通じなかった以上、私が勝利を手にするのは不可能と言えるでしょう……ですが、勝てずとも自ら降参して負けるのは貴族として最低の敗北に他なりません……自ら敗北を認める位ならば、己の全力をもってして戦い抜いた末の敗北を選びますわ……!!」

「……良く吠えた!
 なら、その想いには応えなきゃ無礼だよな……だからせめてもの手向けとして見せてやるよオルコット、蒼龍皇のワンオフアビリティ―を!」


最後の切り札を潰されたセシリアに最早勝ち筋などはなく、普通ならば此処で降参するところなのだろうが、セシリアは『敗北を自ら認めるのは恥辱』との考えから最後まで一夏と戦う意思を見せ、一夏は其れに応える形で蒼龍皇のワンオフアビリティ―を展開して来た。


「超力変身!獅子蒼龍皇!!」

『応~~~~!!』


蒼龍皇のワンオフアビリティである『超力変身』を使った事で、蒼龍王は『獅子蒼龍皇』となり、肩部装甲の後部から黄金色の金剛膜が展開され、其れが機体全体を覆って防御力が上昇し、ブルーティアーズのスナイパーライフルでは掠り傷ほどのダメージを与える事すら出来ないレベルに防御力が跳ね上がっているのだった。


「姿が変わった……?まさか、機体性能を変更できますの!?」

「正解だオルコット。
 コイツが蒼龍皇のワンオフアビリティ『超力変身』だ……そして、蒼龍皇の変身形態はコイツを含めて全部で五種類存在してる。
 そんでだ、獅子は防御力が大幅に強化されてるからそのスナイパーライフルじゃダメージを与える事は出来ないぜ?だから、そろそろフィナーレと行こうかオルコット!!」

「速い!防御力だけでなく、機動力も強化されてますの!?」


一夏はイグニッションブースト並みのスピードでセシリアに肉薄して登龍剣を振り下ろし、セシリアは生物の本能として備わっている危機回避能力によってギリギリで其れを躱して致命傷を避けて距離を開け、スターライトMkⅡを連射するが、獅子蒼龍皇には全くダメージを与えられない。
逆に一夏は龍爪を使ってセシリアの動きを制限すると、獅子蒼龍皇に変身した事によって現れた腹部のユニットにエネルギーを集中し……


「此れで終わりだオルコット!喰らえ……マキシマファイナルキャノン!!」

《……アレは胸部からだったと思うのだが?》

「細かい事は言いっこなしだぜ相棒。」


放たれた極太ビームがセシリアを飲み込み、ビーム照射が終わるとブルーティアーズのシールドエネルギーはゼロになって機体が強制解除されてセシリアは気を失ってそのまま落下。
一夏が受け止めた事で地面に激突する事はなかったが、シールドエネルギーがゼロになり、更にパイロットも気絶したとなれば勝負は決していた。


『セシリア・オルコット、シールドエネルギーエンプティ!!勝者、織斑一夏!!』

「俺の、勝ちだ!!」


一夏の勝利を告げるアナウンスと同時に、一夏は登龍剣を空中に放り投げ、それから身体を反転させると見事に登龍剣を背部にマウントさせ、更にマウントと同時に変身を解除すると言うパフォーマンスでアリーナを沸かせてみせた。


「貴女の予想通りになったわね夏姫ちゃん?……それにしても勝つとは予想していたけれど、よもやパーフェクト勝利とは驚きだわ……彼を生徒会に入れないと言う選択肢はないわね。」

「寧ろ生徒会に入れるべきだ。
 IS学園の生徒会は、教師部隊に次ぐ学園の防衛部隊でもあるのだから、実力者は積極的に取り入れるべきだ……役職の関係で最大四人なのが厳しいけれどな?
 いっそ役職を無理矢理増やすか?書記と会計の他に会長代理とか雑務とか。」

「会長代理は副会長で良いんじゃないかって事と雑務は既に役職じゃない事とどっちに突っ込めばいいのかしらね私は?」

「突っ込むもスルーするもお前の判断に任せるから好きにしろ。」

「時々の塩対応の夏姫ちゃん……まぁ、そんなところも愛してるけどね♪」


観客席では楯無と夏姫の謎の漫才的な遣り取りが行われていたが、其れは兎も角として、クラス代表決定戦は一夏がセシリアを終始圧倒した上でのパーフェクト勝利を収めて幕を閉じたのだった。










 To Be Continued