楯無の元服も無事に終わり、その後の三日間は夏月と更識姉妹は夏休みを満喫した――訳ではなく、夏休みの課題を全力で消化した。
僅か三日で夏休みの課題を消化してしまうと言うのは脅威だが、逆に言えば先に課題を消化してしまえば残りの夏休みは完全なフリータイムとなるので、スタートダッシュで課題を終わらせるのは良い手だと言えるだろう。
そして、夏休みの四日目となる本日、夏月と更識姉妹の姿は羽田空港の国際線のロビーにあった。
と言うのも本日から夏月は『嫁ズの家族に挨拶ツアー』が始まり、最初の目的地である台湾に向かう為に夏月は羽田空港にやって来ており更識姉妹は見送りとして一緒に来た訳である。
とは言え、搭乗開始まではまだ時間があるので、国際線のロビーにあるラウンジで、ゲームに興じていた。
「『竜の逆鱗』を発動して、究極竜に貫通能力付けてから『アルティメット・バースト』を発動して、簪の守備モンスター三体に攻撃!
貫通付きの四千五百で三回攻撃だったら幾ら何でも耐えられねぇだろ?『アルティメット・バースト』の効果で究極竜が攻撃する場合ダメステ終了時までカード効果の発動を封じられてる訳だしな?」
「普通なら終わりだけど、私が裏守備でセットしたモンスターは全て『マッシブ・ウォリアー』よって戦闘ダメージは発生しない。」
「なに其の鉄壁の防御?!
じゃあ『融合解除』で究極竜を三体の青眼に分離して夫々でマッシブ・ウォリアーに攻撃。此れで破壊は出来るよな?」
「其れは通さない。『くず鉄のかかし』×3!」
「マジか!?
なら手札を一枚捨てて『超融合』発動。青眼二体を融合して『ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン』を融合召喚して全体攻撃!滅びのタイラントバースト!!
幾ら何でも今度こそ全滅出来ただろ流石にぃ!!」
「うん、其れは流石に防げない。」
「此れだけの攻撃を受けてノーダメージなのだから簪ちゃんの防御は鉄壁を通り越して最早難攻不落の要塞と言ったレベルよね此れ……マッシブ・ウォリアーじゃなくてシールド・ウィングだったらマジで突破不可能だったわよ此れ。」
現在はスマートフォンの『マスターデュエル』では夏月と簪が熱いデュエルを繰り広げており、簪の要塞レベルの防御が夏月の攻撃を耐え切っていた。
夏月のデッキは海馬デッキをベースにした超攻撃的な『青眼デッキ』であり、簪のデッキはシンクロンチューナーを軸にスターダスト系シンクロをメインにした『超シンクロデッキ』で、ガッチガチのガチデッキではないのだが、此れは実はe-スポーツ部に於ける遊戯王のデッキ構築のルールに則ったモノだったりする。
e-スポーツ部では『強いデッキで勝つ』のではなく、『好きなカードを使って勝つ』事を大切にしており、基本的に巷で流行りの強カテゴリーでのデッキ構築はNGなのである――『閃刀姫が好きだから使う』ならOKだが『閃刀姫は強いから使う』のはダメと言う訳だ。
逆に好きなカードならばガチデッキでは採用されなくともデッキに組み込む事は多々あり、夏月も自身の青眼デッキには『好きだから』との理由で『フェルグラントドラゴン』と『巨神竜フェルグラント』と『アークブレイブドラゴン』と『光と闇の竜』が組み込まれている――『伝説の剣闘士カオス・ソルジャー』も組み込まれているのは微妙なところではあるが『青眼をコストにカオス・ソルジャーを出して死者蘇生で青眼を特殊召喚するのは古き良き時代のお手軽火力コンボ』と言う事で認められていた。
因みにデュエルの方は簪が返しのターンで『ジャンク・シンクロン』、『マッシブ・ウォリアー』、『ボルト・ヘッジホッグ』、『チューニング・サポーター』の四体で『スターダスト・ドラゴン』をシンクロ召喚し、更に『シンクロ・ストライク』でスターダストの攻撃力を四千五百まで引き上げてブルーアイズ・タイラントに攻撃したのだが、夏月がリバースで『反射光子流』を発動し、更に手札から『オネスト』を発動してブルーアイズ・タイラントの攻撃力を一万二千四百までぶち上げてカウンターを喰らわせて夏月が勝利となったのだった。
そしてこのデュエルが終わったと同時に搭乗が開始されたので、夏月は台湾行きの便に乗るために搭乗口に向かって行った。
「はぁ……此れから暫く夏月君に会えないと思うと少しじゃなく寂しいわね……」
「其れはお互い様だろ楯無さん?ちゃんと連絡は入れるからさ。」
「だけど、声だけだと私もお姉ちゃんも確実に夏月分が不足する……夏月分が不足すると、判断能力の低下の他、目眩や頭痛、集中力の低下等が現れるんだよ。」
「なんじゃそりゃ……良く分からんが、なら俺が日本を発つ前に充分に摂取しとけ。」
「それじゃあ、遠慮なく……」
「そうさせて貰うわね♪」
搭乗口前にて夏月は更識姉妹と熱い抱擁を交わし、そして触れるだけのキスをした後に搭乗口を通過して、台湾行きの便に乗り込み、更識姉妹は夏月が搭乗した台湾行きの便が無事に飛び立つのを空港のロビーから見守っていたのだった。
夏月が日本から台湾に向けて出発した三日後には秋五がフランスに向かって日本を出発して、『男性操縦者の婚約者の家族への挨拶回り世界ツアー』が始まったのだった。
夏の月が進む世界 Episode46
『嫁ズの家族への挨拶Round1~台湾~』
羽田空港から台湾桃園国際空港までのフライト時間は三時間五十分と、海外旅行としては破格の短時間であり、夏月も機内でAmazonPrimeで購入した映画『グリーンマイル』を見ていたら到着していたと言った感覚だった。
入国審査は問題なくパスし、空港のロビーにやって来ると……
「ヤッホー!待ってたわよ夏月!」
「迎えに来てくれたのか乱!」
ロビーには乱が居て、夏月を見つけるや否や駆け寄って来てハイタッチを交わす。
だが、其れだけでは終わらず左右の手でタッチを交わした後は、互いに肘から下を左右交互に合わせた後に右の拳をサムズアップした状態で合わせてから120%と言える気合をぶち込んだ気勢を持って振り下ろす!
「「よっしゃーー!!!」」
此れは夏月と乱、そして鈴しか知らない遣り取りであり、そう言う意味では嫁ズの中では夏月が一夏だった頃を知っている二人の特権とも言えるモノだろう……夏月も実に三年振りとなる此の遣り取りに懐かしさを感じていた。
其の後、先ずは乱の実家に行って乱の親に挨拶となった――とは言っても乱の両親は離婚しているので、挨拶する相手は乱の母親だけなのだが。
乱の母親の事は一夏だった頃に会った事があるので知っているが、夏月は乱に家族に自分の正体の事、過去の事を話しているかを聞いたところ、『話していない』との事だったので、『初対面』の対応をする事に決めた――無論相手は一夏の事を知っているので突っ込んで来るかも知れないが、其処は目の色を理由にして逃げ切る心算だった。
双子の弟である秋五ですら、『目の色が違う』と言う事で、夏月が一夏であると言う可能性は完全に捨てるに至ったのだから、言い方は悪いかも知れないが赤の他人である乱の母親を誤魔化す事は容易いだろう。己の正体を知っている人間は少ないに越した事はないのだから。
そうしてやって来た乱の実家だが、乱の実家は台湾では珍しい店舗を構えた料理屋で、店は店主である乱の母親と若い女性スタッフ数名で切り盛りされていた。
台湾と言えば屋台グルメが有名であり、料理人もその多くが屋台で出店しており、首都を除いた都市では店舗を構えるよりも屋台で出店している者が圧倒的に多いのだが、そんな中で店を構えて、しかも繁盛していると言うのは此の店が如何にレベルの高い料理を提供しているのかが分かると言うモノだ。
「おかーさん、ただいま~~!夏月連れて来たよ~~!」
「お帰りなさい乱。丁度昼休みになったから良いタイミングだったわ……お茶を入れるから、空いてる席に座って貰って頂戴。」
「了解っす!」
店は丁度昼休みに入ったところだったので、夏月は乱に案内される形で店内のボックス席の一つに案内され、其れから程なくして乱の母親が茶とお茶菓子である月餅をお盆に乗せてボックス席に現れ、茶と月餅をテーブルに置いて夏月と向き合う形となった。
「初めまして。凰乱音の母の、凰正音(ファン・ショウイン)です。」
「初めまして、一夜夏月です……娘さんとは婚約関係になってます。」
「其れは知っています、台湾政府が発表していますから……ですが夏月さん、貴方は乱の事を幸せにする事が出来ますか?――此の子は嘗て思いを寄せていた男の子に先立たれると言う辛い経験をしています。
そんな此の子が貴方に惹かれたと言うのは母として驚くべき事ですが、だからこそ貴方が乱の事を幸せに出来るのか、その確証が欲しいのです。」
「幸せにする事が出来るかどうかは問題じゃないと思います……重要なのは幸せにするかしないかじゃありませんか?
出来るかどうかってのは、出来なかった時に『出来ませんでした』って言い訳が出来るけど、『するかしないか』って場合は言い訳が出来ないんですよ……『します』って言って出来なかったらどんな言い訳も通じないですから。
だから俺は乱を幸せに出来るとは言いません……俺は乱を幸せにする、其れだけですよ。」
乱の母親の正音からは可成り厳しい言葉が飛んで来たが、夏月は其れから逃げる事無く、己の乱に対する思いを噓偽りなくぶちまける!――『織斑一夏の葬儀』で乱は千冬(偽)の胸倉を掴んで糾弾してくれたと言うのも夏月にとっては乱の好感度を上げる理由だったのかも知れない。
取り敢えず夏月は本気の気持ちをぶちまけたのだが、其れを聞いた正音も、『貴方の気持ちが本物だと言う事は良く分かりました』と言って、夏月と乱が婚約状態にある事を認め夏月に乱を託したのだった。
「其れを聞いて安心しました。そして、貴方が本気で乱の事を考えてくれている事も分かりました。
娘を、乱の事を宜しくお願いします……其の子は気が強い反面、少しばかり寂しがり屋なところもあるので。」
「はい、任されました――乱には寂しい思いだけはさせませんよ、絶対に。其れだけは約束します。」
「ふふ、良い人を見付けたわね乱?」
「そうね、夏月はアタシにとっては最高の人よお母さん!……それだけに、『男性操縦者重婚法』が制定されなかったら夏月に思いを寄せる女子達でバトルロイヤル勃発してただろうけどね……そしてそうなったらその時は会長が圧勝してたかもだわ。」
「バトルロイヤルになったら楯無さんが最強だろうなぁ……楯無さんは、一対一でも一対多でも相手を圧倒出来るだけの実力があるからな――ぶっちゃけると、楯無さんならIS学園の全校生徒を相手にしても勝てるんじゃないかって思ってる俺が居るんだわ。」
「それは、確かに否定出来ないわね。つか、クリアパッションは普通に反則技っしょアレ?初見殺しは勿論、一度見ても対処方法がマジ無いんですけど。」
「使われる前に倒せ。」
「無理ゲー乙!」
そんな訳で実家への挨拶は無事に済んだので、夏月は乱と共に台湾観光&グルメツアーへと繰り出して行った――屋台グルメがピックアップされがちだが、台湾は隠れた絶景も多く、写真映えする場所も少なくないので、『低コストで良い絵が撮れる』とインフルエンサーの間では実は『コスパが良い』と大人気の海外旅行場所となっているのである。
夏月と乱も超高層タワーからの絶景や、その超高層タワーを背景にした写真を撮りつつ、台湾を満喫し、まだランチには早いので街中にある複合スポーツ施設でちょっと身体を動かそうと思ったのだが、そのスポーツ施設最大の施設である『野球場』では何やら揉めている様だった。
と言うのも、此の日は草野球の試合が組まれていたのだが、片方のチームの選手が試合直前の練習で怪我をしてしまい、人数が足りなくなってしまっていたのである――それならば試合其の物を延期させれば良いのかも知れないが、互いに此の日での試合を望んでいたので延期と言う選択肢は無いのだろう。
だからこそ如何するべきかですったもんだをしてる訳なのだが。
「伯父さん、どったの?若しかしてなにやら問題発生?」
「おぉ、乱ちゃんか!あぁ、問題発生だ。」
だが、此度の幸運は、片方のチームの監督が乱の伯父だったと言う事だろう。
事の詳細を聞いた乱は、夏月に『伯父さんのチームの助っ人になってくれない?』と言い、夏月も『野球も偶には良いか』と其れを了承し、夏月は此の試合の先発投手でありながら、DHで三番バッターも務めると言う、メジャーリーグで大活躍中の大谷翔平張りの投打二刀流で出場する事になったのだった。
その試合の一回の表、マウンドに上がった夏月は、最速165kmの延びのあるストレート、落差の大きいフォークボール、曲がり方がエグイスローカーブ、緩急自在のスライダーと言った複数の球種を駆使して三者連続の三球三振にとって見せると、其の裏の攻撃、ノーアウト三塁一塁のチャンスで、フルカウントからファールを挟んだ七球目をジャストミートしてホームランをブチかましてイキナリ三点を獲得すると、此れで打線に火が点き、一イニング目から打者一巡の打線爆発状態となり、夏月が助っ人で入ったチームは初回から七点の大幅なリードを奪ったのだった。
此れで一気に波に乗ったチームは、投げては夏月が奪三振ショーを繰り広げ、打線は毎回得点し、夏月に至っては巡ってきた打席全てで安打をマークしてサイクルヒットを達成し、終わってみれば十八対〇で夏月が助っ人で入ったチームが圧勝!
夏月は投手として完封勝利しただけでなく、打者としては五打数五安打十打点(スリーランホームラン、タイムリーツーベース、走者一掃のタイムリースリーベース、シングルヒット、看板直撃の満塁ホームラン)の大活躍で、乱の伯父も大いに感謝していたのだが、乱は夏月の投手のスコアを見て戦慄していた。
「夏月、アンタってば冗談抜きでトンデモナイ事やってくれたわね?」
「トンデモナイ事って、確かに活躍したって自覚はあるけど、完封して複数安打位は大谷選手だったやってる事だろ?」
「確かにそうだけど、アンタがやったのはマジでトンデモナイ事なのよ!
全イニング三者連続三球三振で仕留めて、八十一球完全試合達成してんのよアンタ!プロでも完全試合を達成した人は少ないってのに、八十一球完全試合達成って凄過ぎでしょうが!!プロでも無理な事を素人がやってのけるとかバグってんじゃないのアンタ!?」
「意識してなかったけど、そんなトンでもねぇ事してたのか俺は……バグってるってのに関しては若干否定出来ねぇけど。(最強の人間として作られた存在の中でもイリーガルの俺は、戦闘以外でも最強クラスの性能を発揮するって事か?マジでなんて存在を作ってんだよ織斑計画は……)」
なんと夏月は全イニングを三者連続三球三振で仕留める『八十一球完全試合』と言う『究極の完全試合』を達成していたのだった。
理論上は、全イニングで初球打ちをさせてアウトにする二十七球完全試合こそが究極の完全試合なのだが、其れは現実的に不可能なので、現実的に可能な八十一球完全試合こそが究極の完全試合なのである。
マスコミが入っていない草野球の試合だけにニュースにはならないだろうが、其れでも草野球仲間達の間で此の究極の完全試合の話は広がって行くのは間違いないと言えるだろう。試合を観戦していたギャラリーが動画をSNSにアップするなどすれば尚更だ――身元がバレると色々面倒なので、試合を撮影していたギャラリーには『SNSに上げる際は顔と名前を伏せる事』を厳命していたが。尤も、仮に顔を隠さずにネット上に上げたところでそれはそれで即束が対処してしまうから問題はないだろう。
取り敢えず草野球の方は夏月が途轍もない大記録を達成したモノの、其のお陰で乱の伯父のチームに勝利を齎す事が出来たので、その後は施設内でボーリングや卓球を楽しんだ――卓球をやった際には超高速のラリーで周囲の注目を集めてしまい、更にはそのラリーの果てには夏月が放ったスマッシュでピンポン玉が破裂すると言うアクシデントも発生したのだった。
超高速のラリーで負荷が掛かっていたピンポン玉は、夏月の強烈なスマッシュを受けた瞬間に耐久値が限界を超えてしまったのである……プラスチック製のピンポン玉が破裂すると言うのは滅多にない事ではあるが、逆に言えばそれ程までに夏月と乱のラリーは凄まじかったと言う事だろう。
そんな感じでスポーツ施設を楽しんで、シャワーで汗を流した後は少し遅めのランチタイムになっていたので乱は夏月を台湾名物の屋台街に連れて来ていた。
台湾グルメはその多くが屋台料理であり、屋台料理と言う事で敷居が低いのも特徴と言えるだろう――台湾グルメはフランス料理や中華料理と異なり、『庶民でも気軽に楽しめる』モノと言えるのだ。
本格的なフランス料理や中華料理となると如何しても高級料理になってしまい、テーブルマナーの彼是もあって庶民は中々手が出ないのだが、台湾料理は屋台料理こそが王道で本格的と言えるので、テーブルマナーなども気にせずに安価で本格的な台湾料理が味わえるのである。
加えて台湾料理は原住民料理のルーツを持ち、中華料理をベースに日本・西洋の料理が融合し台湾独自のアレンジを加え、独自に進化した料理なので、実は日本でも馴染みがある料理も少なくない。
日本では『角煮バーガー』として知られているスナックも、台湾料理の『グァバオ』がルーツであり、コンビニでよく見かける『魯肉飯』、『油そば』等も台湾料理の代表的なモノ、ルーツが台湾料理にあるモノと言えるだろう。
その他にも色々な屋台が展開されており、どの屋台で昼食を摂るかは中々決まらなかったのだが、夏月が運動後でエネルギーを大幅に消費していた事から、『屋台巡り台湾グルメツアー』が行われ、夏月は日本では馴染みのない『牛肉麵』、『紅油抄手(ワンタンの辣油煮込み)』、『香雞排(台湾風フライドチキン)』と言った台湾グルメを堪能すると同時にその味を舌で記憶して弁当のメニューとして如何アレンジするかを考えていた――最早料理は趣味になっている夏月だが、こうして新たな味を貪欲に吸収して行くのもレシピの拡大に繋がっているのだろう。
其れでも、屋台街の屋台を全て制覇した夏月の身体の燃費の悪さは相当なモノだと言えるだろう――『最強の人間を作る』事を目的としていた『織斑計画』だが、最強の人間の燃費は如何程になるかまでは考えていなかったらしい。――秋五の食事量は普通なので、単純に夏月の方がオカシイだけかもしれないが。
屋台巡りのランチタイムを終えた後は、乱の案内で観光スポットを回って見る事になった。
台湾の首都には高層ビルも多く、中心街に建てられたランドマークタワーは東京スカイツリーに迫る高さで、その展望台からの眺めは最高其の物なのだが、其の展望台からは晴れている日は日本の鹿児島を望む事が出来たのだった。
此れには夏月も感激し、乱に此処に連れて来てくれた事に感謝していた――でもって、展望台での最高の眺望を堪能した後は、タワーの一階にあるゲームセンターで夏月と乱はe-スポーツ部の部員として見事な活躍をして見せてくれた。
ガンコンを使ったシューティングゲームでは、ノーコンティニュー&ノーダメージでの究極のワンコインクリアを達成し、対戦格闘ゲームでは夏月が『KOF2002UM』で『大門・シェルミー・クラーク』の投げチームで対人戦五十連勝を達成し、乱は『StreetFighterⅢ3rdストライク』で最強を通り越して『3rdの闇』とも言われている超ハイスペックキャラの春麗を使って対人戦三十連勝を達成していた。
乱の連勝を三十で止めたのが夏月が使う豪鬼であり、3rdストライクでは伝説となっている『ウメハラブロッキング』を披露した後に瞬獄殺を決めると魅せプレイをしてギャラリーを湧かせていたのは見事だと言えるだろう。
そんな感じでゲーセンの対人戦の連勝記録とCPU戦のスコアランキングを軒並み書き換えた夏月と乱は、アミューズメントゲームでもヌイグルミや超巨大なお菓子等の賞品を沢山ゲットし、最後に記念にプリクラで此のランドマークタワー限定フレームで撮影した後に首都にあるカードショップを訪れていた。
カードショップのバラ売りでは、遊戯王のカードが九割を占めていたのだが、しかしこの店ではレアカードが中々良心的な値段でバラ売りされていた――其れでも大人気の『ブラック・マジシャン・ガール』や『閃刀姫』は高額が付いていたが。
「アジア版の『死者蘇生』のイラストはやっぱりまだ慣れないな……死者蘇生と言えばあの十字のイメージが強いからなぁ?アンクの形なのが問題なのかね?」
「宗教上の観点から変更されたんでしょうね……って、このブラマジ公式カードじゃなくてファンが作った奴じゃん!こんなカードまで売ってるとか、大丈夫この店?」
「まぁ、此の手のカードはAmazonでも売られてるから問題ないだろ。ファン作成カードも健全物しか売られてないみたいだからな。」
店内を適当にぶらつきながら、カードを数枚購入した後、夏月と乱は店内にあるフリーデュエルスペースにてデュエルをしようとしていたのだが、其処では見過ごす事が出来ない光景が繰り広げられていた。
「返してよ!其れ、やっと手に入れた大事なカードなんだから!!」
「カード一枚だけ持ってたって意味ないだろ?俺も欲しかったカードだから有効活用してやるよ。」
其れは、高校生くらいの男子が小学生くらいの女の子から遊戯王のカードを強引に奪っていると言う場面だった。
男子が手に持っているのは『竜騎士ブラック・マジシャン・ガール』のイラスト違いのカードのシークレットレア仕様であり、其れは相当なレアカードな上に人気のカードなので女の子も欲しかったカードであり、なけなしのお小遣いをはたいて手に入れたカードなのだろう。
だが男子はその女の子からカツアゲさながらにカードを奪ったのだった。
「何してやがんだこのクズ野郎。」
「小学生からカード強奪してんじゃねぇわよ此のアホンダラ。」
勿論其れを黙って見ている夏月と乱ではなく、カードを強奪した男子の尻を思い切り蹴り上げる……フィジカルトレーニングを怠らない夏月と乱の蹴りともなれば其れは強烈無比であり、その蹴りを喰らった男子はカンフー映画の如く宙を舞った後に床に叩き付けられ、其の衝撃でカードを手放してしまい、宙に舞ったカードを乱がゲットして持ち主である女の子に返す。
「テメェ等、イキナリ何しやがる!!」
「お前の方こそ何してやがる?
小学生の女の子からカードを強奪するとか最低のクズ野郎だなオイ?お前みたいな奴にはカードを手にする資格すらねぇよ……テメェみたいなのが触れるとカードが穢れんだよタコ助が。
ケツへの蹴りで済ませた事に感謝しろよ?俺的には顔面陥没させてやりたい位なんだからよ!」
「んだとぉ!良い根性してるじゃねぇかテメェ……このストリートデュエル四百戦無敗の俺に喧嘩を売るとはな!デュエルだ、デュエルで勝負しやがれ!」
そして何故かデュエルする事になったのだが、夏月も『四の五の言うより分かり易い』と言う理由で其れを受けて立ち、フリーデュエルスペースにて夏月と男子のデュエルが始まった。
ダイスロールの結果男子が先行を取り、先ずは裏守備でモンスターをセットし、伏せカードを三枚セットしてターンを終了したのだが、続く夏月のターンでイキナリの猛攻が始まった。
ドローフェイズに『伝説の剣闘士 カオス・ソルジャー』の効果を発動してデッキから『カオス・フォーム』をサーチすると、『伝説の白石』をコストに『ドラゴン・目覚めの旋律』を発動して合計三体の『青眼の白龍』を手札に加えると、『カオス・フォーム』を発動して『伝説の剣闘士
カオス・ソルジャー』を儀式召喚し、『青眼の白龍』をコストに『トレード・イン』を発動して手札を増強してから二枚目の『カオス・フォーム』を発動して『ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン』を儀式召喚し、『龍の鏡』で墓地の『青眼の白龍』三体を除外して融合して『青眼の究極竜』を融合召喚!
そして、『伝説の剣闘士 カオス・ソルジャー』で攻撃して守備表示モンスターを破壊して極悪な全バウンスを決めた後に、カオス・MAXと究極竜のダイレクトアタックで合計八千五百のダメージを与えてワンターンキルをブチかましたのだった……初手が強過ぎたと言えば其れまでなのかも知れないが、初手に強いカードを呼び込む事が出来る運もまたデュエリストには備わっているべき能力なのだろう。
まさかのワンターンキルを喰らった男子は納得出来ないとばかりに再戦を申し込んで来たのだが、今度は乱が相手となり、乱はダイスロールに勝って先攻を取ると『真紅眼融合』で『流星竜メテオ・ブラックドラゴン』を融合召喚し、融合召喚成功時の効果でデッキから『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を墓地に送って千四百のダメージを与えると手札から『黒炎弾』を二枚発動して七千の直焼きコンボを喰らわせ、合計八千四百のバーンダメージを叩き込むる先攻ワンターンキルを決めて見せた……デッキから融合素材を落として融合出来るだけでも充分に強力なのに、融合召喚されたモンスターのカード名が『真紅眼の黒竜』になると言うのは強力を通り越してガチでヤバいと言えるだろう。
取り敢えず連続ワンターンキルで男子を完膚なきまでに叩きのめした夏月と乱は何時の間にか集まっていたギャラリー達から絶賛されていた――如何やらこの男子はデュエルの腕もソコソコある上に腕っぷしも相当に強いので、此れまでにも何度も横暴な振る舞いをしていて迷惑を被った客も少なくなく、其れを叩きのめしてくれた夏月と乱が賞賛されるのは当然の事だったのかも知れない。
そして今回の一件で店側も男子を『出禁』としたのだ――小学生の女の子からカードを奪うと言う最低最悪な事をしなければこんな事にはならなかったのかも知れないが、此れもある意味で好き勝手やって来た事への報いと言えるだろう。
そして其の後、夏月と乱はフリーデュエルスペースにて様々なデュエリストと熱戦を繰り広げ、そしてそのデュエルはギャラリーの一部がスマホで録画して顔にボカシを入れた上でSNSにアップした事でネット上では『無双のデュエリスト現る!』と滅茶苦茶バズったのだった。
――――――
台湾観光を終えた後は乱の実家に戻り、夕食時となったのだが、今夜の夕食は乱が作るらしく、夏月はリビングで夕食が出来上がるのを待っていた――そして待つ事一時間弱、リビングのテーブルには乱が丹精込めて作った御馳走が並べられていた。
海鮮を具材にして皮をパリパリに揚げた『海鮮鳥皮餃子』、豚肉と筍とザーサイをナンプラーで味付けした炒め物を具材にした『エスニック春巻き』、空芯菜と木耳と金華ハムのスープ、そして細かく刻んだザーサイとチャーシューの炒飯と庶民的ながら実に美味しそうな御馳走が並び、其れを食べた夏月は楯無宜しく『天晴』と書かれた扇子を開いて見せ、乱も夏月に喜んでもらえて満足していた。
料理が趣味であり、そして料理には並々ならぬ拘りを持った夏月に『天晴』と言わしめた乱の料理の腕前は相当に高いと言って良いだろう――デザートの『タピオカミルクティーパフェ』も高評価だったのも乱にとっては嬉しい事だった。
そんな感じで夕食も無事に終わり、後は風呂に入って寝るだけなのだが、食後に乱は夏月を誘って首都にある高級ホテルを訪れていた――そのホテルの屋上には『ナイトプール』が開設されており、乱はナイトプールを夏月と楽しむために此処にやって来たのだ。
ナイトプールには多くのカップルが訪れており、夏月は水着に着替えて乱を待っていたのだが……
「お待たせ、夏月♪」
「良い仕事してますねぇ?いやぁ、眼福ですわ。」
水着に着替えてナイトプールにやって来た乱を見て柏手を打って頭ていしていた――乱の水着は臨海学校の時とは違い、燻し銀のビキニであり、その渋い色合いが乱のスレンダーな魅力を際立出せると同時に、小ぶりではあるが確りと主張する事が出来る胸部装甲を見事に強調していたのだ。
そして其処からはナイトプールをトコトンまで楽しんだ――途中、乱がナンパされたり、乱と同期の先輩である台湾の代表候補生の女子と出会ってやっかまれる事もあったが其れは夏月が矢面に立つ事で全部解決した。
乱をナンパした野郎の顔面に本気で固めたダイヤモンドナックルをブチかまして顔面陥没をブチかましたのも、先に相手に一発殴らせておいてからの事なのでバッチリ正当防衛が成立するので問題はないだろう。ナンパするだけなら未だしも乱を無理矢理連れて行こうと腕を掴んだ輩に慈悲などないのだ。
乱に絡んで来た代表候補生に関しても、己と乱の関係を改めて伝える事で強制的に黙らせる事に成功していた――世界に二人しか存在しない男性IS操縦者の一人である夏月の婚約者として国が認めた乱に危害を加えようものならばドレほどのペナルティが待っているのかは想像すら出来ない……場合によっては二度とISに乗る事が出来なくなってしまうので、代表候補生達は大人しく引き下がる以外の選択肢は存在していなかった。
そうして、全てのお邪魔虫を払った後に夏月と乱は改めてナイトプールと楽しみ、乱が乗っているゴムボートの端に夏月が肘を付いていると言う中々にバランスが難しい状態となっていたのだが、バランスを崩して沈没しないのを見ると、夏月は絶妙なバランスでゴムボートが沈没しないようにしているのだろう。
そんなこんなでナイトプールを堪能した夏月と乱は乱の実家に戻るや否や、乱の部屋にてベッドに突っ伏して其のまま夢の世界へと旅立って行ったのだった――其れでも自然と夏月は乱に腕枕をしていたのだから、其処にある愛情は本物だと言えるだろう。
帰って来るなり部屋に直行した乱と夏月の事を心配した正音も部屋を見に来たのだが、ベッドの上で夏月に腕枕をされて気持ち良さそうに寝ている乱を見て安心して其の場から去ったのだった――幸せそうな顔をして眠る恋人達にはなにも言う事は無かったのだ。
そんな訳で、嫁ズへの挨拶回り世界ツアーの初日の台湾は見事にクリアしたのだった。
To Be Continued 
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