IS学園入学当日、夏月と簪は本土からIS学園島へのモノレールではなく、更識が手配したヘリコプターの中に居た。
夏月は『世界初の男性IS操縦者』と言う事で、モノレールの移動では駅の待ち時間やモノレール内で夏月が狙われるかも知れないと考えた総一郎が前楯無の立場を使って自衛隊にヘリコプターを要請して夏月と簪をIS学園まで運ばせる事にしたのだ。
同様の措置は秋五に対しても行われているのだが、秋五を乗せたヘリコプターは夏月達のヘリコプターよりも十五分ほど遅れてIS学園に到着するように総一郎は調整していた。ギリギリまで夏月と秋五は顔を合わせないようにした方が良いと考えたのだろう。
……実は楯無も其れを考えて、学園長に直談判して夏月と秋五のIS学園受験日をずらすようにお願いしていたりするのだ。

そのヘリコプター内で夏月はスマホを弄っていたのだが、LINEに義母であるスコールからのメッセージが届いていたので其れを開いてみると、『IS学園入学おめでとう夏月。』、『学園で困った事があったら、二年生のダリル・ケイシーを頼りなさい。』、『彼女は私の姪っ子だから♪』とのメッセージが入っていた。
文面こそシンプルだが、其処にはスコールの夏月に対する愛が十二分に込められていた……スコール自身、生きる為に身体をサイボーグ化して子を宿せない身体になってしまったので、血は繋がってないとは言え戸籍上は息子である夏月には親としての愛を向けているのかも知れない。

そして夏月もまた更識に来るまで家族の愛を知らなかったので、スコールからの愛情はとても嬉しいモノだっただろう……逆に言えば千冬はドレだけ織斑一夏に対して愛情を与えていなかったのかと言う事になるのだが。
だが、夏月は千冬からは与えられなかった愛をスコールと更識家から受けた事で、織斑一夏だった頃よりも健やかに成長したのは間違い無いだろう。


「夏月、見えて来たよ。」

「アレがIS学園か……」


程なくしてヘリコプターはIS学園を目視出来る場所まで来ており、夏月と簪は此れから自分達が過ごす場所に対して思いを馳せると同時に、ヘリコプターはヘリポート上空までまで移動すると垂直軌道で着陸し、無事に着陸すると夏月と簪はヘリコプターから降りる。


「待っていたわよ夏月君、簪ちゃん!ようこそIS学園に!」

――【祝!入学!!】


二人を出迎えたのは生徒会長を務めている楯無で、手にした扇子には『祝!入学!!』の文字が現れているが、ヘリポートに居るのは楯無だけで教師の姿は見えない――此れは楯無が学園長に『一夜夏月と更識簪をヘリポートに迎えに行くのは私一人だけにして下さい』と直接頼んだからだ。
と言うのも、そうしなければ『世界初の男性操縦者は私が出迎えてやろう』とか千冬が言いかねないからだ……その裏には『ブリュンヒルデである私が出迎えてやる方が相手にとっても光栄だろう』などと言った意味不明の自信(?)があるのかも知れないが。
無論、そんな阿呆な理由で夏月と簪に接触はさせたくなかったので、楯無は自分だけで二人を出迎えたのである。


「楯無さん、態々出迎えてくれなくても良かったのに。他にやる事もあったんじゃないのか?」

「おほほ、新学期になったばかりだから其処まで生徒会の仕事は多くないのよ♪その仕事も、虚ちゃんと一緒に昨日までの間にぜ~~んぶ終わらせちゃったしね?
 男子生徒の入学で色々と書類もあったみたいだけど、其れは基本的に教師の仕事だし……尤も、護衛や寮の部屋割りに関しては私も意見を出させて貰ったけれどね?生徒の身でありながら職員会議に参加すると言うのは中々貴重な経験だったわ。」

「流石お姉ちゃん。……それじゃあ改めて、IS学園よ私はやって来た!!」

「簪ちゃん、何それ?」

「とあるアニメの有名なセリフのオマージュ。」


ヘリポートは暫し和やかな空気に。
IS学園と言えば世界中から受験生が集まり、合格倍率は世界中にあるどんな高校よりも高いと言う狭き門なのだが、夏月も簪もそんな特別な場所に入学したからと言って特に緊張した様子はなく至極自然体だった。
此れも、『更識』として幾多の修羅場を乗り越えて来て度胸が付いているからだろう――簪はバックスだが、情報を得る為に結構ヤバい場所にハッキングを掛ける事もあったので現場に出てなくとも度胸は付いているのである。

ヘリポートから移動する最中に、楯無は夏月に『護衛の観点から男子は同じクラスになって、その担任は織斑千冬になった』と言う事を伝えたが、夏月は『分かった。』と返すだけで特に気にした様子もなかった。思う所が無くはないのだろうが、もう『織斑』ではないので千冬も秋五も他人と言う事なのだろう――秋五に関しては、束が『しゅー君』と呼んでいるので、千冬と違って敵認定はしていないが。
そんな感じで夏月と簪は楯無と共に学園長室に向かい、夏月は学園長に挨拶をし、『慣れない事もあるとは思いますが、充実した日々を過ごして下さい』と激励の言葉を貰ったのだった。

そして夏月と簪がIS学園に到着してから三十分後、秋五を乗せた自衛隊のヘリがヘリポートに到着し秋五もIS学園に降り立った……そして何の因果か、秋五を出迎えたのは実技試験で試験官を務めた山田真耶教諭であり、奇妙な巡り合わせにお互い苦笑いを浮かべるのだった。










夏の月が進む世界  Episode7
『Klassenkameraden sind hübsche Mädchen』










入学式は特に何の問題もなく終わり、生徒達は夫々のクラスに行ってSHR前の小休み時間を過ごしている。
IS学園では入学式当日から授業があるのだが、ISは表向きには『ISバトル用のパワードスーツ』扱いではあるが、其れはあくまでも表向きであり『現行兵器を凌駕する超兵器』としての側面があるのは否めない。故に、生徒達に其れほどのモノを扱うのだと言う意識を持たせる為にも、入学初日から授業を行うと言う特殊なカリキュラムを採用しているのである。

さて、SHR前の小休み時間は各々好きなように過ごすモノだが、一年一組は少し様子が異なっていた。原因は言うまでもなく二人の男子、夏月と秋五だ。
学園に二人しかいない男子と同じクラスになれたと言う事に一組の多くの女子は歓喜し、『少しでもお近付きになりたい』と入学式が終わったら声を掛けてみようと思っていたのだが、実際に声を掛けようとすると妙に緊張してしまい『最初の一歩』を踏み出す事が出来ずに遠巻きに見るだけになってしまったのだ。

只一人を除いては。


「やぁ、こうして直接会うのは三年ぶりだね夏月?元気そうで安心した……手紙に同封されていた写真よりも更に逞しくなったんじゃないかい?今の君からは、三年前には無かった魅力を感じるよ。」

「其れお互い様だろロラン?
 お前も前に会った時と比べたら……なんつーかその、めっちゃスタイル良くなったな?そのスタイルなら、グラビアモデルとか出来るんじゃないのか?」

「まぁ、そうなのだけれど、舞台では男役が圧倒的に多いのでね……衣装では隠し切れないので、男性から『男装の麗人』に設定を変える事も少なくなかったよ。」


其れはロランだ。
文通は続いていたが夏月と実際に顔を合わせるどころか会話もするのも三年ぶりだったのだが、逆にだからこそ声を掛ける以外の選択肢はなかったのだろう。夏月としてもロランと実際に言葉を交わすのは三年ぶりだったので懐かしく、楽しいモノがあっただろう。


「テレビで君がISを動かせると知った時には驚いたが、君がIS学園に行くと言うのならばまた会えると歓喜したモノだよ……嗚呼、だがまさか同じクラスになる事が出来るとは、乙女座の私は運命を感じずにはいられない。」

「何処のグラハムさんだよ……てか、ロランって乙女座だったのか?」

「言ってなかったかな?私は八月二十八日生まれの乙女座さ。」


至極普通に話をしている夏月とロランに、他のクラスメイト達は別の意味で声を掛ける事が出来なくなってしまった。と言うのも夏月は世界初の男性IS操縦者で、ロランはオランダの国家代表、そんな特別な二人が三年前からの知り合いであると言う事に驚いてしまったのだ。


「イッチ~、その人が~~、かんちゃんが言ってたイッチーの文通相手~~?」

「おぉ、一緒のクラスだったのかのほほんさん。紹介するよ、俺の文通相手のロランツィーネ・ローランディフィルネィだ。そして彼女は布仏本音だロラン。俺はのほほんさんって呼んでるけどな。」

「ロラ?ロ~~~……長ったらしいのでロラロラなのだ~~~!」

「ふむ、其れは新鮮なニックネームだね。」


其処に突撃した本音は相当な強心臓であったと言えるが、其れを見て緊張が解れたのか同じく一組に在籍している箒は秋五に声を掛けて六年ぶりの再会を喜び会話に花を咲かせていた。
その際に秋五が、『そう言えば去年の中学の剣道全国大会で優勝したんだよな?』と言った事で、箒が中学剣道で全国制覇を成し遂げた猛者だと言う事がバレてしまったがクラスメイトには剣道経験者もいたので逆に箒の評価は初日から其れなりに高いモノとなったのだった。
おかげでクラスの緊張は緩和され、多くの生徒が『次の休み時間には話かけてみよう』と考えていたのだが、その中でたった一人、見事なプラチナブロンドの髪を縦ロールした女子生徒だけは、『お前呪いでも掛けてるのか?』と思ってしまう位の視線を夏月と秋五に向けていた。
普通ならば夏月と秋五の容姿が少し話題に上がりそうだが、同じ顔であっても傷の有無と目の色の違いだけで大分印象は異なるだけでなく、夏月は『更識』の一員として裏の仕事にも携わっていた事で織斑一夏だった頃とは雰囲気がガラリと変わり、その結果として『一夜君と織斑君ってちょっと似てる?』、『そうでもないよ?』と言った感じの反応に留まっている様である。
秋五だけは、『一夜夏月……一夏に似てる』と思ったが、『傷痕は兎も角、目の色だけは絶対に変える事は出来ないから他人の空似かな?』と、何か引っかかるモノを感じながらも今は其れ以上深くは考えないようにしたようだ。


「皆さん、其れではSHRを始めますよ~~~!
 私はこのクラスの副担任の山田真耶です。皆さん一年間宜しくお願いします!」

「此方こそ、宜しくお願いします山田先生。」

「先生が副担任って、つくづく縁があるみたいですね僕達は……宜しくお願いします。」

「ミス・マヤ・ヤマダ……確か、次期日本の国家代表と言われていた代表候補生であったにも関わらず戦闘スタイルがブリュンヒルデとは真逆の遠距離型だと言う理由で国家代表になれなかった不遇の実力者だったと記憶しているが、国家代表レベルの実力者が副担任とは予想外であると同時に光栄の極みだね。
 マヤ教諭、一年間よろしくご指導ご鞭撻のほどを。」


其処に一組の副担任を務める真耶が教室に入って来て挨拶をし。夏月と秋五とロランが其れに返した事で、他のクラスメイトも『宜しくお願いします!』と返した。
奇しくもロランが口にした『国家代表にはなれなかったが、其の実力は国家代表レベル』と言うのが他の生徒には響いたようだ。
IS操縦者にとって国家代表と言うのは最大のステータスであり、国家代表候補生であっても其れなりのステータスになるので、戦闘スタイルが日本政府好みではなかったと言う至極下らない理由で国家代表になれなかった真耶が実は凄いと言う事が分かったのだろう。


「はい、ちゃんと挨拶を返してくれて先生嬉しいです。
 其れではまずは自己紹介から行きましょうか?名前だけじゃなくて、趣味とか特技も言ってくれると嬉しいかな?自己紹介はアピールポイントですから、皆さん頑張って下さいね。」


先ずは無難に自己紹介で、そのトップバッターは出席番号一番の『相川清香』だった……苗字が『あ』から始まる生徒は否応なしに自己紹介での『ファーストペンギン』にされてしまうので同情を禁じ得ないが、清香は名前だけでなく出身中学、特技に趣味好きなモノから嫌いなモノ、挙げ句の果てには好みの男性のタイプまでぶっちゃけてターンエンド……黒歴史になり兼ねない自己紹介だったが、此れで以降の自己紹介の難易度が下がったと言えるのだから良い仕事をしたと評価しても罰は当たるまい。
そして、『あ』で始まる苗字は清香だけなので、次は『い』で始まる夏月の自己紹介と言う訳だ。


「束さんがジャックしたテレビと動画放送で知ってるとは思うが一夜夏月だ。
 如何言う訳か男でありながらISを動かしちまった……不慣れな事もあるとは思うが、俺がISを動かせる事には何か意味があると思ってるから、俺がやるべき事を全力でやって行く心算だから、先ずは一年間宜しくな。
 因みに趣味は自己鍛錬と家事全般、特に料理だな。特技は剣術と空手、嫌いなモノは他者の努力を認めない事と他者の努力を嘲笑う事と女尊男卑思考なので其処の所も宜しく。」


その自己紹介で夏月は一発かましたが、これが意外に好感触だった。
先ずはその容姿に、『顔の傷痕が凄いけど、其れが逆に良い!』、『ワイルド系イケメン来たーー!』、『ちょっぴりダークな雰囲気も良いかも!』と言った黄色い声が上がり、趣味と特技を聞いた生徒の中には、『そう言えば一夜夏月って、去年の空手の全国大会で優勝した人だ』とか、『料理が得意なんだ、一度食べてみたいかも』と言っている者も居り、嫌いなモノに関しても『他者の努力を認めない事と他者の努力を嘲笑う事』に関しては多くの生徒が『其れは確かにダメだよね』と同意している感じだった……『女尊男卑思考』に関しては、金髪縦ロール女子が鋭い視線で夏月を睨んでいたが、其れ以外は特に問題はなかった。
夏月の自己紹介は大成功となり隣の席ではロランが小さくサムズアップしていたので、夏月も其れに返してから着席。少し騒がしくなったクラス内は、山田先生が『ハイ、まだ自己紹介の途中ですよ?』と言って静かにさせた。
一組の生徒に『う』と『え』から始まる苗字の生徒は存在しないので、『い』で始まる夏月の次は『お』で始まる『織斑』である秋五の番だ。


「織斑秋五です。
 僕も先程の彼同様、男でありながらISを動かしてしまって……やっぱり不慣れな事もあると思うけど頑張って行く心算です。
 あと、苗字から分かるかもだけど僕は織斑千冬の弟なんだ。でも、織斑千冬の弟としてじゃなくて、織斑秋五として接してくれるとありがたいかな?僕は僕だから。
 え~~っと……趣味は料理で特技はスポーツ全般。此れから宜しくお願いします。」


秋五の方は割と無難な自己紹介だったが、其れでもクラス内からは『一夜君とは違う、爽やか系イケメン!』、『一人称が僕の男子とかレアでしょ!』、『同じクラスにタイプの違うイケメンが二人も……神よ感謝します』と言った声が上がり再びクラス内は騒がしく。
自分の自己紹介でクラスが騒がしくなってしまった事に秋五は少し困り、箒に『如何しよう?』と目で訴えたが、箒からは『私に聞くか?』と目で応えられてしまった。


「中々真面な自己紹介をするではないか、感心したぞ?
 だが、私の弟ではなく織斑秋五として接して欲しいとはお前も中々言うようになったではないか、なぁ織斑?尤も、其れ位の気概があった方が良いとも言えるが。」

「え、姉さん!?如何して此処に……!?」


其処に現れたのは一組の担任であり秋五の姉でもある千冬だった。
千冬は少しとげのある言い方ではあるが秋五が無事に自己紹介を終えた事に感心していたが、秋五はこの場に千冬が居る事に驚いていた……普通ならば考えられない事なのだが、千冬は秋五に対して自分の職業が何であるのかと言う事を今この瞬間まで話した事がなかったのだ。
秋五は、まさか自分の姉がIS学園で教師をしているとは夢にも思わなかったので驚くなと言うのが大概無理と言うモノだろう。


――バガン!


秋五がまさかの実姉登場に驚いていると、突然クラスに大きな音が鳴り響いた。
何事かと思うと、千冬が持っていた出席簿が夏月の拳とご対面していた……秋五の頭に振り下ろされようとされていた出席簿を夏月がその拳で止めて見せたのだ。


「一夜、何の心算だ?」

「其れは俺のセリフですよ織斑先生。何故イキナリ織斑の頭を出席簿で殴ろうとしたんです?」

「公私混同をして私の事を姉と呼んだからだ。姉弟であっても学園では織斑先生と呼ぶのが常識だろう。」

「ならばまずは口頭で其れを注意すべきでしょう?
 何も言わずにイキナリ殴ったら、其れは指導の為の体罰ではなく只の暴力だ……其れこそ今の御時世、誰かが其れを撮影しててSNSに『何も言わずにイキナリ殴った暴力教師』なんて言ってアップしたら其れこそ貴女の教師人生はお終いですよ?
 其れとも織斑は口で言っては分からない程の馬鹿なんですか?もしそうだと言うのであれば出過ぎた真似をしました、謝罪します。」

「そんな事はないが、此処で甘く接したら其れこそ公私混同と疑われるだろう……だが、出過ぎた真似をしたと言う自覚があるのならば良い。
 此処では私がルールだ。私に逆らう事は許さんぞ?」

「IS学園のルールは学園が定めた校則であって貴女ではありませんよ織斑先生。何を勘違いしているのか分かりませんが、そう言ったセリフは自身を矮小に見せるだけでなく織斑にも恥をかかせるだけだからしない事をお勧めします。」


夏月は別に秋五を助けた訳ではなく、何も言わずにイキナリ暴力を振るおうとした千冬を止めただけだが、只止めただけでなく若干の皮肉を交えながら正論を展開して千冬を黙らせる。
特に千冬にとっては『秋五に恥をかかせる事になる』と言うのは実に効果があった様だ――目に入れても痛くない程に溺愛し、その才能を伸ばす為に兎に角褒めて育てて来た秋五に恥をかかせるなど、千冬にとっては絶対に否であるのだから。


「ふん……今回の件は、貴重な意見として聞かせて貰うとしよう。だが一夜、本気ではないとは言え私の一撃を止めたその拳は見事なモノだと褒めてやる。
 流石は入学試験の実技で更識楯無と互角以上の戦いをしただけの事はある。」

「お褒めに預かり光栄ですよブリュンヒルデ。」


千冬は体裁を保とうと『貴重な意見として聞かせて貰おう』と言い、せめてもの反撃として凄まじい上から目線で夏月に賞賛の言葉を送ったのだが、夏月は其れに対して痛烈なカウンターを叩き込んで見せた。『織斑先生』ではなく『ブリュンヒルデ』と呼ぶと言うのはこの場では相当な皮肉であっただろう。
それに対して千冬は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが直ぐに切り替え、山田先生に『SHRを押し付けて悪かった』と言うと教壇に立って改めて自己紹介したのだが、先程の夏月との一件があったからか、『私の仕事は諸君らのようなヒヨッコを一人前のIS操縦者に育て上げる事だから、厳しく指導するのでその心算で』と言うに留まっていた……其れでも教師と言うよりは軍隊の上官の発言ではあったが。
その後は自己紹介が続き、ロランが女優らしい芝居がかった自己紹介で夏月と秋五とは違った意味で注目を集め、本音が『のほとけほんねで~す!イッチーからのほほんさんってよばれてま~す♪皆、よろしくね~~~♪』と言う緩さ全開の自己紹介をして、その瞬間に本音は一組の癒し系マスコットキャラになる事が確定したと言えると同時にクラスの99%の生徒のハートを鷲摑みにしたと言っても過言ではないだろう。癒し系キャラと言うのは最強であるのかも知れないな。








――――――








SHR後の一時間目は『ISの基礎理論』の授業だったが、その授業を行っているのは副担任である山田先生で、千冬は教室の一番後ろで腕を組んで授業を眺めているだけだった。
山田先生の授業はとても分かり易く、クラス全員が真面目に授業を受けていたのだが、夏月は『オイ、仕事しろよ』、秋五は『姉さん、山田先生に丸投げはないよ』と思っていた。
其れは兎も角として、授業内容に関しては夏月も秋五も問題なく付いて行く事が出来ていた。
夏月は更識家で暮らすようになってから更識姉妹とISのトレーニングを行うと同時に知識面も勉強しており、更にはISに関しては此れ以上の教師は存在しないと言っても過言ではない束から直々に教え込まれていたので授業内容はスルっと頭に入って来ており、秋五もISに関しては素人だったが持ち前の学習能力の高さで入学前に千冬から渡された参考書の内容を略覚えていたので授業で分からない所は無かったようだ。
なので山田先生から『何処か分からない事はありますか?』と聞かれた時も、夏月と秋五は『大丈夫です』と答え、山田先生も『良く予習しているみたいですね、先生感心です。』と言って満足そうだった。

そんな感じで一時間目は無事に終わったのだが――


「一夜夏月ってこのクラスだったわよね?」


女子達が夏月或は秋五に話し掛けようとしたところで一組に来訪者が現れた。
小柄な体格に長い髪をサイドテールにした勝ち気で少し生意気そうな少女――一年二組所属の台湾の国家代表候補生である凰乱音が夏月を尋ねてやって来たのである。
突然の来訪者に一組の生徒は、其れこそ秋五に声を掛けようとしていた金髪縦ロールの少女ですらも動きを止めてしまい、秋五も思わず乱に注目してしまう。


「夏月、君にお客さんらしい。有名人と言うのは中々大変だね?」

「有名人……まぁ、間違っちゃいないか。……そんで、台湾の代表候補生が俺に何か用か?」

「そうね、用がなかったら態々来ないでしょ?ちょっと此処じゃ話し辛いから場所を変えたいんだけどいいかしら?屋上まで付き合ってくれる?」

「了解。そんじゃロラン、俺ちょっと行って来るわ。」

「ふふ、行ってらっしゃい♪」


乱が来たと思ったら、今度は夏月と一緒に一組の教室から屋上に移動する様子を見て、クラスメイト達はようやく再起動をするが、二人だけで屋上に行ったと言う事に、『あの二人って特別な関係!?』、『一夜君ってロランさんとも親し気だったけど、若しかしてアノ子とも!?』、『まさか既に一夜君には彼女が居たって言うの!?だとしたら神は死んだ!!』と一部の生徒は絶望的な表情を浮かべていた。
そんな中で秋五は自分の方を見ようともしなかった乱に少し寂しさを感じていたが、直後に彼は金髪縦ロール少女に突っかかられる事になるのだった……初日から災難と言うより他はないだろう。


一組で何が起きているかは露知らず、屋上にやって来た二人は夏月が屋上のドアに寄りかかるようにして立って自分達以外の誰かが屋上にやって来るのを阻止していた。此れからの会話は事情を知っているモノ以外には聞かれたくないと言う事だろう。


「三年ぶりね夏月……いいえ、一夏!束さんからアンタが一夏だって事は知らされてるからとぼけても無駄だからね?」

「束さんが?……成程、其れじゃあ幾らスッとぼけても無駄だな。
 尤も、スッとぼける心算も誤魔化す心算も毛頭なかったけどさ……確かに俺は織斑一夏だ、『元』だけどな。……久しぶりだな乱。あんまり変わってなくて少し安心したぜ。」

「変わってないですってぇ?こう見えてもあの時より身長は10cm近く伸びてるんだからね!って言うか、アンタが成長し過ぎなのよ!三年前は身長150cmなかったじゃない!!」

「中学三年間で25cmも伸びたからなぁ……お前の倍以上身長伸びてりゃ、そりゃあお前の事があんまり変わってないって感じる訳だ。」

「アタシだってちゃんと成長してるのよ!胸だってちゃんと成長して80あるんだから!少なくとも胸に関してはお姉ちゃんよりも成長してるのよアタシは!!」

「へぇ……って事は、鈴は相変わらずのまな板って訳か?年下の従姉妹に抜かれるとか、俺ちょっと同情しちゃうね。」


先ずは乱が直球で夏月の事を一夏と呼んで来たが、夏月も隠す心算はなかったのだが束が知らせたのならば尚更だと思い、自分が『織斑一夏』であると認め、久しぶりの乱との会話に花を咲かせる事に。自分が織斑一夏だと言った際に『元』と付けたのは、もう自分は織斑一夏ではないと言う夏月なりの拘りだろう。


「お姉ちゃんが聞いたら激怒するわね其れ……にしても、専用機が贈られて来たのと同時にスマホに送られて来たメールで、『夏の月となった一つの夏の友人の兎からのプレゼント』ってのを見た時には驚いたわ。
 その時は夏の月が何か分からなかったけど、一つの夏は一夏だって事は分かったから……ったく、生きてたなら連絡の一つくらい寄こしなさいよ!ドンだけアタシが心配したと思ってんのよ!アタシだけじゃなくて弾とランカも、そしてお姉ちゃんも!」

「あ~~……其れについては悪かったけどさ、世間的には織斑一夏は死んだ事になってるから、死んだ人間から連絡が来たら流石に不気味だよなと思ってさ。序に俺が生きてる事をアイツに知られたくなかったから。」

「アイツ……織斑千冬ね?
 ったくアイツってばホントに最低だわ!一夏の葬式の時、アイツは悲しむ素振りすら見せなかったのよ?其れがあんまりにもムカついたから思わず掴み掛かっちゃったわよマジで!
 更にはアタシが思いっ切り罵倒してやったのに何も返してこなかった……アイツにとって、一夏はその程度の存在だった訳かって、余計に腹が立ったわね!」

「アイツに掴み掛かるとか、結構度胸あるなお前?
 でもまぁ、確かにアイツにとって俺は無価値な存在だったんだろうさ……其れを身を持って知ったからこそ、俺は迷わず『織斑』を捨てる選択を出来たんだけどな。」

「そして、一つの夏は夏の月になったのよね……アンタは一夏だったけど、今は一夜夏月って言う別人になったそう言う事でしょ?でも、アタシがアンタの味方である事だけは変わらないからね?」

「分かってるよ乱。お前は数少ない俺の味方だったからな……変な言い方かもしれないが、此れからまた宜しく頼むぜダチ公?」

「言われるまでもないわダチ公!」


三年分の会話と言う訳ではないだろうが、夏月も乱も再会を喜び互いに拳を合わせる。夏月が一夏だった頃、最も仲が良かったのが乱であり、ダチ公と言うのもシックリくる感じであった。――尤も乱は夏月に対してダチ公以上の感情を持っていたりするのだが。
因みに弾の妹も蘭であり、乱との呼び訳が難しいと言う事で、乱と蘭が揃って居る場合には乱は『ランネ』、蘭は『ランカ』と呼ぶようにしていた――蘭の方が花なのは『蘭』から取ったのだろう。


「さてと、まだ次の授業開始には時間があるがそろそろ戻るか。授業ギリギリに戻ると、アイツに何言われるか分からねぇからな。」

「始業チャイム鳴ってなくても何か言ってきそうよねぇ……アタシのクラスの担任はそんな事なさそうだけど。てか、アイツがIS学園で教師やってたって事に驚きよ。
 教師とかアイツには最も合わない職業だと思うけど。」

「その意見には諸手を上げて賛成だ。」


こうして夏月と乱は屋上を後にし、一組の教室の前で分かれて夏月は教室内に入ったのだが、教室内では金髪縦ロールの少女が秋五に何やら言いよっており、箒が少女を止めようとしている最中だった。
初日から姉に出席簿で殴られそうになり、初対面の少女に言い寄られるとは、秋五にとっては本日は厄日であったと言っても間違いではないだろう。


「ただいま。俺と乱が屋上行ってる間に何があったんだロラン?」

「おかえり夏月。
 君達が教室から出て言った直後に彼女――イギリスの国家代表候補生であるセシリア・オルコットさんが織斑秋五君に突っかかってね?
 如何にも彼女は君が嫌いな女尊男卑の思考を持っている上に無駄にプライドが高いみたいでね……SNSで『#女尊男卑発言』で発信されてもオカシク無い発言を連発していたのさ。
 そのくせ、『自分はエリートだから、どうしてもと言うのであればISについて教えて差し上げますわ!』とか何とか言っていたね?」

「成程、取り敢えずあの金髪縦ロールがヤバい奴だってのは良く分かった。」


金髪縦ロールの少女、セシリア・オルコットは女尊男卑の思考の持ち主で、同じクラスに男子が居ると言う事が気に入らなかったらしく秋五をターゲットにして彼是言っていたらしい。
その際に、秋五も『深く関わると面倒な事になりそうだ』と考え、当たり障りのない対応をしていたのだが、セシリアには其れも気に入らなかったらしく勝手にヒートアップしている様であった。


「おい、オルコットいいかげんに……」

「貴女は黙っていて下さいまし!大体にして、私は実技試験で試験官を倒したほどの実力がありましてよ?其れほどの実力者にはもっと敬意を払うべきですわ!」

「え、試験官なら僕も倒したけど?」

「な!?貴方も試験官を倒したと仰いますの!?」

「まぁ、僕の場合は倒したって言って良いのか微妙だけど、試験官のISのシールドエネルギーがゼロになったのは確かだよ。」

「んな、そんなまさか……!」


セシリアは秋五も試験官を倒していたと言う事に驚き、更に何かを言おうとしたが此処で実にタイミングよく始業チャイムが鳴り、セシリアは『また後で来ますわ!逃げないで下さいまし!』と、三下の悪役のようなセリフを吐いて自分の席に戻って行った。
尚、実技試験で試験官を倒したのはセシリアは自分だけだと思っていたようだが、実はロランと乱、そしてタイの国家代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーも試験官を倒していたりするのである。

休み時間に一悶着あったモノの、無事に二時限目の授業が始まり、今度は千冬が教壇に立っている。二時限目はLHRなので、自分が進めた方が良いと考えたのだろう。


「ではこの時間は、一組のクラス代表を決めようと思う。」


その口から発せられたのは『クラス代表を決める』と言うモノだったが、入学式の日は特別カリキュラムになっており、一年は全クラス二時限目はLHRになっており此の時間でクラス代表を決めると言うのも共通の流れであるのだ。


「織斑先生、クラス代表って学級委員長みたいなモノですか?」

「その認識で構わんが、通常の学級委員長とは違い学園イベントであるクラス対抗戦にも一組の代表として参加する事になる……通常の学級委員長以上に此のクラスの顔になると言っても過言ではない。
 就任したら一年間は余程の事がない限りは変わる事はないので皆慎重に決めるように。さて、自薦他薦は問わん。やりたいと思う者は遠慮なく手を上げろ、推薦したい奴が居ればその名を挙げろ。」


千冬はクラス代表について簡単に説明すると自薦他薦を問わずに候補者を募るが、クラス代表と言う聞くからに面倒な役職に自ら好んで就きたいと思う者は稀であり、つまりは他薦による候補者が出ると言う事になる訳だ。


「はい、一夜夏月君を推薦します!」

「私も一夜君を!」

「私は織斑秋五君を推薦するよ!」

「私も織斑君を推薦!」


先ず候補者として名前が挙がったのは夏月と秋五だ。
学園に二人しかいない男子をクラス代表に据えて、他のクラスとの違いを前面に打ち出したいと言う気持ちがあるのだろう……遊戯王で言うならワンカートンに一枚と言われていたホロレアの青眼の究極竜レベルのレアケースと一緒になれたのだから其の気持ちを持ってしまうのは致し方ないのかも知れない。


「……推薦されても、俺はやらないぞ?」

「僕だって同じだ。」

「推薦された者に拒否権は無い、諦めろ。」

「「何処の独裁国家だ此処は!?」」


推薦された夏月と秋五に対して、『拒否権は無い』と言い、其れに夏月と秋五が見事にハモリ突っ込みを入れ、其れに対して放たれた千冬の出席簿攻撃は夏月がアッパーカットでカウンターした。


「だから口より先に手を出さない方が良いっての。
 そんじゃ俺はロランを推薦するぜ?彼女はオランダの国家代表だから、実力未知数の俺や織斑よりも安心してクラス代表を任せられるってモンだ。個人的な事を言わせて貰うなら、彼女の最初のファンとして推さない理由がないぜ。」

「ふふ、君に推薦して貰えるとは光栄の極みだよ夏月。そして、君が私の実力を買っていると言う事に歓喜して止まない……だが、私も君も推薦された身であるが故に何方か一人しか代表になる事は出来ない。
 嗚呼、神は何故このような残酷な仕打ちをなさるのか。」


その後夏月が至極真っ当な理由でロランを推薦し、夏月の発現を聞いてロランを推す声も多くなったのだが、其れでも夏月と秋五を推す声も多く、簡単には決まりそうになかったので、千冬は『其れでは此の三名による決戦投票で決めるか』と言ったところで……


「お待ち下さい、このような選出は納得出来ませんわ!!」


セシリアが机を大きく叩いて立ち上がった。その顔は憤怒の感情で彩られている……女尊男卑思考を持っている彼女にとって、男がクラス代表候補に上ると言う事自体が気に入らなかったのだろう。


「ローランディフィルネィさんが推薦されるのは良いとしましょう。彼女はオランダの国家代表であり実力も申し分ないでしょうから。
 ですが、物珍しさでぽっと出の男性操縦者をクラス代表に推薦するなどあり得ませんわ!いいえ、有り得ないどころか下賤な男性がクラス代表など恥晒し以外のナニモノでもありませんわ!
 そもそもにしてローランディフィルネィさんは兎も角、そんな男性を推薦するよりもこのイギリスの国家代表候補生であるセシリア・オルコットを推薦すべきですわ!」


こうして持論を展開するセシリアに対して、夏月と秋五は『コイツマジメンドクセェ』と思い、ロランは『美しくないな』と思っていたが、セシリアは構わず持論を展開し続け、挙げ句の果てには男性だけでなく『こんな極東の島国のお猿さんと遊びに来たのではありませんわ!』と日本を貶す発言までする始末。
だが、千冬は其れに対して何も言わず、腕を組んで聞いているに留まっている。


「(おい、静観してねぇで教師として止めろよ。)」

「(姉さん、此れを止めないのは流石に無いよ。)」


夏月と秋五はこの事態を止めない千冬に思うところがあったが、流石に此のままでは埒が明かないと判断し、セシリアを止める事にした――特に示し合わせた訳ではないが、同じ行動に出ると言うのは同一存在であるからかも知れない。


「其れ位にしておきなよオルコットさん、幾ら何でも言い過ぎだ。
 僕や一夜君の事を貶すのはギリギリ良いとしても、日本国を貶すと言うのは幾ら何でも拙い……君はイギリスの代表候補生なんだろう?そんな君が日本を貶す事を言ったとなれば最悪日英間の国際問題に発展しかねないんだから。」

「おぉ、良い事言うじゃねぇか織斑?ソイツは俺も同意見だ。
 だが其れだけじゃなく、日本を極東の島国って見下してくれたけど、そもそもにしてISを開発したのは何人だ?そしてモンド・グロッソで二連覇を達成したブリュンヒルデは何処の国出身だったっけか?
 大体にて、イギリスだって欧州の島国だろうが……つか、自分が推薦されて然りとか、幾ら何でも自意識過剰なんじゃないかライミー?」

「確かに推薦されて然りと思っていると言うのは自意識過剰だね……其れだけ自信があるのならば立候補すれば良いだけの事だろう?同じく国の看板を背負っている者としては君の考えは恥ずかしい限りだよ。」


先ずは秋五が正論をブチかまし、続いて夏月が其の正論に同意した上でイギリス人への蔑称である『ライミー』を使って煽り、そして予想外ではあったがロランも正論をもってセシリアをぶった切った。
更に其処から夏月とロランが『アレが代表候補生とか、イギリスは余程人材不足なのか?』、『いやいや、確かオルコット家はイギリス国内でも有数の貴族の家系だった筈だから、家柄を考慮して彼女を代表候補生にしたのかも知れないよ?』、『ならば俺は身分制度の撤廃を申し入れる!』とのちょっとした寸劇を披露してくれたのだが、其れは火に油どころかガソリンをぶっ掛ける結果となった。


「ば、馬鹿にして!
 ローランディフィルネィさん、貴女は見損ないましたわ……よもや下賤な男性に味方するなど!……こうなったら決闘ですわ!下賤な男性操縦者も、腑抜けのオランダ国家代表も、このセシリア・オルコットが蹂躙して差し上げますわ!」


ヒートアップしたセシリアは、此処で時代錯誤も甚だしい決闘を申し込んで来た。煽りに煽られて、限界が来たのだろう。
だが、決闘を申し込まれた夏月も秋五もロランも其れに驚いた様子はない――セシリアの性格は、先の休み時間で分かっていたので、適当に煽られたら激高して来るのは予想していたのだろう。


「その決闘はISバトルって事だよね?……良いよ、その決闘は受けて立とうじゃないか。」

「受けて立つとは、最低限のプライドはあるようですわね?
 ですがローランディフィルネィさんは兎も角、貴方達男性操縦者と私では其の実力に圧倒的な差があるのは明白……ハンデを付けてあげても宜しくてよ?」

「ハンデだって?要らねぇよそんなモノ。
 こちとらISを動かす事が出来るって分かった日から日々ISの訓練を続けて、三年間で稼働時間は四千時間を越えてるし、織斑は入学までの時間が短かったのに、あの電話帳並みの参考書を読み込んでテメェの知識にしちまった天才型みたいだからな……ハンデなんぞ付けたら織斑には秒殺、俺には瞬殺されるのがオチだ。
 そして断言する。オルコット、お前は織斑と戦った後、勝敗は別として天才型の理不尽さを味わうってな。」

「天才型って、僕は自分が天才だと思った事はないんだけど……」

「その謙虚な所は好感が持てるよ織斑君。」

「言いましたわね、後悔させて上げますわ!」


ハンデを付けてやると言ったセシリアに対し、夏月は其れは要らないとバッサリ切って捨てただけでなく、自分がISに関しては素人ではないと言う事を明らかにし、更には秋五は天才タイプなので、時間さえあれば其の力を昇華すると言い切ったのだ。
それに対し秋五本人とロラン、セシリアは三者三様の反応だったが。


「ではこれで決まりだな。
 一週間後、第一アリーナにてクラス代表決定戦を行う!織斑、一夜、ローランディフィルネィ、オルコットは鍛錬を怠る事なく、全力で戦えるようにコンディションを整えておくように!」


そして、此れまで静観していた千冬が一週間後にクラス代表決定戦を行うと言った事で、夏月、ロラン、秋五、セシリアの四人によるクラス代表決定戦は行われる事が確定し、新学期早々にしてイキナリの大イベントが開催されるのだった。


「俺は手札から魔法カード『ドラゴンを呼ぶ笛』を発動し、手札の『青眼の白龍』二体を特集召喚!そして、魔法カード『巨竜の羽ばたき』と、『滅びの爆裂疾風弾』を発動してモンスターも魔法罠も一掃した上で『融合』を発動してアルティメット降臨!そして、魔法カード『アルティメット・バースト』を発動してからダイレクトアタック!」

「参りました!」


その後のLHRは自由時間となり、夏月とロランが遊戯王で対決していたのだが、此処は夏月が一撃必殺となるコンボを決めてロランを圧倒していた……究極竜とアルティメットバーストのコンボは決まれば一撃必殺であるからね。

『クラス代表』を決める際に一悶着あったモノの、其れ以外は特に問題もなく新一年生のIS学園初日は概ね平和に終わりを迎えようとしていたのだった。










 To Be Continued